第131話　解れる心　作：ター坊

~遊月サイド~

「じいや…。ユイ様は……」
「心配要りませぬ。恐らく心労から倒れただけかと」
「ごめんな…。変な騒ぎになって」
遊矢様との決闘の後、ユイ様は高熱を出して倒れてしまいました。
「ユイ殿は今まで皆に尽力してくれましたしな。休養と思って安静にしてくだされ」
「そうだな…。皆にこれ以上迷惑掛けれないし、今日はもう大人しく寝てるよ」
「それではこれにて」
そう言ってじいやは部屋を出ました。
…心労。もしかして普段の仕事に加えて私達の恋人としての相手をしてお疲れになったのでしょうか…？だとしたら…
「？遊月は？」
「あ、申し訳ありません。私もこれで」
少し考え事をしてたので、じいやに遅れてしまいました。
「いや、待ってくれないか？」
え？ユイ様？
「あの…いかがなさいましたか？」
「寝てるとか言いつつも眠気もないからな…。暇なら少し話さないか？」
「は、はぁ…」
私はユイ様の寝床の近くの椅子に座りました。
「…遊矢には悪いことしたかな…」
「遊矢様ですか？確かにひどく落ち込んでいましたね」
「やっぱりそうか…。対戦相手が急に倒れたっていうなら勝っても後味悪いもんな」
ご自身が倒れたのに相手のことを気遣うなんて…。
「遊月にも心配掛けて悪かったな」
「いえ、そんな！ユイ様は何も悪くは！」
私は今朝の行為を恥じました。美羽様のでーとのことを聞いて嫉妬して、拗ねて…。
「…」ｼﾞｰ
「ユイ様？」
「…今朝はごめんな」
「え？」
「あの時は調子乗っててさ。ついしちゃったって言うか…」
「いえ。美羽様も可愛らしいですし、恋人の成り行きの結果と言いましょうか…」
「ふふ…。でも嬉しかったな」
「嬉しい？」
「遊月がヤキモチ妬いてくれるんだなと思って。俺もそれだけ好かれてるんだと思うと…な / / / 」
「ユイ様… / / /」
相思相愛、それを確認できてお互いに頬が紅潮する。
「なんか遊月と話したらちょっと元気になったな。ありがとう」
胸がときめく。ここでお大事にと言って立ち去るべきでしょうけど、まだ離れたくない…。もっと一緒にいたい。
「あの…ユイ様…」
「どうした？」
「もし、…お、お身体に障らなければ…その…… / / / 」
恥ずかしくて先のことが言えない。
「…ふーん。デートの時から思ってたけど積極的だな」
「…ユイ様だったら、何をされても良いかな…と 」
「そうか。…でも激しい運動をするわけにもいかないしな……そうだ。アレをやってもらおうか」
「あ、アレ？」
「とりあいずベッドに上がってくれ」
私はユイ様の言うままに寝床に上がりました。














「はぁ…。この柔らかさ、落ち着く…。やっぱ恋人同士のすることの定番はこれだよな」
「そうですね。喜んでいただけて何よりです」
ユイ様の言う恋人同士の定番。それは膝枕でした。
「この程よく締まった太ももの感触と柔肌の温もりがなんとも…」
「気持ちいいんですか？」
「ああ。最高♪それに下から眺める絶景もなかなか」
「下から？…！もう…… / / /」
「ははっ。…それにしても今日の遊月の服はこれをするために着たような丁度いいセレクトだよな。ニーソにミニスカなんて…。そうだ♪よっと」
「ん？」
ユイ様はくるりと転がって仰向けからうつ伏せに姿勢を変えました。太ももにユイ様の顎が乗り、息遣いが肌を伝います。
「ちょっと失礼して…」
「ユイ様…。ちょっとイタズラが過ぎますよぉ」
「じゃあ、止める？」
もう…知ってるくせに。
「やっぱり、ユイ様は意地悪です / / /」
「じゃあ改めて」
そう言ったあと、すかーとが捲られた感覚がする。
「へぇ。イチゴ柄かぁ…」
「こ、子供っぽいですか？」
「いや。むしろ…閃いた。……いーち」
「ひゃっ！？ユイひゃま！」
急に指で押される感触が股から全身に走る。
「ユイ様、そこは…」
「にーーい」
「あぁあん！」
「あんまり大声出すと他の人が来ちゃうかもね」
「ん！」
ユイ様にそう言われて思わず口をぎゅっと閉じて声を殺す。
「ユイ様……」
「なんとなくイチゴの個数が気になったからな」
「もう…。事前に言って下さい。…すごく恥ずかしかったです…」
「でも可愛かったな。今の声♪」
「…え？」
そんな…。
「ユイ様…。その……はしたないとか、思いませんでしたか？」
「いや。俺はどんな遊月も好きだからな。姫として凛としているかっこいい遊月も、みんなと一緒にいる女の子らしい可愛い遊月も、こうして二人っきりの時の…はしたない遊月も」
「もう…恥ずかしいことを言わないで下さい… / / / 」
自分でも体温がグーっと上がってるのがわかるくらい熱いです。
「遊月」
「…なんですか？」
「続けて良いか？イチゴ数え」
「私だって…ユイ様のこと、愛してますし…」

式霊決闘が強くて―

皆を導いて―

けど少し困ったことをして―

だけど愛してしまった―

優しい人。だから

身も心も捧げたい。

「ユイ様の好きにしてください…」
「そっか。じゃあ早速…♪いーち」
「んっ！」
「にーい。さーん」
「ひゃ、ん / / / …ふぁっあ！」
ユイひゃまの指先で…蕩けひゃいそうれひゅぅ……。




~遊矢サイド~

俺は馬鹿なことをしてしまった…。こんなので何がエンタメデュエルだ…。
あのデュエルの後、俺は立ち尽くしてしまった。早く帰らなければならないという焦りが怒りとなって、あんなデュエルをして、俺はユイに血が出るほどの怪我を負わせてしまった。
俺が落ち込んでいると権現坂がやって来て、まだよく知らないユイのことを話してくれた。

自分の本当の名前が解らないこと
この街の数少ない生き残りであること
俺達を元の場所に帰すまで生活を助けてくれていること

俺はそんな人に酷いことを言ってしまったのか。後悔で心が押し潰されそうだ。一通り話してくれた後、権現坂はユイに会うべきだと言ってくれた。とあるユイの呟きの真意を知るべきだと。
俺はユイが休んでいる部屋の前に来た。一呼吸置いて部屋をノックする。
「ユイ。いや、ユイさん、失礼します」

ガチャ

「え！？」
「遊矢か。どうしたんだ？」
えっと…。どういう状況なんだろう…。確かあの人は遊月さん、だっけ？その人がユイさんに膝枕をしてて、なんか息が荒いような…。
「まだ言ってなかったな。遊月と俺は…その……恋人関係ってやつでな」
「あ、あー！そういうことですか」
「そうそう。そういうことだ」
そういう信頼関係って良いな。
「で、どうしたんだ？」
「あ、はい。先程、すいませんでした。俺、ユイさんに怪我させて…」
「ああ。気にするな。たぶん権現坂からも聴いてるだろ？俺が呟いたこと」
「はい。『俺(遊矢)を責めないでくれ』ってどういうことなんでしょうか？俺は酷いことをしたのに…」
「そうだな。どの辺りから話そうか…故郷を滅ぼされた人の気持ちについてか？」
俺が最初に言ったことだ。けど、ユイさんは権現坂の話だとこの街の生き残りなんだ。
「それは当たってると思う。消された所を見たことないし、気付いたら誰もいなかった訳だ。元々周りに消されて怒るほど大切な人もいないわけだし。だから特に悲しいって訳じゃなかったな」
「そう…だったんだ」
「それと倒れたのは遊矢のせいではない。今日はなんだか朝から頭が熱っぽくてな」
「じゃあ、なんでそんな状態でデュエルを…」
「…このくらい大丈夫かなぁっていう慢心かな？アクションデュエルがあそこまで激しい運動をするとは思わなかったし」
「そうだったんだ…」
「それと、俺からも訊いて良いか？」
「なんでしょうか？」
「遊矢はスッキリしたか？」
「それってどういう意味ですか？」
「遊矢は確かエンタメデュエルをしてるんだよな」
「はい」
だけど、さっきのは…。
「つまり楽しませるデュエルだよな？」
「俺が目指してるのはそれですけど…」
「お前は楽しかったか？」
「え？」
「自分がムスっとした顔でやってることを見て、相手が楽しいわけないよな」
「はい…」
「相手を楽しませるなら、自分も楽しまなきゃ」
「自分も…楽しむ？」
「そ。お前も今回のことで苛立ちが抜けて、自分がデュエルを楽しむ余裕、出来たんじゃないのか？」
「…！じゃあ、俺とのデュエルを受けたのは」
「ま、ガス抜きみたいなもんかな」
この人、ここまで考えてくれるんだ…。
「デュエルで笑顔にするなら自分も笑顔でなきゃな」
「はい！」
「そうだ。1つ言っておこう」
「え？」
「俺は体調不良で、初めてのアクションデュエルに不慣れだったし、アクションカードの引き運が悪かっただけだからな。次は必ず…俺が勝つ。元気になったらまたデュエルだ」
「はい！でも次も俺が勝つ！みんなを笑顔にしながら！」




~美羽サイド~

ユイ、大丈夫かな…。ちょっと様子見に行こう。
ユイの部屋から遊矢さんが出てきたところだった。何か吹っ切れたような良い表情で足取りが軽そうに去っていく。何があったんだろう。私もユイの部屋に入る。


「むー」
「美羽か」
「ユイ元気そうだね。とりあいず…良かった」
「あはは。まぁ、なんとかな」
「…遊月さんのおかげ？」
もう…。高熱で倒れたって聞いて心配したのに…。
「今度は美羽が拗ねちゃったか。…そろそろ遊月も限界だし、もういいぞ」
「は、ひゃい…」
ユイがそう言って遊月さんをベッドからおろす。
「やっぱり二人いっぺんは難しいもんだな。だけど改めて幸せって感じる。こんなにも愛されてるって感じるから。たまには二人にヤキモチ妬かせ合うのもいいかな」
「もう…ユイってば」
そんなことしなくてもずーっと好きなのに。私だけじゃない、遊月さんだってきっと同じ気持ちだ。
「そうだ。美羽、遊月」
「なに？」
「俺が全快になったら、その…あの部屋で……三人でどうだ？」
「もうユイのバカ…♪」
そんなこと、答えは決まってる。
私と遊月さんは顔を見合わせた後、ユイの顔を見て頷いた。