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HOME > 遊戯王SS一覧 > 52話 モノクロの虹彩

52話 モノクロの虹彩 作:コングの施し

アカデミア合宿の前哨戦となるスターチップ争奪戦。その残り時間h2時間を切り、いよいよ後半戦に差し掛かる。900人をも超えるデュエリストたちが童実野市内でデュエルでデュエルを洗う熾烈な争いを繰り広げる中、その争奪戦を早くも突破するものが現れようとしていた。



11:19


御子柴「…そろそろだなあ。」

閑散とした決闘場。巨大なモニターに映し出される争奪戦の参加者リスト。それを見つめるましろと御子柴皇一。和装の御子柴が腕時計に目を配ってぼっそと呟いた。

ましろ「そだな。さーて第一号は…?」

階段状になっているギャラリー。御子柴の斜め後ろに腰掛けるましろが笑みを浮かべながら決闘場入り口を見つめる。


ガタン…!


開いた扉から姿を見せる、一人の男。
中学生にしては長身で、薄く赤みがかった頭髪は転入当初と比べると少し伸びただろうか。片手にデュエルディスクを、そしてもう片手に脱いだ学ランを携え、まだ誰もいない決闘場1階の中を見回して、ようやくその一歩を踏み出した。

ましろ「来たな!!」

その姿を見るや否や、ましろはギャラリー席を飛び出し、最下段まで駆け降りた。手すりに寄りかかって、その男に届くように大きく喉を鳴らす。

ましろ「スターチップ争奪戦、お前が一着だぞ!…龍平!!」


『大石 龍平 7勝0敗 ☆:10
アオメ市立東雲中学校:1年
決闘王杯・チバ県予選:優勝』


その声に、彼の足が止まる。ましろを見つめるその顔には疑問の色が濃く現れており、口を開く前に無意識に首を傾げた。

龍平「…先生、なんでここに?」

困惑する教え子の姿を前にして、思わず笑みが溢れる。胸元についた名札をバチっと外して、それを精一杯に見えるように突き出した。

ましろ「決闘連盟から呼ばれてんだ!特別講師枠でな!」

そう言うと、後ろの上段に腰掛ける御子柴をビッシと指差した。

ましろ「あそこの!くそジジイが呼ばなくても!!連盟からお呼び出しがかかってんの!!!」

ましろが指差した先にいた人物と、龍平の視線がぶつかる。幾度となくテレビや雑誌の中で目にしてきたその人物。言わずと知れたプロデュエリスト。現役最年長の62歳という体で、15年以上もダイヤ帯で戦い続ける、『ダイヤ帯に住まう物の怪』。

そしてその衝撃に引けを取らなかった、ましろの発言。今、彼女は『特別講師枠』と言った。紛れもなく彼女自身のことを。

龍平「…御子柴皇一…と、先生が特別講師?」

2つの衝撃で、手にじっとりと汗が滲み出ていくのがわかる。

『決闘連盟主催・全国決闘者発掘育成キャンプ』…通称アカデミア合宿。
全国決闘王杯・本戦を前に、本線への出場権を獲得した決闘者たち、すなわち各都道府県予選をベスト4以上で通過した者たちと、その同校の学徒4人までが参加資格を持つ合宿。

すでに実力を持っているものの育成、そして未知なる決闘者の発掘。それらを司るのは現在進行形で行われている『スターチップ争奪戦』と、それを突破したものに待ち受ける『特別講師による指導』。

ここにいる、御子柴を含めた特別講師たち。龍平は、その意味を理解していた。だからこそ、その状況を飲み込むのに手間取っていた。

龍平「特別講師…って、プロデュエリスト、ってことですよね?」

ましろは「ふん!」と腕を組み、得意げに答える。教え子を前にそんな態度をとった彼女を見て、御子柴は大きくため息を吐いた。

ましろ「厳密には、『現役プロデュエリスト』または『通算2期以上、プラチナ帯以上で闘っていた経験のあるデュエリスト』だ!…ふん!!!」

得意げに答えた彼女だが、龍平の傾げた首は戻らない。「聞いてるのはそういうことじゃないよ?」と言わんばかりに、彼女を見る目が心配を孕んだものに変わっていく。

龍平「…いや、だめじゃないですか?」

ましろ「いやいやだから…べつに現役じゃなくてもいいんだって!!」

龍平「…???」

話が食い違っている。明らかに噛み合っていない。教師と生徒の会話にしては稚拙すぎると、そう言わんばかりにため息を吐いて、上段の御子柴がゆっくりと席を降り、ようやく口を開いた。

御子柴「大石龍平…。師がこんなんじゃ困るよなあ?」

呆れたように、手すりにその細い腕をかけ頬杖をつく。細縁の小さな眼鏡で、確かに龍平を見つめていた。

龍平「…御子柴、さん!
俺の名前…ありがとうございます。」

会話の脈絡を忘れてしまうほどに、視線の先にその男の一挙手一投足に注意をはらんでしまう。自分の名前を知られていることに、思わず頭を垂れて礼を言っていた。

ましろ「なーにかしこまってんだよ龍平!おいくそジジイ、口挟んでくんな!!」

御子柴「お前らじゃ話にならないから口を挟んでやってんだよ。」

噛み付くましろの額を、頬杖をついていない方の左手でがっしり掴む。もう目で見ることもなくそれをできていることに、2人の関係の深さのようなものが伝わって来ていた。

龍平(どういう状況だ、これ。
…先生がプロデュエリスト??それにこの2人って??)




同刻


「はぁ…!はぁ…ッ!」

アオメ市立東雲中学校決闘部1年、樋本遊大。決闘者蔓延る街の中で、ディスクを構えて巨大なモンスターに立ち向かう。吐く息が、凍りつくような空気に冷やされて白く濁る。


『樋本 遊大 3勝2敗 ☆:4
アオメ市立東雲中学校:1年
決闘杯・アオメ市予選:ベスト32』

VS

『寺野 大吾 5勝1敗 ☆:7
國賜町立国賜中学校:1年
決闘王杯・ヤマガタ県予選:優勝』


ここまで行ってきたデュエルは5回。初戦の《B・F》使いの蜂谷に続き、緒形、そして《幻煌》使いの奥海幻樹。この3戦を順調に勝ち抜いて、スターチップを順調に6/10までかき集めた。

4戦目、《結界像》相手に、自分の思い通りのデュエルができずに敗北。それを皮切りに、スターチップの差2つで格上の☆7である決闘者《剣闘獣》の剣城闘次に、ペースを崩されまたも敗北。

3歩進んで2歩下がる展開を強いられていた。そしてその乱れた集中力で臨む、この6戦目。相手はヤマガタの県代表、《超越・恐竜》デッキの使い手である寺野大吾。その圧倒的なパワー、そして崩落しつつある体勢を前にして、待っているのは蹂躙のみであった。


TURN:4(メインフェイズ)

樋本 遊大(ターンプレイヤー)
LP   :300
手札   :2
モンスター:《エヴォルテクター エヴェック》(守) 《愉怪な燐のきつねびゆらら》(守)
魔法罠  :《デュアル・アブレーション》
フィールド:

寺野 大吾
LP   :6800
手札   :3
モンスター:《超越竜グレイスザウルス》《ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット》《魔頭砲グレンザウルス》
魔法罠  :《ダブル・フッキング》
フィールド:


遊大「《デュアル・アブレーション》の効果…《エヴェック》をリリースし、墓地から《フェニックス・ギア・フリード》を蘇生!さらにデュアルをリリースしたことで、《グレイスザウルス》を破壊ッ!」


《フェニックス・ギア・フリード》(攻)
☆8 炎属性・戦士族/デュアル/効果
ATK:2800/DEF:2200


遊大がオープンしている《デュアル・アブレーション》。そこから弾ける剛火が、氷塊を纏った巨竜へと降り注ぐ。

ぱちぱち…と、弾ける火花をかき分け、その炎をもろともせずに進軍する《超越竜グレイスザウルス》。その様に表情を歪める。

寺野「…《グレイスザウルス》は、墓地から特殊召喚している限り効果では破壊されない…と、さっきも言ったはずだ。」

遊大(…やべえ…!
今ンままじゃ負ける…絶対に!!集中しろ!!)


寺野大吾…同じ1年とは思えないほどに肩幅が広く、そして腕は大人よりもずっと太い。スポーツ刈りでその体型は野球部や柔道部を彷彿とさせるほどで、手の中のカードたちがずっと小さく見える。そしてブ厚い体に持ち合わせているのは、落ち着き払ったその性格。いや、詳しく言えば「威厳のある寡黙さ」。

手札がたった1枚の遊大に対して、口を開くことなく、表情を揺るがすことなく、黒い縁の大きなメガネで、必死にもがくその姿を見つめている。

遊大(《超越竜グレイスザウルス》は、もとより戦闘破壊されない。そして墓地から蘇生していることで《グレイスザウルス》自身と、《ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット》は効果対象にならずに効果で破壊されない…。)
「…硬すぎんだろ!」

思わず口からこぼれたその言葉。そして手札に残されたのは最後の望みのカード。決死の思いで、それをディスクに差し込む。

遊大「フィールド魔法《仇すれば通図》…相手フィールドの数だけデッキからカードをめくり…1枚を手札に!」

ばららら…と捲れるカードたち、そしてそこの1枚の中に手を伸ばす。そのカードに触れた時、この状況を打破できる可能性を、見出さんとする。

遊大「手札に加えるのは《フェニックス・ギア・ブレード》…!!せめて、その《ギガ・スピノサバット》だけでも!」

炎を纏った騎士、その右手に紅色の大剣が握られる。それをがっしりと構えると、《フェニックス・ギア・フリード》が一直線に飛び出した。

《フェニックス・ギア・フリード》(ATK:3100)
《ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット》(ATK:3000)


その刹那、それまで何も言わなかった寺野が、重たく口を開いた。


寺野「諦めろ。」


遊大「…え?」


その一瞬、何が起きたか理解できていなかった。《フェニックス・ギア・フリード》が放った攻撃。それが《ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット》に直撃した刹那のこと。

爆炎を裂き、紅色の光弾が遊大のLPを貫いた。


遊大「何…された?」

LP:300→288


ピピピピピ…と、その数値をみるみる減らしていく自分のLP。たった300が0に到達するまでの時間が何分にも思えるほどに、生きる道を探すための走馬灯がその遅れてやってくるほどに、あまりに一瞬。


遊大(…あれ、おれまた負けんのか?…何が起きた?
…盤面確認したか?)


LP:288→164


(《ギガ・スピノサバット》…戦闘誘導と破壊を他のカードに肩代わりさせる効果…と、《グレンザウルス》の破壊時の1000ポイントバーン…)


LP:164→49


(くっそ!!…とっくに、詰ませに来てたのかよ…!!)


LP:0



WINNER:寺野 大吾


『寺野 大吾 6勝1敗 ☆:7→8
國賜町立国賜中学校:1年
決闘王杯・ヤマガタ県予選:優勝』

『樋本 遊大 3勝3敗 ☆:4→3
アオメ市立東雲中学校:1年
決闘杯・アオメ市予選:ベスト32』


どっか、と腰を落とす。0になったLP。3つに数を減らしたスターチップ。視界から離れない、デュエルディスクの情報。勝ち進むには、スターチップ10のためには、7点の勝ち越しが必要。しかし今手元に残ったのは3つのスターチップのみ。
開始から2時間を超え、すでに折り返しを迎えているにも関わらず、なんの進展もなく、その3つに出戻り…。


寺野「…何を焦っていた?」


顔を上げたその先。そこには、真っ直ぐに自分を見つめる男の姿があった。中腰になっているにも関わらずその体は大きくて、日光が埋もれて自分の顔が黒く染まっている。

寺野「やっと、こっちを見たな。」

遊大「焦ってた…かもしれねえけど!でも、もう半分切ってて、スターチップ3つとか、焦るのもわかってほしいっていうか…」

寺野「そうか。」

中腰だった寺野は立ち上がった。腰を落とした遊大に手を差し伸べることはなく、代わりにポケットからビニール包装にくるまれた白いチップ状の菓子を2つ取り出した。

その一つを口に放り込み、もう一つを遊大の目の前に差し出す。

寺野「…『おしどりメルクケーキ』だ。他県のやつは知らないか?」

遊大「知ら…ん、けど、ありがとう…。」

遊大は首を傾げながらも、ビニールに入ったそれを手に取り、ぺりりとそれを剥がしていく。白くて思ったよりも硬くて、キャンディなんかともちょっと違った質感。

寺野「…焦っている時は糖を摂れ。…脳が喜ぶ。」

遊大もそれをかぷ、と加えてみると、その意味がわかったような気がした。舌触りや食感なんかは触った通りだが、強い甘さがあって、でもくどくなくて、1秒前よりも視界が晴れていくような、そんな感覚。

寺野「俺も負けた。1回だけだが。」

遊大「…らしいな。6勝1敗って。」

寺野「…勝てない相手ではなかった。だが焦った。ペンデュラム召喚の使い手でな。…経験不足というやつだ。」

そう言いながら、ポケットから『おしどりメルクケーキ』をもう一つ取り出し見つめる。

寺野「…負け続けないようにするためには、頭を切り替えろ。」

と、それだけ言うと、手にあったその菓子を遊大の懐に放り、またアカデミアの方角へとずんずん進む。

遊大「あ…ありがとな!」

遊大は立ち上がる。寺野は振り返ることなく、そしてその声に反応するでもなくただ歩き去っていった。

溶け始めた口の中のメルクケーキが下の上でパリパリとほどけていって、それと一緒に視界の曇りガラスも砕けていくような、そんな気がした。広がった視野で、もう一度ディスクを確認する。

もうすでに2時間を切っていて、後半戦になっている。そして今あるスターチップも3つで勝ち越しが0点。今までやってきたデュエルは全部で6戦。

7点の勝ち越しを目指すならばこれまでよりもさらに疾く、そしてさらに確実に勝利することが求められる。


過酷な闘いになる。


しかしここに立つこの男は、樋本遊大のデュエルの本質は…


「まだ、終わっちゃいないよな!」




11:53


「チッ、しぶてぇな!!」

争奪戦開始から2時間と53分。残り時間は約1時間。そしてここで戦うは東雲中2年《スクラップ》の使い手である阿原克也。

廃材の装甲を鈍く鳴らし、その巨体を進軍させる《スクラップ・ドラゴン》、そして赤銅色の体に淡く蛍光をちらつかせる《トポロジック・ボマー・ドラゴン》を駆り、あるデュエリストとの決闘を繰り広げていた。


『阿原 克也 6勝2敗 ☆:7
アオメ市立東雲中学校:2年
決闘杯・チバ県予選:ベスト32』

VS

『日暮 振士 7勝1敗 ☆:9
参浜市立参浜第一中学校 1年
決闘王杯・チバ県予選:ベスト64』


《トポロジック・ボマー・ドラゴン》、その翼から放たれる衝撃が、双色の眼の竜の元へと降り注ぐ。相対するデュエリストである日暮は、困ったように作り笑いをして「まいったなあ」と呟いた。

ドガガガ…!と、その間もなく日暮のもとに突き刺さる幾千もの光の矢。土埃をはらい、また同じ表情を浮かべた彼が姿を見せた。

日暮「《トポロジック・ボマー》の攻撃宣言時、《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》と《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》の効果を発動させてもらいました。…危なかった。」

ターン数は6。決して短期決戦のデュエルとは言えない。日暮のペンデュラム、阿原のシンクロとリンク召喚を考えれば、その試合はかなり長引いている部類に入る。

阿原「オレはこれでターンエンドッ!」
(…のらりくらりと!
時間は限られてんだ。これじゃ埒が明かねえ!)


TURN:7

日暮 振士 (ターンプレイヤー)
LP   :5600
手札   :3→4
モンスター:《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》
魔法罠  :セット×1
Pゾーン :◆3《解放のアリアドネ》《オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン》8◇
フィールド:

阿原 克也
LP   :7800
手札   :2
モンスター:《スクラップ・ドラゴン》《トポロジック・ボマー・ドラゴン》
魔法罠  :《補給部隊》
フィールド:


日暮「いやあ、すごいな。シンクロにリンク召喚まで。…ぼくも見習わないと。」

日暮は手札のカードを見つめる。そこにある4枚の中から、1枚をひらっと取り出した。しかし、それを盤面に見せはしない。

日暮「…ぼく、嬉しいんですよ。同じチバ県勢だから。」

阿原「は?」

突拍子もなかったその発言に、思わず口が開いていた。しかしこの限られた時間の中に、その話を熱心に聞く気持ちも、間も残されていないのは明白だった。

阿原「オイ、今はデュエル中だろうが。こんなトコで時間使わせんじゃねえよ。」

日暮「そうですね…ごめんなさい。
でも本当に、嬉しい。…遊大くんだけじゃなくて、阿原さんも、ここまで…!」

阿原「…!?」
(こいつ今、『遊大』って言ったのか!?)

その真偽を、意図を探る間もなく、デュエルは進む。止めよと念じても、その舵を握るのは阿原ではないこと、それが身に染みてわかってしまった。

日暮「ぼくはフィールド魔法《天空の虹彩》を発動。」

その手に握った1枚を、口を開いたフィールドゾーンにそっと置く。そして2人の立つ地面に駆け巡る虹色の光。日暮の頭上に聳える巨大な振り子が、ゴウンゴウンと揺らぐ。

日暮「…《天空の虹彩》の効果を発動。セッティング済みの《解放のアリアドネ》を破壊し、さらにデッキから《オッドアイズ・アドベント》を手札に加えます。」

阿原(セッティング済みのPスケールの破壊?
ただでさえペンデュラムは動きが読めねえのに、勘弁してくれって感じだぜ…!!)

日暮「さらに、破壊された《解放のアリアドネ》の効果を発動。デッキから3枚のカウンター罠を公開します。」

ばららら…とシャッフルされる日暮のデッキ。そしてそこから3枚のカードが飛び出し、さらにソリッドヴィジョンに映し出される。

《神の宣告》、《神の通告》、そして《一撃離脱》。
公開された3枚のカードを前に、日暮はもう一度口を開いた。

日暮「この中から、ぼくが手札に加える1枚を選択してください。…カウンター罠を手札に加えるのは強い、けど相手に選ばせるのはぼくもどうかと思ってるんですけどね…。」

確かに日暮の言う通り、カウンター罠を手札に加えるという動きはそれだけで強力だった。それこそ、あらゆる動きを封じ込める《神の宣告》、モンスター効果を止めてしまう《神の通告》など、公開しなければ、相手に選ばせなければゲームの勝敗に大きく関わるようなものが揃っているのは事実。

だが、相手に、阿原に選択権がある以上、悩む余地などなかった。

阿原「オレは、《一撃離脱》を選択!」

日暮はまた、困ったように笑ってそれを手札に加えた。小さく、だが阿原にも聞こえるくらいの声量で「やっぱそうだよね…。」と呟く。

阿原「カウンター罠のサーチ…強力だが流石に穴はある、って感じか?《神の宣告》や《通告》なんかを渡すわきゃねえだろうが。」

日暮「あは、いやぁ、わかってはいたけど、もしかしたら渡してくれないかな〜なんて…。」

阿原「億が一にもねえだろ…あんま舐めなよ?」

日暮「そうですよね…絶対に甘えてるところを見せない。
…やっぱりさっきの話の続き、してもいいですか?」

日暮はまた、デュエルディスクを構えていた左手をぶらりと落とす。阿原が口を開く前に、その答えを言う前に、またぽつぽつと喋り出した。

日暮「さっきも言ったけど、嬉しいんですよ。ぼく。
…刺激し合える仲間がいるから、みんな輝いていくんだろうな、って。」

阿原「はあ?」

日暮「実際、いるじゃあないですか。
プロの血を引いた龍平くん、市内屈指の実力をもった花海律歌さん。そういういい刺激を受けながら、遊大くんや嬢さんという素敵なデュエリストが生まれ、そして阿原さん…あなたも本当に強くなった…。こんなに輝かしいことはない…!!」

ぞっ…と、血の気が引くのを感じた。なぜ市外から部員全員の名前や実力をペラペラと喋れるのか。どれほど決闘者というものを注視しているのか。そして…


阿原「…強く『なった』…だと?」


なぜそんな言い回しができるのか。


日暮「あはは…そんなに睨まないで。
ねえ阿原さん、『ティーンズカップ』って、覚えてますか?」

にこっと笑みを作った日暮が、ぴんと人差し指を立てる。記憶のテープを巻き戻すように、それをくるくると回す。

『ティーンズカップ』…年度末に行われた、アオメ市内外の中学生が出場権をもった大会。公式戦ではないし、形式的には練習試合の延長戦に近いものであった。確かに、阿原と律歌、そしてもう1人、昨年まで部に在籍していた拳斗は、大会に出場している。しかし…

阿原「『ティーンズカップ』…あれは去年の冬の大会だ…!!1年のてめえが知ってるはずが…」

と、そう言いかけたとき、ドロドロとした記憶が脳裏を凄まじい勢いで走っていった。



ティーンズカップ4回戦を終え、拳斗のもとに行った時にみた光景。ぽさっとした髪に色白の顔。幾体ものドラゴンを瞬く間に展開し、拳斗を倒したあの決闘者。


拳斗の最後のデュエルの幕を引いたその男。


『…ぼくは、あなたの輝いているところがみたい。』


その言葉が、その声が、現実と記憶の狭間でこだまする。揺らぐ二つの声が、目の前に立っているデュエリストの輪郭をはっきりと映し出してゆく。


阿原「てめえ、あんときウチの部長を!!」

脳裏で黒い笑みを浮かべる少年と、目の前の決闘者の姿がぴったりと一致した。手に握ったカードが汗を帯びていく。心音が耳を塞ぐほどにうるさく叫ぶ。

彼の、熱鉄のような怒りが込められた視線が、日暮のそれと重なり合った。静かにそれをさっした日暮は、また口を開いた。

日暮「よかった…思い出せたんですね。
あの時は、挑発するようなことを言って、悪いと思っています。すいませんでした。
…でも阿原さんは、あの時よりもずっと強くなってる。それはきっと素敵なことで…」

濁流のように溢れかえるいくつもの言葉。その中で、流れに抗うように、阿原の言葉が響いた。

阿原「うるせえ…」

日暮「…!」

阿原「うだうだと…デュエルの途中だろうが!
…だがいいぜ。そんなに強くなったヤツのデュエルが見てえなら、嫌でもその目ん玉に捩じ込んでやらァ!」

メラメラと燃える炎のように、阿原の声が熱を帯びていく。じりりと足を前に踏み出し、指を鳴らした。対する日暮、その様を見た彼の瞳から、一抹の『申し訳のなさ』のような、弱みのようなものが静かに抜けゆく。

日暮「わかりました。…じゃあ超えてきてくださいね。」

日暮の手から、1枚のカードがディスクにこぼれ落ちる。そこに記されているのは、《オッドアイズ・アドベント》。

日暮「…儀式魔法《オッドアイズ・アドベント》を発動。
あなたが言ったことですよ…ちゃんと、見せてください…!」

《天空の虹彩》の、7色の光が走るそのフィールドが、色を失いモノクロの景色へと塗り変わっていく。


ドクン…


胎動する、黒い気配。もはや魔の者とすら思えるほどの、色彩を持たない竜の王が、今ここに目覚めようとしていた。


続く
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ランペル
剣城とのデュエルにも勝利を納めた龍平は、瞬く間に追加の1勝をもぎ取り、1番手でスターチップ争奪戦を終える!そんな彼を出迎えたのは顧問であるましろ先生。しかしここに居るという事は隣に座っていたプロデュエリスト御子柴と同じく特別講師枠で居るという事。まさかの元プロデュエリストだったましろ先生は実に得意げですねぇ。元師弟の絡みも見ものです。

遊大は最初の好調とは裏腹に2連敗を期し、焦燥感を感じながらの6戦目。その相手である恐竜使い寺野を相手にも無念の敗北。どっしりと構えた彼から渡されたおしどりメルクケーキ。やはり疲れた体には糖分!糖分が全てを凌駕する!2時間もの時間を使っての、振り出しに戻されるのは焦らずにはいられませんが、焦る事はデュエルの勝敗に直結してしまいますからねぇ…。ここで再起を図ってもらいたい所!

さらーに、2敗しつつも順調に勝ち星を増やしている阿原は、日暮れとのデュエル中!相変わらずの日暮れの期待が込められたデュエルですが、そんな彼は1年の身でありながら去年の冬の大会の存在を認知し、阿原のデュエリストとしての実力の高まりを感じ取っている様子…。そんな彼の正体は拳斗をデュエルで打ち倒した張本人。そんな彼の飄々としつつも期待の込められた身勝手さに阿原もイライラが募ってますねぇ…。

やはりみんなが各所で戦って進んでいく感じがとてもいいですねぇ。登場したキャラが別のキャラとデュエルを繰り広げている場面も見えて来て、さらに楽しくなってきました!今後のみんなのデュエルの行く末が気になります! (2024-02-10 16:04)

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13 39話 龍の瞳に映るのは その① 248 3 2023-10-22 -
16 40話 龍の瞳に映るのは その② 212 2 2023-10-26 -
28 41話 花と薄暮 252 2 2023-10-30 -
20 42話 燃ゆる轍 その① 206 2 2023-11-07 -
16 43話 燃ゆる轍 その② 169 1 2023-11-09 -
13 44話 襷 167 1 2023-11-14 -
14 45話 星を賭けた戦い 232 3 2023-11-17 -
14 46話 可能性、繋いで その① 216 2 2023-11-28 -
19 47話 可能性、繋いで その② 173 2 2023-12-07 -
15 48話 揺れろ。魂の… 146 2 2023-12-28 -
16 49話 エンタメデュエル 150 2 2024-01-07 -
17 50話 乗り越えろ! 162 3 2024-01-26 -
29 51話 Show Me!! 144 0 2024-02-01 -
16 52話 モノクロの虹彩 158 1 2024-02-08 -
11 53話 激昂 58 0 2024-02-22 -

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