第138話　ワガママ姫の本音　作：ター坊

「え？遊月が最近変？」
「はい。そうなんです」
「お前の彼女だろ。何とかしろ」
そんな話をしてきたのは小鳥と万丈目であった。
「最近、あんまり協力的じゃないって言うか」
「掃除当番もサボるし、ワガママも多くなっているようだし目に余る。お前からも注意してやってくれ」
「あ、ああ…」
そう言って二人は部屋を去った。
遊月がねぇ。確かに口に合わないとか言ってご飯残すようになったし掃除も若干雑になったような気もする。アイツが今更そんなことをするとも考えられない。…もしかして


~遊月サイド~

「姫様。最近、何かありましたか？」
「何でもありませんよ。お春さん…」
「…出過ぎたことと承知の上で申し上げます。最近の姫様はワガママ過ぎます。そんなことでは皆様はもちろんユイ殿にも」
ユイ様に…。その言葉を聞いて少し心が痛む。
「それ以上言わないでください！！」
思わず怒鳴ってしまう。
「…。申し訳ありませんでした。…失礼致します」
お春さんは困惑した表情で部屋を出ていきました。
…ごめんなさい、お春さん。…辛いです。胸が張り裂ける思いとはこの事を言うんでしょうか。でもきっと、これで良いんです。これで…。泣き出しそうな心にそう言い聞かせる。

ｺﾝｺﾝ

不意に戸を叩く音がしました。
「遊月。俺だ」
ユイ様の声だ。
「入るぞ」

ｶﾞﾁｬ

足音が近づいてくる。私はユイ様に背を向けたまま黙っている。
「よっ、と…」
ユイ様は私の背後に座ったようで寝台が揺れる。
「…」
「……」
部屋の中の時間が止まったようだ。最近の私の振る舞いにユイ様も少なからず呆れてるはずなのに、どうしたという心配も何をやってるんだという叱責もない。黙って座っているだけでした。いっそ責めて欲しい、罵って欲しい。少なくともこんな気まずい時間を終えて欲しいと願いました。
「…」
「……」
「…」
「…あの」
堪らず先に声を掛けてしまった。
「…」
「ユイ様？」
「……」
「…怒っているのでは…」
「…やっぱりか」
この部屋に来て初めて口を開いた。
「あの…やっぱりとは……」
「…彼氏の勘、ていうのかな。なんとなくだけど…。遊月はみんなに嫌われるように仕向けてるのかなって」
「え…？」
仕向けてる…。確かにそう言えるかも知れません。
「…」
それ以降、またユイ様は黙ってしまいました。
「……ごめんなさい…」
「ううん。遊月もきっと…辛かったよな。みんなに嫌われるようなことするのって、自分も嫌だよな」
「……はい」
そう。私は皆様に嫌われるようにしていました。
この間、武藤様達が帰ってきて予感がしました。もう最後の決戦は近いと。最後の敵、マスターDを倒せば全てが終わると。

混乱も

危機も

そして、幸せも。

全ての戦いが終われば、皆様それぞれの世界に帰ってしまう。そうしたらもう二度と皆様に会えないかもしれない。―ユイ様とも。
そう考えたら漠然とした不安がのしかかってきました。
ユイ様も何度か『俺が遊月の世界に行く！美羽も説得してみせる！』と言いましたけどユイ様は全てが終わった後にこの新横浜の地で起こったことを話す義務があると留めました。…しかしそうは言っても、いざ別れの時となれば私はきっと泣きじゃくってユイ様を困らせてしまうでしょう。私だって、離れたくないです…。
だったらいっそ、嫌われて居なくなって清々したと思われようと考えました。そうやってユイ様に突き放されたら、私も諦めがつくだろうと。だから私は皆様に悪態をつけて…。けれど、ユイ様は…そんな思いに気付いていた。
「ユイ様…。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません…でした」
「ううん。…なんか安心したからいいや」
寝台が軋み、揺れたと思ったら優しくて温かい手が髪を撫でる。不安で凍えてた心が暖かい日射しに照らされているようでした。
「……俺も一緒に行くから、みんなにちゃんと謝ろうな」
「…はい」
私はそのまま後ろに倒れて、ユイ様の腕の中に抱かれました。
「…」
「…」
再びお互いに何も喋らない。けど今度はこんな時間がずっと続いて欲しいと、愛しい気持ちでした。











「…ユイ様」
「どうした？」
「皆様、許してくれるでしょうか」
「みんな優しいからな。きっと大丈夫さ」
「…そう……ですか」
「…やっぱり言葉だけで謝っても物足りないか？」
「…」ｺｸﾘ
「じゃあ、どうしたい？」
「その…お仕置き……とか？」
「それは…。今夜あの部屋で…な？」