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83話 意思の足跡 作:コングの施し
茉菜「律歌に言ったこと、それに1ターン目で本気出さなかったこと、絶対に後悔させてみせる……!!」
彼の行動を、それで誰が、何を感じたのかを振り返らせる。そのための決闘。
自分は、彼の身に何があったのかなど知らない。たとえ彼と律歌が『龍血組』の事件があった街から来ていて、そしてその間で何かがったとして、自分が進んだ先で起きたことを仲間のせいにしないために、仲間たちから離れるだなんてそんな勝手は許されるはずもなかった。
《ペンギン勇者》(攻)
☆:6 水属性・水族/シンクロ/効果
ATK:2400/DEF:1200
きっと、仲間たちと共に歩んできた道の中で大きな失敗に、抱え込むことのできない失態に触れたことがあるのだろう。
彼の思考と決断が、その経験に裏打ちされたトラウマのようなものであることは、ここまでの彼との会話で透けていた。
その上で、自分は彼に前を向かせようとしている。いや、律歌に近づけようというのだ。……前ではない。
茉菜「わたしは、S召喚した《ペンギン勇者》の効果を発動。
デッキから《ペンギン》モンスター1体を選び、わたしのフィールドに裏側守備表示で特殊召喚するわ。
_______来なさい、2体目の《大皇帝ペンギン》!!さらに、自身の効果で墓地から甦れ、《否定ペンギン》!!」
《大皇帝ペンギン》(裏守)
☆:5 水属性・水族/効果
ATK:1800/DEF:1500
《否定ペンギン》(守)
☆:3 水属性・水族/効果
ATK:1600/DEF:100
遊大「《ペンギン》……侮ってましたよ、その展開力。」
茉菜「……言ったでしょ、痛い目見るわよ。」
わかっている。彼の思考・言動がその経験に紐づいていることなんて。
彼という人間が、もともとどんな人だったかなどわからずとも、それが何かによって変化したことなどわかっている。だから、と言うべきか、自分には、彼の過去を知ろうとする自発的な思いがなかった。……いや、彼の決断を聞いた時点で、知ろうとする思いを律することに決めていた。きっとそれを知ったら、自分は彼の思いに納得してしまうから。
今の彼に必要なのは、甘えではない。そして今の自分にも、不二原にも、そして律歌にも、必要なのは過去と自身の思いに甘えずに向き合える真の決闘者と呼べる存在なんだ。何からも逃げずに向き合える悲劇のヒーローが、今の自分たちには足りないんだ。
遊大「……でも、捲るんでしょ。
まだ、《焔聖騎士帝—シャルル》は突破できないはずだ。」
茉菜「わかってるわ、……だから、バトルよ。」
ーTURN2・バトルフェイズー
古池 茉菜(ターンプレイヤー)
LP :8000
手札 :3
モンスター:《ペンギン勇者》《極氷獣ポーラ・ペンギン》《否定ペンギン》セット×1
魔法罠 :《ロイヤル・ペンギンズ・ガーデン》
フィールド:
樋本 遊大
LP :6800
手札 :5
モンスター:《焔聖騎士帝—シャルル》《炎魔刃フレイムタン》《焔聖騎士—ローラン》
魔法罠 :《焔聖騎士—オリヴィエ》《焔聖騎士—オジエ》《フェニックス・ギア・ブレード》《焔聖騎士導—ローラン》
フィールド:《大聖剣博物館》
バトルフェイズへの移行。
彼の表情に、不審の色が見えた。当然と言えるだろう。今の遊大の盤面には、3体のモンスターと4枚の装備カードがある。その4枚は全て効果破壊できず、それらカードは全て《焔聖騎士帝—シャルル》に装備されている。4800というまず戦闘での突破が考えにくい攻撃力に加えて、効果で破壊できずさらに効果対象とすることも叶わない。
茉菜「……わたしは、《ペンギン勇者》で《炎魔刃フレイムタン》を攻撃!!」
(ATK:2400)《ペンギン勇者》
(ATK:1900)《炎魔刃フレイムタン》
(LP :6300)樋本 遊大
カフェの卓上で、飛べない鳥の勇者と炎を鎧に纏った番兵が斬り合う。
ポップな絵柄のペンギンではあるが、攻撃力は2400。いや《炎魔刃フレイムタン》の攻撃力が見た目よりも低いという印象の方が強いだろう。これで、彼の表側表示の魔法カードに触ることができる。つまりは《焔聖騎士帝—シャルル》をまもる装備カードの突破の糸口が見えた。…………と、彼は思うはずだ。
茉菜「続いて《極氷獣ポーラ・ペンギン》、……《焔聖騎士—ローラン》を攻撃っ!!」
(ATK:1400)《極氷獣ポーラ・ペンギン》
(DEF: 200)《焔聖騎士—ローラン》
遊大「《焔聖騎士—ローラン》は墓地に送られたターンのエンドフェイズに、デッキから炎属性・戦士族か装備魔法を1まい手札に加える効果がある、のはわかるんですよね。」
茉菜「もちろん。……行くわよ、メインフェイズ2に移行。」
これで、遊大の盤面に存在するモンスターは1体。
そして自分のフィールドには《ペンギン勇者》とセット状態の《大皇帝ペンギン》、レベル3の《極氷獣ポーラ・ペンギン》と《否定ペンギン》の2体に、手札の『このカード』。……耐性が優秀なモンスターの突破手段は、自分のデッキに搭載しておいた。高い攻撃力を持つモンスターも、対象の耐性を貫通する性能も乏しいデッキだからこそ、絶望的な状況をそっくりそのままひっくり返す手段を、今の自分は握っている。
茉菜「わたしは、レベル3の《否定ペンギン》と《ポーラ・ペンギン》でオーバーレイっ!!」
遊大「……エクシーズ!?」
2枚のカードを盤面上に重ね、それを検知したソリッドヴィジョンが手元でエクシーズ召喚の演出を映し出す。
自分のEXデッキが置かれている場所が青黒く光り、X召喚するモンスターを引き出せと促しているのがわかる。手を伸ばし、そのカードを左手でぎゅっと握った。
茉菜「このターン、わたしは水属性モンスターしか特殊召喚できない。……だから出せるモンスターは限られるわ。
それに、わたしの知っている水属性・ランク3のXモンスターの中に、効果破壊と効果対象に対して耐性を持った《焔聖騎士帝—シャルル》を突破できるモンスターはいない。魔法・罠カードを破壊するモンスターはいるけれど、それだと突破まで一向聴で止まってしまう。」
遊大「……だったら、」
茉菜「……でもね。あなたにとって確実に『出されて困るモンスター』は存在する。
撤回はしないわ。そのモンスターは……《焔聖騎士帝—シャルル》は絶対にあなたの盤面から退ける。……突破してみせる。」
EXデッキから引き出した1枚のモンスターを、盤面に置いた。
それはファンシーな《ペンギン》モンスターからなどは考えようもないほどに禍々しいモンスター。使用する者を呪い、その勝敗を相手へと捧げてしまうほどに強烈なデメリットを抱えた、1体のモンスター。フィールドに置かれたそのカードから全てを察した彼の顔が、酷く歪んでしまうほどの邪悪なモンスターだった。
茉菜「エクシーズ召喚……!!
________ランク3、《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》!!」
《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》(守)
★:3 水属性・岩石族/エクシーズ/効果
ATK:3000/DEF:3000
卓上で蠢く、巨大な番兵。
全身を覆う甲殻からは、ジクジクと紫毒が滲み出てフィールドを汚染していく。隣に構える《ペンギン勇者》の目が潤んでしまうほどにそれが強烈で、このモンスターを自分が従えているだけで容易く勝敗が後に傾いてしまうだろうと想像がつく。
遊大「アシッド……ゴーレム……!」
茉菜「あなたのフィールドのモンスター……1体ね。
伏せカードもない、装備魔法が4枚も装備されたたった1体のモンスター……《焔聖騎士帝—シャルル》。
……突破すると、言ったはずよ。」
彼の表情がだんだんと険しくなっていく。
自分の手札3枚の中に含まれている『そのカード』を察してのことだろう。そのカードは、お互いに2体以上のモンスターがいる状態では真価を発揮しない。相手のフィールドにモンスターが1体のみで、自分のフィールドにデメリットを抱えたモンスターがいる場合に最も強力に作用する通常魔法。それはこの瞬間に、破壊でもなく、効果対象も必要とせず、ただただ自分に降りかかる呪いを相手に押し付けながら標的のモンスター1体を奪い取る最上級の除去手段となっている。
茉菜「……魔法発動、_______《強制転移》ッ!!」
遊大「なっ………、」
自分が手札から叩きつけた、《強制転移》のカード。
古くから相手のモンスターを除去したり、自分のモンスターを送りつけるコンボの目的で採用されてきたカードだ。お互いに、自身のモンスターを相手に送りつける。これは対象を取る効果ではないため、フィールドにモンスターが1体しかいない状況では必然的にそれが敵の手に渡ることになる。『効果を受けない』以外のあらゆる耐性を貫通し、フィールドから離すこともなく戦力を差し出さねばならない。……そう、この状況における《焔聖騎士帝—シャルル》のように。
茉菜「わたしがあなたにコントロールを差し出すのは《アシッド・ゴーレム》よ。
_______さあ、何を渡してくれるのかしら?」
遊大「どうやって、突破するのかと思ってたましたよ……
まさか《シャルル》のコントロール奪取と《アシッド・ゴーレム》の送り付けを同時に行えるとか!!」
お互いに差し出したカード、2枚のモンスターがそのコントロールを入れ替える形になった。
これで自分のフィールドには攻撃力4300の《焔聖騎士帝—シャルル》が、そして遊大のフィールドには強大なデメリットを背負った《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》が佇むこととなる。これで、このターンになすべき事は終わった。盤面の突破であれば十二分に済んだ状態、優劣の天秤がひっくり返るとはいかずとも、意表だけならば突けた状態。
茉菜「わたしはカードを2枚セット。……これでターン終了。」
遊大「おれはエンドフェイズ時、《ローラン》の効果を発動。
……デッキから装備魔法《強奪》のカードを手札に加え、さらに除外状態の《アンジェリカ》をフィールドに戻します。」
茉菜「それは特殊召喚じゃないのね。それに……《強奪》……、」
遊大「……流石に、焦った。
でも、突破手段がないわけじゃない。確かに1ターン目に全力展開をしなかったツケは回ってきてるけど、その分おれには手札と墓地にリソースがあります。
_______おれのターン!!」
そうだ。
ただ盤面をひっくり返し、『特殊召喚できない』制約を押し付けるモンスターを展開できたとしても、それでは彼の意表が突けただけだ。自分で考えていてそこに甘えている。『意表を突く』だけでは足りない。1ターン目の全力展開を怠ったことを、取り返しのつかないことにしなければ意味がない。勝てずとも行動を省みさせる、それだけでもできなければ……この決闘の意義が無くなってしまう。
ーTURN3ー
樋本 遊大(ターンプレイヤー)
LP :6800
手札 :6→7
モンスター:《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》《聖剣を巡る王妃アンジェリカ》
魔法罠 :《焔聖騎士—オリヴィエ》《焔聖騎士—オジエ》《フェニックス・ギア・ブレード》《焔聖騎士導—ローラン》
フィールド:《大聖剣博物館》
古池 茉菜
LP :8000
手札 :0
モンスター:《ペンギン勇者》《焔聖騎士帝—シャルル》セット×1
魔法罠 :《ロイヤル・ペンギンズ・ガーデン》セット×2
フィールド:
この盤面自体に、穴はある。
《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》は、使用者の特殊召喚を封じるという制約がある。そのため彼は今、《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》をフィールドから退かさなければ展開を行えない。そこで彼が講じる手段は、おそらく3つ。
遊大「スタンバイフェイズ時、《アシッド・ゴーレム》の効果を発動。
……オーバーレイユニットとなっている《極氷獣ポーラ・ペンギン》を取り除きます。」
①つは、効果によって《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》をフィールドから引き剥がすこと。具体的には自分がコントロールを奪取している《焔聖騎士帝—シャルル》が装備カードを装備した時の効果によって、自身のコントロールする《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》を破壊してくる。……これはエンドフェイズに《焔聖騎士—ローラン》の効果で手札に加わった、《強奪》の装備魔法1枚で解決できている。
茉菜「《強奪》……そんなカードまで入ってるなんてね。」
遊大「諸事情で、装備カードは結構採用しないとデッキとして回らないんでね……!!」
そして②つ目は、アドバンス召喚のためのリリースによる除去。
ここまでの彼のデュエルで、メインデッキに採用しているレベル5以上のモンスターは1種類しか確認できていない。あくまで希望的な観測だが、これは《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》の1枚に抑えているとするしかない。そうでなければこの作戦はもとより成立していないし、どちらにせよ《大聖剣博物館》の効果で《『焔聖剣—ジョワユーズ』》をサーチし、前のターンに《聖剣を巡る王妃アンジェリカ》で墓地に送られた《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》を回収できるので、現実的にこの動きを取ってくる可能性も高い。
茉菜「メインフェイズ前に聞きたいんだけれど、《ジョワユーズ》は《モージ》の効果でデッキに戻っているのよね?」
遊大「ええ。でも《大聖剣博物館》で手札に加えることはできます。1200LPはコストで必要だけど。」
茉菜「前ターンに《アンジェリカ》でデッキから墓地に送ったのは?」
遊大「……《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》です。」
③つ目は、バトルでの自爆。至ってシンプルである。
《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》の攻撃が制限されるのはオーバーレイユニットがない状態のみ。まだ《否定ペンギン》のカードを抱えている。次の遊大のターンのスタンバイフェイズまで持ち堪えれば、この3つ目は完全に消せる。このターンはまだ攻撃が行えるのに加え、《強制転移》でコントロールを得た《焔聖騎士帝—シャルル》は、前のターン中には表示形式を変更できなかった。特攻を行えば、通常通り戦闘破壊される。蜂谷との戦いで《剛炎の剣士》を突っ込ませて《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》を蘇生した彼のことだ。これくらいのことは考えているだろう。
全く、自分で考えていて嫌になる程に穴が多いプラン。そしてこの3つ全てが、彼がこのターンに行える《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》攻略の手段になる。
茉菜「……つまり、結構あるってことよね。《アシッド・ゴーレム》をフィールドから排除する手段は。」
遊大「……はい、3つは。」
……3つ。攻略法は3つだと彼自身も言った。
今の彼は、自分のことをどう思っているだろうか。大方、劣勢から必殺のコンボを形成しようとして、その志なかばで惜しくも牙城を崩されることを察した元マネージャーと言ったところだろうか。つくづく自分は、性格が悪い。『後悔した?』なんてこの状況で冗談混じりに聞いたりする必要なんてないのに。
遊大「おれは手札から装備魔法《強奪》を、《焔聖騎士帝—シャルル》を対象として発動。
______せっかく奪ったところ悪いけど返してもらうよ、茉菜さん!!」
《強奪》……装備モンスターのコントロールを奪取するカード。
《焔聖騎士帝—シャルル》には、効果対象となることを避ける《焔聖騎士—オリヴィエ》が装備されているが、これは遊大がコントロールしているものだ。例えば、《ジャンクアタック》や《アームズ・エイド》を装備したモンスターのコントロールを奪い戦闘を行なった場合、その効果のダメージは自分が受けるような、そういう裁定だ。あくまで装備モンスターそのものが効果を獲得するわけではなく、装備カードの効果として対象を取られない効果を付与しているに過ぎない。チェーンして発動する効果がなければ、《焔聖騎士帝—シャルル》は遊大のフィールドへと戻り、破壊効果が誘発……①の通りだ。
茉菜「…………やはり、ね。
せっかく、やっとの思いで突破して今度はわたしがロックをかけて、……」
遊大「……謝りませんよ。打破する手段があったって、それだけだから。」
茉菜「せっかく、せっかく……糸口だって3つだって教えてくれた、」
彼は確かに、3つと言った。
心の底から良かったと思う。自分の計算が性格で、精巧で、マネージャーでも彼のようなデュエリストの思考に追いつけたと実感ができた。プレイングや考え方の面で、彼に並ぶことができる。自分が葛馬高校のデュエル部で見てきた全てが、培ってきたものが無駄じゃないと証明できる。……せっかく教えてくれたんだ。
茉菜「だったらその3つの攻略法、丁寧に潰さないとね……!!!」
遊大「……は?」
茉菜「わたしは、あなたの墓地に存在する《聖杯の継承》のカード1枚を対象とし、トラップ発動!!
_________行くわよ、《白の咆哮》!!」
オープンしたリバースカード、そのカードが効果を誘発すると同時に、眩く白い閃光がフィールドを走る。
同時に遊大のフィールドに存在する魔法カード……《焔聖騎士—オジエ》、《焔聖騎士—オリヴィエ》、《焔聖騎士導—ローラン》、《フェニックス・ギア・ブレード》の4枚と、《大聖剣博物館》と《強奪》の2枚の計6枚のカードに青白い閃光が迸る。眼前の少年の頬を、一粒の汗がツーッと流れた。
遊大「……ホワイト……ハウリング…………なんでそんなカード……!?」
茉菜「『なんで』も何も、わたしのデッキは『元々こんなデッキ』よ。
エースの《ペンギン勇者》を立てて、モンスターは《ペンギン》で、漏れてしまう範囲や操作したいポイントはリバースカードで対処する。
________わたしのデッキの、基本戦術よ。」
《白の咆哮》……自分フィールドに水属性モンスターが存在する場合にのみ発動できる罠カード。
相手の墓地に存在する魔法カード1枚を対象として除外、さらにターン中に相手フィールドの魔法カードの効果が全て無効となる。これで、《強奪》を使用した①の攻略法、そして②の《大聖剣博物館》→《『焔聖剣—ジョワユーズ』》→《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》の攻略手段も潰えた。さらに手札に《『焔聖剣—アルマス』》を抱えていたとしても、墓地からカードを回収するその効果は使えない。まず彼の魔法・罠ゾーンは全て埋まっている。
茉菜「《強奪》はもちろん、魔法カードはこのターン発動を控えてもらうわね。
_______カードが装備されたことで、《焔聖騎士帝—シャルル》の効果を発動。」
遊大「無効になるのは、効果だけ……!!《強奪》のカードはフィールドに残る…………!!」
自分が発動した《焔聖騎士帝—シャルル》の効果は、対象を取らない破壊効果。
そして効果が無効になっているだけの《強奪》はフィールドに残る。それゆえにここは、《強奪》を破壊しなければターン終了と同時にコントロールが元の遊大へと戻る。…………だが、
茉菜「破壊するのは、Sモンスターの《聖剣を巡る王妃アンジェリカ》よ!!」
遊大「…………ッ!!」
目に輝きがない《焔聖騎士帝—シャルル》、その剣がか細い王妃のモンスターを切り裂いた。
対象を取る効果や戦闘では《聖剣を巡る王妃アンジェリカ》は突破できない。しかしこれで《焔聖騎士帝—シャルル》のコントロール奪取はエンドフェイズまでとなった。だが今、装備魔法カードを守ることのできる《炎魔刃フレイムタン》はいない。
遊大「《強奪》さえ破壊できればいいってことか。……だったら、バトル!!」
ここで遊大が取ってくるのは《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》をフィールドから引き剥がすための③つ目の手段。最もシンプルで、しかし最も追い詰められている際に宣言する方法。
茉菜「狙いは、……戦闘破壊ね。」
遊大「おれは、《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》で、《焔聖騎士帝—シャルル》を_______、
茉菜「わたしは、バトルフェイズ開始時に永続罠、《シンクロ・ゾーン》を発動。
_______Sモンスター以外は攻撃宣言を行えない。言ったはずよ、攻略法は3つ全部……潰す!!」
発動と同時に、卓上に緑色の閃光が走り、特有の円陣を描いていく。
まるで足を絡めるようにして《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》の攻撃は止まり、その光が鎖となって身を縛り付けていく。
遊大「そのカードっ……!!」
茉菜「見覚えがあるみたいね。
そうよ、わたしが蜂谷先輩から譲り受けたものだから。でもこれで、《アシッド・ゴーレム》の攻撃は完全に封じた……!!」
遊大の表情が歪み、下唇が揺らいでいる。
《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》によって特殊召喚が封じられ、さらに《シンクロ・ゾーン》によって攻撃が封じられている状況。行えるのは通常召喚のみでかつ、遊大の魔法・罠ゾーンは5枚の装備カードで埋まっている。罠カードや速攻魔法をセットすることもできない。…………完全なチャンスだ。
遊大「おれはモンスターをセット……して、ターンエンド……!!
でもターン終了時、《白の咆哮》の効果が終了し、《強奪》の効果が有効になる。《焔聖騎士帝—シャルル》は返してもらいます。」
ーTURN:4ー
古池 茉菜 (ターンプレイヤー)
LP :8000
手札 :0→1
モンスター:《ペンギン勇者》セット×1
魔法罠 :《ロイヤル・ペンギンズ・ガーデン》《シンクロ・ゾーン》
フィールド:
樋本 遊大
LP :6800
手札 :5
モンスター:《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》《焔聖騎士帝—シャルル》セット×1
魔法罠 :《焔聖騎士—オリヴィエ》《焔聖騎士—オジエ》《フェニックス・ギア・ブレード》《焔聖騎士導—ローラン》《強奪》
フィールド:《大聖剣博物館》
訪れた。完全なる好機だ。
相手のフィールドには追加の装備魔法を獲得できない《焔聖騎士帝—シャルル》に召喚権を使いセットされたモンスター、そして使用者に呪いをかける《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》。装備カードは破壊できる状態であるし、《強奪》のカードを無力化すれば《焔聖騎士帝—シャルル》のコントロールを再度奪取することができる。
茉菜「……わたしは、《大皇帝ペンギン》の効果を発動。自身をリリースし、デッキから《極氷獣ポーラ・ペンギン》と《ペンギン僧侶》を特殊召喚!!」
《極氷獣ポーラ・ペンギン》(守)
☆:3 水属性・水族/チューナー/効果
ATK:800/DEF:1000
《ペンギン僧侶》(守)
☆:3 水属性・水族/効果
ATK:600/DEF:1700
茉菜「特殊召喚した《ポーラ・ペンギン》の効果を発動。…………あなたのセットモンスターを、手札に戻す。
……さらに《ペンギン僧侶》の効果を発動。《ペンギン勇者》の攻撃力を600アップし、同時にわたしのLPを600回復させてもらうわ。」
(LP :8600)古池 茉菜
(ATK:3000)《ペンギン勇者》
フィールドに吹き付ける吹雪が、彼のフィールドにセットされたモンスターが霜を纏って凍りついていく。
そしてこの瞬間にフィールドに残るモンスターは2体、呪いの根源である《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》、そして彼のエースである《焔聖騎士帝—シャルル》のみ。
遊大「《アシッド・ゴーレム》を残すってことは……そっか、」
茉菜「わたしは、レベル3の《ペンギン僧侶》に、同じレベル3の《極氷獣ポーラ・ペンギン》をチューニング!!
……氷結に封じられし禁龍よ、翼持たぬ我らを勝利の天空へ!!……シンクロ召喚!!」
フィールドへと走る氷結は硝子のように、幾重にも重なった結晶のなれ果てを舞い上げる。砕け散ったそれは竜の顎門を、翼を、そしてその息遣いすらフィールドへと現出させていく。
茉菜「_________レベル6、《氷魔龍 ブリューナク》っ!!」
《氷魔龍 ブリューナク》(攻)
☆:6 水属性・海竜族/シンクロ/効果
ATK:2300/DEF:1400
遊大「…………《ブリューナク》……、」
茉菜「S召喚成功時、手札を1枚捨てることでフィールドのカード1枚を手札に戻す。
…………わたしが対象とするのは、《強奪》のカードよ。」
《焔聖騎士帝—シャルル》は、元々のコントローラーが遊大となるカードである。
しかしそれに《強奪》が装備されているという状況は、自分が発動した《強制転移》によって作られている。《強制転移》は、お互いのモンスターのコントロールを交換するカードであり、それによって相手に渡ったモンスターを《強奪》している場合……
茉菜「わたしは、再び《焔聖騎士帝—シャルル》のコントロールを得る。」
《強奪》のカードが手札へと戻ると、《焔聖騎士帝—シャルル》は何も言うことなく遊大と振り返る。
ゆっくりとフィールドを渡るそれは彼と相対し、その剣をゆっくりと抜いた。
遊大「コントロールは《強奪》で奪い返した前の状況、……《強制転移》の発動時に戻るのか。」
これで、自分の勝利は確実になった。
セットモンスターは銭湯で破壊した場合にリスクが発生する。それを《極氷獣ポーラ・ペンギン》で突破し、《ペンギン勇者》の攻撃力を《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》と同じ3000に調整した。Sモンスターが墓地へ送られた場合にそれをチューナー扱いで復活させる《シンクロ・ゾーン》がある今、彼の6800のLPを削るのは難しいことじゃない。
……だから、と言うべきか。自分の口は開いていた。
茉菜「わたしが勝ったら……ってこと、覚えてる?」
遊大「律歌さんに、謝るんですよね。」
彼はポツリと、返した。
自分の手は《ペンギン勇者》のカードへと伸びる。こんな状況でそれを言ったのは、このデュエルにかかっているものなんてたかが口約束だからだった。いや口約束でも良い、きっと彼は守るだろう。……そんなに捻くれた人間じゃない。
茉菜「自分で、言っておいてなんだけど。……あなたにできるの?」
遊大「できようができまいが、おれの選択を後悔させるためのデュエルなんでしょ?」
茉菜「条件の話じゃない。あなたの意思の話をしてるのよ。」
自分がナイーヴになっているのはわかるんだ。
きっと怖気付いている。花の魔女のことも、デュエル部のことも、そして律歌のことも。1人で進もうとするなんて勝手だとそう思うのは事実だ。でも無理に一緒にいて、彼はどう思うのだろうか、律歌は喜ぶのだろうか。
……あの笑顔は、また見れるのだろうか。もし自分の行動1つで、それが陰ってしまうならば……
遊大「……茉菜さん。」
茉菜「……。」
遊大「おれの考えは、変わらなかったよ。……おれ自身じゃ変えられなかった。」
茉菜「え?」
遊大「1人で進もうって、その気持ちはおれが1人のままじゃ変わらなかったんだ。
そんな気持ちを抱えたまま律歌さんに会ってほしくないから、あの人が笑ってるところが見たいから、おれの考えを改めさせようって……これはそんなデュエルだったはずだよ。」
彼はため息の混じったような声で、そう言った。
それは何かから逃げているような、何かに疲れているような、そんな声だった。……自分が聞いているのは、彼の意思だ。このデュエルの勝敗によって決定する条件、確かにそれは口にした。でも今聞きたいのはそれじゃない。まるでこれ以上聞くなと言わんばかりに、もう自分の意思を手繰るのは止してくれと言わんばかりに、ポツリとそう言ったのだった。
茉菜「……あなた、」
ひどく、腹が立った。
これがデュエルでなかったら、迷わず彼を殴っていただろう。彼女に「会いたくない」と、「もう会えない」と女々しく距離を取って、それでもデュエル部が絡めば前には進む。ただし誰の手も借りずに全て自分の責任に落とし込もうとする。引き摺るためにデュエルを仕掛けて負けそうになれば自己主張は一切しない。意思も、覚悟も、思いも、口にはしない。
茉菜「…………本当に、後悔するわよ!!!」
伸ばしかけた手を届かせ、《ペンギン勇者》のカードを握る。
このターンで、全ての攻撃が通った場合に与えられる戦闘ダメージは9000。彼のLPは6800。《シンクロ・ゾーン》の効果を使用しつつLPを全て刈り取る。そのためにはまず、《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》の呪いを解除する。
茉菜「わたしは、《ペンギン勇者》で《アシッド・ゴーレム》を攻撃っ!!」
(ATK:3000)《ペンギン勇者》
(ATK:3000)《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》
癒しの光に包まれた勇者の剣は、本来届くはずのない呪われた巨神の力と拮抗している。
お互いに攻撃力は3000、叩き合ううちにお互いの体に傷は増え、ついにその2つの身が崩れた。彼のフィールドを包み込んだ酸の霧雨がパチパチと霜を下ろしながら地面へと晴れていく。凍りついたフィールドは緑色の光を放ち、1枚のカードを導き出す。
茉菜「Sモンスターが墓地に送られたことで、《シンクロ・ゾーン》の効果を発動!!墓地へ送られたSモンスター1体をチューナー扱いで特殊召喚する!!
…………来なさい、《ペンギン勇者》!!」
《ペンギン勇者》(攻)
☆:6 水属性・水族/シンクロ/(チューナー)/効果
ATK:2400/DEF:1200
目をぐるぐると回し大地に伏していた飛べない鳥の英雄は、その光に包まれ再び剣を握る。
自分の言葉が彼の首に刃を突きつけるように、そのモンスターを含めた自分の3枚の僕たちは、守るモンスターのいない彼のことを冷たく睨み続けていた。
茉菜「変えられない……欲しいのは結果じゃない。
よく、考えて。『変えられないこと』じゃない、『変わる気すらないのか』って聞いてるのよ。もしあなたが変わる気があって、それでも変わることができずにこのまま彼女と一生会わないなんて、絶対に後悔する……!!」
必死に叫んでいた。
これは彼にとって不条理で理不尽だ。勝敗によって今後が賭けられた戦い。その最終局面にて、敗者の思いの丈を聞こうなどという方が道理を外れている。でも違う、これは彼の思いだ。「変えられなかった」などと言った彼が、まるで自分の目の前に迫った敗北を疲れ切りながら受け入れているような、そんな風に思えて仕方がなかった。「1人で進む」と言い切っていた彼が、デュエルの勝敗という最も単純で湾曲させやすい賭けの舞台で静かに自分の思いを殺しその身を委ねようとしていることに腹が立っていた。
遊大「変えられなかったんだよ。おれだけじゃ変えられなかったんだ。」
茉菜「話を聞いてよ!!
変えられなかった結果じゃない、あなた自身の想いなのよ!!」
遊大「必要なのはおれの意思じゃない!!
必要なのは結果だよ!!……おれがあの人に会って自分の気持ちと謝罪を伝えようが、全部おれのせいじゃ無ければいけないのは変わらない!!おれ1人で『魔女』を追ってデュエル部を再建しても、あなたが一緒でも、その事実があればいい!!
……変えられないし、変わる理由なんて……!!」
わかっている。
彼が今言ってることも、きっと正しい。自分が見ておかねばならないのは意思なんだ。抵抗なんだ。結果じゃない、諦めて他人に靡いてしまうのと、最後まで争って叶わなかったのでは話が違う。必要なのは意思で結果ではない。彼自身の意思を、思いを、気持ちを聞かなければ自分たちはきっと前に進むことすらできない。
茉菜「無いわけが無いでしょう!!?
これは廃部になったデュエル部と、それにリツを追いかける戦いなのよ。
人を動かすのは規範やルールじゃない、ましてデュエルでついたような口約束じゃない。あなたの意思が彼女に向かなければ、結果なんてついてくるはずが無いって言ってるの。」
遊大「…………!!」
茉菜「結果を導くのは、意思よ。
あなたの気持ちが無ければ、彼女のところへ到達できようもない。……わかってほしい。」
遊大「会えないです、会えるはずない。」
茉菜「『会いたくない』、の?」
遊大「…………。」
彼は、唇を噛み締めた。自分が吐き出した言葉の濁流に、眼前の遊大が押し黙った。
面倒なんだろうな。熱くなってしまっているのはわかっていた。ヒステリックを起こしていると見られたって何の文句も言えない。でも自分が言ったことに、嘘は1つもなかった。本気を出すこともなくデュエルに敗北し、その結果によって決まった未来をハイハイと人に引きずられて歩くだけ。1人で進むことを信条とした彼に取っては重すぎる罰だ。
……だからこそ、意思が必要なんだ。
茉菜「ごめんなさい。
どうしてもわたしには、真っ直ぐにしか進めないあなたが引っ込みの付かなくなったようにしか、見えなかった。想像や憶測でものを語るべきではないのは理解しているつもりよ。でもあなたの心の中に、『リツに会いたくない』なんて言わしめるほどのものは、あるようには思えない。……だから聞かせて、あなたの意思を。」
遊大「……茉菜さん、おれ、どうすればいいかな。」
茉菜「……あなたの心に従って。……負けないで。」
遊大は、その言葉に続いて自分の目をやっと見た。
曇り切った表情で、悲しそうな顔でただ自分の目を見つめていた。本気を出せなかったこと、彼女から身を引いたこと、その生き方を貫くこと、全てではないかもしれない。そこに後悔がないと言い切れないのが今の彼で、それでも前に進むことしかできない。
……後戻りはできない、悔やむことすら無駄にしてしまうほどに。
遊大「迷ってるんだ。……いっそ負ければ、その方が楽だったって。」
茉菜「負けないで。この戦いを制することが、あなたの意思表示の第一歩よ。」
彼はその言葉に黙り込んだ。
負ければ、自分の心になど左右されることなく、結果はついてくる。勝敗とはそういうものだ。ただしこれは違う。ここから先の戦いは違う。意思と決定の強さが結果を導く。自分で歩いたものにしか、その足跡は見えない。
遊大「デュエルを、続けて欲しい。」
茉菜「……え?」
その言葉が、どっちかわからなかった。
諦めなのか、それとも覚悟なのか。もしここで彼が勝てば、彼は自分1人で足跡を作る。負けても、自分が彼を引きずった跡を作るだけでそれは足跡ではない。自分つくづく傲慢で、彼自身の意思で一緒に歩いてくれることを望んでいた。
遊大「昔から、そうなんだよ。
おれはずっと迷ってきた。友達とか先輩とか先生とか師匠とか、迷ってる時に背中を押してくれる人がいたんだ。だから自分一人で何も決められない自分が嫌で、それで進んだ先で他人のせいにするなんて理不尽を抱えて生きてた。
……そんな自分に見栄を張るために、自分1人で歩きたかったんだ。」
茉菜「……。」
遊大「迷ってる時も、進んでる時も、一時だって手放したことがないのはカードだったんだよ。
今の答えすら、このデュエルが握ってくれてる気がしてるんだ。おれはつくづく判断力がないから、デュエルの中から無理やり答えを探すことにしたよ。」
そう言って、彼のカードに触れる。
自分だって、諦めているわけじゃない。この戦いに意思は必要だ。それは揺るがない。彼女に会いたいという意思を持っていなければ、きっと彼はこれから起こる現実を直視できない。立ち向かうことが、できない。…………それでも、
茉菜「それでもわたしは諦めたくないからね。
ここで負けることが、今のあなたの答えかもしれない。自分の気持ちに正直になる日まで諦めない。生き方を変えることは弱いってことじゃない。
……あなたは決して強くないけど、自分で思ってるほど、弱くない。だって見栄でも自分の決断を通せる人だから。」
鞘から、大剣を抜き取る。とても片手では扱え無さそうなほどに重厚で鋭利で、堅牢な刃だ。
真っ赤に染まるフィールドを一挙に駆ける斬撃は、彼のLPへ、彼の心へ、まっすぐに進んでいく。
遊大「……なんでなんだろうな。進みたいのに、会っちゃいけないって思いが邪魔をするんだ。会いたいのに、会えないんだよ。このデュエルだって、いっそ負けてしまえば、茉菜さんに引きずられてでも前に進める。でもそれはおれの意思じゃない。おれの望みじゃない。わかってるよ、だめなんだ。……茉菜さんの言ってることは正しい。
_______進むならおれの意思で、進まなきゃだめなんだ。」
その言葉と同時に、1枚のカードがフィールドへと落ちる。
それは《焔聖騎士帝—シャルル》の刃を寸手のところで止め、遊大のLPを守っていた。それは……《虹クリボー》のカードだった。モンスターの攻撃宣言時に手札から攻撃中のモンスターに装備させることで攻撃を中止させるモンスター。ありふれたカードであると言えばそうだが、そのカードを落とした彼の表情がひどく印象的だった。
茉菜「……《虹クリボー》。」
遊大「このカードはさ、律歌さんから譲ってもらったカードなんだ。
負けた方が楽かもしれないのに、おれのプライドとこのカードが言うんだよ。『せめて本気で負けろ』って。『本気で向き合うこともしないで、一丁前に迷ったふりをするな』って。」
茉菜「……リツの、」
ゆっくりと、でも吐き出すようにして、喉を震わせながら彼はそう言った。
手札にあった《虹クリボー》のカード、それを使うのにどれほどの勇気を必要としただろうか。『会いたい』と、そう言い切るのにどれほど胸を抉るような思いをしただろうか。
茉菜「そっか、ありがとう。……負けないのね。」
遊大「茉菜さん、おれは今までの進み方を否定はできない。
……でも『生き方を変えることは弱いってことじゃない』って、信じることにした。信じた上で本気でちゃんと向き合って、律歌さんに謝って、ちゃんとデュエリストとして、強くなるよ。」
おっかなびっくり、彼はそう言った。
苦虫を噛み潰したような顔をしておきながら、その目はしっかりと自分の目を見ていた。1人で進むと言い切ることしかできなかった少年がこれを言ってるんだ、ちっぽけでも大した成長だろう。進んだ先で後悔してしまうかもしれない、彼のことを信じるにはまだ日が浅いかもしれない。ただ取り繕いようのない弱さを知った自分たちは、きっと強くなれる。
茉菜「弱くない……強い選択よ。」
遊大「ありがとう。勝ちに行くよ。」
続く
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イイネ | タイトル | 閲覧数 | コメ数 | 投稿日 | 操作 | |
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82 | 0話 プロローグ | 1051 | 1 | 2020-10-25 | - | |
71 | 1話 転入生 | 847 | 0 | 2020-10-25 | - | |
86 | 2話 巨竜の使い手 | 862 | 0 | 2020-10-31 | - | |
85 | 登場人物紹介 〜東雲中編〜 | 919 | 0 | 2020-11-04 | - | |
115 | 3話 黒き刺客たち | 954 | 3 | 2020-11-14 | - | |
95 | 4話 暗く冷たく | 749 | 0 | 2020-11-23 | - | |
84 | 5話 己の意思で | 740 | 0 | 2020-12-24 | - | |
91 | 6話 廃材の竜/炎の戦士たち | 757 | 0 | 2020-12-30 | - | |
72 | 7話 スタート地点 | 729 | 0 | 2021-01-15 | - | |
82 | 8話 タッグデュエル-その0- | 717 | 0 | 2021-01-21 | - | |
76 | タッグデュエル・チームデュエルについて | 660 | 0 | 2021-02-07 | - | |
77 | 9話 タッグデュエルー①ー 竜呼相打つ | 604 | 0 | 2021-02-09 | - | |
79 | 10話 タッグデュエル-②- 重撃 | 681 | 0 | 2021-02-09 | - | |
66 | 11話 託す者 | 632 | 0 | 2021-03-15 | - | |
77 | 12話 紫色の猛者 | 770 | 2 | 2021-04-10 | - | |
75 | 13話 死の領域を突破せよ! | 696 | 0 | 2021-04-13 | - | |
81 | 14話 協奏のデュエル | 689 | 0 | 2021-05-01 | - | |
93 | 15話 刹那の決闘 | 679 | 0 | 2021-05-29 | - | |
112 | 16話 リベリオス・ソウル | 684 | 0 | 2021-06-08 | - | |
84 | 17話 リトル・ファイター | 597 | 0 | 2021-07-22 | - | |
81 | 18話 強者への道、煌めいて | 551 | 0 | 2021-10-30 | - | |
80 | 19話 黒い霧 | 769 | 0 | 2022-01-02 | - | |
65 | 20話 大丈夫! | 546 | 0 | 2022-03-08 | - | |
100 | 21話 魂を繋ぐ龍 | 685 | 0 | 2022-04-03 | - | |
84 | 22話 原初の雄叫び その① | 622 | 2 | 2022-05-02 | - | |
68 | 23話 原初の雄叫び その② | 617 | 2 | 2022-05-04 | - | |
57 | 24話 焼け野原 その① | 464 | 2 | 2022-11-10 | - | |
53 | 25話 焼け野原 その② | 515 | 0 | 2022-11-11 | - | |
46 | 26話 蒼の衝突 その① | 442 | 0 | 2023-02-28 | - | |
52 | 27話 蒼の衝突 その② | 424 | 0 | 2023-03-24 | - | |
53 | 28話 憧れゆえの | 558 | 2 | 2023-04-15 | - | |
44 | 29話 黒い暴虐 | 321 | 0 | 2023-07-20 | - | |
72 | 30話 決闘の導火線 | 534 | 2 | 2023-07-30 | - | |
43 | 登場人物紹介 〜光妖中編〜 | 398 | 0 | 2023-08-03 | - | |
39 | 31話 開幕!決闘王杯! | 297 | 0 | 2023-08-12 | - | |
40 | 32話 ガムシャラ | 443 | 2 | 2023-08-25 | - | |
34 | 33話 目覚める龍血 その① | 314 | 2 | 2023-09-02 | - | |
39 | 34話 目覚める龍血 その② | 334 | 2 | 2023-09-06 | - | |
68 | 35話 雨中の戎 その① | 465 | 4 | 2023-09-19 | - | |
32 | 36話 雨中の戎 その② | 285 | 2 | 2023-09-23 | - | |
38 | 37話 チャレンジャー | 421 | 2 | 2023-09-30 | - | |
56 | 38話 心に傘を | 412 | 2 | 2023-10-07 | - | |
34 | 39話 龍の瞳に映るのは その① | 373 | 3 | 2023-10-22 | - | |
38 | 40話 龍の瞳に映るのは その② | 351 | 2 | 2023-10-26 | - | |
52 | 41話 花と薄暮 | 425 | 2 | 2023-10-30 | - | |
39 | 42話 燃ゆる轍 その① | 411 | 2 | 2023-11-07 | - | |
34 | 43話 燃ゆる轍 その② | 296 | 1 | 2023-11-09 | - | |
35 | 44話 襷 | 289 | 1 | 2023-11-14 | - | |
31 | 45話 星を賭けた戦い | 388 | 3 | 2023-11-17 | - | |
35 | 46話 可能性、繋いで その① | 343 | 2 | 2023-11-28 | - | |
43 | 47話 可能性、繋いで その② | 331 | 2 | 2023-12-07 | - | |
35 | 48話 揺れろ。魂の… | 271 | 2 | 2023-12-28 | - | |
34 | 49話 エンタメデュエル | 299 | 2 | 2024-01-07 | - | |
45 | 50話 乗り越えろ! | 344 | 3 | 2024-01-26 | - | |
70 | 51話 Show Me!! | 368 | 0 | 2024-02-01 | - | |
36 | 52話 モノクロの虹彩 | 401 | 1 | 2024-02-08 | - | |
40 | 53話 激昂 | 302 | 2 | 2024-02-22 | - | |
34 | 54話 火の暮れる場所 その① | 252 | 0 | 2024-03-02 | - | |
71 | 55話 火の暮れる場所 その② | 401 | 2 | 2024-03-07 | - | |
38 | 56話 赫灼の剣皇 | 388 | 2 | 2024-03-11 | - | |
52 | 57話 金の卵たち | 280 | 2 | 2024-03-18 | - | |
39 | 合宿参加者リスト 〜生徒編〜 | 251 | 0 | 2024-03-20 | - | |
47 | 58話 一生向き合うカード | 332 | 2 | 2024-03-24 | - | |
36 | 合宿参加者リスト〜特別講師編〜 | 305 | 0 | 2024-03-31 | - | |
42 | 59話 強くならなきゃ | 319 | 2 | 2024-04-03 | - | |
44 | 60話 竜を駆るもの | 211 | 0 | 2024-04-20 | - | |
63 | 61話 竜を狩るもの | 343 | 2 | 2024-04-22 | - | |
44 | 62話 反逆の剣 | 228 | 2 | 2024-04-26 | - | |
41 | 63話 血の鎖 | 309 | 1 | 2024-05-01 | - | |
55 | 64話 気高き瞳 | 377 | 2 | 2024-06-02 | - | |
29 | 65話 使命、確信、脈動 | 386 | 2 | 2024-06-16 | - | |
39 | 66話 夜帷 | 252 | 0 | 2024-07-14 | - | |
33 | 67話 闇に舞い降りた天才 | 289 | 2 | 2024-07-18 | - | |
34 | 68話 陽は何処で輝く | 245 | 2 | 2024-07-30 | - | |
31 | 69話 血みどろの歯車 | 326 | 2 | 2024-08-16 | - | |
28 | 70話 災禍 その① | 281 | 2 | 2024-08-28 | - | |
36 | 71話 災禍 その② | 303 | 2 | 2024-09-01 | - | |
29 | 72話 親と子 | 183 | 2 | 2024-09-09 | - | |
45 | 73話 血断の刃 | 221 | 2 | 2024-10-10 | - | |
43 | 74話 血威の弾丸 | 245 | 2 | 2024-10-17 | - | |
32 | 75話 炉心 | 196 | 0 | 2024-11-01 | - | |
29 | 76話 ひとりじゃない | 229 | 2 | 2024-11-03 | - | |
37 | 77話 春風が運ぶもの | 258 | 2 | 2024-11-06 | - | |
24 | 78話 天道虫 その① | 273 | 2 | 2024-11-19 | - | |
23 | 79話 天道虫 その② | 194 | 2 | 2024-11-21 | - | |
37 | 80話 花の海 | 288 | 2 | 2024-12-03 | - | |
23 | 81話 寂しい生き方 | 183 | 2 | 2024-12-16 | - | |
21 | 82話 飛べない鳥の見た景色 | 176 | 2 | 2024-12-24 | - | |
3 | 83話 意思の足跡 | 16 | 0 | 2025-01-24 | - |
更新情報 - NEW -
- 2024/12/21 新商品 PREMIUM PACK 2025 カードリスト追加。
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