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HOME > 遊戯王SS一覧 > 60話 竜を駆るもの

60話 竜を駆るもの 作:コングの施し

アカデミア合宿3日目。2日通してプロデュエリストを含めた特別講師のもとで新たな技術を身につけ、経験をし、成長したデュエリストたち。龍平の父親である大石 竜也プロのもとで己が技術を磨いた龍剛院 嬢。そして東雲中顧問の侵介 ましろ、元プロである彼女のもとで学びを得た日暮 振士との戦いが、始まろうとしていた。







あの時のデュエルが、その脈動が、まだ体の中を駆け抜けているようだった。


『…墓地にもう《ドラグニティ》はいない。さっき《アークブレイブドラゴン》の効果を無効にするために除外した《アスカロン》で最後だ。』


決闘王杯市内予選・決勝。龍平としのぎを削ったその戦い。お互いに盤面の全てを網羅し、文字通りの全力をぶつけ合ったそのデュエル。
龍血組という裏社会のドス黒い渦の中で、硝煙と怒号に体を蝕まれ、デュエルすらその檻に閉ざされていた自分にとって、その闘いは今までの全てを凌駕するものであった。

裏の世界のそれよりもハイレベルで、何よりも透き通っていて、自分と相手の内を貫き、繋ぎ合わせるような、そのデュエル。全力で戦うということが、ここまで尊いものであったなんて。そんな自分にとって。彼の背中を追い、自分の目の内の世界を変えない理由があろうか。







日暮「さあ、魅せてもらうよ。キミのデュエルを!!」

嬢「…よくわかんないけど、私もここで負けたくないから…倒しますね!!」

日暮と嬢、2人のドラゴンの使い手がお互いにデュエルディスクを構える。その背後で彼らを見つめる特別講師の 侵介ましろ と 大石竜也。

本合宿の特別講師であり、東雲中顧問でもあるましろの目に映るのは、二人の教え子であった。その目に映るのは、今までとは大きくその表情と気迫を変えた2人。

ましろ(嬢……大石プロのとこで鍛えてたんだな。こいつらの実力は……)

対する竜也。合宿のうちで、彼女の中に大きくある息子の龍平の姿、そして彼女の過去を知り、2人に向き合うことを胸に刻んだプラチナ3級のプロデュエリスト。

竜也(……拮抗している…だが…。)

そして何よりもデュエルディスクを対峙させるこの2人。誰の目にも、特別講師二人の目にも、そしてお互いにも。

日暮「ぼくさ……ファンなんだ、みんなのね。」

嬢「……?
嬉しいけどごめんなさい。情けはお互いに無用にしましょうね。」

彼らは、紛れもない強者であった。猛者の跋扈するこの合宿でも上澄みだと言えてしまうほどに。



『デュエル!!』



その宣言と同時に、フィールドが移ろいで行く。3日目初戦でありながら、もはやクライマックスと言えるまでに空気が薄くなってゆく。2人のドラゴン使い。その先攻を得たのは…


日暮「ぼくの先攻。」



TURN:1

日暮 振士(ターンプレイヤー)
LP :8000
手札   :5
モンスター:
魔法罠  :
Pゾーン :◆ ◇
フィールド:

龍剛院 嬢
LP :8000
手札   :5
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:



日暮は彼女のことを知っている。県予選に出場しているという事実。そして東雲中のメンバーであるという事実。それゆえにこの戦い、情報を有していないのは嬢だけであった。

日暮「ぼくは手札から、
スケール8の《オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン》、
スケール1の《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》を、Pスケールにセッティング!
…これでレベル2〜7のモンスターが同時に召喚可能。」


(Pスケール:◆8◇)《オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン》
(Pスケール:◆1◇)《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》


天より差す光の柱。そこに2枚のカードが空へと打ち上がり、巨大な振り子が弧を描く。双色の眼光を携え、天の柱うちより、2体のドラゴンが嬢のことを睨みつける。

嬢「……ペンデュラム!!」

嬢が学徒との戦いで初めて目にするその召喚法。儀式・融合・シンクロ・エクシーズ・リンクのさらなる上の技術を必要とするその召喚法に、改めて目の前にいる少年の危険性を見出す。

日暮「揺らげ、魂の振り子。今こそ描き出せ…天の虹彩を!
ペンデュラム召喚!!」

ゴウンゴウンと揺れ動く振り子。その外縁の両端に描かれたその数字と竜の瞳が淡く輝き、まるで流星のように、3体のモンスターたちが一挙に彼の元へと降り立つ。

日暮「さあ出番だよ、ぼくのモンスターたち。
《白翼の魔術師》、《竜剣士マジェスティP》、そして《スピリチューアル・ウィースパー》!」


《白翼の魔術師》(守)
☆4 風属性・魔法使い族/ペンデュラム/チューナー/効果
ATK:1600/DEF:1400[◆1◇]

《竜剣士マジェスティP》(守)
☆4 風属性・魔法使い族/ペンデュラム/効果
ATK:1500/DEF:1500[◆2◇]

《スピリチューアル・ウィースパー》(守)
☆4 風属性・鳥獣族/効果
ATK:200/DEF:2000


嬢の眼前に唐突に出現する3体のモンスター。その歳でその召喚法を使う事実よりも彼女を振るわせたのは、そのプレーの大胆さ。

嬢(スケール2枚と3体のP召喚!!
先攻から事実上の手札を5枚を全て展開に回した…!?)

日暮「キミの実力の高さはわかってる。
そんな龍剛院さんを、キミを唸らせるには……これぐらい本気じゃなきゃね!!」

そう日暮が叫ぶと、彼のフィールドのモンスターたちの姿が輝かせ、まだ終わることのないその展開の再会を告げる。

日暮「チェーン1で《マジェスティP》、そしてチェーン2で《スピリチューアル・ウィースパー》の効果を発動。

デッキから儀式モンスターである《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》を手札に加える。

さらに《マジェスティP》の効果を処理し、デッキからフィールド魔法《天空の虹彩》を手札に加え、今手札に加えた《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》を墓地に送る。」

デュエルディスクの右端、フィールドゾーンがその門を開き、日暮は手札に加えた《天空の虹彩》のカードを差し込む。同時に、フィールドが鮮やかな虹彩に染まった空間へと姿を変えてゆく。まさしくメディアで目にした『エンタメデュエル』の世界。そのカードたちを使うこと自体が、その概念へのリスペクトの現れとでも言えようか。しかしそれとは裏腹に、そのデッキの中に眠るまだ見ぬ力の胎動を嬢も感じ取っていた。

嬢「その《マンジュゴッド》の親戚さん……《スピリチューアル・ウィースパー》の効果でサーチした儀式モンスターを墓地に送ったこと。
……ミスではないんですよね。」

日暮「ミスじゃない……と思うよ。
なにぶん、ぼくもこのカード《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》を初めて使うからね……期待に添えるように頑張るよ。」

嬢は問うたことを後悔した。明らかに意図的だったそれに噛みついたことで、何か厄介な期待をしていると勘違いさせてしまったかもしれない。表情は勝手に歪み、自然と口からその言葉が出てきていた。

嬢「期待……じゃないですけど。」

日暮「…あは、ごめんなんか。
龍剛院さんはシンクロ使いだよね。じゃあそれに倣ってぼくも…」

日暮は魔が悪そうな笑顔と共に、ディスクから2枚のカードを手に取る。EXデッキの格納がその口を開き、早くもエース格のモンスターが胎動を始めていた。嬢自身もあまりの緩急に虚を突かされ、眉を顰める。

日暮「ぼくはレベル4の《竜剣士マジェスティP》に、レベル4のチューナー《白翼の魔術師》をチューニング。
烈火宿し竜の剣煌めかせ、その赫焔で敵を討て。シンクロ召喚!
レベル8《爆竜剣士イグニスターP》!」

四天の白翼。その力を宿した魔術師と、雄大なる妖の力を携えた剣士が同調し、緑青の閃光が星々を貫きフィールドに降り注ぐ。フィールドに降り注いだ光はやがてその色を赫く変え、巨大な翼を翻す一人の竜剣士の影を描き出した。


《爆竜剣士イグニスターP》(攻)
☆8 炎属性・ドラゴン族/シンクロ/効果
ATK:2850/DEF:0


日暮「《爆竜剣士イグニスターP》の効果を発動。
デッキから《竜剣士ダイナマイトP》を特殊召喚。ただしこのモンスターはこのターン、S素材にはできない。」

2人の決闘者の足元を流るる青い水。それは爆竜の名を冠した剣士の鎧の熱によって蒸気へと姿を変え、物々しい機械音を放ちながら新たなモンスターがフィールドへと出現した。


《竜剣士ダイナマイトP》(守)
☆4 水属性・機械族/ペンデュラム/効果
ATK:1700/DEF:1800[◆6◇]


日暮「さらに《天空の虹彩》の効果を発動。
発動中の《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》を破壊し、デッキから《オッドアイズ・アドベント》を手札に加える。
…さらに《オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン》の効果を発動!!」

嬢(《オッドアイズ》が破壊されことで誘発する効果。
手札を全部使い切ったと思ったのに、なんてリカバリー性能!?)

天へと伸びる光の柱。そこに写し出された、双色の竜の眼が輝く。見上げた先にいるドラゴンを模したように、白と浅緑の鱗を輝かせ、双色の眼の竜が軽やかに日暮の元へと駆け寄る。


《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》(守)
☆3 闇属性・ドラゴン族/ペンデュラム/効果
ATK:1200/DEF:600 [◆9◇]


傍で2人のデュエルを見つめる竜也とましろ。
プロとして経験を持つ2人にとって、彼の実力の高さはその時点でわかっていた。その2人の思考は……

ましろ(……先攻からの妨害で抑え切るつもりか?
…日暮、お前の相手は、嬢はウチの二番手だぞ……!!)

竜也(予想よりも日暮という少年の展開が洗練されている。これは《ドラグニティ》だけでは……!!)


日暮が2枚のカードを携え、それぞれを天へとかざす。その手が指し示す光は、止まることを知らない。

日暮「現れろ、笑顔を繋ぐサーキット!
《爆竜剣士イグニスターP》と《スピリチューアル・ウィースパー》をリンクマーカーにセット!」

そう言って掲げた日暮の手の先、稲光と共に巨大なサーキットが投影される。炎を纏った竜剣士と、儀の備えを運ぶ青い鳥、それぞれが赤と風色の鏃となってサーキットへと吸い込まれていく。

日暮「リンク召喚!リンク2《クロシープ》!」


《クロシープ》(攻)
L2 地属性・獣族/リンク/効果
ATK:700[↙︎・↘︎]


ふわふわと宙を虚な目で彷徨う布地の羊。しかしそれは同時に、エース格のシンクロモンスターを素材としてまで召喚する価値のあるリンクモンスターであり、同時にペンデュラムとリンクを繋ぐ存在。今一度、その底の無さだけが見え隠れする。

嬢(…来る!!)

日暮「さあ、行こうか。
……これが《オッドアイズ》、そして《竜剣士》を繋ぐ力。
儀式魔法《オッドアイズ・アドベント》!!」

《天空の虹彩》の力。すなわち《オッドアイズ》の力によって彼の手に加えられたそのカードがゆっくりと胎動する。上空に聳える巨大な振り子は揺らぎ、金色の輝きを放ちながらその門を映し出す。


ましろ(やっぱやる気か…!)

竜也(ペンデュラム×儀式……身構えろ、嬢!!)


その輝きと揺らいだ空気の流れが体を撫でるだけで、現れようとするモンスターが危険なものだと、デュエリストとしての本能が告げていた。

そして同時に体の中で沸々と湧き上がるそのデュエルへの熱。あの時に似ている。龍平と本気をぶつけ合ったあの闘いに。

嬢「……見せてください。何が来ても倒して見せますっ!!」

その表情が晴れてゆく。その瞳を見た時、日暮の中でも高鳴る何かが溢れようとしていた。


日暮「レベルが7になるように、《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》と《竜剣士ダイナマイトP》をリリース。《オッドアイズ・アドベント》は、墓地からも儀式召喚できる!
……次元の狭間に潜みし龍よ。双色の眼を輝かせ、光と共に降臨せよ!
《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》!!」


天より開かれた門より現れる金色の鱗と双色の眼を輝かせる、歴史には存在しなかったはずのパラドックス。5体目の天の龍の称号を冠した新たなモンスター。《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》、そして《竜魔王アモルファクターP》に次ぐ日暮の新たなエースモンスターが、雷鳴と共に天を穿ち歌声のような咆哮を響かせる。


《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》(攻)
☆7 光属性・ドラゴン族/儀式/ペンデュラム/効果
ATK:2700/DEF:2500 [◆4◇]


嬢「ペンデュラム/儀式のモンスター!!」

日暮「…そうだよ。
ぼくに新たな境地を見せてくれたのは、ましろ先生に阿原さん、そして遊大くんだからね……ぼくもそれなりに強くなってると思うよ。」

彼の口から出るとは思わなかったその名前に肩を震わせる。それと同時に、自分が見ていない世界でも、彼らは人に刺激を与え続け、そして自分たち自身も強くなり続けているのだと暗に理解した。

嬢「そっか……なんか嬉しいな、じゃあ私も頑張らないと。」

日暮「あは…意気込んでくれたみたいで嬉しいよ。
……ぼくはリリースされた《ダイナマイトP》、そしてリンク先にモンスターが特殊召喚された《クロシープ》の効果を発動
EXデッキから《マジェスティP》を手札に加えて、デッキから2枚ドロー。そして、そこからさらに手札を2枚捨てる。」

0枚だった手札が一時的に3枚になり、そして回収された《竜剣士マジェスティP》のカード、そしてたった今《クロシープ》の効果によってドローしたであろう《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》のカードが墓地へと送られる。

日暮「さあ、これで最後だよ。
ぼくは残った1枚の《ダウンジング・フュージョン》を発動。墓地から融合素材を除外し、Pモンスターのみを素材として融合召喚を行う。」

嬢「ペンデュラムから儀式、シンクロ、リンク、そして融合まで…!!」

日暮「墓地から融合素材として《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》と《竜剣士マジェスティP》を除外。
……双色の眼の龍よ。風来の妖宿す剣と一つとなりて、新たな命を生み出さん。
融合召喚!!《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》!!」


突風が巻き起こり、風切り音のような、けたたましい咆哮が鼓膜を揺らす。長かったこの1ターンを締めくくる最後のオッドアイズにして、彼が初めて見せる融合モンスター。その場にいる誰もが、1ターンに4つの召喚法を使い分けるその決闘者に対し畏怖の念すら抱いた。


《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》(攻)
☆7 風属性・ドラゴン族/融合/効果
ATK:2500/DEF:3000 


嬢の前に完成を見せた、日暮のデッキの最終盤面。切り詰められたゲームスピード。そして洗練されたデッキへの理解度から繰り出されたのは、彼が従えるペンデュラムの刺客たち。エンタメを司るそのもう一人のドラゴンの使い手は、訝しげに微笑みを浮かべた。

日暮「さあ、ぼくはこれでターンエンド。龍剛院さん、キミのエンタメ、見せてごらんよ。」

彼女を迎えるのは、まさしくペンデュラムのフルコース。竜を駆る者、その本領が試される。


続く
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