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HOME > 遊戯王SS一覧 > 70話 災禍 その①

70話 災禍 その① 作:コングの施し

アカデミア合宿で嬢のデュエルを咎めたデュエルマフィア、龍血組。彼女の実父であり組の長である龍剛院 栄咲は、その身柄を押さえ、さらに彼女を探す遊大たちの存在すら排除しようと画策する。幕を開けた遊大と荒田のデュエル。しかしそれはデュエルとは言い難く、荒田の拳が際限なく遊大へと叩き込まれる。限界の近づく意識と体、その果てで遊大が見るものとは……。







暗がりの校舎内、封鎖された2階廊下で2人の男の決闘は始まった。いや、それは決闘などと言えるのだろうか。後に全ての人間をそう思わせるほどに、その戦いは赤く、黒く、鉄の匂いが染み付いていた。

荒田「はぁ………しぶてえな。」

遊大「………お、……れは、
《進化合獣ヒュードラゴン》と、《フェニックス・ギア・フリード》を…………
……オーバー……レイ……!!!」

黒く染まった廊下の中を、化合の獣と不死鳥の戦士が放つ赤い光の渦が煌々と照らしていく。ソリッドヴィジョンから放たれる光によって明るみになる、2人の表情。顔中に切り傷と痣を作りながら顰めている遊大と、それを見下すように、しかしそこに笑顔はない荒田の2人。

遊大「エクシーズ………召喚、《超化合獣メタン・ハ……」

遊大が召喚の宣言をする間も、荒田による鉄槌の雨は続く。まるで動き続ける小動物を痛めつけるように、慈悲など無くその拳が遊大のこめかみへとつき刺さる。「ばき…!!」とおおよそ人体から放たれることのない擬音が逃げ場のない一本道の中に響き渡り、遊大の体が床の上で二転した。

遊大「メ、……タン………ハイ……ド……。」


《超化合獣メタン・ハイド》(攻)
★8 炎属性・悪魔族/エクシーズ/効果
ATK:3000/DEF:3000


映し出されるソリッドヴィジョンに、実体はない。『現代決闘技術の扱いに関する法律』によって一定以上の実体影響を与えるソリッドヴィジョン技術またはそれに類する技術の新規開発・運用は禁止されている。ダメージや召喚時に発する熱などの多少の実体影響はあれど、あくまで演出の域を出ない。「4DX」などで準える映像・映画の技術に近しいものへと進化してきたソリッドヴィジョンに、モンスターを従えて所謂「闇のゲーム」を行うような空想は含まれていない。

荒田「………虚しいな。
何をそんなに意地になっちゃってんだよ?」

召喚した《超化合獣メタン・ハイド》のソリッドヴィジョンを暖簾のようにくぐり、男の足が遊大の頭の上にどっかりと乗せられる。アクリルの床と硬い靴踵が頭を押しつぶし、まるですり鉢のようにごりごりと音を立てている。

荒田「………俺はさ、どっちかだと思ってんのよ。
お前が『相当なバカ』か『日本一のバカ』か、どっちかって話。」

遊大「………。」

荒田「一つ、『相当なバカ』のパターンね。」

遊大「………聞いて…ねえよ。」

荒田「じゃあ聞け。
一つ目は、お前と上にいる 日暮 振士、そんで 阿原 克也 が俺たちの足止めを企んでるって可能性。ちなんでおくけどこれは無駄な。お前と別動で動いてる 大石 龍平 は若頭の 小金井 ってやつが相手してるから。それにアイツがトチるようなことになりゃ、てめえら拉致って黙らせりゃ良い。」

踏みつけていた踵が一瞬頭から離れる。ここぞとばかりに広背に力を入れ、腕立て伏せの要領で立ち上がる。しかしその瞬間に、その背中がどっかりと重力に押しつぶされた。100キロ近いその巨体が、今自分の体を椅子にして座り込んでいる。

遊大「………ぅ……ご…」

荒田「二つ目、『日本一のバカ』のパターン。
………マジでてめえ一人で上の2人の門番役をやってるだけってパターンな。
ソリッドヴィジョンから物理的な判定を排除する法律が制定されたのが8年前。『デュエルで足止め』なんざ前時代を突き抜けて空想のお話なんだよ。
………いくら 龍剛院 嬢 の情報が賭けてあるとはいえ、年端もいかねえガキ耐えれるわけねえんだ、かわいそうにな。」

荒田は胸ポケットから皺よった箱タバコを取り出し、その蓋をぱちぱちと叩く。咥えた紙巻きに火を灯し、遊大の上に座り込む形で悠々と一服を始める。

荒田「………バカすぎて二つ目はさすがにねえか、って思ってたんだけどさあ、
どうも意地っ張りすぎて後者の可能性も否定できなくなってきてるわけだ。別にムキになるのは勝手なんだけどよ、そこまでされると………」

荒田は組んだ足を解き、足元に転がる遊大の左手、デュエルディスクを踵で打ちつけた。ばっきりと音を立てたのは腕か、ディスクか、はたまた両方か。細い少年の腕が、男の視界の中でさえのたうちまわり、激痛に耐えかねた声にならない叫びがこだまする。

荒田「俺も吐かせたくなっちまうんだよね。
………最初にも言ったよな、『デュエルが終わるまで続く』ってよ。」

男の右手で燃え続けるタバコの火が、横たわる遊大の目の前へと近づいてくる。その熱が顔に近づけば近づくほど、数刻前に火傷を負った額がジンジンと痛む。まるで呼応するように、引き合うように、その炎が傷口へと押しつけられる。

遊大「う゛ああああああああああああああがああああ゛ああああああ!!!」

荒田「……なあどうするよ、続けるか?」

胴と頭の身動きが取れない。かろうじて動く左腕を胴体の方へと勢いよく引き寄せるようにして、男の脛、弁慶のあたりに拳を叩き込んだ。たかが中学生の子供の拳、男はびくりともしない。しかしそれが意思表示となったのか、男は遊大を見下すように睨みつけた。

遊大「………!!」

荒田「いやさ、別にてめえがどれだけ頑張ろうがそれは勝手なんだけどよ。
だから聞いてんじゃねえか、………状況わかってる?」

じじじ……と額に押し付けられた煙草の火が消えた。ため息と同時に荒田が立ち上がり、薄明かりの窓の元へと歩いていく。

荒田「拘ってもいいことがねえって言ってんだよ。
足止めが目的なら、ほら……俺がこんなふうに……」

そう言って荒田は窓枠へと足を掛け、窓の鍵をガチャリと開ける。ここは3階ではない。ただの学校の2階。つまりそれは遊大が目論んでいる足止めなどということがいかに無意味に終わるかを物語っているようだった。

荒田「………あ?」

男が背後を振り返る。窓枠に乗り出そうとした自分の体が、細い少年の腕によってがっしりと掴まれている。もはや声も出していない。ただ血まみれになったその歯車は、自分の役割を全うしようと、ただそれだけのために動いている。

遊大「………。」

荒田「………ボロボロじゃん。
まあそうしたのは俺なんだけどさ。……んじゃあこうなったらどうすんだ?」

男はため息をはあっと吐くと、遊大の胸元を掴んで自分と位置を入れ替えるようにして窓枠へとその体を押し付ける。遊大の上半身が窓の外へと乗り出し、男が手を離せば、その体は暗い暗い地面へと叩きつけられる。

遊大「………変わん……ねえって……」

あいも変わらず、遊大は虚な目でその腕を掴んでいる。もはや苛立ちを通り越してなのか、荒田は呆れたような表情を見せていた。また一つ、大きく息をつくと、その掴んだ胸ぐらを廊下の内側へと放り投げた。立っているのすらやっとな遊大の体はふらふらとよろめきながら壁を背に座り込む。

荒田「………何をまあそこまでムキになる?正直何がお前をそこまで必死にさせるのか、俺にはわからん。命張ってお前は何を守ろうとしてんだ?
…………なあ樋本 遊大、お前が守ろうとしてるモンに、本当にお前が張ってる命と同等の価値はあんの?」

男は座り込んだ遊大の血まみれの顔を覗き込むように、その腰を屈めた。ぐずぐずになった赤い顔は、もはやその目だけが虚に男の目を見ていることしかわからないほどだった。がらがらと血が絡んだ喉を鳴らして、遊大がゆっくりと口を開ける。

遊大「………ある……よ……。」

男はその言葉だけを聞くと、しばし上を向いた。再び口にタバコを加えて、赤い炎がゆらゆらと廊下を照らす。肺を回って吐き出された煙がもくもくと二人の間を回っていく。ぽんぽん、と男は自分のベストの胸元を叩くと、その内ポケットへと手を突っ込んだ。

荒田「そうか………じゃあどうする?」

煙の奥から男の落ち着いた声が聞こえる。赤く染まった視線がけむって、男が何を持って、何をしているかがわからない。ただ額に、こめかみのあたりに、硬くて冷たい、命の温かみなど微塵も感じさせない鉄の筒が突きつけられていることが、理解できた。


荒田「…………死ぬか?………今、ここで。」


全てが終わる。男がピストルの引き金を引けば。
人は死を目前にした時、意外にも安らかで幸福感を抱いていることが多いらしい。それは本当に死の目前で、頭の中に分泌されるアドレナリンがそこまでに発生した死の恐怖だとか後悔だとかを和らげるため、と、ちょっと夜更かしした日のテレビ番組で言っていた気がする。

遊大「………。」

死ぬのかな、その程度に思っていた。でもそれはきっと仕方がないことで、自分が選んだことだと思うしかないのだ。実際自分が選んだ結末で、自分のことは可哀想かもしれないけど、数刻でも自分が稼いだ時間のおかげで仲間たちが無事でいれば、それはきっと立派なことだ、そう言い聞かせていた。後悔や恐怖さえも湧いてこない頭は、それが本当に死が眼前であることを否応なく教えてくれる。理想を言えば現実であって欲しくはないけど、頬をつねった時とは比較にならないほどにしっかりと全身が痛むから、夢ではないのだろう。

『_____おい荒田、聞こえるか。』

暗がりの中で、男の左腕のディスクがぴかりと光って、しゃがれた声でそんな音を鳴らした。男は自分のこめかみに銃口を押し付けたまま、そのディスクを頬の左に寄せる。今更だけれど、この男は荒田というんだ。風体や性格が名前の通りで解釈一致というやつだ。

荒田「………へい、聞こえます……親父。」

  『小金井が裏切った。学校の奴らの処分は任せるが、さっさと本部に戻れ。』

荒田「………やはりですか、わかりました。」

ディスクの画面がぷつりと切れる。『小金井』と言った男、記憶が正しければ龍平が相手をしていた者だ。先ほどこの荒田という男が自分の口から言っていた。それが相手の側を裏切ったとすれば、それが意味することは……

荒田「おい聞こえたな。
樋本 遊大、てめえの身柄はこっちで預かる。『人質』ってやつだ。
………だからその前に……」


______ばん。
その声と同時に、額に突きつけられた冷たい鉄の感覚が離れていった。けむった視界ではそれがどこにいったのかわからない。ただ顔を上げた瞬間、聞いたこともないほどに大きな音が、鼓膜に突き刺さった。同時に瞳孔の奥に紫色に焼きつくほどの光が視界を覆って、以降耳鳴りがずっと響いていた。体に力が入らない。いや、元々入っていなかったが、なんだか左腕の方から力が抜けていくような。

男が俵を持つ要領で自分の体を抱える。ぐったりと力無くぶら下がる腕が、暗がりの中に映った。わけがわからなかった。何が起こったのかわからない。でも、ただひたすらにその左腕を見るのが恐ろしかった。震える顎と浅くなる呼吸が、体の感覚を戻していく。耳鳴りの奥から小さく声が聞こえる。男は自分の体を抱えたまま、日暮が閉じたシャッターの前へと歩み寄る。

荒田「………おい、聞こえてんな。見た方がいいぜ、てめえの左腕。」

いやだ。直視できようもない。見たくなどない。受け入れたくなどない。そんなことがあっていいはずがない。死んだ方がマシだった。中途半端に生かされて、でも心を殺されて、仲間の命すら自分のせいで奪ってしまうかもしれない。力無くぶら下がる左腕、そこにあったのは……。

荒田「…………目ェ逸らすなよ。
………死んだんだ、デュエリストとしての樋本 遊大はな。」




ぼっかりと黒い穴の空いたデッキとデュエルケース、そして確かに滴る真っ赤な血だった。








日暮(………今の音………!!!!)

確かに、銃声だった。日暮が今立つのは学校の3階。先刻、2階に遊大と対峙した男、その男が発した物なのだろう。2階同様に、学校3階はシャッターと鉄製のチェーンで封鎖。現に先ほどからシャッターに固い何かを叩きつける音が聞こえている。学校の1階出口を見張っていた男たちがそれをしているのは明白だった。だからこそ籠城の形を保てはできていたものの、実銃を持っているとすると話は変わってくる。防火戸にくくりつけた鉄製のチェーンなど、容易く破壊できるだろう。そして何よりも………

日暮(……無事なのか……、遊大くん……!!?)

やるべきことはやった。法の檻の中でこの者たちを相手取れるなど、日暮自身は微塵も思ってなどいない。しかし遊大は違う。あくまで法の括りのなかで、そしておそらく彼はデュエルという手段で、2階の男を相手にしていたはずだった。銃声がした時点で、彼が無事である可能性は絶望的だった。3階から見える車はまだ動いてはいない。自分を放っておくという選択は相手にはないということだけを理解した。そして、時は来る。

荒田「おーーーい………いるんだろ、なあ?」

シャッターの奥からそんな声が響くと、防火戸の奥からもう一つ銃声が響いた。チェーンが砕ける音と同時に、ギギギ……と扉が重く開く。目の前にいよいよ姿を見せた、その男。身長は190cmは超えているだろう。白いシャツに黒いベストを着込んで、その腕は返り血で真っ赤に染まっている。そして何よりも、自分の方へと向けられたピストル。

荒田「………お前の相手してた下っ端どもな。あいつらに樋本 遊大は預けた。2人っきりだよ。それにちょっと状況が変わってなあ、さっさとご同行願いたいワケだ。」

その言葉と同時に、校庭に留まっていた車が1台を残してエンジン音を鳴らす。ヘッドライトが2人を淡く照らし、遊大が拉致されたという状況だけを否応なく理解させられる。

荒田「おいおいおいおい、よそ見すんなよ。
_______状況わかってんだろ?」

男がその銃口を自分に向けたまま、その歩みを自分の方へと向けようとした。その時足元から響いた音で、男が「……あ?」と声を出した。同時に日暮は懐から取り出したライターを着火させ、男が銃口を構えているように、同じくそれを前面へと掲げた。

日暮「_____状況わかってますよね?」

軍手をした自分の左腕、その中でゆらゆらとライターの炎がゆらめく。男が気にしたのは自分たちの足元だった。足を踏み入れた時にした「ぬちゃ……」とした液体音とゆらめく炎は、その状況が拮抗状態であることを意味している。

荒田「この臭い………ガソリン、いや灯油か?」

日暮「ガソリンだったらこのライターの時点でアウトですよ。でも一応、この3階に灯油を撒いておきました。シャッターで籠城させてもらってる間にね。
…………どうします?……別にぼくはこのライターを床に落としたって、あなたに投げたって構わない。」

荒田「お前、頭沸いてんのか?
そんなことすりゃ立派な放火魔じゃねえかよ。そんなハッタリ……」

日暮「今、この街の警察、いや県警かな?………機能停止させてるんですよね。
この状況で犯罪上等なのはお互い様………そうでしょ?」

自分が言い切る前に、そう言い切った日暮に、荒田は呆気に取られる。現に日暮はこの学校での生徒ではない上に、細かく問われれば余罪は多数になってしまうかもしれない。しかしそれを何よりも自分が理解しているからこそ、法の外側の純粋な武力で、状況を拮抗させていた。なすすべなく身柄を取られた遊大と違い、現実的な『理』で、この男は自分に牙を剥いている。ただ者ではないと、荒田はディスクを起動し、遊大の身柄を押さえている校庭の者たちへと通信を繋ぐ。

荒田『おい……樋本 遊大を持って親父のところへ向かえ。指示を仰げなかった場合は小金井の行方を_____』

日暮「……ちょっとちょっとちょっと。
さっきも言いましたよ、『状況わかってますよね?』って。」

荒田『………!!』

日暮「………通信の奥の方々も、聞いてください。
あなたたちが遊大くんの命を奪えるように、ぼくも今、この人を殺せる。」

日暮はゆらゆらと燃えるライターを見つめながらそう答えた。実質的な人質となった遊大、それを掲げる荒田たち龍血組に対する日暮の答えは、荒田その人を逆に人質とすること。計らずも、そのフロアに足を踏み込んだ瞬間に人質となった荒田は、ぎりぎりと歯を鳴らした。

荒田「俺を…………殺せるだぁ??
随分と………強気だなあてめえよお…。」

日暮「灯油が撒いてあるのは床だけじゃない。ぼくが着火すれば、文句なくこの人は焼死する。ちなみに灯油って言ったって揮発します。それに夏だ。もし発砲なんてしようものなら、わかってますよね?」

そう言うと、ライターを持った左手に装着されたディスクを起動した。デュエルマフィアにおけるデュエルの意味を、日暮は理解していた。内部での地位を決めるような戦いではない限り、どちらかが圧倒的な優位を手にしている状況では、彼らのデュエルは成立しない。力が拮抗している状況で、両者の損害を最小限に抑える、いわば無血の、文字通り決闘。

日暮「_____正直、ムカついてるんですよ。
あなたのような人間が、遊大くんの自由を奪っている。それを良しとしてしまったのはぼくたちだけど、あなたたちがしたことは、それだけじゃない。」

荒田「_____おう奇遇だなあ、俺も今のでプッツンきちまってよお。
大好きなデュエルとやらで、完膚なきまでに………てめえら全員ぶっ殺してやるよ………!!」

日暮「………値しました。ならぼくが勝てば、あなたたちの命を頂きます。」



『『デュエル!!!』』



ーTURN1ー

荒田 武久(ターンプレイヤー)
LP   :8000
手札   :5
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:

日暮 振士
LP   :8000
手札   :
モンスター:
魔法罠  :
Pゾーン :
フィールド:



荒田「俺の………ターンッ!!!!」

文字通りに荒れ狂うようにデッキからデータ化されたカードを引き抜く。粗く浅い息で、まるで獣のようにそのカードをプレイしていく。遊大と決着がつくことはなくとも、デュエルマフィアの実動隊としてのデュエルが、ここに狂い咲く。

荒田「《真紅眼の鉄騎士ーギア・フリード》を召喚!!そんで手札の《黒鋼竜》を、装備!!!」

ガチン…!!と重たい鎧がフィールドへ降り立つ。鎧に埋め込まれた紅玉、そして同じようにして紅く光る瞳。装備された《黒鋼竜》のカードがその効果によって墓地に送られると、瞬く間に次なるモンスターがフィールドへと姿を現す。

荒田「《ギア・フリード》の効果で、《黒鋼竜》を破壊!!
そしてその効果で手札に加わった《真紅眼の黒星竜》を……特殊召喚ッ!!」


《真紅眼の黒星竜》(攻)
☆(6)→7 闇属性・ドラゴン族/効果
ATK:2000/DEF:2000

《真紅眼の鉄騎士ーギア・フリード》(攻)
☆4 闇属性・戦士族/効果
ATK:1800/DEF:1600


フィールドに出現した2体のモンスター。そこにいるのは《ギア・フリード》の名を関するモンスター。そして2体のモンスターに共通する名称。日暮はそのカードたちに、言いようのない憤りのようなものが込み上げてくるのがわかった。《真紅眼》、それが象徴づけるものは………そんなカードを使うこの男が遊大から奪ったのは……

日暮「…………レッドアイズの《ギア・フリード》……その『可能性』を……あなたが騙るのか…。」

荒田「《真紅眼》の可能性……?知るかよお、高学歴晒してんじゃねえよ!!
俺は《ギア・フリード》をリリースし、《真紅眼の亜黒竜》を特殊召喚!!!」


《真紅眼の亜黒竜》(攻)
☆7 闇属性・ドラゴン族/効果
ATK:2400/DEF:2000


日暮の問いを真っ当に回答する気などないのはわかっていた。しかしあまりにもあっけなく、その戦士の姿は次なるドラゴンのモンスターへと変換される。日暮は小さく舌打ちをすると、男は狂ったような、正気ではないような笑みを見せた。

荒田「なんだあ……てめえもイライラしてんじゃねえか。
…………隠さなくていいんだぜえ俺もよお………てめえを殺す気だからなァ!!!」

2体の《真紅眼》の竜が紅い輝きを放ち、それぞれが混じり合っていく。銀河のように渦巻くそれは、新たなモンスターの胎動、オーバーレイを意味していた。

荒田「2体の《レッドアイズ》でオーバーレイッ!!!!
______来やがれ、《真紅眼の鋼炎竜》……!!!」


《真紅眼の鋼炎竜》(攻)
★7 闇属性・ドラゴン族/エクシーズ/効果
ATK:2800/DEF:2400

《真紅眼の黒竜》(攻)
☆7 闇属性・ドラゴン族/通常
ATK:2400/DEF:2000


黒く染まった装甲から、赤い炎が漏れ出している。エクシーズの《レッドアイズ》における一つの終着点。瞬く間に、その効果によって、《真紅眼の黒星竜》のコストとなったオリジナルの《真紅眼の黒竜》が姿を現した。呼応する2体の竜、さらに2枚のカードがフィールドへと伏せられたことで、日暮が目にしている光景は、超えなければならない盤面へと変化していた。

荒田「来い………ぶち殺す……。
てめえが殺せると意気込んだこの俺が!!お前の守ろうとしてる全てを!!」


ーTURN2ー

日暮 振士(ターンプレイヤー)
LP   :8000
手札   :5→6
モンスター:
魔法罠  :
Pゾーン :
フィールド:

荒田 武久
LP   :8000
手札   :0
モンスター:《真紅眼の鋼炎竜》《真紅眼の黒竜》
魔法罠  :セット×2
フィールド:


日暮「…………こっちのセリフです。
_____今回くらい、ぼくも本気で倒しに行きますよ。」

ターンが渡り、日暮の手札から2枚のカードがデュエルディスクに叩きつけられる。
暗がりの廊下に伸びる光の柱は2体のモンスターを象り、その内を揺らぐ振り子が駆け廻る。ディスクに映し出された文字は、これから巻き起こる彼のなし得る戦術を克明に表していた。



◆ P E N D U L U M ◇



日暮「………言っておきます。
遊大くんから自由を奪ったあなたを……そしてぼくと龍剛院さんの戦いを咎めたあなた達を……。」

荒田(……………ペンデュラム……こいつ………!!)

彼が追い求めた、彼が羨望したエンタメデュエル。その体現とも言えるはずの、ペンデュラム。揺らぐ振り子が呼び出すのは、黒き逆鱗か、災い呼ぶ烈火か。血潮と火の粉に塗れたショーが、ここに開幕する。


日暮「_____絶対に、許さない。」



続く
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25 合宿参加者リスト〜特別講師編〜 198 0 2024-03-31 -
35 59話 強くならなきゃ 255 2 2024-04-03 -
27 60話 竜を駆るもの 146 0 2024-04-20 -
35 61話 竜を狩るもの 220 2 2024-04-22 -
25 62話 反逆の剣 157 2 2024-04-26 -
28 63話 血の鎖 223 1 2024-05-01 -
37 64話 気高き瞳 265 2 2024-06-02 -
19 65話 使命、確信、脈動 233 2 2024-06-16 -
26 66話 夜帷 136 0 2024-07-14 -
20 67話 闇に舞い降りた天才 164 2 2024-07-18 -
19 68話 陽は何処で輝く 143 2 2024-07-30 -
20 69話 血みどろの歯車 124 2 2024-08-16 -
3 70話 災禍 その① 27 0 2024-08-28 -

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