40 重なる疑問　作：ギガプラント

（上波町）


並び立つ建物の上を忍者のように走り抜ける４人。


マヘル「アブソーバーは？」


双葉「だいじょぶ。ちゃんと無傷で持ってきてるよ。」


アリス「ったくタイミング悪いわね～。せっかくあのムカつく奴をボッコボコにしてる最中だったのに！」


ヴァルト「アリス様。今の任務はアブソーバーの奪取です。本来の目的をお忘れなき……」
アリス「わかってるっつーの！！」


アリス「あたしも本気でそんなこと思ってないわよ！！そんなことも分かんないのこの無能執事は！」


ヴァルト「……申し訳ありません。」


双葉「アリス…あんまり意地悪な事言っちゃ駄目だよ。」


アリス「余計なお世話よ！こいつはあたしの下僕だからいーの！！」


双葉「もう……」


ヴァルト「お心遣い感謝します。ですがこれが私の務めですので…。」


ヴァルト「それより、アブソーバーは私が持ちましょう。長らく背負わせてしまって申し訳ありません。」


双葉「えっ？」


アリス「そーよそーよ！！男のくせに楽してんじゃないわよ！！」


ヴァルト「さぁ…遠慮なさらず」


マヘル「いやここは私が持とう。大人でも二つまとめて担ぐのはキツい重さだ。」


マヘル「…お前達はもう十分に働いてくれた、運搬くらいは私に任せてくれ。」


双葉「ありがとうヴァルト、マヘル。でも私は大丈夫。」


双葉「お姉ちゃんの力のお陰で全然重く感じないし…それに。」


双葉「…私の手でちゃんと、お姉ちゃんに持ってってあげたいんだ。」


マヘル「………そうか。」


ヴァルト「分かりました。」


アリス「ふんっ！別にそんなの誰が持っても同じでしょ！早く行きましょ！！」



双葉（お姉ちゃん……待ってて。）


--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---




（ジェネシック・エレクトロニクス本社・応接室）



ロングコートの男「男１人に少女が２人…間違いないですねえ！！？？」


夏武斗「お、おう…。」


ロングコートの男「ふうむ……これはどうやら開発部を襲った連中で間違いなさそうですねえ。」



夏武斗（なぁ天姉…こいつホントにセキュリティなのか？）

天音（手帳を見せてもらいましたし…間違いないとは思いますが…。）


ロングコートの男「おぼっちゃん達ご安心なさい！！悪質な窃盗団は、この名探偵！丹波貞治（たんばさだはる）が暴いて見せましょおお！！」


天音「あ、あはは…。」


中年セキュリティ「だからおまえは探偵じゃなくてセキュリティだっつってんだろ！」

大きな拳を頭のてっぺんに振り下ろす。


丹波「ったい！！軽部（かるべ）警部！普通に痛いです！！」


軽部「ったくおまえはいつもいつも…悪いな、こいつはちょっと見ての通り若干頭のネジが外れちまってるんだ。まぁ無能じゃあねえから安心してくれ。」


夏武斗「セキュリティにも色々いるんだな…。」





謎の窃盗団３人組とのデュエルが中断された後、俺たちはそのまま本社で事情聴取を受けることになった。

あんな騒ぎがあった後だし、当然沢山のセキュリティが集まるもんだと思ってたけど、意外にも姿を見せたのはたったの数人だけ。

その内の二人が今目の前にいるってわけだ。





軽部「にしても煙幕か……ビルから出てきた残りの一人だろうなそいつは。」


仁「…もう一人仲間がいたのか？」


丹波「そうなんですよお！なんでも会長のアストベリー氏のお客人だったらしくてねぇ。いやいやそんなことよりも、ビルの１１階から飛び降りてそのまま走り去ったっていうんですよ！信じられない話ですよねえ！！」


夏武斗「１１階ィ！！？」


天音「そんな…なにかの見間違いでは…？」


丹波「それが目撃者が結構居ましてねえ……カメラが動いてりゃしっかり見られｷﾞｬﾌﾝ!!」

再度げんこつを喰らう丹波


軽部「捜査上得た情報をペラッペラ喋んじゃねえバカ！守秘義務って言葉を知らんのかお前は！」


丹波「警部…痛いです。」


仁「…奴等が超人的身体能力を持っている事は間違いないだろう。」


丹波「んおぉ！？もしかして君も奴を見たんすか！？」


仁「４人目については何も見ていない。が、俺が戦ったあいつ…」


夏武斗「ん？なんかあったっけ？」


仁「盗品を運んでいたのはあいつだ。だがあの機材…中身は分からないがある程度の重量感はあった。持つだけならともかく普通は走ることなどできないだろう。」


夏武斗「あ！確かに。」


天音「それを抜きにしても、煙幕が出ていたあの短時間で全員の姿が消えていたんです。どこかに隠れていたとも考えにくいですし…。」


軽部「まさか……いくらなんでもそんなサイボーグみたいなのがそこらに居る訳…。」


仁「…突飛だが今はこうとしか考えられない。」


軽部「あーったく…何はともあれもっと調べねえとな。」


丹波「これは……まさか巧妙なトリックを使って…。」


軽部「そういうのは帰ってからやれ。」(ｺﾞﾁﾝ!)


丹波「警部…痛いです。」



丹波「あぁっと…そうそう。そういえば君等はなんであそこに？」


天音「えっ、それは…。」

夏武斗の方に目を向ける天音。


夏武斗「………」


夏武斗（ヴィクトリー・ビートル…。）


夏武斗（あの時…何故かこのカードが光ったように見えて…そして）


夏武斗（何か……引き寄せられたような…そんな気が…。）


夏武斗（気のせいだったのか…？それとも…）


丹波「？？」




仁「…あの時、正面出入り口前にいた連中が一斉に騒ぎだしていた。」


軽部「ん？あぁ確かにそうだった。ありゃ雇われだよ。恐らくは窃盗団連中が匿名で雇ったんだろうな。」


仁「…大会に関したイベントか何かだと思った俺達は、とりあえずビルを周辺を回っていた。」


天音（仁君…。）


天音「そうなんですよ。けど裏手の方には人が全然居なくて…。」


軽部「…戻ろうとした矢先に奴らに遭遇。そんなとこか。」


夏武斗「あ、ああ…。」


軽部「ん。大体理解した。それと最後に一つ頼みたいんだが…」


天音「頼み…ですか？」


軽部「おう。あんたらのdPhone、ちょこっとばかり貸してくれ。」


夏武斗「dPhoneを？何で？」


軽部「あー別に変な事する訳じゃねえ。」


丹波「基本的にdPhoneってのは、デュエルの履歴が端末内に残ってるんですよ。」


軽部「そっから奴等の情報が掴めるかも知れねえからな。」


軽部「それ以外の情報に手は付けねえし、悪用しないと約束する。」


天音「そういうことなら。」


夏武斗「あぁ、いいぜ。」


丹波「偶然にもここはジェネシック本社。解析自体はすぐにできそうですね。ご協力感謝します！！」


丹波「さぁ悪質窃盗集団めぇ！！首を洗って待ってろよおおお！！この名探偵丹波……」
軽部「だからうっせえ！！」(ｺﾞﾁﾝ!)


丹波「警部…痛いです。」



夏武斗「と、ところでさぁ、あんだけの事があったのになんかセキュリティの数少なくねえか？」


天音「確かに…そうですね。」


軽部「あぁ…それに関連してもう一つ。」


夏武斗「ん？」


軽部「今回の事……他言無用でお願いしたい。」


丹波「今は大会中ですからねぇ…ジェネシック本社に泥棒が入ったなんて公表する訳にはいかないんですよぉ。」


天音「あ、成程それで…。」


仁「…事を荒立てない為か。」


軽部「まぁそんなとこだ。明日はアストベリー杯の本戦も始まるしな。最悪中止になんてなってみろ……それこそ暴動でも起きかねねぇ。」


夏武斗「中止！？そんなことさせてたまっか！せっかくここまで勝ってきたのに！」


丹波「おやまぁ！ぼっちゃん本戦出るのかい！」


夏武斗「ぼっちゃんじゃねえ楠夏武斗だ！それに俺だけじゃなくて俺達３人みんな本戦出場決定なんだぜ！」


丹波「なんと！これまた凄いですねえ！」


軽部「ほぅ…だったら安心か。頑張んな。」


夏武斗「おう！」


天音「ありがとうございます。」


仁「……。」







--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---






（上波町・街道）



夏武斗「なんだか大変だったなぁ。」


天音「色々ありすぎてちょっと混乱しちゃいましたね。」


夏武斗「あ！そういやロバートはどこいったんだ？」


天音「えーっと…ビルの裏手に回った時にはぐれたんでしたっけ？」


天音「仁君…連絡は取れますか？」


仁「…アイツは他人に連絡されるような状態を作らない。」


仁「…要件があれば現れ、そして知らないうちに勝手に消えている。」


仁「…放っておいて問題ない。どうせまた……」
ロバート「あれまぁ、冷たいじゃないの仁ちゃん。」


夏武斗「うわっロバート！どっから出てきた！？」


ロバート「へへっ、ちょ～っと用事があってね。勝手に抜けさせてもらったぜ。」


仁「…そのまま消えてくれても構わないのだが。」


ロバート「あれまぁ…ホントに消えたら寂しくて泣いちゃう癖に～」


仁「…誰が。」


ロバート「なんか中で色々あったらしいぜ。詳しくは知らねえけどな。」


夏武斗「ふ、ふ～ん。何があったんだろうなぁ…？」


天音「ま、まぁジェネシックの事を気にしても仕方ないですし…」


天音「今日はもう帰りましょう。なんたって明日は本戦なんですから。」


夏武斗「そだな！ようし！最強デッキ作るぞぉ！！」


ロバート「ホテルまでちょっと距離あるなぁ…仁！お前の部屋に泊め……」
仁「断る。」




--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---




（ジェネシック・エレクトロニクス本社・モニタールーム）



オペレーター「目撃者のdPhone解析終了。」


アストベリー「よし。」


オペレーター「データ画像出ます。」

デュエルに使用されたカード、行動等が一気に細かく表示される。
しかし相手側の全ての情報はバグって表示されており、内容が読み取れない。


オペレーター「！？」


アストベリー「…相手側のデュエルディスクに何かしらの細工がされていたのだろう。」


アストベリー（やはり対策済みか……。）



研究員「失礼します！会長！！」


アストベリー「どうした？」


研究員「例の連中のＤオーラ値です！見てください！」

印刷された資料を確認する。


アストベリー「っ！！なんだこれは！？」


研究員「ウインディー級…しかもかなりの数値です！」


アストベリー（Ｄオーラ……オットーこれもお前が関係して…。）


研究員「それと…事が起こる直前なんですが、ビル周辺に一瞬高出力のＤオーラが確認されておりまして…。」


アストベリー「ビル前の雇われ連中ではないのか？」


研究員「それとは別みたいなんです…ほんの一瞬なんですけど…。」

資料を確認する。


アストベリー「瞬発的だがこちらもウインディー級……か。」


研究員「この数値もですが…一瞬だけ出力が上がるなんてこと……。」


アストベリー（大きな出力の違い……もしや！）


アストベリー「先程の画像を。」


オペレーター「は、はい！」


先程となんら変わらないデータが再び表示される。


オペレーター「やはり表示がバグってますね…。」


アストベリーの目線は先程とは別の個所、正常に表示されている部分に送られている。


アストベリー（やはりか…。）






アストベリー「ヴィクトリー・ビートル…。」





--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---




（上波町・上波モノレールの駅前）



夏武斗「送ってくれてありがとな天姉。」


天音「いえ、大した距離じゃありませんし。」


夏武斗「よっし！そんじゃ頭ん中切り替えて、明日もバンバン勝とうぜ！」


天音「はい！…あ、そうだ。」


夏武斗「ん？」


天音「これを…。」


腕輪のような物を手渡す。


夏武斗「腕輪？くれんのか？」


天音「はい。このバングル、夏武斗君に似合いそうだなって思って。」


夏武斗「へぇ…えっと、こうかな？」

バングルを腕に着ける。


天音「はい。よくお似合いです。」


天音「実はそれ私と色違いなんですよ。」


夏武斗「あ、ホントだ。気が付かなかったぜ。」


天音「本戦前のプレゼントです。明日も頑張りましょう！」


夏武斗「ああ！サンキュー天姉！！」


天音「おっと…引き止めちゃいましたね。そろそろ来る時間です。」


夏武斗「おおっと！また爺ちゃんに迷子になったか？とか言われちまう！そんじゃあまた明日な！」

駅へ走る夏武斗。


天音「はい。また明日！」





終









--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---

（次回予告）


天音「今日から本戦です！張り切っていきましょう！」


夏武斗「あぁ！目指すは優勝だぜ！」


天音「お互い頑張りましょうね夏武斗君！」


夏武斗「おう！さーて最初の相手は誰だ～？」


天音「あ、本戦前に一戦余興があるみたいです。」


夏武斗「え？余興？」


天音「次回！『本戦開始！白熱のエキシビジョン』」


夏武斗「まぁ仕方ないか…俺達も見ようぜ天姉！」

--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
・アブソーバーの大きさは小型のブラウン管テレビくらいです。それが二つあります。