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HOME > 遊戯王SS一覧 > 38話 心に傘を

38話 心に傘を 作:コングの施し

全国決闘王杯・アオメ市内予選、5回戦。ベスト16に駆け上がった強者のみに許された領域。負けてしまった者達を置いて始まったベスト8決定戦にて、皮肉にも東雲中同士の対戦カードがあった。強力なドラゴン族の連続展開を得意とする新星にして、プロデュエリスト「大石竜也」の息子「大石龍平」、そして彼ら1年の先輩にあたり、《パラディオン》デッキを操る不思議ちゃん「花海 律歌」。まごう事なき強者同士のデュエル。その先に待ち受けるのは互いの腹の読みあいか、骨が軋むほどの殴り合いか…。

龍平と律歌のデュエル。
金色の鎧に身を包み、獣人を思わせるその騎士がどっかりと構える。律歌を守るようにして、3体のモンスターが龍平に対峙する。

デュエルの開始時に巡った律歌の思考。
この大会を通して見てきた、龍平の『新たなデッキ』。彼女は、先攻でもエースモンスターを展開をしなければ次のターンがないと判断した。ターンの終了と同時に、龍平が口を開く。

龍平「《アークロード・パラディオン》…。攻撃力4000か。」

龍平の視線の先の騎士、青白い星のような光が鎖となって、律歌のモンスターたちを結びつけている。

《アークロード・パラディオン》
LINK–3 光・戦士族/リンク/効果
4000(2000)・↙︎↑↘︎

TURN:2

大石 龍平 (ターンプレイヤー)
LP:8000
手札:5→6
モンスター:
魔法罠:
フィールドゾーン:

花海 律歌 
LP:8000
手札:1
モンスター:《アークロード・パラディオン》(攻) 《魔境のパラディオン》(守) 《天穹のパラディオン》(守)
魔法罠:セット×2
フィールドゾーン:

龍平「俺のターン。」

デッキからカードを引き抜く。そしてその瞬間に溢れ出す、言葉にできない殺気。

龍平「このカードは、相手フィールドにのみモンスターが存在している時、手札か特殊召喚できる。」

律歌(…来る!新しいデッキのモンスターが!)

律歌は身構える。そして龍平は真白い龍が刻まれたそのカードを突きつける。

龍平「来い。《聖刻龍−トフェニドラゴン》!」

そう叫んだ龍平の背後より、白く輝く球体が出現する。球に刻まれた金色の印がゆっくりと展開し、儚く朧げな光を放つ一匹の龍へと姿を変えた。

《聖刻龍−トフェニドラゴン》(守)
☆6 光・ドラゴン族/効果
2100/1400

律歌「キミの新しいデッキ…リリースを展開のトリガーとする《聖刻》だね…!」

龍平「さらに《聖刻龍−トフェニドラゴン》をリリースし、《聖刻龍−ネフテドラゴン》を特殊召喚する!」

金白色の龍が光の粒となって消え、同じく球状になった体を展開するようにして、紫色に淡く体を輝かせる龍が出現する。

《聖刻龍−ネフテドラゴン》(守)
☆5 光・ドラゴン族/効果
2000/1600

律歌(さっそくリリースしてきた…!《聖刻龍》の共通効果が発動する!)

龍平「リリースされた《聖刻龍−トフェニドラゴン》の効果を発動。デッキからドラゴン族の通常モンスターを攻撃力・守備力を0にして、特殊召喚する。
俺はデッキから《竜核の呪霊者》を特殊召喚。」

《竜核の呪霊者》(守)
☆8 闇・ドラゴン族/チューナー
0/0(2300/3000)

龍平「さらに《聖刻竜–アセトドラゴン》は、攻撃力を1000に下げることでリリース無しで通常召喚できる。」

また一つ現れる龍が刻み込まれた球体。新しい龍平の戦術によって、たった1ターンの初動で3体の上級ドラゴン族モンスターが揃った。

《聖刻龍−アセトドラゴン》(攻)
☆5 光・ドラゴン族/効果
1000/1200(1900/1200)

龍平「さらに《聖刻龍−アセトドラゴン》の効果を発動。自分の《聖刻》モンスターのレベルを、ターン終了時まで自分のドラゴン族通常モンスターのレベルと同じにする。スター・エングレーブ!」

《聖刻龍−アセトドラゴン》が咆哮する。フィールドにその声が儚く響き渡ると、彼のカードのテキストがみるみるうちに変化していく。

《聖刻龍−アセトドラゴン》☆5→☆8

《聖刻龍−ネフテドラゴン》☆5→☆8

律歌「レベルを変化させる効果…。全く食えないね!
私は《魔境のパラディオン》を発動コストに、永続罠《クルセイド・パラディオン》を発動!」

《アークロード・パラディオン》ATK:4000→3600

《魔境のパラディオン》のカードが墓地に送られ、同時に律歌のデュエルディスクに差し込まれたデッキから1枚のカードが抽出される。

龍平「《アークロード・パラディオン》のリンク先をリリースして発動か…!」

そのモンスターのリンク先をリリースすることはすなわち、攻撃力を落とすというリスクにつながる。相応のリターンが得られない状況でそれを発動することはないと判断し、だからこそ次のカードを身構えた。

律歌「その効果によって、デッキから《星遺物ー『星杯』》を特殊召喚!」

澄んだ水晶がぶつかるような音が鳴り響く。青い輝きを放ちながらフィールドに出現した、『杯』を冠する星の遺物。その姿に、龍平はデュエルディスクの情報を確認する。現れた異質なオブジェクト、その能力を、そして呼び出した真意をはっきりとさせるために。

《星遺物ー『星杯』》(守)
☆5 闇・機械族/効果 
0/0
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):EXデッキからモンスターが特殊召喚された場合、このカードをリリースして発動できる。そのモンスターを墓地へ送る。
(2):通常召喚した表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動できる。デッキから「星遺物-『星杯』」以外の「星杯」モンスター2体を特殊召喚する。
(3):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「星遺物」カード1枚を手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

龍平「EXデッキからのモンスターを墓地に送る能力…」

そう龍平がつぶやくと、律歌が「ふん!」と自慢げに腕を組む。

律歌「レベル8が3体も並べば出したくもなるよ。
あー、あと、今は《クルセイド・パラディオン》の効果で、《アークロード・パラディオン》にしか攻撃できないからね。」

龍平は数秒間黙り込む。
《アークロード・パラディオン》の無効効果に加え、《星遺物ー『星杯』》の落とし穴効果、そして攻撃対象は《クルセイド・パラディオン》の効果で自由には選べない。普通のデュエリストであれば、もう自分の詰みまで見えてしまうかもしれない。
しかしそんな中で彼は、顔色を一つとして変えず佇む。彼の中で巡っている思考は、誰1人として想像ができないのが現状であった。

龍平「俺は、レベル8の《竜核の呪霊者》と《聖刻龍-アセトドラゴン》をオーバーレイ。」

律歌「…!!」

律歌は驚きの表情を見せる。《星遺物-『星杯』》の効果はすでに把握しているはず。それにも関わらず最上級のX召喚を…?彼女の中で、様々な憶測が飛び交う。

龍平「巨神竜の魂、今剣に宿り旭日昇天の守護者となる。X召喚!《神竜騎士フェルグラント》!」

2体の竜は紫色の光となって交差し、いずれ巨大な渦を生み出した。中心へと収束したその光は一斉に弾け、金色の鎧をまとったそのモンスターが姿を現す。

《神竜騎士フェルグラント》(攻)
★8 光/戦士族/エクシーズ/効果
2800/1800

律歌「…!
《神竜騎士フェルグラント》って…モンスター版《禁じられた》系、みたいなカードだよね。
ぐぬぬ、ちょっとチェーン考えるね…。」
(私の盤面に残った妨害は《星遺物-『星杯』》の墓地送りと、《アークロード・パラディオン》の無効効果…ただしこれを使えば打点が無くなる…)

その一言で調子が狂ったのか、龍平は呆れたような顔になった。

律歌「あ~ごめんごめん!
私は、《星遺物-『星杯』》の効果を発動!自身をリリースすることで、X召喚された《神竜騎士フェルグラント》を墓地に送る!」

パリン…!
青白い杯のオブジェクトが、儚げに音を立てて砕ける。金色の竜騎士の身体が黄色い粒子状に薄くなっていく。

龍平「俺は、《神竜騎士フェルグラント》の効果を発動。対象モンスターの効果を無効にし、そのターン中、このカード以外のあらゆる効果に対する耐性を得る。」

光の球体が宿った剣を掲げる。その刃を中心として薄い金色の波がフィールドを包み込んだ。

律歌「使ってきたね…!でもこれで、《アークロード・パラディオン》の攻撃力は…」

龍平「俺が対象にするのは《アークロード・パラディオン》!

律歌「!!」

律歌は驚愕した。
《神竜騎士フェルグラント》の効果を自身に対して発動すれば、墓地送りを防げはするが攻撃力では《アークロード・パラディオン》を超えられない。しかしレベル8を2体使ってX召喚したモンスター。そうやすやすと自身を犠牲にすることはない、と、たかをくくっていた。

律歌の読みが、外れる。

律歌「私は、リンク先に存在する《天穹のパラディオン》をリリースし、《アークロード・パラディオン》の効果を発動!カード1枚を対象として、その効果を無効にする!私が対象とするのは、《聖刻龍-ネフテドラゴン》!」

《アークロード・パラディオン》ATK:3600→2000

《神竜騎士フェルグラント》から放たれた光が鎖状になりながら《アークロード・パラディオン》の元へと走る。その鎖が身体を縛る一刻前に、蒼い斬撃が空を裂いた。

《神竜騎士フェルグラント》のカードは墓地に送られ、《聖刻龍-ネフテドラゴン》と《アークロード・パラディオン》の効果は無効。嵐のようなチェーンの駆け引きの末、皮肉にもお互いのエースと呼べる格のモンスターがどちらも機能停止に陥る。

律歌(…読みが外れた、けど、きっとここで《アークロード・パラディオン》の効果を使うことは間違いじゃないはず。《聖刻龍-アセトドラゴン》には手札・フィールドのモンスターをリリースすることで私のモンスターを破壊する効果がある。破壊とリリースはどちらもこっちにとって旨くない!)

律歌が下した最良の決断。伊達ではない強者の思考。しかし、目の前に構える者もまた紛う事なく強者と呼べる者だった。
律歌は完全にこのチェーンの嵐に気を取られていた。そして同時に見逃していた。《神竜騎士フェルグラント》を捨て身の弾丸に使ってまで、《アークロード・パラディオン》の効果を止めた龍平の真の目的を。

龍の瞳は、獲物の油断を見逃さない。

龍平「俺は、墓地から《神竜騎士フェルグラント》を除外し、手札から《暗黒竜 コラプサーペント》を特殊召喚。」

《暗黒竜 コラプサーペント》(守)
☆4 闇・ドラゴン族/特殊召喚/効果
1800/1700

律歌「しまっ…!」

そう口に出そうとしたとき、パッと口を塞いだ。完全に目的を見誤っていた。彼にとって《神竜騎士フェルグラント》の着地がゴールじゃない。つまりこれから展開されるモンスターが本命だと…!





『お前、なんでデュエルやってきたんだよ?』

デュエルが終わった後、龍平が発した言葉。その言葉を聞いた時、居ても立ってもいられなくなって、会場を飛び出した。噴き上がったどろどろとした衝動が、どうしようもなく遊大の体を動かす。

川沿いを走る。
頬を伝うのは誰の涙か。流れ落ちる数多の藍色。天がこぼした雫か、堪えきれず瞳から溢れた結晶か。打ち付ける雨は全身を濡らし、走れば走るほどに足取りは重くなる。

自分は努力してきた。戦いというのは寂しいもので、自分のデュエルを磨けば磨くほど、自分のデュエルにかかる自身が大きくなっていく。だからこそ、過信していた。自分の努力を。自分だけが努力しているという勝手な想像に呑まれ、当たり前のはずの相手の努力を疑い、その結果として完膚なきまでに吹っ飛ばされた。

悔しさと恥ずかしさが、吹きこぼれた鍋のように自分の中に溢れてくる。己が決闘を磨いてベスト16を勝ち取った龍平に、嬢に、律歌に、阿原に、そして自分を討ち負かした輝久に、どう顔向けができようか。遊大には、そこに立っていられるほどの強さも、度量も、まだなかった。32敗退者から+4人の県大会出場者を決定する敗者復活戦、その存在すら瞬間的に頭から抜け、気がつけば降り頻る雨の中を突っ走っていた。

「…馬鹿だ。」

降りしきる雨の中立ち止まり、息を切らしながらそうつぶやいた。そして同時に頭の中でぐるぐると龍平の言葉が響く。

—なんでデュエルやってきたんだよ?

って、続けるほどの大層な理由が自分のデュエルにあるのだろうか。父親がプロデュエリストの龍平も家の誇りのデッキを使う輝久も。自分のデュエルは彼らみたいに特別なものじゃない。

そう思って、雨に濡れたカバンからデッキを取り出して、横に流れる川にぶん投げようとした。振りかぶった瞬間に、腕が固まる。その瞬間に、投げ出す潔さも、続ける強さも自分にはないってことがはっきりとわかって、情けなくて恥ずかしくて、濡れたデッキケースを握ったまま、とぼとぼとまた歩き出していた。





律歌のミス。いや、ミスというほどのミスではない。デュエルにおいて、非公開情報・不確定要素を全て念頭に置き、その先を全て読めるプレイヤーはゼロに等しい。

しかし、目の前に立つこの男は、そのゼロに限りなく近しい存在なのではないか。そう思わせるほどに、心から畏れた。

TURN:2 (メインフェイズ)

大石 龍平 (ターンプレイヤー)
LP:8000
手札:0
モンスター:《星導竜アーミライル》(攻) 《聖刻龍-ネフテドラゴン》(攻) 《暗黒竜 コラプサーペント》(攻) 《螺旋竜バルジ》(守)
魔法罠:
フィールドゾーン:

花海 律歌 
LP:8000
手札:1
モンスター:《アークロード・パラディオン》(攻)
魔法罠:《クルセイド・パラディオン》、セット×1
フィールドゾーン:

律歌「まさか《神竜騎士フェルグラント》は囮だったとはね…。」

律歌を睨みつける4体のドラゴン。律歌の手に握られたのは全てのモンスターを裏側守備表示にできる《砂塵のバリア -ダスト・フォース-》。強力な捲り札ではあるが、この怪物相手にそのカードが通るかは不安が残るポイントであった。

そして垣間見える。龍平の新たなエースモンスター、その姿が。

龍平「俺は、レベル8となった《聖刻龍-ネフテドラゴン》と《螺旋竜バルジ》をオーバーレイ。」

2体のモンスターが光の筋となり、渦の中に吸い込まれていく。閃光が弾け、龍の印が刻まれた金色の球が降り立つ。刻まれた印は音を立てて展開され、太陽のような輝きを放つ龍へと姿を変える。

龍平「刻み込まれた神の印、太陽の輝きを持って今解き放たれる。エクシーズ召喚!
ランク8《聖刻神龍-エネアード》!!」

これまでにないほど規格外の大きさ、そして律歌が息を呑むほどに美しく、煌々と輝くその姿。金色の装甲が、日のように光る鎧に照らされてチリチリと眼の奥を焼くような感覚に襲われる。

《聖刻神龍-エネアード》(攻)
★8 光・ドラゴン族/エクシーズ/効果
3000/2400

思わず、言葉を漏らしていた。「…すごい。」と。

龍平「《聖刻神龍-エネアード》の効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、手札・フィールドから、リリースしたモンスターの数まで、相手のカードを破壊する。
俺は手札から《始原竜プライマル・ドラゴン》をリリース。セットカードを破壊!」

龍平が掲げたカードが、めらめらと燃えて《聖刻神龍-エネアード》の胸元へと飛んでいく。身体はより強く明るく紅く、ごうごうときらめきを増す。背中の翼がゆっくりと開かれ、凄まじい熱波がフィールドを襲う。

律歌「…あっつ!!!」

律歌は腰を低くして顔をしかめる。そして彼女のデュエルディスクのカード、《砂塵のバリア -ダスト・フォース-》が炎に巻き込まれて消えていく。

龍平「リリースされた《始原竜プライマル・ドラゴン》の効果を発動。このターン、《聖刻神龍-エネアード》は2回攻撃できる。」

熱波が止み、ふらつきながらも律歌は再び龍平を見つめる。

律歌「はぁ…はぁ…。容赦ないね。
でもまだ、私のLPは刈り取れないはず!」

律歌は劣勢ながら、まだ勝負を諦めていない姿勢を見せた。盤面に残されたのは効果が無効となった《アークロード・パラディオン》のみ。しかしぎゅっと、1枚のカードを握りしめている。

龍平「…俺は《螺旋竜バルジ》の効果を発動。墓地からこのカードを特殊召喚し、《暗黒竜 コラプサーペント》のレベルを8に変更する。
さらに、この2体をオーバーレイ!!」

律歌(劣勢も劣勢。私に残されたのは『このカード』1枚だけかあ。)

律歌は祈るようにそのカードを見つめる。そしてその奥、また、新たなモンスターの胎動が始まっていた。太陽の輝きとは相反して、星のようにはかなく輝く天の印。

龍平「刻み込まれた天の印、星々の光携えて降り立て。エクシーズ召喚!
ランク8《聖刻天龍-エネアード》!!」

まるで夜空のように、小さな輝きが心臓のように鼓動する。脈打つそれは次第に龍を象りはじめ、やがてもう1体の太陽の龍とは対になるほどに大きく、力強く咆哮した。

《聖刻天龍-エネアード》(攻)
★8 光・ドラゴン族/エクシーズ/効果
3000/2400

龍平のもとに新しく召喚された対になる巨大な龍。《聖刻神龍-エネアード》と《聖刻天龍-エネアード》。まばゆい輝きを放つ2体の龍は、龍平の「バトルだ」との声と共に律歌に襲い掛かる。

律歌は握られたカードをゆっくりと前に突き出す。手札に残された最後のカード。

律歌「頼んだよ!《虹クリボー》!!」

《虹クリボー》…。彼女が最後まで残した防御のカード。モンスター1体の攻撃を止めるそれは、小さな身体で、太陽の神龍にずんずん突き進んでいく。


しかし、神と天を冠する龍たちは、有象無象を許しはしない。


龍平「《聖刻天龍-エネアード》の効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、フィールド・墓地のカードを対象とする効果を無効にして、破壊する。
悪いけど、このデュエルは、もうここまでです。」

巨龍の群れに巻き込まれた1匹のモンスターは光の粒となる。
彼女のエースモンスター、《アークロード・パラディオン》もろとも、そのLPをたった1ターンで彼の者は刈り取った。

閃光と衝撃の中、律歌の細い叫びが鳴り響く。

花海 律歌 LP:8000→7000→4000→1000→0

WINNER:大石 龍平





律歌がぱんぱんと埃を払って龍平の前に歩み寄る。「負けちゃった」という彼女の顔には、ぎこちない笑みがあった。

龍平「…ありがとうございました。」

そう言って振り返ろうとした龍平の肩を、ぽんと律歌が叩いた。

律歌「負けたのにごめんね。聞きたいことあったんだ。」

龍平はすこしの間黙り込んだ。沈黙ののち、「遊大のことですか。」と彼女の目を見て尋ねた。

律歌は静かに頷く。

律歌「…最後に彼に言ったこと、あれってどういう意味なんだろうな、って。」

とっさに龍平は彼女の眼から目をそらした。そのまま背中を見せる。まるで顔を隠すようにして。

龍平「すいません。ちょっと羨ましかったんです。
純粋にデュエルを楽しんで、『1番好きなことでテッペンを取る』っていう単純だけど素敵な理由でデュエルをしてるアイツが。」

律歌は黙り込む。その言葉から、それが龍平自身の『デュエルをする理由』じゃないってことがはっきりとわかって、なんだか言葉が重たくて、心のキャンパスに黒いインクが垂れてしまったような淡くて、でもしっかりと黒い感情が染み込んで来るのを感じた。

龍平「羨ましかった。でもだからこそ、それを捨てかけてるアイツに、腹が立ったんです。」

律歌「…そっか。」

律歌は龍平のほうへと伸ばした手をそっと胸に当てる。小さく、「彼、戻って来て欲しい?」と尋ねた。

龍平はすぐには答えない。ただポツリと呟き、前へと歩み始める。

龍平「沈んでるアイツは気持ち悪くて、なんか嫌です。」

律歌はその言葉で、1秒前よりも視界が鮮やかになっていくのを感じた。彼はなんて気持ちを伝えるのが下手なんだろう。どうしてここまで想っていて、そこまで不愛想になれようか。
そして遊大にも知ってほしい。自分がどれほど大切にされているか。

律歌も走り出す。雨降る会場の外へ。鞄から折り畳み傘を取り出して、びしょ濡れにならないように、でも急いで走る。彼の濡れた薪に傘をさしてあげよう。炎をつけることは難しいかもしれない。でも、傘に入れてくれる人だっているんだって、言ってあげよう。
そして雨でかき消せるほどの声量で、誰にも聞こえないように彼女もまた小さく呟いた。


「私も、一緒にいてほしいよ。遊大。」


続く
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ランペル
凄腕同士のデュエルの見ごたえはやはりすごいですね。フェルグラントが出た瞬間に自身に耐性を付与して、星杯の除去を回避する事しか自分も頭になかったです…w

怒涛のランク8展開を続け、フィールドへと並んだは2体のエネアード。それぞれが律歌の対処札、次のターンへとつなげる布石を打ちのめし、二人のデュエルは龍平が勝利!
驕ってしまっていた自身の情けなさへの羞恥は、再戦のチャンスすら記憶から消えてしまっていた程でしたか…。他のみんなへ顔向けが出来ないと、逆方向にもなかなかに真っすぐな遊大。
そんな彼のデュエルへ向き合う姿には、龍平も惹かれており、それを捨てようとしていることに憤りを感じているとのこと…。阿原もそうでしたが、みんな真っすぐ前に向かって行く遊大に励まされ勇気づけられている訳ですねぇ。お前ら遊大の事大好きかよ!律歌も、雨に濡れている彼へと戻って来て欲しい心の内を零す…。

いろいろな意味で今後が気になっていく所存!
それにしても、雨が降る事で暗雲を立ちこませ、それに傘をさすという流れのセンスの良さ…脱帽でございます。 (2023-10-07 21:35)
コングの施し
ランペルさん、閲覧&コメントありがとうございます!

みんなそれぞれの戦う理由があるからこそ、純粋にデュエルを楽しむ彼に惹かれているわけですね。しかし敗者復活を逃すのはやはり痛いところ。本当にみんながみんな、彼を迎える気持ちでいればいいですが…。

龍平の新しいデッキ、実はかなり悩んだんです。シンクロを軸にする案もあったんですが、カオスルーラーが禁止になってしまいエクシーズへシフトさせました!

彼らの今後にもこうご期待です! (2023-10-12 21:45)

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16 54話 火の暮れる場所 その① 132 0 2024-03-02 -
20 55話 火の暮れる場所 その② 154 2 2024-03-07 -
17 56話 赫灼の剣皇 194 2 2024-03-11 -
23 57話 金の卵たち 164 2 2024-03-18 -
19 合宿参加者リスト 〜生徒編〜 141 0 2024-03-20 -
16 58話 一生向き合うカード 153 2 2024-03-24 -
17 合宿参加者リスト〜特別講師編〜 110 0 2024-03-31 -
21 59話 強くならなきゃ 135 2 2024-04-03 -
15 60話 竜を駆るもの 71 0 2024-04-20 -
13 61話 竜を狩るもの 95 2 2024-04-22 -
6 62話 反逆の剣 34 0 2024-04-26 -

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