第106話　戦う理由　作：ター坊

階段を登りきると巨大な鉄製の扉が俺達を迎えた。
「この先に信重が…？」
「ええ。ここが最上階…魔天閣です」
「信重公との決着…ここでつけます！」
「では、開けますぞ」
柳生さんが扉を開けた。部屋の中はかなり広そうだが暗闇に包まれよく解らない。しかし奥からは冷たい風が僅かに流れてくるのを感じた。俺達は意を決して部屋に入った。

ガッシャン！

「む！？」
「閉じ込められた！？」
扉が急に閉まって視界が黒く塗り潰される。そこからワンテンポ経って部屋が徐々に明るくなった。部屋のサイドの燭台に火が次々と着き、闇を照らし出していく。　
「これは…」
火が照らし出した部屋は日本の城と言うよりは西洋の玉座の間といった趣で、天井はとてつもなく高く、赤い絨毯が向こう側まで伸びていた。そしてその先には玉座がありそこに
「あれが…信重？」
玉座に座る人―信重がいた。
「…来たか。遊月姫」
信重はそう言うと立ち上がり、こちらに近寄る。その言葉が、その足音が広い部屋に反響して重く、不気味に聞こえる。
「遊月姫…。この信重のモノとなる気になったか」
「いいえ！私は貴方様を討つため、ここに参りました、信重公！」
「…フッフッフ。ハッハッハ。ハァッハッハハ！！」
信重の狂った笑い声が部屋中に響き渡る。
「徳川の者はうつけと言うべきか。滅ぼされてなおも信重に逆らうか」
「おのれえぇぇ！！」
「柳生殿！落ち着いて下さい！」
「影政よ。お主が煽動したのか。まぁお主の働きで遊月姫がこうして簡単に来たわけであるがな」
「貴方の所業もここまでです！己の野望のため、散った義父上･結城光康(ゆうき みつやす)の仇、ここで取ります！」
「明智。お前が謀反を起こした理由って…」
「ユイ殿。今まで明かさず、申し訳なかった」
「いやそこは別に良いけど…」
「拙者の義父上、光康様は戦場をさ迷っていた拙者を養子として迎え、一人前の決闘者として育てて下さった…。されどある日、信重の侵攻に遭い、若輩者の拙者は遠い村に逃がされた…。そして後に知った！信重の狙いは五行の巫女の末裔を抹殺し、力を己の物にしようということを！そんなことのために義父上は…！！」
「…光康。よく覚えておる。初めて討った五行の巫女の末裔の血、美味であったぞ。確か…金であったな」
「くっ！外道め！信重！もはや貴様は人の子にあらず。もののけの類いとして討ち滅ぼす！貴様を討つために名を変え、仇に従う屈辱の日々、今日を以て終いにする！」
「よく吠えよる。この信重への謀反、あの世で悔いよ」
…明智は育ててくれた恩人のために、遊月や柳生さんは野望を止めるため、故郷や徳川のためにここまでやって来たってことか。
「…時に異国の者よ」
ん？俺のことか？
「なんだ」
「お主は何のために戦う？」
「…え？」
「お主に余と徳川の戦は関係なかろう？」
「……確かに。遊月達の世界は見たことないし、愛着も何もない。それにあんたに楯突くのは賢いとは言えない選択肢だろう」
「……ユイ様…」
「だけど、遊月達は今日まで同じものを食べて、一緒に笑い合った仲間だ。そんな仲間が困っているのに、助けず見て見ぬフリなんてできないな」
「ユイ殿！」
「俺は仲間のために戦う…。それがお前を倒す理由だ！」
「くだらん馴れ合いで余に挑むと言うか」
「ああ。仲間だから仲間を助ける。たったそれだけの簡単なことだ！」
俺はデュエルディスクを構える。後に続くように遊月も柳生さんも明智も決闘籠手を展開する。
「信重公、あなた様に日の本を…世界を支配させたりなんてさせません！」
「討たれた家雅公、そして苦しんだ魅河の民の為に！この柳生八兵衛が斬る！」
「積年の義父上の仇、ここで取る！天におわす義父上よ！この影政に力を！」
「行くぞ！みんな！」　
「フンッ。是非もなし！余興として血祭りに挙げてくれる！」



こうして遊月達、戦国時代の世界を賭けた決戦の火蓋が切って落とされた。