第115話　世界に戻ってきた日　作：ター坊

ギッシ…

また一歩近づき、その足音の正体が月明かりに照らされて見えた。
「…おお！ユイ殿！」
「明智か！」
一緒に落ちたハズの明智と合流できた。俺は明智と共に城内を歩いた。
「明智。ここはどこだか分かるか？とても地獄とは思えないんだけど」
「ええ。拙者の記憶が正しければここは恐らく魅河の岳崎城(おかざきじょう)かと」
「魅河って…確か遊月の」
「左様。以前使者として何度かこの城に来たことがあります」
「ふーん。…よっぽど激しかったんだろうな」
「拙者は徳川の征伐に出陣していなかったので詳しい事は存じませんが、多くの民と兵が亡くなったと聞き及んでいます」
「そうか…」
遊月はそんな戦火の中、逃げてきたのか。戦争なんか縁遠くてピンと来ないけど、きっとその恐怖は計り知れないだろうな。
「明智はどうしてこの城に？」
「それが…」
明智は少々言葉に詰まった様子だ。
「どうした？」
「いえ。…妙なことだと思うのですが…何かに引き込まれるように…と申しましょうか」
「あ、俺もそれ思ってた。何かに呼ばれてると言うか…。初めて来た場所なのに全く迷わずあそこまで来るのも変な話だよな」
「ええ…」
俺達はそんな話をしながら暗い城内を上へ上へと進む。

しばらく歩いていると妙な扉を見つける。僅かに隙間が開いた扉からは青白い光が漏れている。ここが戦国時代だとしたら、電灯があるのはおかしい。だとしたらこんなに明るい光はなんだろう？俺と明智は顔を見合わせ、意を決してその扉を開けた。

部屋には桐箱やら葛籠などがあり、その奥に謎の光源があった。あれは…
「鏡？」
しかし鏡自体が光を放つのはおかしい。
「よう来た！よかねよかね」
「お待ちしておりましたぞ」
「きゃは☆」
「ようこそいらっしゃいました」
不意に声が聞こえる。
「誰だ！？」
俺がそう叫ぶと鏡の光が弱まり、4本の光の柱が伸びる。それは形を変え、徐々に人の形となっていく。

1つは豪快そうな大男に。

1つは聡明そうな優男に。

1つは小柄な少女に。

1つは妖艶な女性に。

これは一体…。
「貴方様は…義父上！」
「え？義父上って…」
明智は優男に向かってそう叫んだ。
「影政、それと異界の者よ。この度は何と礼を言えば良いか」
「貴方達ってまさか…五行の巫女の末裔の？」
「左様。拙者は金の巫女の末裔、結城光康と申す」
「オイは火の巫女の末裔、島津隆盛(しまづ たかもり)と申す。おまはんの活躍、まっこと見事でごわした」
「アタイはお幸(ゆき)！土の巫女の末裔だよ！」
「私はお蝶。美善(びぜん)の姫にして木の巫女の末裔です」
「あれ？確か遊月以外の巫女の末裔は全滅したんじゃあ…」
「はい。確かに信重に討たれ散った命。されど今は魂として、この徳川の鏡を通して貴殿とお話しております」
お蝶さんは丁寧に説明してくれた。
と言うことはコイツら幽霊か？でもこんなハッキリと見える幽霊って言うのも変な話だ。普通に会話出来るし、それにもうあの世界の生活でこの程度のことでは動じなくなった自分がむしろ恐い。
「まさか…貴方達が俺達を？」
「そーだよ！ちゃんとお礼言いたくてね！」
「地獄に落ちそうになったところを無理矢理こっちに引っ張った…って所でしょうか」
「そうだったんだ。助けていただきありがとうございました」
「ガッハハ！よかねよかね！おまはんらが信重討ったおかげでオイらも出れたからのう。お互い様でごわす」
「うんうん。信重に殺されちゃって~、その後好き放題暴れちゃったもんね~アイツ」
「本当に困ったものです」
「しかしその信重を討ち、日の本の未来を救ってくれたのは異界の者とは奇縁でありますな」
「いや、俺は遊月に協力した成り行きで…。それに明智や柳生さんがターンを稼いでくれたり遊月のカードが無ければきっと勝てませんでした」
「あら？謙遜なさらないで？」
「まっことおまはんは若いのにやるのう！」
まぁ、成り行きなのは間違いないけどこうして助かった世界があると考えると、自分の行いも誇らしく思う。遊戯達も世界を救った時はこんな感じの気持ちだったのだろうか。
「そこで今度は拙者らがお主に礼をする番だ」
「え…？礼？」
「ええ。緊急事態とはいえ、こちらの世界に引き込んでしまいましたし。ちゃんと元に戻してあげなければ」
「そうじゃのう。それと、もののついででごわす。ほれ」
四人の巫女の末裔が手をかざすと優しい光が俺のデュエルディスクを照らす。それに呼応して俺のデッキのカードの一部も輝きを放つ。
「え！？ギア･デスティニー、メビウス･ライフ、ボルガラッド、それにスキュルートも！？」
光が消えると4枚のカードが変化していた。
「これは…？」
「アタイ達五行の巫女の力を分けたのよ！」
「異界の者よ。…そう言えば名は？」
「ユイですが」
「ユイ殿。貴方様にも何か目的があるご様子。助けて頂いた礼として拙者らの力の一端をお渡ししました。是非お役立て下さい」
「ありがとうございます…」
「む？どげんかしたと？」
「いや、カードを強化してくれて元の世界にも帰してくれるって、至れり尽くせりで申し訳ないなぁと」
「ううん。ユイはそのくらいのことしたんだから！もっと自信を持ちなさい！」
「お幸の言う通りです」
「そ、そうですか？」
「それではユイ殿。鏡の前に立ち、帰りたい世界のことを考えて下さい」
「は、はい」
「それではユイ殿、お達者で」
「え？明智来ないの？」
「ええ。実は道中、魅河の生き残りが暮らす集落を見つけまして。仇討ちのためとはいえ拙者も魅河を滅ぼした織田に身を置いた者。せめてもの罪の償いとして彼らを野盗や織田の残党から守ろうと」
「…。そうか。じゃあ遊月達にもそんな風に伝えとく」
「ええ。ユイ殿、短き間でしたが、本当に御世話になり申した！」
「ああ！明智も元気でな」
俺は深々と頭を下げる明智を見た後、微かに光る鏡の前に立ち、目を閉じる。

帰りたい。またみんなと一緒に

飯食べたい。

デュエルしたい。

みんな、待ってろよ。






温かい感覚がすると思って目を開けると
「ここは…」
そこはさっきまでいた暗い部屋ではなく、メアリーの船の部屋だった。足元には持っていた鞠がコロンと転がっている。俺はどうやら無事帰ってきたようだ。こうしてはいられない。早くみんなに顔を見せよう。俺は部屋から飛び出した。
部屋から出ると船内は静まり返っている。むしろ外が騒がしい。何事かと窓を覗きこむ。
「あれは…！」
え？もう一人の俺？それとデュエルしてるのは…美羽！かなり圧されてるようだ。俺は駆けながらデュエルディスクを展開する。バトルロイヤルモードにすれば美羽を助けれる。



~美羽サイド~

「これでトドメだ」

炎王邪神獣バジリニクス ATK 2700　直接攻撃

終わった―。ごめんね。ユイには助けてもらえたのに、私は助けることが出来なかった―。



―あれ？
「何！？ダメージが通ってない！？何故だ！？ん？バトルロイヤルモード？誰だ？乱入したのは！？」
私のライフは少しも減ってなかった。一体…誰だろう？
「残念だったな！手札から『護法の救世者 ゴールド･ゴーレム』を捨てたことでこのターン、全てのダメージを0にさせてもらった！」
え？その声は―！
「ユイ！」
「心配掛けてごめんな、美羽。それにみんな。とりあいず…ただいま！」