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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第42話:交錯する思惑

第42話:交錯する思惑 作:チュウ

 まさかこんな事になるとはな……
 事の顛末をフレアに報告した俺とエルミアは、フレアと共にロッソ領主の招待のもと城へと来ていた。ロッソ領主直々の招待ともあって、フレアの衣装はいつもの綺麗なドレスの様なものに戻っていた。変装はもう必要ないもんな。

 「このような展開は流石に予想していませんでしたが、ロッソ領主の思惑を聞けるいい機会に巡り合えたと思いましょう」

 フレアの好意的な意見には賛成だ。俺が見てもロッソ領主は横柄な貴族様ってだけの人じゃない様に見える……真意を確かめるにはいい機会なのかもしれないな。

 「だけどホントごめんな、もっと上手く立ち回れたら……」

 顔バレしていたのには驚いたが、それにしたってあの場では目立ち過ぎたと思っている。まさか司に再会できるとは全く思ってなかったから、つい話し込んでしまったしな……あれがなかったら、ロッソ領主にもバレずに済んだかもしれないのに。

 「それに関してはしょうがないと思う他ないかな?私もまさか森を襲撃してきた人とまた会うなんて思わなかったし……」

 エルミアの言葉に対しては素直に俺もそう思う。ただ、冷静に判断はできていなかったから、もしもの事を考えてしまう。

 「ユウキも思い詰めないで、私は別に気にしてないしユウキはよくやったと思っているわ。危険な場所に行ってくれて本当にありがとう!」

 「分かったよフレア、その……ありがとうな気遣ってくれて」

 「もう!今のはちょっと他人行儀じゃない?そんな事で私がユウキを叱ると思っているの?だとしたら心外だわ!そっちの方が怒りたくなる」

 そうだよな、流石に今のは俺が失礼というか、配慮が足りなかったか……

 「ごめんフレア、確かにフレアが怒る様な事は想像できないな」

 「分かればよいのです!あっ!そうだ、今日の会食が終わったらまたお話しがしたいな?」

 もう終わった後の事を考えているのか……てか、お話しってあれか?前に3時間くらいかかったやつ……長時間の話しも中々堪えるものがあるんだよな......いや!フレアがそれで喜ぶならいい事じゃないか!

 「分かった、時間作るよ」

 「うん、楽しみ!」

 「…………こんな時にべたべたしないで欲しいかな?緊張感ないんじゃない?」

 エルミア……普段と変わらない声色だけど、なんだか棘のある言い方をしてきたな……

 「あら、先走ってしまいましたかね?それはそれとしてエルミア……前々から思ってたのですが、随分と私とユウキが一緒にいる事に対して突かかってきますね?それに時々ユウキとの距離も近い……どうしてです?」

 ま〜た空気が悪くなってきたんだが……

 「ん?お友達としての距離だと思うけどなー」

 エルミアが首を傾げながら言った。

 「お友達と言うには近いですよね?」

 「そうかな?私には分からないかな?」

 詰め寄るフレアとそれに動じないエルミア……これ以上城の前で言い争いをさせるのは不味い……

 「そろそろ話しは終わりだ!行くぞ!」

 話しの切り方が分からず俺は強引にフレアとエルミアの手を取って早足で歩いた。何か言われる事を覚悟していたが、思いのほか2人とも静かで何も言われなかった……逆に怖いのだが追及されたくないのでそのままにした。

 2人とも、普段は仲がいいのに唐突に仲が悪くなるのはなんだろうか……毎回心臓に悪い。
 そんな事を考えながら、城の門前まで進むと……
 
 「お待ちしておりました、フレア・フォン・ヴァーミリオン様でお間違いないでしょうか?」

 城門前に若めの男性がお辞儀を辞儀をしながら話しかけてきた。

 「えぇ、間違いありません」

 「では、こちらへ」

 門を通り、城内へと案内をされると、俺達を招待した男……ロッソ領主が現れた。

 「やっと来たかぁ、待ってたぞ!さっさと中に入れや」

 貴族で領主というには随分と粗暴な言葉使いだよな……チンピラとか言われた方がまだしっくりくる。

 「しかし、随分と仲がよろしい事でぇ……フレア様のお気に入りって噂は本当みてーだな?お前さん」

 そう言われて俺はフレアとエルミアの手をつなぎっぱなしでいる事に気が付いた。

 「ご、ごめん!」

 俺は急いで手を離した。

 「いえ……大丈夫」

 フレアは大丈夫って言うけど、強引だったし気を悪くしちゃったかな……

 「……」

 エルミアは何も言わずつまらなそうな顔をしているが何でだ?

 「ま、いい……とっととこっちに来い」

 せっかちなのか?随分と急かしてくるな。まぁ、考えてもあれだし付いていくか。
 ロッソ領主が連れて来たのはかなりの広さをした食堂だった。合成に飾り付けられた椅子と大きなテーブル、まさに貴族の食卓って感じがした。そしてそこには既に据わっている人物がいた。

 「司!?」

 「……遊輝か」

 「なんだよその反応は、随分とバツの悪そうな表情までしやがって……」

 「実際バツが悪いからな」

 開き直りやがった。

 「貴方がユウキのお友達のツカサ様ですね?エルフの森では随分な歓迎でしたね?」

 「あの時のお姫様か……そうですね、あの時は手荒だったと自負しています」

 「反省なしと受け取りますよ?その言い方。貴方には聞きたい事が沢山ありますの」

 フレアがどんどん司に詰め寄っているが、尋問みたいになってないか?だが、確かに聞きたい事が沢山あるのは事実だしな。

 「残念ですがお答えできることは多くないですよ?」

 「この期に及んで何も話さないなんて許されると思っているの!」

 「エルミア落ち着いて」

 身を乗り出しそうなエルミアをフレアが静止させてくれた……だけどエルミアの言いたい事は最もだ。

 「おいおい主催者を置いて白熱するんじゃねーよ。まずは席についてくれや」

 ロッソ領主の言う通りだよな……貴族らしくない粗暴な言い方をするが、言ってる事は割とまともなのが調子を狂わせて来るんだよな。

 「まずは俺様の呼びかけに応じてくれた事に感謝を言う」

 礼儀正しいところを見ると本当に調子狂う……どちらかっていうとオークション会場の時の話し方の方がしっくりくるんだよな。

 「挨拶も早々にまずはお前に聞きたい事があるんだよ……確かツカサ、とか言ったか?」

 「先も言った通り、俺が答えられる事はそう多くないですよ?」

 「……お前、この領内に来たのはその隣に座ってる黄の国の姫様を取り戻しに来ただけか?」

 「他に何か?」

 司の奴、随分と物怖じしないよな……貴族相手に詰め寄られたら少なからず怖いと思うんだが……

 「俺様が掴んでいる情報ではお前が仕えている青の国は黄の国を滅ぼして乗っ取る魂胆の筈だ。その際にそこの姫様が生きていられると邪魔なんじゃないか?むしろ殺しに来るのが筋ってもんだろ?その割にはお前ひとりで他の人員はいないみたいだし、取り戻しに来たっていうのは嘘じゃないみたいだし余計に分からねーんだよな」

 「……それは」

 司が言い淀んでるが何かあるのか?

 「ツカサ、少しは話したらどうじゃ?お主は話さない事が多いから誤解が生まれやすいんじゃよ」

 黄の国のお姫様……確か名前はシャルルだったか?司とは親しい様な間柄にも見えるやり取りをしているが、どういう関係なんだ?

 「言えない事が多いってだけだ……はぁ、彼女を助けたいという言葉に嘘はないです。ただ、別の命令は受けていますがね……」

 「ほぉ~なんだそれは?」

 「ひとつは彼女の抹殺、それと……貴女の暗殺……もといカードに封印をするために来ました」

 なんだよそれ……

 「ならもっと人員を連れてきても不思議じゃねーよな?」

 「ここに来る前にその人員とやらは全員カードに封印しましたのでいませんよ」

 封印って……

 「物騒な事で……で、俺様は封印されんのか?いや、するならオークション会場でやってるか……」

 「最初から封印するつもりはありません……失敗を報告するつもりですよ。それよりも気を付けた方がいいですよ、近々ここに青の国が攻めてきます」

 青の国が!?

 「その情報は掴んではいたがそうか、近々か……ふむ。ツカサにはまだ聞きたい事があるが、まずはフレア様。今後どうするつもりで?」

 急にフレアに振って来たな。

 「どう、とは?」

 「少し前置きから話すが、正直に言ってこれからの赤の国の指導者にはフレア様が適任だと俺様は思っている。不敬を承知で言うが、第1王女のクレア様には次期国王の座は荷が重いと思っている……フレア様は就く気はないのですかい?」

 「気があるなしに関わらず私にはその権利はありません。クレアお姉様がご存命な以上は私に王の座は明け渡されないでしょう」

 「なら、そのクレアお姉様が重罪を犯していたらどうする?」

 重罪?どういう意味だ?

 「何のお話しです?」

 「忠告だ、急いで首都に帰った方がいいぜ?恐らくはとんでもない事になっている筈だ。今回のフレア様の行動は首都で踏ん反り返ってる奴らの手の平って事だ。体よく俺様をだしに使ったんだろうが、まんまと策に嵌ったみたいだな」

 「どういう事です!策とはいったいなんですか!?」

 「どうせ俺様が奴隷売買に手を染めているから……みたいに言ったんだろうが、確かに俺様は奴隷売買を推進している。隠すために敢えて領地内にスラム街まで作ったぐらいだ。どうしてだと思う?」

 どうしてって……奴隷を推進する正当な理由なんてある訳ないだろ。

 「俺様はな、ヴァーミリオン家及びそれらを纏めている貴族達が信用できないんだよ。青の国がいずれ攻めて来る事は分かっていたし、それは偉い方々も承知の筈だ。一番最初に攻められる場所がここって事も容易に想像がつく……ここは青の国に一番近い赤の国の領地だからな。だからこそ、奴隷を買ってまで戦力を補強しているんだよ」

 「だから奴隷制度を推進していると」

 「最近になって青の国の動きがより活発になってきたからな。なりふり構わずな行動を取ったのは俺様も悪手だったが、そうも言ってられねーんだよ。このまま赤の国が手をこまねいているなら、俺様は領地ごと青の国に寝返る事も考えている」

 「……反逆罪ですよ?」

 フレアが凄むのも分かる。国の姫の前で裏切り宣言をしてるんだからな……

 「死ぬよりいいだろ?それに俺様はあんたに何とかしてもらえれば裏切るなんて真似はしねーよ」

 「何とかって……」

 「音頭を取れって言ってんだよ!このままだと、赤の国がなくなるぞ?」

 「そもそも!何故青の国は攻めて来るのですか!?」

 確かに青の国の意図が全然分かってないよな。

 「……青の国が攻めの姿勢なのは国王のせいではない……国王の一人息子、青の国の第1王女の父が実権を握っています。モディファーが来る前から戦争の準備を着々と進めていたそうですが、それ以上の詳しい事は分かりません」

 「ツカサ様、それは事実ですか?」

 「事実ですよフレア様。モディファーから直接聞きましたので」

 え!?待て、モディファー?

 「ちょっと待て!モディファーに会ったのか!?」

 「あぁ、会っている。直接的な指示はモディファーから言われるからな。因みに居場所を聞かれても答えられないぞ?」

 「何でですか!?貴方は巻き込まれたのでしょう?だったら!……」

 「どんな理由であれ、今は言えない」

 何で頑なに情報を言わないんだ?何か脅されているのか?

 「なら代わりに妾が言えない理由を言ってやろう!」

 シャルルさんが会話に割って入って来たぞ?

 「青の国の第1王女が人質になっているからツカサは話せないんじゃ」

 「おい!シャルル!それは言うな!」

 「何故じゃ?妾が言う分には問題ないじゃろ?寧ろ感謝するのじゃよ!」

 人質!?

 「しかし、言葉を強く返すようですが、ツカサ様はユウキと同じ同郷の異世界人なのでしょう?こう言っては何ですが、そこまで肩入れする理由は何でしょうか?」

 フレアの意見は最もだ。言い方は悪いが俺達異世界人にとってはこの世界の人達との接点がない……つまり酷く言えばどうなってもいいと思ってしまっても仕方がない事だ。それでも危険を冒してまでその人を大切にする理由がある筈だ。

 「……随分と世話になったからな。それじゃ理由にならないか?」

 「それだけの理由で?」

 フレアが疑問に思うのも頷けるが、俺には何となくその気持ちが分かる。俺もフレアに最初のころよくしてもらったし、何かあったら助けたいって思っただろうし、実際今こうして一緒に行動している……たぶん同じなんだよな。それにこんな右も左も分からない土地、というか世界で助けられるって俺達からしてみればよっぽど心強い事なんだと俺は実感している。

 「いいぜ司。お前にはお前の譲れないものがあるって分かった。だけど、そっち側で戦うってなるなら次は負けないぜ!」

 「遊輝……お前は納得するのか?今の理由で」

 「俺はお前の事をこれでも分かってるつもりだ。だから納得してやる」

 「そうか……」

 司の奴、心なしかちょっと嬉しそうな表情だな。なら、俺の思ってた事も満更間違いって訳じゃなさそうだ。

 「コードルフ様、青の国が攻めて来る話しが本当であれば、私達はそろそろお暇させて頂きたいと思います。真偽の程を確かめなくてはなりませんので」

 だな、もし首都で何かヤバい事になってるなら早く帰った方がいいな。

 「流石に夜も遅いんだ、急げとは言ったが今すぐに帰るのも危険だぞ?」

 「いえ、事が事です。ゴードルフ様の言い分が正しいのであれば、もしかすると手遅れの可能性もありますが、私には貴族としての責務があります。危険だからといって急がない理由にはなりません」

 「危険があるなら俺が全力で守る、急ぐなら行こうフレア」

 「ありがとうユウキ……では、ゴードルフ様これで失礼致します……シャルル様、それと……ツカサ様もご健闘をお祈りしています」

 フレアからしたら司に配慮なんてしたくないだろうな。俺がいる手前を気にしているのだろうか?

 「妾達も頑張るので達者でな!次に会うときはまだ敵同士じゃろうが、その後は仲良くできる様になりたいと思っておる……この事を心に留めておいてくれ、赤の国の第1王女とエルフ族の者よ」

 「分かりました。私もそうでありたいと思っていますので、そうできる様に努力します」

 「エルフ族としては獣人族とは仲良くしたいと思うからこっちとしてはその要望は叶うと思います。今後もよろしくお願いしますね!」

 フレアとエルミアはそれぞれの立場から好意的な意見が出たな。俺としても戦いなんて物騒な事をせずに仲良くしてほしいしな。あんまり深い事は俺には言えないが、シャルルさん達とも仲良くできればいいな。それと司ともいずれは……

 ドカァーーーン!!!

 「な、なんだ!?」

 何だ爆発音!?……いったい今度は何が起きたって言うんだ!
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