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HOME > 遊戯王SS一覧 > 78 馬鹿執事と迷子のお嬢様

78 馬鹿執事と迷子のお嬢様 作:ギガプラント


(上波モノレール・B駅前広場)


初「光輝兄、今日はありがとう。」


光輝「大したことはしていないよ。それより、良いデッキが作れるといいね。」


初「うーん、買ったカード、全然使った事のないものばかりだからなぁ。」


光輝「先ずは色々なカードに触れてみると良いよ。そうしているうちに自分の得意な戦術が見えてくるものさ。」


初「僕の得意な戦術かぁ…。」


光輝「全く違ったデッキを試してみたいならセンターに貸し出しデッキもあるからね。デッキが変わるとデュエル中に見えてくるものも一気に変わるよ。」


初「うん…!」


光輝「ジュニア大会。良い結果を残せるといいね。」


初「僕なんかが参加してどこまで行けるか分からないけど、精一杯頑張るよ。」


光輝「頑張るのはいいけどね。」


初「?」


光輝「僕『なんか』なんて言っちゃ駄目さ。まずは自信を持って取り組む事だよ。」


初「光輝兄……うん!分かった!」






光輝「おや……?」


初「どうかしたの?」


光輝「あそこにいる人………。」












ヴァルト(これは困りましたね…。)




ヴァルト(次の作戦の為の下見に来ていたが、まさかアリス様とはぐれてしまうとは…。)


ヴァルト(セキュリティ等の警戒が強くなっているのでラーナの力は緊急時以外使用するなとの事ですが……。)


ヴァルト(数名とはいえ私達の顔を見ている者に遭遇する可能性がある以上、早めに合流しないと…。)


ヴァルト「しかし……何処へ行ってしまわれたのか…。」


ヴァルト(ここはジェネシック本社からもあまり離れていない。力を使うのは本当に最後の手段…。)




光輝「あの、誰か探してるんですか?」


ヴァルト「……えぇ、まぁ。」


光輝「あぁすみません。なんとなく慌てているように見えたので。」


ヴァルト「連れのお嬢さ…」


ヴァルト(いえ、念には念を入れておきましょう。)


ヴァルト「妹とはぐれてしまいまして。」


ヴァルト「ウェーブのかかった長い金髪の女の子を見ませんでしたか?歳はそちらの彼とあまり変わらないくらいかと思います。」



初の方を見やるヴァルト。



光輝「ウェーブの長い金髪……僕は見ていませんね。初君は?」


初「…僕も見てないと思う。」


ヴァルト「そうですか…。」


光輝「すいません。力になれなくて。」


光輝「でも、僕等今あっちから歩いて来たんです。そんな娘がいたら多分目立つだろうし、あっちの方にはいないのかも。」


ヴァルト「ご協力ありがとうございます。…では私は。」


光輝「あの、宜しければ一緒に探しましょうか。」


ヴァルト「宜しいのですか…?」


ヴァルト(無暗に人と接触するのは避けたいところですが……この状況ならやむを得ないか。頼れるものには頼っておきましょう。)


光輝「初君は先にセンターに戻っていいよ。友達を待たせているんだろう?」


初「うん。」


光輝「僕もその妹さんを見つけたらすぐに向かうよ。モノレールは…一人で乗れるよね?」


初「大丈夫だよ。もう何度も乗ってるから。」


光輝「ははは。もうあまり子ども扱いもできないな。」


ヴァルト「…本当に宜しいのですか?ご予定があるようなら…」


光輝「気にしないでください。それにここら辺は人も多いし、女の子一人にしておくのは心配ですから。」


ヴァルト「ありがとうございます。恩に着ます。」



初「それじゃ光輝兄、僕はセンターに行ってるね。」


光輝「あぁ、健闘を祈ってるよ!」



駅へと去っていく初。





ヴァルト「此処周辺に居ないということは…」


ヴァルト「向こうに進んでしまわれたのか…。」


光輝(しま『われた』…?)


光輝「あっちは大通りの方だから人も多いですね。」


光輝「手分けして探しましょう。妹さんの名前は?」


ヴァルト「名前は……アリスといいます。宜しくお願いします。」


ヴァルト「それと申し遅れました。私はヴァルトと申します。」


光輝「あ、そういえば……僕は上原光輝です。僕はそっちの歩道沿いを探します。時間が経ったら一度そこの時計の下に戻るので。」


ヴァルト「承知しました。私はあちらから…」








--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---



(上波町・大通り)



奏「ふぅ~思ったより大量に買っちゃったわねぇ。」


奏(ウィンドウショッピングなんていつぶりかしら?ここ最近はアストベリー杯でとてもそんな余裕なかったからなぁ。)


奏(大会はあんなことになっちゃったけどね……はぁ。)


奏「まぁあの竜巻で怪我しなかっただけマシかしらね。」


奏「さぁて、もう一軒くらい廻っちゃおうかしら。明日からジュニア大会の準備も本格的になって………」
アリス「あああ!!!ムカつく!!」


奏「ん……?」



ベンチに座って不貞腐れているアリス。
音を立てながら手にした紙パックのリンゴジュースを飲み干す。


アリス「ふんっ!!」


ベンチの直ぐ隣に設置してある屑カゴに空になったパックを投げ入れる。









…が、微妙に軌道がずれたそれは縁にぶつかり、カゴの外側に沿って落っこちる。





アリス「ったく、何処ほっつき歩いてんのよあの馬鹿は!!あたしを置いてどっか行くなんて信じらんない!!」


アリス「暑くて溶けちゃうわよもう!」


ベンチから立ち上がり歩き出そうとする。



奏「こーら。」


その行く手は奏の身体で阻まれる。



奏「ゴミはキチンとゴミ箱に。ご両親にそう教わらなかった?」


アリス「はぁ?誰よアンタ?」


奏「通りすがりのお姉さんよ。それよりもほらアレ。」


アリス「五月蠅いわね、急に突っかかってこないでくれる!?」


奏「突っかかれるような事をするからそうなるのよ。貴女がちゃんとゴミを捨てれば何も言わないわよ。」


アリス「今すっごくイライラしてんの!早くそこどきなさいよ!!」


奏「イライラしてるなら猶更早く言う事聞いた方がいいんじゃないの?」


アリス「あぁ~っもう!!!」


ズカズカと歩き、再度拾った紙パックを思いきり屑カゴに叩き入れる。



アリス「これでいいんでしょこれで!!!」


奏「宜しい。次からは言われる前からちゃんと捨てる事。」


アリス「一々説教しないで!!どっかいけバーカバーカ!!」


奏とは反対方向に歩き去る。








奏「どっかいけって……自分から離れてるじゃない。」







歩き出すアリスの横に並び立つ奏。


奏「ねぇ?貴女一人?」


アリス「何よ!どっかいけって言ったでしょ!?まだなんかあんの!?」


奏「別に?ただこの大通りに貴女みたいな小さい女の子が一人でいるのは危ないなぁって思っただけ。」


アリス「余計なお世話よバーカ!!!」


奏「わぁ…!貴女凄く綺麗な髪の毛ねぇ。ウェーブ掛かってて金色で…まるでお人形さんみたいじゃない。」


奏「こんなとこ一人で歩いてたら、悪い大人に誘拐されちゃうかもよ?ふふ。」


アリス「アンタねえ!!何なのよさっきから!」


奏「だから訊いてるじゃない。貴女一人って?誰かと一緒だったんじゃないの?」


アリス「見ての通りあたしは一人よ!!なんでそんなこと訊いてくんのよ!どうでもいいじゃない!!」


奏「さっき『あたしを置いてどっか行くなんて信じらんない!』とか言ってなかった?」


アリス「なっ…!!盗み聞きとか信じらんない!!悪趣味にも程があるっつーの!!!」


奏「あんなに大きな声で言っておいて盗み聞きも何もないでしょうに…。」



奏「迷子になったの?」


アリス「はぁ!!?あの馬鹿執事が勝手にどっか行っただけよ!迷子じゃないし!!」


奏「立派に迷子じゃない……ったくもう。」


奏「一緒に探してあげるわよ。お父さん?お母さん?……ん?でも執事って事は、お兄さんかしら。」


アリス「馬鹿執事は馬鹿執事よ!ったく、大きなお世話だし!別に探さなくていいわよ!!」


奏「お兄さんね。あ、そうそう貴女の名前は?」


アリス「だから探さなくていいって言ってんでしょ!!!アンタ人の話聞いてんの!?」


奏「貴女にそれを言われたくはないわね…。」


アリス「あのね!他人に気安く名前なんか教えるわけないでしょ!それこそ常識だっつーの!!」


奏「ふむ、それもそうね。私の名前は対嶋奏。……これでもう他人じゃないわね。」


アリス「馬っ鹿じゃないの。一生屁理屈言ってなさいバーカ。」


奏「えーと、じゃあ怒りん坊のオコリーナちゃんで。ねぇねぇオコリーナちゃん?」


アリス「ア・リ・ス・よ!!!!次そのヘンテコな名前で呼んだらぶっ飛ばすわよ!!!」


奏「ったくもう初めからそう言いなさいっての。私荷物駅に預けてくるから此処で待ってなさい。」


アリス「私に命令しないで。なんで私がアンタの言う事……」
奏「良い子にしてたらジュース買ってあげるから。」





アリス「…ふん。勝手にすればいーじゃない。」





奏(世話が焼けるわねホント…。)












奏「ったく、どーも金髪のガキンチョに縁があるみたいね私…。」














--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---





(B駅前広場・時計の下)


約束通り時計の下で待つ光輝を見つけ、走り寄ってくるヴァルト。



光輝「あ、ヴァルトさん!」


ヴァルト「ハァ……アリスさm…妹は?」


光輝「すみません。それらしい女の子は何処にも…。」


ヴァルト「そ、うですか…ふぅ。」








ヴァルト(私は……また繰り返すのか…。)


ヴァルト(痛い……あの時と同じ、胸の奥が張り裂けるようなこの言いようの無い気持ちの悪さ。)


ヴァルト(これもまた、私への裁きだというのでしょうか。)


ヴァルト「………」







光輝「ヴァルトさん……?」


ヴァルト「…すみません。少しボーっとしていました。」


ヴァルト「もう一度探します。」


光輝「少し休んでいて下さい。走りっぱなしでしょう。」


ヴァルト「いえ、そういうわけにはいきません…。」




ヴァルト「…私の罪は、こんな苦しみ程度では償いきれないから。」













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2本目のリンゴジュースをストローからちうちうと吸うアリス。


アリス「ふん……あたしは頼んでないんだからね。」


奏「素直にありがとうも言えないの?まぁ予想はしてたけど。」


アリス「…アンタおせっかいって言われるでしょ。わざわざこんなことまでして意味分かんない。言っとくけどあの馬鹿を見つけたって何もあげないんだからね。」


奏「そんな捻くれた事考えてないわよ。困ってる人を見たら助けましょうって言われてきただけ。」


アリス「うわっ何それ?変な宗教?気持ち悪いっつーの!!」


奏「そんなんじゃない、私のお母さんよ!…っとに可愛げが無いわね貴女。」


アリス「どうせあたしは親の言う事なんでも聞く良い子じゃないわよ!あんな奴等知ったこっちゃないし!!」


奏「やれやれ……親が聞いたら泣くわよ?」


アリス「うっさい!!いいから探しなさいよ!!」







アリス(ああああ!!!腹立つ!気持ち悪い!!!)


アリス(ホントになんなのよコイツ!!何も知らずに好き勝手!!)


アリス(アイツらが泣いたりするわけないじゃない。)


アリス(だって私は…………)










ふと、立ち止まったアリスに気づき後ろから声をかける奏。



奏「ん?アリスちゃん?どうしたの?」


アリス「っ!な、なんでもないわよ!!ほらいいからあっちの方……」








光輝「あっ!!」






二人のところまでかけてくる光輝。




奏「えっ?光輝?」


光輝「奏もこっちに来ていたのか。それよりもその娘…!!」


奏「あぁ、迷子みたいなんだけど、さっきあっちのベンチで……」




ヴァルト「アリス様!!!」






アリス「あっ!!!ヴァルト!!何やってたのよ!!」


奏「えっ!?そっか…あの人がこの子のお兄さん…。」


光輝「やっぱり。その子だったんだ。」


奏「良かった。もう結構探し回ってたから。」


光輝「こっちもだよ。彼ずーっと走りっぱな…」
アリス「ふざっけんじゃねーっつーの!!!」


ヴァルト「…申し訳ございません。」


アリス「アンタね、あたしをこんな暑い日に一人放っておいたのよ?自分が何したか分かってんのかって言ってんのよ!!!」


ヴァルト「大変に申し訳ありませんでした。今回の所業、全て私の不徳の致すところです…。」


アリス「口で謝りゃ済む問題だと思ってんの!?ほら土下座しなさいよ土下座!!」


奏「!?ちょ、ちょっとアリs」
アリス「気安く呼ばないで!!!」


ヴァルト「承知致しました。」


周りの目を気にする事もなく堂々とその場で土下座を始める。


奏「なっ!!?」



アリス「この無能馬鹿執事が!!!」


アスファルトに額をつけたヴァルトの後頭部に躊躇なく足を落とし込む。



光輝「こ、こらっ!!お兄さんになんて事を…!!」


アリス「お兄さん!!誰がこんな奴の妹よ!!」


アリス「さてはアンタがそんな事言ったのね!?信じらんない!!最っ低!!!!」


踏みつけた足をぐりぐりと動かす。



奏「ちょっと!!!いい加減にしなさい!!貴女一体何を…」



ヴァルト「お止めください。」


光輝「えっ……?」


地面に顔を押し付けられたままヴァルトが口を動かす。



ヴァルト「アリス様を探してくださった事には感謝致します。ですがここから先はもう私の問題、余計な口出しは無用です。」


奏「余計なって…!ちょっとアリス!!」
アリス「誰も喋る許可なんてだしてないでしょおが!!!」


全力で頭を蹴り飛ばす。



ヴァルト「………………」




アリス「あぁ気分悪い!!!ほら馬鹿執事、早く行くわよいつまで寝てんの!!!」


ヴァルト「っ…!承知しました。」



速やかに再びその場に立つと、アリスの横に並びそのまま二人で歩き去っていく。









目の前の壮絶な光景に呆気に取られ、光輝と奏はそれ以上声をかけることができなかった。



















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(次回予告)


天音「夏武斗君…大丈夫でしょうか…。」


仁「あとは奴次第だ…俺はもう気にかけるつもりは無い。」


天音「元気な姿を見せてくれるといいんですが…。」


仁「いつだって無駄に元気だろう。少しくらい落ち着いてほしいものだ。」


天音「きっとまた凄いデュエルをしてくれますよね。」


仁「…この俺を負かすくらいだ。下手なデュエルをされては困る。」


天音「………」


仁「…なんだ?」


天音「次回!『アブソーバーの脅威』!」


天音(仁君…やっぱり凄く気にかけてますよね。)
--- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- --- ---
・諸事情により急遽1話差し込みました。それに伴い前回の次回予告が変更されております。
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ター坊
ヴァルトとアリスの掛け合いは中々好きですね。光輝達と出会って実は何かの改心フラグだったり…?
さて、次回こそは夏武斗くん、復活…とはいきそうもないタイトル。また激戦が始まる? (2018-02-24 07:45)
ギガプラント
コメントありがとうございます。
この掛け合いを入れたくて追加した話だったりします。夏武斗君の復活はもう少しだけ先になりますかね…。 (2018-02-24 08:19)
tres(トレス)
アグレッシブなお嬢様ですこと…しかしリンゴジュース1つでおとなしくなるかもしれない。
夏武斗君、早く元気というか本調子に戻って欲しいですね。 (2018-02-24 16:29)
ギガプラント
コメントありがとうございます。
リンゴジュースは強いのです。甘いものは女の子の味方なのです。
復活の日は近い……筈ですがあと5話くらいは夏武斗君のデュエルの予定は無かったりする…。 (2018-02-24 17:07)

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70 98 最後の攻撃 685 2 2019-05-02 -
95 99 託した1ターン 679 4 2019-05-21 -
89 100 覚醒の不死蝶 1020 4 2019-05-28 -

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