第147話　マスターＤへの手掛かり　作：ター坊

~ユイサイド~

陰湿な人形劇を仕掛けたMr.ハートランドは柚子の超過1万を軽く越えるダメージを受けて吹っ飛ばされた。終了直後、そのデュエルを観ていた全員が柚子や権現坂に駆け寄る。
「やったな。柚子。権現坂。…心配かけてごめん…」
「ううん。遊矢が謝ることじゃないわ」
「その通りだ。俺達は友を侮辱する奴を許せなかった。それだけのことなのだ」
良いな、こういう友情。
ふと目をやると吹っ飛ばされたハートランドの帽子が近くに落ちていて、よく見れば何か白い物が入っているように見えた。俺は帽子を拾い上げ、その正体を確かめる。
「これは…」
「？ユイ…。それって何？」
美羽も覗き込む。帽子の中に入っていたものはカードだった。とはいえ、デュエルモンスターズのカードではない。会員証のような…何かそんな感じのカードだ。名前が英語で書かれていて横にはハートランドの顔写真が印刷されている。
「…何これ？」
「免許証…って訳でもなさそうだよね？」
俺と美羽は首を傾げる。
「…ぐぬぬ。おのれ、貴様らぁ…」
不意に、怒気こもる声がステージから聞こえる。先程吹っ飛ばされたハートランドが起き上がってきたようだ。
「よくも私に…なっ！ああぁ…」
なんだ？様子がおかしい…。何かに怯えているような…そんな感じに見える。
「イヤだ…また、地獄に…ああ！熱い！熱いぃぃ！！」

ボッ！

断末魔とも言えるハートランドの絶叫と共に炎が燃え上がる。

ジ リ リ リ リ リ …ﾌﾟｼｬｰ

けたたましい警告ベルとスプリンクラーの噴水音。俺達はその騒音の中、駆け抜けるしかなかった。





~遊馬 サイド~

「やったなⅢ！！」
デュエルが終わってすぐにⅢの元に走った。
「遊馬。応援してくれてありがとう」
「あったりまえだろ…ん？あれ？Ⅲ、体が！」
いつの間にかⅢの欠けていた体は元に戻っていた。
「本当だ。闇のデュエルに勝ったからか…」
「そうみてぇだな」
クロウも元に戻っていた。
「クロウ…。ホントに大丈夫なの？」
「ああ。別に痛みもなかったし、問題ねぇよ。それよか…」
クロウはアキとの会話を終えるとさっきまでデュエルしていたバクラを睨む。
「おい！こっちは闇のデュエルやらに勝ったんだ！全部話してもらうぜ！」
「…ああいいぜ。俺様もゲーマーの端くれ、ゲームに負けた以上言う通りにしてやるよ」
…ちょっとおっかねぇと思ったけど、結構リツギな奴じゃんか。
「遊馬。それを言うなら律儀だ。…だがあのバクラという男、簡単に信用して良いものなのか？」
「ああ。俺もアストラルの意見に賛成だぜ」
「アストラル、シャークまで…」
「そうだろ遊馬。あんなヤバいゲームを仕掛ける奴をそう簡単には信じられねぇだろ」
「シャーク…。だけどよ……」
確かにバクラは闇のデュエルだかっていう変なゲームを仕掛けてきたけどよ…。それでもデュエルしたなら信じてやりてぇじゃねぇかよ。
「どうやら俺様はあまり信じてもらえないようだな。ま、信じようが信じまいが構わないがな」
「…おいバクラ」
遊星さんがバクラに問いかける。
「お前が話す話が本当だとして、なぜ俺達にマスターDの情報を流すんだ？」
「そうだな…。予定の変更…とでも言おうか」
「予定？」
「ま、詳しくは秘密だがマスターDにつくよかお前らについて元の世界に帰る方が都合が良いんでね」
「元の世界に帰れるのか？」
「ああ。俺様の言うことを信じればな」
…ここでなんか会話が途切れちまった。
「…なぁバクラ」
「ん？なんだ」
「俺はさ。お前の言葉、信じてぇよ。だから約束してくれ！元の世界に帰るまでで良いから俺達に協力してくれ！さっきみてぇな危ないことはやめてくれ！」
「遊馬…」
「遊星さん、絆って…信じてやらねぇと始まらないんじゃねぇかな…て思うんだ」
「…そうだな」
なんだか遊星さんの口元が少し綻んだ気がした。
「バクラ。お前の言葉、とりあいず信じてみよう」
「な！遊星！」
「クロウ。確かにリスクはあるがマスターDへの手掛かりがない今、バクラの言葉に賭けるしかない」
「遊星さん…！良かったな、バクラ！」
「ああ。…そうだな」
バクラはスッと手を俺に伸ばした。
「ついでに言っとくが俺様も同行者として、お前たちについてくぜ」
「ああ！バクラ、よろしくな」
俺はバクラが伸ばした手を強く握り締めた。
「さて、じゃあお前らが知りたいことを話そうか。立ち話もなんだ。席もたんまりあるし座ろうか」
バクラが誘う先には無造作に並ぶベンチがあり、みんなそこに腰掛ける。
「…じゃあまずはマスターDの正体だが…」
たぶんこれが固唾を飲むってやつだな。何故か緊張する。
「実は俺にも分からねぇ」
ガクッ
「なんだと！勿体ぶってそれか！」
万丈目が声を荒げる。
「まぁ慌てんな。アイツは仮面を常に着けてるから素顔は知らねぇが、少なくともお前らの中の誰かに恨みがある様子だったぜ」
「恨み？」
「ああ。もしかしたらお前らの団体の片割れの方かも知れねぇがな」
「私達に恨み…。もしかして…！」
「もしかしたら、それぞれの俺達の世界のどれかのうち、マスターDを名乗る前の奴に接触しているということなのか？」
「かもな。そしてこれがマスターDの元に行く方法だ」

シュビッ

バクラはポケットから何か取り出すとそれを遊星さんに投げた。

パシッ

「これは？」
遊星さんが受け取ったものを見るとカードだった。英語で書いてあって横にはバクラの顔写真が載ってる。
「コイツはアクセスカードキーと言ってな。文字通りマスターDの元へ行くための鍵だ」
「よっしゃ！ならこれでマスターDまで一直線だぜ！」
「盛り上がってきたぜ！」
クロウとゴーシュの言う通りだな。
「だが、そう簡単にはいかねぇがな…」
「何！？どういうことだよ！？」
「その１枚のアクセスカードキーだけではマスターDの元には行けないのさ」
「バクラ。どういう意味だ？」
「マスターDの元に行くにはこのアクセスカードキーと同じものがあと５枚必要なんだよ」
「５枚も！？」
「ああ。俺様以外にもこの遊園地内に刺客が放たれている。そいつらが持っているそのアクセスカードキーをぶんどれば良いのさ」