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HOME > 遊戯王SS一覧 > 2話 巨竜の使い手

2話 巨竜の使い手 作:コングの施し

ここまでのデュエル
龍平はランサードラゴニュートで裏守備モンスターを破壊し貫通ダメージを与えようとするが、相手のほうが守備力が高く、加えてレベル4で最高峰のパワーを誇るゴブリン突撃部隊を召喚、そして装備魔法で強化され、大きなダメージを負ってしまう。さらに、ダメージを受ける度に手札が減り続ける永続罠、追い剥ぎゴブリンで手札がゼロになってしまった。

ターンを渡すこととなった沙汰川は不敵に笑みを浮かべた。

「(うひひひ…何をドローしたとしても、僕の手札にあるゴブリン暗殺部隊、その効果によるダイレクトアタックで、勝負は決するのさ…それに、もう1枚の伏せカードは、鎖付き尖盾。これで突撃部隊の攻撃力を500ポイント上げ、守備表示での戦闘中にはその攻撃力分だけ守備力も上がる。…つまり守備力3800のモンスターの反射で尽きるか、暗殺部隊の直接攻撃で尽きるか、その2択ってわけだね〜…うひひ!)」

龍平は俯いたままデッキに手をかけ、静かにカードをドローした。

龍平 LP700 手札:1

「…ったんだ。」



「う〜ん?よーく聞こえないなあ?うひひ!」

すくっと顔をあげた龍平は言う。

「手札はよかったんだ…。あんたの戦術もよかった…。
だから俺は、このドローに少し賭けてみた…。」

沙汰川はまゆにシワを寄せ、それでもって口角をぐぃっとあげて見下すように言った。

「なあにを言ってるのかよくわからないなぁ〜?ヤケになっちゃったのかなぁ〜?うひひ!」


龍平はその顔をあげて、沙汰川の方を獣ように鋭く、冷たく見つめた。

「俺はこのスタンバイフェイズ、あんたの効果で手札から捨てられたミンゲイドラゴンの効果を発動。俺のスタンバイフェイズ、このカードが墓地に存在し、俺のフィールドにモンスターがいないとき、自身を特殊召喚する。」

墓地のゲートが開き、小さな竜が飛び立つ。


「んん?なんだぁ?攻撃力400?それじゃ攻撃表示のおねだりゴブリンだって倒せないよねっ!うひひ!」


「誰がミンゲイドラゴンで攻撃するって言ったんだ…ミンゲイを生贄に捧げ、俺はこのモンスターを呼び出す。」

そういってあるカードをデュエルディスクにスキャンすると、ソリッドヴィジョンであっても、競技者たちに体感できるほどの熱と揺れが、地面から伝わってきていた。

「なんだッ!?この…地響きィ!?」


やがて地面は裂け、炎の渦が龍平の背後に巻き上がる。

「狂乱の竜よ、豪炎を巻き上げ、大地に降り立て、タイラントドラゴン!」


炎の渦から飛び立った巨大な竜、タイラントドラゴンは、凄まじい音と土埃をたてて地面に降り立った。

その威圧がデュエリストを、外野のもの達の体をビリビリと突き刺した。

「う、うひ…ひ…。それがキミのエースモンスターってわけだね…うひひ!でも、レベル8のモンスターを出すにはリリースが2体必要だよねぇ〜?ルール違反じゃないかなぁ〜?」


「…ミンゲイドラゴン、ドラゴン族をアドバンス召喚するとき、2体分の扱いにできる。俺は、タイラントドラゴンで、おねだりゴブリンを攻撃、フレイムディストラクション」


炎を巨大な弾丸がおねだりゴブリンをまきこんで爆破し、熱波が沙汰川を襲う。

「うひゃあああっ!!」LP2200


「さらに俺は、永続罠、龍魂の城を発動。
このカードは墓地のドラゴン族モンスター1体、手札から捨てられた、いたずら風のフィードランを除外し、俺のドラゴン族モンスター1体の攻撃力を700アップさせる。」

背後に巨大な城が現れたが、どうじにガラスが割れるように音を立ててそれは弾けた。

「なんだ!?」

「タイラントドラゴンの効果により、俺はタイラントドラゴン自身を対象とした罠カードの効果の発動を無効にして破壊した。」

困惑を隠せない沙汰川は不利なのか有利なのかわからない、いや、客観視すれば圧倒的に有利であったが、何か妙な予感を感じ取った。

「…何をやってるのかな?そもそも700ポイント攻撃力をアップするにしても、どうして攻撃が終わったあとなのかな?…もしかして僕のゴブリン暗殺部隊の効果を知っていて、自暴自棄になっちゃってるのかな?」



「…ああ。知ってるとも。1300のダイレクトアタック…それを喰らえば俺の負け。」

「…うひひっ!わかってるなら、サレンダーすれば、君のデッキの死皇帝の陵墓だけで勘弁してあげてもいいんだけどなぁ〜?」







「負けると言ったのは、ターンを回せば、の話だ。俺はこのターンでケリをつける。」


「…うひひ、やれるならやってみるがいいと思うねっ!」
(大丈夫だハッタリだねっ!こいつは僕には勝てやしないっ!)



「破壊された龍魂の城の効果を発動。除外されている、いたずら風のフィードランを特殊召喚。」

除外されたドラゴンが風を巻き起こしながら龍平の元に降り立った。


「(なるほど、そのためにタイラントドラゴン自信に龍魂の城を使ったわけか…だが、ここからどうやって、、)」


「いたずら風のフィードランの効果、自分のモンスター1体を選択し、このターン、そのモンスターが守備表示モンスターを攻撃したとき、貫通ダメージを与える。さらに、タイラントドラゴンは、攻撃が終了したときに相手モンスターがいれば、もう一度攻撃宣言を行える。俺はタイラントドラゴンに貫通効果を付与する。」

フィードランが羽根で煽った風が、タイラントドラゴンを巻き込んで巨大な熱波となる。

「ぅ、うっうひぃ〜!!」

「タイラントドラゴンで、守備力0のゴブリン突撃部隊を攻撃、フレイムディストラクション。」

巨竜は炎の弾丸に熱風を纏わせ、守備表示となっているゴブリンに一直線に放った。



しかし、沙汰川は俯いた顔をあげて笑みを浮かべている。

「…なんてねぇ〜っ!
僕は罠カード!鎖付き尖盾を発動!このカードはモンスターに装備でき、その攻撃力を500上げる!さらに装備モンスターが守備表示で戦闘を行うとき、攻撃力分だけ守備力をアップさせるのさぁ!これでゴブリン突撃部隊の守備力は3800、そして反射ダメージでゲームエンドだよねぇ〜?」

ゴブリンの腕に尖盾が出現し、それがみるみる巨大になった。ゴブリンは風を纏った炎を弾いて、龍平のほうへ飛ばしてみせた。

「(龍平…ここで負けちゃお前のカードがっ!)」

















「…俺は、」

「何を発動したって無駄だよねっ!ダメージを軽減しても!攻撃を止めても!次のターンにはゴブリン暗殺部隊の直接攻撃が残っているのを、忘れちゃいけないよねぇ〜!?」

瞬間、タイラントドラゴンの瞳が青色に光った。
咆哮があたりに響き、ゴブリンの手の盾は音を立てて砕け散っていった。



「…俺はカウンター罠、オーバーウェルムを発動。」


「カウンター罠…?
ひっ、鎖付き尖盾がっ!?」


龍平のフィールドにはタイラントドラゴンが映し出されたカウンター罠カードがソリッドヴィジョンによって投影されていた。

「カウンター罠、オーバーウェルム。アドバンス召喚したレベル7以上のモンスターが俺のフィールドに存在するとき、相手のモンスター効果、そして罠カードの発動を無効にし、破壊する。」

「カウンター罠…!タイラントドラゴンさえ出されば必ず勝てる状況を作ってたってことか!」

盾が外れたゴブリンは困り顔で沙汰川の方を見つめた。

タイラントドラゴンは改めて炎を吐き出そうと身を翻している。

「やれ。」

その言葉と同時に、巨竜は炎弾と熱波を放った。

爆音が響き、ゴブリンを消し飛ばしたその炎は沙汰川を校門の外まで吹き飛ばした。

「う、ひ、ひぃっ!
うひゃぁぁああー-ー-!!」
LP2000→0

winner:龍平


「俺の勝ちだ。」
倒れた沙汰川を見下ろして言った。

「き、きみ、覚えておくんだ…よっ…。」

顔だけを龍平のほうへ向けた沙汰川は、ソリッドヴィジョンとはいえ、大きすぎる衝撃に耐えかねたのか、そのまま意識を失ってしまった。

外野で見ていた沙汰川の取り巻きが沙汰川を抱えて校門の外へ出ていくのを、龍平は見つめていた。

その姿は、どこか物悲しい、いや、つまらない、少なくとも喜々とはしていないように、遊大の目には見えた。

だが、そのデュエルを見ていた遊大は、駆けつけたときから、ある考えないし推測を頭の中で転がしているのだった。

龍平が夕日を前にして校門の外へ歩き出す。

遊大はとっさに彼を呼び止めた。

「な、なぁっ!龍平ッ!」

立ち止まって、一瞬なにかを考えるようにしてから龍平が振り向く。

「…なんだよ。帰らせてくれないか。騙したのは悪かったからさ。」

「そ、そうじゃねえんだよ!」

龍平は眉をひそめる。
遊大は一瞬言うのを躊躇ったが、絶対に聞かなければいけないことだと判断し、口を開いた。

「お前なんじゃないのか。クラスから来月のデュエルモンスターズの大会に出場する奴って…?」

はぁっ、と息をつき、また龍平は前を向き歩き出す。

「…だったらどうするんだよ。」

「お前…今のデュエル、そんなに楽しくなかったんだろ!?」

振り向かず、スタスタと足を進めながら、ため息混じりに龍平が話す。

「お前、さっきから何が言いたいんだ?」

「今、デュエルしろなんて言わない!ただ…」

ピタッ、と龍平は足を止め、遊大のほうへ再び振り向いた。

「お前まさか…!」

遊大も龍平をまっすぐに見て言った。

「大会であたったときは、俺と戦ってくれないか…?」



しばらく龍平はその場に立ったままで、沈黙が続いた。
暮れかけた細い夕日が、2人の男をゆっくりと照らしていた。

「…そうだな。」
それだけ呟くように言って、龍平は学校の坂を下って行った。

遊大はまたしばらく、その場に立ち尽くしていた。



遊大にはわからなかった。
1枚のカードで決着をつけにゆくほどの判断力、そしてデュエル全体を見通す力を発揮し、圧倒的に不利な状況を覆すその技量が。また、そんなにもデュエリストを燃え上がらせる場面であるにも関わらず、内側にあるはずの炎を一切見せずに淡々と相手をひねり潰した彼のデュエルが。

帰るときも、夕飯のときも、眠るときも、そのモヤモヤがずっと心に残っていた。
そして、なぜか分からないが、その男とデュエルをしたいと思っている自分がいることにも、気づいているようであった。

布団の上でぼーっとデュエルディスクをメンテナンスしていると、襖がカタンっと空いて、彼の祖父が顔を覗かせた。
「おめえ、大丈夫か?」

「…ん、ああ。大丈夫だじいちゃん。ちょっと考え事してただけだよ。」

「まあ、大丈夫ってならいいんだけどよ、大会出るって飯のとき言ってた割におめえ、なんか萎えてねえか?」

「…んァー…そうだなァ。らしくないかもしれねぇや。」

そう言って目を擦り、布団にばったりと横たわってみせた。

「なあ、じいちゃんよ。」

「なんだよ。」

「じいちゃんって将棋やってるよな。将棋を好きじゃねえのに続ける奴っているのか?」

老人は白いあご髭をさわさわしている。
「そうだなァ…、おれの周りにいる奴ァみんな楽しくってしょうがないって感じだらァ、そういうのってのァ、強くなればなるほど、普通のモンじゃ刺激が足らなくなって行くんじゃねえのか?」

「…ああ。そうか。」

言葉の通り、なぜか納得のいくような感じがした。彼のデュエルは遊大のものよりもレベルが上だった。
その上のデュエルを見て、圧倒されていたのか、技量だけではなく、その垣間見えた強者の心に。
そして、だからこそ、そんな強者と戦いたいと、血が静かに滾っていたのだ。
と、そんなことを考えていれば、いつしか目を閉じて、気づけば朝になっていた。




















翌日、昼休み

「先生、俺とデュエルしてください!」

ましろは啜っていたコーヒーをダイナミックにデスクに吹き出した。
多くの教員が昼食をとっている職員室で、遊大が突拍子もなく大声でこんなことを叫ぶものだから、驚くのも無理はない。

「お、おまえ何言い出すんだよ!?」

「先生、俺、強くなりたいッス!」

ましろはため息をつき、ティッシュで机を拭いている。

「はァ…例の大会の件か。私も忙しいンだよなァ…。」

「そこをなんとか!お願いしやっス!」

またまた、大声で叫ぶので、ほかの教員もクスクス笑いながら見ている。

すると隣のデスクの別の数学教師がましろの肩をぽんぽんと叩いて小声で言った。

「いいんですよましろセンセ。小テストの採点、私がしときます。」

「お願いしやっス!!」

また大声を出すものだから、ましろもさすがに耐えかねて、絵に書いたようの頭を掻き乱した。


「ああったくわがったよ!わかったから大声だすのヤメロ!!」


遊大はその言葉を聞くと目をキラキラさせてましろの手を握った。

「ありがとうございやスッ!!」

「(…ったくコノヤロウ野球部みてえな口調しやがって…。)」

「いいか!?やるからにはお前を絶対に勝たせるまでやる!途中で折れたらお前のエントリーは取り消すからな!?」


「無論ですッ!勝ちに行きやすッ!」


こうして、遊大の大会への練習が始まった…!


3話に続く


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