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HOME > 遊戯王SS一覧 > 75話 炉心

75話 炉心 作:コングの施し

ましろ「あんたら……正気かよ……なんでそんなことが言える!?
…………なんでそんなことが、できるんだよ!!!」

アオメ市を出て、そしてチバ県すら抜けた先にある、その建物。ロビーに佇む数人の男に、ましろは声を荒げていた。手元にあるのは1台のタブレット。Dホイールからモーメントアウトさせたその液晶の中には、1人の少女と男がデュエルをしている姿が映し出されている。

律歌「県警が動いていないから、私たちだってあなた達のところへ来ているんですよっ!!」

警官「県警察本部の異常事態は把握しています!!
しかしその映像だけでは、時刻も事実であるかすら調査ができないんです!!ここにいる者達と機動隊を急遽結成しろなどと無理を……!!」

街を抜けた2人が目指した先。それは確実に裏社会の勢力である龍血組を『理』と『法』で突破できる場所であった。彼女達二人も、戦う役割を街に残った友に押し付けたことに責任は無論感じている。だからこそ、自分たちの行動が、彼らを救えると信じていた。

「…………無理じゃあねえ。子供の命をほっとけるかよ。」

「……ええ。アオメで起きている状況は、仮に動いていたとしても明らかに県警のキャパを超えています。」

押し問答が続いていたその状況を、2人の男女の声が穿った。青色の髪の女性と、白いシャツを腕まくりした色黒の男。その2人の言葉に、彼女らの前の警官が一歩退く。それほどの者たちなのだと、否応なく理解させられた。

律歌「あなた達は……!!?」

「別に………警官だよ。正義を執行するだけのな。」

「………と、その上司です。」

「昔、街を救った奴がいたんだ。
大人も子供も、良い奴も悪い奴も、全員救って見せた奴がいた。俺たちは公安だ。セキュリティなんだよ、守るのが仕事だ。
仲間思いな子供1人も守れなきゃ、あいつに顔向けできねえんだよ。」

ましろ「……いったい誰の話を…」

「昔のことです。
この人はその英雄に憧れてるだけですから。……大丈夫、責任は私たちが取ります。」

それだけをこぼし、2人がそのフロアを後にする。同時に館内に緊急出動のアナウンスとサイレンが鳴り響き、幾人もの警官・セキュリティが群を成して動き出す。いつの時代も、どの世界でも変わりはしない。罪のない少年少女が、命を賭してまで悪に屈することなど。カウントダウンが、今ここに鳴り響く。








ーTURN2(ドローフェイズ)ー

大石竜也(ターンプレイヤー)
LP   :6800
手札   :5→6
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:

荒田 武久
LP   :8000
手札   :1
モンスター:《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》
魔法罠  :セット×3
フィールド:



竜也「随分と早い……1ターン目だったな。」

竜也は、火傷を負ってボロボロになった眼前の男にそう投げかけた。男は息を切らしている。もう限界なのだ。しかしそれでも彼をこの場に立たせているのは、裏の世界で生きてきた故のプライドと、自分たちへの憎しみだということなどとうに理解できていた。

荒田「さっさと……しやがれ……殺してやるからよ……!!」

竜也「殺す……か。」

竜也はその視線を、男の足元に倒れ込む2人の少年に移した。血を流している遊大と、力無く横たわる日暮。彼らの息はまだあるのだろうか。龍平に持たせているディスクと、ましろの足を使った通報もあって公安の到着はそう遠くはない。しかし待てるほどの時間があるのかという思いと、一刻も早く少年たちを救助しなくてはならないという思いが交差する。

竜也「彼らは……殺してはいないのだろう。」

荒田「よそ見してんじゃねえぞ!!
公安が来てんだよ!!さっさとしねえとこいつらごと_______

そう言って男は拳銃を横たわる2人に向けた。その行為に竜也は唇を噛み締める。
勝つことはできるだろう、しかし勝ったとしてこの男を無力化できる保証など……


阿原『おやっさァァーーーーーーん!!!!』


俯く自分の背中を、阿原の声が押した。その声に振り返った先、携帯電話を握りしめる彼の姿がある。

阿原「やっちまってくれえ!!!!
ましろから連絡があったんだ!!嬢たちも、オレたち学校組にももうすぐ到着するって!!やってくれたんだよ!!!!」

竜也「…………!!」

その声に、どれほど助けられただろうか。自分には、親として、大人として子供たちを救う役割がある。しかしそのバトンは全員で紡いで来たもので、今自分にすべきことを、彼は、ましろは、そして龍平の戦友たちは明確にさせてくれたのだ。だったら自分にできることは、1つだった。

竜也「………荒田と言ったな。
案ずるな、この1ターンで貴様を完全にへし折ってやる……!!」

荒田「舐めた……口を!!!!」

竜也「私は、《天盃龍パイドラ》を通常召喚し、その効果を発動!!
デッキから《盃満ちる燦幻荘》を、フィールドゾーンへとセット!!」


《天盃龍パイドラ》(攻)
☆3 炎属性・ドラゴン族/効果
ATK:1700/DEF:1000


白い鱗を纏った一匹の竜が、フィールドへと降下する。そのドラゴンは、荒田の従えている翼を携えた《真紅眼》とは対照的で、洋風というより中華風な印象を受ける。しかし、荒田は知っている。プロデュエリストであり若くして『星竜』のタイトルを奪取し、『暴竜大石』などという異名さえ授かったこの男のデュエルを。

荒田「《燦幻荘》の発動はさせねえ……リバースカード!!
______《真紅眼の凱旋》、そして《メタル化・強化反射装甲》ォ!!」

明らかになった2枚のリバースカード。
《真紅眼の黒竜》を甦らせる《真紅眼の凱旋》、そしてフィールドへと舞い戻る翼はモンスターとしての魂を宿す前に鋼によって包まれていく。

荒田「これで墓地から特殊召喚した《真紅眼の黒竜》は、てめえを殺すモンスターへと変化する……来いッ!!
______《レッドアイズ・ブラックフルメタル・ドラゴン》ッ!!」


《レッドアイズ・ブラックフルメタル・ドラゴン》(攻)
☆8 闇属性・機械族/特殊召喚/効果
ATK:3800(3400)/DEF:2800(2400)


黒い翼は金属の光沢を得て、燃ゆる校舎の炎を照らしてギラギラと光っている。《真紅眼》という『可能性』を秘めたモンスター。その可能性ゆえに裏の世界の者へと流れ、その牙を自分へと向けている。圧ではない、ただその瞳がどうも哀しみを孕んでいるように見えて、仕方がなかった。

竜也「……セットされたフィールド魔法《盃満ちる燦幻荘》を発動!!」

荒田「させねえっつっただろうがア!!
《ブラックフルメタル》の効果!!相手のカード効果の発動を無効にし、相手モンスター1体の攻撃力分のダメージを、てめえに与える……死にやがれ!!」

黒い鱗に映し出された《盃満ちる燦幻荘》のカード。反射したそれが炎を纏ってフィールドへと飛び散る。火山の噴火のようなそのソリッドヴィジョンは竜也のフィールドへと伝播し、そのLPと竜也のカードを焼き焦がしていく。


(LP :5100)大石 竜也



荒田「《燦幻荘》は1枚だよなあ『暴竜』大石…!!
これでもう、メインフェイズ中のサーチと耐性付与はできねェはずだよなあ………!!」

……かに、思えた。燃ゆるフィールドを掻き分けるようにして、竜也は数歩前に前進する。《盃満ちる燦幻荘》、『星竜』のタイトルを奪取した時に名誉制限カードに位置付けられたそのカードに対してのピンポイントな無効を喰らい、そのデッキの機能が停止したと、そう考えていた。そんな凡庸な妨害で止まるならば、それで勝てるのならば……

竜也「貴様がモンスター効果を発動したことで、手札から《三戦の号》を発動。
デッキから通常魔法《テラフォーミング》を、フィールドへとセットする。」

それで勝てるのならば、この男はプラチナ3級のプロにはなっていない。最強のシンクロ使いを決める『星竜戦』を、征してなどいないだろう。そのカードによって、荒田はまた1つ、1つと追い詰められる。

荒田「くっ……そがァ!!
《メタル化・鋼炎装甲》を、《ブラックフルメタル》をリリースして発動ッ!!
リリースしたモンスターと名称の異なる、《メタル化》できるモンスターを、召喚条件を無視して特殊召喚する……!!
______来やがれ……《メタル・デビルゾアX》ッ!!」


《メタル・デビルゾアX》(攻)
☆8 闇属性・機械族/特殊召喚/効果
ATK:3000/DEF:2300


チリチリと赤い炎を映していた鋼殻は、舞う火の粉を吸い込んでその姿を変えていく。行ける生物が脱皮をし変態をするように、ドラゴンのシルエットを模っていた顎はより禍々しい姿へとその身を変化させた。

荒田「《メタル・デビルゾアX》は魔法・モンスター効果が発動した時、フィールドのモンスター1体を破壊す______

竜也「《テラフォーミング》を発動。……デッキから《多元宇宙》を手札へ!!」

荒田「聞けよォ……話をなあ!!!
《メタル・デビルゾアX》、効果発動!!《パイドラ》を叩斬れ!!!」

竜也は荒田の言葉を全く聞き入れない。乱反射した斬撃がフィールドに押し寄せ従えるモンスターがなますにされようとも、全く怯む様相を見せない。その目は真っ直ぐにフィールドを見つめているというのに、まるでその状況変化を意に介さない。ぎりり……と歯を鳴らす荒田のその表情も声も、この竜を止めることなどできない。

荒田(こいつ正気か……自分のモンスターがぶった斬られてんだぞ!?)

竜也「フィールド魔法《多元宇宙》を発動し、その効果を適応!!
《多元宇宙》を墓地に送り、墓地に存在する《盃満ちる燦幻荘》のカードをフィールドゾーンへ!!」

一瞬、青黒く染まった空。霧散した光は3色の炎を映し出し、彼の背後に巨大なモニュメントが出現する。フィールド魔法《多元宇宙》、墓地のフィールド魔法を再度発動する効果を持つフィールド魔法。『星竜戦』に際し制限カードに指定された《盃満ちる燦幻荘》の弱点は、発動自体を無効にされること。しかし竜也は、その弱点すら《天盃龍》のデッキスロットの少なさからリカバリーする手段を持っていた。相手が自分の足を止めようが、腕を掴もうが、弾丸を放とうが刃を向けようが関係ない。絶対止まらない。今あるフィールドの状況から、勝利という未来だけを見続けて火の玉のように進み続ける。いかなる障害も彼の前では無力。それがこの『暴竜』大石というプロデュエリストなのだ。

竜也「《盃満ちる燦幻荘》の効果を発動。
デッキより《幻禄の天盃龍》を手札に加え、《燦幻開花》を捨てる。
さらに手札に加わった《幻禄の天盃龍》は、自身の効果で特殊召喚できる……!!」


《幻禄の天盃龍》(攻)
☆3 炎属性・ドラゴン族/(チューナー)/効果
ATK:0000/DEF:1000


出現した金色の鱗を携えた竜。その鱗は、髭は、牙は、じわじわとその色を変化せていく。それは全ての色に染まってしまいそうでありながら、どくどくと血が流れるように熱を赤い色をその体に流している。ついにその身は音を立てて燃え上がり、新たなる《天盃龍》へと昇華する。それは3種の龍の中でも最強格と謳われ、《盃満ちる燦幻荘》と同じく採用が制限された、禁忌の力。

竜也「《幻禄の天盃龍》をリリースし、効果を発動。……デッキから現れよ!!
______レベル4《天盃龍チュンドラ》!!」


《天盃龍チュンドラ》(攻)
☆4 炎属性・ドラゴン族/チューナー/効果
ATK:1500/DEF:1000


フィールドへと舞い降りた《天盃龍チュンドラ》。そして竜也の口より同時に宣言される、「バトルだ」という言葉。フィールドに存在するのはたったの1500しか攻撃力を持たないモンスターであるはずなのに、その声色と貫禄、そして荒田の中にある生物としての勘が、恐怖という感情をグラグラと揺らしている。これが《天盃龍》。これが大石竜也というデュエリスト。そのバトルフェイズの宣言か逃れた者は、たとえプロデュエリストであっても片手で数えられるほどしかいない。

竜也「《天盃龍チュンドラ》で、《メタル・デビルゾアX》を攻撃。
そのダメージステップに、《チュンドラ》の効果を発動!!デッキから《天盃龍》を1体特殊召喚する。
______現れろ、《天盃龍ファドラ》!!」

荒田「《メタル・デビルゾアX》の効果は、1ターンに2度発動できんだよッ!!
なますになりやがれ!!《天盃龍チュンドラ》ァ!!」

その効果の宣言をしたのも束の間、緑の炎が舞い上がり、もう一体の《天盃龍》が竜也のフィールドへと姿を現す。フィールドに響くのは龍たちの息遣いと竜也のディスクから流れるLPの減少音だけ。《メタル・デビルゾアX》は、一切その挙動を見せない。


《天盃龍ファドラ》(攻)
☆3 炎属性・ドラゴン族/効果
ATK:1600/DEF:1000


荒田「ンで……!!」

竜也「………『ダメージステップ』だと言ったはずだ。
そのモンスターの効果はダメージステップには発動できない。貴様……そんなレベルでそのデッキを使っているのか?」

荒田「くっ……そ………が!!」

竜也「ダメージステップに発動できる効果は、攻守の増減を含む効果とカウンター罠、その他発動時の明記があるカードのみだ。
_______貴様本気で言っているのか、貴様、貴様のような男が……!!」


(ATK:1500)《天盃龍チュンドラ》
(ATK:3000)《メタル・デビルゾアX》

(LP :3600)大石 竜也


《天盃龍チュンドラ》の効果によって呼び出された《天盃龍ファドラ》によって、その戦闘で破壊されるモンスターはいない。しかし何よりも竜也の神経を逆撫でたのは、荒田のデュエルへの理解度であった。ダメージステップに発動できる効果と、そうでない効果。確かに常にデュエルで触る要素ではない。しかし根本的ルールであることは確かで、それすら理解できないこの男が、足元に横たわる2人の命を握っている。

竜也「なぜ……どうして彼らが貴様の犠牲にならなければならない?」

荒田「知……らね……えよ、俺はデュエルなんか……好きでもなんでもねえ。
ここにしか……生きる場所がなかっただけだ……!!」

《天盃龍ファドラ》の攻撃、そのダメージステップに、再び効果は超動する。竜也の墓地が掻き回され、パチンと1枚のカードが飛び上がる。竜也の手に渡ったそれはディスクに叩きつけられ、同時に白い炎がぼうっと灯った。


《天盃龍パイドラ》(攻)
☆3 炎属性・ドラゴン族/効果
ATK:1700/DEF:1000


(ATK:1600)《天盃龍ファドラ》
(ATK:3000)《メタル・デビルゾアX》

(LP :3600)大石 竜也


並び立った、3体の《天盃龍》。未だフィールドで最も攻撃力の高いモンスターを従えているのは荒田であるはずなのに、そこには圧倒的な実力の差があった。狩人と獲物のように、消火作業に晒されている炎は2人を大小の影でそれぞれ映している。

竜也「生きる場所がなかった………だと?」

荒田「てめえに………プロなんかに…………てめえなんかに何がわかるってんだよ……!!」


(ATK:1700)《天盃龍パイドラ》
(ATK:3000)《メタル・デビルゾアX》

(LP :3600)大石 竜也


小さくなってく学校の炎。それは荒田の戦意を表しているようで、相反するように《盃満ちる燦幻荘》の炎は燃えがっていく。現実に生きようとし、それでもデュエルをするしかなかった男と、デュエルの強さを追い求めた果てに、命のかかった現実のデュエルをする指名を背負った男。

竜也「………わからないな、わかろうとする気すらない。
《天盃龍パイドラ》、効果を発動。バトルフェイズ中、フィールドのモンスターを素材としてS召喚を行う!」

荒田「《メタル……デビルゾアX》……今度こそ……効果発動!!」

機械仕掛けの魔人がその爪を十字の形に構え、凄まじい勢いで振り翳した。フィールドを駆ける斬撃は、《天盃龍チュンドラ》の喉元へと飛び込んでいく。たった1体のチューナーを狙った一撃。その刃は……

竜也「《チュンドラ》、効果を発動。自身と《パイドラ》を素材として、S召喚する…!!」

この男には、『暴龍』大石 竜也には、届かない。そこにあるのは怒りを通り越した先の感情だった。デュエルで頂上を目指し続けた少年少女の命が、デュエルのルールすら把握しきれていない男に脅かされている。それは絶対に許されて良いものではないはずなのに、当の本人は自身の『生きるしかなかった世界』を嘆いている。声すら出す気にならなかった。生き方を咎めるのも面倒だった。今はただ、この男を折る。それが自分の役目だと、せめて、家族を蔑ろにしてまでデュエルに向き合い続けた自分にできることはこれだけだと、そう思えた。

竜也「______シンクロ召喚、レベル7《燦幻昇龍バイデント・ドラギオン》!!」


《燦幻昇龍バイデント・ドラギオン》(攻)
☆7 炎属性・ドラゴン族/シンクロ/チューナー/効果
ATK:2600/DEF:2000


赤と白の炎は絡み合い、それぞれの色で炎に焼き付けられた光の輪を作り出す。高音で稲妻が走り、燃える門は2つの首を携えた《燦幻》のシンクロモンスターをフィールドへと産み落とした。全ての効果を使い切った荒田は、その様に足を一歩退いた。攻撃力は2600。それでもわかってしまうのだ、勝てないと。

竜也「《バイデント・ドラギオン》、効果を発動。墓地から《パイドラ》を特殊召喚。」


《天盃龍パイドラ》(攻)
☆3 炎属性・ドラゴン族/効果
ATK:1700/DEF:1000


荒田「はぁ……はぁ……は…ぁ…っ!!」

竜也「《ファドラ》……効果を発動。
《ファドラ》自身とシンクロチューナーの《バイデント・ドラギオン》を素材として、S召喚を行う!!」

燦幻荘に灯された炎は、その一声一声で段々と激しさを増していく。
消えかかる学校の炎と、竜也の背後の燃え上がるソリッドヴィジョン。その大きさは、激しさは、段々と反転していく。

竜也「______シンクロ召喚、レベル10《燦幻超龍トランセンド・ドラギオン》!!」


《燦幻超龍トランセンド・ドラギオン》(攻)
☆10 炎属性・ドラゴン族/シンクロ/効果
ATK:3000/DEF:3000


竜也「3回以上攻撃宣言が行われたターン、シンクロ素材となった《バイデント・ドラギオン》は墓地から特殊召喚できる。さらにこの時、《メタル化・鋼炎装甲》を破壊。」

竜也のフィールドへと姿を見せた、2体の《燦幻》のシンクロモンスターたち。赤と白、そして緑の炎と稲光を巻き起こすそのモンスターたちは、荒田の身を噛み砕き、生き血を啜り、その亡骸すら灰に帰さんとばかりに吠え威る。

竜也「《トランセンド・ドラギオン》で、《メタル・デビルゾアX》を攻撃……!!」


(ATK:3000)《燦幻超龍トランセンド・ドラギオン》
(ATK:3000)《メタル・デビルゾアX》

(LP :8000)荒田 武久


3つ首の竜と、機械仕掛けの悪魔が衝突する。その攻撃力は互角。戦闘・効果の破壊から荒田のモンスターを守る《メタル化・鋼炎装甲》は、すでに破壊されている。故にその戦闘は純粋な相打ち……ではない。砕け散ったはずの炎は再び龍の首を、牙を、爪を、その6つの瞳を形取っていく。

荒田「……なんで……なんでなんでなんだよ……俺が……!!」

竜也「3回以上攻撃宣言されたターンだ。復活しろ……《トランセンド・ドラギオン》!」


《燦幻超龍トランセンド・ドラギオン》(攻)
☆10 炎属性・ドラゴン族/シンクロ/効果
ATK:3000/DEF:3000


再び出現したそのモンスター。そして同時にフィールドを包んだ剛炎の波に、《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》の姿がなす術なく呑まれていく。竜也のフィールドには《天盃龍パイドラ》と《燦幻昇龍バイデント・ドラギオン》、そして《燦幻超龍トランセンド・ドラギオン》が存在している。荒田のフィールドにモンスターはいない。圧倒的な絶望を前にして、男は吠えた。

荒田「俺が……何したってんだよ……!!?」

竜也「_________《燦幻超龍トランセンド・ドラギオン》、ダイレクトアタック!!」


(ATK:3000)《燦幻超龍トランセンド・ドラギオン》

(LP :5000)荒田 武久


その問いに、竜也は答えなかった。答える気にもならなかった。自分が何をしたのか、そんなこともわからない男に、開く口などない。3つの炎が、後退りをする荒田の身に降り注ぐ。ソリッドヴィジョンの炎すら、圧倒的な力の差と底の見えない恐怖に駆られたこの男には、傷だらけの心と体を焦がすには十分過ぎるほどだった。

荒田「ッ……ああああああッ……ぁ…………………あつい…あつ…い……あぁぁぁ゛!!!」

竜也「《天盃龍パイドラ》、《燦幻昇龍バイデント・ドラギオン》……ダイレクトアタック!!」


(ATK:1700+2600)《天盃龍パイドラ》+《燦幻昇龍バイデント・ドラギオン》

(LP :      700)荒田 武久


デュエルを強いられてきた。これまでの裏の世界に必要だった武力や実力だけでは、この世界で成り上がることはできなかった。だからデュエルを磨こうにも、自分はそれに縋ることができなかった。何もかも中途半端に染まってきたから、そんなデュエルで頂点を目指そうなんて奴らが憎たらしく思えた。それでも、自分の裏の世界の終わる寸前ですらデュエルに縛られ、その果てに全身に焼け付いた傷を負った。言い訳をしようにも自分がやってきたことが許されるはずもないから、牙を向いた。しかしそこでも振るうのはデュエルで、今となっては擦り減る自分のLPが、壊れゆく心を映しているとしか思えなかった。

荒田「があぁぁああぁぁッ……ああああぁぁ……ああ……あああぁぁぁああ!!!!」

痛い、熱い、一度その身を焦がした火傷が、擦り減るLPを見ている自分の心に炙られているんだ。これはデュエルだ、ソリッドヴィジョンだ。痛いはずも熱いはずもない。それなのに、それなのにどうしようもなく全身が焼け焦げそうなほどに熱いのだ。こんな思いをするのなら、こんなに痛いのなら、熱いのなら……

竜也「《パイドラ》の効果を発動。
自身と、《バイデント・ドラギオン》で……シンクロ召喚。
_______これで終わりなんだ、レベル10《トライデント・ドラギオン》……!!」


《トライデント・ドラギオン》(攻)
☆10 炎属性・ドラゴン族/シンクロ/効果
ATK:6000(3000)/DEF:3000


その龍の降臨と同時に、竜也のフィールドからそのカード以外の全てのカードが姿を消す。《盃満ちる燦幻荘》が灯していた炎はその3つの首に宿り、みるみるうちに攻撃力は6000まで到達した。どうしてだろうか、わかっていたのだろうか、全て中途半端に終わった自分に、プロデュエリストが倒せるなどと思っていたのだろうか。もう痛いのは嫌だった、熱いのは沢山だった。

竜也「………合計ダメージは18000だ。
もうサレンダーしろ。心と体が痛むんだろう……デュエルで貴様を楽にしてやるほど、私は優しくない。」

荒田「はぁ……はぁ……は…あ……!!」

竜也「サレンダーしろと、言っているんだ。
そして一生忘れるな。何も残せなかった貴様の心を殺しかけたのはデュエルだと。消えない傷と痛みを貴様に刻み込んだのはデュエルだと。それを抱えて…生きて行くんだ…!!!」

もう、何も飲み込むことができなかった。楽になりたい。痛いのも熱いのも御免だった。しかしその言葉で、この痛みを忘れずに一生自分の生きた道を悔いることが、何よりも残酷に思えた。何も残せないのなら、自分が生きたことで何も残らないのなら……そんな自分に答えるように、背後で破砕音が鳴り響く。

ばがあーーん!!!
鎮火作業にあたる消防隊員の声が響いた。学校の2階から、まだ消えかかっていない木片が校庭へと転がり落ちる。消えかかったいた炎が、最後に自分に楽になれと訴えかけるように、そこに落ちてきた。

荒田「もう……沢山だ……デュエル…なんか……で…!!!」

足は動いていた。木片はまだ燃えている。炎は腰あたりまで昇っているだろうか。消防にかかればきっとそんな炎はすぐに消えてしまうだろう。しかし、罪を犯した自分を、子供の命に手をかけた自分を、誰が救うだろうか。デュエルでその身と心が痛むのなら、もう自分を解放するのは、そこにある決して大きくはない炎だけだと、そう信じるしかなかった。

竜也「………貴様、…貴様ァ……!!!」

竜也は走り出した男を追いかける。唇から血が垂れるほどに強く噛み締め、燃え上がる怒りを持って、その攻撃を宣言するしかなかった。デュエルに、世界に見放されたことが、命を落としていい理由になるはずがない。どんな理由があろうとも、尊い命を脅かした存在を楽にしていい理屈にはならない。この世界から、夜が明けようとするこの世から、昇りかける太陽から、この男を逃すわけにはいかない。

竜也「《トライデント・ドラギオン》……ダイレクトアタック!!!!」


(ATK:6000×3)《トランイデント・ドラギオン》

(LP :     0)荒田 武久


男がその炎へと飛び込む前に、《トライデント・ドラギオン》の攻撃が、そのLPと精神を撃ち抜いた。声にならない声を上げながらも、足は燃ゆる木片の眼前で止まり、うつ伏せに力無く倒れ込んだその身は、燃ゆる赤い炉には指一本届かなかった。パチパチと燃える炎が消えると同時に、ヘリコプターの音が鳴り響き、夜が明ける。


WINNER:大石 竜也



続く
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33 登場人物紹介 〜光妖中編〜 352 0 2023-08-03 -
32 31話 開幕!決闘王杯! 262 0 2023-08-12 -
34 32話 ガムシャラ 405 2 2023-08-25 -
26 33話 目覚める龍血 その① 279 2 2023-09-02 -
34 34話 目覚める龍血 その② 305 2 2023-09-06 -
55 35話 雨中の戎 その① 422 4 2023-09-19 -
24 36話 雨中の戎 その② 253 2 2023-09-23 -
29 37話 チャレンジャー 385 2 2023-09-30 -
49 38話 心に傘を 384 2 2023-10-07 -
26 39話 龍の瞳に映るのは その① 341 3 2023-10-22 -
30 40話 龍の瞳に映るのは その② 316 2 2023-10-26 -
42 41話 花と薄暮 384 2 2023-10-30 -
31 42話 燃ゆる轍 その① 355 2 2023-11-07 -
27 43話 燃ゆる轍 その② 266 1 2023-11-09 -
26 44話 襷 257 1 2023-11-14 -
23 45話 星を賭けた戦い 350 3 2023-11-17 -
26 46話 可能性、繋いで その① 305 2 2023-11-28 -
35 47話 可能性、繋いで その② 293 2 2023-12-07 -
27 48話 揺れろ。魂の… 239 2 2023-12-28 -
27 49話 エンタメデュエル 262 2 2024-01-07 -
37 50話 乗り越えろ! 307 3 2024-01-26 -
57 51話 Show Me!! 307 0 2024-02-01 -
30 52話 モノクロの虹彩 365 1 2024-02-08 -
31 53話 激昂 262 2 2024-02-22 -
26 54話 火の暮れる場所 その① 218 0 2024-03-02 -
51 55話 火の暮れる場所 その② 329 2 2024-03-07 -
30 56話 赫灼の剣皇 319 2 2024-03-11 -
42 57話 金の卵たち 237 2 2024-03-18 -
29 合宿参加者リスト 〜生徒編〜 204 0 2024-03-20 -
39 58話 一生向き合うカード 301 2 2024-03-24 -
30 合宿参加者リスト〜特別講師編〜 250 0 2024-03-31 -
38 59話 強くならなきゃ 295 2 2024-04-03 -
31 60話 竜を駆るもの 164 0 2024-04-20 -
54 61話 竜を狩るもの 286 2 2024-04-22 -
35 62話 反逆の剣 191 2 2024-04-26 -
34 63話 血の鎖 260 1 2024-05-01 -
44 64話 気高き瞳 318 2 2024-06-02 -
23 65話 使命、確信、脈動 283 2 2024-06-16 -
31 66話 夜帷 202 0 2024-07-14 -
28 67話 闇に舞い降りた天才 244 2 2024-07-18 -
26 68話 陽は何処で輝く 207 2 2024-07-30 -
25 69話 血みどろの歯車 221 2 2024-08-16 -
22 70話 災禍 その① 198 2 2024-08-28 -
26 71話 災禍 その② 198 2 2024-09-01 -
22 72話 親と子 142 2 2024-09-09 -
25 73話 血断の刃 134 2 2024-10-10 -
24 74話 血威の弾丸 144 2 2024-10-17 -
5 75話 炉心 25 0 2024-11-01 -

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