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HOME > 遊戯王SS一覧 > 58話 一生向き合うカード

58話 一生向き合うカード 作:コングの施し

アカデミア合宿2日目。時刻は早朝6:30。眠気まなこも覚めぬまま朝食を胃袋に突っ込んできた彼ら。決闘者を待つのは次なる試練、特別講師によるプレイング・デッキ構築の指導であった。







スターチップ争奪戦、そしてこれまでの決闘王杯予選の戦績から見出されたそれぞれの弱点・課題点を克服すべく、プロデュエリストを含む10人の講師陣による1日を掛けてのデュエルの指導。そしてその方式は、似通った課題や指導点・そして個々の性格の相性などを加味した上で運営によって編成されるチーム制。

1チームに1人の特別講師。3〜4人の生徒を講師が指導し、1日でチームと呼べる存在まで仕立て上げる。

遊大(あれが…現役プラチナ1級デュエリスト、桐生 招平!!)

会場に駆けつけた遊大と、その奥に腰掛けていたプロデュエリストの桐生の視線が重なる。


桐生「やあ、よろしくな。トラブルメーカー。」


にこやかに手を挙げてそう投げかけた。「トラブルメーカー」と言うのは、前日の開会の場でのことを言っているのだろうか。あの場に登壇していた彼にも悪い意味で注目されていたことに頭が熱くなる。

遊大「よ、よろしくお願いしますっ!」

そして同じ会場で自分を見つめる他2人の決闘者たち。刈り上げの頭、そして太い黒縁のメガネをクイッと上げる巨漢、《超越竜》と恐竜族のデッキを操り、スターチップ争奪戦にて遊大から一勝をもぎ取った決闘者、寺野 大吾。

寺野「……昨日ぶりだな。」

遊大「あんた、寺野だよな!…《超越竜》の!」


「およよ〜?そこの2人はすでにお知り合いさんなのかな〜???」


遊大と寺野の間に割って入り、キョロロと二人の顔色を伺う女子が一人。白いセーラー服に水色のスカーフが緩く垂れていて、褐色の肌に銀色の髪がキラキラと朝日に反射している。

寺野「澄永…近いぞ。」

寺野が目を逸らし、澄永から三歩ほどじりりと距離を取った。彼女は上目で遊大に振り返り「にへへ」と笑うと、全身が視界に収まるように下がり、くるりと回って自己紹介をしてみせた。


澄永「にへへ、澄永 青藍(スミナガ セイラ)で〜っす!!
すっごく真っ青な名前でしょ☆!」


…!?
絶対に口では出せない、オノマトペとも言えない「☆」を感じ取ると、その場にいる寺野も、遊大も、そしてプロデュエリストである桐生も一瞬固まった。

澄永「あっ、この『☆』は!
レベルでもランクでも星でもなくて、ヒトデさんだからよろしくねっ☆!」

遊大「ウ……ウス!!
チバから来た樋本 遊大ですっ!!…よろしく!」



…パチンパチン、と、桐生が手を叩く。
パイプ椅子から立ち上がり、その細い体に朝日が当たる。たった瞬間に、遊大、寺野、澄永の3人が感じ取った、比類なきほどの強さ。

桐生「なかなか濃いメンツが集まったみたいだな。じゃあとりあえず…」

そう言って、彼は椅子に立て掛けた鞄からデュエルディスクを取り出した。白を基調としたカラーに、画面を取り囲むそのフレーム部は紺色に塗られている。幾度となくその3人がメディアで目に焼き付けたそのデュエルディスクを手にした瞬間に、殺気とすら言えるほどの圧倒的オーラがその場を支配したのを感じた。


桐生「なんで俺のチームなのか、って部分も含めて、ウォームアップついでにお互いの実力を知っておこうか。…ちょうど4人だし。」


ごくりと唾を飲み込む。まさかこんなにも早くプロの実力を拝めるなんて。それも生で、目の前で。アカデミア合宿という全国の猛者だけが突破した舞台に自分が来たことを今一度実感する。動転したのか、返しの言葉を探るように左右の2人に目を向けた。

遊大(…なんちゅー真剣な表情してんだよ!!)

寺野はもちろん、澄永も、あのデュエルでデュエルを洗うような4時間の戦争を戦い抜いている。目の前のプロに気押されそうになっていたが、そこにいた2人も、胸を借りねばならないほどの実力者だということが、その表情から察せた。

胸をどんどんと叩く。強くなるためにここに来た。鍛え抜いた今までを、自分の覚悟と想いをぶつけて争奪戦を突破した。決してラクなものではなかった。実力で突破したんだと、引け目を感じることなどない、と、自分を鼓舞するように答えた。

遊大「どんと来いです!!」

桐生「いい返事だな。それじゃ俺と樋本、澄永と寺野で、とりあえずやってみようか。」

澄永「むっすー…青藍も桐生プロやりたかった〜!」

ぷっくと頬を膨らませる澄永に見つめられ、困り顔で苦笑う桐生が「あとで全員相手するから…」と溢した。その横で静かにディスクを装着する寺野がため息をつく。

寺野「…再戦だな、澄永。」

澄永「青藍、寺野くんのデッキ苦手なんだけどな…やるしかないか〜!」

ガチャン…と差し込まれるそれぞれのデッキ。各々がソリッドヴィジョンを投影する間合いを作るべく距離を取る。そして始まる、新しい戦い。なぜ自分がここにいるのか、どうすれば強くなれるのか。そして仲間となり得る者達を知り、迎え入れるための決闘。

遊大「本気で行きますッ!!」

桐生「いいね…気合い入れろよ!!」


『デュエル!!』







《聖刻》の龍平、《剣闘獣》の剣城、そして《バージェストマ》の奥海 波実、それぞれレベルの高いデッキを用いてスターチップ争奪戦を突破した3人の決闘者が、同じ第二決闘場へと集められていた。彼らのディスクに記された「TEAM:2」の文字。

そして龍平の前に立つ女性。ノースリーブ黒いワンピースにポニテを引っ提げ、その目の上にはサングラスが朝日を見つめている。

龍平「あなたですか…。」

龍平がため息まじりに漏らす。しかし、プロデュエリストに敬意を払う彼がそんな態度を取ったことに、剣城も波実も驚きはしなかった。


「……そうだよ?
わたし、宝条 麗華 がきみたちの特別講師だ。」


剣城(なんてこったフーゴ…。)

波実(まじかあ〜…。)

表情を歪める生徒陣。その表情を見つめた宝条は、口に手を添えて「ふふふっ…」と笑みを溢した。

宝条「わたしのところに流されるなんて『運がない』、と言ったところかな。
…そんなにしかめ面にならなくてもいいと思わないかい?」

頭を抱えている剣城、龍平の元にそそっと駆け寄り、小さく耳打ちした。

剣城『大石龍平!なんでオレたちが宝条プロのところなんだ!!』

龍平『…知らないですよ。大体、俺だってこの人に選ばれるようなデュエルをした覚えは…』

そう言いかけた時、沈みかけた空気の中に波実の一声が響いた。

波実「…宝条プロ。失礼を承知で言わせてください。私はこの2人を知っています。もちろん自分のデッキも。
…ここにいる3人のデュエルの中に、貴方のそれに通じているものがあったら、教えていただけないですか。」

波実の発言も無論、現状を不審に思ってのことであった。まだ笑みを浮かべる宝条は、問いを返すように投げかけた。

宝条「…ふふ。
きみたち3人とわたしのデュエル、通じているものを教えろ、ということだね。リサーチしている知識を使っての良い問いだ。
……では、逆に問うよ。キミが言うわたしのデュエルとは何かな?」

彼女は指を3本立て、龍平、剣城、波実をちょいちょいと差して揺らして見せた。

龍平「宝条プロのデュエル、言ってはなんですが、とても常人では扱えないほどのギャンブル性を注ぎ込んだものだと思ってます。」

剣城「……同じく。とても賭けの要素が強いものだ。貴方のようなデッキを使う展望はオレにはない…点棒…ギャンブルだけに。」

奥海「剣城や大石は、こうは見えますが計算し尽くしたデッキを使っています。私も、大石には争奪戦で敗北しました。運に左右される要素を極限まで減らしたような、そんなデュエルで。
……だからこそわからないんです。自他ともに認めるギャンブラーである貴方が、私たちの講師を務めるのが。」

宝条「そうだね。わたしのようなデッキを扱うことも、デュエルをすることも、きっとキミたちには叶わないだろう。それを望んでいるようにも見えないしね。」

彼女は、手をぱっとかざし開くと、そこには3枚のコインが握られていた。3枚を一挙に親指の上に乗せ、パチーンの真上に弾く。

宝条「……きみたち3人とわたし、そこに通じているものは『運』だよ。
理を突き詰めたきみたちと、傍目から見ればギャンブラーなわたし、それを繋ぐのは、間違いなく『運』だ。」

1枚、2枚、3枚、と、彼女の手にコインが落ちる。しかしそこにある3枚は、全て同じ《青眼の白龍》の彫刻が彫られたオモテ面であった。

龍平「俺たちと、貴方を繋いでいるのが運?」

宝条「ふふ…。
考えてもみるといいよ。40〜60枚のデッキから5枚の初手を抽出し、そこから最短を生み出すデュエルという遊戯…。」

彼女が続けようとした時、焦ったように波実が口を挟む。

波実「ちょ、ちょっと!まるでギャンブルと同じみたいに!
私たちデュエリストは、その確率を、勝利への確率をちょっとでも上げるようにデッキを構築し、プレーしています!そんな…」

宝条「そうだね……あくまで確率が絡む勝負という世界の中で、それを少しでも多く簡単に掴めるように身を心を精神を削って戦い続ける。

……はて、ではこれはギャンブルとは違うのかな?」

波実「……!!!」

宝条「なるべく当たりやすい台に座り、最高率で回転数を上げるパチ。
136の牌の中から、あらゆる条件を加味しケアした上で、勝つための14牌をツモと言う名のドローで作り出し、さらには自分がアタらないための判断も必要になる麻雀。
わたしには、それほど違いがあるようには思えない。」

剣城「確率を…奇跡の軌跡を……追い続ける?」

宝条はコインを人差し指と中指の間に挟み、その縁で自分の首元をなぞって見せた。朝日がコインに弾き当たり、彼女の色白な顔を下からキラキラと照らす。

宝条「違いは賭けられたモノくらいだよ、詳しくはコンプラ上ちょっとマズいかな。
まあわたしはプロという立場上、合法的な金もしっかりとこの首にかかっているけど。」

龍平はグッと口元を抑える。そうだ。彼女が言っていることは何も間違いではない。しかしそれはあらゆる細かな条件を排除した上で、ギャンブルとデュエルというものの共通部分を羅列しただけに過ぎないこともまた確かだった。

だからこそ、彼女のデュエルとは結びつかない。

龍平「待ってください。どちらも期待できる確率を少しでも広げるものだということはわかりました。
でも貴方のデュエルは、とても計算なんかで測れるものではないはずです。コイントスであれば1/2。カードを発動した時点で、それが絶対に条件に絡んでくる。」

宝条「わたしは、自分という存在をよく知っている。
計算で測れない、と言ったが、自分がその1/2の賭けに絶対に勝つとわかっていれば、それはもはや賭けではない。自分の豪運に信頼を置いていなければ、こんなデッキは使えないよ。

……そしてこの「自分の運への信頼」。ギャンブルでこれほど必要な考えもない。
ここまで言えば、聡明なきみたちならばわかるかな?」

波実「デュエルでも…それが必要ってことですか?」

あまりに常識に囚われない発言だった。デュエルとギャンブルを結びつけているからこそ、その頭に浮かぶ考え。これが素人や並のデュエリストであれば恐るるに足らぬ戯言と一蹴できたかもしれない。

しかしそこにいるのは…

龍平(宝条 麗華…!プラチナ3級の現役プロデュエリストがこれを言うか…!!)

宝条「ふ……半信半疑、といったところだね。これは体感した方が早いかな?」

彼女の手に、黒と鈍い暗銀色のフレームであしらわれたデュエルディスクが装着される。会場に走る殺気。そして龍平もその実を確かめるべく、波実と剣城よりも一歩前に踏み出した。

宝条「大石 龍平くん、やる気がある子は嫌いじゃないよ。
……それに、キミの指導役はお父上殿かと思っていたけど、これは楽しめそうだ。」

龍平「……その胸、お借りします。明日、あの男のチームに負けないためにも。」


『デュエル!!』






TURN :1

樋本 遊大(ターンプレイヤー)
LP :8000
手札   :5
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:

桐生 招平
LP :8000
手札   :5
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:


始まった2人のデュエル。桐生の「好きに動いてくれ。」という言葉と共に、先攻の権利が遊大に握られた。デュエルの掛け声と共に手に渡る5枚のカードたちに、目を向ける。

遊大「いきまっす!!
手札から《二量合成》を発動。その効果で、デッキから《化合電界》を手札に加え、これを発動!」

遊大の手の中で渦巻く赤と青の光。波打つそれはフィールドに流れ、デュアルの戦場、《化合電界》が2人を包む。

遊大「《化合電界》が発動されている間、レベル5以上のデュアルの通常召喚のためのリリースを軽減できる。…ってことで飛ばしますよ!
不死鳥の翼宿し戦士よ。その剣で闇を切り裂き、色褪せた世界を赤く塗り上げろ!

通常召喚!《フェニックス・ギア・フリード》!!」

赤と青の世界に稲光が走り、紅蓮の炎が巻き上がる。遊大を後ろから照らし、そしていつでも彼と戦い続けたモンスター。《フェニックス・ギア・フリード》が、早くもフィールドに構えた。


《フェニックス・ギア・フリード》
☆8 炎属性・戦士族/デュアル/効果
ATK:2800/DEF:2200


桐生(……来たか。だが…)

遊大「おれは《ラプテノスの超魔剣》を《フェニックス・ギア・フリード》を装備!
さらにカードを1枚セットして、ターンエンドっ!」


桐生「俺のターン。」

桐生が、その細い腕でデッキトップのカードを握る。ビリビリと走る威圧感。今まで戦った誰よりも強い存在だということが、それだけでわかる。

遊大(これがデュエルで出せるオーラかあ!?)


TURN :2

桐生 招平 (ターンプレイヤー)
LP :8000
手札   :5→6
モンスター:
魔法罠  :
フィールド:

樋本 遊大
LP :8000
手札   :1
モンスター:《フェニックス・ギア・フリード》
魔法罠  :《ラプテノスの超魔剣》 セット×1
フィールド:《化合電界》



桐生「……じゃあまずは、本腰入れるぐらいまで頑張ってみようか。」

桐生が口を開いた。遊大もしっかりと聞いていた。だからこそ、畏怖が滲み出る。その発言が出たと言うのは、つまり遊大がまだ本腰を出していないと言うことの裏ファ返し。本気で来いと言うこと。

遊大(…来るっ!!)

桐生「俺は、フィールドに効果モンスターが存在しないことで、《天威竜ーシュターナ》の効果を発動。手札から、守備表示で特殊召喚。」

彼が持つカードが、こぼれ落ちる水滴のようにちゃぷんとディスクに嵌る。フィールドに落ちる雫はやがて1匹の竜を象り、《天威竜ーシュターナ》というモンスターの姿をあらわにした。


《天威竜ーシュターナ》(守)
☆4 水属性・幻竜族/効果
ATK:400/DEF:2000


遊大はその姿を幾度となく見てきている。テレビで、雑誌で、ネットの中継で。その竜の姿を。だからこそ、次に何をするのか、そして彼が何をしたいのかの予測ができた。いや、まだこの段階では、それができていた。

遊大(来た!
召喚権を使わない《天威》の展開!!…特殊召喚されたのが《シュターナ》とすれば…)

桐生「《シュターナ》1体でリンク召喚。…《天威の拳僧》!」

水の鱗をまといし竜の姿がゆるく水滴のごとく丸められ、彼のEXデッキからの白い光をぼやかしていく。朧げになった光は1人の拳僧の姿へと移ろい、その拳に《シュターナ》の青い水のオーラが纏われた。


《天威の拳僧》(攻)
L−1 地属性・幻竜族/リンク
ATK:1000 [↓]


桐生「…バトルに入る。」

遊大「…!!」
(やっぱり基本に忠実だ!召喚権を余らせたまま非公開情報をひっぺがすつもりか!)

その瞬間、《フェニックス・ギア・フリード》のカードが胎動し、その輝きを増していく。遊大の手札は1枚。セットカードも1枚。その非公開情報のうちの1枚が、明らかになる。

遊大「《天威竜ーシュターナ》には、効果モンスター以外の幻竜族が破壊された時に、破壊されたモンスターを蘇生して、さらにこっちの盤面に干渉する効果がありますよね…!」

桐生「よくわかっているな。それにこれからのことも、おおかた予想はついているらしい。その上で何を見せてくれるんだ?」

遊大「おれのデッキは、本展開まで下準備の時間が必要なんです。それを稼ぐ手段だってある!!

バトル開始時、《ラプテノスの超魔剣》の効果発動。装備している《フェニックス・ギア・フリード》の表示形式を変更し、モンスター1体を召喚する!
…入れてみるもんだな、《霊滅術師 カイクウ》!」

じゃららら…と数珠を擦る音が鳴り響き、紫色の袈裟に身を包んだ僧侶がフィールドに座禅で出現する。


《霊滅術師 カイクウ》(攻)
☆4 闇属性・魔法使い族/効果
ATK:1800/DEF:700


「懐かしいモンスターだな。」と、それだけ言うと、桐生はディスクをタップし、バトルの終了を宣言する。実際、そのデッキとの親和性はさておいたとしても、遊大のその行動自体は間違いではなかった。

遊大(《天威竜ーシュターナ》だけじゃない。《天威》の墓地効果は除外が発動条件になる。墓地メタを考えてはいたが、思いの外刺さっているな!!)

フェーズがメイン2へと移る。桐生の思考にあるのは遊大のデッキ全体の親和性、そこを突き詰めた先に、彼がこの1日で彼に叩き込まねばならない部分が横たわっている。

だからこそ、彼は動く。

桐生「フィールドに効果モンスターが存在しないことで、《天威竜ーマニラ》を特殊召喚。さらに通常召喚、《光竜星ーリフン》。」

まるで非公開情報さえ割れれば十分だと言わんばかりに、瞬く間に桐生の前に2体のモンスターが出現した。遊大は、彼のバトルフェイズでの展開を防いだことに胸を撫で下ろす暇もなく、その展開に構えた。


《天威竜ーマニラ》(守)
☆4 炎属性・幻竜族/効果
ATK:600/DEF:1500

《光竜星ーリフン》
☆1 光属性・幻竜族/チューナー/効果
ATK:0/DEF:0


遊大(…一気にチューナーと非チューナーを!!
やっぱり伊達じゃねえ!だがおれにだって、まだこのカードがある!!)

汗が一筋垂れる。そんな遊大はフィールドにセットされたカードに目を向ける。フィールド魔法は《化合電界》。そして発動中の装備魔法《ラプテノスの超魔剣》。それらを使用してなお、遊大は《フェニックス・ギア・フリード》を再度召喚していなかった。

その理由が、フィールドにセットされた1枚のカードに隠されている。

桐生「おれは、レベル4の《天威竜ーマニラ》に、レベル1の《光竜星ーリフン》をチューニング。いくぞ、シンクロ召喚…!」

桐生のフィールドに聳える2匹の幻竜。《光竜星ーリフン》から放たれた光輪が、赤い4つの星を取り囲み、閃光がフィールドに突き刺さる。

桐生「レベル5、《源竜星ーボウテンコウ》!!」

パリリ…!と、弾けた閃光が土埃を反射し、儚くも金色に薄く輝く粒子がフィールドを舞う。


《源竜星ーボウテンコウ》
☆5 光属性・幻竜族/シンクロ/チューナー/効果
ATK:0/DEF:2800


桐生「シンクロ召喚に成功した《ボウテンコウ》の効果を発動。デッキから《竜星》カードを手札に加える。」

遊大にも、後がなかった。何か嫌な予感のようなものが、どこか小さな場所に渦巻いていた何かが、嵐の前の静けさのような暗雲が、自分の中で湧き上がるを感じた。

遊大「カウンター罠、《王者の看破》…!!」

《フェニックス・ギア・フリード》、その身に宿る炎がフィールドを覆い、源の名を関する幻竜の鱗を焦がしていく。桐生のフィールドから消えるモンスター。

しかし、そこに立つ2人。彼らの表情には、そして実力には、圧倒的な差があった。
それはプロデュエリストと一介の学生、当たり前のことだった。

桐生「……《源竜星ーボウテンコウ》が破壊されたことで、《ボウテンコウ》と《リフン》の効果を発動。」



あれ?…これ、海…?



遊大には、目の前に立つ『桐生 招平』と言うプロデュエリストが、まるでそこのない海溝のように見えた。自分は浅瀬で、それでも押し寄せる波に足を掬われそうになりながら前に進んでいる。

桐生「…特殊召喚。《光竜星ーリフン》、《水竜星ービキシ》。」

ざぶざぶ、とこの果てしないデュエルの海を進んでいけば、この人のように、そこの見えない決闘者になれるのだろうか。

桐生「さらにリンク召喚、《天威の龍仙女》…その効果で、墓地から特殊召喚。
…《源竜星ーボウテンコウ》。」



《水竜星ービキシ》(守)
☆2 水属性・幻竜族/効果
ATK:0/DEF:2000

《源竜星ーボウテンコウ》(守)
☆5 光属性・幻竜族/シンクロ/チューナー/効果
ATK:0/DEF:2800

《天威の龍仙女》(攻)
L−2 炎属性・幻竜族/リンク/効果
ATK:1600 [↙︎・↘︎]




ボココ…。
目の前を、自分の口からでた気泡が昇っていく。気づけば、水面は、そこから届く日の光は、自分が手を伸ばしてもずっと遠くの場所にあった。目を開けて水面に手を伸ばしていた時には、自分は負けかけていた。見せつけられたプロデュエリストの思考、そのデュエルの波の中で、何もできずに落ちていっている。

遊大(やっば…!!
やばいやばいやばいやばい…!!!!!)

桐生「《ボウテンコウ》の効果を発動。デッキから《地竜星ーヘイカン》を墓地に送り、そのレベルを3に変更。」

デュエルの思考の中で、必死にもがく。どこから展開が悪かった?どこで間違った?いつの間にか自分は脱出しようのない深い水底へと叩き落とされている。彼が、桐生 招平と言う男が、海溝のように思えた時。その直後、数秒後にはすでに自分の周りに水面からの光は届いていなかった。

桐生「カードを1枚セットし、これでターンエンド。」


TURN :2

樋本 遊大
LP :8000
手札   :0→1
モンスター:《フェニックス・ギア・フリード》《霊滅術師 カイクウ》
魔法罠  :《ラプテノスの超魔剣》 
フィールド:《化合電界》

桐生 招平
LP :8000
手札   :3
モンスター:《天威の龍仙女》《水竜星ービキシ》《源竜星ーボウテンコウ》
魔法罠  :セット×1
フィールド:


口元を抑える遊大。現実のその目は、真開いたままデッキトップのカードを見つめている。何を引けばいい?何を引けば、この状況を突破できる?

何もできずに落ちていくなんて嫌だった。この状況を打破しうる可能性を秘めたたった1枚のカード。遊大が新たにその身に宿し、日暮との戦いでも彼を勝利に導いたそのカード。それを必死に胸の中で叫び呼ぶ。

山札の1枚をがっしりと掴む。唇を噛み締めているその姿を見た桐生は、一言だけ遊大に呟いた。「それでいい」と。

遊大「おれのターン…!!
ドロぉーーーーーーーっ!!!!」

大振りにそのカードをデッキから引き抜いた。その手から炎が宿り、遊大の胸がドクンドクンと高なっていく。一時は溺れかけた、思考の深い海溝。それすら蒸発させてしまえばいいとすら思うほど、彼の目に諦めはなかった。

遊大「おれは……効果発動のために《ラプテノスの超魔剣》を除外!!」

《ラプテノスの超魔剣》のカードが赤い炎を纏って天へと舞い上がり、それは不死鳥の翼へと形を変えてフィールドに流星のように落ちてゆく。《フェニックス・ギア・フリード》を超えた存在。それが再び、彼の手から解き放たれる。

遊大「不死鳥の翼宿し戦士よ、今こそ神の力すら超え、赫灼の天道を駆け抜けろ!!!

…レベル9、《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》ッ!!!」

まばゆい閃光と、大地を砕く衝撃。フィールドに衝突したその赫い炎と地面が反応し、舞い上がる土埃すら炎に焼かれてオレンジ色にキラキラと輝く。舞い上がる熱砂と弾けた炎を斬り裂いて、そのモンスターがついに姿を現した。


《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》(攻)
☆9 炎属性・戦士族/効果
ATK:3000/DEF:2200


「それでいい」と言った桐生は、少しの間その姿を見つめていた。そしてその奥で、目に炎を宿し自分を見つめる少年の姿を。そして同時に理解した。そのカードが彼にとってどんな意味を、どれほどの価値を持つカードか。


だからこそ。


桐生「罠カード《竜魂の幻泉》を、《地竜星ーヘイカン》を対象として発動。対象を守備表示で特殊召喚する。」

遊大「…へっ??」

遊大が次のアクションを起こす間もなく、間髪入れずに次のカードを発動した桐生に、一瞬困惑した。そしてその隙を待つことなく、橙色の鱗を持つ幻竜がフィールドに出現する。


《地竜星ーヘイカン》(守)
☆3 地属性・幻竜族/効果
ATK:1500/DEF:0


桐生「樋本…よくやった。
今日、俺が生徒たちに叩き込まなきゃいけないのは、『それ』だ。」

桐生は口を開いた。「それ」と言う抽象的表現を飲み込めずに、遊大は口を紡いだ。そして同時に、ディスクの上を滑る桐生の手に目を奪われた。3枚のカードが、彼のディスクから墓地に送られる。流れるように、ガチャリとEXデッキの格納が口を開いた。

桐生「《水竜星ービキシ》の効果を発動。相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに、シンクロ召喚を行う。」

遊大「…おれのターンのシンクロ…!!まさか!!」

その効果の宣言で、遊大は彼の言わんとしていることがわかった気がした。そして彼が言った『それ』の正体も。何度もメディアを通じて見てきた。桐生 招平をここまで押し上げた1枚のカード。彼の代名詞とすら言えるほどのそのモンスター。

桐生「樋本、君で言うところの《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》。
……そして俺の、このカードだ。」

《源竜星ーボウテンコウ》から放たれる3つの浅緑色の星が、《水竜星ービキシ》、《地竜星ーヘイカン》のそれを貫き、それらの魂と色を混ざり合わせた竜の星が、その胎動がフィールドに鳴り響く。

桐生「……シンクロ召喚。《輝竜星ーショウフク》!」

淡い金色の粒子が、その巨大な幻竜の姿をあらわにしていく。メディアで目にしたものよりもずっと大きく、ずっと壮大で、まさしく彼の底のなさを体現したような圧倒的な存在。


《輝竜星ーショウフク》(攻)
☆8 光属性/幻竜族/シンクロ/効果
ATK:2300/DEF:2600


金色の光が、遊大の目にキラキラと淡く反射する。今この瞬間、誰よりも近くで、幾度となく目にしてきたそのモンスターが、桐生 招平という一線級のプロの人生のエースカードを目の当たりにしている。

遊大「す…すげえ。」

桐生「効果は知っているな。
シンクロ素材となったモンスターの属性は3つ。俺は《フェニックス・ギア・フリード》、《霊滅術師 カイクウ》、そして《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》を…デッキに戻す。」

翻したその身から、3色の光の糸が一斉に放たれる。フィールドを走り出したそれは、遊大の場に構えていた3匹のモンスターを一挙に貫いた。バチン…!!と、フィールドにとどまることのできなかった3枚のカードが、宙へと弾かれる。

圧倒的な差と力。しかしそれが、彼の自他ともに認めるエースカードであるからこそ、遊大には彼が伝えようとしていることが掴みかけた気がした。彼が教えたいこと、それは本当のエースカード。

遊大「…これが…桐生プロの教えたかったこと、っすか!?」

桐生「…そうだ。
今日、俺が君たち金の卵に叩き込むのは、『一生向き合うカード』…その使い方だよ。」

桐生の手に握られた《輝竜星ーショウフク》、そして遊大の手に握られた《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》。

遊大「一生、向き合うカード。」

桐生「樋本、君の手に握られたその《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》……
きっとそれは、これから長い時間をかけて闘い続ける君のデュエルの人生において、
一生向き合うことになる、それほどの価値を持ったカードだ。」

遊大はその言葉に、自分の手の中の存在へと目を落とした。白銀の鎧から滲み出る炎、赫灼の剣皇、《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》。それが、目の前のプロの《輝竜星ーショウフク》と似た意味を意味を持つなら。

それはきっと、自分が知らなくてはいけないことだ。強くなるために、同じ背中を追うために。そう思った時、自然に口は動いていた。


遊大「教えてください…おれに、このカードの使い方を…!!!」


桐生「オーケー…だからここにいる。」


続く
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ランペル
一生向き合うカードですか…。
デュエリストにとってエースや切り札となるカードは確かに一生もの。桐生プロが今回指導してくれるのが、エースモンスターの活用方法という訳ですね!
そんなプロが扱っているのは、天威と竜星の幻竜族デッキ。《輝竜星ーショウフク》をエースに据えた彼のデュエルの実力は、遊大が深く引き込まれそうになるほどの差が…。目指すべき高い頂きに居るのではなく、何も見えない海溝の描写から、桐生プロの底の知れなさが伺えますねぇ…。

そして、龍平の方で集められた生粋のデュエリスト3名に対し、講師となる宝条プロはまさかのギャンブルデッカー。彼女の言うようにデュエル自体が、運の要素にどうしても左右されるものがありますからね。しかし、運の要素が前提のデュエルの中でも運を操り切るというのは常人には難しいものがあります。
その常人とはかけ離れた運と、それを活用し高みに昇りつめた彼女も、龍平達とは方向性は違えど紛れもない実力者ですね…!

二人と他のみんなも、かなりデュエルについて新たな境地を見出せそうな研修内容…。さすがアカデミア合宿と言った所でしょうか。
《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》の扱い方、そして運。
大きな成長の期待と共に次回も楽しみにしております! (2024-03-25 23:08)
コングの施し
ランペルさん、閲覧およびコメントありがとうございます!

桐生プロが彼らに叩き込むのは一生向き合うカード、そしてその使い方。なにを持ってそう定義するのか、そしてどんな位置付けをするのか。遊大でいう《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》、桐生プロでいう《輝竜星ーショウフク》、そして寺野と澄永が持つカードたちにも注目です!

運への考え方、重要だと思っています(自分語り)。ここで〇〇を引けば勝てるという試合、相手が◇◇を持っていなければ勝てる試合……などなど、良くも悪くも最後は運という砦が待っているデュエルという競技。ギャンブルデッキを用い、常人よりも卓越した運への感覚と思考を持ち合わせる宝条が教え込むものとは…。

嬢や律歌など、他の参加者たちの成長にも要注目です!そして彼らを待つ3日目の団体戦。次回以降もお楽しみに! (2024-03-28 17:35)

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