69 罪と罰　作：ギガプラント

（森林）


町の中心部から遠く離れた山岳を包み込む森林地帯。
人や車の音は全く聞こえず、木々が擦れる音、川の流れ、鳥のさえずりで構成された世界が其処にある。

しかしこの日はそのどれもを喰らい尽くすかのようなけたたましい轟音が鳴り響いていた。
軍隊の如く列を成した重機の群がそこらかしこで動き回っている。


そんな中、年齢に似つかわしくない大声をあげる老人が一人。




宇佐美「馬鹿者共が！！今すぐ出ていかんかぁ！！」


作業員Ａ「……またあの爺さんか。懲りないねえ。」


作業員Ｂ「危ねえからいい加減どっか行ってくんないすかねぇ。」


宇佐美「主らには聞こえんのか！森の悲鳴が！」


作業員Ａ「はぁ……。」



重機から身体を降ろし、溜息交じりに宇佐美に近づく。




作業員Ａ「なぁ爺さん…いい加減にしてくんないかねぇ。」



作業員Ａ「前も言ったけどさぁ、俺達は無断で森荒らししてるわけじゃないの。」


作業員Ａ「ここの土地の権利者に依頼されて、ちゃんとした手続き踏んで工事してんだよ。」


作業員Ａ「こちとら予定通りに仕事しねぇとお飯の食い上げなんだわ。」


宇佐美「何が権利者じゃ！金にもの言わせて無理矢理奪い取った権利じゃろうに！」


作業員Ａ「それを俺に言われてもなぁ……なぁ爺さん。これ以上邪魔するってんならセキュリティ沙汰になるぜ？家族に迷惑かけたかないだろう？」



宇佐美「そんな脅しは聞き飽きたわ！」









奴らは破壊の手を止める事をしなかった。


儂自身、こんな爺一人が叫んだところで何かが変えられると心の底から思ってはいなかったが…


それでも声を上げずにはいられなかった。


森が悲鳴を上げていることだけは間違いないと確信があったから。






じゃが奴らは、





儂が思っていた以上に………


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（民家）


街の中央からやや外れた郊外の一角。
上波近辺では珍しい和風の家屋が大雨の中堂々と佇んでいる。

時刻は正午を超えて間もないが、仄暗い雲が空を覆いつくしている。
延々と窓を叩きつける雨粒は部屋の中を騒音で包み込む。



幼い香子「おじいちゃん……雨止まないね…。」


宇佐美「うむ、まだ長引きそうじゃのう…。」


香子「あーあ…早く外で遊びたいな。」


宇佐美「まぁ嘆いていても仕方あるまいて。たまには家の中でゆっくりするのも良かろう。」


香子「うーん、いつになっ………ひゃああっ！！」



太陽を待ちきれず香子が戸に近づいた瞬間、稲光が白く空を照らし出す。



香子「おじいちゃん！！雷！！光った！！」


宇佐美「これは…近いところに落ちたの。」


香子「えぇ！？此処に落ちたりしないかなぁ！？」


宇佐美「ほっほっほ。大丈夫じゃ安心せい。」



宇佐美（じゃが…これでは山も大荒れじゃろうな。）


宇佐美「…洪水にでもならねばよいが。」







香子「おじいちゃん！！光った！！」


宇佐美「また雷か。大丈夫じゃ、ここに落ちたりは…」


香子「違う。雷じゃなくてお山。」


宇佐美「お山？」



山が光る。香子が何を言っているか儂は一瞬理解できなかった。

じゃがそれはとんでもない事実を意味しておった。




香子「ほら！あそこの真ん中らへん！なんか光ってる！」


宇佐美「どれどれ…」


香子「あ、ほらまた！！」


山の一点を指差す香子。
時折人工的な明かりがチラチラと現れる。
この距離からの目視による確認は非常に難しいが、山育ちで目が良い二人は確かにその光の存在を捉える事が出来た。



宇佐美「あれは…」


宇佐美（あの位置には何があったか…あそこには…。）



宇佐美「っ！！まさか…！！」


唐突に立ち上がり駆けだす宇佐美。


香子「えっ！？おじいちゃん！？」


宇佐美「出てくる！お前は家で待っとれ！！」


香子「ええぇ！？」



宇佐美（まさか……まさか…！）




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（山の一角）


豪雨が轟音を響かせる。
しかし此処に響き渡るのは自然的な豪雨の音だけではない。
何十台もの重機が動き回り、機械的な騒音が交じり合っていた。


宇佐美「お主等は…何をやっているんじゃあああ！！」



山に踏み入り森を切り開く人間の進行は、雨の中でも変わらず動いていた。




作業員Ｂ「ああっ？ってまたあの爺さんかよ！爺さん！！危ないから帰りなって！！」


宇佐美「この大馬鹿者共が！！この大雨の中こんなことしよって！！どれだけ危険か分かっておるのか！！」



作業員Ｂ「あーもー……おーい！また爺さんが怒鳴りに来たっすよ～！！」



宇佐美（ここはもう山の中腹……小さな山とはいえこの雨の中こんな事をすれば…。）


宇佐美（今はなんとしても止めねば…なんとしても…！）



作業員Ａ「爺さん！！危ねえっつってんだろ！！帰りなって！風邪挽くぞ！！」


宇佐美「危ないのはお主等の方じゃ！！今に土砂が崩れるぞ！！」


作業員Ａ「あのなぁ…いいか爺さん？俺たちゃ工事のプロだ。アンタが若い頃はどうだったか知らないが、ちゃんと綿密に計算して工事してんだよ。」


宇佐美「いらんものまで切り倒して何がプロじゃ！お主等は山を舐めすぎておる！」


作業員Ａ「はぁ…おい爺さん、そもそもこんな雨でも作業しなきゃなんねえのは、アンタが邪魔して作業が遅れてんのもあるんだぜ？アンタその責任取れんのかい？」


宇佐美「今はそんな話はどうでもよい！！今すぐ作業をやめい！！」


作業員Ａ「だぁ！！ボケた爺さんにゃもう付き合ってらんねえよ！！ほら帰った帰った！」


宇佐美を強引に押し出し引き返させようとする。



宇佐美「分からずやが！もう貴様では話に………ぬぉ！？」


作業員Ａ「っな！？」




大雨の中、大地が暴れだす。
山全体が大きく揺さぶられ、その場の作業員は全員異変を察知し狼狽え出す。




作業員Ａ「地震かぁ！？うおっと……！」


宇佐美「山が…森が…！！」


「う、うわあああ！！」
「おい！いいから落ち着け！」
「そっちは危ないぞ！こっちに…」
「あ、あれ…落ちるぞ！！」
「っ！！ぅあああぁ！！！」

大雨と工事で弱った地盤は、地震を引き金に崩れ出す。
最前で狭い崖沿いの山道に居た重機がいくつか崖下に引きずりおろされる。


宇佐美「ぐぉ…！くっ、マズい！濁流が来るぞ！！」


作業員Ａ「おい！全員避難だ！！早くしろぉ！！」


現場を仕切っていた作業員の一言で纏まりの無い作業員達が一斉に避難を始める。


宇佐美（くっ…こんな工事が無ければ…。）


宇佐美「ぬっ！あれは…！」



山道から外れた鬱蒼な森の影。
雷と地震の影響で大きく倒れた木にイノシシが身体を挟まれている。
目を引く光景ではあるが、誰もが逃げるのに必死で目をくれていない。



宇佐美「くっ！待っておれ！今行くぞ！」


年齢とかけ離れた運動神経を駆使し、倒木を動かしに走る。



宇佐美「ぬおおおぉぉぉ！！！」


宇佐美「死なせるものか！この森は…儂が！！！」









宇佐美「儂が…！！」




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夏武斗「………！」


宇佐美「無茶なスケジュールで無理に切り開いた乱暴な工事じゃ。雨と地震のパワーに山が耐えられる筈もない。」


宇佐美「河の氾濫に土砂崩れ…木々は崩れ落ち数え切れぬほどの動植物が死に絶えた。」


宇佐美「…それに、人間もな。」


夏武斗「人間も…！？」


宇佐美「麓付近の住宅がいくつか飲まれた。地震が起きた時、工事現場から逃げ遅れ崖下に転落した者も居た。」


宇佐美「じゃが、奴等は……！」





宇佐美「それでも工事を止めんかった！！山を切り開き森を切り崩し『人間の場所』に変えた！！」


宇佐美「動植物だけでなく同族の命が失われた！！それでも数多の犠牲には目もくれない！！」


宇佐美「もう狂いきっているのじゃ！！世界中を喰らい尽くすまで人間の業は潰えぬ！！！」


宇佐美「世界の癌と化した存在は、もはや消してしまう他ない！！！」


夏武斗「爺ちゃん…。」


宇佐美「さぁ昔話は終わりじゃ！儂を止めたくば儂を倒すがいい！！」




夏武斗「…山が、森が無くなって悲しいのは分かるよ。確かに人間は勝手なんだと思う。」


夏武斗「けど、けどさ！！やっぱ納得できねえよ！！」


宇佐美「ふっ、自分等を消し去ろうというのじゃ。納得などできるものではない。」


夏武斗「そうじゃなくてさ……その、えーっと…。」



夏武斗「あああぁぁぁチックショー！！俺のターン！！ドロー！！」


夏武斗「俺はストームシックルをリリースして、魔法カード『スウィーピング』を発動！」


夏武斗「自分フィールドのモンスター１体をリリースし、攻撃力の合計がリリースしたモンスターの攻撃力以下になるように、墓地の昆虫族モンスターを２体まで特殊召喚する！」


夏武斗「ストームシックルの攻撃力は森フィールドの効果で２４００までアップしてるぜ！」


宇佐美「…森フィールドの効果を逆手にとって自身の戦術に利用するか。」


夏武斗「俺は墓地から攻撃力１５００の『サンド・トラッパー』と攻撃力８００の『スワローテイル・フェアリー』を特殊召喚！」トラッパー星３・ＤＥＦ６００　スワロー星２・ＤＥＦ８００


夏武斗「行くぞ！俺はレベル３のサンド・トラッパーにレベル２のスワローテイル・フェアリーをチューニング！！」




鋼をも断ち切る一対の刃振りかざし！大地の果てまで突き進め！



シンクロ召喚！



来い！『突甲戦士 ギラファイター』！星５・ＡＴＫ２０００→２２００





宇佐美「無駄じゃ！どんなモンスターを出そうとも深緑の獅子王を倒す事はできん！」


夏武斗「一人じゃ無理でも！力を合わせればいける！俺はシンクロ素材となったサンド・トラッパーの効果発動！」


夏武斗「このカードがシンクロ素材となって墓地へ送られた時、相手フィールド上の表側表示のカード１枚の効果を無効にする！」


宇佐美「なんと！？効果を封じ込めるじゃと！」


夏武斗「俺は深緑の獅子王の効果を無効化する！」



夏武斗「これで戦闘破壊ができるようになった！行けぇ！突甲戦士ギラファイターで深緑の獅子王を攻撃！！」


夏武斗「クラッシャーダイブ！」


ギラファイターの特攻に、獅子王の身体は大きく崩れる。



宇佐美「ぐっ…獅子王が…森の守り神が…！！」


夏武斗「そしてこの瞬間ギラファイターの効果発動！このカードが相手モンスターを戦闘で破壊し墓地へ送った時、このカードの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える！」


夏武斗「戦闘ダメージが与えられなくても効果ダメージは通るぜ！！メンダブル・パワーフォース！」


宇佐美「ぐっ、くおおおぉぉ！！」ＬＰ４０００→２９００



宇佐美「見事じゃ…まさか森の守り神たる儂の獅子王を倒すとは…。」



夏武斗「なぁ爺ちゃん！やっぱおかしいよこんなの！」


夏武斗「人間をみんな滅ぼしちまうなんて…そんじゃ香子はどうなんだよ！！」


宇佐美「香子…！」


夏武斗「全員って事は香子もだろ！？大事な家族じゃないのかよ！！」


宇佐美「………」


宇佐美「香子……あの娘ももう１５か。」


宇佐美「生まれた頃から動物が好きで……山を心から好いてくれる本当に好い娘じゃよ。」


夏武斗「そうだよ！爺ちゃんには大事な家族がいるんだ！」


夏武斗「家族だって友達だって…１５年も一緒に過ごしてきた香子だって…！」


夏武斗「皆、皆消しちゃうなんて…そんな事絶対駄目だろ！！？」






宇佐美「…１５年か。長いようであっという間じゃったな。」


宇佐美「…お主の言う通りじゃ。香子は儂の大事な孫娘…。」


夏武斗「爺ちゃん…。」















宇佐美「７５年じゃ。」














夏武斗「…えっ？」


宇佐美「自分フィールドにモンスターが１体のみ存在し、そのモンスターが破壊された時、このカードは手札から特殊召喚できる！！」





救世の断片よ、終わりなき灼熱となりて世界を救済へ導け！




出でよ！『灼界精 ムスペリア・ブレイズ』！星８・ＡＴＫ１５００







異界より現れた精霊。全身から白く燃え上がる炎が噴き出し、神霊のような神々しさを放つ。


宇佐美「更に！この戦闘で破壊されたモンスターの攻撃力分、自分のライフを回復する！」ＬＰ２９００→４４００


夏武斗「なっ！？爺ちゃん！！」


宇佐美「７５年じゃ！！森は儂が生まれた時から隣に居た！」


宇佐美「幼い頃から寄り添い、共に育った友であり家族であり半身！」


宇佐美「儂の生涯にて何よりも尊い存在じゃ！！！」


夏武斗「っ！？」


宇佐美「分カっておる！！恨み妬みの為、友も家族モ消し去る事など愚かしい事この上ないわい！」


宇佐美「じゃがもう止められんノじゃ！！儂はもウ耐えられん！！黙って見過ゴしておれん！！」


宇佐美「あの山だけではなイ！！長イ人生の中、何度も森が消えルトころを見た！！」


宇佐美「助けル事も出来ズ見ていルしかなカっタ！！」


宇佐美「暴走しタボケ老人ト笑え！！もウ儂は前ニ進ム事しカ出来ん！！！」


ムスペリア・ブレイズの召喚と共に、宇佐美の身体を白金色の光が包む。




夏武斗「爺ちゃん！？このモンスターは…！」


宇佐美「攻撃ハ終わっタ！！さァドウする！」


夏武斗「俺は……カードを１枚セットしてターンエンド。」



夏武斗（爺ちゃん…もうホントにどうしようもないってのかよ…！！）





終










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（次回予告）


夏武斗「灼界精 ムスペリア・ブレイズ！？なんだこのモンスター！」


夏武斗「爺ちゃん……なんかさっきまでと様子が違う…！」


夏武斗「怒りの業火って…何する気だよ！！」


夏武斗「助けなきゃ……こんな悲しいデュエル、終わらせなきゃダメなんだ…！」


夏武斗「次回！『悪夢を払え！覚醒のシンクロ召喚！』」


夏武斗「蘇芳…このカードって…。」
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・１ターンしか進んでいない件…。