27話　蒼の衝突　その②　作：コングの施し

第５回戦、龍平と逢馬がデュエルステージにて対峙する。お互いにディスクを構えるが、逢馬は依然として軽薄な笑みを浮かべている。その表情に龍平は表情を曇らせながらも、決闘開始の宣言が会場に響いた。

「決闘！」

龍平のデュエルディスクに先攻のアナウンスが鳴り響く。

龍平「オレのターン。」

龍平
ＬＰ：８０００
手札：５
モンスター：
魔法罠：

龍平「魔法カード《竜の霊廟》を発動。デッキから《守護竜ユスティア》を墓地に送る。さらに墓地に送ったカードが通常モンスターだったことで、さらにデッキから《バックグランド・ドラゴン》を墓地に送る。」

フィールドに竜を象った岩のオブジェが出現し、ヒビ入ったそれが砕けると、二枚のカードとなって龍平の墓地に吸い込まれていった。

龍平「《バックグランド・ドラゴン》の効果を発動。オレのフィールドにカードが存在しないとき、墓地の自身と手札のドラゴン族を特殊召喚する。来い。《バックグランド・ドラゴン》、《スニッフィング・ドラゴン》。」

野太い咆哮が響き渡ると、2つの弾丸のような光がフィールドを貫き、鋼に身を包んだ２体の竜が出現した。

《バックグランド・ドラゴン》
☆５　闇・ドラゴン族/効果
1600/1800

《スニッフィング・ドラゴン》
☆２　闇・ドラゴン族/効果
800/400

龍平「《スニッフィング・ドラゴン》の効果を発動。召喚・特殊召喚成功時にデッキから同名の《スニッフィング・ドラゴン》を手札に加える。続けて召喚権を使い、オレは《マンジュ・ゴッド》を召喚。デッキから儀式モンスター《颶風龍－ビュフォート・ノウェム》を手札に加える。」

龍平のその宣言と同時に青銅色に溶け出した禍々しい幾万もの腕がフィールドに出現する。中心に赤い目とおどろおどろしい表情を持ったそれは、龍平の手元に青いカードを1枚呼び寄せた。

《マンジュ・ゴッド》
☆4　光・天使族/効果
1400/1000

龍平は一枚のカードをディスクに叩きつける。カードから烈風が巻き起こり、その奥に翼を羽ばたかせる竜の影がおぼろげに浮かぶ。

龍平「オレは儀式魔法《褒誉の息吹》を発動。儀式の生贄としてフィールドから☆５の《バックグランド・ドラゴン》、☆２の《スニッフィング・ドラゴン》、さらに手札からもう一体の《スニッフィング・ドラゴン》をリリース。儀式召喚！」

フィールドに出現した烈風の柱は真っ二つに引き裂かれると、フィールドに広まったその風と同時に龍は咆哮した。

龍平「来い。《颶風龍－ビュフォート・ノウェム》！」

《颶風龍－ビュフォート・ノウェム》
☆9　風・ドラゴン族/儀式/効果
2800/2800

龍平「さらにオレはこのエンドフェイズに速攻魔法《超再生能力》を発動。このターン、手札から捨てたかリリースしたドラゴン族モンスターの数までオレはドローする。ビュフォート・ノウェムの儀式召喚の生贄は3体、よって3枚ドロー。これでターンエンド。」

龍平
LP：8000
手札：3
モンスター：《颶風龍－ビュフォート・ノウェム》《マンジュ・ゴッド》
魔法罠：


逢馬は紺が基調のデュエルディスクにチェッカー柄のスリーブのデッキから１枚のカードを引き抜くと、龍平のモンスターを見て口角を上げてつぶやいた。

逢馬「初手からエース級の儀式モンスター、わくわくするねえ。おれのターン！」

逢馬　
LP：8000
手札：5→6
モンスター：
魔法罠ー：

逢馬「しかし、龍ちゃんが儀式を使うとはね。前の試合では驚かされたな。奇遇だよ。おれは手札から《儀式の下準備》を発動。デッキから儀式魔法1枚とそのテキストに名称が指定されている儀式モンスター1体を手札に加える。デッキから《リヴェンデット・ボーン》と《リヴェンデット・スレイヤー》を手札へ！」

龍平は、手札に加わった蒼に染まったカードを見つめてまゆを顰める。

龍平「儀式モンスター…。」

逢馬「おれはフィールド魔法《ヴェンデット・ナイト》を発動！その効果により、手札から《ヴェンデット・コア》を墓地に送り、デッキから《ヴェンデット・ヘルハウンド》を手札に加える。そして召喚！」

フィールドが闇に染まる。生々しい叫喚が響くその暗い街に、目を青く光らせたその獣はけたたましい鳴き声とともに姿を現した。

《ヴェンデット・ヘルハウンド》
☆3　闇・アンデット族/効果
0/2100

逢馬「さらに永続魔法《ヴェンデット・ナイトメア》を発動。手札から《リヴェンデット・スレイヤー》と《ヴェンデット・レヴナント》をリリースし、その数だけヘルハウンドのレベルを上げる。これでレベルは3から5に上昇！」

何気なく行った逢馬のその行動に、龍平は目を見張った。「儀式召喚するはずのモンスターを墓地に送る」というその行為。対面したことのないヴェンデットというデッキを前に、静かに思考を巡らせる。

逢馬「さらに、墓地の《ヴェンデット・コア》の効果を発動。今墓地に送ったレヴナントを除外し、自身を墓地から特殊召喚する！」

明らかに多い墓地や除外の数、それを目にして龍平の中に一つの予感が生まれた。手札からの儀式召喚という固定概念にとらわれ、それに気づけなかった自分を俯瞰し、同時に当たってしまえばこのデュエルの勝敗を大きく左右することになるその予感に、彼自身身震いとしていた。

逢馬「儀式魔法《リヴェンデット・ボーン》を発動！自分のモンスターを儀式モンスター以上になるようにリリースするか墓地から除外し、儀式召喚を行う！ただしこの時…」

『墓地からの儀式召喚』というその予感。

逢馬「…墓地からも儀式召喚を行える！」

龍平「やはりか！」

黒く染まった大地が轟音ととも割れる。血のように赤黒い目を光らせた影がその裂け目から手を伸ばす。フィールドに徘徊する2体の生ける屍が瞬く間に引き裂かれ、ついにその影の全貌が露になった。

逢馬「儀式召喚だ！《リヴェンデット・スレイヤー》！」

《リヴェンデット・スレイヤー》
☆6　闇・アンデット族/儀式/効果
2400/0



遊大「墓地からの儀式召喚！？そんなのアリか！？ただでさえ儀式はトリッキーで使用者がすくねえっていうのに！」

ギャラリーから身を乗りだす遊大を横目に律華が口を開く。

律華「それだけじゃないよ。今の儀式召喚は生贄を墓地から要求することだってできた。それをしないってことは、何かの理由があるんじゃないかな。」



血のように紅い瞳、なびくズタズタのローブ、そして体の随所から生えた無数の骨の刃がそのモンスターの内に秘めた憎しみと獰猛さを物語っていた。
龍平は眉をひそめたが、すかさずその対処にかかる。

龍平「ビュフォート・ノウェムのモンスター効果を発動。相手フィールドの表側表示モンスターを対象にして、ビュフォート・ノウェム自身と、そのモンスターを手札に戻す！」

ビュフォート・ノウェムの両翼に風がまとわりつき、もともとの何倍にも膨れ上がった疾風の羽根となる。大きく咆哮するとリヴェンデット・スレイヤーのもとへと飛びかかった。その瞬間、フィールドに『ドクン』という大きな心音が響き渡る。同時に両翼に渦巻いた風は散り散りになってしまった。

『効果の対象が存在しません。』

無情な機械音が龍平のデュエルディスクから鳴り響く。

龍平「…！？」

急な出来事に龍平は動揺を隠せない。まるで首元にその骨の刃を突き付けられたような感覚と共に、悪寒が体を走り、冷たい汗が背中を伝う。その表情を見て逢馬は黒い笑みを浮かべた。

逢馬「やっとわかりやすく動揺したね。フィールドの《ヴェンデット・コア》を生贄としたヴェンデット儀式モンスターは、相手の効果の対象にならない！」

対象を取られないエースモンスター。唯一の弱点は戦闘による突破だが、龍平の洞察力と勘が、それすら許さないことを予感させた。だからこそ、ビュフォート・ノウェムの効果が不発に終わったことに焦りを感じていた。

逢馬「バトルだよ。リヴェンデット・スレイヤーで、《マンジュ・ゴッド》を攻撃！」

屍の戦士は、ふっと姿を消すと瞬く間にはマンジュゴッドの背中を取っていた。骨の刃が音を立てて軋み折りたたまれたと思えば、すでにマンジュゴッドはバラバラに引き裂かれていた。

龍平「っ！」
LP:8000→7000

逢馬「さらにこの瞬間、フィールド魔法の《ヴェンデット・ナイト》と発動中の《ヴェンデット・ナイトメア》の効果を発動。戦闘で相手モンスターを破壊したとき、ナイトメアの効果で攻撃力が1000アップし、ナイトの効果で墓地からヴェンデットを除外することでもう一度攻撃できる。ビュフォート・ノウェムを攻撃。」

墓地の《ヴェンデット・ヘルハウンド》のカードが除外され、スレイヤーの刃が再び大きく開かれる。紅い眼が放つ閃光が一直線にビュフォート・ノウェムのもとへと伸びる。龍平の視線がその姿に追いついた時には、その翼はもぎ取られ引きちぎられ、その胸はスレイヤーの腕に貫かれていた。

龍平「攻撃力3400…！」
LP：7000→6400

逢馬は苦悶の表情を浮かべる龍平を前に依然として黒い笑みを浮かべている。三日月のようにとがったその口角と真開いたその眼には、目の前の龍平がまるで小動物のように映っている。

逢馬「…はは。本当のエースモンスターも出さずにおれを倒せるわけないだろ？見せてごらんよ。龍ちゃんの本気をさァ！」

龍平は焦燥をかき消すようにため息をはあっと吐くと、獣のような目で逢馬をにらみつける。

龍平「…安い挑発だな。オレのターン！」

力んだ右手をデッキトップに押し当て、さらに強く力を込めてそのカードを引き抜く。その瞳には赤い炎をよりも熱く燃える蒼い炎がたぎっていた。

続く