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HOME > 遊戯王SS一覧 > 39話 龍の瞳に映るのは その①

39話 龍の瞳に映るのは その① 作:コングの施し

佳境を迎えた全国決闘王杯。抜け出した遊大を追って、律歌は雨降る会場を飛び出した。彼を心配する者、大切に思う者がいることを伝えるために。
そして会場の決闘は決勝戦を迎えていた。

~♪
ぼつぼつ、と大粒の雨が折り畳み傘を重たく叩く。
雨の中、会場を飛び出した遊大を追う律歌。彼女の携帯が鳴った。受話器の先にいたのは顧問のましろだった。

ましろ『すまないな。雨の中なのに。もう決勝が始まるし、敗者復活戦も終了してるから、もし遊大を見つけたらそのまま家に送ってくれると助かる。びしょ濡れだろうしな。』

その声色から、ましろも遊大を心配していることがひしひしと伝わってきた。

律歌「わかりました。3人は?」

ましろ『阿原はベスト8で嬢に負けちゃったな。そんで2人は…』

ましろの声が一瞬止まる。言葉を探しているような沈黙。彼女自身もその現状を飲み込みきれていないのかもしれない。

「いまから決勝だ。」

その言葉に戦慄が走る。なんて人たちだ。自分よりも1つ下の1年生にも関わらず、市内の軒並み揃った実力者たちを薙ぎ払い、同じ東雲中の2人の龍使いが決勝の舞台に立っている。

律歌「…そっか。すごいな。」

思わず、そんな言葉が漏れていた。自分や遊大も置いて行かれるのは嫌だった。ましろに一声かけて携帯をしまう。早く遊大を見つけよう。そんな思いが、自然に彼女の足を動かす。

前に一度、遊大の今の家の近くに行ったことがある。放課後に、学校から結構離れた場所にあるカードショップに行って、みんなで川沿いを歩いて、本当は買い食いは良くないけど遊大の家の近くのお肉屋さんでみんなでコロッケを食べた、なんてことを思い出す。

そしてその時の記憶。昔はもっと栄えていたんだろうけど、今はおじいさんおばあさんがいっぱいいる繁華街の奥に今の彼の家がある。

同じ道を通って、そして見えた同じ高台の公園。今は小さい子供もあんまり遊ばないようなその公園のベンチに、びしょ濡れになった彼はいた。

遊大「…律歌さん。」

律歌「もう、落ち込み方もへたっぴ?」





阿原「…ったく、嬢のやつ化け物かっての。」

ツァン「ボクも同感ね。」

輝久「いや~、彼女には僕も叶わなかったよ。」

律歌と遊大が会場を出て、残った2人が今戦っている。そんな東雲中のベンチに、ぞろぞろと光妖中のメンバーが押し寄せ、どっかりと構えて決勝に目を向けている。

ましろ「…おまえら図々しいな。」

キャンデ「まァいいじゃないの~!にぎやかな方がいいでしょ!」

レイン「…」

がやがやと賑やかな観客席とは反して、会場の中心の2人には沈黙が流れている。書いて字の如く、龍のように勝ち上がってきたその2人が使うデッキはお互いに《ドラゴン族》。

風属性・鳥獣族とドラゴン族のシンクロを中心としたテーマ《ドラグニティ》の使い手、龍剛院 嬢と、新たに《聖刻龍》の力を手にしたプロデュエリストの息子、大石 龍平。2人の龍の使い手の激突が、決勝の舞台で始まろうとしていた。


自分がデュエルを楽しんでいたのはいつからだっただろうか。龍血組の長、その娘として生を受け、幼い頃から組の行く末を決めるような、皆がするようなデュエルよりもずっと血生臭い試合を見続け、そして自分もそうなるようにと、徹底的にデュエルの腕を磨かれてきた。

家では本気で闘うのが当たり前だった。しかし、学校、部活、大会…そんな外のデュエルで、家と同じように本気で闘うことは許されなかった。でも蓋を開けてみたらどうだろうか。今まで見てきたデュエルよりも、ずっと楽しくて、ずっとドキドキするようなデュエルの連続。

面倒見の良い不思議ちゃんの律歌。ツンツンしてるけど可愛い一面もある阿原。そして強さを純粋に追い求める龍平と火の玉みたいに真っ直ぐ闘う遊大。みんなのデュエルが輝いて見えて、私もみんなと同じように、本気で闘いたかった。

堪えきれずに滲み出した本気の決闘も、デュエル部のみんなは「すごいな。」って受け入れてくれて、そんな弾けるようなみんなの笑顔に応えたくて、いつまで本気でできるかわからないけど、自分に嘘をつかないで闘い続けよう。そんな思いが、彼女を動かす。


嬢「…いくよ。龍平くん。」

龍平「…ああ。」


「「デュエル!!」」

幕を開けた決闘。その掛け声と同時に、ソリッドヴィジョンによって周囲の風景が色を変えてゆく。嬢のデュエルディスクから電子音が鳴り響き、彼女の先攻を告げる。

嬢「私の先攻ですっ!」

TURN:1

龍剛院 嬢 (ターンプレイヤー)
LP:8000
手札:5
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:

大石 龍平 
LP:8000
手札:5
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:

「私はフィールド魔法《竜の渓谷》を発動しますっ!」

その声と同時に、フィールドが暁に照らされた渓谷へと塗り変わっていく。嬢が素早く手札から《ドラグニティ–ミリトゥム》のカードを墓地に送り、デッキから《ドラグニティ–ギザーム》のカードを手札に加えた。

龍平(手札を墓地に送ることで、デッキからレベル4以下の《ドラグニティ》を手札に加えるか、ドラゴン族限定の《おろかな埋葬》か…。)

観客席の仲間たちもそのカードに目を剥く。

レイン「《竜の渓谷》…。私も使われた…強力なフィールド…。」

キャンデ「そうさなあ、毎ターン《おろかな埋葬》だけでもすごいアドバンテージだ。」

決勝戦、お互いの全ての動作に会場がどよめく。つまりそこにいるすべてが、彼らのデュエルに釘つげなのだ。

嬢「通常召喚ですっ!きて!《ドラグニティ–ギザーム》!」

《ドラグニティ–ギザーム》(攻)
☆3 風・ドラゴン族/チューナー/効果
600/1600

そのカードから小さな竜が飛び出す。赤い瞳に翡翠色の鱗、額の刃を銀色に輝かせるその竜が鳴き声を上げると、墓地から1枚のカードが風とともに嬢の手に握られた。

嬢「その効果で、墓地から《ドラグニティ–ミリトゥム》を効果を無効にして特殊召喚しますっ!」

《ドラグニティ–ミリトゥム》(守)
☆4 風・鳥獣族/効果
1700/1200

デュエルが始まってまだ数刻も経っていない。しかし彼女のフィールドにはすでにチューナーと非チューナーのモンスターが2体。龍を呼ぶ嵐の展開が始まろうとしていた。

龍平「…合計レベルは7か。」

嬢「私はレベル4の《ドラグニティ–ドゥクス》にレベル3の《ドラグニティ–ギザーム》をチューニングですっ!疾風纏いし青磁の刃!絆を紡いで!シンクロ召喚!
《ドラグニティナイト–ゴルムファバル》!」

《ドラグニティナイト–ゴルムファバル》
☆7 風・ドラゴン族/シンクロ/効果
2600/2300

7つの星を閃光が貫き、青緑色の風が駆け抜ける。《ドラグニティ–ギザーム》を思わせるその体躯に跨る龍騎。その全貌が明らかになった。

嬢(彼のデッキは知ってる!だからこのカードでは終わらせない!墓地利用の阻害程度では、《聖刻龍》は止まらない!)
「シンクロ召喚した《ドラグニティナイト–ゴルムファバル》の効果発動ですっ!墓地から《ドラグニティ–ギザーム》を装備し、もう1回特殊召喚っ!」

《ドラグニティ–ギザーム》(守)
☆3 風・ドラゴン族/チューナー/効果
600/1600


その嵐のような展開に、会場がざわめく。やはり決勝、息をするように高レベルのシンクロを展開する。そして合計レベルが10となったフィールド、彼女のエースモンスターの1体が、胎動を始めていた。


阿原「合計レベル10…!」

ましろ「まったく、どこ隠れてそんな実力をつけたんだか…。」

レイン「…私も、戦った事ない…レベル10…。」

どよめく会場を、熱を孕んだ突風が包み込む。


嬢「私は、レベル7の《ドラグニティナイト–ゴルムファバル》にレベル3の《ドラグニティ–ギザーム》をチューニングですっ!」

2体の竜は星となり、その星々をまばゆい光が貫く。天を走り、大地に降り注いだ光は、朧げに巨大な龍のシルエットを描く。

龍平「…来るか!」

嬢「仲間の意志乗せるはその銀翼!燃ゆる闘気をその鉾に宿し、黄昏に輝け!シンクロ召喚!
《ドラグニティナイト–アラドヴァル》!!」

《ドラグニティナイト-アラドヴァル》(攻)
☆10 風・ドラゴン族/シンクロ/効果
3300/3200

銀翼をはためかせ、うねるようにフィールドに降り立つ《ドラグニティナイト-アラドヴァル》。その鱗は熱と電気を帯びて蜃気楼を起こしており、黄昏に注ぐ赤い光が炎のようにゆらゆらと揺らめいている。

その全身から滲む殺気。巨体と龍騎の手にある鉾は真っ直ぐに龍平に向かっている。空気が揺らぐほどの迫力に、一周回って観客席も静まり返った。

嬢「私はカードを2枚セットして、ターンエンドですっ!」

たったの1ターン。さらにリソースが揃い切っていない先攻で、エースモンスターの《ドラグニティナイト-アラドヴァル》を展開した嬢。その銀翼の龍騎を、龍平が待ち受ける。


ツァン「すごいわね。レベル10のシンクロをしても消費した手札は2枚。手札を1枚余らせている状態で、なおかつ2枚の伏せカード…。」

息を呑むようにツァンがつぶやく。異論がないのか、キャンデもクマの着ぐるみで大袈裟に頷き応える。

キャンデ「ああ。圧力としてはかなりあるよな。だが…感じるよな。」

阿原「見ているだけでもわかる。このデュエル、挑戦者は…」


嬢(…私だ。間違いない。
このデュエルのチャレンジャーは私。全く展開をしていない、なんてことない後攻1ターン目のドローフェイズってだけなのに、この殺気…!!)

龍平「俺のターン。」

そう言うとデッキのカードに手をかけ、それを静かに引き抜く。ただその立ち姿だけで空気が揺れる。彼の本気の決闘が始まろうとしていた。

TURN:2

大石 龍平 (ターンプレイヤー)
LP:8000
手札:5→6
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:

龍剛院 嬢
LP:8000
手札:1
モンスター:《ドラグニティナイト–アラドヴァル》(攻)
魔法罠:セット×2
フィールドゾーン:《竜の渓谷》

龍平「俺は《召集の聖刻印》を発動し、《聖刻龍-トフェニドラゴン》を手札に加える。
相手フィールドにのみモンスターが存在しているとき、このカードを特殊召喚できる。こい!」

金色の球体から、白い輝きが漏れ出す。龍の印は展開され、儚く朧げな光を放つドラゴンへと姿を変えた。

《聖刻龍–トフェニドラゴン》(守)
☆6 光・ドラゴン族/効果
2100/1400

嬢「…えっ!」

嬢が驚いたのはその龍ではない。デュエルディスクから一切の確認がなかった。

龍平「この特殊召喚はチェーンブロックを作らない。《ドラグニティナイト–アラドヴァル》では無効にできないはずだ。」

白く輝く球体が出現する。球に刻まれた金色の印がゆっくりと展開し、儚く朧げな光を放つ一匹の龍へと姿を変えた。


龍平「さらに俺は、手札から《聖刻龍-ネフテドラゴン》を《聖刻龍-トフェニドラゴン》をリリースして特殊召喚。」

白銀色に輝く竜が粒子となり、次なるモンスターが出現する。

《聖刻龍−ネフテドラゴン》(守)
☆5 光・ドラゴン族/効果
2000/1600

嬢「これもチェーンブロックを作っていない…!」
(《ドラグニティナイト-アラドヴァル》の効果をどこで使うかがカギになるはずだよね…。)

光の粒となった竜の身体は、再び別のモンスターを象って淡く輝く。

龍平「《聖刻龍-トフェニドラゴン》がリリースされたことで、デッキから《ラブラドライドラゴン》を特殊召喚する。」

黒色の岩の中に、ぼんやりと蒼い光が反射する。輝きを放つ鱗をカチャカチャと鳴らしながら、そのモンスターが姿を現した。

《ラブラドライドラゴン》(守)
☆6 闇・ドラゴン族/チューナー
0/2400

嬢の手にある妨害、筆頭は《ドラグニティナイト-アラドヴァル》のモンスター効果に対するカウンターであるが、彼女自身もそのタイミングについて迷いがあった。

嬢(アラドヴァルの効果は1ターンに1回だけ…。なるべく、自分の喉元に迫るような効果を…)

めぐる思考、しかし、龍は獲物の迷いを逃しはしない。龍平が次なる効果を宣言する。

龍平「《聖刻龍-ネフテドラゴン》の効果を、手札から《聖刻龍-アセトドラゴン》をリリースして発動。
俺が破壊するモンスターは、《ドラグニティナイト-アラドヴァル》だ…!」

紫色の鱗を持つ龍が咆哮する。空気がゆれ、銀色の竜騎の鎧にヒビが入る。嬢はハッとし、同時に気づく。

嬢(…!考えてる場合じゃない!
攻めの要で召喚したはずの《ドラグニティナイト-アラドヴァル》が…守りのために使わされる!)

息をつく間もない攻めの一手、嬢もそのエースモンスターを破壊されるわけにはいかない。

嬢「《ドラグニティナイト-アラドヴァル》の効果、発動ですっ!墓地から《ドラグニティ-ミリトゥム》を除外して、《聖刻龍-ネフテドラゴン》の効果を無効にし、除外します!ブレイジング・バニッシュ!」

《ドラグニティナイト-アラドヴァル》は身を翻し、その龍から暁色の炎が放たれる。その炎が龍平のフィールドに降り注ごうとした刹那、まるで盾のように1枚のカードが行く手を阻む。

龍平「速攻魔法《竜皇神話》を発動。
このターン、《聖刻龍-ネフテドラゴン》を倍にし、さらに相手フィールドにドラゴン族モンスターが存在する場合、その効果の発動は無効化されない。」

嬢は呆気に取られる。《聖刻龍-ネフテドラゴン》の効果を通し、かつ打点を上げるという一手。目の前の龍の一挙手一投足の全てが、常に喉元まで迫りくるという緊張感。電撃が、身体を走る。

嬢「ここで《ドラグニティナイト-アラドヴァル》を失うわけにはいきません!カウンター罠《ドラグニティ・ヴォイド》!
魔法・罠の効果を無効にして除外し、《ドラグニティナイト-アラドヴァル》の攻撃力を除外されているカード×100ポイントアップさせますっ!」

《ドラグニティナイト-アラドヴァル》ATK:3300→3600

カウンターにつぐカウンター、その最後を締めくくる1枚の罠。炎の槍が放たれ、《竜皇神話》と《聖刻龍-ネフテドラゴン》のカードを瞬く間に貫いた。さらにそのカードからにじんだ炎が《ドラグニティナイト-アラドヴァル》の身を包む
攻防を終え、自身のエースを守り切った彼女は、ほっと息をついた。

嬢(良かった…なんとか守り切れた。これでこのターンは…)

しかし対面の龍はそれを許しはしない。

次の瞬間、龍平のフィールドに追加のモンスターが2体現れた。色とりどりの水晶をその鱗にまとい、禍々しく空気を揺らす龍。そしてドラゴンの鱗をまとった女戦士。

嬢「…えっ!?」

龍平「俺は、手札からリリースされた《聖刻龍-アセトドラゴン》と、《竜皇神話》が除外されたことで、《魔晶龍ジルドラス》の効果を発動させてもらう。」

嬢の額に粒の汗が浮かぶ。自分はモンスターの効果を使わされ、さらにカウンター罠まで使用せざるを得ない状況だった。しかし、それすら次のモンスターの伏線になっていた事実。躱したはずが、状況が悪くなっているという事実に驚愕を隠せない。

《魔晶龍ジルドラス》(守)
☆6 闇・ドラゴン族/効果
2200/1200

《竜核の呪霊者》(守)
☆8 闇・ドラゴン族/チューナー
0/0(2300/3000)

龍平「さらに《魔晶龍ジルドラス》の効果。墓地から《召集の聖刻印》を再びセットし、さらに発動!」

龍平の手に《聖刻龍-ウシルドラゴン》のカードが宿る。そして、彼女は同時に気づく。彼のフィールドのモンスターたち、その法則性。

嬢「レベル6モンスターが2体…!」

嬢の嫌な予感は外れなかった。《ラブラドライドラゴン》と《魔晶龍ジルドラス》の姿が光となり、渦へと呑まれていく。

龍平「俺は《魔晶龍ジルドラス》と《ラブラドライドラゴン》をオーバーレイ。2体のドラゴン族モンスターで、オーバーレイネットワークを構築。」

光の渦が弾け、金糸雀色の球体が姿を見せる。他の龍と同じく、聖刻印、もとい龍の印がゆっくりと展開し、新たなエクシーズモンスターが降り立った。

龍平「刻まれし王の印、今こそ龍を束ね、我らに勝利をもたらさん!エクシーズ召喚!
ランク6《聖刻龍王−アトゥムス》!」

《聖刻龍王−アトゥムス》
★6 光・ドラゴン族/エクシーズ/効果
2400/2100

金色の装甲の間に走る、藤色の淡い光。今まで召喚したドラゴンたちと明らかに一線を画すそれは、真っ直ぐに嬢と対峙する。

嬢「新しい聖刻龍…!しかもXモンスター!」

前に見たことのあるランク8の《エネアード》の名を冠するモンスターたち、圧倒的な威圧感と隠しきれない力を滲ませたそれらとは違った異質な雰囲気。

細身な体にも関わらず、それを野放しにすれば勝ちはないという確信さえ持たせるほどのそのオーラ。

嬢(ビリビリ感じる…!このモンスターは危険だ!!)

龍平「俺は《聖刻龍王−アトゥムス》のオーバーレイユニットを1つ使用し、その効果を発動!」

その龍を取り巻く光の1つが、その拳に宿って弾ける。体を走る紫の光は一層強くなり、白く、淡く光る球体を1つ生み出し、天へと掲げる。

龍平「デッキより、ドラゴン族モンスター1体を攻守ゼロの状態で特殊召喚する…!
来い、《螺旋竜バルジ》!」

天へとうちが上がったそれはゆっくりと展開し、銀河を模った大顎へと姿を変える。

《螺旋竜バルジ》(守)
☆8 光・ドラゴン族/効果
0/0(2500/2500)

嬢「デッキから!?!」


その光景に驚きを隠せないのは嬢だけではない。彼らを見つめる会場の全てが、どよめきの渦となる。もちろん、彼らの仲間たちも例外ではない。

阿原「デッキから任意のドラゴン族…だァ?」

キャンデ「いままで出さなかったモンスターだな。だが効果がバグってる…!」


嬢(新しいXモンスターの展開に加えて、揃ってしまった…!!)

フィールドに揃ったモンスター。《龍核の呪霊者》と《螺旋竜バルジ》の2体のレベル8モンスター。

しかし、嬢も予測してた。そのモンスターさえ躱せばこのターン中の《ドラグニティナイト-アラドヴァル》の除去は無い。最初の除去を回避したのは龍平目線でも決して少ない損害ではないということ。

龍平(残った1枚のセットカード…。《ドラグニティ・ヴォイド》以外にカウンター罠はない。このターン中に《ドラグニティナイト-アラドヴァル》だけでも削る…!)
「俺は、《龍核の呪霊者》と《螺旋竜バルジ》をオーバーレイ!」

2体のドラゴンが光の渦へと巻き込まれていく。中心より現れる緋色の球体。律歌のときにも召喚したその龍。神の名を持つそのドラゴンが再び胎動する。

嬢(…来る!)

龍平「刻み込まれた神の印、太陽の輝きを持って今解き放たれる。エクシーズ召喚!
ランク8《聖刻神龍-エネアード》!!」

刻み込まれた印は、ゆっくりとその姿を龍へと変えていく。太陽の如く輝きが、2人のドラゴン族使いを赫く照らす。

《聖刻神龍-エネアード》(攻)
★8 光・ドラゴン族/エクシーズ/効果
3000/2400

嬢(手札は2枚、さらに1枚はさっき手札に加えた《聖刻龍》…!)

龍平「《聖刻神龍-エネアード》の効果を発動…!オーバーレイユニットを1つ取り除くことで、任意の数リリースしたモンスターの数だけ、カードを破壊する!」

光の玉がその龍の胸元に飛び込んでいく。身体はより強く明るく紅く、ごうごうときらめきを増し、凄まじい熱波がフィールドを包み込んだ。

嬢「永続罠《追想の翼》を《ドラグニティナイト-アラドヴァル》対象に発動!装備状態となり、対象Sモンスターの戦闘・効果での破壊を無効にしますっ!」

銀翼の龍騎の翼がまばゆい輝きを放つ。《聖刻神龍-エネアード》の放つ熱とその輝きが相殺し、塵となって《追走の翼》のカードごと消えた。その対処に、龍平も眉を顰める。

龍平「俺は手札から《聖刻龍-ウシルドラゴン》をリリースし、《追走の翼》を破壊…!」

嬢「やっぱり知ってるよね…!」


ギャラリーも一連の流れにざわつく。決勝の舞台では、その全てが会場をどよめかせる。高度な駆け引きについていけるデュエリストであれば尚更、その試合に篭った熱をひしひしと感じることができていた。

キャンデ「…?
今の、なんで龍平がリリースしたモンスターは1体だったんだ?発動宣言時にすでにセットカードしか破壊するつもりがなかったってことか?」

キャンデがその着ぐるみで大きく首を傾げる。周囲の光妖中メンバーの冷めた視線が刺さり、その首がガタガタと震え出すまでそう時間はかからない。

キャンデ「え…俺なんか変なこと言ったか?」

ツァン「…やれやれって感じね。
《エネアード》の、発動条件はあくまで『オーバーレイユニットを取り除く』こと。発動時に対象を取ってないのよ。」

レイン「…いわゆる…『選んで破壊』…。」

輝久「加えて、《追走の翼》のように発動中に対象モンスターへの耐性を付与するカードは、対象と本体の2枚を同時に破壊しても耐性が付与された側はフィールドに残る…。」

阿原「それを理解した上での1体リリースか。ここで2枚をリリースしてもどっちにしろ《アラドヴァル》は残る…!
ってことは…!!!」


その龍の気迫に気圧されそうになりながらも、彼女の中で立てていた予測、いや希望的観測は、その瞬間に核心へと変わる。

嬢(もう、このターンに《アラドヴァル》を除去する手段はない…!)

彼のデッキは知っている。ここまでの対戦をずっと見てきた。主なランク8のエクシーズモンスターは《神竜騎士フェルグラント》、2種類の《エネアード》、そして《No.97 龍影神ドラッグラビオン》…。この状況下では、どれも《ドラグニティナイト-アラドヴァル》を倒すには能力も攻撃力も足りていない。

実際、嬢の確信はしっかりと的を得ていた。バトルフェイズに入るわけにもいかない龍平。会場も、いよいよ嬢の守護が龍平の攻めを上回ったとざわつく。

龍平「…守ってきたか。
俺は、オーバーレイユニットとして取り除いた《螺旋竜バルジ》の効果を発動。墓地から現れろ!」

《螺旋竜バルジ》(守)
☆8 光・ドラゴン族/効果
2500/2500


ツァン「またレベル8が2体…!」

輝久「でもこの状況で攻撃力3600のエースを除去する手段は今の彼にはないはずだよ。」

ましろ「おそらく、X召喚はしてこない…!」


《龍核の呪霊者》のカード、そして《螺旋竜バルジ》のカードが、X素材になるでもなく、それぞれ墓地と除外ゾーンに送られる。

龍平「《龍核の呪霊者》と《螺旋竜バルジ》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

嬢「リンク召喚…確かドラゴン族が2体で呼び出せる…」

龍平「《天球の聖刻印》!」

竜が織りなす光の内より、天の印が刻まれた球体が出現する。熱を帯びたそれは表面を金色から赤色に変え、叫び声のような甲高い音を上げた。

《天球の聖刻印》
LINK−2 光・ドラゴン族/リンク/効果
0・↙︎↘︎

龍平「俺はエンドフェイズに移行。さらに手札から《超再生能力》を発動。このターン、リリースされたドラゴン族の数だけ、俺はデッキからカードをドローする。」

手札がゼロになってしまった龍平を黄色のオーラが包み込む。デッキからカードが3枚、龍平の手元へと引き込まれた。

EXデッキからの連続展開についで3枚のリソース回復。やはりその実力は侮れない。しかし同時に、嬢の思考は「どうやってこのターンを凌ぐか」ではなく、別のものへとシフトする。


阿原「あいつ…龍平相手に《アラドヴァル》を守りきりやがった…!」

ましろ「《アラドヴァル》がいる限り1ターンに1回は確実にモンスター効果を止められる。それをもってして…」


『どうやってこの龍を狩る?』


彼は、自らのエースモンスターを倒しきれずとも、確実に次のターンへの布石を残した。自分がデュエルでは上り坂にいるのはわかっている。しかしきっと精神面では龍平が優っている。

決定打となるカードが足りていないこの状況を打破するカードを、勝利へのトリガーを、

嬢(引き込む…!)
「私のターン、ドロー!!」

TURN:3

龍剛院 嬢 (ターンプレイヤー)
LP:8000
手札:1→2
モンスター:《ドラグニティナイト–アラドヴァル》(攻)
魔法罠:
フィールドゾーン:《竜の渓谷》

大石 龍平 
LP:8000
手札:3
モンスター:《聖刻龍王ーアトゥムス》(攻) 《聖刻神龍ーエネアード》(攻) 《天球の聖刻印》(攻)
魔法罠:
フィールドゾーン:

嬢(来た…!!このデュエルの決定打!!)

龍平(明らかに雰囲気が変わった…何か引いたな。)

嬢「私は手札から《ドラグニティ–クーゼ》を墓地に送って、《龍の渓谷》の効果を発動ですっ!」

そう叫んだ彼女の手元に《ドラグニティ–ドゥクス》のカードが加えられる。その2枚のコンボ、盤面とLPを詰めに来る龍の嵐が始まろうとしていた。

龍平「来るか…!」

レベル4のチューナーとして扱うことのできる《ドラグニティ–クーゼ》。そして《ドラグニティ–ドゥクス》を利用することで《ドラグニティナイト–バルーチャ》をS召喚するコンボ。

この展開によって、龍平の盤面にかかる圧はさらに膨れあがった。

《ドラグニティナイト−バルーチャ》(攻)
☆8 風・ドラゴン族/シンクロ/効果
2000/1200

《ドラグニティ–クーゼ》(守)
☆2 風・ドラゴン族/チューナー/効果
1000/200

《ドラグニティ–ギザーム》(攻)
☆3 風・ドラゴン族/チューナー/効果
600/1600

嬢「行くよ…!みんな!!
私は、《ドラグニティナイト−バルーチャ》に《ドラグニティ–クーゼ》をチューニングっ!」

黄昏に染まったフィールド。金色の風が暁色の光を纏い、乱反射した光の嵐が降り注ぐ。

「仲間の力乗せるはその神槍!黄昏に輝ける龍騎の長よ、意思を紡いで!!シンクロ召喚!
《ドラグニティナイト–アスカロン》!!」

《ドラグニティナイト-アスカロン》(攻)
☆10 風・ドラゴン族/シンクロ/効果
3300/3200

吹きすさぶ金色の嵐、《ドラグニティナイトナイト-アラドヴァル》と並ぶその龍騎が大きく咆哮する。

あまりにも巨大な龍騎の降臨。会場すらざわめきを忘れて数刻の沈黙が流れる。

キャンデ「こりゃ…詰みか?」

ましろ「《アスカロン》の効果は、回数制限無しの除外効果。こいつが決まれば…!」

嬢「私は《ドラグニティナイト-アスカロン》の効果を発動!カラミティランス!」

雷鳴と共にその光が《エネアード》と《アトゥムス》を一瞬のうちにして貫いた。平静を保っていた龍平の表情が黄昏の中で歪む。

龍平「くっ…!」

嬢「まだまだ!《アスカロン》!《天球の聖刻印》を除外して!!」

その叫びと同時に、最後の槍がフィールドに降り注ぐ。刹那、龍平もすかさず次の手を打った。

龍平「《天球の聖刻印》の効果発動…!
自身をリリースすることで、相手の表側のカード1枚をデッキに戻す!」

金色の天球は音を立てて弾ける。その衝撃はフィールドを包み込み、全てが小刻みに振動を始める。

嬢(また、対象を取らない効果…!)
「行って!アラドヴァル!!!」

嬢に残された《アラドヴァル》の効果。放たれた炎の矢によって、龍平の手に握られたそのカードは撃ち抜かれた。

輝久「さすが無効効果を持った《アラドヴァル》!!」

ましろ「毎ターン毎ターンかかる負荷が尋常じゃないな…!」

一瞬の攻防で、龍平のフィールドのカードはゼロに戻った。龍騎から雷が降り注ぎ、大地を貫いた。硝煙がゆっくりとあがり、大きく攻勢に転じた嬢の笑顔が垣間見える

嬢「やっと…底が見えてきたね!」

龍平が大きく息を吐く。それは、追い詰められた証拠か、ここまで滲ませることのなかった魂の汗か。両頬をパンッと軽く叩くと、諦めていないその表情を顕にした。

龍平「俺はリリースされた《天球の聖刻印》の効果を発動…!デッキから任意のドラゴン族を特殊召喚!」

嬢「えっ!」

《アラドヴァル》で止めたはず、と彼女が言う前に龍平が答える。

龍平「《アラドヴァル》で無効化されたのはあくまでデッキバウンスの効果。コストとしてリリースされた事実は変わらない。」

ふわっ、と柔らかい風が吹く。嬢の龍騎達とは翻っておだやかで、子を宥めるように静かな風。

龍平「…久々だな。デッキに入れておいてよかった。《いたずら風のフィードラン》!」

妖精のようにきらびやかに、ゆるやかな風を纏い小さな龍が姿を見せる。

《いたずら風のフィードラン》(守)
☆3 風・ドラゴン族/効果
0/0(1700/0)

嬢「…デッキから!
でも私がやることは変わらないよ!いって!《アスカロン》!カラミティランス!」

雷槍がその小さな体に降りかかる。直撃の刹那、蝶のような翼をぱっと広げてその身をカードへと変える。風に乗ったそれは、龍平の手元に吸い込まれるように飛んでいった。

龍平「《いたずら風のフィードラン》の効果発動。相手ターンに1度、フィールドの攻撃表示モンスターを守備表示に変更し、自身を手札に戻す。」

吹き抜けた緩やかな風は、金色の龍騎の体にまとわりつき、その翼を閉じさせた。黄昏に輝くその巨躯が鈍い音を立てて大地に落ちる。

嬢(このターンのダメージを防ぎつつ、《アスカロン》の除外を躱してきた!やっぱりすごい技量だけど…このカードなら!!)
「バトル!」

《ドラグニティナイト−アラドヴァル》と《ドラグニティ−ギザーム》の2体のモンスターが龍平を睨みつける。4000を超えるダメージを覚悟しなければならない。

銀色の龍騎の輝きが、熱を帯びて蜃気楼のように揺らぎ始める。龍に跨る鳥獣の騎士が天へと飛び上がると、やがてその巨体は激熱を纏った炎槍となり、騎士の手によって放たれた。

嬢「行って!イグニッションユナイト!!」

《竜の渓谷》の黄昏が、その炎をさらに煌々ときらめかせる。巨大な槍は、龍平のいる地上に降り注ぎ大地を爆音と共に貫いた。さらに浅緑色の鱗を纏った小さな竜もその攻撃についていく。龍平のLPが、大きく削れる。

龍平「くぁっ…!!!」
LP:8000→4400→3800


嬢「…私は、このカードを1枚伏せてターンエンド!」

嬢がずっと握っていたそのカードを勢い良くフィールドにセットする。

盤面で追い詰められ、かろうじて総攻撃を躱した。戦況自体は誰がどう見ても龍平が下り坂であった。自らのエースモンスターが揃って除去され、LPでも大きく差をつけられた龍平。常人であれば、もっと動揺し冷静さを欠いてしまう状況だというのは、誰の目にも明らかだった。


レイン「…冷静…。」

キャンデ「ああ、この状況でもクールに戦えるのは、やっぱりそれを裏付ける計算と自信があってなんだろうな。」


龍平自身、このデュエルがまだ死 んでいるとは考えていなかった。エースモンスターを除外され、LPも大きく下回っているという事実を受け止めていた。
自分に残された手札から状況を分析し、次のターンでの最適解を模索しているからこそ、まだその心は揺らいでいなかった。

龍平「俺のターン、ドロー…!」

TURN:4

大石 龍平 (ターンプレイヤー)
LP:3800
手札:4→5
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:

龍剛院 嬢
LP:8000
手札:0
モンスター:《ドラグニティナイト–アラドヴァル》(攻) 《ドラグニティナイト-アスカロン》(攻) 《ドラグニティ–ギザーム》(攻)
魔法罠:セット×1
フィールドゾーン:《竜の渓谷》

龍平(確かにXモンスターたちは除去されてしまっている。《聖刻神龍–エネアード》がこちら側の重要な除去カードであることは事実だが、この手札から完全ではないものの回答があることも事実…。
だったらここで引く理由はないよな…。)

受け止めていた。今の状況を。
劣勢に立たされていることは事実であり、まだ勝負が確定していない以上、残された自分の手札から最良の選択をすることに注力する。
まだ勝てる。まだ負けない。だからこそ、その龍の瞳に、未だ『敗北』の二文字は映っていなかった。

龍平「俺は、《輝光竜セイファート》を通常召喚。」

静かに、カードがデュエルディスクに当たる。一つ一つの瞬間、その中に、その二文字は隠されている。常に獲物を、大きな口を開けて待っている。全く予期しない場所で。

嬢「モンスターの召喚時…!」

嬢の手に握られたそのカード。明確に『決定打』と呼べるカード。前のターンに引いたのは《ドラグニティ−クーゼ》ではない。そこにある、1枚のカード。

嬢「カウンター罠《重力崩壊》!!!!」

刹那、龍の瞳に飛び込んでくる『敗北』の二文字。

星が叫ぶ。大地が割れる。

続く
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ランペル
ついに迎えた決勝戦…その対戦カードは龍平と嬢の二人。
龍血組で見てきた行ってきたデュエル…それを外で披露する事を避けてきた彼女が部のみんなのデュエルの姿を見て、初めて全力でデュエルに向き合った今大会。その実力の高さを皆から認められ、楽しく、どきどき溢れる彼女が本当にしたかったデュエルが出来ているという事で、今最高に彼女はデュエルを楽しんでいることでしょう。

嬢の妨害を潜り抜け、さらにはその妨害すらも逆手に取った展開を見せる龍平。デュエリストとしての実力の高さを感じながら全力で向き合う。彼女が秘めていた真の実力は龍平へ敗北をよぎらせるほど…!

まさかまさかの嬢の決勝進出!今まで抑え込んでいた分、楽しんでデュエルに臨む彼女は龍平を相手に勝利を掴めるのか!?
戦いの行く末が実に気になる所です! (2023-10-24 18:51)
金目鯛融合
見えている盤面の全てから最適解を導く能力に優れた龍平。ひたすら前を向いて、自分の持つ力の全てを以って相手に立ち向かっていく嬢。対照的な2人の性格は、チェーンブロック、コストと効果の違い、無効、対象を取るか取らないかといったシステムに対する反応からも見ることができますね。
目の前の「チャンピオン」が消えかける龍平。その隠し持っている手札は、起死回生の勝負手を創り出すのか?激闘の数々を楽しみにしています。 (2023-10-26 19:49)
コングの施し
コメント&閲覧ありがとうございます!

龍血のデュエルは伊達ではない…!彼女が秘めていた実力は決勝戦に進めるレベルのものにしたかったですね。ちょっと天然で優して、そしてデュエルを本当に楽しみたいからこそ、本気になるとべらぼうに強くて手がつけられない感じが描きたくて、伝わっていたら幸いです!

そして妨害すら利用する龍平のデュエル…しかし《アラドヴァル》によってかけられる負荷と、《重力崩壊》を前にしてどう立ち向かうか、乞うご期待です! (2023-10-26 21:28)

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