第103話　仲間を取り戻すために　作：ター坊

みんなが激戦を繰り広げているであろう頃、俺達が織田の伏兵を蹴散らしたところだった。
「ざっと、こんなもんか」
「このまま行けば信重が待つ最上階です」
「信重公を討って、戦いを終わらせます！」
全員が勇んで進もうとしたその時だった。

シュルシュルシュルシュル

「なんだ！？」
「これ…蔓？」
突如、廊下に植物の蔓が網目状に張られ、俺達の行く手を阻む。よく見れば棘がびっしり並び、触れれば怪我をしそうだ。
「これは一体…」
「この先には行かせないわ」
後ろから聞き慣れた声がする。
「アキ様…！これは一体どういうことですか？」
声の正体はアキだった。しかし、眼は虚ろで生気を感じない。まるでさっきの遊馬や遊星のようだ。
「アキ、どうしたんだ？そう言えばアポリアは？」
「黙りなさい！ユイ。やっぱり貴方は遊星の言う通り、この世界を作り上げた悪人だった…。よくも私を騙したわね！」
遊星に負けて洗脳状態になったのか？まともに話せる状態じゃないな。
「アキ、待って。ユイはそんな人じゃ…」
「美羽…。貴方もユイに騙されてはいけない。仲間として、貴女も救いたいの。だからこっちに来て」
「アキ…」
美羽は俯く。美羽の過去は本人から聴いたことがある。仲間と認めてくれた人間の言葉だ。心が揺らぐのも無理はない。
「……」
「美羽。こっちに来て」
「…ユイ」
「どうした？」
「私、アキに勝てるかな…」
「どうする気だ？」
「アキに勝って、元に戻したい。アキは…私のことを仲間だと言ってくれたから！またもう一度、私が知ってるアキと一緒に色んなことして笑いたいから！」
「美羽！何を言ってるの！？私は私よ！」
「違う！私が知ってるアキはもっと笑顔が素敵な人だった！今のアキはイヤなの！」
あまり強く感情を出さない美羽が叫んでいる。
「…よし！美羽」
俺はそっと美羽の背中を押す。初めて言葉を交わしたあの時よりも、強くなったな。
「ユイ…」
「アキのこと任せた！お前の声がアキに届くまで、とことんやってやれ！！」
「…うん！」
「美羽…。貴方はもうユイに毒されているのね…。だったら…容赦しないわ！」
二人はデュエルディスクを構え合う。
「俺達は信重を討たないとな。…柳生さん、この蔓、斬れるか？」
「造作もない！唸れ！鎮雪！」
柳生さんは鎮雪を発動させて持つと、一閃。蔓の網がスパスパと切断されていく。
「美羽、頑張れよ！」
「美羽様、御武運を！」
俺達はそう言って、柳生さんの後ろに付いて蔓の網の中を走った。



~有馬サイド~

ワシとクロノス殿が藤吉郎を突破して階段を上がると広間に着いた。そこにいたのは
「な！凌牙殿！Ⅳ殿！」
倒れ伏す御二方であった。
「どうしたノーネ！？何があったノーネ？」
「……ぅう」
「おぉ！Ⅳ殿！」
「うるさいぜ、じいさん」
「凌牙殿も！大事は！？」
「あぁ。ちょっと気を失ってただけだ…」
良かった。御無事であったか。
「だが、最悪の事態になったぜ…」
「あぁ。敵に…遊馬に皇の鍵を持ってかれちまった…」



~黒咲サイド~

俺と吹雪は蘭蔵を蹴散らし、急いで上の階へと向かう。階段を駆け上がり、廊下を走ってある部屋にたどり着いた。
「あれは、アポリアか？」
壁にもたれ掛かるように巨体を預けている。
「アポリアさん。大丈夫かい？」
「……む。その声は…天上院吹雪か」
「俺もいるぞ。一体何があった！」
「ワタシは十六夜アキと共に不動遊星に挑んだが、謎のアクセルシンクロモンスターに敗北してしまった…。ワタシはしばらく行動を起こせそうになく、十六夜アキは不動遊星に洗脳され、ユイ達を狙って上の…階へ……向かった」
「それは大変だ！急いで追い掛けないと…ってアレは！？」
吹雪の視線を追うと奥の通路に植物だろうか？その蔓が張り巡らされ、簡単に通れそうもない。
「十六夜アキのサイコ･デュエリストの力であろう。あれで後続を阻むようだ」
「うわ。棘がびっしり…。これじゃあ怪我しちゃうね」
俺も近づき蔓を調べる。
「っ！」
「黒咲君。大丈夫かい」
「…問題ない」
軽く触れただけなの指先から血が一筋垂れる。かと言ってライズ･ファルコンでは威力がありすぎて木製のこの城ごと破壊して仲間を傷付けてしまいかねない。くっ！どうすれば……。