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HOME > 遊戯王SS一覧 > 71話 災禍 その②

71話 災禍 その② 作:コングの施し

アカデミア合宿で嬢のデュエルを咎めたデュエルマフィア、龍血組。彼女の実父であり組の長である龍剛院 栄咲は、その身柄を押さえ、さらに彼女を探す遊大たちの存在すら排除しようと画策する。デュエル以前の問題、純粋な武力を前に、再起不能の状態まで追い込まれた遊大。そして組の手に落ちた彼を前に、日暮と荒田のデュエルが始まる。封鎖された校舎3階、発砲・発火があった瞬間に文句なく焼死の、文字通り死のフィールド。そこで繰り広げられる2人のデュエルの行方は……。








◆ P E N D U L U M ◇


(スケール:◆3◇)《相克の魔術師》
(スケール:◆8◇)《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》



荒田(ペンデュラム………こいつ………!!)

ペンデュラム、それは卓越したデュエルのテクニックを持つ者だけに許された召喚法。その召喚法を前にした荒田、その表情には……

荒田「はははははは!!!!てめえもバカだなあ!!
______やる気か!?ペンデュラム召喚をよぉ!!!」

日暮「……!!」

笑みを浮かべた男。そして2枚のペンデュラムスケールが貼られたと同時に、日暮のデュエルディスクから悲痛な電子音が鳴り響く。燃え上がるソリッドヴィジョンが少年の体に纏わりつき、そのLPを奪っていく。


(LP :7000)日暮 振士


日暮「これは……!!」

ダメージを受けた日暮が見つめた先、そこに佇んでいるのは熱を帯びた黒金の鎧を纏った《真紅眼の鋼炎竜》の姿。そのモンスターが存在することで、カードの発動の度に日暮のLPが奪われていく。つまり日暮に許されたカード効果発動の回数は、16回。そしてペンデュラムカードの性質上、フィールドへの発動と起動効果の発動時にどちらもその制約が誘発するため、実質的な回数はさらに減っていく。


ーTURN2(メインフェイズ)ー

日暮 振士(ターンプレイヤー)
LP   :7000
手札   :4
モンスター:
魔法罠  :
Pゾーン :◆《相克の魔術師》 《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》◇
フィールド:

荒田 武久
LP   :8000
手札   :0
モンスター:《真紅の鋼炎竜》《真紅眼の黒竜》
魔法罠  :セット×2
フィールド:



荒田「やってみせろよ……あと何回かなあ……カードの発動回数はよお!!」

日暮(残り14回……でも!!)
「ぼくは手札から、《螺旋のストライクバースト》を発動。デッキからレベル7の《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》を手札に加える。」


(LP :6500)日暮 振士


ピピピ……とすり減っていくLP。しかし動かなければ、勝機はない。そして荒田のフィールドにセットされたカードは2枚。目に見えない罠が2つ構えていると考えた時、全力でデッキの性能を引き出さない以上は勝ち目がない。

荒田(スケールが貼ってある以上、ペンデュラム召喚時に発動するモンスター効果を咎めることが先決。つまり………ここが使い所だな。)

手札からのP召喚が可能な儀式モンスターである《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》、そして日暮の手札に残った4枚の手札を鑑みた荒田は、自分のデュエルディスクをタップする。フィールド上で翻る罠カード。そこに記されているのは…

荒田「罠カード発動………《メタル化・強化反射装甲》!!!」

闇に包まれた廊下、日暮の左手に握られた小さなライターの炎のみが、その罠カードによってギラギラと乱反射する。カードから染み出していく金属の波が《真紅眼の黒竜》の翼を、顎門を、瞳を覆い、その体を別のモンスターへと変化させていく。

荒田「変化せよ………《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》ッ!!
おらおらどうした!!動いてみせろよ命削れるならなあ!!!」


《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》(攻)
☆8 闇属性・機械族/特殊召喚/効果
ATK:(3400)→3800/DEF:(2400)→2800


フィールドに轟く、黒い咆哮。発動した《メタル化・強化反射装甲》によって《真紅眼の黒竜》を《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》に変化させた荒田。その効果は1度のみの万能の効果無効とバーン効果。《真紅眼の鋼炎竜》による継続的なダメージを噛み合わせることで、日暮の動きはさらに制限された。しかしここで取る日暮の行動は……

日暮「………関係ありません。
あなたがどうしようと、どこまで《レッドアイズ》を好きに使おうと、ぼくはその可能性を信じたりしない。何であろうと、誰のカードであろうと、相手があなたであれば、ぼくは止まらない……!!」

荒田「はははは………こわいこわい!!……ブチギレじゃねえか!!」

日暮「……揺らげ、魂の振り子。今こそ描き出せ………天の虹彩を!!!
_________ペンデュラム召喚!!!」

ゴウンゴウンと揺れ動く振り子。その外縁の両端に描かれたその数字とモンスターたちの瞳が淡く輝き、まるで流星のように、3体の彼の下僕がフィールドへと降り立った。

日暮「来い………《調弦の魔術師》、《相生の魔術師》…
_____そして、《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》!!」


《調弦の魔術師》(守)
☆4 闇属性・魔法使い族/ペンデュラム/チューナー/効果
ATK:0/DEF:0[◆8◇]

《相生の魔術師》(攻)
☆4 光属性・魔法使い族/ペンデュラム/効果
ATK:500/DEF:1500[◆8◇]

《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》(攻)
☆7 光属性・ドラゴン族/ペンデュラム/儀式/効果
ATK:2700/DEF:2500 [◆4◇]


日暮「《調弦の魔術師》の効果を発動。
手札からP召喚に成功した時、デッキからの《魔術師》モンスターを、効果を無効にし、さらに守備表示で特殊召喚する……!」


(LP :6000)日暮 振士


揺らぐペンデュラム、割れた空からフィールドへと降り立った3体のモンスター。《調弦の魔術師》の錫杖が揺らぎ、日暮のデッキが忙しくシャッフルされていく。そして、《真紅眼の鋼炎竜》の効果が適応され、LPが少しずつ焼け付いていく。それは《調弦の魔術師》の効果が通ったことを意味し、同時に荒田が《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》の効果を発動しなかったことを示していた。

日暮「使ってこないんですね…。
_____だったら来い、《慧眼の魔術師》!!」


《慧眼の魔術師》(守)
☆4 光属性・魔法使い族/ペンデュラム/効果
ATK:1500/DEF:1500[◆5◇]


攻撃表示モンスターの攻撃力分のダメージを与えるその効果を適応させるための条件こそ揃っていたものの、その効果が2体の《レッドアイズ》の喉元に迫るものではないと判断し、荒田は未だ動きを見せることがなかった。

荒田「使わねえよ。
攻撃力3800の《フルメタル》は効果破壊の耐性、さらには対象に取られない効果まで付与されてんだぜ?
このガチガチの耐性を突破できる効果なんだよ、止めなきゃなんねえのはなァ!!」

日暮「………そっか、そうですよね。
つまりあなた目線、コレには使うしかないってことだ…。
_______《奇跡のマジック・ゲート》!!!」

そう叫んだ日暮の手札から、1枚のカードがディスクへと叩きつけられる。同時に出現する2つの扉。それらが一斉に開き、中から姿を見せる巨大な掌。包み込むように荒田のモンスターへと掴み掛かるそれが、荒田の本能に警鐘を鳴らさせる。

荒田(対象も取ってねえ……そして魔法使い族2体以上が発動条件のコントロール奪取……この野郎!!!)
「発動を無効にしろ、《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》ッ!!」

その宣言と同時に、《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》の体が凄まじい輝きを放ち、《奇跡のマジック・ゲート》による掌がボロボロと崩れ落ちた。同時に放たれる巨大な火球が、日暮のLPを焼き尽くす。廊下が赤く染まり、そのLPのおよそ半分となる、《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》の攻撃力分のダメージが襲いかかった。


(LP :3300)日暮 振士


荒田「自分で言っててよお……バカだと思わなかったのか?
てめえは把握してたわけだよなあ、《強化反射装甲》によって付与される耐性をよお。だったらまだブラフで他の効果を挟むとかあったはずんじゃねえの?
…………これで手札もゼロ、ライフも3300。俺の残ったカードのバーンダメージで決着できるライフになっちまったなあ?」

黙り込んだ日暮、その左手には今も煌々と赤い炎が揺らめいている。彼が言うように、日暮の手札はすでに1枚もない状態であった。フィールドにモンスターは4体存在しているものの、《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》を突破するモンスターの召喚には至っていない。

荒田「………教えてやろうか?
俺がセットしてるもう1枚のカードは《時の機械ータイム・エンジン》だよ。聡明な、博識な、思慮深くて仲間思いの日暮 振士クンなら効果は把握してるかなあ?
このカードはよお、俺のモンスターが破壊された時、それを復活させてさらに《フルメタル》だったらその攻撃力分のダメージを与え_______




日暮「…………………ペラペラと。」

勝ちを確信した荒田の口を、日暮が咎めた。その言葉に、荒田が「……あ?」と、表情を顰める。赤い炎が映り込んだ日暮の瞳。そこに映った赤い輝きは、ライターの火などという小さなものではない。そこにあるのは、彼の怒り。自分の信ずるデュエルと、讃える仲間、それを奪った龍の血を許さないという、確固たる憤怒の炎。

日暮「………余裕が生まれたらコレですか…本当に浅はかだ。
誰もあなたに喋るフェーズなんて与えちゃいないんですよ。今は……ぼくのターンだ。」

荒田「……あ?
だったら進めてみろよ。殺すんだろ?俺をなあ……なあ!!」

日暮「…………ぼくはレベル4の《慧眼の魔術師》に、同じくレベル4の《調弦の魔術師》をチューニング……。」

4つの光が空を裂き大地を貫いて、白の装束と2本の剣がそれぞれ両針となり、時間と秩序を司る魔導剣士を呼び醒ます。日暮が見せた《爆竜剣士イグニスターP》とは違うシンクロモンスター。《オッドアイズ》でも《竜剣士》でもない、かつての伝説のエンタメデュエリストが見せた《魔術師》を統べる2枚目の切り札。その神秘なる力が、今放たれようとしていた。

日暮「………剛毅の光を放つ勇者の剣、今ここに閃光と共に目覚めよ。
_______シンクロ召喚。レベル8《覚醒の魔導剣士》……!!!」


《覚醒の魔導剣士》(攻)
☆8 光属性・魔法使い族/シンクロ/効果
ATK:2500/DEF:2000


長針と短針、時の流れを示す2つの力が重なり合い、2人を包むソリッドヴィジョンが徐々に遡行を始める。風向きに逆らって揺らぐ炎、掻き回されていく日暮の墓地、そしてモーションが逆再生されるフィールドのモンスターたち、全ての情景が、荒田を混迷の中へと引き摺り込んでいく。

荒田「…なッ……!!」

日暮「《覚醒の魔導剣士》の効果。
《魔術師》Pモンスターを素材としてシンクロ召喚されている場合、墓地から魔法カード1枚を手札に戻す。
_____ぼくは《奇跡のマジック・ゲート》を手札に戻し、再度発動……!!」


(LP :2700)日暮 振士


擦り減っていく日暮のLPを横目に、《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》によって阻止された《奇跡のマジック・ゲート》のコントロール奪取が再び起動する。先ほどと同じく二つの扉がばっくりと開き、荒田のモンスターを掴み取らんとする2本の手のひらが映し出された。

荒田(《ブラックフルメタル》を奪うつもりか……!!)
「だが《タイムマシン》で蘇生できるのは《フルメタル》だけじゃねえ!!壁モンスターくらい、いくらでも呼び出せんだよ!!」

日暮「………勘違いしないでくださいよ。
ぼくはコントロールを奪うのは……《真紅眼の鋼炎竜》だ……!!」

出現した五指が、炎を漏らす黒鉄の竜を掴み取り、扉へと引き込んでいく。その様に、荒田は度肝を抜かされていた。《メタル化・強化反射装甲》によって効果破壊耐性、そして対象にならない耐性を獲得している《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》を突破するのはそのカードだと信じて疑わなかったから。しかし同時に、それがミスではないという、まだ何かあるという確信も、その胸の中で芽生えていた。その命が、勝利が、揺らぐ。そして揺らいでしまったからこそ、声を荒げて吠えていた。もうそこに、圧倒的な実力差と絆しようのない燃ゆる怒りの化身が佇んでいるというのに。

荒田「調子に……乗るんじゃねえぞ!!!!
《フレアメタル》を奪うだァ!?……わかってんだろうなあ《タイムマシン》をよォ!!!
《ブラックフルメタル》をわざわざ残すとはてめえ舐めてんのかクソガキがァ!!!」

日暮「………本当に、五月蝿いな。」

日暮は油のしたる床をゆっくりと荒田の前へと歩みを進める。ぴちゃぴちゃと鳴く彼の足音と荒田の息遣いだけが、2人の戦さ場にこだまする。圧倒的に存在していた体格差も、拮抗していた武力の差も、荒田が持ち合わせていた余裕も、もうそこには存在していなかった。ただゆらゆらと燃える日暮の怒りが、眼前の荒田と言う男を小さく染めている。

日暮「…………言ったはずですよ。ぼくはあなたの命を奪う………殺せるんだ。
もちろん現実でも……そしてデュエルでも。この行為をしている時点で、ぼくはあなたを倒せる。《ブラックフルメタル》をわざわざ奪うまでも無い。」

荒田「………何が言いてえ。」

日暮「………わかりませんか?
サレンダーしろって、言っているんです。このデュエル、組のトップに筒抜けなんでしょう?
…………遊大くんを、そして龍剛院さんを解放してください。これはあなたに言ってるわけじゃない。もうぼくの眼中に、あなたはいない。」

荒田「勘違いも………いい加減にしろよ、ガキが……!!!
てめえに俺は殺せねえ……!!樋本 遊大と同じ末路を辿らせてやろうか……!!!」

荒田は喉を鳴らしながらそう叫ぶと、改めてそのピストルを日暮の頭に突きつけた。ここでの発砲は、この空間全てへの引火を意味する。それ自体が荒田の命を奪うことであり、遊大の奮戦がなければその隙は作れていない。しかし、日暮もまた、遊大の身に何が起きたのかを知らぬ人間であることは事実だった。そして彼は叫ぶ、自分が遊大に突きつけた絶望を、烈火の渦を、その引き金を。


荒田「教えてやるよ……!!
樋本 遊大のデッキはなあ!!あいつの左腕はなあ!!
……………この手で撃ち抜いたんだよ、もう2度とデュエルできねえようになあ!!」






日暮「______。」

日暮はその言葉に、しばらくの間、黙り込んでいた。確かに自分は、このデュエルの開始当初から、確かに煮える腑を抱えるように戦っていた。それは組が自分の本気のデュエルを咎めたから。自分が羨望する輝きを、デュエリストの煌めく瞬間を、奪い取ったから。しかしあくまでそれは、善意を盾にした怒りだったのだと、その言葉で理解した。

今は違う。彼の未来を、彼の道を撃ち抜いたこの男。そんな男の命など、奪わない理由がない。今は善意の盾など必要ない。ただただ憎しみと復讐のためだけに、カードを握る。彼の中に目覚める災いの炎が、目覚めようとしていた。

日暮「…………対立を見定める《相克の魔術師》よ………その鋭利なる力で異なる星を1つにせよ。」

ペンデュラムスケールに発動している《相克の魔術師》。そのカードが輝きを放ち、《真紅眼の鋼炎竜》の持つ7つの星を赤く変えていく。かつてのエンタメデュエリストも使用したその戦法。エクシーズモンスターの持つランクがレベルへと変化し、今ここに、レベル7のドラゴン族モンスターが2対、揃った。

日暮「レベル7となった《真紅眼の鋼炎竜》と、《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》を、オーバーレイ……!!」

荒田「…………!!?」

2体のドラゴンが咆哮し、それぞれの身を光へと変化させながら絡み合っていく。生み出された螺旋は小さな銀河のような渦を作り出し、まるで心臓の鼓動のように、熱を帯びた渦の中心が鳴き爆ぜる。

日暮「………二色の眼の竜よ。深き闇より蘇り、怒りの炎で地上の全てを焼き払え。…エクシーズ召喚……!!
______災い呼ぶ烈火の竜、《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》!!!」


《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》(攻)
★7 闇属性・ドラゴン族/エクシーズ/ペンデュラム/効果
ATK:3000/DEF:2500 [◆1◇]


赤く赤く、血のように染まり切った渦の内が爆ぜ、溶けた炎を飛び散らし振り撒きながら怒りの化身たるその龍が叫びを上げた。はち切れんほどの熱を宿したその翼は、空気を揺らし、直視できないほどに強い光を放っている。二色の眼は荒田をまっすぐに睨みつけ、そしてその魂たるオーバーレイユニットが、砕けた。

日暮「オーバーレイユニットを全て使い、《オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》の効果を発動。
………相手の全てのカードを破壊し、1枚につき攻撃力を200アップさせる……!!」

燃ゆる翼が、フィールドに突き刺さる。幾本にも伸びた炎の柱は、竜の旋回とともに通った道筋全てを癒溶かし、荒田のフィールドを、たった1枚のカードを残して全て飲み込んでいく。まるでそれは真っ赤な溶岩がフィールドへと流れ着いていくかのように、儚く、しかし確かに力強く1枚1枚、それらを灰に帰して行く。


(ATK:3400)《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》


荒田「………だが《強化反射装甲》の効果で、《ブラックフルメタル》は破壊され___

日暮「《相生の魔術師》の効果を発動。
………自分フィールドのモンスター1体を選択し、このカードによる戦闘ダメージがゼロになる代わり、その攻撃力をコピーする。
_____ぼくが対象とするのは、《オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》……!!」


(ATK:3400)《相生の魔術師》


その光景に、荒田は言葉を詰まらせてしまった。並び立った、攻撃力3400のモンスター。彼のこのターンの砦であった《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》を突破できる存在に。そして何よりも、『覇王』の名を冠する怒りと災いの化身に。今まで怯えたことなど何度でもあった。しかしその何とも違う。目の前にいる若干13歳の子供が、煮えたぎるほどの怒りを持って、自分の命を奪おうとしている。怒りを覆してしまうほどに、どうしようもなくそれが恐ろしかった。

日暮「……バトルだ。
《相生の魔術師》……《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》を、尊厳を失った哀しき可能性の竜を、この男の手から救い出せ。」

弓を引いた《相生の魔術師》。攻撃力が並び立つ両者の間で、幾度となく炎の弾丸と矢がぶつかり合い、その度に散らされる火花が、2人の顔をオレンジ色に照らす。静かに憐れみながらも怒る少年と、憤怒すら恐怖と絶望に飲み込まれた男の視線が重なり合う。

(ATK:3400)《相生の魔術師》
(ATK:3400)《レッドアイズ・ブラックフルメタルドラゴン》


荒田「見るんじゃねえ………俺をそんな目で!!!そんな目で!!!」

日暮「………《覚醒の魔導剣士》……ダイレクトアタック。」

ジリジリと歩み寄る日暮。その背後より、長針と短針を模った2本の刃が荒田を目掛けて降り掛かる。《覚醒の魔導剣士》という《奇跡のマジック・ゲート》の2度目の発動を担ったそのモンスター。しかしこの戦いにおける役割はそれだけではない。切り裂かれるLP。これでもう、男は逃げることなどできない。


(ATK:2500)《覚醒の魔導剣士》

(LP :5500)荒田 武久


荒田「はぁ……はぁ……!!!
足りて……ねえじゃねえか!!お、俺の墓地には《真紅眼の黒星竜》があるんだ……次のターンに《真紅眼融合》さえ手札に加えれば、てめえのLPなんざ刈り取れんだよ……!!!」

日暮「…………次のターンなど……ない…!!」

日暮に残されているモンスターは《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》による攻撃のみ。その顎が赤黒く染まり、竜が身を翻す。轟く咆哮と、震える空気が、そのデュエルの終焉を告げようしていた。これは日暮の怒りと、荒田の命の終わりを決着とするデュエル、その事実が、避けようのない結末が、身を揺らす絶望となって荒田の視界に飛び込んでくる。

日暮「わからないフリをしないでくださいよ……このカードは2回攻撃できる。
彼の未来を奪ったこの男に、闇より深い絶望をもたらせ……《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》。
_______憤激の、デストラクション・バースト!!!」

赤く染まった翼がフィールドを裂き、その顎門から黒い炎が迸る。混沌を絵に描いたような、ドロドロに溶け出した怒りの波が2人の間を抉り取り、男の眼前へと迫る。覇王の名を冠する竜王の憤撃。破壊と解放を意味する澱んだ攻撃が、荒田のLPを焼き尽くした。


(ATK:3400×2)《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》

(LP :     0)荒田 武久


ピーー…と、そのデュエルの終幕を告げた2人のデュエルディスク。がっくりと膝をついた荒田と、それを見下ろす日暮。現実的な武力、いや、殺傷能力で拮抗していたからこそ成り立っていたそのデュエルは、日暮の怒りによって終わりを迎えた。ゆらゆらと、彼が手に抱えたライターの炎が、唇を噛み締める荒田の顔を照らす。

日暮「………このデュエル…見ていましたよね。」

デュエルの終幕と同時に日暮が放ったその言葉。それが目の前の男に対してのものではないことなど、荒田自身もわかっていた。そしてそれに答えるように、荒田の左腕からしゃがれた声が響く。

栄咲『_____負けたか……残念だよ、荒田。』

荒田「………親父……申し訳……ございません。」

栄咲『選べよ………俺に殺されるか、目の前の餓鬼に殺されるか。
2つに1つ、もうデュエルの条件は値しちまってんだ。てめえの命で、この不義を拭えよ。』

荒田「…………親父……俺は………!!!」

荒田は、油に塗れたその腕をベストのポケットに突っ込んだ。震える声で、しかし何かを、超えるべきではない何かの門を叩き壊したように、まるで生きている人間ではないように。日暮はその時、初めて人の命の終わりを見ていた。しかし荒田が選択したものは、ディスクの向こうの男が提示した2つのどちらとも違うものだった。

荒田「………死…ねます………組の……いや、こいつを殺すためなら!!!!!」

荒田が抜き出したピストル。日暮は瞬間的に、窓へと走り出す。男が向けたその黒い筒金。確かな銃の声と放たれた弾丸は、日暮の頬をかすめた。しかし同時に、ソリッドヴィジョンなどではない、本当の死の波が襲いかかる。日暮が命の拮抗状態を作り出すために、この部屋の床と壁面の全てに撒いていた揮発性の灯油。弾丸を弾き出すほどの高熱と、それを確かに帯びている放たれた鉄塊。紛れもなく、荒田が恐れていた事態。日暮によって仕掛けられたその罠を逆に利用する形で、荒田はその引き金を引いた。

日暮「_________!!!」

鼓膜を突き破るほどの爆音が鳴り響き、2人を包む全ての空気が熱を持って爆ぜる。
床が、天井が、防火扉とシャッターで区切られたこの校舎3階の全てが、命ある者を焼き焦がす死の空間へと変貌した。



続く
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31 58話 一生向き合うカード 242 2 2024-03-24 -
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28 63話 血の鎖 225 1 2024-05-01 -
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