79 アブソーバーの脅威　作：ギガプラント

（Ｍ.Ｃ.Ｃデュエルセンター・ロビー）


物憂げな表情の天音。


奏「天音ちゃん。」


天音「あ、はい！」


奏「最後にこれだけ倉庫運ぶの手伝ってくれる。それ終わったら休憩入っちゃっていいから。」


天音「はい。分かりました。」


両手で段ボール箱を抱える。



奏「…大丈夫？今日ぼーっとしてるけど。」


天音「そうでしたか？すみません…大丈夫です。」


奏「まぁこないだのあれみりゃ無理もないって気はするけどね。」


奏「でも貴女が悩んでも仕方無いんじゃない？大駕の奴も言ってたけど、あーいうのは男同士で殴り合いでもさせといた方が案外上手くいくもんよ。」


天音「な、殴り合いはちょっと…。」


奏「ふふ、確かに。」


奏「それに、あんまり暗い顔してると子供たちに心配されちゃうわよ。子供って案外そういうとこ鋭いんだから。」


天音「はい。気を付けます。」



奏「まぁでもアイツ等はそれどころじゃないか。」


天音「Ｍ.Ｃ.Ｃジュニアカップ…近いですもんね。」


奏「そうそう光輝の従兄弟の初君。あの子も出場するそうよ。」


天音「へぇ、それは楽しみですね。」


奏「あのルーキーがどこまで行けるか…見物ね。」


天音「あっ…」



廊下の反対方向に仁の姿を見つける。


二人に気づいた仁は真っ直ぐこちらへ向かってくる。




仁「ジュニアスペースから倉庫に移すものは残っているか。」


奏「大丈夫よ。これが最後だから。」


仁「承知した。」



天音「あの、仁君…！」


仁「…お前か。」


天音「あの……夏武斗君は…。」



仁「……さあな。」


天音「さあなって…。」


仁「俺はアイツにデュエルで負け、なんの収穫も無く無様に帰ってきた。」


仁「今のアイツが何をどうしているのか……そんなことは分からん。」


天音「夏武斗君と……デュエルを…？」


天音「仁君それって……」







奏「あれっ？あそこに居るのって………」


天音「えっ…？」




汗を拭きながらセンター内に入るアストベリー。




天音「ジェネシックのアストベリー会長…？」


奏「今日来客の予定なんてあったかしら。」


仁「………」


アストベリーの下へ真っ直ぐと歩き出す仁。


奏「あ、ちょっと……！」


天音「仁君…！」



アストベリーもそれに気づき歩みを進める。







アストベリー「おはよう夜見原君。その後どうだね？」


仁「…例のカードについての話なら問題ない。」


天音（例のカード…？それってやっぱり…）


アストベリー「それは良かった。データの方も順調だ。今後とも頼む。」


仁「わざわざそれを言うために出向いた訳じゃあるまい。」


奏（ちょっ……会長相手に普通にタメ口って…。）


アストベリー「あぁ、残念ながらあまり良いしらせではないがな…。」





涼蘭「会長！」


慌てた様子で駆けよってくる涼蘭。



涼蘭「はあはあ…出迎えも無く申し訳ありません。」


アストベリー「いえ、連絡も無く急に赴いた私が悪いのですよ。」


アストベリー「それに…出迎えなら彼等がして下さいましたしな。」


涼蘭「あ、天音ちゃん……。」


天音「お疲れ様です。」



アストベリー「見たところ本日も盛況のようですな。流石はＭ.Ｃ.Ｃ。」


涼蘭「いえ、そんな。ジュニアの大会が近いのでその影響ですわ。」


涼蘭「アストベリー杯はあんな事になってしまいましたが……だからこそもっと皆さんに楽しんで頂けるよう頑張らなければ。」


奏「社長……。」


アストベリー「…成程。素晴らしいお考えだ。」






アストベリー「しかし……だからこそ心苦しいですな。」


奏「えっ…？」


涼蘭「それは…どういった意味で…。」


アストベリー「この状況で非常に言いにくい事ではあるのだが…。」





アストベリー「規模の大きな大会…いやデュエルに関わるイベントは、今暫く控えた方がいいかもしれません。」



涼蘭「えっ…！？」


天音「控えた方がいいって……」


奏「ど、どういうことですか！」


仁「………」



アストベリー「少し、込み入った話になるが……。」






仁「Ｄオーラか。」







天音「仁君…？」


奏「えっ、何？」


仁「『デュエルに関わるイベントだけ』などあまりに限定的すぎる。」


仁「とすると、そこに関わるものといえば…。」


アストベリー「同じように『デュエルに関わる何か』ということになる。」


アストベリー「察しが良いな夜見原君。」



奏「あの……話が見えないんですけど。」


涼蘭「会長、ご説明頂けますでしょうか。」


アストベリー「勿論。」




アストベリー「先ずはＤオーラについて説明せねばなりませんな。」









--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---





（Ｍ.Ｃ.Ｃデュエルセンター・倉庫）



大きな箱を倉庫にしまう大駕達。


大駕「ふぅ…これでひと段落といったところかのう。」


光輝「そうだね。えっと次は……そうそう各掲示板にポスター張らないと。」


大駕「おお、これか。ふむ？」


丸まったポスターを一つ広げて見せる大駕。

『～トレジャー歌劇団、夏公演のご案内～』

ポスター全面が煌びやかな衣装に身を包んだ女優たちの写真で飾られている。


大駕「あぁ、去年もあったのうトレジャー歌劇団とやら。」


光輝「話中にデュエルシーンを盛り込んだ演劇か。僕も興味あるなぁ。」


光輝「っていっても毎年大人気だからチケットも直ぐ売り切れちゃうって話だけどね。」


大駕「デュエル演劇のぅ……じゃが結局は芝居なのじゃろう？」


光輝「そうだね。でも女優さん達の迫真の演技で繰り広げられるデュエルシーンは、デュエリストじゃなくとも圧巻らしいよ。」


大駕「ふむ……どうも儂の肌には合いそうにないのう。やはりデュエルといえば全力同士のぶつかり合い！台本など存在しない現実での力比べじゃ！」


光輝「はは、大駕らしいや。」


大駕「しかし芝居はともかくこの女子については儂も気になるわい。」


一番大きく載せられているグレイシア平留の写真を見据える。


光輝「トップスター、グレイシア平留か。」



～～～ ～～～ ～～～ ～～～ ～～～ ～～～



平留「先行は私だ！私のターン！！」


茶ノ畑「力強いターン宣言から始まったデュエル！さぁここからは瞬き厳禁です！！」


平留「会場のマドモアゼルよ！！私は貴女の為、必ず勝利を掴み取る！！」


拳を振り上げ高らかに宣言する平留。
それに応えるように一気に歓声が沸き上がる。

「グレイシア様あああ！！」
「愛してますわあああ！！」
「私の為に……きゃああ！！」


平留「出でよ！我が分身となるモンスターよ！」


平留「私は『悲恋の青年 ロミオ』を召喚！」星４・ＡＴＫ１４００


平留「更に私は魔法カード『廻りあう運命』を発動し、デッキから『悲恋の乙女 ジュリエット』を攻撃表示で特殊召喚！」星３・ＡＴＫ０


平留「愛し合う二人の出会いはいつも必然！会場の皆と私が、今日ここに出会えたように！！」


「きゃあああ！！！」
「必然よおおお！！」
「こっちむいてえええ！！」



～～～ ～～～ ～～～ ～～～ ～～～ ～～～


光輝「大会でも一人群を抜いて歓声が凄かったね。予選で優勝候補を倒したって聞いたけど…」


大駕「アストベリー杯のデュエルにおいて一切ダメージを受けなかったというのも頷ける。一度手合わせ願いたかったのじゃがな。」


光輝「相手は有名人で大スターだし、こんな機会じゃないととてもデュエルで真剣勝負なんてできないしね。」


大駕「まぁ終わったものをどうこう言っても仕方ないか。」



大駕「ところで今年はこの芝居イベントにＭ.Ｃ.Ｃが絡むと聞いたんじゃが、何か知っておるか？」


光輝「あぁそういえば言ってたねそんなこと。」


光輝「なんでも会場の一角でＭ.Ｃ.Ｃのブースを立てる事になったらしいよ。そこで何をするのか詳しくは聞いてないけど。」


大駕「ちょっとした出張営業といったところか。」


光輝「多分僕等も駆り出されると思うよ。あっちに運ぶものも沢山あるだろうし。」


大駕「会場は……『上波クリスティアホール』、あの馬鹿デカい劇場か。」


光輝「トレジャー歌劇団は毎年あそこだよ。なんたって世界規模で人気の劇団だからね。」


大駕「儂には一生縁の無い場かと思っておったが……人生分からんものじゃな。」






--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---





涼蘭「デュエルによって生まれる力……。」


奏「そんなものが…。」


アストベリー「まだ具体的な詳細は研究中だがね。例の騒動で最近は研究に力を入れられん。全く迷惑な話だ。」


天音「あの、それで…。」


天音「それとさっきの話がどう関係あるんでしょうか。」


奏「そ、そうです。大会はやめた方がいいってどういうことですか？」


アストベリー「………。」




アストベリー「アストベリー杯の事故の事は覚えていよう。」


涼蘭「あの局地的な大竜巻の事ですか。」


アストベリー「あぁ。」




アストベリー「あれは偶然の産物ではない。」


涼蘭「えっ…！？」


アストベリー「大会前、ジェネシック本社より盗み出された機器。名を『Ｄオーラ・アブソーバー』と云う。」


アストベリー「あれはその名の通り、大気中のＤオーラを吸収し蓄積しておくものだ。」


アストベリー「元々はＤオーラ研究の為に作り出したものなのだが……まさかあれを強奪されるとはな。」


天音「もしかして……あの竜巻って…！」


アストベリー「あぁ。あれはアブソーバーを使って引き起こされたものだ。」


奏「そんな！あれが人為的に引き起こされたものですって！？」


仁「…Ｄオーラを吸収する装置で何故竜巻が起こせる？」



アストベリー「Ｄオーラは単体で刺激を受けると周囲の気圧に幾らかの影響を及ぼす。つまりは空気の流れが生まれるのだ。…といってもその規模も微々たるものなのだがな。」


アストベリー「しかしあの時、アストベリー杯の高ぶった熱気によって莫大な量のＤオーラが生まれていた。」


アストベリー「それに対し奴等は、アブソーバーを『最大出力』で起動させたのだ。」


涼蘭「その結果が……。」


奏「………」


アストベリー「ご丁寧に制御用のリミッターまで破壊して………まさか自分の作ったものがこんな被害を出すなど想像もしていなかったな。」




涼蘭「…つまりアブソーバーが奪われている今、大量にＤオーラを放出するイベントは危険という事ですね。」


天音「そもそもの目的はなんなんでしょう…？大会を中止させて一体どんな目的が…。」


仁「…奴等からすれば大会などどうでもいいのかもしれない。むしろ大量のＤオーラを収集する事が目的と考えるのが自然だ。わざわざジェネシック本社を襲撃してまでアブソーバーを盗んだんだからな。」


アストベリー「それで間違いないだろうな。小規模ながら上波各地でＤオーラに動きがあった。恐らく奴等がアブソーバーを使用しているんだろう。」


アストベリー「事が大きくなるのを防ぐ為か、出力はかなり抑えているようだがな。」


天音「で、でも！そのＤオーラというエネルギーについてはよく分かっていないんでしょう？ジェネシックでも研究中のものを集めて一体何を…」


アストベリー「…そこが分からんところだ。奴等は一体Ｄオーラを集めてどうするつもりなのか。」


アストベリー（オットー……貴様は何を知っているというのだ。）


仁「………。」


～～～ ～～～ ～～～ ～～～ ～～～ ～～～


フウジン「俺はここでお前を倒し、そして全ての人間をぶっ潰す！！」


仁「全ての人間……だと？」


ロバート「…スケールの大きな話なことで。」


～～～ ～～～ ～～～ ～～～ ～～～ ～～～






仁「人間を滅ぼす。」






仁「…それが奴等の…。」


奏「えぇっ！？」


天音「滅ぼすって…どういうことですか！？」


アストベリー「………………。」


仁「詳しい事は分からん。だが先日接触した奴がそう言っていた。」


仁「具体的に何をどうするのかは不明だが……そのような力を行使できるのなら…。」


アストベリー（あの力を使えばそれに準ずる事ができるのか……？）


涼蘭「テロリストか何かなのかしら…。」


天音「それにしても人間を…なんて。」


アストベリー「そこら辺の事情を含め、セキュリティに報告しておこう。」


アストベリー「…というわけで事態は相当にマズいかもしれん。社長、今言ったとおり……」


涼蘭「規模の大きな大会を開けばまたアストベリー杯のような事が起こる可能性がある……ですか。」


アストベリー「アストベリー杯程の規模でなくとも多量のＤオーラが収集できるなら奴等が早まった行動を起こす可能性は捨てきれん。」


アストベリー「施設が崩壊するレベルの風は起きないにせよ、被害は相当なものになるだろう…。」


アストベリー「強制はしないが……貴女にそんな危険な選択は出来ますまい。」


涼蘭「成程……確かにそうですね。」




天音「じゃあ、ジュニアカップも…」



奏「中止……。」







奏「………………。」






終










--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---


（次回予告）


夏武斗「…またここに来ちまったな。」


蘇芳「あら、こんにちは夏武斗さん。」


夏武斗「蘇芳……ごめん、なんで此処に来たのか自分でもよく分からないんだけど、その……。」


蘇芳「大丈夫です。此処はきっとそういう場所なのですから。」


夏武斗「………」


蘇芳「宜しければゆっくりしていってくださいな。落ち着いて何かを考えるには向いた場所だと思いますよ。」


夏武斗「次回、『空っぽの場所』」


夏武斗「…俺一人で何ができるってんだ。」
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
・デュエルパートじゃない部分って難しい…。