89 開演！トレジャー歌劇団　作：ギガプラント

（？？？）


双葉「………ｸﾞｽｯ。」


マヘル「…落ち着いたか？」


双葉「…うん。」


マヘル「先ずはお前だけでも無事で良かった。」


双葉「でもアリス達が…」



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（クリスティアホール内部）


アブソーバーの設置を終え、足早にホールを抜けていく双葉。


双葉（アリス…ヴァルト…！）


双葉（なんでだろう…力を感じない。いつもは二人の持ってるお姉ちゃんの力を感じ取れる筈なのに。）




双葉「アリス！ヴァルト！」

叫ぶと同時にホール裏口から飛び出す。








フードの男「…おや。」






双葉「っ！！？」


フードの男「まだもう一人いらっしゃいましたか。これは残念。」


双葉（あそこにいるのは、Ｍ.Ｃ.Ｃスタッフ？倒れているみたいだけど…。）



双葉（ううん！今はそんな事より…）


双葉「アリス！どこにいるの！？ヴァルト！返事して！」



フードの男（この娘は……先程消えた彼等の仲間ですか。）


フードの男「ということはつまり……貴女もお持ちなんですかね？あのカード…『界精』を。」


双葉「っ！？貴方は一体…」


フードの男「いやはや先程の二人は不思議な事に目の前で消えてしまいまして。惜しい事をしました、私のコレクションに新たなレアカードが増えるまたと無いチャンスだったのですが。」


双葉「き、消えた！？」


ホール正面側から複数人の足音が聞こえてくる。


フードの男「おおっと、これは残念。今は間が悪いようですね。」


フードの男「今日のところは引きましょう。収穫自体はありましたし、これ以上此処に居ると厄介なことになりそうですしね。」


フードの男「貴女とはまた、近いうちに…」


言い終えると、人間離れした跳躍力で街並みへと去っていく。


双葉「待って！消えたって一体……っ！」



「裏口側だ！警戒は怠るなよ！」
「話によると奴等は…」
「挟み撃ちにする。逆からも隊員を…」



双葉（セキュリティ…！）


双葉「くっ……！」


名残惜しげに跳躍し、フードの男の反対方向へと逃げ出す。





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双葉「まさか…本当に消えちゃっていたなんて…。」


マヘル「二人はその男にやられたということなのだろうか…しかしあの二人を一人で倒す実力者など…。」


双葉「分からない…。Ｍ.Ｃ.Ｃのスタッフが二人倒れていたみたいだったけど、詳しい事は…。」


マヘル「それにしてもラーナの力たる界精のカードを狙う…か。忌々しい。」


マヘル「…何にせよ、明日はその男にも注意を払っておくべきかもしれぬな。」


双葉「…………」


マヘル「…双葉？何か気になる事でもあるのか？」


双葉「う、ううん。なんでもない。」


双葉（暗くて顔は見えなかったけど……あの人はやっぱり…。）



マヘル「しかし厄介な状況だな。」


双葉「私がもっと早く戻っていれば二人とも…。」


マヘル「あまり自分を責めるな。お前が悪い訳ではない。」




平留「メソメソと不快な音を立てるな双葉。」




双葉「か、香織…。」


平留「気安く名前を呼ぶなと言った筈よ。最低限以外その口を噤みなさい。」


マヘル「…平留か。相も変らぬのだなお前は。少しは労ってやってもいいだろうに。」


平留「女に使う気など初めから持ち合わせていません。」


平留「…双葉、貴女は明日の作戦から外れなさい。セキュリティやそのスタッフとやらに顔でも見られていたら面倒な事になりかねない。」


双葉「………」


マヘル「逃げたのはセキュリティに見つかる前だ。スタッフ達は現在も意識不明で病院に運ばれている。心配はいらない。」


マヘル「何より今の我々には以前程の人手が無いのだ。それが分からないお前ではないだろう。」


平留「…ふん。私の邪魔だけはしないように。」


平留「今日はもう戻ります。詳しい話は決定次第伝えて下さい。」


モデルのような鋭い立ち振る舞いでその場を後にする。



マヘル「…あれには困ったものだな。いつもの事だがお前も気にするな。」


双葉「うん……。」


マヘル「セキュリティか……恐らくはそのスタッフが呼んだのだろうな。」





双葉（アリス…。）



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翌日


（クリスティアホール前）


「はぁ～楽しみだなぁ。」
「今回の脚本って確かさ～」
「私最前のＡ列ですの！オホホホホホ！！」
「はぁ～グレイシア様～……」




夏武斗「うわっはぁ……すっげぇ人だなぁ。こりゃ暑いわけだ。」ｼﾞｭｰｽｸﾞﾋﾞｸﾞﾋﾞ


夏武斗「普通のお客さんもだけど、なんだかセキュリティの数が凄い多いような……軍隊みたいになってるぞ？」


夏武斗（アストベリー杯があんなことになったから…なんだろうなやっぱり）



暑さから逃れるようにホール内に入っていく夏武斗。


夏武斗「…中に入ったけど、暑いのは変わらないな。」


夏武斗「ふう～。それにしても……チケット貰ったからとりあえず来てみたけど……面白いのかなこれ。」


夏武斗「『霞の谷より愛をこめて～愛と涙のダイレクトアタック～』う～ん…なんだか難しそうだなコレ。」




スタッフ「こちらはトレジャー歌劇団グッズ売り場となっておりまーす！新規の出張Ｍ.Ｃ.Ｃブースはあちらでーす！！」


「きゃああああ！！」
「私が先よおおお！！」
「どいてどいてえええ！！」


スタッフ「出張Ｍ.Ｃ.Ｃブースでは今回限定のオリジナルグッズの販売を行っておりま～す！」

スタッフ「展示物には手を触れないで下さ～い！」


夏武斗「うひゃあ……此処に居たら潰れちまうな。早く席に着きたいぜ…。」


夏武斗（Ｍ.Ｃ.Ｃブースか…もしかしたら天姉や光輝さん達がいるかも知れないな。見てみようかな。）


夏武斗「ってここ来るまでに迷っちまったからあんまり時間無いんだった！急がねえと…！」


夏武斗「えーっと俺の席は……あっちかな。」



真逆の方向に歩き出す夏武斗。


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（クリスティアホール・Ｍ.Ｃ.Ｃブース）



天音「仁君。おはようございます。」


仁「…花田か。来ていたんだな。」


仁「あの過保護な社長の事だ。この状況ならお前を此処の仕事には就かせないと思っていたが。」


天音「あはは…仰る通りそのように勧められました。でもこんな状況だからこそ私が一人安全なところにいるわけにはいかないと思うんです。」


仁「警戒は怠るな。いつまた奴らが攻め入ってくるか分からん。」


天音「はい。セキュリティの警備がいつも以上に強化されているとはいえ油断はできませんね。」





天音「仁君……奏さん達の事、聞きましたか？」


仁「…あぁ、つい昨日の夜らしいな。」


天音「二人ともホール裏手に倒れていて……そして、夏武斗君と同じようにカードを…。」


仁「…二人を保護したセキュリティは、突如Ｄオーラの値が膨れ上がった事を感知したジェネシックからの依頼で此処へ来たらしい。」


仁「間違いなく夏武斗からカードを奪った奴と同一人物だろうな。」


天音「Ｄオーラ…という事はやはりその犯人も襲撃犯達の仲間ということなんでしょうか…。」


仁「…………」


仁「アインヘリアル…。」


天音「えっ？」


仁「ロバートが倒した例の組織の一人、フウジンがそう言っていた。」


仁「恐らくそれが奴等の……人間の殲滅を企む連中の名だろう。」


天音「Ｄオーラ…一体なんなんでしょう。」



仁（カードを奪い取る…そして人を昏睡させる力…。）





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（上波動物園・スタッフオンリーの高台）


仁「そこか！」


フードの男「…おや、」


仁「…裏にいたのは貴様か。」


フードの男「君がいるとは予想外でしたねぇ。わざわざ私にカードを提供しに来てくれたということでしょうか。」


仁「…寝言は寝てから言え。」


フードの男「これは手厳しい。もう少し君と話すのも面白そうですが、生憎今日はもう時間のようです。」



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仁（やはり上波動物園に居たあのフードの男が…。）




仁（いや………。）




仁（奴は間違いなく……！）




仁「…花田。話しそびれていたことがある。」


天音「え？話しそびれ…ですか？」


仁「以前訊いてきたことがあったろう。動物園での一件の時、何故俺があの場に駆け付けたのか。」


天音「そうでした。あの時はロバートさんが来て……その後色々あったのですっかり忘れてしまっていましたね。」


天音「確かあの時…」


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天音「動物園で操られた人達に襲われた時、どうして来てくれたんですか？」


天音「もしかして、あぁなる事が分かっていた……なんてことは無いと思いますけど。」


仁「…あぁ、そのことか。」


仁「別に確信があったわけじゃない。」


天音「じゃあ…」


仁「あの日俺はジェネシック会長のアストベリーに逢っていた。そこで奴から聞いた話によると……」

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天音「アストベリー会長から何かを訊いたとまで…」


仁「そうだ。そしてその内容だが。」





仁「…奴が、脱獄したらしい。」




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（クリスティアホール・会場）


夏武斗「はぁ～ギリギリたどり着いたぜ…。」


チケットに書かれた席へ腰を下ろす夏武斗。


夏武斗「一時はどうなるかと思ったけど、やっぱこういう時は人に訊くのが一番だな。」




会場の証明が暗くなっていく。




夏武斗（お？始まるみたいだな。）


切なげなＢＧＭが鳴り響く。




役者「此処は…ミスト・バレー湿地帯……」




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（クリスティアホール前）


目深に鹿撃ち帽を被り、ホール外のベンチに腰掛ける双葉。

小型の通信機器がマヘルと繋がっている。


マヘル（公演が始まった頃か。暑いところ忍びないが引き続き待機してくれ。）


双葉「平気だよ。香織は舞台の上でもっと頑張ってるんだもん。」


マヘル（アブソーバーの起動は現時刻から約一時間。基本的なフローは全て平留が行う。）


双葉「うん。」


マヘル（お前はアストベリー杯の時と同様、あくまでいざという時の保険要員だ。常に動けるよう準備しておくのも大事だが、何より周りに感づかれぬようにな。）


マヘル（まぁ、お前の顔を見ている者は数名程度だし、まず見つかりはしないだろうがな。）


双葉「監視カメラに写ったりはしなかったと思うけど、一応注意するね。」


マヘル（すまない双葉、本当はお前までこんな事に巻き込むつもりは…）


双葉「ううん。お姉ちゃんが決めた事だもん。…だから私もできるだけの事はしたいよ。」


マヘル（………）



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この風の囁きを忘れることなんて……できるものか！



わたくしはこのカードを愛していると思っていました。



さぁ！立つんだバードマン、振り向くんじゃない！



その時は……どうか私をあのブラック・ガーデンに埋めてほしい。








夏武斗「………………」











夏武斗（全っ然分からねえ……）


夏武斗（えーっと……さっきの姉ちゃんがお嬢様で……あっちの人とその友達が……。）


夏武斗（うー……俺には難し過ぎるぜ。）




平留「嗚呼！ミストバレーの風は今日も変わらず吹きすさぶというのに！私の胸の風車はピクリとも動かない！！」




夏武斗（胸の風車ってなんだ？ロボットかなんかか？）

夏武斗（う～ん……デュエルシーンまだかなぁ…。）




夏武斗「あ、やべっ……。」




夏武斗（トイレ行きたくなってきちまった…）




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（クリスティアホール・Ｍ.Ｃ.Ｃブース）


仁「一番観客の興奮度が高まるのはやはり終盤か。」


天音「そうですね。名物のデュエルシーンが挟まれるのは後半のクライマックスですから。」


仁「…分かるのか？」


天音「あくまで大体の時間ですけどね。毎年デュエルシーンが挟まるタイミングは殆ど同じそうですよ。」


天音「去年の公演の映像を涼蘭さんに見せて頂いた事があるんですけど、凄かったですよ。」


仁「…なら、中のＤオーラ値が高まるのもそこからという事か。」


天音「あ……そういわれてみれば。」


仁「この時間にこのブースに来る奴も居ないだろう。少し外を見てくる。」


天音「はい……何も起きなければ良いんですが…。」



ホールの外へ向かう仁。




終










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（次回予告）


夏武斗「あの姉ちゃんがお嬢様、あっちの人はお嬢様のお姉さん……。」


夏武斗「んであの兄ちゃんの恰好した姉ちゃんがあの姉ちゃんの婚約者で…」


夏武斗「えーっと、でもあの姉ちゃんはあっちの兄ちゃんの恰好した姉ちゃんが好きで、あっちの兄ちゃんの恰好した姉ちゃんとあの姉ちゃんの婚約者が喧嘩してたんだっけか。」


夏武斗「そして今あの姉ちゃんのお姉さんが実はあっちの兄ちゃんの恰好した姉ちゃんと幼馴染だったことが分かって、あの姉ちゃんがあの兄ちゃんの恰好した姉ちゃんと一緒に………」


夏武斗「次回！『大女優の本性』」


夏武斗「もういいや……早くデュエルシーンやらねえかな…。」
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・劇の内容は適当に脳内補完脳内補完…。