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HOME > 遊戯王SS一覧 > 29話 黒い暴虐

29話 黒い暴虐 作:コングの施し

逢馬と龍平の衝突の最中、龍平の最大のコンプレックスともいえる《タイラント・ドラゴン》のカードを、自らの弱点を振り切るようにして龍平は呼び出す。対する逢馬は、幼き頃の憧れとも憎しみの象徴ともいえるその存在を前にして、自らのデッキの全力を持って叩きのめすことを心に誓っていた。自分を苦しめた復讐心、そしてその憧れと出会えた高揚が彼の眼の中でぐるぐると渦巻く。正反対の原色の絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたようなその濁り切った瞳で、炎の龍を捉えていた。

TURN:4

逢馬
LP:5200
手札:2→3
モンスター:
魔法・罠:《ヴェンデット・ナイトメア》
フィールド:《ヴェンデット・ナイト》

龍平
LP:6400
手札:1
モンスター:《神竜騎士フェルグラント》《タイラント・ドラゴン》
魔法・罠:《無千ジャミング》

逢馬「おれ決めたよ龍ちゃん。そのドラゴンは、きみのデッキは、オレの全力を持って叩き潰す!」

上がり切った口角で、今までにないほど崩れ切った笑い声を漏らしながらカード1枚1枚をデュエルディスクに叩きつける。暴走した機械のように、焦点が合わない目をちらつかせながら、カードの発動宣言すら怠ってただただ無我夢中につぎつぎとカードをその手から使っていく。

次々と手札から使われるカードやフィールド魔法、さらには前のターンに確保したリソースまで使うことで再び《リヴェンデット・スレイヤー》、そして《ヴェンデット・ストリゲス》をフィールドに呼び寄せていた。

龍平は冷静さを欠いているにもかかわらず正確無比な展開をできていることに驚きと危機感を巡らせる。額に汗を浮かべながらも、その顔には笑みがともっていた。

龍平「よほど上物らしいじゃないか。相手してやるよ!」




暴走する逢馬と、追い込まれながらも笑みを見せる龍平に、ギャラリーは畏怖すら覚えていた。先ほどまでずっと龍平といた典子も、そのグロテスクともいえる光景に、思わず口を押えていた。

典子「なんなの。この人たち…。」

そんな典子のもとに、輝久が歩み寄る。

輝久「まさか、遊大を破った彼がここまでの怪物だとはね…。」

典子ははっと驚き横を向くが、そこにはそれまでの「才能」などというものに左右されている兄の姿はなく、ただただ冷静に、そして熱い視線で彼らを見つめる男の姿があった。

典子「兄さま…。」

輝久「来ていたんだな。いえばよかったのに。」

輝久がゆるりと浮かべた笑みに、典子の肩の荷もすっと落ちたような気がして、いつかぶりに頬をぷくりと膨らませて見せた。

典子「…まったく、暑苦しい人の負けましたのね。凝りまして?『才能』とやらには。」

輝久「あは、まあな…。精進するよ。」

輝久はバツが悪そうに苦笑いして見せたが、すぐにまっすぐにその視線を二人の決闘者に向けた。

輝久「あの鬼ヶ逢馬って男、暴走してる割にはプレーに無駄が無さすぎる。リソースを温存するっていう手もあるんだろうが、このターンで勝負を決め切るっていう思い切りの良さとまったくもって無駄がないカードの使い方をあのメンタルで実現させるのか…。」

典子も続いて、彼らのデュエルに目を向ける。

典子「…おそろしく高い練度ってことでしょうかね。」

輝久「本能がそうさせるのか、はたまた練度なのか。恐ろしいデュエリストはいっぱいいるものだね。まったく。」











逢馬「…ははははっ!!初戦じゃ使わないって決めてたんだけどもういーや!!出し惜しみはナシだ!
おれは魔法カード《幽合-ゴースト・フュージョン》を発動!!!」

1枚のカードを叩きつけるように発動すると、その背後に魑魅魍魎の渦がどろどろと形成される。渦の中から大量の血しぶきと共に白骨の左腕が飛び出す。

龍平「ゴーストフュージョン!?」

逢魔「おれは、デッキの《リヴェンデット・エグゼクター》とスレイヤーを融合!二体の亡者の魂が冥界の主を呼び覚ます!冥界の扉を破り現れろ!この夜をさらに深き闇に!幽合召喚!《冥界龍 ドラゴネクロ》!」

会場をおぞましい殺気が包み込む。普通のモンスターでは絶対に持ちえない異質な力。血と骨を全身にまとった龍は、死骸の渦からその姿を現した。


《冥界龍 ドラゴネクロ》
☆8 闇・ドラゴン族/融合/効果
3000/0


龍平「ドラゴネクロ…だと!?」

冷汗がじんわりと体をつたうのを感じていた。会場では生徒たちの悲鳴や不安の声が漏れ始めている。龍平が独り言のように言い放ったその言葉に、ギャラリーの遊大も危機を察知して返した。


遊大「おい龍平!あのドラゴンのこと知ってんのか!?」

龍平「とにかくやばい寄りのカードだ!性能以前に、そのカード自体が持ってるパワーっていうか、その存在自体がもう幻とか都市伝説とかに近い!詳しい話はあとだ!今はとにかく…」

遊大も、龍平が放った言葉とその焦りようからその尋常ではない状況を察し、言葉を詰まらせる。

龍平「こいつをなんとかする!!!」

頭のねじが飛んでしまったかのようにハイになっている逢馬が甲高い笑い声と共に返す。

逢馬「やってみなよ!!おれの展開はまだまだ終わらない!この夜はまだまだまだまだまだ!!終わらない!!」




遊大はギャラリーから身を乗り出すようにして彼らの決闘を凝視していた。同時に、その異様な雰囲気に固唾をのみこむ。
そんな中、後ろから肩をがっしりと捕まれ、観客席にどっしりと投げ飛ばされる。

ましろ「座れ。行儀が悪い。」

しかめっ面のましろがこちらを向いてることに気づいた。

遊大「ましろ先生…。」

夢中になってるときに体に大きな衝撃が加わったせいか、数秒間ぽかんとしていたが、途端にはっとして今度はましろのほうへと駆け寄る。

遊大「座れ、じゃないですよ!なんなんすかあのカードは!?」

耳元で遊大が叫ぶものだからそのほっぺをぐいっと席のほうへと押しやり、ため息交じりにましろが答えた。

ましろ「普通じゃ手に入らない、いわくや都市伝説、または変な言い伝えとかが絡んでるタイプのカードだ。そういうのに限って世界に数枚しか存在してないんだよ。いわゆる『レジェンド・カード』ってやつだ。」

遊大「じゃああの、ドラゴネクロもそのレジェンドカードってことですか…?」

ましろ「そうだな。昔から『決闘竜』っていうドラゴン族のカードとして知られるカードの1枚だ。まさか本当にあるとはな…。」

遊大「『決闘竜』?」

ましろ「ああもういちいち疑問符をつけるな!あたしも良く知らないんだよ!」

律歌も視線を二人に落としながら、淡々と口を開く。

律歌「『決闘竜』。『レジェンドカード』の中でも最も解析や研究が進んでない部類のカードたちだよね。『氷結界の三龍』とか、『幻魔』みたいに全部身元が割れてるわけじゃないし、『青眼の白龍』や『No.』みたいにレプリカがあるわけでもない。たしか10枚くらい存在が示唆されてるカードたちで、5000年前?からあるとかないとか…」

そこまで話してるうちに、遊大、ましろ、阿原、嬢の視線が全員自分に向いていることに気づく。夢中になっていた自分が急に恥ずかしくなり、「あはは…。」と苦笑いを漏らした。

遊大「すげえっすね。てか俺たちが使ってるNo.ってレプリカだったのか…」

ましろ「よう知ってるな…。」

阿原「好きなのか?レジェンドカード。」

嬢「すご…。」

注目が集まってることに耐えかねた律歌は話をそらすようにして下の決闘場を指さす。

律歌「ほら!がんばってるよ龍平君!観戦観戦!」



TURN:4 メインフェイズ1

逢馬
LP:5200
手札:0
モンスター:《冥界龍 ドラゴネクロ》《リヴェンデット・エグゼクター》《アドヴェンデット・セイヴァー》《ヴェンデット・スカヴェンジャー》
魔法・罠:《ヴェンデット・ナイトメア》
フィールド:《ヴェンデット・ナイト》

逢馬「はははっ!!!過剰打点かなあ!?さあ、バトルだ!!!」

白骨や深紅の血をまとった戦士と、それを率いる冥界の龍が龍平の前に立ちふさがる。

龍平「わかったよ。耐えきって見せるさ…!」

瞬く間に龍平のモンスターに襲い掛かったのはドラゴネクロだった。
タイラントドラゴン、ドラゴネクロの二つの龍が衝突する。

龍平「オレは《無千ジャミング》の効果を…」

逢馬「無駄だよ!《ヴェンデット・ヘルハウンド》を生贄とした《リヴェンデット・エグゼクター》の効果を発動!その邪魔な永続魔法を除外だよ!」

鈍い機械音を鳴らすその兵器に、みるみる鋭い歯型がついていく。血塗られた戦士がその手のひらを完全に閉じるとそのカードすら砕け散ってしまった。

龍平(破壊時の効果すら使えない!《ヴェンデット・アニマ》の効果でわざわざヘルハウンドを呼び出したのはこのためか…!)
「だがオレは、この瞬間に墓地の《魔晶龍ジルドラス》を守備表示で特殊召喚し、除外状態の《星遺物の守護竜》をフィールドにセット!」

《魔晶龍ジルドラス》
☆6 闇・ドラゴン族/効果
2200/1200

逢馬「関係ないねえ!攻撃を続けろ!ドラゴネクロ!」

タイラントは炎を吐かんと身を翻すが、その一瞬の隙を冥界の龍は見逃さない。一挙にその牙を向け、炎の竜の首筋をえぐり取った。

龍平 LP:6400→6300

その戦闘でのある異変に龍平が気づく。

龍平「なんだ、タイラントが戦闘破壊されていない…?」

傷を負ったタイラントは色がみるみると抜け、ただうなだれたままフィールドに居座り続けているのみだった。同時に、逢馬のフィールドの瘴気がタイラントドラゴンを象り始めていることに気づく。

龍平「これは…!」

逢馬「ドラゴネクロは、相手モンスターの破壊を許さず、その魂をおれのものにする!これでタイラントの力はおれの物になった!!!さあ、受けきれるかな!?」


ダークソウルトークン
☆8 闇・アンデット族/通常
2900/2500


龍平「ちっ!面倒な!」

逢馬「まだまだバトルは終わらない!エグゼクター!フェルグラントを攻撃!」

紅い殺意をまとった狂戦士は、一瞬で姿を消すとフェルグラントの背後へと回りその体を真っ二つに引き裂いた。

龍平 LP:6300→6200

龍平「ぐあっ!だがオレは攻撃宣言時に…」

逢馬「この瞬間!《ヴェンデット・ナイト》と《ヴェンデット・ナイトメア》の効果で、墓地からバスタードを除外!エグゼクターは攻撃力4000で続けて攻撃できる!エグゼクターで、攻撃力0のタイラントドラゴンに攻撃!」

龍平「オレは、さっきの戦闘で、フェルグラントの効果をタイラントを対象に発動している!攻撃力はもとに戻っている!」

すでに光の粒子となったフェルグラントのオーバーレイユニットが炎の竜を取り巻き、その体に色が再び吹き込まれる。しかしそんな抵抗も虚しく、タイラントの身体はフェルグラント同様に引き裂かれ、爆散した。

龍平 LP:6200→5100

龍平「くっ…タイラント!!」

逢馬「はははははっ!!やっと、おれの手で《タイラント・ドラゴン》を倒せた!これで!これでこれでこれで!これでこの力はおれのものだあ!!!」

どれほど抵抗しても、この破壊は免れなかった。いや、この破壊とタイラントの力を奪うことこそが逢馬の本当の目的であったと龍平は悟った。タイラントのカードを墓地に送り、まだ諦めていないその瞳を逢馬のほうへと向ける。

対する逢馬は、どこまでも深い闇をまとったように黒い笑みを浮かべている。憎しみの象徴を倒し、憧れの象徴を手にしている。ずっと望んでいた、その瞬間。突き上げるような高揚感と万能感が彼をさらに突き動かす。

逢馬「あははは!《アドヴェンデット・セイヴァー》で、ジルドラスを攻撃ィ!」

紅いスカーフをはためかせる異形の戦士がジルドラスを瞬く間に引き裂く。そしてついに、龍平を守るモンスターはいなくなった。

逢馬「さあ、おれには2体のダイレクトアタックが残っている。どう計算したって伏せカードも公開情報の龍ちゃんでは受けきれないけど、サレンダーなんてさせないよ!!この手で最後の一撃まで決める!!!」

追い詰められた龍平だが、その瞳にはまだ熱く燃える焔がたぎっていた。遊大が見せたような、絶対にあきらめない心。男の魂とそのデュエルは、この戦いの中ですら進化をやめていなかった。

龍平「…来い。憧れなんだろ。タイラントの力は。」

逢馬「ははははは!お望み通り消し飛ばしてあげるよ!ダークソウル・タイラント・ドラゴンで、ダイレクトアタック!ファントムブレイズ!!!」

禍々しい瘴気の龍は青黒い炎の玉を龍平に吐き出す。龍平はその攻撃を一身に受け、背後へと大きく吹き飛ばされた。

龍平 LP:5100→2200

龍平「…はは。タイラントの攻撃を喰らうなんて何年振りかな。だが!」

不敵な笑みを浮かべる龍平のもとに、一筋の光が差す。ドラゴネクロの襲来によって夜に包まれた会場にその龍は太陽がごとき輝きをまとって降り立った。

逢馬「なんだ…?」

龍平「オレが相手ターンに戦闘ダメージを受けたことで、手札の《妖竜マハーマ》の効果を発動!手札から自身を守備表示で特殊召喚し、ダメージを相手に返すか、その分のLPを回復する!」


《妖竜マハーマ》
☆5 光・ドラゴン族/チューナー/効果
0/2500


逢馬「ちっ!LPを回復するつもりか!」

吹き飛ばされて膝をついている龍平だが、ふたたび笑みを携えて立ち上がる。もうその表情に焦りはない。なにかが吹っ切れたようにすがすがしい顔がそこにある。

龍平「誰が回復なんてするか。オレが選択するのは、ダメージを与える効果だ!」

逢馬「この状況で攻めに出るだと!?気でも触れたか!」

逢馬は、あまりに突飛な龍平の選択に焦りと疑念を抱き始める。明確に、この決闘の流れの天秤が自分のほうへと傾くのを、この瞬間に龍平は感じた。

光の龍は美しく咆哮すると、天が裂け、一閃の雷が逢馬に降り注いだ。

逢馬「うああああっ!!!」
LP:5200→2300

その攻撃を体に受けた逢馬だが、額に汗を浮かべながらも、まだ龍平に向って大声を上げる。

逢馬「おれにはまだ攻撃が残っている!《ヴェンデット・スカヴェンジャー》で、マハーマを攻撃ィ!そのこざかしいドラゴンをぐちゃぐちゃにしろォ!」

怒りがその戦士に乗り移ったかのように、マハーマをむごたらしく破壊して見せた。しかし龍平の顔には一切曇りがない。盤面で見ても、手札でもリソースでも圧倒的に有利を取っているはずの逢馬に、次々と焦燥と危機感が溜まっていく。

逢馬「なんでなんだ!なんでそんな顔できるんだ!エースモンスターを奪われて!モンスターも手札も0なのに!!?」



龍平は、曇りなき表情で、静かに口を開いた。兄弟を諭すようにゆっくりとやさしく、しかしどこかに確かな熱を携えて力強く。

龍平「お前が《タイラント・ドラゴン》に何を抱えているのか、親父に何を抱えているのかはわからない。でもオレの《タイラント・ドラゴン》と、その魂と対峙してわかったんだ。…オレのターン。」


TURN:5
龍平 
LP:2200
手札:0→1
モンスター:
魔法・罠:《星遺物の守護竜》(公開情報)


逢馬「関係ない!関係ない!おれのこの思いが!このデュエルが!君の糧であっていいはずなんてないんだ!!ヘルハウンドを生贄としたエグゼクターの効果!《星遺物の守護竜》を除外!」

龍平はそのカードを静かに除外する。しかし、一切動揺することなく、逢馬への距離を詰めていく。

龍平「誰よりも強くなろうと思っていた。悔しいが、あの親父はめちゃくちゃ嫌なことに実力だけは確かだった。そんなアイツを同じ力を使って追い越して、違う生き方をして見返してやろうと思った。でも、同じ力である必要なんてなかったんだ。正しく言えば、そのタイラントドラゴン自体に罪なんてなかった。オレが使ってもお前が使っても、それを使っているやつのタイラントドラゴンなんだ。」

逢馬「何を…言って…。」

龍平「オレは、お前のタイラントでも超えて見せる。《ドラゴラド》を通常召喚。」

残された1枚のカードをデュエルディスクに通す。黒い鎧に包まれた小さな竜が、フィールドに現れる。


《ドラゴラド》
☆4 闇・ドラゴン族/効果
1300/1900


龍平「ドラゴラドの効果。墓地から《守護竜ユスティア》を特殊召喚。」

続いて、半透明の龍が水をまとって龍平の周囲をぐるぐると回りだす。

《守護竜ユスティア》
☆2 水・ドラゴン族/通常
0/2100

龍平「ユスティア1体を、リンクマーカーにセット。リンク召喚。リンク1《守護竜ピスティ》。」

《守護竜ピスティ》
L1 闇・ドラゴン族/リンク/効果
1000/→

逢馬「…は、はは。なんだよ。いくら展開したってリンク1止まりじゃないか!」

龍平「まだだ。オレは、墓地の《螺旋竜バルジ》の効果を発動し、光・闇属性のドラゴン族が2体存在することで墓地からバルジを特殊召喚。さらにその効果で、オレのフィールドのモンスターのレベルを8に変更する。」


《螺旋竜バルジ》
☆8 闇・ドラゴン族/効果
2500/2500


その龍を前に、逢馬の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。しかし、ここまで追い詰めて最後のドロー1つでそれが可能なことなど、彼はにわかに信じられていなかった。いや、信じたくなかったというほうが正しかったかもしれない。

逢馬「まさか…!」

龍平「オレは、ドラゴラドとバルジでオーバーレイ!2体のレベル8モンスターで、オーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!《No.97 龍影神ドラッグラビオン》!」

2つの龍の魂が光の渦へと吸い込まれる。紫色の閃光が弾け、銀色の鱗と黒い鬣を携えた竜が闇を切り裂きフィールドへ舞い降りる。


《No.97 龍影神ドラッグラビオン》
★8 闇・ドラゴン族/エクシーズ/効果
3000/3000


逢馬「ここでナンバーズ!だが攻撃力3000が1体程度じゃ…!」

龍平「ドラッグラビオンの効果を発動!ORUを一つ取り除き、EXデッキから2種のドラゴン族『No.』を選択し、片方を素材としてもう片方を特殊召喚する!《No.46 神影龍ドラッグルーオン》を素材に《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》を特殊召喚!」

紫のオーラをまとい、その巨竜が姿を現す。しかし、その見た目とは裏腹に攻撃力は『0』であった。

《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》
★9 闇・ドラゴン族/エクシーズ/効果
0/0

龍平「…バトルだ。」

その発言に、会場全体が震撼する。逢馬も例外ではなかった。血迷ったのか、はたまた何か策があるのか、疑念と困惑が頭の中で渦巻く。

龍平「オレは、ハートアースドラゴンでダークソウルタイラントドラゴンを攻撃。」

少しずつ歩み寄っていた龍平は、その攻撃宣言と共にすれ違うようにして逢馬の横を通り過ぎた。

逢馬「待て!なんで、自分で…」

そこまで言いかけたとき、逢馬のデュエルディスクがピピピ、と電子音を鳴らした。

龍平「ハートアースドラゴンとの戦闘で発生するダメージは相手が受ける。これで、勝負はついた。」

逢馬 LP:2200→0

逢馬は、その言葉と同時に緊張と焦り、疑念、怒り、このデュエルで抱えていたすべての感情が一挙に抜けたように膝をついた。ただただ、自分の全力をぶつけても勝てなかった。ドラゴネクロを使ってもタイラントドラゴンを使っても、この男には勝てなかった。そんなすがすがしい敗着の感情が芽生えていた。

逢馬「…なるほどね。マハーマのバーンはこれを見越して、か。完敗だな…。」

床にあおむけになっている逢馬に、龍平が振り返る。

龍平「良かったら聞かせてくれないか?タイラントドラゴンのこと。」

逢馬はかなわないな、という表情で柔らかく返した。

逢馬「プロデュエリストになって、龍ちゃんの親父さんをぶっ潰したら聞かせてあげるよ。」

その発言に、龍平も柄になく笑い声をあげた。

龍平「そうだな。あのクソ親父ぶっ倒すか。」


初夏の全国市予選を前に龍平はそのまま白石杯を優勝して見せた。似合わない笑い声が体育館に鳴り響く。暑い夏が、彼らにやってくる。

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