１１Turn　陶酔へと誘う酒処　作：ジェム貯めナイト

　「はっ……はっ……あと少し――」


　休日の境階町が正午の時刻を指し示す中、カズは町の中心から離れた住宅地の急な坂道を、口を縛った紙袋を乗せた自転車を押しながら登っていた。


　「よっしゃ！　登り切ったぜ……！」


　額の汗を拭いながら、カズは目的地までもうすぐだと背負ったリュックを担ぎ直して、自転車に跨りペダルに足を掛け再び漕ぎ出した。


　「……着いた！　じっちゃーん……！」


　軒先に緑色の杉玉が吊るされた長屋の前で自転車を止めると、カゴに乗せた２つの紙袋を担いだカズは、開け放された引き戸から長屋へと足を踏み入れる。


　「おお……！　よく来てくれたな。カズ君」

　「カズちゃんいらっしゃい。ここまで大変だったでしょ……？」


　壁に沿って様々な酒瓶や、その製造過程を記したパンフレットが並ぶ“造り酒屋”の奥の蔵から、白髪が混じった壮年の従業員２人がカズを出迎えに来た。


　「孝二（こうじ）さんに諸実（もろみ）さん！　……よっと、これが頼まれた分の米だぜ」

　「あらま、２つも持ってきてくれたの？　重かったでしょ？」


　諸実さんと呼ばれたいかにも大らかなそうな小太りの女性が、カズから受け取った袋の口を開けると、袋に詰められた純白の米が照明の光を反射して、艶やかに輝いた。


　「今の時期に使う分なら、俺の自転車に乗る量でも足りるんだろ？」

　「それでも疲れただろう？　少しゆっくりしていきなさい。そうだ！　何か甘いものでも――」

　「いや――当分甘いもんはいらねーかな。ところでじっちゃんは――“今日も”
試作してるのか？」


　背負ったリュックを孝二さんと呼んだもう一人の従業員に預けると、カズは売店を横断して奥の酒蔵へと進んでいく。


　「……おう、かっちゃん！　今日は家の手伝いかの？」


　奥の酒蔵では、酒樽が並んだ室内を区切るように衝立が立てられていた。

　蔵と隔てられた畳の敷かれた休息スペースで、長机に向き合い資料を読み耽っていた年配の老人が、カズに気付くとこっちに来るよう手招きする。


　「じっちゃん！　うん、臨時で働いてるんだ。……へえ、杜氏って大変なんだな」

　「ついこの前まで繁忙期じゃったからの。余裕のあるうちに質の改良を試んでいるんじゃ」

　「そっか。逆にうちは苗半作に入って、苗作りに気をもんでいる最中だぜ」


　靴を脱いで畳に足を伸ばし、和やかにカズは杜氏の老人と談笑する。

　やがてお互いに仕事の進捗を語り合う２人の元に、諸実が電話機を片手にやって来た。


　「秋蔵さん、鑑評会の方からお電話ですよ」

　「おう。変わっとくれ。……はい。米田酒造の“米田秋蔵”（よねだ しゅうぞ
う）ですが……」


　電話器を受け取った秋蔵は、鑑評会を名乗る人物と電話越しに会話する。

　しばらくして通話を終えると、上機嫌といった様子で秋蔵は電話機を返しつつ、２人に報告した。


　「新酒の鑑評会でな――米田の酒が金賞を取ったんじゃ！」

　「まあ！　それはめでたいわね……！　孝二君！　聞いてちょうだい！」


　諸実さんは報告を聞くと嬉しげに笑顔を浮かべつつ、孝二に吉報を知らせるべく表の方へと飛び出していった。


　「すげえじゃん！　去年のも金賞だったよな！」

　「うむ――今年も上手くいったようじゃの。……じゃが、だからといって慢心してはいかんぞ？」

　「勝って兜の緒を締めよ。って奴だな。トンボのように不退転で、これからも続けるんだろ？」


　カズの問いかけに秋蔵は嬉しさを滲ませつつも、重々しげに頷いて答える。


　「そうじゃな。……しかし、こう良い知らせがあっては作業も捗らなくなるのう」

　「そんなに浮かれてちゃ仕事にならないぜ？　そうだ！　じっちゃん、久しぶりに俺とデュエルしようぜ……！」

　「ほう、儂とデュエルとな？　じゃがまだ仕事の時間じゃ――」

　「あらあら、別にいいじゃありませんか？」


　自らと同様に喜びに満ちた孝二を連れて、諸実が再び酒蔵へと戻って来た。


　「せっかくカズちゃんも来てくれたんだし、今日ぐらいゆっくりしていきなさいな」

　「そうですよ秋蔵さん、今が一番落ち着いてる時期ですから、休める時に休んでおきましょうよ」

　「……それもそうじゃの。じゃあかっちゃん、ここで始めてもいいかの？」


　カズが頷くと、秋蔵は長机に置かれた資料とノートを片付けて、カードを広げられるスペースを作る。

　そしてカズとともに、取り出したデッキをシャッフルして机に置くと、５枚のカードを引いてお互いに掛け声とともに握った手を開いた。


　「俺が出したのはパーだぜ」

　「儂の負けじゃな……じゃあかっちゃん、先攻後攻を決めなさい」

　「俺が選ぶのは先行だ。じゃあ行くぜ？　俺のターン！」


　カズ　LP4000　秋蔵　LP4000。


　「まずは魔法カード、《複翅離陸（ドラゴニック・テイクオフ）》を発動だ！　
手札の《複翅水蝎（ドラゴニュンヘ）カスタリア》を破壊して、デッキの上５枚から《複翅キ(ドラゴニック）シルバトロス》を手札に加えるぜ」


　５枚の手札を見ると、カズはその中からまず、１枚の魔法カードを机の上に置いた。

　デッキを上から順番にめくり、１枚の上級モンスターと、軽くシャッフルを挟んで更に破壊されたカスタリアの効果により、再びデッキの上５枚から２枚のヤゴを手札に加えると、カズはデッキをシャッフルして元通りに机の上に置く。


　「そして《複翅水蝎（ドラゴニュンヘ）アレトゥーサ》を召喚。更にフィールド魔法《黄金ノ秋津ドウ洲》！　こいつを発動したことで墓地のカスタリアを手札に回収するぜ」


　発動した稲の穂が実るフィールド魔法の効果により、召喚したヤゴの右側に重ねられた使い終わったカードの中から、カズは破壊されたヤゴを手札に加える。

　そして手札から２枚のカードを机の上に伏せると、カズは秋蔵にターンを明け渡した。


　「やはり“複翅キ”で来おったか」

　「当たり前だぜ！　こいつらこそ、俺が最も信頼を置くカードだからな！」

　「……なら儂も、この“舞い上がる仙人”達で相手するかの。《宇迦闘仙－小角
吟醸》を召喚！」


　カードを引くと秋蔵は手札から、濁りのない澄んだ日本酒が注がれた徳利と酒瓶を両手に持つ――道着を着用した仙人が描かれたカードを机に置いた。


　宇迦闘仙－小角吟醸
　効果モンスター
　/水/レベル４/サイキック/攻撃力1500。
　このカード名の(2)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分のＬＰが回復した場合に発動できる。このカードの表示形式を変更す
　る。
　(2)：このカードが攻撃表示となった場合発動する。カードを１枚ドローする。


　「やっぱりな。そっちこそ、ずっとお気に入りの“宇迦闘仙”を使ってるじゃね
ーか」

　「無論じゃ！　今さら他のデッキに乗り換えなどせんわい。そして魔法カード《逢稲倉稲》を発動じゃ！　これにより更に手札から《宇迦闘仙－空鉢吟醸》を特殊召喚！」


　魔法カードの効果により、秋蔵は手札から新たに道着を身に纏った仙人を机に置く。


　逢稲倉稲　通常魔法
　このカード名はルール上「宇迦闘仙」カードとしても扱う。
　(1)：手札からレベル４以下の「宇迦闘仙」モンスター１体を特殊召喚する。
　その後自分フィールドの「宇迦闘仙」モンスターの数×５００ＬＰを回復する。
　(2)：自分フィールドの「宇迦闘仙」モンスターの表示形式が変更された場合、
　墓地のこのカードを除外して発動できる。
　墓地の「宇迦闘仙」モンスター１体を特殊召喚する。


　宇迦闘仙－空鉢吟醸
　効果モンスター
　/水/レベル３/サイキック/攻撃力1400。
　このカード名の(2)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分のＬＰが回復した場合に発動できる。このカードの表示形式を変更
　する。
　(2)：このカードが攻撃表示となった場合、相手フィールドのモンスター１体
　を対象に発動できる。そのモンスターを破壊する。

　
　「そして儂の場の「宇迦闘仙」１体に付き、出来立ての酒が注がれＬＰを５００回復する。儂の場に宇迦闘仙は２体。よって１０００のＬＰを回復じゃ！」


　鉛筆でノートの端に変動したＬＰを書き込むと、秋蔵は場にいる２体の戦う仙人を自身の効果により、横向きに動かした。


　秋蔵LP4000→5000。


　「早速使ってきたな。……“宇迦闘仙”は自分のＬＰが回復するたびに、自身の
表示形式を変更する効果を持つ――」

　「うむ、ちゃんと覚えていたようじゃな。続けてこれも使うとしようかの。魔法カード《宇迦闘仙技 千鳥脚》を発動じゃ！」


　再び鉛筆を手に取り、発動させたカードの効果で小角吟醸の守備力の半分カズのＬＰを減らすと、もう一度自分のＬＰに先程の半分の数値を書き足した。


　宇迦闘仙技 千鳥脚　通常魔法
　(1)：自分フィールドのレベル４以下の「宇迦闘仙」モンスター１体を対象に
　発動する。
　そのモンスターの守備力の半分のダメージを相手に与え、ＬＰを５００回復す
　る。


　カズLP4000→3250　秋蔵LP5000→5500。


　「ＬＰが回復したってことは――」

　「当然、２体の宇迦闘仙の表示形式は変更され、そして酔いから覚め攻撃表示となった小角吟醸と空鉢吟醸の効果発動じゃ！　まずは小角吟醸の効果でカードを１枚ドローして、空鉢吟醸の効果でアレトゥーサを破壊する！」


　次はカードを縦に動かして、秋蔵がカードを１枚引くとカズは自身の出したモンスターを墓地へと移動させる。

　
　「だが俺の水生昆虫がカードの効果で破壊されたことで、黄金ノ秋津ドウ洲の効果で１枚ドローする」

　「構わんよ。２体で攻撃すれば、かっちゃんのＬＰは削り切れる。バトルじゃ！　まずは空鉢吟醸でかっちゃんに攻撃！」

　「そう簡単に通すかよ！　罠カード《複翅キ発進（ドラゴニック・スクランブル）》を発動だ！　このカードは俺への直接攻撃時、手札の「複翅キ」１体を特殊召喚する。俺が呼び出すのはシルバトロスだ！」


　カズの危機に手札から緊急発進して机に置かれた銀色の秋津は、カズへと攻撃してきた仙人との戦闘に突入する。


　複翅キ発進（ドラゴニック・スクランブル）　通常罠
　(1)：相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。手札から「複翅キ」モンス
　ター１体を攻撃表示で特殊召喚し、攻撃対象をそのモンスターに移し替えてダメ
　ージ計算を行う。
　(2)：自分フィールドにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外し
　て発動できる。デッキからレベル６以下の「複翅キ」モンスター１体を特殊召喚
　する。
　この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

　
　「そして攻撃対象をこのカードに移し替えて強制的に戦闘する！　迎撃しろ！　
ズィルバーバッフェ・バイト……！」


　秋蔵LP5500→4700。


　「むむっ……なんの！　まだまだデュエルは始まったばかりじゃ。カードを２枚伏せて、儂のターンは終了じゃ」


　新たに２枚のカードを裏向きで机に置くと、秋蔵はカズへとターンを明け渡す。


　「そしてかっちゃんのターンと同時に、早速永続罠《宇迦闘仙の稲御神酒》を発動じゃ！　このカードにより３回まで儂のＬＰを５００回復することができる」


　宇迦闘仙の稲御神酒　永続罠
　このカードの（1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分・相手のメインフェイズに発動できる。自分のＬＰを５００回復する。
　この効果を３回発動後このカードは墓地に送られる。


　「今度は守備表示へと変更か。だが忘れちゃ困るぜ？　俺の場には相手の守備モンスターを全滅できるシルバトロスがいる！」

　「……果たして、そう上手く行くかの？」


　秋蔵LP4700→5200。


　「小角吟醸を守備表示に変更。そしてモンスターの表示形式が変更されたことで墓地の《逢稲倉稲》を除外し効果発動じゃ！」


　再びカードを横に動かした秋蔵は、墓地から最初のターンに発動させた魔法カードを除外すると、墓地から空鉢吟醸を横向きで再び場に戻す。


　「なら俺も、永続魔法《複翅キ格納庫(ドラゴニック・ハンガー)》を発動だ！　そして俺の場に「複翅キ」がいることで、罠カード《複翅キ捕食(ドラゴニック・プリデイション）》も発動！」


　複翅キ格納庫(ドラゴニック・ハンガー)　永続魔法
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分フィールドの「複翅キ」モンスターが破壊され墓地に送られた場合、相
　手ターン終了時に発動できる。
　自分の墓地からそのモンスターとはレベルの異なる「複翅キ」モンスター１体を
　特殊召喚する。
　(2)：「複翅キ」モンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。
　デッキから「複翅キ」のカード名が記された装備魔法１枚を選び、手札に加える
　か、自分フィールドの「複翅キ」モンスター１体に装備する。


　複翅キ捕食(ドラゴニック・プリデイション)　通常罠
　このカード名のカードは１ターンに１度しか発動できない。
　(1)：自分フィールドに「複翅キ」モンスターが存在する場合発動できる。
　デッキの上からカードを５枚めくり、その中から水属性・昆虫族モンスター１体
　を選んで破壊する。


　「これによりデッキの上５枚から《複翅水蝎（ドラゴニュンヘ）クレウーサ》を破壊！　そして破壊されたクレウーサの効果で、手札から「複翅キ」１体を特殊召喚する……！」


　シャッフルしたデッキを元の机の上に置くと、カズは手札から夕焼け色に機体を染めた１体の秋津を、新たに場へと呼び出した。


　「現れろ！　日没の訪れを告げる茜色の秋津――《複翅キ(ドラゴニック）マッキアカネ》を特殊召喚だ！」


　複翅キ(ドラゴニック）マッキアカネ
　効果モンスター
　/風/レベル５/昆虫/攻撃力2100。
　(1)：このカードの攻撃宣言時、自分の手札・フィールドの昆虫族モンスター１体
　を破壊して発動できる。破壊した場合このターンこのカードは以下の効果を得
　る。
　●このカードは相手フィールドのモンスター全てに攻撃できる。


　「黄金ノ秋津ドウ洲の効果でカードを１枚ドロー。この時特殊召喚したマッキアカネを対象に、《複翅キ格納庫(ドラゴニック・ハンガー)》の効果発動だ！]


　航空機の格納庫が描かれたカードの効果により、茜色の秋津にカズがデッキから選んだ物料投下用の増装が装備された状態で、場に現れる。


　「デッキから「複翅キ」の名が記された装備魔法をマッキアカネに装備する！　
装備魔法《複翅キ貨装（ドラゴニック・トラベルポッド）》をマッキアカネに装備！」


　複翅キ貨装（ドラゴニック・トラベルポッド）　装備魔法
　自分フィールドの「複翅キ」モンスターにのみ装備可能。
　(1)：装備モンスターが相手モンスターに攻撃するダメージステップ開始時に、こ
　のカードを墓地に送って発動できる。デッキの上からカードを３枚めくり、その
　中からレベル４以下の水属性・昆虫族モンスター１体を手札に加える。
　(2)：モンスターに装備されたこのカードが墓地に送られた場合に発動する。
　自分のＬＰを５００回復する。


　「バトルだ！　まずはマッキアカネで小角吟醸を攻撃。この時マッキアカネの効果発動！　手札の水生昆虫１体を破壊し、このターン全ての相手モンスターに１度ずつ攻撃可能になった！」


　手札からカスタリアを墓地に重ねると、マッキアカネの効果の発動を宣言したカズは、更にマッキアカネに装備されたカードを墓地に送り効果を発動させる。


　「攻撃宣言と同時に、装備された複翅キ貨装を墓地に送り効果発動だ！　デッキの上から３枚めくり、その中からレベル４以下の水生昆虫１体を手札に加える。この効果でステュクスを手札に。そして攻撃続行だ！」

　「させはせん！　罠カード《宇迦闘仙技 酔拳》を発動じゃ……！　このターン儂の「宇迦闘仙」達はそれぞれ１度だけ、戦闘・効果では破壊されない！」


　宇迦闘仙技 酔拳　通常罠
　(1)：相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。自分フィールドの「宇迦闘仙」
　モンスターはこのターン、それぞれ１度だけ戦闘・効果では破壊されない。
　(2)：自分フィールドの「宇迦闘仙」モンスターが攻撃対象となった場合、墓地の
　このカードを除外して発動できる。その攻撃を無効にし、自分のＬＰを５００回
　復する。


　「だがその効果はたった１度きり！　装備された複翅キ貨装が墓地に送られたことで、俺のＬＰに５００の数値を書き足してもらうぜ？」


　カズLP3250→3750


「更に破壊されたカスタリアの効果でデッキの上５枚の中から水生昆虫２体を手札に加え、続けてマッキアカネで空鉢吟醸を攻撃！」


　カズは場の仙人を指し示し、破壊することは叶わないもののこの攻撃で酔拳によって与えられた耐性は効力を失い、秋蔵の仙人達は無防備となる。


「そしてシルバトロスの効果で空鉢吟醸を攻撃だ！　同時にシルバトロスの効果発動！　これで２体の仙人は纏めて吹き飛ばすぜ！」

　「通さん！　宇迦闘仙が攻撃対象となった場合、墓地の《宇迦闘仙技 酔拳》を除外して効果発動。その攻撃を無効にしＬＰを５００回復する」


　墓地から発動した罠カードを除外して、シルバトロスからの攻撃を無効にすると、秋蔵は変動したＬＰを書き換えるべく再び鉛筆を走らせる。


　秋蔵LP5200→5700。


　「そして小角吟醸の表示形式を変更。効果で１枚ドローし、空鉢吟醸の効果でシルバトロスを破壊じゃ！」

　「通さねぇ！　手札のサルマキスを墓地に送り効果発動！　複翅キを対象とする効果を無効にして破壊する……！」


　カズが手札から墓地に置いたヤゴの効果により、銀色の秋津を破壊する効果は無効となって、秋蔵は残念そうに場の仙人を墓地へと重ねる。


　「破壊された《複翅水蝎（ドラゴニュンヘ）レーテー》の効果で、手札の《複翅水蝎（ドラゴニュンヘ）メンテー》を墓地に送り１枚ドロー。俺はカードを２枚伏せターン終了だ」

　「仙人が１体でも残れば十分じゃ！　……先程のドローで“このカード”も引き
当てた。このターンで決まりじゃ！　儂のターン！」　


　手札に握るカードのうち、このターン引いた１枚をカズに見せつける秋蔵に、カズは秋蔵の“切り札”が来ると身構える。


　「まずは除外された逢稲倉稲を対象に、魔法カード《米斗酔醒》を発動。そのカードを手札に加え、手札に加えた逢稲倉稲を捨てる」


　米斗酔醒　通常魔法
　このカード名はルール上「宇迦闘仙」カードとしても扱う。
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：除外されている「宇迦闘仙」カード１枚を対象に発動できる。
　そのカードを手札に加え、手札を１枚選んで捨てる。


　「そして小角吟醸を守備表示に変更し、再び墓地の逢稲倉稲を除外することで空鉢吟醸を墓地から呼び戻す」

　「２体の仙人――くるか！？」

　「儂は小角吟醸と空鉢吟醸をリリース、……神泉より湧き出る美酒を飲み干し、精神を高ぶらせ天へと舞い上がれよ……！　“アドバンス召喚”じゃ！　《宇迦闘仙－久米吟醸》……！」


　２体の仙人を墓地に重ねると、手札から軽々と酒樽を背負った武道着の仙人が描かれたカードをカズに見せつけ、秋蔵は場に自らの切り札を置いた。


　宇迦闘仙－久米吟醸
　効果モンスター
　/水/レベル７/サイキック/攻撃力2500。
　(1)：このカード以外の「宇迦闘仙」モンスターが召喚・特殊召喚した場合に発動
　できる。ＬＰを５００回復する。その後このカードの表示形式を変更できる。
　(2)：このカードが攻撃表示となった場合に発動できる。ターン終了まで自分フィ
　ールドの「宇迦闘仙」モンスターは相手の効果では破壊されず、このターン２回
　攻撃できる。


　「来たか――久米吟醸……！」

　「儂の切り札がほろ酔い気分で登場じゃ！　このまま一気にケリを付けるとするかの？　続けて魔法カード《宇迦闘仙技 暝蹄》を発動じゃ……！」


　秋蔵は手札から発動した魔法カードによって、墓地に置かれたばかりの２体の仙人を手に取ると、再び場に縦向きで呼び戻す。


　宇迦闘仙技 暝蹄　通常魔法
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：自分フィールドに「宇迦闘仙」モンスターが存在する場合、自分の墓地から
　レベル４以下の「宇迦闘仙」モンスター２体を対象として発動できる。
　対象のモンスターを特殊召喚し、自分のＬＰを５００回復する。


　「儂の場に宇迦闘仙が存在する場合、儂の墓地から宇迦闘仙２体を蘇生させる！　更に自らを除く宇迦闘仙が場に現れたことで、久米吟醸の効果発動じゃ！　表示形式は変更せず、ＬＰを５００回復する」


　秋蔵LP5700→6200→6700。


　「そして暝蹄の効果でＬＰを５００回復じゃ。ＬＰを回復したということは、もう分かっておるの？」

　「２体の仙人の効果が発動する――」

　「いかにも！　攻撃表示となった小角吟醸と空鉢吟醸の効果でカードを１枚ドローし、シルバトロスを破壊する！」


　再び横向きから縦向きに――まるで“酔いが覚める”と同時に２体の仙人は効果
を発揮し、秋蔵がカードを１枚引くとともにカズは場の銀色の秋津を墓地に移動させる。


　「そして攻撃表示となった久米吟醸の効果により、このターン宇迦闘仙達はかっちゃんの効果では破壊されず、２回攻撃が可能になるんじゃ！　では早速、宇迦闘仙による武闘でこのデュエルを締め括るとするかの？」


　バトルフェイズへの移行を宣言した秋蔵は、早速とばかりに久米吟醸で茜色の秋津に攻撃を仕掛ける。

　宇迦闘仙達がそれぞれ２回――合計６回の攻撃権を得たことに、カズが焦りを見せる中、秋蔵は勝負あったとばかりにニカッと笑うと、茜色の秋津へと高らかに攻撃を宣言するのであった。





　「遊陽と――」

　「遊無の――」

　『二人はビナリウス！』


遊陽「今回はカズが家の手伝いで、お得意先の造り酒屋へと配達に向かったぜ」

遊無「カズさん、蔵人さんとは生まれた頃より親交があるのですね」

遊陽「あいつにとっては家族も同然なんだろうな。そして一番偉い杜氏の爺さんと今回カズはデュエルを始めたぜ」

遊無「“宇迦闘仙”――四字熟語の羽化登仙から取っていて、ＬＰ回復と連動して
表示形式を変更し、効果を発動する複雑そうなデッキです」

遊陽「酔った仙人達は主に“拳法”の名を持つ魔法、罠カードで表示形式を変更し
て効果を発揮するぜ。そしてカズも新たに“格納庫”で装備を換装して、複翅キを
出撃させる永続魔法を使用したな」

遊無「状況に応じた兵装を懸吊させれば、デュエルをより有利に進められることでしょう。そして次回では、お二人のデュエルも決着を迎え、カズさんと留音さんの関係にも進展が訪れる模様です」


　『次回！　遊戯王Binarius（ビナリウス）　－“特別”の自覚－　お楽しみに！
』