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HOME > 遊戯王SS一覧 > 15話 刹那の決闘

15話 刹那の決闘 作:コングの施し

光妖中vs東雲中の練習試合、第3試合のタッグデュエルは、遊大&阿原の東雲中のタッグが勝利を収め、光妖中のキャンデ&ツァンディレタッグは渋々ベンチに帰るところであった。

キャンデはツァンを米俵のように持ち上げ、レインの方へと向かっていった。

キャンデ「いや〜負けちまったよ。」

レイン「そう…。これで団体戦の得点は2-1…。」

キャンデ「ああ。まだ終わってねえぞ、ツァン。」

そういうと、ツァンはキャンデの腕の中でバタバタともがいた。

ツァン「そうよ!4番手はボク!シングルデュエルであっと言わせるんだから!」







光妖にて、阿原とツァンディレの試合が始まろうとしていた頃のことであった。

忘れてはならない。遊大たちの東雲中からは、もう1人の出場者がいることを。

大石龍平、転校初日に3年のデュエリストを破り、同時に白石杯への参加を明らかにした寡黙な決闘者。

部活こそ参加してはいないものの、彼もまた、遊大たちと同じく研鑽を重ねる決闘者と言って間違いではなかった。

晴れた土曜の昼下がり、龍平はデッキを片手に次の戦場へと赴いていた。
アポこそ取るが、市内の中学や道場を周り、デュエリストをことごとく潰して歩くその様は、転校から2週間も経てばそれなりに有名になっていた。

龍平(次…斬隠家庭園…。
斬隠輝久…去年の新人戦でベストエイトを独占した団体、ゴールデンエイジの元メンバー。現光妖中決闘部出身。使用デッキは…忍者。
斬隠家が代々の長男にのみ継承させてきたデッキ…か。しかし、俺の元に手紙を書くなんて、なんかみみっちいというか…。)


差出に『斬隠』と書かれた手紙、それに書かれた道順を辿り、斬隠家の屋敷を目指していた。
しばらくすると、龍平は巨大な和風の 門を前にして足を止めた。
漆喰の壁には鉄の装飾が埋め込まれており黒い瓦は日光を反射して輝く。
高さばならば5mはあるだろう。

一瞬足が止まったが、また前を向き、恐れることなく門を叩いた。

龍平「斬隠と闘いに来た。大石龍平だ。」

そう言うと、重厚な門が音を立ててゆっくりと開いた。

「お待ちしていました。大石龍平様。」

「どうぞこちらへ。手紙の差出人は既に奥で待っております。」

同じ低身長の身長の男女がこじんまりした和服姿で龍平の前に立っていた。
性別がちがうというのに顔はほぼ一緒で、性別だけ違うのかがわかるのが不思議に思えていた。

2人の使いのあとを着いていく龍平だが、家の敷地のあまりの大きさに少し驚いた様子であった。

生垣で囲まれた砂利道を進み、初夏の植物と池が映える庭園が目に映った。
ほとりの東屋には、1人の少女が座りこんでいる。

龍平は東屋の前に立ち、少女に言い放った。

龍平「斬隠輝久はどこにいる?」

その言葉を聞くと、袴を纏った少女はくりんとした瞳を龍平のほうへ向け、微笑んだ。

???「待っていましたわよ。」

龍平「…質問に答えてくれないか。斬隠輝久は…」

???「兄様は今日は不在なの。でも、手紙であなたを呼んだのは、私でしてよ。」

龍平「…不在…兄様…じゃあ君、騙してたのか?」

???「別に騙してなんかいませんわ。差出人の欄は、『斬隠』としか書いてませんもの。」

龍平は手元の手紙を広げ、もう一度確認する。目を閉じ、ため息をついた。いっぱい食わされたような顔をして、龍平は振り返り、来た道を戻ろうと足を踏み出した。

???「待ちなさい。言いましたのよ。あなた、大石龍平を呼んだのは私。タダで帰るのは勿体ないのではなくて?」

龍平はまた足を止める。

龍平「…俺は輝久とデュエルをしに来た。どうしたって妹の君とやらなきゃいけない。」

???「あなた、兄様のことをしってるんでしたら、私のこともご存知のハズよ。」

龍平「…ああ。知っている。ゴールデンエイジで唯一他の奴らより1歳若い、斬隠輝久の妹、斬隠典子だろ?」

典子「ご名答。市内の道場やら学校を潰して回るあなたでしたら、私と闘うことも無意味ではないんじゃないかしら?」

龍平「手紙を送りつけて来たのは君だろ。なんでそこまでして俺と戦おうとする?別に無いだろ、そんな理由。」

龍平は振り向き、典子を睨みつけた。

典子はその威圧感と口調に気圧され、言葉を詰まらせる。

龍平「…萎縮しちまったってとこか…それじゃあ、帰らせてもらうよ。」

また歩き出そうとしたその時、典子は走り出し、龍平の袖を思い切り掴んだ。

小さいながらも力強く。震えながら握っていた。

典子「…してませんわ…!萎縮なんて…!」

龍平は典子の目を見つめ、深くため息をついた。典子の身長に合わせるようにかがんで言った。

龍平「…なんでそんなに意地張ってんだ?」

呆れたような龍平の視線を受けて典子はカーッと赤面した。

典子「なんでもいいでしょっ!?子供扱いしないでっ!」

慌てて龍平から距離を取った典子はデュエルディスクを構えた。

龍平「…。」

仕方なく龍平もデュエルディスクを構え、デッキをセットした。

龍平(本命の兄、斬隠輝久はまた今度か…。まあいいさ。)

典子「子供扱いしたツケは、きっちり払ってもらいますわよっ!」

『デュエル!』









一方で光妖中vs東雲中の練習試合
勝敗が2ー1となり、つづく第4試合で東雲中が勝利すれば、団体戦は東雲中が勝ち取ることとなる。

第3試合で戦ったツァンディレと阿原、この2人の激突が、第4試合でも始まっていた。


ーターン8ー

阿原克也
LP:2400/手札:1/セット:1
《スクラップ・デス デーモン》攻撃表示
《スクラップ・ゴーレム》攻撃表示


ツァンディレ
LP:2800/手札:0/セット:3
《不退の荒武者》攻撃表示
《真六武衆ーミズホ》守備表示
《六武衆の露払い》攻撃表示


阿原「オレのターン!オレは《スクラップ・ゴーレム》の効果を発動!墓地のスクラップモンスター1体を特殊召喚するッ!」

廃材の巨人は鈍い音を立てて動き出す。冷蔵庫のようなフォルムの腹部から煙が漏れだしているようだった。

ツァン「またスクラップワームを復活させるつもり?デスデーモンじゃボクの《不退の荒武者》は倒せないのよ!」

阿原「オレは《スクラップ・サーチャー》を、お前のフィールドに特殊召喚するぜッ!」

ツァン「ボクのフィールドに!?そんなことして何の得が…!?」


スクラップ・サーチャー
☆1/地属性/鳥獣族
100/300


鉄くずを繋ぎ合わせた猛禽は、ツァンディレのフィールドに降り立つや否や、その大きな瞳を赤く点滅させた。

阿原「スクラップサーチャーの効果は、特殊召喚に成功したとき、自分フィールドのスクラップモンスター以外のモンスターを全て破壊する!」

ツァン「でもキミのフィールドにはスクラップしかいな…まさか!」

ツァンは窮地に立たされていることに気づき、冷や汗を垂らした。

阿原「気づいたか!そう、今スクラップサーチャーをコントロールしているのはお前、つまり、お前のフィールドのスクラップサーチャー以外のモンスターを全て破壊する!」

スクラップサーチャーは爆弾のごとく弾け、凄まじい光と音がフィールドをつつんだ。

ツァン「くっ…。不退の荒武者は戦闘じゃ突破できないからってことね。厄介な土産送ってきちゃってさ。」

阿原「バァロが!さっきの1戦で実力を知った気になってんじゃねえよ!
さらにオレは、チューナーモンスターの《スクラップ・ゴブリン》を通常召喚!」


スクラップ・ゴブリン
☆3/地属性/チューナー/獣戦士族
0/500


阿原「オレは、レベル5のスクラップゴーレムにレベル3のスクラップゴブリンをチューニング!
廃材の竜よ、くず鉄共の執念を牙に変え、目に映る全てをぶち壊せ!
シンクロ召喚!レベル8!《スクラップ・ドラゴン》!!」

翼を翻した廃材の龍は、軋む金属音のような叫びをあげた。


スクラップ・ドラゴン
☆8/地属性/シンクロ/ドラゴン族
2800/2000



遊大「きたァー!阿原さんのエース!スクラップドラゴン!もう何回目かなあ!?」

外野で飛び跳ねてはしゃぐ遊大を横目に、律歌は俯き考え事をしていた。

律歌(あの2体の攻撃が通れば阿原の勝ち。
しかし相手のセットカードは3枚…、不退の荒武者が立っていた以上、攻撃反応系の罠を2重に仕掛けていたとは考えにくい。
それに、阿原のフィールドも潤ってる訳じゃないから、阿原の1枚のセットカードを受け札として使用する場合はスクラップドラゴンの効果を使わない方がいいかもしれない…。いや、やっぱりセットカードのリスクを1枚でも減らすのが得策…?)



阿原「バトルだッ!」

キャンデ「攻撃反応系の罠がないと踏んだか。どっちにしろこのターンで決めるつもりだなあ。」

阿原「スクラップドラゴン、スクラップサーチャーを噛み砕け!」

ツァンディレのフィールドにさまよっていたスクラップサーチャーは、巨大な牙によって為す術もなく噛み砕かれた。

ツァン「きゃああっ!!」LP:2800→100

遊大「罠を発動しなかった!この一撃で決まる!」

阿原は真っ直ぐにツァンディレを見つめ、大声で叫んだ。

阿原「これでトドメだ!スクラップ・デスデーモンでツァンディレをダイレクトアタック!!」

巨大な廃材の巨人は、ツァンディレを押しつぶさんとゆっくりと歩み寄る。

ツァンディレは1度倒れかけたが、再び立ち上がり自らの前に佇む巨人を睨みつけた。
視線を落とし、阿原のほうを見つめる。その目には確かな闘志が宿っていた。

ツァン「キミはさっき言ったよね。1度戦ったぐらいで実力を知った気になるな、って。そっくりそのままお返しするわ!」

阿原「なに?」

ツァンディレ「ボクはトラップ発動!《諸刃の活人剣術》!墓地から2体の六武衆を特殊召喚する!再び現れて!《真六武衆ーミズホ》《六武衆の影武者》!」

ツァンディレの背後より凄まじい土埃を立て、2人の戦士が推参した。


真六武衆ーミズホ
☆3/炎属性/戦士族
1600/1000

六武衆の影武者
☆2/地属性/チューナー/戦士族
400/1800


阿原「諸刃の活人剣術の効果で特殊召喚されたモンスターはターンの終わりに破壊され、お前はその攻撃力分のダメージを受ける、だったよなあ?壁にしては大きすぎるデメリットなんじゃねえか?」

ツァン「また過去のデータにこだわってる。薮をつついて蛇が出るのが怖いのかな?アンパン頭くん。」

阿原の眉がピクっと動く。
絵に書いたように血管が額に浮かび、血走った目でツァンディレを睨みつけた。

阿原「…中々生意気言うじゃあねえか。もうどうなっても知らねえからな?」

ツァン「こっちのセリフよ。言っておくけど、ボクは絶対に負けない。」

阿原「…オレは、スクラップデスデーモンで、真六武衆ーミズホに攻撃ィ!ぶち砕けェッ!」

ツァン「待っていた!この瞬間を!」

そう言ってツァンディレは1枚のカードを発動した。

律歌も頭の中の回路が繋がったのか、急ぎで阿原を止めようと叫んだ。

律歌「阿原っ!ダメよっ!!」

ツァン「リバースカードオープン!トラップ発動!《緊急同調》!」

六武衆の影武者は光のリングへと姿を変え、ミズホの内より3つの星が昇華していく。

阿原「…なんだと!?」



光妖サイドの外野にて、シンクロアンデットの使い手、レイン恵がつぶやく。

レイン「…緊急同調…。もっとも代表的なシンクロ召喚サポートの1つ…。…効果は…」

ホールの壁に寄りかかって腰掛けていたキャンデが巨体をむくっと持ち上げて続けた。

キャンデ「知っているさ。自分及び相手のバトルフェイズにシンクロ召喚をする、だろ?」

レイン「…」



ツァン「ボクは、レベル2の六武衆の影武者に、レベル3の真六武衆ーミズホをチューニング!
六武束ねし天下の覇者よ!勝利への道を駆け抜けろ!シンクロ召喚!レベル5、《真六武衆ーシエン》!」

ツァンディレのフィールドに、紫の炎が激しく立ち上り、やがてそれは1本の道を形成した。影武者とミズホが作り出した閃光が、紫炎の道を一気に駆ける。
紫の光と共に、その戦士はフィールドに舞い降りた。
赤紫色の鎧は、炎の光を反射して禍々しく輝き、熱を帯びたその刀はフィールドに蜃気楼を呼び起こしているようだ。


真六武衆ーシエン
☆5/闇属性/シンクロ/戦士族
2500/1400


阿原「…これがお前の真のエース…。
だがな、相手ターンにシンクロなんて見事なモンだが、攻撃力はスクラップデスデーモンの方が上だ!」

ツァン「まだボクにはもう1枚のトラップがある!《六武派二刀流》!」

オープンしたトラップカードより、紫色に輝く1本の刀が出現し、シエンの左手に握られた。
スクラップデスデーモンの拳がシエンに届くまでの刹那、阿原の瞬き1つほどの一瞬で、シエンは2本の刀を従え、スクラップデスデーモンとスクラップドラゴンの2体を賽の目に切り刻んで見せた。

阿原「なッ!?何をしやがった!?」

ツァン「《六武派二刀流》は、ボクのフィールドのモンスターが、攻撃表示の六武衆モンスター1体のみの場合に発動できるトラップカード。ビックリするのも無理ないわよ。相手フィールドのカードを2枚も手札に戻すんだもの。」

切り刻まれた2体のシンクロモンスターは、光の粒となって阿原のエクストラデッキに戻って行った。

圧倒的優勢から極限のピンチに追い込まれた阿原は、ただ立ち尽くすしかできなかった。

阿原「くっ!オレはこれでターンエンド…!」



遊大「すげえアイツ…モンスター無しの状態からエースモンスターを召喚して、逆に相手のモンスターを全部除去するなんて…。」

嬢「それだけじゃないよ…。序盤のライフの調節も完璧。シエンの攻撃力は2500、阿原先輩のライフは2400、攻撃が通ってしまえば、勝負が決まる!」



ツァン「ボクのターン。
悪いけど、このまま勝たせてもらうよ。」

阿原「…やるじゃねえか。今の1点、反省だぜ。」

阿原は俯き、拳を震わせた。

ツァン「真六武衆ーシエンで、阿原克也にダイレクトアタック!!!」

シエンは刀を鞘に収め、阿原へと一直線に駆け出す。
阿原とシエンの影が交わる刹那、目にも止まらぬ速さでその刀を抜いた。



そのとき、遊大は部活中の阿原の発言をひとつ思い出した。

『覚えてとけ遊大…スクラップ・ドラゴン…、コイツ以上の力を持つモンスターが一応だがオレのデッキには入ってる。だが、レベルが高すぎてちとばかし呼び出すのが難しい。
だから、隠し弾なんだよ。お前にもそういうモンスターがあれば、メインのプランが潰れたとき、あと一押しのときにフィニッシャーになる。そういうのは、持っといたほうがいい。』

遊大「…まだだろッ!阿原さんッ!」



瞳を伏せていた阿原は、シエンと交わる刹那に目を開け、デュエルディスクを素早くタップした。

阿原「…だが、反省したオレは、負けねえッ!トラップ発動!《リジェクト・リボーン》!
相手のダイレクトアタック時、バトルを終了させ、墓地からSモンスターとチューナーを1体ずつ特殊召喚する!
オレは最初のターンに破壊された、レベル7の《スクラップ・デスデーモン》とレベル2の《スクラップ・ワーム》を特殊召か…」

そこまで言ったとき、届くはずのない刀が、阿原のライフを斬り裂いた。

阿原「…なッ!?」

そう叫んだときには、既にシエンは阿原の背後で納刀の構えを取っていた。

阿原 LP:2400→0

「一体何がおきて…」

膝をつく阿原の前に、ツァンが歩み寄る。

ツァン「ターンを渡していたら、レベル9のシンクロ…かな。
真六武衆ーシエンの効果、1ターンに1度、相手が魔法・罠カードを発動した時、その発動を無効にし破壊できる。
悪く思わないでよね。ボクの勝ちよ。」

オープンしたリバースカードは、切られたことにすら気づかないように、ツァンが阿原の元を去ると同時に切りくずれた。

完璧な駆け引き、完全な敗北を前に、阿原は身を震わせた。

阿原「…クソッ…!」


コツン


俯く阿原の首すじに冷たい何かがあたった。

阿原「あ?」

そう言って振り返ると、2本のペットボトルをもってにこやかに笑う遊大が、そこにはいた。

遊大「おつかれさまです。惜しかったっスよ!」

阿原はため息を漏らしながらも微笑み、大きい方のボトルを受け取った。

ボトルを渡した遊大は、光妖サイドの方へ叫んだ。

遊大「これで2ー2だ!最後の決闘者はどこだよ!」

ツァンディレはため息混じりに左袖をまくり、腕時計を確認した。

ツァン「…アイツ、遅すぎるにも程度ってのが…」

その時、デュエルホールの入口が勢いよく開いた。

昼過ぎの西日と共に、その少年はツカツカとホールに入ってくる。

腰に巻かれた紫のブレザー、緩くなったネクタイに腕をまくったシャツ、ふわっとした金髪、額にうっすら汗が浮かんでいるにも関わらず、微塵もむさくるしさを感じさせないその風貌。
急ぐ様子のない少年は、遊大たちの前まで来ると立ち止まり、左手で髪をかきあげて言った。

「やあ皆さんおまたせ。光妖中ラストデュエリスト、1年『斬隠輝久』。推参致しましたよ。」






続く
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