74 ライジンの選んだ道　作：ギガプラント

スパーク「…やっぱり駄目だ。今日も届いてない。」


フウジン「兄貴……。」





突然のことだった。




どういうわけか全く兄貴と連絡がつかなくなった。





ストーム「この間また地方の大会出たんだろ？いつもならとっくにテープが送られてきてる頃じゃねえか。」


スコール「うぅ……もしかして元総長、食い過ぎで寝込んでんのかなぁ？」


ストーム「おめえじゃあるまいし、そんな訳ねえだろ。」



俺達の街は辺境も辺境。テレビのチャンネルもそんなに多くない。


だから全国中継されるようなデカい大会ならともかく、小規模な大会の中継は殆どの場合見られない。


そんな時兄貴はいつも試合を撮ったテープを俺達の元へ送ってくれていた。


俺達の誇りとしてライジンの名を世界中に知らしめる。それを誓った兄貴は、絶えず俺達に自分の姿を見せてくれていた。



そのテープさえ、今回は送られてこない。




スパーク「しかし仮になんかあったにせよ、全く連絡がつかないってのはおかしいな。」


ストーム「あまりにも活躍しまくったせいで、至るとこから出てくれ出てくれって引っ張りだこになってんのかなぁ。」


スコール「すげえなぁ。流石は元総長だぁ。」


フウジン「………」









アナウンサー「速報です。」


アナウンサー「プロデュエリストのライジン選手が、引退する旨を所属事務所が発表しました。」







全員「はああああ！？」




ストーム「おいおい！なんだよ引退って！」


フウジン「兄貴っ！？そんな話全く…！」


スパーク「なんかの間違いじゃないのか！！」


スコール「ええぇ…元総長プロ辞めちまうのかぁ？？」


フウジン「馬鹿が！んなわけねえだろお！！」


アナウンサー「明確な理由等は公開されておりませんが、ライジン選手本人の事情との事です。」


スパーク「事情って…なんなんすか一体！？」


スコール「もしかして腹でも壊したかなぁ…？」


ストーム「そんなんで引退するわけねーだろぉ！」



フウジン「…俺が兄貴のところに行ってくる。」


スパーク「総長…！」


フウジン「事情なんざ兄貴本人に聞くのが一番早え。俺が直接逢って確かめてくる。」


ストーム「だ、だったら！俺も行きます！！」


スコール「俺だってぇ！」


フウジン「落ち着け！お前等は留守番だ！」


ストーム「そんな…総長！」


フウジン「ちっとは考えろ。兄貴はプロだぞ？未だに暴走族とつるんでるなんて知られたらどっちにしろ面倒な事になんだろうが。」


ストーム「うぐ…確かに…。」


スコール「元総長に迷惑かけたくねえなぁ…。」


フウジン「ちょっと都会の風に当たってくるだけだ。さっさと帰ってくるさ。」




スコール「………」


ストーム「………」


フウジン「…心配すんな。兄貴なら大丈夫さ。」


ストーム「…ですよね。あの元総長ですもんね。」


スコール「また直ぐに俺達を楽しませてくれるに決まってます！」




フウジン「スパーク……チームの事任せっぞ。」


スパーク「はい。総長もお気をつけて。」


ストーム「今度都会の良い店教えてくださいよ！」


スコール「お土産はなんか美味いもんがいい！！」


フウジン「おいおい…遊びに行くんじゃねぇんだぞ。」






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（都会のアパート・ライジンの部屋）



フウジン「兄貴！俺だ！居るか兄貴！」(ﾄﾞﾝﾄﾞﾝ)



部屋の中からは物音一つしない。



フウジン「…ﾁｯ、留守か。まぁ居るなら連絡の一つでも寄こして………ん？」


ふとドアノブの回すと、あっさりとドアが開いた。



フウジン「…兄貴？やっぱり居るのか？」


フウジン「兄貴ぃ、入るぞぉ。」



フウジン「んなっ！？なんだこりゃ…！」




兄貴の部屋は酷く荒れていた。

ゴミやらカードやら何かの書類やらが床の上に無造作に散らばっている。

元々物を片付けるのが得意な方じゃなかった筈だが、この荒れようは異常だ。



フウジン「おい…！まさか空き巣でも入ったんじゃ！！」



ついそんな予感が口に出たが、それは間違いであるとすぐに気づいた。


足元に兄貴の財布が転がっていた。中身もキチンと入っている。


空き巣ならこんなに分かりやすいところに転がっているこれを見過ごしはしないだろう。



フウジン（兄貴……一体なにがあったってんだ…。）


フウジン「ん……こいつは。」


テレビの前にポツンと落ちているテープを拾い上げ、ラベルシールを確認する。


フウジン「こいつは……こないだ出たっていう大会のじゃねえか。送ってくれようとしてたのか…？」




その時、何か物凄く嫌な予感がした。


そして同時に、このテープを見れば兄貴に何があったか分かるんじゃないか……そんな気がした。




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（テープの映像・中継）



実況「さぁ対するはぁ！？プロデュエル界を荒らしまわる春雷の如き男おおお！！！」


実況「ライジンの登場だああああああ！！！！！」




フウジン（見たことのない試合…やっぱりこないだの大会か。）



実況「さぁライジン追い詰められた！！この一撃で決まってしまうのかあああ！！？？」


フウジン（んな訳ねーだろ。）


フウジン（２ターン前に兄貴が伏せたカード、ありゃ間違いなく攻撃を止める防御札。）


フウジン（ここを止めて返しターンでバーン決めて終わり。今回も兄貴の勝ちだな。）



ライジン「…………っ！！」




フウジン「……ん？」


フウジン（なんだ…今の顔…。）



対戦相手「いっくわよ～！お注射天使リリーで轟放雷落王 スパーキングを攻撃！！」




ライジン「………っ！？」


ライジン「ぐあああああ！！！」ＬＰ４００→０




実況「決まったああああああ！！！マリリン選手！負け無しのライジンを打ち破ったあああ！！！！」


フウジン「なっ！？兄貴！！！」




フウジン（なんでだ兄貴！？なんで攻撃を止めなかった！）


フウジン（防御札じゃなかったのか？いや、そんな筈はねぇ！）



そこから最後までテープを見続けたが、結局理由は分からなかった。






フウジン（…こりゃ絶対裏になんかある。）




俺は事務所に直接乗り込んだ。




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（事務所前）


フウジン「っ！？あれは……」



入り口前に多数のファンが押しかけている。
警備員がなんとか留めているといった状態で、今にも中に乗り込んでいきそうな勢いで口々に言葉を放つ。


「ちゃんと説明しろおお！！」
「ライジンはどうなったんだ！！」
「あんなんじゃ納得できないわ！」
「事情ってなんなんですか！？」



フウジン（そうだ。兄貴は万人を沸かせる本物のエンターテイナー。ファン達があんな説明で納得なんてできるわけがねえ。）


フウジン「兄貴……俺がぜってぇまた舞台の上に立たせてやる…！」


警備員達の奥で、関係者であろう太った中年男性が諭すように対応する。
首から提げた札に「八尾」と書いてある。


八尾「あーえーっと落ち着いて下さい皆さん。現状ライジンと連絡が取れない状況でして、後程正式に……」


「ライジンは何してんだよ！」
「そうよ！連絡が取れない状況って何よ！」
「隠してるだけじゃねえのか！？」
「ファンクラブ会長としてどうしてもお聞きしたい！」

八尾「あーライジンはですね…只今長期的に故郷に帰っている最中でして、今は本人の休息を最優先……」




フウジン「嘘ついてんじゃねえ！！！」





八尾「っ！？」


「おいあれ！」
「ライジンか！？」
「故郷ってのは…」
「いや、よく似ているが…」


フウジン「兄貴は長らく家に戻ってねえ！！帰郷中だなんてなぁ嘘っぱちだ！」


「そういや弟が居るって…」
「そんなことはいい！実家に居るってのは嘘なんだろ！」
「やっぱなんか隠してやがんな！」
「…説明頂けますね？」


八尾「お、弟……。」


フウジン「おいてめぇ……兄貴はどうしたんだ！正直に言わねえとただじゃすまねえぞ！」


「そうだそうだ！」
「誠意を持って話せ！」


八尾「……仕方ありません。」


八尾「皆さん！聞いて下さい！大事な話があります！」


八尾「ここ数か月の間、本当にライジンと連絡がとれないのです。」


フウジン「なんだと……！？」


八尾「私共も早急に事情を把握したかったのですが…。そちらの弟さんが言うように、家にも実家にも居ないようで…。」


八尾「…不本意ながらこのような措置を取らせていただくことに。」


フウジン「そんな……馬鹿な…。」





兄貴が理由もなく居なくなったりするわけねぇ。


手掛かりらしい手掛かりといえばあの妙な試合しかない。


あの試合で何かあったに違いない。




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ロバート「待て！行方不明だなんてニュースでやってなかったぞ！！」


ロバート「もしホントにそうだとしたら発表が無いわけ…」


フウジン「世の中なぁ、なんでも筋が通ってるとは限らねえんだよ…。」



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俺はあらゆる手段を尽くして徹底的に調べ上げた。


放送局、事務所……関係者の居る場所をとことん洗い出した。


そして事務所内に潜入していた時、ついに真実を知った。


吐き気を催すほど糞ったれな真実を…。












八尾「長野君、デュエっ娘シスターズはどうだね？」


長野「予想以上の売れ行きですよ。やっぱ顔が良いと伸び方が違いますね。」


八尾「実力はごまかせても顔は変えられんからな。はっはっは！」


長野「あーでもこないだまでいたライジン。あれも如何にもって感じの悪者顔でしたよね。いいヒールだったんですけど、惜しかったですねぇ。」


八尾「デュエルの腕さえあればなんでも許されると思ってるからなあれは。」


八尾「八百長一回やっただけで事務所やめますと来たもんだ。ありゃあプロの世界舐めてるね。」



フウジン（何っ！？兄貴に八百長だと…！）



長野「でもよく引き受けましたねぇ。絶対引き受けなさそうじゃないですか……なんか怖いし。」


八尾「君もまだまだだね。いいか？八百長を引き受けさせるコツは、揺さぶりだぁよ。」


長野「…どういうことです？」


八尾「ああいうチンピラにまともな話は通じないと思ってね。ちょっと頭を使ったのさ。」


八尾「事務所同士の話し合いで、あっちのマリリンが勝つことは決まっていたろう？だから奴のデュエルディスクに特製の投影装置をくっつけといたんだ。相手の手札が見える装置をね。」


長野「ライジン側につけたんですか？相手じゃなくて？」


八尾「そこがミソさ。誰も自分の事務所の人間が不利になるような事をするとは思うまい。」


長野「…でもどうやって？」


八尾「簡単さ。奴が勝ちそうになった段階で、シークレット通信機能で負けるように指示を送る。断るようなら『勝ったらこの装置の事を公表してお前の反則負けだ』と葉っぱをかければいい。」



フウジン（まさか……あの時の…！！）



八尾「反則負けなんてしたらプロじゃあ居られないからね。皆面白いくらいに負けてくれるよ。」


長野「ほぉー！おみそれしました！」


八尾「結局アイツも周りからチヤホヤされるプロデュエリストの立場を捨てられなかったってことさね。」


長野「成程…勉強になります。」








フウジン（違う……兄貴は立場の為に負けたんじゃない……。）


フウジン（俺達の為に……俺達の誇りで居続けるために……自ら負けるような真似をしてでもプロとして生き残る事を選んだんだ…！！）


フウジン（俺達の為に…！！！！）







長野「…ってでも結局いなくなっちゃいましたね。」


八尾「馬鹿な奴だよ。ここに居ればヒール役としての人気でもっともっと儲けられたろうに。」


八尾「こんな連中のとこじゃやってられない、他の事務所に移籍する…だと。今まで置いてやった恩も忘れてね。」


長野「移籍移籍って若い奴はすぐそれですよね。社会舐めてるというかなんというか。」


八尾「大体八百長八百長と犯罪者のように扱ってくるがね？私達はファンが喜ぶようシナリオを組んでいるだけだ。」


八尾「芸事は全て道筋に沿っているから面白くなる。それを分かっていない奴がどうにも多くて困るね。」









フウジン「言いてえ事はそれだけかクソデブ！！！」








八尾「ひっ！？」


長野「だ、誰だお前！！」


フウジン「てめぇの糞下らねえ企みで……よくも兄貴を…！！」


長野「警備員！今すぐ来なさい！！」


フウジン「ぜってえ許さねえ！！事務所ごとぶっ潰してやる！！」


八尾「……ふん、何の話だね？」


フウジン「すっとぼける気かてめえ！」


八尾「ほほっ！今の話が仮に本当だとしよう。だったら何故君のお兄さんはでてこない？」


フウジン「………」


八尾「当事者が否定すらしていない事を誰が信じる！かっはっは！！」


フウジン「っ！」


八尾「舐めてかかった新人プロに負け、怖気づいて逃げ出したんだよ彼は。ひゃっひゃっひゃ！！」



警備員が数人集まってくる。



八尾「とっととつまみ出してくれ。二度と潜り込まれないようにな。」





フウジン「くそっ！放せ！！くそがああああああ！！！」



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フウジン「…本人が行方不明の状況じゃマスコミ連中は動こうともしなかった。」


フウジン「行方不明の件も奴等が手回しでもしたんだろう。」


フウジン「そして！！ファンクラブの連中だ！！！」


フウジン「アイツら、事務所を吊るし上げることで他の所属デュエリストに影響が出るかもしれないとか抜かして、結局兄貴を見捨てやがった！！」


フウジン「世間じゃ兄貴の事をあること無いこと噂しだす始末！！」


ロバート「………！」


フウジン「そして何より……たった数週間で、皆が兄貴の事を話題にすら出さなくなった！！」


フウジン「新人プロがどうだ、アイドルデュエリストがどうだ！あの糞事務所の八百長デュエルを楽しんでやがる！！」


ロバート「てめえだって見たろ！！アストベリー杯のエキシビションマッチを！！」


ロバート「っ！？」



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（アストベリー杯・エキシビションマッチ）



藍堂「では僕のターンです！ドロー！」


藍堂「僕は『スターナイト・プリンス』を召喚！」星４・ＡＴＫ１５００


藍堂「まだまだこれからですよ。スターナイト・プリンスのモンスター効果発動。」


藍堂「手札から『白銀の名馬』を守備表示で特殊召喚！」星３・ＤＥＦ１２００


藍堂「そして魔法カード『融合』を発動！スターナイト・プリンスと白銀の名馬を融合！」





ロバート（融合素材モンスターをわざわざフィールドに出しただと？）


ロバート（相手に伏せカードが２枚もある状況でわざわざ２体もフィールドに出す意味は無いだろうに。）


ロバート（しかも対戦相手は元プロだってのに、そこにツッコミもしねえ。）



ロバート（こんなリスキーな事をする理由といえば……）


「ｷｬｰ!!」
「あのモンスター格好良い！！」
「これが最新式のソリットビジョンかぁ！」


ロバート（ソリットビジョンのお披露目か、もしくはあのアイドル君のファンのご機嫌取りってとこか？）


ロバート（こりゃあ最初から全部シナリオが決まってる八百長試合だな。）


ロバート（さしずめこの後、ピンチに陥いらせてからの奇跡的な大逆転。アイドル君の大活躍で客もテレビも大喜び…そんなとこだろ。）


ロバート「………っだらね。」



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フウジン「あれが今のプロデュエル界だ！あんなもんになんの価値がある！？」


フウジン「兄貴のデュエルはアレ以下だってのか！！」


フウジン「あんなもんに、あんな奴等に兄貴が奪われたなんざ我慢ならねえ！！」



フウジン「俺が全部ぶっ潰す！！！」







仁「………」


ロバート「…ライジンは、ライジンはどうしたんだ？そこまでの事をされて何故…」


フウジン「んなもん決まってんだろ！！アイツらが…あの事務所の連中が兄貴に何かしたに決まってる！！」


フウジン「薄汚え手を使って……もう、兄貴は……。」


ロバート「馬鹿！まだ決まったわけじゃねえだろ！！」


フウジン「だったら！！なんで兄貴は帰って来ねえんだ！！」


フウジン「１０年待った！！１０年経っても兄貴は現れねえ！！」


ロバート「っ！！」


フウジン「さぁてめえのターンだ！！俺を止めたきゃ勝ってみろ！！！」



フウジン「こいつは俺の……最後のデュエルだ！！！」





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ヴァルト「一先ずこれで最後ですね。」


アリス「あー疲れた……。」


双葉「………」


ヴァルト「双葉？」


双葉「…私、ちょっとフウジンを探してくるね。」


アリス「はぁ？あんなの探してどうするってのよ？無駄よ無駄。」


ヴァルト「私もアリス様と同感です。彼の事なら気にしなくても…」


双葉「うん…でも何か胸騒ぎがするの…。」


双葉「直ぐに戻るから…先に戻っててくれる？」


アリス「はぁ～あ……あんたも物好きね。」


ヴァルト「…分かりました。くれぐれもお気をつけて。」


双葉「ありがとう。それじゃあ行ってきます…。」





双葉「………」






終











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（次回予告）


ロバート「…復讐ね。お前も結局俺と同じってことか。」


ロバート「だったら野暮な事ゴタゴタ言う気は無え！俺は俺の復讐を遂げるためにここでお前をぶっ潰す！
」


仁「加速を続ける戦いは…最後の山場を迎える。」


ロバート「はあっ！？なんだその効果！？」


ロバート「次回！『爆誕！智界精ミズガリア・ワイズ！』」


ロバート「仁…一緒に地獄観光ってなぁどうだ？」
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・アストベリー杯・エキシビションマッチは４１話です。やっと回収できた…。