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35話 雨中の戎 その① 作:コングの施し
幕を開けた全国決闘王杯・市内予選。決闘者たちが鎬を削る中、遊大はそのド陸の成果を遺憾なく発揮し、ついにベスト16・県大会出場を賭けた4回戦に臨む。対戦相手はここまで1-1の因縁のライバル、光妖中の《忍者》デッキの使い手、『斬隠 輝久』だった。
~
高鳴る。どくんどくん。
ここまで3回、ガムシャラに自分のデュエルを突き通してきた。150人を超える出場者が、128人、64人、そして32人…。トーナメントというのは恐ろしいもので、最初であればあるほどかけられる篩の目が大きい。半分、半分と減っていく決闘者たちをかき分けて、少年は県大会への出場条件となる4回戦へと臨む。
初夏までに薄く汚れがついた通学用のランニングシューズをぱたぱたと鳴らして、扉を開く。もうっ、と会場の熱気が体へと流れてくる。深く息を吐きだして足を踏み入れようとしたとき、自分の胸が忙しく鳴っていることに気づいた。高鳴る胸、火照る身体とは裏腹に、先ほどまで雲一つなかった空は灰色に染まっていて、なんだか気味が悪く思えた。
「大丈夫だよな…」と、肩にかけたサブバックの中を覗き込む。赤いデッキケース、デュエルディスク。
「うん。大丈夫。」と、今度こそ会場に足を踏み入れようとしたとき、肩をポン、と叩かれる。
「やあ。久しいね。」
振り返った先に彼はいた。ふわふわの金色の髪に、暗い紫色のブレザーとワイシャツを崩して、この熱気の中でもまったく暑苦しさを感じさせない。斬隠家相伝の《忍者》デッキの使い手、斬隠輝久。次なる対戦相手と、図らずも会場前でばったりと会ってしまった。
遊大「…お、おうっ!久しぶり!よろしくなっ!」
突然話しかけられてなのか緊張なのか、声がうまく出せなかった。額に汗を浮かべている自分に対して、まったく揺らぎを見せない輝久。自分の胸がどくどく言っているからこそ、そのギャップに焦りを感じてしまった。
輝久「じゃあ、僕は先にデュエルステージに向ってるね。また後で。」
手をひらひらっとさせて輝久は遊大の前を歩く。前の大会でのじめっとした印象とは打って変わって、何か肩の荷が降りたような、一皮剥けたような、そんな印象が見受けられた。対して、サブバックを漁った自分の手を見つめる。そこにある手は小さく震えていた。
遊大「なに緊張してんだ…?」
~
観客席、いつものごとく東雲中決闘部顧問のましろはどっかりと席に座っていた。トーナメント表のプリントとタブレットを隣の座席に置いて、おっかなびっくりな足取りで会場に入った遊大に目を向ける。
ましろ「…そりゃ緊張もするか。」
1年生の彼からしてみれば人生初の県・全国へと続く大会。その県大会出場を賭けた4回戦に臨むのだ。まして、ここまであまり危なげなく勝ち星を取ってきた今大会の彼にとって、これまで1-1の戦績を刻んだライバルの斬隠輝久の実力は、遊大の中でどんどん肥大化していることは彼女の想像に難くなかった。
律歌「ふ~。あぶなかった~!」
コツコツ、と4回戦を終えて県大会への切符を手にした律歌がましろと席を1個空けて座る。
ましろ「…お疲れ。こっからみんな強いぞ。」
律歌「いやいや4回戦もつらかったですよ。《神樹のパラディオン》の破壊耐性が無かったら負けてたんだから!」
律歌はそういうとブレザーの下に着込んだパーカーのフードをひょい、と頭にかぶせて、同じく会場を歩く遊大に目を向ける。
律歌「…先生が初めて県大会の決定を賭けた試合に出た時って、どんな感じでした?」
ましろ「どんな感じ…。一言でいえば、『超でかいプレッシャー』かな。」
ぽつ、と観客席の後ろの窓を雨粒が叩く。
ましろ「わたしが初めてそういう場面に立ったのは中2の頃だったけど、結局負けたし、なんで負けたのか、どうやったら勝てたのかが3ヶ月くらいわからなかった気がする。」
律歌「なまじ、ここまで凄く頑張ってきてるから、もしかしたらここが大きな壁になるかもしれないんですよね。」
ましろは隣の座席のタブレットをひょいひょいっといじり、『斬隠輝久』の名前が記されたページを開いた。
ましろ「今まで『才能』に驕り、しかし中1までに確かな実績を積んできた相手だ。」
律歌「…強い人にはちゃんと理由がある、ってことですか?」
ましろ「ああ。強者が強者たる所以は、本人が知り得ないところから、見えない場所からその強さを支えている。これはいつの時代も揺るがないもんだよ。」
少し前まで、ひとつ、ふたつ、と数えられるほどゆっくりと窓を叩いていた雨粒は、もうぶつかっているということすら忘れさせるほどに激しく降り始めていた。
~
じりり、と、2人のデュエリストが対峙する。
遊大は高鳴った胸を鎮めるように、大きくはあっと息を吐く。依然として鼓動は収まらない。会場を叩く雨音も、なんだかいつも以上にうるさく感じて、柄にもなく緊張してしまっている自分を煽っているみたいに思えてしまった。
かき消すように、大きく喝を入れる。
遊大「…いくぞ!!」
その言葉を待っていた、と言わんばかりに手慣れた所作で輝久がデュエルディスクを装着する。差し込んだデッキがディスクのオートシャッフルシステムによって素早くかき乱される。
輝久「ここまで1-1。決着をつけようか!」
「「デュエル!!」」
決闘の始まりを告げる合図とともに、ソリッドヴィジョンが足元から展開され、目に映る世界が少しずつ色を変える。
『あなたの先攻です。ドローフェイズに移行してください。』
無機質な電子音が、遊大の先攻を告げる。覗いた先にある手札で展開できる盤面をできるだけ早く解析する。
遊大「…俺の先攻!!」
TURN:1
樋本 遊大 (ターンプレイヤー)
LP:8000
手札:5
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:
斬隠 輝久
LP:8000
手札:5
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:
遊大「まず一発目!!
俺は、手札から《トレード・イン》を発動!手札からレベル8の《フェニックス・ギア・フリード》を墓地に送り、2枚ドローする!」
手札から墓地に炎の騎士のカードが流れる。遊大が小さく『呼び出してやるからな』と呟く。間髪入れずに次のカードをプレーする。
遊大「さらに、俺は手札から永続魔法《切り裂かれし闇》を発動!」
その宣言と同時にそのカードがソリッドヴィジョンによって映し出される。輝久はチラッとそのテキストを確認した。
《切り裂かれし闇》(永続魔法)
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分がトークン以外の通常モンスターの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。
(2):以下のいずれかの自分のモンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。その自分のモンスターの攻撃力はターン終了時まで、その相手モンスターの攻撃力分アップする。
●レベル5以上の通常モンスター
●通常モンスターを使用して儀式召喚したモンスター
●通常モンスターを素材として融合・S・X召喚したモンスター
輝久(《切り裂かれし闇》…。通常モンスターをサポートする効果か。問題はデュアルが通常モンスター扱いになることだな。しかしそこを掻い潜るのは僕のデッキでは厳しいな…。)
「さあ、召喚しなよ!デュアルモンスターを!」
輝久の顔には笑顔が灯っている。対する遊大も、額に汗を流しながら笑って見せた。同時に、自分の中でモヤっとした何かが疼くのを感じた。心の中に疼くモヤモヤは、会場に入った時から積もり積もっているのかもしれない。作った笑顔が引き攣る。
遊大「通常召喚!《炎妖蝶ウィルプス》!
さらに通常モンスター扱いのデュアルを召喚したことで《切り裂かれし闇》の効果を適応して、デッキから1枚ドロー!」
炎の翼をはためかせ、ひらひらとフィールドに蝶のモンスターが舞い降りる。
《炎妖蝶ウィルプス》(攻)
☆4 炎・昆虫族/デュアル/効果
1500/1500
輝久「ウィルプス…。確か墓地からデュアルモンスターを蘇生する効果だったね。」
遊大「手札から《二重召喚》を発動し、《炎妖蝶ウィルプス》を再度召喚!そんで効果発動!」
ウィルプスの炎が激しく燃え盛る。肥大化した火炎の翼をぐんぐんと羽ばたかせ、フィールドの上空へと飛び、瞬く間に弾ける。
輝久「来るね…!」
遊大「ウィルプスの効果で墓地のデュアルを再度召喚状態で特殊召喚する!!
不死鳥の翼宿し戦士よ。その剣で闇を切り裂き、色褪せた世界を赤く塗り上げろ!
《フェニックス・ギア・フリード》!!」
弾けた炎の中より、足音が聞こえる。鋼鉄の鎧でゆっくりと地面を踏み締め、焔光を反射してギラギラと輝く剣で火の幕を切り裂く。
フェニックス・ギア・フリード(攻)
☆8 炎・戦士族/デュアル/効果
2800/2200
遊大(《切り裂かれし闇》があれば確実に毎ターン1ドローずつアドバンテージを得ることができる…!それにこの2枚のカードがあれば…!)
「俺は、カードを2枚セットし、ターンを終了する!」
そう言って、《デュアル・アブレーション》と《デュアル・スパーク》の2枚のカードを叩きつけた。
輝久「1ターン目から再度召喚状態の《フェニックス・ギア・フリード》を展開してくるとは、やっぱりさすがだね。僕も負けてられないな。」
勇ましげに遊大を見つめるが、以前としてその顔には笑顔があった。その言葉を返そうとしたその時、遊大はある異変に気づく。
『負けたくない。』
自分の中で小さく呟いたその言葉。純粋な気持ちだった。爽やかに叫ぶことなんてできなかった。ターンの初めに作った笑顔も、すでに表情からは消えていた。
この1ターンで作った盤面。それが『突破されないように祈る自分』が心の中にポツンといることだけが頭に浮かんだ。
4回戦。思えば当然のことであった。ここで勝てば否応なく県大会出場。その先に行けば全国の景色が見れる。早くこの1戦に勝ち星をつけて安心したい。心の中でそれを言語化したわけではないが、体を走るその焦燥は、『ここを勝って安心したい。』という心情が起因していることは、冷静になればすぐわかりそうなものであった。
輝久「僕のターン!」
TURN:2
斬隠 輝久 (ターンプレイヤー)
LP:8000
手札:5→6
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:
樋本 遊大
LP:8000
手札:1
モンスター:《フェニックス・ギア・フリード》(攻)
魔法罠:《切り裂かれし闇》 セット×2
フィールドゾーン:
輝久「じゃあ行くよ。僕は手札から《宙の忍者-鳥帷》の効果を発動!」
遊大「…!?」
全身に走る嫌な予感。
明らかに聞いたことのないカード名。確かにこれまでのデュエルで使っていないだけのカードだったのかもしれない。しかし、全く新しいカードだとしたら…。
輝久「《宙の忍者-鳥帷》自身を墓地に送り、手札から《忍者》モンスターを裏側または表側守備表示で特殊召喚する!
来い!《忍者マスター HANZO》!」
黒い羽がフィールドを包み込む。見え隠れする輝久の横にいつの間にかそのモンスターは姿を見せていた。
《忍者マスター HANZO》(守)
☆4 闇・戦士族/効果
1800/1000
遊大「《忍者マスターHANZO》…確か特殊召喚時にデッキから《忍者》モンスターを手札に加える効果だったよな。」
輝久「よく覚えてるね。僕は特殊召喚に成功したHANZOの効果で、デッキから《蟲の忍者ー蜜》を手札に加える。」
遊大「…っ!!」
遊大に頬に一筋の汗がつーっと流れる。やっぱり杞憂ではない。明らかにデッキを強化してきている。大会に臨むにあたって、当たり前なことなのかもしれない。しかしそんなことを考えることも想定することもできないほどに、彼は焦っていた。
『負けたくない。』と。
輝久「さらに僕は手札に加えた《蟲の忍者ー蜜》の効果を発動!
自分フィールドに《忍者》モンスターまたは裏側守備表示のモンスターが存在する場合に、手札から自身を特殊召喚するよ!」
どろり、と黄色い液体が溢れ出す。大きな蜂の針を思わせる鎧を濡らし、女の忍がフィールドに姿を現す。
《蟲の忍者ー蜜》(守)
☆2 水・昆虫/効果
200/2100
輝久「…よし。
まずは小手調べだ。僕は《忍者マスターHANZO》と《蟲の忍者ー蜜》をリンクマーカーにセット!!」
2体の忍者は赤い閃光と共にリンクマーカーへと収束し、また1体の戦士の影が光の奥より姿を見せる。
遊大「あのモンスターかっ!」
輝久「リンク召喚!リンク2!《忍者マスター SAIZO》!」
《忍者マスター SAIZO》(攻)
LINK–2 光・戦士族/リンク/効果
2000・↙︎↘︎
遊大(《忍者マスターSAIZO》…確かデッキから《忍法》カードを持ってくるモンスターだったよな…。明らかに輝久が使ってくる《忍者》は新しい奴らだ!ならあるいは…!)
輝久「《忍者マスターSAIZO》の効果を発動!僕がデッキから手札に加えるカードは《忍法装具 鉄土竜》!!」
遊大「やっぱり《忍法》カードまで強化してきてるのか!」
輝久「まあね!言っただろ!僕も負けたくないんだよ!
僕は手札から装備魔法《忍法装具鉄土竜》を、君の《フェニックス・ギア・フリード》を対象に発動!!」
遊大「!?」
相手のモンスターに装備カードを装備するという行為。一瞬、頭がパッと真っ白になる。今まで自分のモンスターを強化するためだけに使ってきた『装備魔法』という概念が、根底からガラリと崩れる。
止まってしまった頭を回復する暇も与えず、百足を模した鋼鉄の武具が《フェニックス・ギア・フリード》の体を締め付ける。
《フェニックス・ギア・フリード》ATK:2800→3300
遊大「俺のモンスターの攻撃力を上げた…?
だがこの瞬間!《フェニックス・ギア・フリード》の効果を発動!相手が魔法カードを発動したことで、墓地からレベル4以下のデュアルモンスターを特殊召喚できる!
蘇れ!《炎妖蝶ウィルプス》!」
《炎妖蝶ウィルプス》(守)
☆4 炎・昆虫族/デュアル/効果
1500/1500
輝久「多少の犠牲は仕方ないね。使うといい!《切り裂かれし闇》の効果を!」
遊大「言われなくても…!《切り裂かれし闇》の効果!通常モンスター扱いのデュアルが特殊召喚されたことで1枚ドロー!」
焦燥の中で思考を巡らせる。自分が作った盤面と、そこに差し込まれたイレギュラー。
遊大(予想外の装備魔法の発動…。だがこれで、《デュアル・スパーク》の発動条件が整った!2手!フルで妨害を回せる!)
輝久「…なんとかしたいのはそのモンスターだけど、君のデッキのことだ。魔法罠がモンスターの存在に依存しているのであれば、それを潰させてもらうよ!
僕は《忍法装具鉄土竜》の効果を発動!墓地から《忍者マスターHANZO》を除外し、《フェニックス・ギア・フリード》を破壊する!」
その掛け声と共に鋼鉄の百足の装具が《フェニックス・ギア・フリード》を締め付ける。しかしここで、『遊大の中』で、輝久の狙いが定まらなくなる。
遊大(…!?
なぜ装備した後に破壊する効果を使う?破壊する効果だけだったらあいつのフィールドの《忍者マスターSAIZO》に装備した方がいいんじゃないのか!?
なんにせよ、ここで《フェニックス・ギア・フリード》を失う訳にはいかない!)
「俺はこの瞬間に永続罠《デュアル・アブレーション》を発動!手札を1枚捨て、《フェニックス・ギア・フリード》をリリース!」
鎧が炎で弾け、その熱波が《忍者マスターSAIZO》眼前まで迫る。
遊大「さらに墓地から《フェニックス・ギア・フリード》をもう一度特殊召喚!再度召喚したデュアルをリリースしたことで、フィールドのカードを1枚破壊!
《忍者マスターSAIZO》を破壊するっ!」
熱波がフィールドを包み込み、輝久の盤面からカードが消えた、はずだった。少なくとも遊大はそう考えていた。
遊大(ただのミスか…?《フェニックス・ギア・フリード》はこれで通常モンスター扱いになったし、《切り裂かれし闇》の戦闘補助も受けられる。
何よりあいつの場にはもうモンスターが…)
『いない』と心の中で言いかけ、フィールドに目を向ける。処理したはずのフィールドには、《忍者マスターHANZO》の姿があり、冷ややかな何かが背筋を走るのを感じた。
輝久「僕は破壊された《忍者装具鉄土竜》の効果で、除外状態の《忍者マスターHANZO》を特殊召喚した。さらに効果を発動させてもらうよ。」
《忍者マスター HANZO》(攻)
☆4 闇・戦士族/効果
1800/1000
遊大「しまった…!」
(《忍者装具鉄土竜》の狙いは、除外状態の《忍者マスターHANZO》をもう一度呼び出すことだったのかよ!!)
顔色を表に出さないように、緊張を悟られないようにしていた遊大の体制が崩れる。
輝久「おっと、苦しかったかな?
僕はデッキから《獣の忍者ー獏》を手札に加え、その効果を発動!」
《獣の忍者ー獏》(攻)
☆3 風・獣族/効果
1500/600
ざざ、と砂嵐が巻き起こる。可愛らしい犬のモンスターが、降り積もった砂に足跡をつける。踏みつけた足跡が黒く滲み、黒染めの砂は巨大な獣の影を描く。
輝久「自身を特殊召喚し、墓地に存在する《忍者装具鉄土竜》を手札に加えさせてもらうよ。」
輝久の狙いを見失い、相手に一歩先手を取られた。「しまった」と口にしてしまった背中に汗がじんわりと滲む。妨害の一つ躱された、というよりもこちらの妨害の1つを使わされてしまった。
そんな彼の視線の先にあるのは《デュアル・スパーク》のカードだった。
遊大(残された妨害はこの1枚だけ…。あいつはまだ『通常召喚権』を使ってない。このカードの使い方がおそらく勝敗を分ける…!)
輝久「悪いね。ここまで荒らしておいてなんだが、まだまだ行かせてもらうよ!
通常召喚!《銃の忍者ー火光》!」
火花がばちばちっと飛び散る。筋肉質な女性の忍びが、ささっと輝久の横に控える。背中に巨大な鉄の筒を背負い、膝を落としている。
《銃の忍者ー火光》(攻)
☆4 炎・戦士族/効果
1600/2000
輝久「《銃の忍者ー火光》の効果を発動!
墓地から《忍者》モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚する!再び僕の元へ!《蟲の忍者ー蜜》!」
《蟲の忍者ー蜜》(裏・守)
☆2 水・昆虫/効果
200/2100
遊大「裏側守備表示で特殊召喚…?」
輝久「これが本当の忍者の戦い方。
このデッキは本来裏守備を多用するデッキだからね。
君がそれを知らなくても無理はないよ。」
遊大「本当の忍者…。」
(やっぱりだ。確実にデッキは強くなっている。裏守備を多用するテーマ、と言いながらも確実に展開力も上がってる…!)
輝久が言ったように、遊大は《忍者》デッキを『知らない』。だからこそ、1枚の妨害のカードをどこで使うのか、嵐のように考えを巡らせる。
輝久「いろいろ考えているみたいだけど、どこまで食いつけるかな…!行くよ!覚悟!」
そう言うと、エクストラデッキがガチャリと開く。輝久が手を伸ばしたその先、《機甲忍者ブレード・ハート》のカード。
輝久「僕はレベル4の《銃の忍者ー火光》と《忍者マスター HANZO》でオーバーレイ!2体の戦士族で、オーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!
斬り結ぶ魂よ!降りよ!《機甲忍者ブレードハート》!」
《機甲忍者ブレードハート》(攻)
★4 風・戦士族/エクシーズ/効果
2200/1000 ORU:2
遊大「来たか…!お前のエースモンスター!《機甲忍者ブレードハート》!」
《機甲忍者ブレードハート》。かつて遊大と輝久が戦った際に使われた輝久のエースモンスター。遊大も知っているモンスターであった。そしてその効果は…。
遊大「忍者1体の2回攻撃を可能にする…だよな!
だが俺のフィールドにはレベル5以上の通常モンスターの戦闘時に相手モンスターを破壊する《切り裂かれし闇》がある!
《デュアル・アブレーション》の効果で再度召喚状態を解除した《フェニックス・ギア・フリード》は攻撃力を超えたとしても倒せないはずだ!」
輝久は動じない。ただ一言、『知っているよそんなことは。』とだけ呟く。
遊大「…だったら!」
輝久「言っただろ!君はまだ『本当の忍者』デッキを知らない!」
そう叫んだ時、再び輝久のデュエルディスクのエクストラデッキが音を立てて稼働する。
輝久「僕はここから!融合召喚を行う!!」
遊大「なっ…!融合の魔法カード無しでっ!?」
輝久は素早く2枚のカードを墓地に送り、エクストラデッキの1枚のカードを掴み取る。同時に《獣の忍者ー獏》と裏側表示だったはずの《蟲の忍者ー蜜》が光の粒子となり、舞い上がったそれらが混じり合う。
輝久「フィールド上の種族の異なる《忍者》2体を墓地に送り、このカードはエクストラデッキから特殊召喚できる!
その魂、戦場を駆け!その術!いま境地に達する!
融合召喚!《戎の忍者-冥禪》!!」
《戎の忍者-冥禪》(攻)
☆6 闇・戦士族/融合/効果
2500/1500
混ざり合った光は瞬く間に雷となりフィールドを勢いよく貫く。爆発するような衝撃が走り、舞い上がる煙を切り裂くように、そのモンスターはフィールドに降り立った。
遊大(融合効果ナシでの融合召喚…!無法にもほどがあるだろ…!)
細くも紅い忍者刀をしっかりと握りこんだ腕。『戎』の名を持つ究極の忍びが、遊大と対峙する。
幕を開けた戎。戦いはまだ終わらない。降りしきる雨が会場をやかましく叩く中、遊大もまた次なるカードを構えるのであった。
続く
~
高鳴る。どくんどくん。
ここまで3回、ガムシャラに自分のデュエルを突き通してきた。150人を超える出場者が、128人、64人、そして32人…。トーナメントというのは恐ろしいもので、最初であればあるほどかけられる篩の目が大きい。半分、半分と減っていく決闘者たちをかき分けて、少年は県大会への出場条件となる4回戦へと臨む。
初夏までに薄く汚れがついた通学用のランニングシューズをぱたぱたと鳴らして、扉を開く。もうっ、と会場の熱気が体へと流れてくる。深く息を吐きだして足を踏み入れようとしたとき、自分の胸が忙しく鳴っていることに気づいた。高鳴る胸、火照る身体とは裏腹に、先ほどまで雲一つなかった空は灰色に染まっていて、なんだか気味が悪く思えた。
「大丈夫だよな…」と、肩にかけたサブバックの中を覗き込む。赤いデッキケース、デュエルディスク。
「うん。大丈夫。」と、今度こそ会場に足を踏み入れようとしたとき、肩をポン、と叩かれる。
「やあ。久しいね。」
振り返った先に彼はいた。ふわふわの金色の髪に、暗い紫色のブレザーとワイシャツを崩して、この熱気の中でもまったく暑苦しさを感じさせない。斬隠家相伝の《忍者》デッキの使い手、斬隠輝久。次なる対戦相手と、図らずも会場前でばったりと会ってしまった。
遊大「…お、おうっ!久しぶり!よろしくなっ!」
突然話しかけられてなのか緊張なのか、声がうまく出せなかった。額に汗を浮かべている自分に対して、まったく揺らぎを見せない輝久。自分の胸がどくどく言っているからこそ、そのギャップに焦りを感じてしまった。
輝久「じゃあ、僕は先にデュエルステージに向ってるね。また後で。」
手をひらひらっとさせて輝久は遊大の前を歩く。前の大会でのじめっとした印象とは打って変わって、何か肩の荷が降りたような、一皮剥けたような、そんな印象が見受けられた。対して、サブバックを漁った自分の手を見つめる。そこにある手は小さく震えていた。
遊大「なに緊張してんだ…?」
~
観客席、いつものごとく東雲中決闘部顧問のましろはどっかりと席に座っていた。トーナメント表のプリントとタブレットを隣の座席に置いて、おっかなびっくりな足取りで会場に入った遊大に目を向ける。
ましろ「…そりゃ緊張もするか。」
1年生の彼からしてみれば人生初の県・全国へと続く大会。その県大会出場を賭けた4回戦に臨むのだ。まして、ここまであまり危なげなく勝ち星を取ってきた今大会の彼にとって、これまで1-1の戦績を刻んだライバルの斬隠輝久の実力は、遊大の中でどんどん肥大化していることは彼女の想像に難くなかった。
律歌「ふ~。あぶなかった~!」
コツコツ、と4回戦を終えて県大会への切符を手にした律歌がましろと席を1個空けて座る。
ましろ「…お疲れ。こっからみんな強いぞ。」
律歌「いやいや4回戦もつらかったですよ。《神樹のパラディオン》の破壊耐性が無かったら負けてたんだから!」
律歌はそういうとブレザーの下に着込んだパーカーのフードをひょい、と頭にかぶせて、同じく会場を歩く遊大に目を向ける。
律歌「…先生が初めて県大会の決定を賭けた試合に出た時って、どんな感じでした?」
ましろ「どんな感じ…。一言でいえば、『超でかいプレッシャー』かな。」
ぽつ、と観客席の後ろの窓を雨粒が叩く。
ましろ「わたしが初めてそういう場面に立ったのは中2の頃だったけど、結局負けたし、なんで負けたのか、どうやったら勝てたのかが3ヶ月くらいわからなかった気がする。」
律歌「なまじ、ここまで凄く頑張ってきてるから、もしかしたらここが大きな壁になるかもしれないんですよね。」
ましろは隣の座席のタブレットをひょいひょいっといじり、『斬隠輝久』の名前が記されたページを開いた。
ましろ「今まで『才能』に驕り、しかし中1までに確かな実績を積んできた相手だ。」
律歌「…強い人にはちゃんと理由がある、ってことですか?」
ましろ「ああ。強者が強者たる所以は、本人が知り得ないところから、見えない場所からその強さを支えている。これはいつの時代も揺るがないもんだよ。」
少し前まで、ひとつ、ふたつ、と数えられるほどゆっくりと窓を叩いていた雨粒は、もうぶつかっているということすら忘れさせるほどに激しく降り始めていた。
~
じりり、と、2人のデュエリストが対峙する。
遊大は高鳴った胸を鎮めるように、大きくはあっと息を吐く。依然として鼓動は収まらない。会場を叩く雨音も、なんだかいつも以上にうるさく感じて、柄にもなく緊張してしまっている自分を煽っているみたいに思えてしまった。
かき消すように、大きく喝を入れる。
遊大「…いくぞ!!」
その言葉を待っていた、と言わんばかりに手慣れた所作で輝久がデュエルディスクを装着する。差し込んだデッキがディスクのオートシャッフルシステムによって素早くかき乱される。
輝久「ここまで1-1。決着をつけようか!」
「「デュエル!!」」
決闘の始まりを告げる合図とともに、ソリッドヴィジョンが足元から展開され、目に映る世界が少しずつ色を変える。
『あなたの先攻です。ドローフェイズに移行してください。』
無機質な電子音が、遊大の先攻を告げる。覗いた先にある手札で展開できる盤面をできるだけ早く解析する。
遊大「…俺の先攻!!」
TURN:1
樋本 遊大 (ターンプレイヤー)
LP:8000
手札:5
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:
斬隠 輝久
LP:8000
手札:5
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:
遊大「まず一発目!!
俺は、手札から《トレード・イン》を発動!手札からレベル8の《フェニックス・ギア・フリード》を墓地に送り、2枚ドローする!」
手札から墓地に炎の騎士のカードが流れる。遊大が小さく『呼び出してやるからな』と呟く。間髪入れずに次のカードをプレーする。
遊大「さらに、俺は手札から永続魔法《切り裂かれし闇》を発動!」
その宣言と同時にそのカードがソリッドヴィジョンによって映し出される。輝久はチラッとそのテキストを確認した。
《切り裂かれし闇》(永続魔法)
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分がトークン以外の通常モンスターの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。
(2):以下のいずれかの自分のモンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。その自分のモンスターの攻撃力はターン終了時まで、その相手モンスターの攻撃力分アップする。
●レベル5以上の通常モンスター
●通常モンスターを使用して儀式召喚したモンスター
●通常モンスターを素材として融合・S・X召喚したモンスター
輝久(《切り裂かれし闇》…。通常モンスターをサポートする効果か。問題はデュアルが通常モンスター扱いになることだな。しかしそこを掻い潜るのは僕のデッキでは厳しいな…。)
「さあ、召喚しなよ!デュアルモンスターを!」
輝久の顔には笑顔が灯っている。対する遊大も、額に汗を流しながら笑って見せた。同時に、自分の中でモヤっとした何かが疼くのを感じた。心の中に疼くモヤモヤは、会場に入った時から積もり積もっているのかもしれない。作った笑顔が引き攣る。
遊大「通常召喚!《炎妖蝶ウィルプス》!
さらに通常モンスター扱いのデュアルを召喚したことで《切り裂かれし闇》の効果を適応して、デッキから1枚ドロー!」
炎の翼をはためかせ、ひらひらとフィールドに蝶のモンスターが舞い降りる。
《炎妖蝶ウィルプス》(攻)
☆4 炎・昆虫族/デュアル/効果
1500/1500
輝久「ウィルプス…。確か墓地からデュアルモンスターを蘇生する効果だったね。」
遊大「手札から《二重召喚》を発動し、《炎妖蝶ウィルプス》を再度召喚!そんで効果発動!」
ウィルプスの炎が激しく燃え盛る。肥大化した火炎の翼をぐんぐんと羽ばたかせ、フィールドの上空へと飛び、瞬く間に弾ける。
輝久「来るね…!」
遊大「ウィルプスの効果で墓地のデュアルを再度召喚状態で特殊召喚する!!
不死鳥の翼宿し戦士よ。その剣で闇を切り裂き、色褪せた世界を赤く塗り上げろ!
《フェニックス・ギア・フリード》!!」
弾けた炎の中より、足音が聞こえる。鋼鉄の鎧でゆっくりと地面を踏み締め、焔光を反射してギラギラと輝く剣で火の幕を切り裂く。
フェニックス・ギア・フリード(攻)
☆8 炎・戦士族/デュアル/効果
2800/2200
遊大(《切り裂かれし闇》があれば確実に毎ターン1ドローずつアドバンテージを得ることができる…!それにこの2枚のカードがあれば…!)
「俺は、カードを2枚セットし、ターンを終了する!」
そう言って、《デュアル・アブレーション》と《デュアル・スパーク》の2枚のカードを叩きつけた。
輝久「1ターン目から再度召喚状態の《フェニックス・ギア・フリード》を展開してくるとは、やっぱりさすがだね。僕も負けてられないな。」
勇ましげに遊大を見つめるが、以前としてその顔には笑顔があった。その言葉を返そうとしたその時、遊大はある異変に気づく。
『負けたくない。』
自分の中で小さく呟いたその言葉。純粋な気持ちだった。爽やかに叫ぶことなんてできなかった。ターンの初めに作った笑顔も、すでに表情からは消えていた。
この1ターンで作った盤面。それが『突破されないように祈る自分』が心の中にポツンといることだけが頭に浮かんだ。
4回戦。思えば当然のことであった。ここで勝てば否応なく県大会出場。その先に行けば全国の景色が見れる。早くこの1戦に勝ち星をつけて安心したい。心の中でそれを言語化したわけではないが、体を走るその焦燥は、『ここを勝って安心したい。』という心情が起因していることは、冷静になればすぐわかりそうなものであった。
輝久「僕のターン!」
TURN:2
斬隠 輝久 (ターンプレイヤー)
LP:8000
手札:5→6
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:
樋本 遊大
LP:8000
手札:1
モンスター:《フェニックス・ギア・フリード》(攻)
魔法罠:《切り裂かれし闇》 セット×2
フィールドゾーン:
輝久「じゃあ行くよ。僕は手札から《宙の忍者-鳥帷》の効果を発動!」
遊大「…!?」
全身に走る嫌な予感。
明らかに聞いたことのないカード名。確かにこれまでのデュエルで使っていないだけのカードだったのかもしれない。しかし、全く新しいカードだとしたら…。
輝久「《宙の忍者-鳥帷》自身を墓地に送り、手札から《忍者》モンスターを裏側または表側守備表示で特殊召喚する!
来い!《忍者マスター HANZO》!」
黒い羽がフィールドを包み込む。見え隠れする輝久の横にいつの間にかそのモンスターは姿を見せていた。
《忍者マスター HANZO》(守)
☆4 闇・戦士族/効果
1800/1000
遊大「《忍者マスターHANZO》…確か特殊召喚時にデッキから《忍者》モンスターを手札に加える効果だったよな。」
輝久「よく覚えてるね。僕は特殊召喚に成功したHANZOの効果で、デッキから《蟲の忍者ー蜜》を手札に加える。」
遊大「…っ!!」
遊大に頬に一筋の汗がつーっと流れる。やっぱり杞憂ではない。明らかにデッキを強化してきている。大会に臨むにあたって、当たり前なことなのかもしれない。しかしそんなことを考えることも想定することもできないほどに、彼は焦っていた。
『負けたくない。』と。
輝久「さらに僕は手札に加えた《蟲の忍者ー蜜》の効果を発動!
自分フィールドに《忍者》モンスターまたは裏側守備表示のモンスターが存在する場合に、手札から自身を特殊召喚するよ!」
どろり、と黄色い液体が溢れ出す。大きな蜂の針を思わせる鎧を濡らし、女の忍がフィールドに姿を現す。
《蟲の忍者ー蜜》(守)
☆2 水・昆虫/効果
200/2100
輝久「…よし。
まずは小手調べだ。僕は《忍者マスターHANZO》と《蟲の忍者ー蜜》をリンクマーカーにセット!!」
2体の忍者は赤い閃光と共にリンクマーカーへと収束し、また1体の戦士の影が光の奥より姿を見せる。
遊大「あのモンスターかっ!」
輝久「リンク召喚!リンク2!《忍者マスター SAIZO》!」
《忍者マスター SAIZO》(攻)
LINK–2 光・戦士族/リンク/効果
2000・↙︎↘︎
遊大(《忍者マスターSAIZO》…確かデッキから《忍法》カードを持ってくるモンスターだったよな…。明らかに輝久が使ってくる《忍者》は新しい奴らだ!ならあるいは…!)
輝久「《忍者マスターSAIZO》の効果を発動!僕がデッキから手札に加えるカードは《忍法装具 鉄土竜》!!」
遊大「やっぱり《忍法》カードまで強化してきてるのか!」
輝久「まあね!言っただろ!僕も負けたくないんだよ!
僕は手札から装備魔法《忍法装具鉄土竜》を、君の《フェニックス・ギア・フリード》を対象に発動!!」
遊大「!?」
相手のモンスターに装備カードを装備するという行為。一瞬、頭がパッと真っ白になる。今まで自分のモンスターを強化するためだけに使ってきた『装備魔法』という概念が、根底からガラリと崩れる。
止まってしまった頭を回復する暇も与えず、百足を模した鋼鉄の武具が《フェニックス・ギア・フリード》の体を締め付ける。
《フェニックス・ギア・フリード》ATK:2800→3300
遊大「俺のモンスターの攻撃力を上げた…?
だがこの瞬間!《フェニックス・ギア・フリード》の効果を発動!相手が魔法カードを発動したことで、墓地からレベル4以下のデュアルモンスターを特殊召喚できる!
蘇れ!《炎妖蝶ウィルプス》!」
《炎妖蝶ウィルプス》(守)
☆4 炎・昆虫族/デュアル/効果
1500/1500
輝久「多少の犠牲は仕方ないね。使うといい!《切り裂かれし闇》の効果を!」
遊大「言われなくても…!《切り裂かれし闇》の効果!通常モンスター扱いのデュアルが特殊召喚されたことで1枚ドロー!」
焦燥の中で思考を巡らせる。自分が作った盤面と、そこに差し込まれたイレギュラー。
遊大(予想外の装備魔法の発動…。だがこれで、《デュアル・スパーク》の発動条件が整った!2手!フルで妨害を回せる!)
輝久「…なんとかしたいのはそのモンスターだけど、君のデッキのことだ。魔法罠がモンスターの存在に依存しているのであれば、それを潰させてもらうよ!
僕は《忍法装具鉄土竜》の効果を発動!墓地から《忍者マスターHANZO》を除外し、《フェニックス・ギア・フリード》を破壊する!」
その掛け声と共に鋼鉄の百足の装具が《フェニックス・ギア・フリード》を締め付ける。しかしここで、『遊大の中』で、輝久の狙いが定まらなくなる。
遊大(…!?
なぜ装備した後に破壊する効果を使う?破壊する効果だけだったらあいつのフィールドの《忍者マスターSAIZO》に装備した方がいいんじゃないのか!?
なんにせよ、ここで《フェニックス・ギア・フリード》を失う訳にはいかない!)
「俺はこの瞬間に永続罠《デュアル・アブレーション》を発動!手札を1枚捨て、《フェニックス・ギア・フリード》をリリース!」
鎧が炎で弾け、その熱波が《忍者マスターSAIZO》眼前まで迫る。
遊大「さらに墓地から《フェニックス・ギア・フリード》をもう一度特殊召喚!再度召喚したデュアルをリリースしたことで、フィールドのカードを1枚破壊!
《忍者マスターSAIZO》を破壊するっ!」
熱波がフィールドを包み込み、輝久の盤面からカードが消えた、はずだった。少なくとも遊大はそう考えていた。
遊大(ただのミスか…?《フェニックス・ギア・フリード》はこれで通常モンスター扱いになったし、《切り裂かれし闇》の戦闘補助も受けられる。
何よりあいつの場にはもうモンスターが…)
『いない』と心の中で言いかけ、フィールドに目を向ける。処理したはずのフィールドには、《忍者マスターHANZO》の姿があり、冷ややかな何かが背筋を走るのを感じた。
輝久「僕は破壊された《忍者装具鉄土竜》の効果で、除外状態の《忍者マスターHANZO》を特殊召喚した。さらに効果を発動させてもらうよ。」
《忍者マスター HANZO》(攻)
☆4 闇・戦士族/効果
1800/1000
遊大「しまった…!」
(《忍者装具鉄土竜》の狙いは、除外状態の《忍者マスターHANZO》をもう一度呼び出すことだったのかよ!!)
顔色を表に出さないように、緊張を悟られないようにしていた遊大の体制が崩れる。
輝久「おっと、苦しかったかな?
僕はデッキから《獣の忍者ー獏》を手札に加え、その効果を発動!」
《獣の忍者ー獏》(攻)
☆3 風・獣族/効果
1500/600
ざざ、と砂嵐が巻き起こる。可愛らしい犬のモンスターが、降り積もった砂に足跡をつける。踏みつけた足跡が黒く滲み、黒染めの砂は巨大な獣の影を描く。
輝久「自身を特殊召喚し、墓地に存在する《忍者装具鉄土竜》を手札に加えさせてもらうよ。」
輝久の狙いを見失い、相手に一歩先手を取られた。「しまった」と口にしてしまった背中に汗がじんわりと滲む。妨害の一つ躱された、というよりもこちらの妨害の1つを使わされてしまった。
そんな彼の視線の先にあるのは《デュアル・スパーク》のカードだった。
遊大(残された妨害はこの1枚だけ…。あいつはまだ『通常召喚権』を使ってない。このカードの使い方がおそらく勝敗を分ける…!)
輝久「悪いね。ここまで荒らしておいてなんだが、まだまだ行かせてもらうよ!
通常召喚!《銃の忍者ー火光》!」
火花がばちばちっと飛び散る。筋肉質な女性の忍びが、ささっと輝久の横に控える。背中に巨大な鉄の筒を背負い、膝を落としている。
《銃の忍者ー火光》(攻)
☆4 炎・戦士族/効果
1600/2000
輝久「《銃の忍者ー火光》の効果を発動!
墓地から《忍者》モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚する!再び僕の元へ!《蟲の忍者ー蜜》!」
《蟲の忍者ー蜜》(裏・守)
☆2 水・昆虫/効果
200/2100
遊大「裏側守備表示で特殊召喚…?」
輝久「これが本当の忍者の戦い方。
このデッキは本来裏守備を多用するデッキだからね。
君がそれを知らなくても無理はないよ。」
遊大「本当の忍者…。」
(やっぱりだ。確実にデッキは強くなっている。裏守備を多用するテーマ、と言いながらも確実に展開力も上がってる…!)
輝久が言ったように、遊大は《忍者》デッキを『知らない』。だからこそ、1枚の妨害のカードをどこで使うのか、嵐のように考えを巡らせる。
輝久「いろいろ考えているみたいだけど、どこまで食いつけるかな…!行くよ!覚悟!」
そう言うと、エクストラデッキがガチャリと開く。輝久が手を伸ばしたその先、《機甲忍者ブレード・ハート》のカード。
輝久「僕はレベル4の《銃の忍者ー火光》と《忍者マスター HANZO》でオーバーレイ!2体の戦士族で、オーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!
斬り結ぶ魂よ!降りよ!《機甲忍者ブレードハート》!」
《機甲忍者ブレードハート》(攻)
★4 風・戦士族/エクシーズ/効果
2200/1000 ORU:2
遊大「来たか…!お前のエースモンスター!《機甲忍者ブレードハート》!」
《機甲忍者ブレードハート》。かつて遊大と輝久が戦った際に使われた輝久のエースモンスター。遊大も知っているモンスターであった。そしてその効果は…。
遊大「忍者1体の2回攻撃を可能にする…だよな!
だが俺のフィールドにはレベル5以上の通常モンスターの戦闘時に相手モンスターを破壊する《切り裂かれし闇》がある!
《デュアル・アブレーション》の効果で再度召喚状態を解除した《フェニックス・ギア・フリード》は攻撃力を超えたとしても倒せないはずだ!」
輝久は動じない。ただ一言、『知っているよそんなことは。』とだけ呟く。
遊大「…だったら!」
輝久「言っただろ!君はまだ『本当の忍者』デッキを知らない!」
そう叫んだ時、再び輝久のデュエルディスクのエクストラデッキが音を立てて稼働する。
輝久「僕はここから!融合召喚を行う!!」
遊大「なっ…!融合の魔法カード無しでっ!?」
輝久は素早く2枚のカードを墓地に送り、エクストラデッキの1枚のカードを掴み取る。同時に《獣の忍者ー獏》と裏側表示だったはずの《蟲の忍者ー蜜》が光の粒子となり、舞い上がったそれらが混じり合う。
輝久「フィールド上の種族の異なる《忍者》2体を墓地に送り、このカードはエクストラデッキから特殊召喚できる!
その魂、戦場を駆け!その術!いま境地に達する!
融合召喚!《戎の忍者-冥禪》!!」
《戎の忍者-冥禪》(攻)
☆6 闇・戦士族/融合/効果
2500/1500
混ざり合った光は瞬く間に雷となりフィールドを勢いよく貫く。爆発するような衝撃が走り、舞い上がる煙を切り裂くように、そのモンスターはフィールドに降り立った。
遊大(融合効果ナシでの融合召喚…!無法にもほどがあるだろ…!)
細くも紅い忍者刀をしっかりと握りこんだ腕。『戎』の名を持つ究極の忍びが、遊大と対峙する。
幕を開けた戎。戦いはまだ終わらない。降りしきる雨が会場をやかましく叩く中、遊大もまた次なるカードを構えるのであった。
続く
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29 | 49話 エンタメデュエル | 272 | 2 | 2024-01-07 | - | |
38 | 50話 乗り越えろ! | 316 | 3 | 2024-01-26 | - | |
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52 | 55話 火の暮れる場所 その② | 338 | 2 | 2024-03-07 | - | |
31 | 56話 赫灼の剣皇 | 335 | 2 | 2024-03-11 | - | |
44 | 57話 金の卵たち | 243 | 2 | 2024-03-18 | - | |
31 | 合宿参加者リスト 〜生徒編〜 | 216 | 0 | 2024-03-20 | - | |
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更新情報 - NEW -
- 2024/10/25 新商品 SUPREME DARKNESS カードリスト追加。
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- 11/21 13:58 評価 7点 《ティスティナの猟犬》「直接攻撃と聞くと弱そうな気がするが、実…
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そして、新たな戦術…融合なしの融合により現れた戎の忍者-冥禪。遊大もある程度知っているデッキという思い込みで輝久とのデュエルに臨んでいた部分があったでしょうね。それが今回の新カード達の登場によって焦りもあると思いますが、それと同時に思い込みの払拭にも繋がってると思うので頑張ってもらいたい所。
雨音の響く4回戦…これまた次回が気になりますね! (2023-09-22 01:47)
勝負事において、努力しているのは自分だけではないという当たり前だけど見失いがちな気持ちにフォーカスしてみました。輝久の新しい切り札《戎の忍者-冥禪》の召喚によって追い詰められ、プレッシャーがかかる戦いの中、自分の弱点や思い込みに気づくことができるのか…、次回の展開にもご期待いただけけると幸いです! (2023-09-22 17:43)
輝久くんは才能だけの自分と決別して、遂に「強さ」の境地に達しましたね。「決闘王杯」は全てが終わるまで目が離せませんね。楽しみにしています。 (2023-10-07 10:15)
一度遊大に敗北をしているからこそ、才能だけでは掴めない新たな力《戎の忍者-冥禪》と共にリベンジに臨む!遊大は果たして強くなった輝久を敗れるのか!?
決闘王杯編、現在執筆中ですのでこれからもお楽しみに! (2023-10-12 21:47)