第153話　それぞれに迫る危機　作：ター坊

~龍可サイド~

遊星…アキさん…クロウ…。大丈夫かな。そう思いながら船のデッキから外を眺める。
「龍可ちゃん。どうしましたか？」
「あっ。玲子さん」
不意に後ろから玲子さんに声を掛けられた。
「遊星たちは本拠地かもしれない場所に行ったのに、私は留守番って…なんだか落ち着かなくて」
「私も…なんとなく分かります。みんな一生懸命頑張ってるのに、なんだかのんびりとした時間を過ごして悪いなぁ、って思います」
そうなんだ…、玲子さんも。確かにここを守るのも大切な役目だとは思う。だけど…遊星たちのために何か直接してあげられることがなくて、もどかしいというか…。そんなことを考えてる時だった。
「ん？」
なにとなく眺めていたら遠くに動くたくさんの人影が…！しかも十や二十じゃない。もっとたくさんいる！
「ねぇ玲子さん！あれ！」
「…確かに何かいますね…」
街並みの隙間に、黒い集団がゾロゾロと蠢いているのがここからよく見える。

バタン！

誰かが扉を慌てて開けてこちらに走ってくる。
「玲子さん！龍可ちゃん！」
「璃緒さん！」
「今、アポリアさんの話では謎の集団がこちらに近づいているとか！」
「たぶん、アレです！」
私は自分が見た方向を指差す。
「あの黒い集団…。今まで遭遇してきたマスターDの配下と見て間違いないでしょう」
「なら！」
「そうですわね。行きますよ！」
「はい！」
みんなが帰ってくるこの場所…守りきらないと！





~万丈目サイド~

「アニキィ。ワタシ恐いわぁ」
「ええい！引っ付くな！気色悪い！」
俺達は今遊馬が最後に記憶が残っていると思われるアトラクション『ダイナソー･ツアー』に乗っている。中型のボートに乗って恐竜が生息する川辺を下って廻る趣旨だ。船の扱いに慣れているメアリーが操縦している。
「遊馬。一体どうなんだ」
「うーん。ここじゃなくてもうちょい開けた場所な気がすんだよな」
「ったく、しっかりしろよ」
「わりぃわりぃシャーク」
遊馬はまだピンと来ていないようである。
しばらくするとジャングルのような森を抜け、開けた草原のような場所に出る。
「おお！アレは！」
遊馬が目を輝かせて船から乗り出す。
「でかいな」
さすが恐竜のアトラクションというべきか。川辺には首の長い巨大な恐竜が何体かいる。
「ひょおーすっげー！」
「遊馬。我々は遊びに来たわけではないぞ」
「アストラル…。わ、分かってるよ！」
思わずはしゃぐ遊馬をアストラルがたしなめる。周りの全員もそのやり取りにふと笑いが込み上げる。

ﾌﾞｰﾝ

「ん？何の音やろか？」
「メアリー、どうしたんだ？」
「いや。遠くから音がな」
遠くから音？

ブーン

確かに何かのエンジン音と水飛沫の音が近づいてくる。

ブォーーン

しかも一方向からだけじゃない。前後から聴こえる。
「アカン囲まれた！」
その音の正体が見えた時には遅かった。前後からモーターボートが十数隻が猛スピードで近付き、取り囲まれる。
「ようやく来ましたね」
１隻だけ大きなモーターボートから聞き覚えのある声がした。
「お前は！龍牙先生！」
「遊城十代…！気安く私の名を呼ぶな！貴様のせいで私の人生が狂ったのだ！その償い、ここでしてくれる！貴様ら全員を確保し、マスターD様への手土産にしてくれる！」
龍牙先生とモーターボートに乗ったマスターDの手下共は一斉にデュエルディスクを構える。

―ここは川の上の船…逃げ場は無いか…！





~ユイサイド~

ミエルが加わったが、城之内と舞のダメージとミエル自身のサイコ･デュエルディスクの影響による疲労のため、もう少し休むことにした。
「わりぃなユイ。俺達のせいで足止めになって…」
「城之内、気にするなって。まだまだ時間もあるし、休める時にしっかり休んでおかないと」
まだ昼にもなっていないから探索の切り上げとなる日没までまだまだ余裕がある。右回りルート組も適宜休みを入れながら探索しているだろう。…ん。
「ユイ殿。いかがなされた？」
「ああ。ちょっとトイレ…厠に行ってくるだけだ」
「左様か」



「？」
なんとなく行きたくなったわりにはあまり出なかった。少量の用を足して手を洗ってる時だった。




ガコン

大きな物音が女子トイレの方からした。何事かと女子トイレの入り口まで近づく。
「…どうした？」
やはり女子トイレの女の子に話し掛けるのは少々気が引ける。少し大きめの声で叫ぶ。







「…ュィ……ﾀｽ…ｹﾃ……」

か細いが、はっきり聴こえる声―。
「美羽！？」
俺は女子トイレに飛び込む。そこにあった光景は―。








「お前か…ユイ」
「マスターD！どうしてお前がここに！」
そこには倒すべき敵がいた。そしてその近くには、ぐったりと壁にもたれ掛かるように座り込む美羽と磔にされたように壁に押しつけられている遊月が。
「美羽に何をした！？遊月を離せ！」
「『デモンズ･チェーン』」
「なっ！」
駆け寄ろうとしたら虚空から鎖が現れそれに絡め取られる。
「くっ！」
ソリッドビジョンではあり得ない本物の鉄の感触…。ほどけずにジャラジャラと虚しい金属音が響く。
「おい！どうしたんだ！」
よし！さっきの大声で誰か来てくれた。
「一体何が…ってユイさん！」
「ユイ殿！なっ！姫！ご無事ですか！？」
遊矢と柳生さんを始め、続々とみんなが来る。
「ちっ。止むを得んか」
マスターDがそう舌打ちすると

バキン！バラバラ…

「なっ！水葵の印籠が！」
その瞬間にマスターDの狙いが読めた。
「マスターD…！お前の狙いは…遊月の蒼海の宝珠…いや、ノーレッジ･サファイアだったのか！」
無惨に砕ける遊月の印籠…そして乱暴にしてしまったためか蒼い宝珠がおよそ半分に割れて床に落ちる。
「おのれマスターD！その蛮行許すまじ！うおぉぉ！」
柳生さんが刀カードを発動し、マスターDに斬りかかるが…
「…」ﾊﾟｼ
「なっ！」
「…」ﾌﾞﾝｯ!
「ぬわっぁ！」
いとも容易く斬撃を片手で受け止められ壁に投げ飛ばされる。
「さて。目的は果たした。君達には置き土産を渡そう」
マスターDの仮面の下は恐らく不敵な気味の悪い笑みを浮かべているだろう。手を伸ばし、マントの下から取り出したのはサイコ･デュエルディスクが２つ。
「まさか…やめろ…！」
鎖に縛られて何もできない自分を呪う。そして
「やだ…！やだ！」
「うぅ…きやあああぁぁ！」
「美羽！遊月！！」
サイコ･デュエルディスクは無情にも美羽と遊月の片腕に装着される。
「それでは楽しむといい。『緊急テレポート』」
マスターDがカードをかざすと一瞬で消え、それと同時に俺を縛っていた鎖も消えた。
「美羽…。遊月…」
大丈夫かと近付こうとする。
「イヤ！お願い、ユイ！来ないで！！」
美羽は腕を抑えながら泣き叫ぶ。
「何かが私に入り込んできて…！いや…。ユイ様、来ないで…」
遊月は体と声を震わせて怯えている。そして…

ｶｼｬﾝ

展開される２つのサイコ･デュエルディスク。




俺がやるべきことは……。