83 幸せの記憶　作：ギガプラント

ヴァルト「私のターンです。」


アリス「ヴァルト、とっととやっちゃいなさい！！」


ヴァルト「承知しました。」


光輝「ヴァルトさん！貴方も本当にこんなことをさせていいんですか！？」


ヴァルト「私は執事です。アリス様の手足となり、アリス様が望む未来（さき）へ導くのが役目…。」


ヴァルト「方法など関係ありません。私は従うのみです。」



奏「…聞いて呆れる話ね。」


奏「主の言う事なら区別なく何でも聞いて、それが大人のやる事？」


光輝「もし貴方が執事だというなら、主の道を正すのも役目なんじゃないのか！」


奏「子供は大人を見て育つのよ。その娘の為を思うなら、こんな馬鹿な事続けさせていいわけ？」


光輝「それとも！本当に貴方も人間が滅ぶなんて事望んでいるのか！」


ヴァルト「………」



ヴァルト「私は装備魔法『信念の大槍』を発動。」


フェデルタに身の丈の二倍以上もある大槍が施される。


光輝「くっ…！」


ヴァルト「ガーディアンナイト・フェデルタで、Ｒ・Ｆ－エナジー・コンダクターを攻撃！」


光輝「速攻魔法『虚栄巨映』発動！モンスターの攻撃宣言時、フィールドのモンスター１体の攻撃力は１０００ポイントアップする！」


光輝「僕はエナジー・コンダクターの攻撃力をアップさせる！」


アリス「そんなことしても無駄なのよ！！」


ヴァルト「ガーディアンナイト・フェデルタの効果発動。」


ヴァルト「オーバーレイユニットを１つ取り除く事で、このカード以外のカード１枚を対象とするカード効果の発動を無効にし破壊する！」


ヴァルト「虚栄巨映の発動を無効にします。ロイヤリティ・バースト！」


アリス「そのまま攻撃続行よ！」


光輝「ぐあっ！？」ＬＰ４０００→３９００



光輝「でもこれで…オーバーレイユニットは無くなった…。」

ヴァルト「更に、信念の大槍を装備したモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した時、もう一度だけ続けて攻撃ができる。」


光輝「何っ！？」


ヴァルト「ガーディアンナイト・フェデルタでダイレクトアタック！」


奏「光輝！！」


光輝「ぐあああああ！！！」ＬＰ３９００→９００


大きく投げ出され地面に叩きつけられる光輝。




光輝「がっ………」




アリス「きゃはは！いい気味ね！説得なんてしようとして結局そのザマなんて超ウケるっつーの！！」



アリス「大体ねえ、そいつはそんな大それた執事じゃないのよ！」


アリス「あたしに従ってるのだって、全部自分の為なんだから。」


光輝「……？」


アリス「要するにただの自己満よ自己満！！こんな奴にそんな言葉が届くわけないじゃない。」


アリス「結局自分達が助かりたいだけのくせにさ！善人ぶってほんっと馬鹿みたい！バレバレなのよ！」


アリス「頭の悪い大人はいつだってそう！そんなことが分かんないとでも思った？」


アリス「命乞いしたって無駄よ！どうせ皆消えちゃうんだから！もう諦めなさい！」



光輝「………まだ、諦める訳にはいかないな。」



光輝「罠カード、『ショック・ドロー』を発動…。」


光輝「このターン自分が受けたダメージ１０００ポイントにつき、デッキからカードを１枚ドローする。」


光輝「よって僕は、３枚ドロー！！」



アリス「ちっ…。」

ヴァルト「………」



ヴァルト「…私はカードを１枚伏せてターンエンドです。」




光輝「君は相当に大人を信用していないようだね…。」


光輝「僕等の言葉が届かないなら残念だけど……でも、」


光輝「まだデュエルは終わっていない！」


奏「光輝…。」


光輝「僕のターン！ドロー！」



光輝「僕は『Ｒ・Ｆ－サンライトブレード』を召喚！」星３・ＡＴＫ１３００


光輝「光輝球体の効果で攻撃力５００ポイントアップ！」ＡＴＫ１３００→１８００


光輝「更にサンライトブレードの効果！Ｒ・Ｆモンスター１体の攻撃力を５００ポイントアップする！」ＡＴＫ１８００→２３００


奏（これで御伽現影ワンダーガールと攻撃力が並んだ……けど。）


アリス「何？あたしのモンスターと相打ち狙い？やれるもんならやってみなさいよ！」



光輝「…いや、せっかくだから僕のエースモンスターで対抗させてもらうよ。」


アリス「何ですって……？」


光輝「自分フィールドに、攻撃力が元々の数値より１０００ポイント以上高いモンスターが存在する時、手札から『Ｒ・Ｆ－メタルゴーレム』を守備表示で特殊召喚できる！」星５・ＤＥＦ１５００


光輝「僕はレベル５のメタルゴーレムにレベル３のサンライトブレードをチューニング！」




燃え上がれ、豪傑なる魂！勝利を導く王者の力、荒ぶる戦場に激震を巻き起こせ！



シンクロ召喚！



立ち上がれ！『Ｒ・Ｆ－ゴールド・ヴィクトリー』！！星８・ＡＴＫ２５００→３０００





アリス「２体目のシンクロモンスター…。」





アリス（攻撃したいならすればいいわ。）


アリス（あたしのワンダーガールは、戦闘を行う相手の攻撃力を半分にする効果がある。）


ヴァルト（攻撃力３０００で攻撃したところで、攻撃力は半減して１５００……ワンダーガールは倒せません。）





光輝「全ての人間を消すというのがどんなことか、君は分かっているのか…！」


光輝「家族も友達も、皆いなくなるんだぞ！」


光輝「お父さんもお母さんも！そんな悲しい事がどうしてできる！」


アリス「…悲しい？」




光輝「僕は魔法カード『ギブ＆エンハンス』を発動！」


アリス＆ヴァルト「「！？」」


光輝「自分の墓地のモンスター１体を相手フィールドに特殊召喚し、そのモンスターの攻撃力分、エンドフェイズまで自分のモンスター１体の攻撃力はアップする！」


光輝「僕は奏のフィールドにＲ・Ｆ－エナジー・コンダクターを特殊召喚！」星７・ＡＴＫ２４００


ヴァルト「味方の場にシンクロモンスターを…！」


光輝「そしてゴールド・ヴィクトリーの攻撃力は、エナジー・コンダクターの攻撃力、つまり２４００ポイントアップする！」ＡＴＫ３０００→５４００


アリス「攻撃力５４００ですって！！？」


ヴァルト（これでは半分にしても攻撃力で勝てない…！）



光輝「行くぞ！ゴールド・ヴィクトリーで御伽現影ワンダーガールを攻撃！」


光輝「ゴールデン・ヴィクトリーフィスト！！」


アリス「くうううう！！ワンダーガールの効果！戦闘を行う相手の攻撃力は半分になる！」


奏「やっぱりそんな効果が…。」


光輝「だがそれでも攻撃力はこちらが上だ！いっけえええ！！」ＡＴＫ５４００→２７００


アリス「きゃあああ！！」ＬＰ４０００→３６００








光輝「……君が誰にそそのかされてこんなことをしようとしているのかは分からない。」


光輝「けど、こんな悲しくて恐ろしい事は絶対間違ってる！もうやめるんだ！」





ゆっくりと立ち上がるアリス。





アリス「……悲しいってなによ。」


アリス「悲しいのはアンタにとっての話でしょ。あたしにまで押し付けないでよ。」


ヴァルト「アリス様……。」


アリス「そんなこと…！！生きてて楽しいのが当たり前だから言えんのよ！！！」


アリス「ワンダーガールの効果発動！墓地のこのカードを魔法＆罠ゾーンに設置する！！」


アリス「そして魔法＆罠ゾーンのクイーンオブハートを特殊召喚！」星７・ＡＴＫ２０００


アリス「更にクイーンオブハートの効果により、魔法＆罠ゾーンのカード１枚につき攻撃力４００ポイントアップ！」ＡＴＫ２０００→３６００



光輝「生きてて楽しいのが当たり前……？」


奏「一体どういう事…？」


アリス「さぁアンタの攻撃は終わりよ！早くターンエンドしなさい！！」


光輝「ぼ、僕はカードを１枚セット、ターンエンド！」


光輝「ゴールド・ヴィクトリーの攻撃力は元に戻る…。」ＡＴＫ５４００→３０００











アリス「お父さんだお母さんだ……あたしににはそんなことどうでもいいっつーの！！！」




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（街外れの大豪邸）


パパ「………リス！…アリス！」


ママ「アリスちゃん！！」


アリス「ん……パ、パ？マ……マ？」


ママ「良かった！あああホントに良かった…！心臓が止まるかと思ったわ…！」

幼いアリスを強く抱きしめる。


アリス「なにかね……ピカって、ピカってしたの。」


パパ「ピカ…？そうか雷に驚いたんだね。もう大丈夫だよ。」


ママ「大丈夫？痛いところは無い？」


アリス「うん…。」


パパ「恐かったね。……ママ、今日は家族皆で眠ろうか。」


ママ「あなた…。」


パパ「アリスもママも、皆一緒だ。」


ママ「はい…！」


パパ「アリス、怖かったろうに泣かなくて偉いぞ。これなら立派なお姉さんになれるな。」


アリス「…………。」

ほけっとした表情のアリス。


ママ「そうね。貴女は私達の自慢の娘よ。」







あたしがもっと幼い頃。


妹が生まれる頃だから五年程前だろうか。


生まれて初めての雷に驚いて気絶した事がある。


直ぐに意識を取り戻して、その日は家族皆でベッドに入った。


そんな、家族の中でだけ語られるような遠い日の思い出話。


それだけの日………だと思ってた。















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～五年後～





広い子供部屋で遊ぶ二人の女の子。

一人は金色の髪の毛の少女。五年前より長く伸びたそれはかわいらしいリボンで纏められている。
もう一人は栗色の髪の毛の少女。五歳になったばかりで、姉のそれほどは長くない。


リリス「アリスちゃんの髪長～い！」


アリス「あ、痛い！こら引っ張っちゃダメ！」


リリス「えへへ～！い～な～い～な～！」


アリス「もう、リリスちゃんも、すぐに長くなるよ。」


リリス「そーじゃなくてぇ、金色なのぉ！」


アリス「あぁ、色。」


リリス「い～な～い～な～！リリスも金色が良かった～！」


アリス「そう？リリスちゃんの色も綺麗で可愛いよ。」


リリス「えっ！ホント！！リリス可愛い！？」


アリス「うん！とーっても可愛いよ。」


リリス「うーん…うーん……見えないいい…。」

自分の髪の毛を目元まで引っ張ろうとする。


アリス「あー引っ張っちゃダメ！ほら、直ぐに長くなるからね。」


リリス「すぐっていつ？明日？」


アリス「あ、明日はちょっと難しいかな…？」


アリス「でも大丈夫だよ。ちゃ～んと綺麗だから。」



アリス「それに、リリスちゃんの髪はママとパパと御揃いなのよ？」


リリス「ママとパパと！？やったー！」


アリス「そうだよ。ママとパパと一緒～。」


妹のリリスは栗色の髪の毛。
パパの濃い茶色とママの明るい茶色の丁度中間くらいの綺麗な色。
そしてあたしの髪は生まれつき金色。
どうしてあたしだけ色が似ていないのか、前にママやパパに聞いた時は、そういう「体質」だからだと言っていた。

でも生まれた時からずっとこの色だったし、特に悲しいなんて思った事はない。
むしろ皆が綺麗綺麗と褒めてくれるこの髪はちょっと特別な気がして、いつからか誇らしくも思っていた。




ママ「アリスちゃん、リリスちゃん。そろそろご飯の時間ですよ。」

優しく微笑むママが子供部屋に訪れる。



リリス「あ！ママだ～！」


リリス「ねぇママ、リリスの髪ママと一緒？一緒？」


アリス「一緒だもんね～。ね？ママ！」


ママ「そうね。ママと一緒よ～。」


リリス「わ～い♪」


ママ「よ～しよ～し…じゃ、ご飯にしましょうリリスちゃん。」


リリス「うん！」


ママ「アリスちゃんもね。」


アリス「は～い！」





―――あ、まただ。






なんなんだろうこの感じ。


いつからか感じるようになった不思議な違和感。


ママやパパがリリスに笑いかける時、自分に向けられるそれと………何かが違うような気がした。



ママに褒められれば、嬉しくてちょっぴり自信がついて誇らしい気持ちになる。


パパに叱られれば、悲しくて信頼を裏切ってしまった申し訳なさが溢れてくる。


二人が抱きしめてくれたら、胸がポカポカして幸せな心地になる。




―――なのにどうしてだろう。


あたしもリリスも同じ事をされている筈なのになんでこんなこと思うんだろう。



違和感は歳を重ねるにつれて少しずつ大きくなっていったが、その度にあたしは「気のせいだ」と思うようにしていた。



それに慣れてしまっていた。








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～それから更に数日後～



夜も更けてきた頃、大きなベッドの上で絵本を読み聞かせるアリスとそれに聞き入るリリス。
室内のほのぼのとした一コマと打って変わって、外は嵐のように風雨が暴れている。



アリス「そしておひめさまは、ついにおしろをぬけだしたのです。」


リリス「おひめさますごい……！」


アリス「おしろのそとは、はじめてみるものでいっぱいです」


アリス「おひめさまは、まちにむかってあるきはじめました。」


リリス「わぁ……！どこにいくのぉ…！？」


リリス「おひめさ…ふぁ～あ…。」



アリス「…今日はここまでにしよっか。」


リリス「えぇ……もっと聞きたぁい。」


そういうリリスの目はトロンと垂れ下がってきている。



アリス「続きはまた明日読んであげるから。今日はもうお寝んねしよう？」


リリス「むにゃむにゃ………はぁ～い…。」


アリス「それじゃあお部屋に戻ろっかリリスちゃん。………リリスちゃん？」


リリス「う…ん……ｽｰｽｰ」


アリス「あっ…もぉ、此処ママのベッドなのに…。」


アリス（無理矢理起こすと可哀想だし…今日はママに一緒に寝てもらおうかな。）



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（食堂）

円形のテーブルで向かい合うパパとママ。


ママ「あなた、お疲れ様でした。」


パパ「あぁ。ありがとう。」


ママ「これ……良いワインを頂いたんです。」


パパ「ほぉ…これは確かに…。」


ママ「今夜は久しぶりにゆっくり飲みましょう。」


パパ「そうしよう。………それにしても凄い雨だな。ここまで荒れるのは久しぶりだ。」


ママ「そうですね…昼間からずっとこの調子ですわ。」


パパ「ふむ……まぁ気にしても仕方がないか。」


ママ「そうですわ。まずは一杯……」




アリス「ママ。」


食堂に入るアリス。


ママ「あらアリスちゃん、まだ起きていたの？」


パパ「おぉアリス。ただいま。」


アリス「おかえりなさいパパ。……あのね、リリスちゃんに絵本を読んであげてたんだけど、そのままママのベッドで寝ちゃって…。」


ママ「あらあら、それじゃあ寝かせておいてあげて。今日はママが一緒に…」





ﾋﾟｶｯ!





ママ「きゃっ！？」


パパ「おおっと！！」


突如落ちた雷に驚き、ワインボトルをテーブルに落とす。

素早く反応したパパによって直ぐにボトルは立てられたが、零れたワインはテーブルの一角、そしてパパの高級な洋服を紫色に染めていた。


ママ「ごめんなさい！私ったらなんて事を…！大事なお洋服が！」


パパ「大丈夫濡れただけだ。割れてはいないし怪我もない。」


ママ「でもお洋服が……あなた、ごめんなさい！本当にごめんなさい！」


パパ「いいんだ。このズボンはそろそろ替え時だったし丁度いい。」


ママ「ごめんなさい……お仕事で疲れてるのにこんな…本当に……」


パパ「はっはっは、過ぎたことだもう気にするな…」














アリス「あ………」







アリス「あっ………あっ………！」


パパ「…アリス？」


ママ「ごめんなさ……アリスちゃん？」



アリス「あああっ………！」






―――雷。そして何度もパパに謝るママ。


偶然この二つの要素が重ならなければ、あの日の事を思い出さずに済んだのかもしれない。

ママに一声かけずにそのまま部屋に戻っていれば何も変わらなかったのかも知れない。

無知で無垢な普通の女の子でいられたのかも知れない。

ずっと幸せに暮らしていたのかも知れない。





後に人間を滅ぼそうなんてしなかったのかもしれない。




終









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（次回予告）


奏「アリスちゃん！貴女に何があったっていうの！言ってくれなきゃ分からないでしょ！」


アリス「言わなきゃ分からない言わなきゃ伝わらない…そんなの嘘っぱちなよ！！」


アリス「言わなくたって……声にしなくたって伝わっちゃう事だってあるんだから！！」


アリス「知りたくもなかったのに！！」


アリス「どうせあいつらだって気づいてない！！！」


奏「次回、『愛されなかった者』」


アリス「なんでこんなに、悲しいのよ…。」
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・ショック・ドローは漫画版ファイブディーズにて遊星が使用したカードです。