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HOME > 遊戯王SS一覧 > 59話 強くならなきゃ

59話 強くならなきゃ 作:コングの施し

アカデミア合宿2日目。彼らを待つのは、一線で戦い続けるプロデュエリストによるデュエルの指導。そして他を圧倒するほどの力でスターチップ争奪戦を抜け、その土俵に上がった龍平、そんな彼を待つのは、人智を超えた運と他のプロとはある意味で一線を画すギャンブルデッカーの宝条 麗華だった。







TURN :4(バトルフェイズ)

宝条 麗華(ターンプレイヤー)
LP   :7600
手札   :7
モンスター:《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》《Ms.JUDGE》
魔法罠  :
フィールド:《鋼鉄の襲撃者》

大石 龍平
LP   :4200
手札   :2
モンスター:《聖刻天龍ーエネアード》《巨神竜フェルグラント》《聖刻龍王ーアトゥムス》
魔法罠  :《星遺物の守護竜》
フィールド:



《カップ・オブ・エース》…コイントスでオモテを出せば2枚のドロー、ウラならば2枚相手にドローさせる、ハイリスク・ハイリターンを体現したようなカード。ギャンブルデッキでその実力をプロでもトップクラスのプラチナ3級に押し上げたデュエリストが引き当てたカードは…

龍平(6枚のドロー…3回連続使用で全てオモテかよ。
これは道理が通らないとか、そのレベルじゃ…)

そして今一度、パチーンと、第二決闘場の宙に3枚のコインが舞う。それを手の甲にキャッチする女性が一人。プロデュエリスト、アカデミア合宿特別講師の1人、宝条 麗華である。

宝条「ふふ…《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》の効果。
結果はどう思う?…大石 龍平くん。」

コインが乗った手の甲に左手の手を乗せ、不敵な笑みを見せる。相対する龍平、その顔におおよそ笑顔と呼べるものはなかった。

龍平「……見なくたってわかりますよ…!」

宝条「ふふふ…ダメさ、ダメだねえ。」

その手の甲に乗った左手をどかす。そこにあった3枚のコイン。全てが《青眼の白龍》の頸が掘られたオモテ面であった。同時に、彼女の背後に構える巨大な回転式拳銃の銃口を携えた竜が咆哮する。

龍平(これも全部オモテ…デタラメにも程がある!!)

構えられた3つの銃口が轟音と火花を吐き出す。同時に、文字通り銃弾で貫かれたように、龍平の3体のモンスターに風穴が開けられる。立ち込める硝煙の中で咳き込みながら、フィールドに留まれなくなりディスクから跳ね出された3枚のカードをキャッチした。

龍平「モンスターが自身を対象としない効果で破壊されたことで、手札の《ブラック・ホール・ドラゴン》の効果発動!」

その効果の発動を宣言した瞬間、地面に2枚のパネルが突き刺さる。「⚪︎」と「×」を記したそれが、今にも弾け出しそうな黒い渦を押さえつけている。

宝条「忘れたとは言わせないよ?
《Ms.JUDGE》の効果を発動。さあ、もう一度運試しと行こうか…!!」

龍平(《Ms.JUDGE》…2回のコイントスで両方オモテが出ればこの効果は通らない…)

龍平は目の前に構えるそのモンスター、そして奥に構える宝条に目を向ける。「運」を介しいくつもの決闘を、勝負を勝ち取ってきた文字通りの勝負師。直前にコイントス9回を見事に命中させた彼女にとって、この2回でオモテを出すことなどもはや造作もないことなのではないだろうか。

勝てるはずなどあるのだろうか。生まれて、プロの父を持ち、そして追いかけるように戦い続けた。だが運など、自分のプレーで、構築で塗り替えて見せると思っていた。そんな自分に、この賭けに勝つことなど…。

握る手札を視界から落とした時、宝条はまた口を開いた。

宝条「ダメだよ…大石 龍平くん。」

龍平「…くっ…。」

彼女が、その手から2枚のコインをパチンと弾く。

宝条「今のキミには、効果での破壊に耐性を持った『そのモンスター』を通すしかないじゃないか。」

龍平の手札は、発動中の《ブラック・ホール・ドラゴン》を含めて2枚。そこに、この状況の明確な勝ち筋と言えるカードは、彼女の言う通りそのカードしかなかった。

宝条「逆にこれが通ればキミが勝てる可能性は格段に上がる。それなのになぜ、そこまで萎れているのかな?」

宝条はニヤニヤと粘り気のある笑みを見せながら続けた。それこそが彼女の持ち得る勝負師の思考。デュエルという世界で、どうしても運が絡んでしまう世界で、勝ち続けるための、負けても勝つための思考。

宝条「自分の有利になる可能性を持ったカードを、負けた気で使うものではないよ。」

その言葉が、熱せられた油のように、自分の心の中に絡みつき、その心を音を立てて焼いてく。勝つためにカードをプレーした。負ける気で戦っているならば、ここでそのカードなんて使っていない。

龍平「それが…あなたの言いたいことですか。」

龍平は胸をグッと鷲掴む。息を大きく吐き出して、中腰になって答えてみせた。しかしその目は今にも弾けそうな黒い渦を、《ブラック・ホール・ドラゴン》を見つめている。

ここで賭けに勝たなければ敗北。ならばどうしてその勝負に思いを乗せないのか。いいや、自分の魂を、勝敗を、ベッドするのはこの丁半だ。


今までで最も格好悪く泥臭く、その龍は叫ぶ。


龍平「丁か半か……乗ってやるよ!!!!!」


第二決闘場に響いた龍平の声、呆気に取られた宝条は、キャッチするはずだったそのコインを地面に落とした。パチーンと音を立てた2枚の金貨。

彼女は、その咆哮の意味を理解したのか、その顔にじんわりを笑みが浮かび始めた。そして、立ち昇る3丁の拳銃からの硝煙の中、ゆっくりと大地に落ちたそのコインたちに目を向けた。

宝条「ふふ…ははははは…」

笑みを隠しきれない彼女には、その目の前には、「勝負」を認め、伝説の青い目を持つ竜をノックアウトした1匹のドラゴンがいた。



宝条「……わたしの《青眼の白龍》は、絶賛地面とキス中だよ!!!」







ぽとり。
膝上に乱切りの人参が落っこちた。うっすらと開いた目で、膝の上にあるオレンジ色に気がついた。

遊大「……ぁれ…」

なぜ膝の上に人参が落ちたのか、空に静止した箸の先には何も握られていない。人参と目が合っている自分に、律歌が顔をのぞかせる。

律歌「だらしないぞ遊大。ご飯食べながら寝ちゃうなんて〜。」

遊大「おれ…あ、そっか、もう夕ご飯か。」

龍平「…疲れてんだろ。明日は団体戦だし、夜更かしすんなよ。」

そうだ、そうだった。今日、合宿2日目、プロの元での指導。一日中まるまる、プロの思考に晒され続けていた。いつもの研究とか練習とか、それとは比べ物にならないほどに、大量で、濃密で、一言一句すら聞き逃すことの許されないその情報。

遊大「た、たしかに……寝る前に調整しようと思ったけど…無理かも。」

周りを見渡す。皆疲れているのだろう。龍平、律歌、そして他の合宿生の面々が、ぐったりと夕飯を口に運んでいる。時刻は19時。2日目の内容が終わり、食堂に集められているというのに、嬢の姿だけがそこに無かった。

遊大「あれ、そういえば嬢は?」

律歌「そういえばまだ戻ってないね。」

龍平「……。」

その話題になった途端に龍平は俯いた。何かいいたげに動かす口に、黙らせるように惣菜を突っ込む。忽然とダンマリした龍平に、遊大と律歌の視線が集中すした。それに驚いたのか、急いで口にあるものを飲み込み、また口を開いた。

龍平「な、なんですか。」

遊大「なんか知ってんの?龍平。」

その問に律歌がコクコクと頷く。バツが悪そうに視線を外し、龍平は渋々続けた。

龍平「別に…あいつのチームの特別講師が、ウチの親父ってだけです。」

律歌「えと…大石 竜也プロ、だよね。」

龍平「はい。親父はデュエルの教育に関しちゃ容赦ないってこと、俺が一番知ってるから。
……あの男のところでうまくやれてるのか、心配になっただけです…ちょっと。」

未だ戻らないもう一人の竜の存在を、仲間たちは案ずる。三日目の戦いを前にして。







「もう止めておけ…時間も遅い。明日は団体戦があるんだぞ。」

赤い稲妻が大地を走り、風を纏った竜の群れを貫いていた。太く低い男の声が響く。
私立デュエルアカデミア童実野本校、第5決闘場。ポツリと電気がついたままの会場の中で、2人の決闘者だけの声がこだまする。

「お願いします…あと少し…もう少しでいいんです!」

ディスクを装着し、一点の光の中で対峙しているのは、チーム5の特別講師、プロデュエリストの大石 竜也と、龍剛院 嬢だった。

竜也「だめだ。私は講師、お前は生徒だ。
短い時間とはいえ、教え子の管理もできないようでは……」

と、そう言いかけた時、脳裏に一人の少年の声が響いた。口をつぐんだ彼に、嬢は投げかける。

嬢「私には……強くならなきゃいけない理由があるんです。
そのきっかけをくれたのは…龍平くんなんですよ!!」

その言葉に、竜也の肩が震えた。今一度、彼女の目を覗き込む。その目に、龍平はどう映っている。

竜也「龍平…。」

嬢「私に、本気で戦うことの楽しさを、デュエルが楽しいものだってことを教えてくれたのは彼なんです。
だから、そんなきっかけをくれた彼を裏切らないためにも……自分で決めたことを精一杯やるって決めたんです!!」

『龍平』。その名前だけで黙り込んでしまう自分に、嫌気すらさしてしまうように思えた。ここはアカデミア合宿の舞台で、自分は教える立場、相手は教えを乞う立場だと言うのに、自分はまるで打ちどころを狙われた弁慶のように、その言葉だけで、呆然と立ち尽くすしかない者に成り下がっている。

竜也「龍平は、私のことを何か言っていたか。」

嬢「……知らない、知りません。でも好かれてはいないって、多分わかってると思います。」

竜也「……そうか、そうだよな…。」

嬢は俯く竜也を見かねたのか、彼の元に駆け寄り、その小さな拳で彼の腰をぽこりと殴った。

嬢「しっかりしてください!!」

竜也「いっ…!!何を!?」

嬢「……家族でしょう!?
私は、強くなるために大石プロに学びたいんです!!
貴方を見たとき、目標のためにはこの人から強さを教わらなきゃって、確信したんですよ!?
そんな『暴竜大石』が、一丁前に家族のことで萎れないで!!」

竜也「私が…オレが…どう悩もうが勝手だ。
きみにそれをとやかく言う資格なんて………」

そう言いかけたとき、彼女の首の付け根、襟の間から、小さな肩が、そこにある『モノ』が目に入ってしまった。途中で言葉を切った彼の視線に気づいたとき、さっと足を引き、崩れた襟を直した。

嬢「……!!」

竜也は『それ』を目にした瞬間、彼女自身が戦う理由が、わかったような気がした。察しがついてしまった気がした。きっかけは龍平であれなんであれ、その血に刻まれた悲惨な、凄惨な、その戦う理由が見え隠れしてしまった。

竜也「その刺青…きみは…」

嬢は、襟を押さえたその手を自らの背中へと滑らせる。俯いたその瞳には輝きなど宿っていない。しかし、そこに覚悟があるから、自由を、楽しさを知ったから、覚悟を決めたように、今一度竜也に言い放つ。


嬢「……この背中には、龍が刻まれてるんです。
組の頭目の娘として生を受け、武器になるような身分だから、自分で思うようなデュエルもできない。そんな私に、楽しさをくれたのは龍平くんでした。
……私が大石プロに固執するのも、龍平くんと親子の立場にあって、その確執が見ええてしまったからなのかもしれません。」


竜也「オレと…龍平…。」


嬢「私は……近いうちに組を出ます。このしがらみを、刻まれた龍の血を、この手で止めます。
龍平くんがデュエルは楽しい物だって教えてくれたから、楽しい以外の、それ以外の理由とか、それで失われる命とか人生とか、少なくとも私の目の中では、そんなものがあっていいわけがないから!!」


嬢は俯いた顔をあげ、会場にポツリとつく光をじっと見つめる。うるんでいくその目がキラキラと反射し、飲み込むように一度大きく瞬きをすると、またその顔を竜也に向け、ニコッと微笑んだ。


嬢「…ねっ?
家族のことで悩んでる場合じゃないですよ…大石プロ。」


竜也は何も言わなかった。目の前の少女は、突き進む覚悟を決めた瞳をした強いこの少女は、どこまで貪欲で美しいのだろうか。自分の道を進むきっかけを龍平からもらい、そしてそのための手段を、強くなるための術を、自分に乞うている。

龍平が、自分に踵を向けた、この手で抱いたことのある小さな竜が、目の前の戦さ乙女に強くなるきっかけを与えた。自分にはできなかった、その理由づけを。
ならばそれに応えない理由があろうか。戦う決心をした、強さを求る乙女と、家族の軋轢から目を背けていた自分。

そんな自分にできることは。父親として、プロとして、自分のすべきことは…


竜也「……向き合おう。オレのためにも、きみのためにも。」







日は明る。迎えた3日目の団体戦。それぞれが自分のチームの勝利のためにしのぎを削るたった1日の合戦が幕を開ける。
そしてここに立つのは…

ましろ「さあ〜がんばろっか、問題児?」

日暮「それ、ぼくに言ってます?」

ましろ「…お前以外いないけど??」

ましろが率いるチーム7、そこには日暮の姿もあった。たった1日2日の付き合いだと言うのに、日暮はましろに「問題児」の烙印を押されている。2日目に何があったか、察するまでもないほどだろうか。

日暮「初戦、楽しみだよ…龍剛院さん。」

嬢「お願いします…!」

そんな彼らに相対するのは、大石 竜也プロが率いるチーム5。そこには嬢の姿もあった。団体戦はトーカーレギュレーション。いわば団体全体でBO3でデュエルを行うルールになる。

チーム7先鋒、日暮 振士。
《オッドアイズ》と《竜剣士》の混合デッキを操り、デュエルの『輝き』に惹かれ続けるデュエリスト。

そして対するは、

チーム5先鋒、龍剛院 嬢。
《ドラグニティ》のデッキを操り、その先手後手どちらにも通用する貫通力・制圧力を以てこれまでの敵を薙ぎ倒してきた。

言うまでもなく、お互いにプロとそれに匹敵する者の元でその腕を磨き、知識をつけ、見識を広げた。これまで相対することなどなくとも、その実力の高さはもはや立ち姿からわかっていた。言うまでもなく、もはや決まりきっていると言えるほどに熾烈な合戦、その火蓋が切って落とされる。

彼らだけでなく、お互いの後ろに構えるましろと竜也の視線の間にすらばちばちと火花すら散っているようだった。そんな緊張に針を刺すように、デュエルが始まろうとしている。

日暮「さあ、魅せてもらうよ。キミのデュエルを!!」

嬢「…よくわかんないけど、私もここで負けたくないから…倒しますね!!」



『デュエル!!』



続く
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ランペル
9回連続的中は異次元過ぎる…。

宝条プロの扱うギャンブルデッキを前に、ことごとくその豪運を目の当たりにする龍平。あまりに的中させるその精度を前に、彼らしくなく気後れしてしまう場面が…。
しかし、プロからも諭されるように、勝つべくして使ってきたカード達を前に賭けに負ける前提で挑むのはナンセンス。龍平が彼女の土俵に登り、丁半の賭けに応じると、ブルーアイズが地面とキスする結果に!
10/11または9/11のコイントス成功率…。8割強ほどギャンブル効果を成立させてくるとなると、ギャンブルカード全般かなりの強化補正ですな…。ギャンブルカードって理論上最強なので、その理論値を叩き出せる宝条プロはやはりかなりの実力者ですな…。

はたまた別グループでは、夜遅くまで続くデュエルのレッスンが。
嬢が龍平の父である竜也プロへと強くなる為の指導をお願いしている場面。
身内の話を振られて結動揺している事からも、お父さんはデュエルの実力がある分なかなかに不器用なんでしょうねぇ…。
嬢にカツを入れられつつ、彼女が背に背負うものを知った竜也はお互いの為に、時間外のデュエルに応じる事に…!

そんな翌日には、嬢と日暮のデュエルが!このデュエルで嬢が、プロから教わった技術を活用させそうな予感です!
これは次回以降のデュエルが気になってくる所ですね! (2024-04-06 00:16)
コングの施し
ランペルさん、閲覧とコメントありがとうございます!

プロデュエリスト、全国での戦いを掻い潜り、そしてデュエルの世界のトップで戦い続ける者たちですな。その代表として宝条プロに御出演願いました!!デッキ構築やプレイングだけでなく、運を味方につけねばならない状況があるのもまたこのカードゲーム。ヤバさが伝わってもらえたみたいで嬉しいです!

そして回見えました嬢と竜也の関係。二人とも明かしきれていない過去がありながら、お互いが背負うものに対して思うところがある師弟。それを書きたかったですね!!

次回、嬢と日暮の戦いになります!もちろん特別講師のもとでデュエルを磨いたもの同士、見応えのあるものになっていればと思います!ちょっと更新速度が落ちてはしまいましたが、次回以降もお楽しみにしていただけると幸いです! (2024-04-20 22:31)

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