第３０話：恵の雨　作：チュウ

　完璧に負けた。司の罠戦術に俺は成す術がなかった……

　「ユウキ！大丈夫ですか！」

　「ごめん、フレア……俺……」

　「いいんです！ユウキが無事なら……」

　フレアはそう言って傍で俺を支えてくれた。だが、負けは負けだ。エルフの森を守れなかったって事だよな……

　「エルミアさん、ごめん……森を守れなくて……」

　「誰も貴方を責めるなんてできないですよ……」

　住む場所を燃やされて辛い筈なのに、負けた俺に当たろうともしない……その優しさに救われたような気がする一方で逆に辛くなっている自分がいた。

　「ざまーみろぉ！！デュエルでは負けたが、戦いには勝ったって事だ！なぁ司！あれ？おいどこ行くんだよ！アイツ等もカードに封印すればいいだろ？」

　カードに封印？

　「……俺達の目的は達成している。そんな命令は受けてないからする必要もないだろう」

　司の言っている目的ってこのエルフの森を燃やす事なのか？

　「え～俺達の手柄とかにならねーか？折角エルフ達の大半をカードに封印したってのによ。追加の手柄を稼いでおきたいじゃんか」

　エルフを封印！？

　「おい！司！どういう事だ！？エルフ族の人達をどうしたんだ！」

　「俺が今言った事が聞こえなかったのかぁ？カードに封印したんだよ！まぁ、全員とはいかなかったがな」

　なっ！？

　「何のためにそんな非道な事を！」

　フレアの言った事は最もだ。いったいどんな理由でそんな事を……

　「何だっけ？確かモディファーはエルフの魔力を使って何かをするとか言ってたか？」

　「大圓寺、余計な事をベラベラ話すな！」

　「わ、わりぃ」

　何かってなんだよ……というか、どんな理由であれそんな事していい理由にならないだろ！

　「クロリム！何故そのような事に手を貸すのですか！？」

　「うぅ……色々あってかくかくしかじかなの！」

　「ちゃんと説明しなさい！」

　「ツカサに怒られるからダメなの！」

　シャイニーの問いに対してクロリムは曖昧な返事しかしない……これじゃ何も分からないじゃないか。

　「なら、森を燃やす必要があったのですか！？」

　「エルフを焙り出すためだよ。半分は俺の好奇心みたいなもんだけどな！」

　エルミアさんの言う事は俺もそう感じていた。だが、それに対して大圓寺正義の返答は流石に許せない。好奇心で森を焼くって……確かに俺とのデュエルでも犯罪を犯したい欲求みたいなのがある感じだったが、これじゃ本物の犯罪者と変わらないじゃないか。

　「……もういいだろ。行くぞ大圓寺」

　「何処に行くんだ司……」

　俺は司に聞いた。

　「……青の国だ」

　そう一言だけ告げるとまた歩き出していってしまった。

　「おーい！待てよ司ぁ！置いてくなよー……って、なんだ？」

　大圓寺正義が大きな声で司を呼んでいると、突如雨が大量に降り始めた。

　「おいおいおい！？何だよこの雨！？こんなに降ったら火が消えるぞ！」

　「恵みの雨ですね……でもどうして？」

　フレアの言う通り、本当に恵みだよ。これなら火も消えるかもしれない。

　「……この雨、少し魔力を感じますね。誰かが人為的に降らせているのかもしれません」

　「本当かよシャイニー。だが、誰かって……」

　この場にいる全員がそんな素振りをしているようには見えない。

　「……さっさとしろ大圓寺。帰還する」

　「おい、いいのかよ！火が消えちまうぞ！」

　「目的をもう忘れたのか？エルフ族を捕まえる事で火をつける事じゃないぞ」

　「そ、そうだったな......わりぃわりぃ！火つけるので忘れてた！」

　「はぁ……行くぞ」

　司と大圓寺正義は森の奥へ姿を消した。

　「みんなを探さないと……まだ生き残りがいるかも」

　エルミアさんがおぼつかない足取りで立ち上がり、歩こうとしていた。

　「手伝います」

　「俺も手伝うぜ」

　俺はフレアの後に自分もと立ち上がった。

　「ありがとうございます……」

　「そういえば、メイさんと騎士さんは何処に……」

　「助けられたエルフの方々を私達が乗って来た馬車近くまで避難させるために一緒に行きました」

　　成程、だからいなかったのか。

　「とにかく探さないとな……」

　俺はエルフの家の中を探そうと雨で鎮火した家の方へ歩いて行った。