92 平留香織の凍てつく日々　作：ギガプラント

平留「何が親か…！！」


平留「私はこれでターンエンドだ！」



天音「私のターン！！ドロー！」


平留「新たにエクシーズモンスターを呼び出そうが所詮はオーバーレイユニットすら持たない無力なモンスター。一角獣の敵ではない！」


天音「…確かに今のままでは難しいかもしれません。」


天音「ですが！けして無力なんかじゃありません！」


天音「とっておき！行きます！」


天音「私は水属性ランク３のアプリコット・レイニーでオーバーレイ！！」


平留「エクシーズモンスターでオーバーレイだと！？」


天音「このカードはオーバーレイユニットを持たない水属性・ランク３のエクシーズモンスターを素材としてエクシーズ召喚できる！」




天光より降り注げ！祝福の雫！純白の衣を纏う神霊よ、幻想の境界を破り現世に降り立て！


エクシーズ召喚！


現れよ！『白霧垢のディープフォッグス』！！　ランク４・ＡＴＫ２０００



真っ白な霧の中に立つ、白無垢を来た狐の妖怪

天音「白霧垢のディープフォッグスの効果発動！オーバーレイユニットを１つ使う事で、このカードの攻撃力を５００ポイントアップし！更に対象とした相手のカード１枚の効果を無効にする！」


天音「ミステリアス・ホワイトヴェール！」


妖狐の目が怪しく輝き、一角獣の周りを濃霧が包み込む。


平留「鬱陶しい！！氷山の一角獣の効果！相手がカードの効果を発動した時、オーバーレイユニットを１つ使う事で、このターンこのカードはそのカードの効果を受けない！」ＡＴＫ４０００→３０００


見えなくなるほどに深くなった霧が一瞬で消え去る。


天音「ですが攻撃力は上がります！」ＡＴＫ２０００→２５００


天音「更に！私は魔法カード『ブレイブ・レイン』を発動！」


天音「自分の墓地から攻撃力１０００以下の水属性モンスター１体をゲームから除外する事で、ターン終了時まで自分のモンスター１体の攻撃力はそのモンスターの攻撃力分アップする！」


天音「私はハーフ・スノーマンを除外！そしてディープフォッグスの攻撃力はその攻撃力分、８００ポイントアップします！」ＡＴＫ２５００→３３００


平留「くっ…女が！！」


天音「更に！除外したモンスターの攻撃力分だけ、自分のライフを回復する！」ＬＰ３４００→４２００


天音「行きます！バトルフェイズ！！白霧垢のディープフォッグスで氷山の一角獣に攻撃！！インブレイス・フォッグ！！」


平留「調子に乗るなよ女ぁぁぁ！！！氷山の一角獣の更なる効果！！」


天音「まだ効果が！？」


平留「このカードが破壊される時、代わりにオーバーレイユニットを１つ取り除く事ができる！！」ＬＰ４０００→３７００


天音「っ！ですがオーバーレイユニットが減った事で更に攻撃力は下がります。」ＡＴＫ３０００→２０００


天音「私は…カードを１枚伏せてターン終了です…！」ＡＴＫ３３００→２５００


平留「……んなんだ、どこまで私を邪魔すれば気が済むんだ。」


天音「…平留さん？」


平留「貴様等女はぁ！！どこまで私を蝕むんだあああ！！！」


天音（様子がおかしい……先程からとても冷静には見えません。）


天音（私に邪魔されれば計画に支障が出るから……というだけなのでしょうか。それとも…）


天音「平留さん教えて下さい…何故そこまで女性が嫌いなのですか？」


平留「はっ！！貴様等が卑しく薄汚い生物だからに決まっている！それ以外の理由など無い！！」


平留「貴様等女など……！！」






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私がとある劇団に入ったのは、家族が割れてから数年後の事だった。

当然ながら父に付いて行った私は、母の本性を知って以来人と関わりを持つのが怖くなっていた。

どんどんと暗くなっていく私を見かねて、父に勧められたのがこの劇団である。


勿論最初はあまり乗り気ではなかったが、幸いにも私には演技の才があった。

自分ではない誰かになりきっている間は、あの忌まわしい過去の出来事や母親の事をきれいさっぱり忘れることができたのである。

他に取り立ててやる事もなかった私は劇団で花を開かせ、凄まじい勢いで大きな役を貰えるようになった。


「あの人が一緒じゃないなら行かない！」


「ねぇ彼は何処？この胸の想いは何処に飛ばせばいいの？」


悲恋の物語のヒロイン。……そんな悲しい役柄ですら現実の自分より輝かしく思えた。

自分が自分以外の何かになる事自体が、私にとっては安らぎだったから。



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（舞台上）


星野「よし、すっかり形になったな。」


香織「こんな遅くまでお付き合い頂いてありがとうございます。」


星野「なに、相手役の僕が居なければ稽古にならないからね。」


星野「それに君が頑張っているのに、僕が一人帰る訳にはいかないさ。その熱意、見習わせてもらうよ。」


香織「いえ、主役の私が頑張らなければ皆さんに申し訳が立ちませんので。」


星野「はは、君ならそういうと思ったよ。謙虚で宜しい。」


香織「…あの、星野さん。この次のダンスシーンも付き合って頂いて宜しいでしょうか？」


星野「あぁ勿論、今日はとことん付き合おうじゃないか。但し…」


星野「無理は禁物。少し休憩してからね。」


香織「はい…！」


入った理由はどうあれ、舞台女優としての私はとても充実していた。

母親に邪険に扱われていた私にとって、大勢の観客を感動させられるという事は、達成感と共に大きな喜びを与えてくれた。

主役の座を掴んだあの時は、私の人生で一番輝かしかった瞬間だと思う。



そして………





香織「あっ…！」




その瞬間は花火のように、一瞬だけ輝いて消えた。





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団員Ａ「ダンスの稽古中に怪我をするなんて信じられません！」


団員Ｂ「しかも小道具の靴を壊すだなんて…貴女ね、主役の自覚あるのかしら？」


香織「すいません……あの、ですが誰かが私の靴に…」
団員Ａ「言い訳しない！！小道具をしっかり確認しなかった貴女の落ち度でしょう！」


星野さんとのダンスレッスン中に転倒した私は深刻な怪我を負ってしまった。
転倒だけならまだ大した怪我にはならなかったかもしれないが、転んだ弾みに舞台上から落ちてしまったのだ。
精々一メートル程度の段差だが、不意な落下で怪我をさせるには十分すぎる高さだ。

事が起きて直ぐに気づいたのだが、実は予め靴のヒールに人為的な傷がつけられており非常に折れやすくなっていた。
つまり私に対する誰かからの嫌がらせ。
だがそれに気づいたところで時既に遅し…。


私は本番で踊る事はできなくなり、主役には大急ぎで別の女優があてがわれた。



その責任も全て私が背負う事になる。



「ちょっと主役になったからって調子に乗っているからそうなるのよ。ｸｽｸｽ」
「あんな馬鹿みたいに稽古しなければ怪我なんてしなかったのではなくって？」
「ねぇ知ってる？星野様ずーっとダンス付き合わされてたんですって！可哀想にねぇ。」
「星野様にお怪我が無かったのは不幸中の幸いよねぇ。あ～んな新米と違ってあのお方は代わりが利かないから。」
「大体あの娘、先輩への態度がなっていないのよ。罰があたったのね。ｵﾎﾎﾎ」



正直言って劇団内での私の評価は宜しくはなかった。

才能や実力を認められ主役を勝ち取る事ができた訳だが、当然それを快く思わない団員は居る。
歴が浅いうちに一気にのし上がった私のような者に対しては特に。


主役交代で本番までの時間が一気に無くなった今、犯人探しなど行われる筈もなく、ヒールの件は完全に有耶無耶になってしまった。


犯人は結局分かっていない。

だがもうそんな事はどうだっていい。

あの時私に汚らしく醜い嫉妬をぶつけてきたあの女性団員全員が、私の敵であることに変わりはないから。



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平留「私のターン！ドロー！」


平留「私は『クリスタルアイス・ナイト』を召喚！」星３・１４００
水晶のように透き通った氷の身体を持った魔導兵士。


平留「クリスタルアイス・ナイトの効果発動！このカードをエクシーズモンスター１体のオーバーレイユニットにする！」


天音「オーバーレイユニットを補充する効果！？」


平留「これで氷山の一角獣の攻撃力は１０００ポイントアップ！」ＡＴＫ２０００→３０００


平留「忌々しい女狐め！消え去れ！私は氷山の一角獣で白霧垢のディープフォッグスを攻撃！！」


天音「っ！手札の『パラソルジャー』の効果発動！」


天音「このカードより攻撃力が高いモンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から特殊召喚する！」星４・ＡＴＫ１４００


天音「更に！その攻撃対象をこのカードに変更する事ができる！」


平留「何が来ようと同じだ！蹴散らせ！！」


天音「くうう！！っですが！パラソルジャーはこの戦闘によって破壊されません！」ＬＰ４２００→２６００


天音「そしてレベル４のモンスターが特殊召喚された事により『祝福のエンジェル・ラダー』の効果発動です！」


天音「このカードにラダーカウンターを１つ乗せ、デッキから１枚ドロー！」


平留「いつまでも足掻きを……エンドフェイズ、氷山の一角獣のオーバーレイユニットを１つ取り除き、デッキの上から２枚をオーバーレイユニットにする。」ＡＴＫ３０００→４０００


平留「ターンエンド…。」


天音「………」



天音（この人はどうしてこれほどの憎悪を…。）



天音「私のターンです！ドロー。」


平留「女が女が女が女が女が………」


天音（平留さん…どうしてでしょう、苦しんでいるような…。）


平留「どうした女？潔くサレンダーする気になったか！！ははは！！」


天音（…いえ、今はデュエルに集中しないと。どんな理由があれ私は負けるわけにはいきません！）


天音「私は魔法カード『星呼びの天儀台（セレスティアル・セクスタント）』を発動！」


天音「手札または自分フィールドからレベル６モンスター１体をデッキの一番下に戻す事で、デッキから２枚ドローする！」


天音「ドロー！！」


平留「ﾁｯ！！無駄な事を！！氷山の一角獣は無敵だ！貴様等に超えられる訳がない！！」


天音「いえ……このターンで超えて見せます！！」


平留「何を！？」


天音「私は罠カード！『エクシーズ・レシピエント』を発動！」


天音「墓地からエクシーズモンスターを２体まで選び、自分のエクシーズモンスターのオーバーレイユニットとする！」


平留「何ィ！？」


天音「こちらも補充させてもらいます！墓地の『アプリコット・レイニー』と『プラム・レイニー』をディープフォッグスのオーバーレイユニットに！！」


天音「そして勿論！そのまま効果発動！攻撃力を５００ポイントアップし、氷山の一角獣の効果を無効化します！」ＡＴＫ２５００→３０００


平留「女風情がぁ！！氷山の一角獣の効果発動！相手がカードの効果を発動した時、オーバーレイユニットを１つ使う事で、このターンこのカードはそのカードの効果を受けない！」ＡＴＫ４０００→３０００


天音「更にもう一度！ミステリアス・ホワイトヴェール！」ＡＴＫ３０００→３５００


平留「このターンディープフォッグスの効果は受けない！よって無効化はされない！」


天音「ですが攻撃力は上がりました！更に私は装備魔法『リフレイン・ボウ』をディープフォッグスに装備！」


天音「これで準備ＯＫです！バトルフェイズ！」


天音「白霧垢のディープフォッグスで氷山の一角獣に攻撃！！」


天音「フォッグ・ペネトレーション！！」


ディープフォッグスが丁寧な動作で大きく弓を射る。



平留「っ！！オーバーレイユニットを取り除き破壊は無効！！」ＡＴＫ３０００→２０００　ＬＰ３７００→３２００


天音「逃がしません！リフレイン・ボウの効果！！」


天音「装備モンスターの攻撃によって相手モンスターが破壊されなかった時、そのモンスターはもう１度だけ攻撃できる！！」


平留「なんだと！？」


天音「もう一度白霧垢のディープフォッグスで氷山の一角獣を攻撃！！」


平留「馬鹿なっ！ぐうううっ！！」ＬＰ３２００→１７００


平留「オーバーレイユニットを取り除き……破壊を無効にする…！」ＡＴＫ２０００→１０００


天音「ですがもう攻撃力は１０００！パラソルジャーで攻撃！！」


平留「がはっ！」ＬＰ１６００→１２００　ＡＴＫ１０００→０

素材を失った一角獣は身体のほぼ全てがクレヴァスに沈んでおり、かろうじて角の先端が突き出ている。


天音（オーバーレイユニットが無くなれば、毎ターンの素材補充もできない筈…ひとまずこれで安心でしょうか。）


天音「これで実質的に氷山の一角獣は無力化しました！私はカードを１枚伏せてターン終了です。」





平留「…………」





平留「…なんでいつも邪魔ばかりするんだ。」


平留「どうしていつもいつも私を苦しめる！！！」


平留「劣等生物が…羽虫が……喋る害悪が………！！」



平留「貴様等女は一人残らずこの地から消してやる！！！！」


天音「何故ですか！！どうして女性ばかり目の敵にするんですか！！！」


天音「それに…」





天音「貴女自身も『女性』じゃないですか！！！！」






平留「！！」


プツンと糸が切れたように平留の動きが止まる。



天音「…平留さん？」





平留「…………」




天音（まさか……この人がこんなにも苦しそうなのって……。）


天音（もしかして……。）





終









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（次回予告）


夏武斗「クリスマスってワクワクするよな！」


夏武斗「ツリー飾って美味い物食って、あと忘れちゃいけないクリスマスプレゼント！楽しい事だらけだぜ！」


夏武斗「毎年近づいてくるだけで身体中がうずうずして落ち着かなくなっちまうんだよなぁ！な？天姉？」


天姉「えっ？あ、はいそうですね……」


夏武斗「次回！『絶望クリスマス』」


平留「私も……女………。」
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・『白霧垢のディープフォッグス』は実はずーっと昔のオリカコンテスト（第４回）の参加作品だったりします。