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HOME > 遊戯王SS一覧 > 68話 陽は何処で輝く

68話 陽は何処で輝く 作:コングの施し

アカデミア合宿で嬢のデュエルを咎めたデュエルマフィア、龍血組。彼女の実父であり組の長である龍剛院 栄咲は、その身柄を押さえ、さらに彼女を探す遊大たちの存在すら排除しようと画策する。栄咲への恩義を誓った若頭である小金井は、同時に思い慕う龍剛院 嬢を守り抜くと立てた誓いの間でその心が揺らぐ。嬢の居場所、そして動いている学生達の情報の全てを賭けた小金井と龍平のデュエル。その中で、彼らの闇夜を照らすのは……。







龍平「さあ……反撃開始だ。」

小金井が構えた《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》と《ナンバーズ・プロテクト》の妨害を掻い潜り、《終焉龍カオス・エンペラー》を裏ドラとして発動した《運命のウラドラ》。この効果により龍平のLPは6000となり、そして手札は0から3枚になる。LPで得られるアドバンテージが手札よりも乏しいデュエルという土俵を鑑みれば、これまでの優劣の天秤がまるっきり入れ替わった形になった。そして、この一局を征した龍は止まらない。



ーTURN2(メインフェイズ2)ー

大石 龍平(ターンプレイヤー)
LP   :6000
手札   :3
モンスター:《アークブレイブドラゴン》《妖醒龍ラルバウール》
魔法罠  :
フィールド:

小金井 敦弘
LP   :7000
手札   :0
モンスター:《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》
魔法罠  :
フィールド:



龍平「メインフェイズ2に移行し、《トレード・イン》を発動。
《螺旋竜バルジ》を墓地に送り、2枚ドロー……さらにフィールドに光・闇のドラゴン族が2体存在することで、墓地から特殊召喚する。」

銀河の渦が牙を携え、その大顎を小金井へと向ける。


《螺旋竜バルジ》(守)
☆8 闇属性・ドラゴン族/効果
ATK:2500/DEF:2500


龍平「さらに、《バルジ》の効果で、フィールドのモンスターをレベル8へと変更し、
____《ラルバウール》と《アークブレイブ》でオーバーレイ!!」

渦巻く銀河、オーバーレイネットワークが、暁の色を帯びて弾け出す。そしてその渦を割ってフィールドへと出現するのは、かつての《タイラント・ドラゴン》に並ぶほどに、龍平の中で大きな意義を持ったエースモンスターの1枚。神の名を冠した太陽の化身が、ここに降臨する。

龍平「刻み込まれた神の印、太陽の輝きを持って今解き放たれる。
____エクシーズ召喚、ランク8《聖刻神龍-エネアード》!!」


《聖刻神龍-エネアード》(攻)
★8 光属性・ドラゴン族/エクシーズ/効果
ATK:3000/DEF:2400


緋色の竜の鱗が、二人の決闘者を照らす。小金井はすでに《No.89 電脳獣ディアブロシス》の効果でその存在を認知していた。その上で《天球の聖刻印》を除外したのは破壊以外の除去方法を持っているのがそのカードのみだったためである。このモンスターが持つ破壊の効果は、1ターン前では大きな障害ではなかった。しかし今、この状況における《聖刻神龍–エネアード》は、彼の首元に突きつけられた白刃となっている。

龍平「《武装竜の震霆》。効果破壊を防ぐカードはもう存在しない。
____《エネアード》の効果を発動。《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》を破壊!!」

龍平の手札から《ブラック・ホール・ドラゴン》のカードが竜の胸元へと吸い込まれいく。心臓から血液が全身に走っていくように、その翼の先まで赤い光が駆け抜けて、凄まじい熱波がフィールドを包み込む。腕を前に構えた《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》の装甲が少しずつ火花をあげて砕け始め、ついに巨躯を真っ赤に燃やしてその命を終えていく。

小金井「……強引に効果破壊で突破してきたか。」

龍平「まだだ。俺はリリースされた《ブラック・ホール・ドラゴン》の効果を発動。
フィールドのモンスターが自身を対象としない効果で破壊されたとき、このカードを特殊召喚する。
___来い、《ブラック・ホール・ドラゴン》!!」

黒い渦が光を飲み込んで脈打っていく。龍平が見せたコンボは、《ブラック・ホール・ドラゴン》と《聖刻神龍−エネアード》によるもの。対象を取る破壊の効果が跋扈する中、自ら対象を取らずに相手のカードの破壊と自分のカードのリリースを同時にこなせる彼のエースモンスターは、単なるハイパワーな突破要因ではなくなっている。

小金井(デカい図体で随分と器用な真似するモンスターだな。いや、そういう構築にしているのか。)


《ブラック・ホール・ドラゴン》(守)
☆8 闇属性・ドラゴン族/効果
ATK:3000/DEF:2000


龍平「俺はこのターンのエンドフェイズに《ブラック・ホール》のカードを手札に加える。
そして、《バルジ》と《ブラック・ホール・ドラゴン》をオーバーレイ…!」

《螺旋竜バルジ》と《ブラック・ホール・ドラゴン》のカードが波打つオーバーレイネットワークの渦へと吸い込まれていく。《聖刻神龍》とは違い、まるで夜空の星々を纏ったような両翼が翻り、《聖刻》の名を冠するもう一体のドラゴンが産声を上げた。

龍平「___エクシーズ召喚、ランク8《聖刻天龍−エネアード》!!」


《聖刻天龍-エネアード》(攻)
★8 光属性・ドラゴン族/エクシーズ/効果
ATK:3000/DEF:2400


フィールドへと姿を見せた、2体目の《エネアード》。しかし、リリースと破壊を同時に行うアグレッシブな《聖刻神龍−エネアード》とは違い、龍平が今しがた呼び出した《聖刻天龍−エネアード》は、フィールド・墓地に対して対象を取って発動した効果を無効にする、いわば守りの要。

小金井(ノってきてやがるな……。
わかりきっていたドラ表示だとしても、ああいう放銃が流れを持っていくのか。)

小金井が構えた妨害を掻い潜り、《終焉龍 カオス・エンペラー》へのカウンターを逆手に取った《運命のウラドラ》によって、その優勢の天秤はひっくり返る。さらにその機を逃さんとばかりに呼び込んだ《聖刻神龍−エネアード》で《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》を突破し、果てには《聖刻天龍−エネアード》のX召喚まで成し遂げた。

龍平「___俺はカードを1枚セットし、ターン終了。」

ターンの終了。その宣言と同時に龍平の手札に加わったのは、敵・味方を区別することなく全てのモンスターを破壊する《ブラック・ホール》のカード。弾丸のような攻めで小金井の盤面を壊滅させた上に守りとなるカードで蓋をし、さらには《ブラック・ホール》による盤面のリセットと伏せカードによる展開への圧力もかけてきている。完璧と言えるほどの展開を前に、小金井は現実的なラインで自分が下り坂にいることを自覚させられる。



ーTURN3ー

小金井 敦弘(ターンプレイヤー)
LP   :7000
手札   :0→1
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:

大石 龍平
LP   :6000
手札   :2
モンスター:《聖刻神龍−エネアード》《聖刻天龍−エネアード》
魔法罠  :セット×1
フィールド:



小金井は思い出す。この戦いは賭けられたものがある。それは『龍剛院 嬢』の居場所と、目の前の大石 龍平が持つその仲間の情報の全て。自分でも不思議に思っていた。

小金井(なんで……ここまで必死に戦っている。)

なぜこんなにも全力で戦っているのか。それはお互いに言えることだった。何が、目の前の1人の少年をここまで必死にするのか。そして胸中の利害が一致するにも関わらず、なぜ自分すらここまで決死でぶつかっているのか。

このデュエルは監視されている。もちろんそれは1つの要因としてある。いくら視聴覚情報と盤面の情報が組の者に、そして親父分である龍剛院 栄咲に見られているとしても、『ミスのフリをする』ことなど造作もないことである。


それなのに、どうして。



龍平「あんたのターンだ。
あんたのデュエルにだって賭かってるものがあるんでしょう…………だったら来い!!!」

少年の声が、自分を現実に引き戻した。龍平は鼻から垂れた赤い雫を腕でちっと拭う。その眼は真っ直ぐに自分を見据えていた。震える手足が収まるように、恐怖している自分を鼓舞するように、ただその目だけは自分の瞳孔をがっしりと捉えていた。それはまるで…。

小金井(____決闘者か、これが…!!)

自分の胸の奥から、熱いものが込み上げてくるのがわかる。怒りなどではない。ただ、幼少の頃からデュエルという世界で戦い続けてきたにも関わらず、長らく忘れてしまっていた感情。そうだ、これがデュエルなんだ。これがデュエリストなんだ。

小金井「おれは、手札から《マジックカード『死者蘇生』》を発動……!
墓地から現れろ、《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》!!」

小金井の中にある、デュエリストの魂が訴えかけてくる。
同時に、自分の中のタガが悲鳴を上げていることにも気づいていた。自分は言ったはずだった。嬢に対して「絶対に守護って見せる」と。そして栄咲に、「恩義は忘れない」と。


《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》(守)
☆7 風属性・ドラゴン族/効果
ATK:2800/DEF:1000


龍平(《マジックカード『死者蘇生』》によって特殊召喚したモンスターは、このターン効果を発動できない。特殊召喚の効果をリセットできなければ、レベルアップはしない……!)

龍平は、眼前の小金井 敦弘という男の、今までとは違った気迫に気づいていた。まるでそれは裏社会の命のかかったデュエル、その重さをただ純粋に勝利を求めるデュエルに落とし込んだような、自分では到達できないゾーンにあるような気がしていた。

小金井「さらに、《嵐征龍−テンペスト》の効果を発動。
墓地から《パイル・アームド・ドラゴン》と2体目《アームド・ドラゴン・サンダー LV 7》を除外し、特殊召喚……!」


《嵐征龍−テンペスト》(攻)
☆7 風属性・ドラゴン族/効果
ATK:2400/DEF:2200


風が巻き起こり、嵐の竜が大翼を展げる。
嬢との約束と、栄咲への恩義。捨て切ることのできない2つの間にいるのは、こんなにもドキドキして、こんなにも全力で戦いたい自分の姿だった。

小金井「レベル7、《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》と《テンペスト》をオーバーレイ…!!」

自分はきっと、自分を取り巻く全ての人間に救われてきた。それが結局、この1ターンの賭けに自分の持っている全てにベットされることになる。誰を護ることも、真に誰を信じることもできなかった自分の、たった一つの賭け。そして、ただ1つの思い。

小金井「エクシーズ召喚!!
____来い《撃滅龍 ダーク・アームド》!!」


《撃滅龍 ダーク・アームド》(攻)
★7 闇属性・ドラゴン族/エクシーズ/効果
ATK:2800/DEF:1000


黒い咆哮がフィールドに轟く。
その魂たるオーバレイユニットが弾け、禍々しい稲妻がその拳に宿る。光を吸い込むような黒い雷光がフィールドを駆け抜け、龍平の《聖刻天龍−エネアード》の喉元まで迫る。

小金井「《ダーク・アームド》の効果。オーバーレイユニットの《LV7》取り除くことで相手のモンスターを破壊し、代償としておれの墓地からカードを除外する。
____ブラックアッシュ!!」

龍平「《聖刻天龍−エネアード》の効果を発動。フィールド・墓地のカードを対象として発動した相手の効果を無効にし、破壊する!!
____天牢の裁き!!」

黒い稲光が、星々の光を纏った竜の咆哮によって咎められる。同時にバキン…!と音を立てて崩れ始める《撃滅竜ダーク・アームド》の巨体。その奥から小金井の次なる宣言が響く。

小金井「効果発動のコストとなった《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》の効果を発動……!!」

その宣言と同時に、「やってしまった」と龍平の背筋が凍りつく。本来であれば《聖刻天龍−エネアード》の効果によって咎められるであろう1撃。しかしここで《マジックカード『死者蘇生』》によって呼び出され、オーバーレイユニットとなった《アームド・ドラゴン・サンダー LV7》が活きてくる。しかし龍平も、ミスの是非は置いておいても、本気でこの事態を対処しなければいけない。その事実だけは、このデュエルに置いて絶対に変わることはない。

龍平「フィールドのモンスターが、対象をとらない効果で破壊されたとき、このカードを特殊召喚する……!
___もう一度現れろ、《ブラック・ホール・ドラゴン》!!」


《ブラック・ホール・ドラゴン》(守)
☆8 闇属性・ドラゴン族/効果
ATK:3000/DEF:2000


小金井「……《LV7》の効果を解決。《アームド・ドラゴン LV10−ホワイト》を手札に加える。」

小金井が手札に加えたのは、《サンダー》ではない、白く染まった《アームド・ドラゴン LV10》。龍平はすかさずその効果をディスクで確認する。そして同時に思い知る。良かれと思って行った守りの一手が、その超大型モンスターを呼び出す状況を整えてしまったこと。そして直接的でなくとも、このターンに全ての決着がつくという事実に。

小金井「墓地から《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》を除外……行くぞ、大石 龍平……!!」

小金井は静かにそのカードを宣言する。
そして感じる。自分はもう絶対に揺らぐことなどないのだろう。最低な自分が握るデュエルはせめて最高のものに昇華して見せる。それがデュエリストの魂であり、大石 龍平という男が目覚めさせた、どうしようもない決闘者の本能だから。

小金井「来い___《アームド・ドラゴン LV10−ホワイト》ッ!!」


《アームド・ドラゴン LV10−ホワイト》(攻)
☆10 光属性・ドラゴン族/特殊召喚/効果
ATK:3000/DEF:2000


龍平「……!!」

龍平の頬に、一筋の汗が流れる。その特殊召喚時に《白のヴェール》のカードが、小金井の手札に加えられる。この時点で小金井の手札は1枚、《白のヴェール》のみ。そして龍平のフィールドには攻撃表示だけでも2体の《エネアード》、すなわち攻撃力3000の大型モンスターが2体は存在している。ダメージステップ開始時にフィールドのカードを1枚破壊する《アームド・ドラゴン LV10−ホワイト》の効果とあらゆる魔法・罠の発動を咎める《白のヴェール》を加味しても、発動することなくフィールドのドラゴンを1度だけ守る《復活の福音》を温存している時点で、モンスターたちとLPは担保されることになる。

龍平「だけじゃないでしょう……このターンで決め切るってんなら、来いッ…!!」

そう。龍平は勘づいていた。このターンに起きる全てのことを。
このターンに決着をつけることはできない。ただしそれは、小金井が《アームド・ドラゴン LV10−ホワイト》による攻撃を決行した場合に限る。龍平の一言で、小金井は自分の考えを全て透かされた気がした。その上で言ったのだ。「来い」と。

小金井「おれは墓地に存在する《武装竜の万雷》の効果を発動。
墓地のこのカードを除外し、《武装竜の霹靂》を手札に加え……発動!!」

バチチ…!!と淡い雷光がフィールドを突き刺す。デッキからレベル3以下の《アームド・ドラゴン》を特殊召喚するカード。龍平は、墓地の《武装竜の万雷》の存在を見抜き、この後の展開があることをすでに知っていた。それを汲み取って改めて小金井は決断した。

小金井「来い……《鎧騎士竜−ナイト・アームド・ドラゴン−》!!」


《鎧騎士竜−ナイト・アームド・ドラゴン−》(守)
☆3 風属性・ドラゴン族/効果
ATK:1400/DEF:1900



何も決めることのできなかった自分の運命。その全てを、眼前の少年に託すと。


彼が、大石 龍平というデュエリストが、自分の戦術をどこまで把握しているかなどわからない。しかしそんな想像を何度も何度も、このデュエルの中で追い抜いてきたのは、彼だった。小さな鎧と刃を携えた翼竜。その翼が、《アームド・ドラゴン・サンダー LV10》を思わせる雷を帯びて叫び出す。

龍平(やはり《ナイト・アームド》か…!!
除外状態の《LV10》のレベルコピー……やる気だな!!)

小金井「行くぞ……!!
おれはレベル10の《ホワイト》と《鎧騎士竜》を、オーバーレイッ!!!」

今までにないほどの大きさまで膨れ上がったオーバーレイネットワーク。そのはずである。彼らが繰り返し展開してきたランク8や7とは一線を画すほどのスケールのエクシーズ召喚。現実的に可能なラインで最上級と言えるランク10のモンスターが、フィールドへと降り注ぐ。

小金井「エクシーズ召喚……!!
_____ランク10《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》!!!」


《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》(攻)
★10 地属性・機械族/エクシーズ/効果
ATK:3000/DEF:3000


聞いたこともないほどに大きな破砕音。モンスターと言うよりかはもはや戦略兵器。明らかに他のモンスターとは文字通りランクが違う。見上げても視界に収まりきらないほどに巨大な砲塔を携えた車体が、ジリジリと大地を抉り取りながら龍平の元へと迫り来る。

小金井「《グスタフ・マックス》の効果発動!
____オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手に2000LPのダメージを与える…!!」

小金井がその手を前に翳した瞬間。巨大な砲塔が軋む金属音を金切り声のようにあげ、火花を散らしながらその照準を龍平へと向ける。砲口がマグマのように赤色に染まり、桁違いの破砕音を振り撒きながらその砲弾を解き放つ。

龍平「……そんなところだと思ったよ…!!」


ドガアアアアン!!!と、笑みを浮かべた龍平の元へ降り注いだ砲撃。龍平のLPの全体の1/3という、効果ダメージとして桁の違う数値のダメージが彼のLPを撃ち抜いた。硝煙と土埃が舞が上がり、その奥から片膝をついた龍平がその姿を覗かせる。


(LP :4000)大石 龍平


龍平(……この人がどれほどのデュエリストか、ようやく割れたな…!!!
ただのワンキルじゃない、徹底してやる気だ。だが……!!!)

小金井「……わかってんだろ、大石 龍平。
これで終わりじゃねえ……おれは《グスタフ・マックス》1体で、オーバーレイネットワークを再構築ッ……!!」

《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》の巨体が、再び巨大なオーバーレイネットワークへと吸い込まれていく。先ほどよりもさらに大きく、さらに強い光を放ちながら。2人の思考はそれぞれ読まれている形になっている。その精度はほぼ100%と言っていいほどに正確に。常人であれば膝が笑ってしまうほどに強大なモンスター。その降臨を前にしても、冷静に予測を交差させているという点が、彼らに驚愕の隙を与えない。

小金井「エクシーズチェンジ…!!
___ランク11《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーべ》!!」


《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーべ》(攻)
★11 地属性・機械族/エクシーズ/効果
ATK:4000/DEF:4000


さらに巨大な要塞とも取れるほどのモンスター。それが、小金井の最後のモンスターとなることはお互いに分かりきっていた。砲塔を取り巻く2つのオーバーレイユニット。その1つが砲弾として装填され、龍平にゆっくりと照準を合わせる。

小金井「《ジャガーノート・リーべ》の効果により、その攻撃力は6000。さらに2回までモンスターへと攻撃が可能になった。さらに《白のヴェール》を、《ジャガーノート・リーべ》へと装備!!」


(ATK:6000)《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーべ》


小金井は黙り込んだ龍平を前に、自分も少しの間、口をつぐんだ。これより入るバトルフェイズ。紛れもなく自分が最後に宣言するバトルフェイズを前に、自分は全てを出し切った。そこは嬢も、親父分である栄咲すらも干渉を許さない、自分と大石龍平というデュエリストのみの聖域。

小金井「___行くぞ!!」

龍平のLPは4000。盤面には2体の攻撃力3000のモンスター。そして小金井の《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》は攻撃力6000の2回攻撃が可能なモンスター。墓地に存在する《復活の福音》の効果を適応したとしても、2度の攻撃が通れば文句なく決着。龍平にはセットカードがあるが、それも《白のヴェール》の前には無力。墓地には《妖醒龍ラルバウール》が存在しており、1体目の《エネアード》の破壊時に光・闇属性のドラゴン族をデッキから手札に加えることができる。しかしデュエルモンスターズというカードゲームのプールの中に、この条件を満たしながら現状を打破できるカードは1枚とて存在しない。

小金井「………バトルだ!!
____《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》で、《聖刻天龍−エネアード》を攻撃ッ!!」

波打つ白い衣を打ち破るかのように、耳が爆ぜるかのような爆音を携えて、《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》の砲口が火を上げる。

龍平「……《復活の福音》の効果は適応しない…!!!」

《聖刻天龍−エネアード》が迫り来る巨大な砲撃を前にその腕をかざして防壁を築く。しかしそこにあるのは6000と3000という如何ともし難い攻撃力の差。勝負になどならないと言わんばかりに巨大な竜の体が光の粒となって砕け散る。そして襲いくる3000という莫大なダメージの波。いくら演出用のソリッドヴィジョンといえど、立っていられようはずのないダメージに、龍平の体がコンクリートへと打ち付けられる。


(ATK:6000)《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》
(ATK:3000)《聖刻天龍−エネアード》

(LP :1000)大石 龍平


はぁ…はぁ…と、息を切らしながらも龍平は立ち上がる。次の攻撃で発生するダメージは同じく3000。そして彼の残存LPはたったの1000。小金井の目から見ても、それが決着であることは明らかだった。

小金井「………強かったよ、お前は。
今まで戦ってきた、裏社会の連中なんかよりもずっと強かった。本物のデュエリストだ。」

その宣言と同時に、《白のヴェール》が適応され、龍平のフィールドにセットされた《ミラーフォース・ランチャー》のカードが破壊の効果処理によってディスクから弾き飛ばされた。たった3ターン。それでも、その口から溢れた言葉は紛れもない事実だった。デュエリストとして戦い、そして勝利した。そこに嬢との約束は果たせないかもしれない。彼自身も、その仲間も、きっとこれからの未来で呪いのように裏社会に組み込まれてしまう。言語化し難い悲壮感と、しかしここまでの激闘を描けた目の前の決闘者に、敬意を評していた。

龍平「……なに、勝った気でいるんですか……!!
____俺は墓地の《ラルバウール》の効果を発動……!!」

小金井はその言葉に動じない。ただ、「無駄だ、やめておけ。」などという言葉が口から溢れていた。攻撃力6000の2回攻撃、3000×2の超過ダメージが通れば、《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》による2000のダメージを与える必要はなかった。しかし、目の前の少年は《妖醒竜ラルバウール》を駆使し、それを掻い潜る戦術を取る。それはわかっていた。だからこそ、徹底してLPを削った。目の前の少年に、もはや勝機はない。

小金井「……わかっているはずだろ。
《ラルバウール》でサーチ可能なカードの中に、この攻撃を躱し切るモンスターは……」

龍平「………そうですね、いない。
でもそれは《ラルバウール》……『のみ』の効果を使った場合だ!!!」


《妖醒龍ラルバウール》(守)
☆1 闇属性・ドラゴン族/効果
ATK:0/DEF:0


その言葉に、自分の心の臓腑がドグンと警鐘を上げた。
勝った気になっていた。そうだ、これなのだ。思い慕う嬢のことも、栄咲のことも、そんなことは二の次だと言わしめんほどに自分のデュエリストとしての魂を叩き起こすのは。まだ彼は続きの言葉を発してはいない。しかし、わかる。高鳴る心臓が、これから幕を開ける彼のデュエルを訴える。

龍平「……あんた、自分が使ったカードを忘れてやがるんだ。
俺は、《ラルバウール》の効果を《鎧騎士竜−ナイト・アームド・ドラゴン》をコストとして墓地に送り、発動ッ!!!」

小金井「____なッ!?!」

龍平の手札から墓地に送られた《鎧騎士竜−ナイト・アームド・ドラゴン−》のカード。それは先刻、小金井自身が《武装竜の霹靂》で呼び出したものと全く同じモンスター。奇しくも、龍平もレベルと属性のコピー、緩い特殊召喚、そしてドラゴン族の攻撃力をアップさせるその効果を以て採用していた。そのカードに、全身の細胞が沸き立つのを感じる。

龍平「《ブラック・ホール・ドラゴン》と同じ闇属性・ドラゴン族の《チェックサム・ドラゴン》を手札に加え、墓地に送られた《鎧騎士竜−ナイト・アームド・ドラゴン−》の効果を発動!!!
____《聖刻神龍−エネアード》の攻撃力は、これで4000になるッ!!!」


(ATK:4000)《聖刻神龍−エネアード》


小金井「なんでお前が、そのカードを……!?」

龍平「……偶然ですよ。ただの偶然。
あんたのデッキ……別に特別なカードが入ってるわけじゃない。裏社会で使われてるカードだとか、レジェンドカードとか、そういうんじゃない。あんたの、『陽の当たるデッキ』が、この状況を作っているんだ!!」

その言葉に、ハッとする。組が、対外的勢力を取り込むことで育て上げてきた《ドラグニティ》、それが自分のデッキであれば、この部分的なミラーマッチのような状況にはなっていなかった。しかし、自分が孤児院にいた時から憧れてきた《アームド・ドラゴン》。そのある意味で一般的なカード、『陽の当たるカード』が、目の前の少年に一抹の勝機を与えている。

小金井「………お前は、お前ってやつは、どこまでデュエリストだな…!!《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーべ》、2度目の攻撃だ!!!
____《聖刻神龍−エネアード》を、撃ち抜けェ!!!」

再び、その砲口が真っ赤に染まる。大地が震え、大気を貫き、紅蓮の弾丸が《聖刻神龍−エネアード》の胸元へと一直線に突き進んでいく。龍平の顔が、まるでそこは闇夜の内ではないかのように、その弾丸に赤く照らされる。まっすぐとそれを見つめる瞳。小金井が今まで見たこともないような、「陽の当たる場所」から自分を捉えたその竜の瞳は、掴みかけた勝機を離さない。

龍平「俺はあんたの攻撃宣言時、《ラルバウール》で手札に加えた《チェックサム・ドラゴン》の効果を発動!!手札からこのカードを特殊召喚し、その守備力の半分のLPを回復する!!
____繋ぎ止めろ、《チェックサム・ドラゴン》!!!」


《チェックサム・ドラゴン》(守)
☆6 闇属性・ドラゴン族/効果
ATK:400/DEF:2400


(LP :2200)大石 龍平


手札から姿を見せた、赤いシールド状の鱗を持った翼竜が彼の体を庇うようにしてフィールドへと降り立つ。《ブラック・ホール・ドラゴン》を対象として発動した《妖覚龍ラルバウール》の効果でサーチされたこのカードにより、残りわずか1000だった龍平のLPは2200まで上昇する。鳴り響くLPの上昇音。そして止まらない赤色の弾丸は、ついに《聖刻神龍−エネアード》の喉元、龍平の目と鼻の先まで迫っていた。
弾丸と太陽のような輝きをもつドラゴンが衝突し、凄まじい衝撃がフィールドを一挙に駆け巡る。


(ATK:6000)《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》
(ATK:4000)《聖刻神龍−エネアード》

(LP : 200)大石 龍平


硝煙が夜風で晴れる。そこには、未だスタンディングの姿勢を維持したままの龍平の姿があった。通常であればこの1撃で勝負はついていた。《チェックサム・ドラゴン》による1200LPの回復と、小金井すら驚愕していた《鎧騎士竜−ナイト・アームド・ドラゴン−》の1000ポイントの攻撃力補助によって、たった200LPでその命を繋ぎ止めた。

龍平「あんたの言う通りだ。
____《チェックサム・ドラゴン》だけならこの状況は作れてない……!!」

小金井「耐え切りやがった…………!!!」

小金井は、ミラーとなった《鎧騎士竜−ナイト・アームド・ドラゴン−》の効果を発動された時点で、このデュエルの結末を予期していた。それは龍平も同じことであろうことにも、察しがついていた。このターン、目の前の少年が叩き起こした自分の中に眠る『デュエリストの魂』、それに従い、持てる全てを注ぎ込んで総攻撃を仕掛けた。そしてその結果が、今の状況。自分の全力をぶつけても勝つことができなかった、「陽の当たる世界」のデュエリスト。自分が思い慕う龍剛院 嬢が彼に惹かれることも、そして彼を、彼らを信じることにすら、全てのことに納得がいった気がした。

ひとつ、ひとつだけ、たったひとつを除けば。



小金井「………なんで、そこまで必死になれるんだ。
____何がお前をそうさせるんだ、大石龍平?」



硝煙とえぐれた地面を映し出すソリッドヴィジョン、闇夜に浮かぶ三日月。そこにほっそりと反射した陽の光が、2人のデュエリストを照らし出していた。どうしてそこまで、命を賭してまで戦えるのか、そんな疑問は、自分の理性の門を通り抜けて自然と口とからこぼれ落ちていた。

龍平「____同じじゃないですか。」

小金井「____は?」

龍平は黒い画用紙に一筋の白いインクをこぼしたような、細々と輝く月を見つめる。月は細く、それでも2人を照らすほどに強く輝く。大きなため息をついたと思えば、龍平はもう一度口を開いた。

龍平「あんた、いや、小金井さんが、嬢を慕っていることなんてわかってます。
戦ってればわかる。彼女を守りたいって、そんな気持ちは痛いほどに伝わってくる。」

小金井「………。」

そう言い切った、自分を見透かしていた龍平に、自分が情けなくなった。違う、違うんだ、と、声にならない声が喉の中で反響する。自分は嬢を守りたかった。ただ組への、栄咲への恩情を捨て切ることもできなかったから、自分よりも強いことの証明が済んだ目の前の少年に、大石 龍平に、『デュエリストの魂』なんて体の良い言い訳で甘えていた。

龍平「………揺れていたんでしょう。
最初から嬢を守るつもりなんか無ければ、俺を力で黙らせばいい。組の面子だとかプライドだとか、そんなものは目的のためなら捨てきれたはずだ。」

小金井「………かいかぶりすぎだ。だったら尚更同じじゃないだろ。」

龍平「同じです。
最初っから、嬢を慕っているから、俺たちはこうして戦うことができた。」

そう言って龍平は、見つめた先にある三日月を、掴むようにして手を伸ばした。俯いた小金井は、そんな彼の言葉に、その様を見つめる。

小金井「………惚れてんのか?」

龍平「………なんだそれ、ガキかよ?
そういうんじゃないです。小金井さんだってあの三日月だって、それに俺だって、仲間って太陽に照らされてるから……陽の当たる場所にいるから、輝いてられるんでしょう……!!」

小金井「……三日月。」

彼の視線の先にある、三日月。小金井はどういうわけか、それと自分が重なって見えるような気がした。いくら自分の心が、この両の手が黒く闇に染まろうとも、自分の中にたった1つの太陽があるから、全身ではなくとも「陽の当たる場所」にいられる。そしてお互いに握る「陽の当たるカード」が、この結末を導いていた。静かに、小金井はその視線を自分の足がつく地面へと向けた。



この戦いの、終わりが近い。




ーTURN4ー

大石 龍平(ターンプレイヤー)
LP   :200
手札   :1→2
モンスター:《ブラック・ホール・ドラゴン》《妖醒龍ラルバウール》《チェックサム・ドラゴン》
魔法罠  :
フィールド:

小金井 敦弘
LP   :7000
手札   :0
モンスター:《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーべ》
魔法罠  :《白のヴェール》
フィールド:



それは小金井も知っていた。それでもなおデュエルを続行するのは、お互いのデュエリストとしての魂がそうさせるから。そしてお互いに、続行に対する何らかの思惑があるから。龍平の、最後の攻勢が始まる。

龍平「___魔法カード発動、《ブラック・ホール》!!」

フィールドに、黒い渦が爆発するかのような勢いで巻き起こる。2ターン前のエンドフェイズ、《ブラック・ホール・ドラゴン》によって手札に加えられた、最強クラスの全体除去のカードが、まるで時限爆弾かのように、フィールドに爆ぜる。フィールドに存在する全てのモンスター、たった1体を残して全てを飲み込んで巨大化していくそれは、やがて龍平の従える《ブラック・ホール・ドラゴン》の胸元へと吸い込まれていく。

龍平「《ブラック・ホール・ドラゴン》は、効果では破壊されない。
………あんたにはあるはずです、支払わなきゃいけない代償が!!」

小金井「《白のヴェール》が破壊された時、おれはデメリットとして3000ポイントのダメージを受ける……!!」


(LP :4000)小金井 敦弘


《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーべ》に装備されていた《白のヴェール》のカード。かつてのカルト的某結社を代表する1枚のカードが、フィールドから破られる。それが世間で浸透したデュエルモンスターズに落とし込まれた時、その強力な効果と引き換えに破壊時の強烈なデメリットが付与された。この瞬間に、小金井のLPが初期の半分の数値まで減少する。そしてその隙を逃さぬよう、2ターンも前から、『そのカード』は龍平の墓地で機を伺っていた。

龍平「墓地の《創造の聖刻印》を除外し、効果を発動!!墓地に存在する《聖刻》モンスター1体を、特殊召喚する!!」

小金井「……!!」

龍平「_____再び現れろ……ランク8《聖刻神龍−エネアード》!!」

星々の輝きが龍平の足元へと集約し、黄泉とこの世を繋ぐ門がソリッドヴィジョンで映し出される。闇夜の中で、太陽のような輝きを放つ球体のオブジェクトが浮かび上がり、「神」の名をもつ、聖なる力を刻まれし龍が、再びその産声を上げる。


《聖刻神龍-エネアード》(攻)
★8 光属性・ドラゴン族/エクシーズ/効果
ATK:3000/DEF:2400


《ブラック・ホール・ドラゴン》と《聖刻神龍−エネアード》。どこまでも深い闇と、それすら照らし出すほどの赫い輝きを放つ2体の龍が並び立つ。ターン数で数えればわずかなものである。しかしこの攻防の中で、そのモンスターたちがいかに大石 龍平というデュエリストを支えてきたか、どれほどの覚悟を持ってこのデュエルを臨んでいるのか、小金井は否応なく理解させられた。その上で、言葉はこぼれ出す。

小金井「………サレンダーはしない………最後まで、来い!!」

龍平「言われずとも。
《ブラック・ホール・ドラゴン》と《聖刻神龍−エネアード》の攻撃。
____闇夜の中で赫く照らせ、カオスインパクト!!」

2対の竜の拳。黒く染まった渦と、まるで燃え続ける太陽のような火球が、絵の具のように混じり合い文字通りの混沌を作り出す。モンスターたちの拳から放たれたそれは、先ほどの巨大な砲塔が抉った大地をなぞるように、しかしより深く、より鮮烈に、全てを飲み込み燃やし尽くして進んでいく。太陽が眼前まで迫っているのかと思わせてしまうほどに、その輝きは強く気高く、そして美しいと小金井は思えた。鳴り響く轟音と猛る龍達の咆哮の中で、小金井のデュエルディスクから1つの声が響いた。


『____残念だよ、小金井。』


小金井は、その声を耳にしてもディスクに目を向けることなどしなかった。恩情と忠義の深さから自分にこの任を当てた、龍剛院 栄咲の声であることなど、わかりきっていたから。赤く燃ゆる視界、その瞳孔がチリチリと焼ける中で、ディスクに青い稲妻が走る。かつて嬢のデュエルを咎め、そして組でいわゆる『しくじり』をしてきたもの達への罰であるその雷光。小金井は迫り来る攻撃の中で、万力のような力を込めて、そのデュエルディスクを左腕ごとコンクリートの地面へと叩つけた。


(ATK:3000×2)《ブラック・ホール・ドラゴン》《聖刻神龍−エネアード》

(LP :   0)  小金井 敦弘


2体のモンスターによる一斉攻撃。デュエルが終幕し、組からの罰としての電撃が彼の命を奪うよりも前に、彼はそのディスクを破壊した。決着を告げる電子音、それを告げるのは龍平のデュエルディスクのみであった。叩つけたデュエルディスクと左腕は、ひしゃげながらも高熱で黒く焦げている。目を閉じた小金井は立ち上がり、その瞳を細い三日月へと向けた。

小金井「_____世話になりました、親父。」

龍平「………よかったんですか。」

龍平は、黒く焼かれた彼の左腕と、その潤んだ瞳を見て、そう言った。嬢を守りたい、組への恩義も果たさなければならない。そんな優しい彼だからこそ、闇夜でも陽の光を受けて輝く三日月を、こんな目で見ることができるのだ。今の2人にゆっくりと話をしている暇などないかもしれない。彼の裏切り同然の行為を知って、今にも組の者が2人の命を奪いに来るかもしれない。ただこの瞬間だけは、静かでゆっくりと、ただそんな時間が流れればいいと思っていた。

小金井「約束………いや、賭けに勝ったのはお前だからな。」

龍平「………でも、楽な選択じゃなかったでしょう。」

小金井「………しゃんとしろよ、勝者じゃねえか。
………あの三日月に映った太陽、護りに行かなきゃなんだろ。」

闇夜でも、太陽はそこにある。空を見上げて、月が少しでも、どれほど細くとも白く輝いていれば、護るべき太陽はそこにある。夜であっても、新月の夜闇がすっぽりとこの星を覆わない限り、彼らを照らす太陽はそこにある。陽の光が彼らをそこまで導いてきたから、今度は自分たちが陰る陽を救い出す番だと、2人は胸の中で唱えた。


龍平「………あとほんとに、惚れてるわけじゃないですからね。」

小金井「…………なんで言い直すんだよ。」





続く
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