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HOME > 遊戯王SS一覧 > 5話 己の意思で

5話 己の意思で 作:コングの施し

「でも、俺に出来るなんて思わないし、そもそもなんで先輩方は俺に後継を託そうと…」

そう言うと、拳斗は額に手をやり、ため息をついて言った。

「ウム。俺たちの代のことは今は言うことはできないし、君に後継を無理やり押し付けるようなマネもなるべくしたくはないんだが…」

拳斗は制服の胸ポケットから一枚の写真を取り出し、遊大に差し出した。

写真には、リーゼントヘアに頬に絆創膏をくっつけた男が映っている。

「この男もまた元デュエル部の1人だ。名前は阿原克也、2年生だから君の一個上の先輩にあたる。
彼に会って、話を持ちかけてくれなっか?」

「(え、俺この人と会うの?めっちゃこわいじゃん?)」

「阿原は俗に言う不良だが、根は良い奴だ。君はアイツと会うことで、デュエル部の必要性について考えて欲しい。」

「会うことで考えろって…」

そう言いかけた時、拳斗は部室の入口でつぶやく。

「君もアイツと同じ、デュエルを心から愛する人だと、俺は信じている。」

そうして、拳斗は部屋を後にした。


ー放課後

空が緋色になった頃、校舎裏でちょっとした騒ぎがあるのを聞きつけ、遊大はそこへ向かった。

窓からひょいと身を乗り出すと、いつの日か龍平に敗れた沙汰川が、遊大の目前を勢いよくふっとんでいった。

「沙汰川ァ!」

声のする方に目を向けると、短ランに紫色のTシャツをインナーに着て、リーゼントヘアをいじくりながら沙汰川を睨みつける男が立っていた。

遊大は慌ててポケットから写真を取り出し、目に映るその男と見比べた。

「(こ、こいつが阿原…?)」

男は想像よりも低身長で、身長は165cm前後かに見えた。
腕にはデュエルディスクを装着していて、機械で出来た巨大な悪魔を彷彿とさせるモンスターが佇んでいる。

一方の沙汰川のフィールドでは、ゴブリン暗殺部隊のソリッドヴィジョンが消えかかっているところだった。

勝負はついているようだった。
デッキをケースにしまい、リーゼントヘアの男、阿原が沙汰川の胸ぐらを掴んだ。

「てめぇはまだアンティがやめられてねえみたいだな。あ?」

「ひ、ヒィ、許してくれよォ!
あいつとお前は無関係なんだろう?!」

そう言って沙汰川は、阿原の後ろ側を指さした。

その先には、遊大のクラスメイト、龍剛院嬢の姿があった。

緑色のラインが入ったデュエルディスクを脇に抱え、怯えたように2人の男を見ている。

「んなこたァどうだっていい!
だがアンティはオレのポリシーが許さねえって前にも言ったよなァ!?」

阿原は、胸ぐらから手をぱっと離すと、沙汰川は一目散に走って逃げていった。

「おい女、怪我は…ってオイ!お前!まっ…」

阿原が振り返ると、嬢の校庭の方へ走って行ってしまった。

そして遊大の方を睨みつけて言った。

「てめぇ、さっきから何じろじろ見てんだ?見せ物じゃねえんだよ。」

一連のやり取りを見ていた遊大は、なんとなーく自分がマズイ状況に置かれていることに気づいた。
周りを見ても校舎内には誰もいない。

「てめぇしかいねえだろうが1年。ちとツラ貸せよ。」

遊大の頬に冷や汗がたらりと流れる。
逃げるワケにもいかないので、怯えながらも窓から校舎裏へ降りた。

「あ、あの、その、申し訳ないです…」

「あ?よく聞こえねえなあ?」

そう言われた時、自分がすべきことを思い出した。
怯えながらも、写真を阿原の目前に突き出した。

「あ、あんた、阿原さんですよね?」

「はぁ?一体何のマネ…」

間髪入れずに、遊大が叫ぶ。

「元デュエル部の双剛さんが、あんたに会えって!」

阿原は遊大の持っている写真を取り上げ、まじまじと見つめた。

「デュエル部を…復活させたい…らしいです。」

言葉を話すうちにだんだん声が小さくなるのを、遊大自身感じていた。

「お前、それはなんの冗談だ?」

沙汰川にしたように、遊大の胸ぐらを万力のような力で掴む。

「なァ、それはテメェの意思か?」

「そ、それは…」

胸ぐらから手を離し、遊大を軽く突き飛ばした。
阿原は自分の右手を見つめて、独り言のように小さく呟いた。

「ったく…余計なお世話だってんだ。」

「えっ?」

「…オイ1年。
デュエル部復活の話、考えてやる。
ただし…。」

阿原はベルトにぶら下がったデッキケースからデッキを取り出し、デュエルディスクにセットした。
デッキは錆びた色のスリーブに覆われていて、所々、鈍色に光を反射している。

「どうした?立てよ。お前もデュエリストの端くれなんだろ?」

遊大は立ち上がり、デュエルディスクを腕にはめた。

「俺が勝ったら、デュエル部の復活を考えてくれる、ってことでいいんですか?」

「ああ。オレはこのデュエルで、お前という男を見極める。
デュエル部にふさわしい男かどうかをな。
お前、名前は?」

「樋本遊大です…ッ!」

デッキが自動でシャッフルされ、両者は夕日の下で向かい合った。

「行くぞ遊大…」


『決闘!』


「先攻はオレが貰う!」
阿原がそう叫び、デュエルのゴングが鳴り響いた。

阿原克也
LP:4000
手札:5

「俺のデッキは、《スクラップ》デッキ!邪魔なモンは全てぶち壊す!
俺は《スクラップ・シャーク》を通常召喚!」

スクラップ・シャーク
☆4
2100/0
地属性/魚族

錆色のガラクタの寄せ集めのような姿の鮫のモンスターだった。
エラのあたりに伸びたパイプが蒸気を吹き出している。

「下級モンスターで、攻撃力2100!?」

「さらにオレは、フィールド魔法《スクラップ・ファクトリー》を発動!
フィールドのスクラップモンスターの攻守は200ポイントアップし、効果で破壊されるたびに新たなスクラップモンスターを呼び出す!」

夕焼けの校舎裏の風景は、みるみる変わっていく。
遊大が目をやるとその場は、廃品が転がり、溶けた鉄が流れ出るような、工場のフィールドへと移り代わっていた。

「さらにスクラップシャークの効果!カード効果が発動したことで、自らを破壊!そしてデッキからスクラップモンスターを墓地に送る!オレは《スクラップ・キマイラ》を墓地に送る!」

スクラップシャークが内側から爆発を起こし、その破片は溶鉱炉へと吸い込まれていった。

「自分の効果で…自分を破壊する?」

「そしてスクラップファクトリーの効果!スクラップモンスターが効果破壊されたことで、デッキからスクラップモンスターを特殊召喚!
守備表示で出てこい!《スクラップ・ゴブリン》!」

溶けた鉄の中から、廃品で出来た腕を伸ばし、体を揺らしながら這い上がってくる。

スクラップ・ゴブリン
☆3
0(→200)/500(→700)
地属性/チューナー/獣戦士族

「(自分で自分を破壊し、そして、攻撃力の高いモンスターから守備モンスターに切り替える…ダイナミックなのか慎重なのか…でも俺は俺のできるきとをやるだけだ!)」

「なあに呆けてやがる!
オレはカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

樋本遊大
LP:4000
手札:6

「俺のターン!ドロー!
俺は永続魔法《金剛真力》を発動!
その効果で、相手フィールドにのみモンスターが存在する時、手札から☆4以下のデュアルモンスター1体、特殊召喚できる!
俺は《竜影魚レイ・ブロント》を特殊召喚!」

『シャァァ!』

竜影魚レイ・ブロント
☆4
1500/1000
水属性/デュアル/魚族

「(デュアルモンスター?そんな骨董品使うのかコイツ…)」

「さらに俺は、レイブロントを再度召喚ッ!本来の力を取り戻せ!
レイブロントの攻撃力は2300までアップし、バトル終了時に守備表示になる!」

レイブロントは、その竜とエイを彷彿とさせる体に鮮やかな紺色を取り戻し、鰭で飛沫を立たせてみせた。

「バトルだ!
レイブロントで、スクラップゴブリンを攻撃!噛み砕け!」

レイブロントが飛びかかり、その牙をスクラップゴブリンの体に喰い込ませた。

スクラップゴブリンはバキバキと音を立てて砕けたが、その屑の中からまた腕を伸ばし、破片を傷にはめ込み、体を再び構築した。

「ばァかが!スクラップゴブリンは戦闘では破壊されねえ!こいつを破壊できるのは、これだけだ!」

バトルフェイズが終了し、レイブロントが守備表示になると、スクラップゴブリンはその身を溶鉱炉に投げだした。

「スクラップゴブリンは守備表示でバトル終了時を迎えたとき、自らの効果で破壊される…。そしてその効果で墓地のスクラップキマイラを手札に加え、さらにスクラップファクトリーの効果!」

溶鉱炉の中でバチバチと弾ける音がすると、また溶鉱炉の中から新たなモンスターが姿を表した。

「オレはデッキから《スクラップ・コング》を特殊召喚!」

スクラップ・コング
☆4
2000(→2200)/1000(→1200)
地属性/獣族

「自分の効果で破壊して、その度に新しいモンスターが現れて…まるでサイクルか…。」

「今更気づいたか!フィールドがスクラップファクトリーに変わった時点で、ここはそのサイクルの渦なんだよォ!」

阿原はそう言って高らかに笑って見せた。

「(正直、自身の効果で破壊なんてのは損かと思っていたが、ちゃんとデッキとして成り立っている…このデッキを突破するには…!)
俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

苦しげな表情をする遊大を、阿原は睨みつけて言った。

「遊大、オレはてめェのことが正直気に入らなねえ。デュエル部の復活?
それがお前の意思じゃないことぐらい、馬鹿なオレでもわかる。
だが、お前が本気でデュエルに魂を賭けているというなら…お前は、」

その時、拳斗の言葉が遊大の中に湧き上がった。

「俺が、デュエル部で戦う必要性…俺が本当にデュエルを好きなら…
そうか!俺は、そこで戦う必要があるんだッ!」

その言葉を聞いて、阿原はにいっと口角を上げた。

「そうだ!
それをてめえの『行動』で!『決闘』で!オレに叩きつけてきやがれッ!」

阿原克也
LP:4000
手札:4

「オレはてめえを全力で叩き潰す!全力でぶっ壊す!
それでも壊れないお前の意思を、このオレに提示しろッ!
オレは、《スクラップ・キマイラ》を召喚ッ!さらにその効果で、墓地に存在するチューナーモンスター、《スクラップ・ゴブリン》を特殊召喚ッ!」

スクラップ・キマイラ
☆4
1700(→1900)/500(→700)
地属性/獣族

スクラップ・ゴブリン(再)
☆3
0(→200)/500(→700)
地属性/チューナー/獣戦士族

「ッ!
さっきのモンスター、チューナーモンスターだったのかよ!?
ってことは、し、しんこ、じゃなくて…」

「シンクロだッ!
オレは、☆4のスクラップキマイラに、☆3のスクラップゴブリンをチューニング!」

スクラップゴブリンの体は緑色に輝く輪となり、そこを閃光が駆け抜ける!

「全てをぶち壊す大地の悪魔!
シンクロ召喚!《スクラップ・デスデーモン》!」

光はフィールド全体に広がり、蒸気を噴き出しながらその身を揺らす鋼鉄の巨人が顔をのぞかせた。

スクラップ・デスデーモン
☆7
2700(→2900)/1800(→2000)
地属性/シンクロ/悪魔族

『ゴゴゴォォ…』

「シンクロモンスター…、攻撃力2900…!」

「まだ終わらねえ!オレは永続罠《リミット・リバース》を発動!
その効果で攻撃力1000以下のスクラップゴブリンを再び墓地から特殊召喚!」

「廃品の再利用ってか!これはちょっとマズイかもな…」

「オレは再び、☆4のスクラップコングに、☆3のスクラップゴブリンを
チューニング!シンクロ召喚!来やがれッ!2体のスクラップデスデーモン!」

「(たった1ターンでシンクロ召喚を2回!この盤面を突破するのは中々…!)」

「バトルだ!
スクラップデスデーモンで、竜影魚レイブロントを攻撃!」

巨大な鉄の拳を前に、レイブロントは為す術なく打ち砕かれる。

「すまない、レイブロント!」

「次はてめぇだ!
2体目のスクラップデスデーモンで、ダイレクトアタック!」

巨腕が遊大を押し潰し、そのダメージに叫びを上げた。

遊大
LP:4000→1100

遊大は起き上がり、デュエルディスクを素早くタップする。

「だが、ダメージを受けたことで、リバースカードをオープン!罠発動!」

「ダメージを受けたタイミングでの罠…?」

「発動するのは、《ダメージ・コンダクター》!
俺がダメージを受けた時、手札を1枚捨てることで、受けたダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体を、デッキから特殊召喚する!」

「チィッ!ダメージは2900!」

「俺はデッキから《フェニックス・ギア・フリード》を特殊召喚する!」

炎の渦がフィールドを包み込み、それを大剣で切り裂いて、その戦士は姿を表した。

フェニックス・ギア・フリード
☆8
2800/2200
炎属性/デュアル/戦士族

「さァ、ぶちかますぜ!フェニックスギアフリード!」

フェニックスギアフリードはその声と共に、遊大の方を振り返り、小さく頷いた。

大地の悪魔と、燃え盛る炎の戦士がこの瞬間、対峙した。


続く
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