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HOME > 遊戯王SS一覧 > 33話 雪の国の守護者

33話 雪の国の守護者 作:名無しのゴーレム









「……お前たちは、この街の歴史についてどれくらい知ってる?」



歩き続けること数分、ようやくスクアーロさんが口を開いた。



「……えーっと。元々雪国で、メシアさんの結界が出来たから雪が降っていなかった……ですよね?」
「まあ、気候面だけを見れば正解だな。歴史として見れば赤点だが」
「歴史、ですか……?」
「ああ。何十年か前まで、この辺りはアルムというやつが治めていた。そいつは世界中でも屈指の実力を持つ英雄だったが、自ら他所へ戦いを挑むようなことはしなかった」



……スクアーロさんの話は、おおよそ昨晩アルムに聞いた通りのものだった。しかしスクアーロさんの依頼主がはっきりしない以上、ここで無闇にアルムのことを言いふらしたりはできない。



「へぇ……そうだったんですね」
「それが、この雪と何の関係があると?」
「まあそう慌てるな、鋼。この街……いや、元は国か。ともかく、ここら一体はアルムが治めていた。そして有事の際にはアルムと共に戦場へ向かった戦士が居たんだ」
「だから、それが……」
「そいつが、今も生きているとしたら?」
「…………」



アルムと共に戦った戦士……その人が、この街に居るってこと……?



「……今さら隠す必要もないから言っちまうが、今回の俺の仕事はメシアの動向を監視することだった。そのついでにこの街を調査していたが、その最中でそいつが生きていることを知ったんだ。でもってメシアがやられた直後に雪が降り始め、この街の連中はすぐに異常に気がついた。と言っても、その原因を理解していたやつなんてほとんどいない。大半の住民はここが雪国だったなんて知りもしないからな……だが、何十年も生きてるような歴戦の猛者なら話は別だ。そいつはすぐにメシアの教会に向かい、そして同じく調査を行っていた俺と鉢合った」
「何だと? ……それで?」
「そりゃまあ問い詰められたさ。そんで俺も隠す理由がないから全部話した。するとあっさり追求を止めて引き返していった……そして、翌日の朝にはこうなってた訳だ」
「つまりお前は、そいつがあの積雪の犯人だと? ……根拠が弱いように思うが」
「待てよ。この話には続きがあるんだ……俺はその後、もう一度そいつに会ったんだ。今度は俺の方からな」



スクアーロさんの方から……一体、何のために?



「……実を言うとだな。俺はお前たちがメシアの教会に入ったのを見ていたんだ。襲撃者の仲間が来るんじゃないかと思ってな。だが、実際に来たのはお前たちだった。そして驚くことに、襲撃者そっくりの女も一緒だった……本当に、あの時はどういうことかさっぱり理解できなかったぜ」
「それで、私たちが彼女と別行動になったタイミングで接触を図ったということか」
「そうそう。だが、それまでに一晩あったからな……俺は教会で会った奴の住み処を突き止め、ちょっと情報を渡したんだ」
「情報だと?」
「……メシアを襲った犯人が、何故か仲間を連れて戻ってきたってな。メシアを倒しちまうような相手だ、俺が何とかすることは出来ない。でも戻ってきた以上放っておくことも厳しい……だから、そいつをけしかけようと思ったんだよ」
「つまり、その人に僕たちを倒させようとしたってことですか……?」
「まあ、そういうことだな。しかし、事態は俺が思っていた方向には進まなかった」



……つまり、今のやりとりがこの事態の引き金だったということか……?



「……あいつは、お前たちの逃げ道を塞ぐことでここへ来るよう誘い込んだんだ。そうしてまんまとお前たちはこの街へ来た。大筋としては俺の期待通りだったが……大きな誤算が2つあった。俺の脱出も難しくなったこと、そして……お前たちの仲間が、襲撃者とは別人だったってことだな」
「……え? スクアーロさん、プリンセスさんが襲撃者じゃないって信じてくれているんですか?」



てっきり、まだ誤解が解けていないと思っていたのに……



「最初から半信半疑だったんだよ。だが、あのデュエルを経て別人だって確信が持てた。使ってたカードが違っていたのが一番の決め手だが……昨日感じた鋭い殺気を、さっきのデュエルじゃ微塵も表に出ていなかった。いくら感情を殺せる達人だろうと、ああも雰囲気を変えられるとは思えなかった。だから俺は、お前たちの言うことを信じることにした……しかし、それはそれで困ったことになる訳だ」
「……困ったこと?」
「さっき言っただろう、あいつは襲撃者を待ち伏せるつもりだって。それまではあの雪はどうにもならない……いや、もっと降り積もってもおかしくない。そうなればあいつを始末しても脱出不可能になる。それは俺も困るからな」



つまり、相手は誤解から僕たちが来るのを待っているということか……しかし、スクアーロさんのある一言がどうしても気になった。



「……始末って、どういうことですか……?」
「言葉通りの意味に決まってるだろう。今さらやっぱり別人でしたー、なんてのが通る相手じゃない。なら、やられる前にやるしかないだろ?」
「え……いや、そんなのおかしいですよ! だって、向こうは僕たちに何も……」
「何もしてないとでも? おいおい、お前たちはどうしてここに来たんだよ。それともこのままこの街で一生暮らしたいのか?」
「そ、それは違うけど……」
「……お前の感覚とは違うだろうが、忍びとしてはスクアーロの考えはそれほどおかしなことではない。忍びにとって何よりも優先されるのは任務の遂行だ。それを妨害する相手が存在するなら排除することも厭わない……無論、不要な戦闘は行わないが」 



……例え鋼さんが認めたとしても、スクアーロさんの考えには同意できない。この状況を何とかするのに、誰かを犠牲にする必要なんてないはずだ。



「それなら、僕が説得します。話し合いで解決するなら、それに越したことはないですよね?」
「……そりゃあな。ただ、説得できるだけの材料があるのか?」
「……自信はないけど、やれるだけのことはやってみるつもりです」
「質問の答えになってないっての……鋼、お前はそれでいいのか?」
「止めるつもりはない。ただし、少しでも危険だと感じたら私が割って入る」
「分かりました。ありがとうございます」
「……まあ、意見が一致したならそれでいいが。それに……もうすぐ到着だ」
「え……到着って、どこに?」



そう言えば、スクアーロさんは歩き始めてから一度も行き先を告げてはいなかった。しかし彼の言い方から考えれば、行き先は……



「決まってる。……元凶の根城だ」











さらに歩くこと数分。僕たちは大きな洞窟に辿り着いた。



「ここに……居るんですか?」
「ああ。準備が出来てるなら中に入るが……」



……正直なところ、怖くないと言えば嘘になる。それでも、やれるだけのことをやるしかない。



「はい……行きましょう!」















引き続きスクアーロさんが先導しながら、洞窟内を進んでいく。雪こそ積もってはいないものの当然のことながら光が無いため薄暗く、どうしても慎重になってしまう。



「しかし、どうしてこんなところに……」
「そんなこと、本人に聞かなきゃ分からんさ。心配しなくてももうすぐだ……ほらな」
「え……!?」



突如、洞窟の中に光が差している空間が目に入る。



「……あそこに居るのか?」
「そうだ。いきなり襲いかかってくるなんてことはないと思うが、一応気を付けておけよ」
「は、はい……」



覚悟を決めて光の中へ進んでいく。すると……
















「…………」







そこには……静かに目を閉じて瞑想する、1人の男性がいた。あまりにも僕たちが近寄ってきたことに気付いているのかどうかすら判別がつかない。



「…………」
「……おい、パール。話がある」



パール……それが、この人の名前なのか。スクアーロさんの呼び掛けに応じるように、彼はゆっくりと目を開いた。



「……なんだ。私に用事でもあるのか?」
「用事があるのはこいつだ。……ほら、あとはお前の仕事だぞ」



スクアーロさんに背中を押され、思わずパールさんの目の前まで行ってしまう。



「えっ、えっと、あの……」
「……子供が何をしに来た。遊びに来るような場所ではないぞ」
「あ、遊びに来たわけじゃないんです。……この街の周辺に異常なまでに雪が積もっているのは、あなたのせいなんですか?」
「……そうだと言ったら?」



口調こそ穏やかなものの、その鋭い視線にどうしても物怖じしてしまう。



「……スクアーロさんから話を聞きました。でも、メシアさんを襲った相手が戻ってきたというのは誤解なんです! 何故かは分からないんですが、その人と僕の仲間の1人がとても似ていて……だから、スクアーロさんも間違えてしまったんです!」
「……スクアーロ、それは本当か?」
「まあな……といっても確証はない。あくまで俺が見た上で、2人を同一人物と考えるのには無理があると思った、それだけだ」



……そう、この問題の一番厄介なところはプリンセスさんが襲撃者と別人であるという確たる証拠がどこにも存在していないことだ。僕たちがいくら証言したとしても、それが信じられない限りは意味もない。



「それを、この俺に信じろと?」
「はい。僕たちは犯人を追うつもりです、だからこの雪をどうにか……」
「話にならんな。俺にはお前たちを信じるだけの根拠がまるでない……お前たちが襲撃者の一味だと考えた方がまだ自然だ」
「そんな……!!」
「俺にはアルムとの約束がある。この街を守り抜くという……そしてメシアは彼女の意思を継ぎ教会に留まっていた。そのメシアを葬った敵を、俺が許すとでも思っていたのか?」
「アルムとの、約束……」






……それなら。一か八か、やるしかないか。






「聞いてください、パールさん。……僕は今、アルムに力を貸してもらい戦っています」
「……どういう意味だ?」



これまでずっと冷静な態度を続けていたパールさんが、ほんの少しだけ眉をひそめて見せる。



「……僕は、こことは違う世界から来ました。そして戦う力を手に入れるために、水面写しの鏡を通してアルムと出会いました。そして、アルムはここに居ます」
「……出鱈目を言うなよ小僧。ここに居ると言ったが、どこにも姿はないだろう。よもや、幽霊になったとでも……」
「本人は、幽霊みたいなものだと言っています。少なくとも、普段は僕以外には見えないみたいです」
「……つまり、アルムは……もう死んでいると、そう言っているのか?」
「……本人は最期の瞬間を覚えていないと言っていますが、きっと恐らくは……」
「馬鹿な!? あいつが誰かに破れたとでも!? そんなはずはない、彼女に勝てるデュエリストなど……っ」



いきなりまくし立てるように怒濤の勢いで言葉を発するパールさん。しかししばらくすると、苦い表情をして黙り込んでしまった。



「……ともかく、僕はアルムと共に旅をしているんです。どうしても信じられないというなら、一緒に教会に来てください。そこならアルムの力が濃いらしく、僕以外の人にも姿を見せることができるらしいです」
「…………」



黙ってしまったまま、一言も言葉を発してくれない。やはり、説得は無駄なのか……?



「……不要だ。第一、姿を見たとしてもそれが本物であるという証拠もない。そんなことに意味はない」
「それなら、どうすれば僕の言うことを信じてくれるんですか!?」
「簡単だ。デュエルで、俺にお前を信じさせてみろ。アルムと共にあるというなら、デュエルでそれを示して見せろ」
「デュエルで、示す……分かりました」
「待て勇者、危険だ!」
「大丈夫です、鋼さん。……僕に任せてください」
「…………っ、分かった」



飛び出そうとした鋼さんを止め、瞑想の姿勢から立ち上がろうとするパールさんを見つめる。



「アルム……」
『こうなってしまったら、もうデュエルは避けられないわ。彼は頑固であるけれど、一度認めた相手には敬意を払う。ここは彼の言う通り、デュエルであなたの意思を伝えるしかない』
「……分かったよ」



デュエルで意思を伝える……いまいちピンと来ないけれど、とにかく今はデュエルするしかない。



「準備はいいか……行くぞ!」
「はい!」












「「デュエル!!」」














キャラクター紹介

パール
モチーフ:【パールディン】 作者様:ギガプラント様
過去にアルムと共に国を守るため戦い抜いた男。
アルムに絶大な信頼を寄せていたが、彼女が消えてからは誰にも頼ることなく1人で国を守っていた。


【パールディン】の使用許可を下さったギガプラント様、本当にありがとうございます!



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ギガプラント
お!早速でてきたパールディンの人。
堅物っぽさはあるものの、よくいるデュエル脳らしいのでデュエルに勝てば協力はしてくれそうか…?
パールディンは以前別のSSでも使って頂いた事があり、強化的な事もしたので御伽現影よりは使いやすいかもですね。寧ろ強化が要るのはリーガリアンの方か…。 (2019-07-28 01:53)
名無しのゴーレム
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
よく考えたら話を通していないことに直前になってから気付いたので今回のような形になってしまいました。
デュエルで認めてもらうというのは割りとよくあることですが、今回はどうなるやら…
パールディンの方はデュエル構成も完了してますが…まあ、こちらの感想はデュエルが終わってからということで。 (2019-07-28 14:22)

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