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HOME > 遊戯王SS一覧 > 67話 闇に舞い降りた天才

67話 闇に舞い降りた天才 作:コングの施し

アカデミア合宿で嬢のデュエルを咎めたデュエルマフィア、龍血組。彼女の実父であり組の長である龍剛院 栄咲は、その身柄を押さえ、さらに彼女を探す遊大たちの存在すら排除しようと画策する。栄咲への恩義を誓った若頭である小金井。嬢とここまで親代わりと言えるほどに共に生きてきた彼が思うことは…。







時は遡り、組の長であり嬢の父親である栄咲に、遊大や龍平、阿原、律歌、そして日暮の存在が悟られた直後。小金井は、彼女の友人であろう彼らの存在が察知されたこと、躊躇いながらも嬢へと告げた。

嬢「ほんとですか……?」

小金井「……ええ、この写真の奴らが動いている。それに呼応するように荒田も動き始めました。」

栄咲からの写真を嬢の手へと渡す。写真を見つめたままの嬢は、血が垂れるほどに強く唇を噛み締めていた。幼い頃から自分がずっとそばにいた、彼女のそんな顔を見て胸が締め付けられるような思いになる。

嬢「……そんな…私のせいなのに…!」

小金井「……お嬢が責任を感じるようなことじゃあない。」

彼女のものよりも大きな手を、その小さな頭にポンと置く。嬢は、彼女は強い。一人であっても、自分を縛り付けていた龍血の元凶である栄咲に挑んでしまうほどに。しかし、そんな彼女の弱点と言えるのが、彼女を支えてきた友人だちで、そして皮肉なことに、もっとも最悪な形でその白点が血塗られた刃物に晒されている。

嬢「でも……!!」

小金井「……お嬢。今動いても、あなたに戦えるほどの力はない。
ウチがデュエルマフィアであなたが親父の実子であったとしても、デッキも、ディスクも、無いんだ。」

嬢「だったら……!!」

小金井「決戦の刻まで、俺に任しちゃくれませんか。
___何があっても、あなたを救い出す!!」







「出入り口塞いどけ。俺は中に行かせてもらう。」

3人は、3階の教室の窓から顔を小さくのぞかせる。
白いシャツにベストをぱつぱつに身につけた男が、彼を取り巻く者たちに指示を出している。同時にガッシャーンという音が鳴り響き、一回昇降玄関の窓ガラスが割れる音が響いた。

身を寄せる阿原と遊大、そしてその隣で額に汗を浮かべるのはプロデュエリストの大石 竜也。遊大は考える。包囲されているとも言えるこの学校から3人とも脱出しなければならないという状況。

竜也「まずいな……。」

遊大「しっ!!」

開いた竜也の口を、咄嗟に塞ぐ。遊大は恐れながらも、考えていた。これは今まで自分が瀕してきた危機の中でも頭がいくつも抜けて危険な状況である。だからこそ、考える。

阿原「どうすんだ…!!」

歯を食いしばる。阿原は彼に体を寄せているからわかる。怯えている。しかしその目は下ではなく前を向いている。震えながらも最良を考えているのだ。

遊大「……賭けます、今はそうするしかない!!」

阿原「賭ける…?」

遊大はデッキケースをパチンと開き、そこから数枚のカードを引っ張り出して阿原にの手に捩じ込んだ。困惑の色を隠せない阿原がそれを見つめるや否や、遊大は廊下を一直線に走りだす。

竜也「なにを…!!」

と、竜也が伸ばそうとした手を、阿原が咎める。ダンダンダン、と大きな足音を立てながら疾走する遊大は、ついに階段を大股で階段へと足を進める。彼が階段の角へと姿を消すその一瞬、その指は反対踊り場突き当たりの窓を指していた。

彼の指のその先にあるのは、『救助袋』の文字が記された銀色の立方体。どこの学校にも当たり前にあるようで、その存在すら阿原と竜也は忘れてしまっていた。

竜也「……!!」

竜也と阿原の視線がその存在に奪われた一瞬、その隙に二階の方からガターンという音が響いた。残された2人は一連の遊大の行動に込められた意味を完全には理解できなかった。竜也は口をあんぐりと開けたままその足を階段の方へと運ぶ。彼の額に大粒の汗が浮かんでいる。その腕を、阿原がガッチリと掴んだ。口元へ手を運び、小さく、しかし力強く竜也へ訴える。

阿原『だめだおやっさん……!!』

竜也「しかし…!!」

阿原『オレはあんたらの動きを知らねえ。
___だが遊大があんな無茶したってことは、おやっさん、あんたがキーってこった!!』

竜也はそう言って、遊大に握らされた数枚のカードを竜也の眼前へとやる。そこにあるカード、遊大のエースカードすら含まれた数枚のカードを、阿原が手が震えるほどに強く握りしめていた。

阿原『オレだけじゃ、「このカードたち」に意味は見出せねえ!!
アンタがこの状況の突破口なんだろ!!だからそんなオレにこれを託したんだろ!!』

竜也は目を瞑り、歯をぎりりと食いしばる。そのカードを見せられたことで、遊大の思いが彼にのみ汲み取れてしまった。あまりに残酷なソレが、竜也にとって最も避けたい選択を強要していた。

阿原『頼むぜ……おやっさん!!』

竜也は自らの胸を強く鷲掴んだ。苦しかった。子供達を助ける、その一心でこの役回りを請け負った。自分の教え子、そして血を別つ息子、さらにはその仲間たちの命がかかっている。だからこそ、その中心となるこのロールを買って出た。それなのにここで彼の言うことをそのまま飲むと言うことは……

竜也『……行くぞ!!』

違う。彼も、遊大もそうなのだ。友人を誰よりも守りたいから、そんな無茶をできるのだ。彼が作ったこの好機を逃すことは、噛み合おうとしている全ての歯車に一石を投じることに他ならない。心の中で、「オレが絶対に助ける。」と何度も唱える。だからこそ、その足を階段の方ではなく、遊大の指差した方へと向けた。







始まったデュエル。嬢を救おうとする生徒と接触し、その糸口を掴むことが目的である小金井。そして、嬢の居場所の賭けられたデュエルに持ち込み、かつそれに勝利することが目的である龍平。

龍平(筒抜けね……今の龍血組は、会話から何から仲間と共有してるわけか。
___確かに下手なことは言えない。懐柔の手は潰れたな。…なら!!)

小金井(今の組の警戒レベルは異常だ。
今ままでの監視対象がデュエルのログのみだったのに対して、ディスクそのものの置かれている環境の映像と音声まで共有しなければならない……!
___おれもコイツも本音を出すのはNG。…だったら!!!)

最終的な目的が一致しているにも関わらず、それを阻んでいるのはデュエルが完全な監視下であるという事実である。そうなれば、答えは一つ。お互いの腹のうちを探る隙も手筈もない二人に許されたこの場を切り抜ける手段。それは……。

「「デュエル!!」」



ーTURN1ー

小金井 敦弘(ターンプレイヤー)
LP   :8000
手札   :5
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:

大石 龍平
LP   :8000
手札   :5
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:



小金井「おれのターン。
手札の《パイル・アームド・ドラゴン》の効果を発動。手札から《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》を墓地に送り、特殊召喚。」

ばちーん!!と雷鳴が鳴り響き、片手に巨大な掘削機をマウントした鎧竜が突如としてフィールドに出現する。体は稲光の熱を持って煙を漂わせている。


《パイル・アームド・ドラゴン》(攻)
☆7 風属性・ドラゴン族/効果
ATK:2800/DEF:1000


小金井「さらに手札から墓地に送られた《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》の効果。……デッキから《武装竜の霹靂》を手札に加え、これを発動。」

フィールドにソリッドヴィジョンとして投影された《武装竜の霹靂》。黄金色の雷鳴がカードを貫き、それは顎と牙を目立たせた小さな竜へと姿を変えていく。


《アームド・ドラゴン・サンダー LV3》(守)
☆3 風属性・ドラゴン族/効果
ATK:1200/DEF:900


手札2枚の消費を的確に盤面のモンスターへと変換していく。その無駄のない動きから、眼前のデュエリストが紛れもない強者であることを理解する。そして同時に…

龍平(風属性……ドラゴン族。)

偶然の一致なのか、はたまた組でそう仕立て上げられただけのものなのか、その男のデュエルを見て、嬢のことを思い出していた。

小金井「《パイル・アームド・ドラゴン》の効果を発動。
コストでデッキから《LV5》を墓地に送り、攻撃力を1500アップさせる。
さらに《LV5》の効果で《嵐征竜テンペスト》を手札へ。」


(ATK:4300)《パイル・アームド・ドラゴン》


龍平(《征竜》……!!
面倒なカードを使ってくる。だが《LV》の《アームド・ドラゴン》の共通効果が割れたな。)

龍平はここまでで公開された3種類の《LV》を持つ《アームド・ドラゴン》の効果をディスクで確認する。それは手札のモンスター1体コストに、自身を墓地に送ることでレベルが2つ高い《アームド・ドラゴン》にレベルアップするということであり、そうであれば、龍平にとって次の手を読むことは容易であった。

小金井「《LV3》の効果を発動。《テンペスト》をコストにレベルアップ。
___《アームド・ドラゴン・サンダー LV5》。」

ばちばち…と稲光がフィールドを駆け回り、《アームド・ドラゴン・サンダー LV3》の姿をより大きく、より強靭なものへと変化させていく。小さな体に集約した電光が一挙に弾けると同時に、そのモンスターは姿を現した。


《アームド・ドラゴン・サンダー LV5》(守)
☆5 風属性・ドラゴン族/効果
ATK:2400/DEF:1700


小金井「永続魔法《武装竜の震霆》を発動。
《LV5》以下のレベルを持つ《LV3》を回収し、さらに《LV5》の効果を発動。」

ここで、龍平の予測は確信へと変わる。《パイル・アームド・ドラゴン》を使用することで手札コストを捻出していたこと。そしてわざわざ通常召喚できないモンスターを《LV5》で手札に加え、あまつさえそれをコストにしたこと。

龍平(やっぱりな。
……通常召喚権すら使ってない。《アームド・ドラゴン》のレベルアップのためのコストが枯渇してるんだ。)

小金井「手札の《LV3》をコストとして、レベルアップ。
___《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》。」

雷鳴はさっきよりも大きく鳴り響く。予測を立てることしかできない龍平を横目に、その竜は進化し続ける。男たちの戦いのゴングが今、ようやく鳴り響いた。今までの全てが御膳立てだと言わんばかりにその竜は咆哮する。


《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》(攻)
☆7 風属性・ドラゴン族/効果
ATK:2800/DEF:1000


ビリビリとした刺激が空を走る。それが雷なのか、緊張なのかは龍平にはわかっていなかった。予測が全て合っていて、自分の思った通りの展開であればその緊張は走っていなかっただろう。相手の手が読めているからこそ、小金井すら干渉しえない部分に潜在的な恐れを抱いていた彼が、そこにはいた。

龍平(《LV3》が墓地に……ここのドローで話が変わってくる!)

小金井「《LV3》の効果で1枚ドロー。
……永続魔法《星遺物の守護竜》を発動し、《LV3》を再度手札に加える。」

龍平「___引いたか…!」

小金井「___さらにレベルアップ。《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》!!」

墓地から手札に加えられた《アームド・ドラゴン・サンダー LV3》のカードが、即座に稲光に巻き込まれて弾ける。たった今呼び出したはずの《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》が鼓膜を貫かんほどの大きな叫びをあげて、その手を天へと掲げる。闇夜を雷鳴が貫き、かつての伝説の決闘者を思わせるその龍が業臨した。


《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》(攻)
☆10 風属性・ドラゴン族/効果
ATK:3000/DEF:2000


1ターンで3度のレベルアップ。そもそも《LV》モンスターの使い手を、龍平は多くは知らない。しかし枯渇していた特定の手札コストを、ドローによってこじ開けるという技量の高さとツキの強さがビリビリと伝わってくる。

龍平「ドローで《星遺物の守護竜》を持ってきたんでしょう。
……先攻1ターン目からめちゃくちゃしてくれる。」

小金井「よく見てるな。
墓地の《テンペスト》を《LV3》と《LV5》を除外して特殊召喚し、オーバーレイ。」

墓地から2枚のカードが除外され、風を巻き起こしながら《嵐征竜–テンペスト》がうねりをあげる。巻き起こった嵐は光を帯びて、オーバーレイネットワークをフィールドに構築する。

小金井「エクシーズ召喚。
__《No.89 電脳獣ディアブロシス》!!」


《No.89 電脳獣ディアブロシス》(攻)
★7 闇属性・サイキック族/エクシーズ/効果
ATK:2800/DEF:1200


巻き起こった風は赤黒い電光へと昇華していく。今まで呼び出してきたモンスターとは明らかに毛色が違っている。生物としてではなく、より兵器として相手を処すためのモンスターであることが肌で感じられる。そして何よりも《No.》である以上、龍平自身がそのテキストを熟知していた。

龍平(……厄介な奴がきたな。)

小金井「___エニグマヴォイド…!」

その声と同時に、龍平のEXデッキの《天球の聖刻印》とデッキトップの1枚のカードが塵となって消える。表情を歪める龍平と、必要以上の口を開かない小金井。先手と後手という以上の差が、そこにはあった。

小金井「カードを1枚セットしターンエンド。
そのデッキ……現実的な《LV10》の回答が《天球の聖刻印》しかないな。それでもやるってのか。」

龍平「……生憎、俺の行動に全てがかかってるんでね。」



ーTURN2ー

大石 龍平(ターンプレイヤー)
LP   :8000
手札   :5→6
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:

小金井 敦弘
LP   :8000
手札   :1
モンスター:《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》《No.89 電脳獣ディアブロシス》
魔法罠  :《武装竜の震霆》《星遺物の守護竜》 セット×1
フィールド:



デッキからカードを引っ張り出す。小金井が言うように、後攻の滑り出しとしてはとても良い状況ではなかった。《No.89 電脳獣ディアブロシス》の効果で除外された《天球の聖刻印》は龍平のデッキにとって、《聖刻》を運用する意味と言えるほどに重要なカードであり、エンジンと呼ばれることも頷ける。

龍平(《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》と《武装竜の震霆》…全般の破壊耐性。しかもEXデッキに破壊以外の突破手段があれば《ディアブロシス》で打ち抜いて実質的な除去耐性の範囲を広げる。
___理に叶ってるな。)

そしてEXデッキを見られていると言うことは、デッキにもよるが手の内を半分以上知られてしまうことに他ならない。相手の倒し方、対策の躱し方、盤面の作り方、担う部分はデッキごとに違えど、EXデッキに依存しないデッキは少数派である。それほどまでに依存しているゾーンであり、それは龍平も無論例外ではない。

龍平「俺は手札から《聖刻龍–トフェニドラゴン》を特殊召喚。
こいつは相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、特殊召喚できる…!」


《聖刻龍–トフェニドラゴン》(守)
☆6 光属性・ドラゴン族/効果
ATK:2100/DEF:1400


白銀の龍が、そのしなやかな鱗を輝かせる。そして、龍平の十八番であるリリースを多用したドラゴン族の爆発的な展開。それが始まろうとしていた。

龍平「《トフェニドラゴン》をリリース。
手札から《聖刻龍−ウシルドラゴン》特殊召喚し、さらにデッキから来い、《ラブラドライドラゴン》!」


《聖刻龍–ウシルドラゴン》(守)
☆6 光属性・ドラゴン族/効果
ATK:2200/DEF:1000

《ラブラドライドラゴン》(守)
☆6 闇属性・ドラゴン族/チューナー/通常
ATK:0/DEF:2400


フィールドに出現した2体のドラゴン族。2つの光が絡み合い、銀河のようにあまねくものを取り込んで巨大な渦となる。核が弾け、その内より姿を表すのは、《聖刻》の王の名を冠する龍。

龍平「《ラブラドライドラゴン》と《ウシルドラゴン》をオーバーレイ。
___エクシーズ召喚。ランク6《聖刻龍王−アトゥムス》!!」


《聖刻龍王–アトゥムス》(守)
★6 光属性・ドラゴン族/エクシーズ/効果
ATK:2400/DEF:2100》


金の装甲の間に走る藤色の淡い光を輝かせ、王の印を刻み込まれた龍が覚醒する。龍平が立てた予測は2つ。1つは《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》によるフリーチェーンでの破壊効果のタイミング。そしてもう一つはセットカードの発動タイミングのこと。

小金井(《聖刻龍王−アトゥムス》。
強力なモンスターだが、このターンに最も避けなければならないのは《LV10》の突破を許すこと。
___EXを確認している以上は、直接除去に繋がるカードでなければ妨害を差し込む余裕はない。。)

龍平(小金井……だったよな。
この人は《ディアブロシス》の効果で俺のEXデッキを確認している。その上で、破壊以外の除去手段を持つ《天球の聖刻印》を除外した。
___すなわち!!)

交差する二人の思考。並のデュエリストであれば問答無用で破壊か無効か、それに類する手段を取らねばならないモンスターだが、龍平は小金井の「EXデッキを確認した上からこそ除去することができない」という考えをすでに読んでいた。だからこそ確信する。この効果は通ると。

龍平「《アトゥムス》の効果を発動。ORUを1つ取り除き、デッキからドラゴン族を攻守ゼロにした状態で特殊召喚する。……通すってことでいいですか?」

小金井「……。」

黙り込む小金井を前に、《聖刻龍王−アトゥムス》の叫びがフィールドを揺らす。その翼が鮮やかな紫に輝き、ステンドグラスが割れるように一挙に光が弾ける。ガラスのように飛び散った破片たちは、それぞれの角度から1枚のカードを映し出す。

龍平「デッキから来い、《妖醒龍ラルバウール》。
__さらに《ラルバウール》の効果を、手札の《アークブレイブドラゴン》を捨てて発動。自身を対象とし、闇属性・ドラゴン族を手札に加える…!」


《妖醒龍ラルバウール》(守)
☆1 闇属性・ドラゴン族/効果
ATK:0/DEF:0


龍平の手札から《アークブレイブドラゴン》のカードが墓地へと流され、《妖醒龍ラルバウール》と同じ属性・種族を持つ1枚のカードが手札に加えられる。

龍平「《終焉龍 カオス・エンペラー》を手札へ…!」

小金井(《カオス・エンペラー》…。
効果による墓地送りで破壊効果を貫通できるモンスターを呼び込んでくるか。であれば、次の一手はおそらく《LV10》の効果を使わせるためのサブプラン。
___その勝負乗ってやる、使ってこい。)

1枚のカードから小金井が弾き出した予測。龍平目線で《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》の除去を他のカードに使わせ、強力な除去効果を持つ《終焉龍 カオス・エンペラー》の効果を通すというプラン。それが合っていれば、次の手は自ずと決まってくる。そして……

龍平「手札から《創造の聖刻印》を発動。
《アトゥムス》を対象とし、《聖刻》の新たなモンスターエクシーズへとランクアップ・またはダウンさせる。」

小金井「……《エネアード》で魔法罠を除去する気だな。
おれは《LV10》の効果を発動。手札の《武装竜の万雷》を墓地に送り、《アトゥムス》を破壊。」

巨大な武装竜が、その拳を天へと突き上げる。闇夜がバッサリと割れて雷の拳が幾千個という単位でフィールドを打ち付ける。《聖刻神龍−エネアード》へと変貌を遂げようとしていた《聖刻龍王−アトゥムス》の体を、無慈悲に叩のめした。


(ATK:4000)《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》


ごおお…という雷鳴とともに焼き払われた龍平のモンスター。硝煙の立ち上るフィールドで、二人の男の顔を路地裏の点滅する街頭だけが照らしている。そこで笑みを浮かべていたのは、龍平の方だった。

龍平「___使ったな、《LV10》の効果を…!!」

龍平の墓地から《聖刻龍−ウシルドラゴン》と《ラブラドライドラゴン》のカードが除外される。光と闇、混沌を司る龍の王の召喚条件が整った瞬間であった。

小金井「……来るか。」

龍平「特殊召喚___《終焉龍 カオス・エンペラー》!!」

白と黒が混じり溶け込み、色としての形容すら忘れたかのように、禍々しく弾ける。散り散りになった輝きは巨翼を広げる龍の姿を象り始めた。怒号か断末か、まさしく混沌を体現したような咆哮とともに、そのドラゴンはフィールドへと降臨する。


《終焉龍 カオス・エンペラー》(攻)
☆8 闇・ドラゴン族/ペンデュラム/効果
ATK:3000/DEF:2500


降臨した《終焉》の名を持つ龍。大顎に赤い焔が集約され、その身を翻す。龍平のディスクからLPの減少を告げる電子音が鳴り響き、まるで文字通りの終焉を呼ぶカウントダウンかのように、フィールドに緊張が走っていく。


(LP :4000)大石 龍平


龍平「LPを半分払い、《カオス・エンペラー》の効果を発動。
EXモンスターゾーン以外の自分フィールドのカードを全て墓地に送り、同じ数だけ相手フィールドのカードを墓地に送らせてもらう……!
___セメタリー・オブ・フレア!!」

大顎に集約した焔が弾けんとするその一瞬。その刹那に、小金井が固く紡いだ口を開いた。1枚のカードがソリッドヴィジョンとして投影され、赤い閃光が2人の顔色を塗りつぶす。

小金井「……《LV10》の妨害に気をとられすぎたな。
フィールドに《No.》モンスターエクシーズが存在することで、おれはこのカードを発動できる。
___カウンター罠《ナンバーズ・プロテクト》!!」

龍平「……!!」

今にも爆発しそうな龍の姿が、電脳の獣から放たれた赤い稲妻が貫いた。轟音とともに、風穴の空いた《終焉龍 カオス・エンペラー》の体がボロボロと崩れていく。皮肉にも《終焉》の名を冠する龍の命の終わりの中で二人の決闘者は佇んでいた。

小金井「……似てるんだ、おれとお前のデュエルが。
おれだったらそうする。見えている妨害を吐かせて、その上で破壊ではなく墓地送りの確実な除去手段を取りに行く。」

「似ている」と、小金井の言葉に龍平が俯く。公開されていた中に存在していた、龍平が唯一の《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》の突破できる手段であり、そして小金井にとっては絶対に咎めなければならない一つの終着点。相手と自分の共通点を理解しているからこそ、的確な妨害をぶつけることができたと、小金井は言った。

龍平「……そうですね。確かに俺とあんたのデュエルは似ている。」

龍平は俯いたまま答えた。二人はこの短いやり取りの中で、お互いに通づるものを感じ取っていた。口数だとか性格だとかデッキだとか、そんなものには留まらない、もはや魂のレベルでの類似点。裏の世界に染まってしまった小金井と、表の世界で踠く龍平。それほどの違いしか、そこには無いと言わしめんばかりに。

龍平「……よかったですよ、俺とあんたが似ていて本当によかった。」

小金井「よかった…?」

向かい風、しかし「よかった」とこぼした龍平に、同じ特性を持った決闘者であったとしても、まるで自分が一歩劣っているような感覚を小金井は覚えた。硝煙が立ち込める闇夜のフィールドで、空気が乾いていくのを感じる。

龍平「……非公開情報の後出し。お互いに戦術が似たり寄ったりで闘り易い。」

小金井「……!!」

その声と同時に、《復活の福音》のカードがフィールドへと叩きつけられる。たった一歩の、漠然とした劣等感は重く硬い鉛のように小金井の足を縛りつけた。思えば、《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》と《ナンバーズ・プロテクト》の発動タイミングは、目の前の大石 龍平という決闘者によってあらかじめ定められていたものなのではないかとすら思えてくる。

龍平「《復活の福音》により、墓地から特殊召喚、《アークブレイブドラゴン》!
___その効果で、《武装竜の震霆》と《星遺物の守護竜》を除外……!」


《アークブレイブドラゴン》
☆7 光・ドラゴン族/効果
ATK:2800(←2400)/DEF:2000


ぱちん…!と、そのモンスターの降臨と同時に、発動していた表側表示の魔法カード2枚が除外され、その力を吸収されていく。龍平が言った「非公開情報の後出し」という言葉の通りに《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》から《ナンバーズ・プロテクト》の順番に手を打った。これは前者が公開情報であり、それを後から発動すると妨害の質が透けるためである。

龍平「これで、《アークブレイブ》の攻撃力が2800までアップ…!!」

それは龍平も同じことで、公開情報となっているEXデッキのモンスター、そして次に公開した《終焉竜 カオス・エンペラー》の順番に相手の盤面へと干渉する手を展開した。しかし、この状況に彼が言ったことを当てはめれば、非公開プールの中で現状を打開するのは《アークブレイブドラゴン》ということになる。

小金井(……何をする気だ。)

似た戦術を取りながら、その事実だけが突きつけられた小金井の思考から龍平の真の狙いが消える。この男は、その一瞬の隙を逃さない。龍平に残された手札は僅かに1枚。彼がそのカードを魔法罠ゾーンへと叩きつける。

龍平「___魔法発動。《運命のウラドラ》…!」

小金井「……!?」

ごーん!!という銅鑼の音が響き、フィールドに一本の点棒がと落ちる。
同時に、2人を囲むソリッドヴィジョンがこれまでとは違った状況を描いていく。それは闇夜のデュエルよりはあまりに華やかで煌々としている。足元は緑色に塗り変わり、どかどかと金色のモニュメントが大量に降り注ぐ。

小金井「……これは、」

龍平「アンタも手の込んだ妨害を仕込む人だ。
___俺はもっと、ストレートに行くよ……リーチッ!!」


(LP :3000)大石 龍平
(ATK:3800)《アークブレイブドラゴン》


そう、それはまるで麻雀の卓上。龍平のLPの1000ポイントが点棒として振り込まれ、《アークブレイブドラゴン》の攻撃力に加算される。そして彼の手札はゼロ。ちょうど和了を待つ、いわば聴牌の形となっていた。その状況を前に小金井は呆気に取られる。非公開情報を含んだ2つの妨害を躱した結果として待っているのが、まさかの今聴という事実。計算高く積まれたデュエルの頂上に積まれた、一抹の希望がこの龍一局である。

小金井(中学生で麻雀な……どこの闘牌伝説だ。)

龍平「バトルだ…!
____《アークブレイブドラゴン》で《No.89 電脳獣ディアブロシス》を攻撃!!」

金色の鱗に身を包んだ竜が、電脳の獣へと体をうねらせながら飛びかかる。雷光を纏った牙が《No.89 電脳獣ディアブロシス》を噛み砕き、赤い稲妻とともにチリへと変わる。


(ATK:3800)《アークブレイブドラゴン》
(ATK:2800)《No.89 電脳獣ディアブロシス》

(LP :7000)小金井 敦弘


発生した衝撃と共に、小金井のLPとカードが弾き飛ばされる。しかし、この状況でも小金井は表情を歪めることはない。数瞬前に非公開情報からそのカードを発動された時こそ呆気に取られたが、盤面の状況を鑑みれば、手札を全て使い切らせ、LPのコストも5000という膨大な数値を要求している。その上で突破されたのは《No.89 電脳獣ディアブロシス》のみ。

小金井(せいぜい攻撃力3800……これで手札もゼロになった。LPの差も……)

エースモンスターである《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》がフィールドに残っている以上、優勢の天秤がひっくり返ったとは言えない。と、そんな状況は、龍の一声と銅鑼のゴングで一変する。

龍平「攻撃は通った……これでロン…和了だ…!」

その声と同時に、再び銅鑼がゴンゴン!!と鳴り響く。優勢は変わらないと踏んでいた小金井に、《復活の福音》と《運命のウラドラ》を発動された時に走った悪寒が、再び襲い来る。

龍平「《運命のウラドラ》の効果が適応されたモンスターが相手モンスターを破壊した時、デッキボトムをお互いに確認し、さらにそれがドラゴン族・恐竜族・海竜族・幻竜族のいずれかであれば、その攻撃力1000につき1枚ドローし、その枚数が翻数となってLPに加算される…!」

小金井「……!!」

その言葉で全てを理解する。《運命のウラドラ》の発動時のやけに凝った演出、《ウラドラ》の指す意味、『リーチ』の言葉と振り込まれた1000LPの全てを。LPが振り込まれた時点で立直、そしてその攻撃が通った時点で和了となり、そしてデッキボトムという裏ドラを捲ることで攻撃に付随した和了点を加算するカード。確かに全ての妨害を掻い潜ってでも発動する意義のあるカードであるが、しかし……

小金井「デッキボトムが裏ドラとするカード……これを奥の手でやるとはな。
………だがこんなカード、どこまで言っても運任せなはずだ!!」

龍平「まるで頓馬だな、小金井さん。
___例え俺が間違ったって、この状況で勝てない賭けをしたりするもんかね……!!」

そう言って、龍平はディスクから自らのデッキを引っこ抜き、ゆっくりとその裏のカードを公開する。まさしく《運命のウラドラ》とされるカード。しかしそこにいるはずのないモンスターを前に、小金井の顔色が変わる。公開された裏ドラは…

小金井「《終焉竜 カオス・エンペラー》……だと!?」

龍平「……きたぜ、ぬるりと…!」

その時、小金井に電流走る。
公開された、メインフェイズ中に小金井が《ナンバーズ・プロテクト》で破ったはずのモンスター。それは通常であれば墓地、ペンデュラムモンスターであることを加味してもEXデッキに戻っているはずのモンスターであった。

小金井「なんでそのカードが裏ドラになってやがる!?」

龍平「……このカードをデッキボトムに仕込んだのは俺じゃない。
特殊召喚された《終焉竜 カオス・エンペラー》は、フィールドを離れた場合にデッキの一番下に戻る。それをアンタが破壊したんだ。
…………そう、アンタなんですよ。このカードを裏ドラに捩じ込んだのは。」


(LP :6000)大石 龍平


鳴り響く銅鑼の中で、龍平のLPがみるみる上昇していく。《終焉竜 カオス・エンペラー》の攻撃力は3000。攻撃力1000ポイントにつき1枚のドローと一翻を加算する《運命のウラドラ》の世界観で見れば、それはドラ3を指すことになる。

小金井(やってくれる……!!)

何よりも小金井を驚愕させたのは、再利用を防ぐデメリットである「フィールドを離れた場合にデッキの一番下に戻る。」というテキストを、デッキボトムを参照する《運命のウラドラ》と併用することで完璧なメリットへと変換していることだった。

龍平「さあ……反撃開始だ。」

たった一撃の攻撃。しかしそれを許したことにより、龍平のLPは6000となり、そして手札は0から3枚になる。LPで得られるアドバンテージが手札よりも乏しいデュエルという土俵を鑑みれば、これまでの優劣の天秤がまるっきり入れ替わった形になった。

龍は勝機を逃さない。まるで闇に舞い降りた天才。その反撃の狼煙が立って昇る。



続く
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ランペル
ロン!ロンロン!ロン!ロォォォォン!!!

タイトルであれ?と思いましたが、元ネタのフレーズが散りばめられててクスりとなりましたw

遊大と阿原に竜也プロの3人を取り囲む龍血組の魔の手…。前回の新たなテーマを織り交ぜた二人のデュエルからも、何かを画策している遊大と竜也プロでしたが、まずはこの状況を切り抜けねばなりませんね…。そんな中賭けに出た遊大は、自らのカードを阿原へ託し、一人で駆け抜け始めます。その行動は嬢を救うため、そのために最善の一手となるであろう、自らを危険にさらす行動…。何を知り、何を目的に動いているのかは分かりませんが、彼もまた相当の覚悟を持っての行動でしょうね。
うまくこの包囲網から抜け出すことは出来るのか!?ハラハラする展開であります…。

そして、小金井と接触し何とかデュエルにまでこぎつけた龍平。双方の思惑は一致していても、監視されている状況下では、胸中を曝け出すわけにはいきません…。この辺の話の持って行き方がうまいですなぁ。親父も、小金井の性格を知っているからこその監視強化…モロに響いている…。
デュエルは嬢がドラグニティを扱っていたのもあり、長年そばにいた小金井のデッキは同じ風、ドラゴンのアームド・ドラゴンを主軸にしたデッキ!龍平もドラゴン使いであり、ここでもドラゴン同士の熱いぶつかり合いですな。
そんな戦いの中で、龍平が発動したのは運命のウラドラ…!小金井のセリフで改めて思いましたが彼らは中学生と伝説の彼と一致ですなw
リーチをかけ、自らのデッキのボトム…ウラドラに仕込まれていたのは《終焉竜 カオス・エンペラー》!デメリット効果を、こうやって活用していくのはさすがと言わざるを得ませんね。特に、デッキボトム操作は生かすのが難しいので、相手に除去されることを前提に、相手の行動によって裏ドラに仕込むと徹底しています…。これは伝説呼びされるのも時間の問題でしょう。

狂気の沙汰ほど面白い展開になってきましたが、このまま龍平が押し切ってしまうのか。しかし、監視されている状況で負け、情報を吐いたとあれば小金井もただではすみそうにありません…。これまた次回が気になってくるところですね!! (2024-07-19 09:58)
コングの施し
ランペルさん、閲覧とコメントありがとうございます!

自分的にはあんまりこういうネタみたいなのを挟むのって懐疑的な部分があったんですけれども、少年で麻雀、それに相手が反社会的な勢力……ということで挟んでしまいました。後半になればなるほど散りばめて行ってるつもりですので、気づいていただけたようで嬉しい限りです。そしてこの《運命のウラドラ》のカード、彼の《終焉龍カオス・エンペラー》と併用するプレイングもありますが、ギャンブル好きな誰かさんに影響されたカードだったり………?

そして動き始めているのは他の少年少女達も一緒であります!遊大と竜也達が描いた作戦、律歌とましろの行方についても次次回以降で触れていきたいと思いますので、気長に待っていただけると幸いです!

いつも読んでいただいてモチベーションになっております!次回以降もお楽しみに! (2024-07-30 00:15)

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