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HOME > 遊戯王SS一覧 > 71話 魂を喰らう外道

71話 魂を喰らう外道 作:名無しのゴーレム









ユージ LP4450 手札3 モンスターゾーン 白き地の女神ブランシェ(表側守備表示)、白き地の女官セッカ フィールド魔法 白銀の神樹ハレニレ
ゲドウ LP2650 手札4 魔法・罠ゾーン 外忍-ユキヒメコ、外忍-トビヤンマ



「俺のターン、ドロー」



こちらのフィールドにはモンスターが2体。攻撃力も高い以上、相手も処理には手間がかかるはず。



「リバースカードオープン。罠カードとしてのトビヤンマの効果発動、手札の外忍1体を捨てて2枚ドロー。そして『外忍-ミンミンマル』を召喚。ミンミンマルの効果発動、手札から外忍モンスター1体を特殊召喚する。来い、『病魔の外忍-ルリノキミ』! さらに墓地のサラマントカゲの効果発動、フィールドのミンミンマルを破壊して自身を特殊召喚! 破壊されたミンミンマルの効果発動、自身を罠カード扱いでセットする」



モンスターを展開しつつ罠を伏せる……攻防一体、厄介な戦術だ。



「リバースカードオープン! 罠カードとしてのミンミンマルの効果発動、デッキから外忍モンスター1体を特殊召喚する。来い、『外忍-タコシバリ』! 速攻魔法『外道忍術-獄炎昇禍』発動! 自分フィールドの外忍モンスター1体を破壊して墓地の外忍モンスターを特殊召喚する。俺はサラマントカゲを破壊してミンミンマルを特殊召喚! さらに炎属性のサラマントカゲを破壊したことで追加効果発動、お前のフィールドのブランシェを破壊して500ダメージを与える!」


ユージ LP4450→3950


「くっ……ブランシェが破壊されたことで、セッカの攻撃力も下がります」


白き地の女官セッカ 攻撃力2700→2400


ブランシェが破壊されてしまったが、まだ相手モンスターよりセッカの方が攻撃力は上。ここを、越えてくるのか……!?



「……さて、準備は整った。俺はレベル7のルリノキミとレベル2のタコシバリに、レベル1のミンミンマルをチューニング! 魂を喰らい怨嗟を謳え、悪逆非道の修羅の王! シンクロ召喚、『無双の外忍-シュラオロチ』!!」



フィールドに現れたシンクロモンスター……その禍々しさに、思わず背筋が凍りつく。これが、神代の英雄の力……!!



「バトルだ。シュラオロチでセッカを攻撃!」


ユージ LP3950→3650


「くっ……!!」



わずか300のダメージに反し、全身に激痛が走る。身体が、重い……



(アルム……!!)
『任せなさい』



アルムの力……全身の体温を急激に下げることで、一時的に痛覚を麻痺させる。普通の人間がこんなことをすれば命に関わるけれど、今の僕ならある程度は耐えられる……らしい。



「ふぅ……」
「なるほど、今の一撃を受けて膝もつかないか。やっぱり、まともな人間ではないらしい。俺ほどではないだろうが」
「…………」



彼の推測は正しい。ここまでやり合うことが出来ているのは、ほとんどアルムの力のおかげだ。それも長くは持たない……無策で長期戦になってしまえば、僕の身体がどうなるか分からない。



「バトル終了、そのままターンエンドだ」



ユージ LP3650 手札3 フィールド魔法 白銀の神樹ハレニレ
ゲドウ LP2650 手札3 モンスターゾーン 無双の外忍-シュラオロチ 魔法・罠ゾーン 外忍-ユキヒメコ



「僕のターン、ドロー」



相手のフィールドには攻撃力2700のシュラオロチと、こちらのカード効果を無効化してくるユキヒメコがいる。迂闊な展開は出来ない……それでも、この手札で取れる選択肢はそう多くない。



「『白き地の行商人ツグミ』を召喚。ツグミの効果発動! 手札の白き地のと名のつくカードをデッキに戻して、カードを1枚ドロー。自分フィールドに白き地のモンスターが存在することで、手札から『白き地の召使いロッカ』を特殊召喚。レベル3のツグミとロッカでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!白き地に産まれし幼き女神よ、烈火の如く聖域を侵す敵を焼き尽くせ! エクシーズ召喚、『白き地の女神ペルサンテ』!」
「へぇ……今度はランク3か」
「ペルサンテの効果発動! 自身のオーバーレイユニットを1つ取り除き、相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える。シュラオロチの攻撃力……2700のダメージ!」
「もちろんそれは通さない。リバースカードオープン! 罠カード扱いのユキヒメコの効果発動、ペルサンテの効果を無効にする!」



ここまでは想定通りだ。厄介なユキヒメコを処理できたから、次は……



「ハレニレの効果発動! 墓地のブランシェをデッキに戻してペルサンテの攻撃力を600アップ!」


白き地の女神ペルサンテ 攻撃力2200→2800


「バトル! ペルサンテでシュラオロチを攻撃!」



この攻撃が通れば、相手のフィールドは空になる。もし妨害があっても……



「シュラオロチの効果発動。相手モンスターの攻撃宣言時、墓地の外忍を除外することでその攻撃力を自身に加える。俺は攻撃力1850のマナツカゲロウを除外!」


無双の外忍-シュラオロチ 攻撃力2700→4550


「なら、手札から速攻魔法『白き地の魔除け』発動! このターン、ペルサンテは戦闘・効果で破壊されない!」


ダメージは受けるけど、これでペルサンテを守る……!!


「シュラオロチの効果発動! 手札の外忍モンスターか外道忍術を捨てることで、相手が発動した魔法・罠カードの効果を無効化する!」
「そんな……!?」


ユージ LP3650→1900


「っ……」



こちらの攻撃は返り討ちに遭い、フィールドにモンスターが居なくなった……まさか、シュラオロチにあんな効果があったなんて。



「……バトル終了。自分フィールドに白銀のと名のつくフィールド魔法が存在することにより、手札から『白き地の白狼エゾ』を表側守備表示で特殊召喚!」
「何とか壁となるモンスターを並べたか。だが、それで次のターンを凌げるか?」
「……ターンエンド。ハレニレの効果で1枚ドロー」



ユージ LP1900 手札1 モンスターゾーン 白き地の白狼エゾ(表側守備表示) フィールド魔法 白銀の神樹ハレニレ
ゲドウ LP2650 手札2 モンスターゾーン 無双の外忍-シュラオロチ



「俺のターン、ドロー」



僕を守るのは守備表示のエゾだけ。攻撃力1900以上のモンスターが出たら……僕は負ける。



「……仕方ねぇ。墓地の『外道忍術-獄炎昇禍』の効果発動。自身を除外して、デッキから炎属性の外忍モンスターを罠カード扱いでセットする。バトルだ、シュラオロチでエゾを攻撃!」
「……!!」
「バトル終了。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」



ユージ LP1900 手札1 フィールド魔法 白銀の神樹ハレニレ
ゲドウ LP2650 手札2 モンスターゾーン 無双の外忍-シュラオロチ 魔法・罠ゾーン 伏せカード2枚



何とか、耐えきった……でも、相手のフィールドには伏せカードが2枚。特にデッキからセットされたカードは、明らかにこちらを妨害する罠のはず。



「僕のターン、ドロー」
「この瞬間、リバースカードオープン! 永続罠『外道忍術-呪氷牢縛』発動! このカードが存在する限り、手札・エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターはそのターン攻撃できず、効果も発動できない!」



……これでは、ブランシェを再度エクシーズ召喚してシュラオロチを攻撃するという戦術は取れない。



「スタンバイフェイズに、墓地のエゾの効果発動。墓地の白銀のと名のつくフィールド魔法1枚を除外して、自身を特殊召喚」



残った手札は2枚……凌ぐだけじゃ駄目だ、何とかできる方法を探さないと。



「メインフェイズ……墓地のエリカの効果発動! 墓地から自身とヴェリテオテルを除外して、デッキから白き地のモンスター1体を手札に加えます。さらに手札から通常魔法『乱氷鳳集』発動! 墓地の白き地のと名のつくカード全てをデッキに戻して、その枚数以下のレベルを持つモンスター1体をデッキから特殊召喚します。僕は……」
「シュラオロチの効果発動! 手札の外忍モンスターまたは外道忍術カード1枚を捨てることで、効果の発動を無効化!」
「くっ……」
「これを通せばブランシェがまた出てくる。さすがにあの火力は何度も相手にしたくはないからな」



これで1回……相手の手札は残り1枚だけど、シュラオロチの効果のコストになるのは外忍モンスターか外道忍術だけ。それ以外のカードなら、もうシュラオロチは効果を使えない……確証はないが、今動くしかない。



「通常魔法『白き地の外交術』発動! 自分フィールドのエゾをデッキに戻して2枚ドロー。この効果を発動したターン、相手が受ける戦闘ダメージは0になります」



ドローした2枚のカードを確認する……今、ここでやるしかない。



(行くよ、ネージュ!)
『おっけー!』



「手札から永続魔法『雪精霊との契約』発動、そのまま効果発動! 手札1枚をデッキに戻して、デッキから雪精霊モンスター1体を手札に加えます」



雪精霊……ネージュが力を貸してくれたことで、このカードも使えるようになった。



「『雪精霊アジーラ』を召喚! アジーラの効果発動! 自分フィールドに自身以外のモンスターが存在しないとき、デッキから2体の雪精霊を特殊召喚する。来て、『雪精霊ドワージ』『雪精霊トリウーム』! さらに『雪精霊との契約』の効果発動、ライフを500払うことでデッキからイヴェールと名のつく儀式魔法を手札に加える」


ユージ LP1900→1400


「そして儀式魔法『イヴェールの秘術-契約の儀』発動! フィールドの白き地のモンスターをリリースして、その合計レベル以下の儀式モンスターをデッキから儀式召喚する!」
「デッキから……いや、そもそもお前のフィールドには白き地のモンスターなんて居ないだろうが!」
「雪精霊はルール上白き地のモンスターとしても扱う! 僕はアジーラ、ドワージ、トリウームの3体をリリース! 儀式召喚、『雪精霊ノーミン』!!」



デッキから儀式召喚したノーミンなら、呪氷牢縛の効果も無視できる。



「ノーミンが儀式召喚されたターン、相手はモンスター効果を発動できない。ノーミンの効果発動! 墓地のアジーラを除外して、デッキから白き地のと名のつく儀式モンスター1体を手札に加える。さらに手札のロッカを特殊召喚。そして墓地の契約の儀の効果発動! このカードを除外して、もう1度儀式召喚を行う! 僕はフィールドのノーミンとロッカをリリース!」
「儀式モンスターを素材に……儀式召喚!?」



驚きの声をあげるゲドウの口からは、いつの間にか白い息が出ていた。周囲の壁にもうっすらと霜が降りていた。意図した訳でもなく、ただデュエルしただけでこんなことに……しかし、今は目の前の相手に集ないと。



「数多の願いを紡ぎ戦場に立て、伝説を継ぎし英雄! 儀式召喚、『白き地の雷公タイガ』!!」
「攻撃力……3000!?」
「リリースされたノーミンの効果発動! 自身をタイガに装備する。この効果でノーミンを装備したモンスターは相手のモンスター効果を受けず、攻撃力を500アップする!」


白き地の雷公タイガ 攻撃力3000→3500


「さらにタイガの攻撃力はフィールド・墓地の白き地のモンスターの数×100アップする。合わせて10体、攻撃力1000アップ!」


白き地の雷公タイガ 攻撃力3500→4500


「ハレニレの効果発動! 墓地の白き地のモンスターをデッキに戻して、白き地のモンスターの攻撃力を600アップ!」


白き地の雷公タイガ 攻撃力4500→4400→5000


「攻撃力、5000……とんでもねぇな」
「バトル! タイガでシュラオロチを攻撃!」
「リバースカードオープン! 罠カードとしての『外忍-ホムラフォックス』の効果発動! 相手モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドの最もレベル・ランクが高いモンスターを除外する!」
「フィールドのモンスターのみを素材として儀式召喚されたタイガは、罠カードの効果を受けない!!」
「なっ!?」



炎の壁をものともせず、タイガの斬撃がシュラオロチを切り裂く。外交術の効果で戦闘ダメージは発生しない……それでも、バトルによる衝撃が部屋中を駆け巡る。



「っ…………!!」
「…………やるじゃねえか」
「バトル終了、そのままターンエンド。ハレニレの効果で1枚ドロー」



ユージ LP1400 手札1 モンスターゾーン 白き地の雷公タイガ フィールド魔法 白銀の神樹ハレニレ 魔法・罠ゾーン 雪精霊との契約、雪精霊ノーミン
ゲドウ LP2650 手札1



「俺のターン、ドロー」



相手のフィールドには何もなく、手札も2枚のみ。こちらはモンスターと罠カードの効果を受けない攻撃力5000のタイガがいる……そう簡単にはいかないはず。



「…………」



手札を見つめたまま動きを見せないゲドウ……このフィールドを打開する策を巡らせているのか?



「…………うん、無理だな。俺はこれでターンエンドだ」
「……え?」



何もしないで、ターンエンド……!?



「ど、どうして……!?」
「どうしてって、そりゃあ俺に出来ることは何もないからだ。次のターンにお前がダイレクトアタックすれば俺のライフは尽きる。あーあ、負けちまったなぁ」
「…………」



……なんだ、この違和感は。本当にこのまま僕のターンが回ってくるなら、このままバトルフェイズに入ればほぼ間違いなく勝てる。つまり、彼は命の危機に瀕しているはずなのに……どうして、ここまで余裕の表情をしていられるんだ?



「……ほら、ターンエンドと言ったはずだ。次はお前のターンだぞ?」
「わ、分かっているんですか? このまま僕が攻撃すれば……」
「ああ、俺のライフは0だ。さあ、早くやれよ」
「っ、自分の命が惜しくないんですか!?」
「命? そんなの、惜しいに決まってるだろ」
「それなら……!!」
「そうだな……小僧、1つ昔話をしてやろう」
「昔話……?」



……理由は分からないけど、時間を稼げるなら好都合だ。相手の話を聞くのはリスクがあるけれど、アルムの力があれば問題ないはず。



「……百と数十年ほど前だったか。俺は2人の仲間と一緒に、この里を築いた。神々どもの支配の及ばない、人間の国を作ったんだ」
「…………」
「それからしばらくして、ほとんどの神が倒された。俺たちも自由を手に入れた訳だが……なにせこんな世界だ。平和を脅かす敵なんざどこからでも湧いてくる。だが、いつまでも俺たちが守っていける訳じゃない。どう見積もっても100年やそこらが限界……だから、俺たちは考えたんだよ」
「…………何を?」
「決まってる……不老不死の身体を得る手段だ」



不老不死、だって……!?



「結論から言えば、俺たち3人はそれぞれの手段で不老不死を実現した。ただし、それぞれ不完全な形でな」
「それぞれの、手段……?」



いや、引っ掛かるべきはそこじゃない。『3人』……!?



「そのうち、俺が取った手段だが……その前に、1つ聞いておくか。この世界の人間は、デュエルに負けると消滅する。このメカニズムを、お前は知っているか?」
「え……?」
「まあ知らないだろうな。普通に考えて、デュエルによって与えられる身体的なダメージで人が死ぬわけない。神と呼ばれるような連中相手なら分からないが……それに、単なる死亡でなく消滅というのも変だ。その辺りを実際に確かめるために……俺は実験を繰り返した」
「実験……?」
「ああ。端的に言えば……人はどうしたら死ぬのか、という実験だ」
「!!」
「ははは、まあそんな反応になるだろうな。そして俺は1つの結論に達した……この世界の人間は、デュエルでダメージを受ける。しかしそれは……魂に」
「たま、しい……そのせいで、デュエルに負けると……」
「魂に深刻なダメージを負い、消滅するってことだ。逆に言えば、魂の質量が膨大であれば1度デュエルで負けた程度では消滅しない」



魂にダメージを負って、消滅する……だから、僕はデュエルに負けても大丈夫なのか。



「そこが分かれば、不老不死へ至る方法も見えてくる。肉体と魂、この2つの強度を維持すればいい」
「でも、そんなこと……」
「出来るから俺は今ここにいる。簡単な話だ……他の奴から奪えばいい」
「奪うって、何を?」
「魂をだよ。肉体の方は自前でどうとでも出来るからな。そして、俺はそれを実践した」
「実践……まさか!?」
「そのまさかだ。他の奴の魂を取り込み、その物量を増やした。その副作用で使える能力も増えて、出来ることも増えていった……それが咎められて、こうして捕らえられていたんだが」
「魂を取られた人は……」
「もちろん消滅したさ。改めて俺の仮説が立証されたわけだな」



自分が生きるために、他人の魂を喰らうなんて……!!



「…………」
「……まあ、お前には理解できないだろうな。異世界から来た勇者サマ」
「…………ど、どうしてそれを!?」
「さあ、どうやったんだろうな?」



……鋼さんの推測によれば、折神というこの里の権力者がゲドウによって操られている可能性があると言っていた。それが事実なら、スクアーロさんたちが得た全ての情報を知っていてもおかしくはない……ということか?



『落ち着きなさい、ユージ。相手のペースに乗せられて、余計なことを話さないようにしなさい』
「…………」
「……なるほど、そう考えれば俺の幻術を見破ったカラクリも理解できる。お前が水面写しの鏡を経由して力を貸してもらっている存在……そいつの視覚がお前と共有されているなら、お前を対象とした幻術にかかることはない」



……ゲドウの言う通りだ。彼の術にかからない対策として、僕はアルムと五感を共有していた。人の心を操るような術は精密なコントロールが必要、それならこの方法で突破できる……影さんのお墨付きも貰った手段だ。



「しかし恐ろしいもんだ、この部屋の気温はとっくに氷点下に達している。ただデュエルしていただけで、な。扉が開かなかったのも、周辺を氷付けにしたからか……もはやどっちが怪物か分かったもんじゃないな」
「…………」



この力の恐ろしさは僕だって理解している。上手くコントロールできてない分、誰よりも脅威的であるとすら言えるのかもしれない……



「さて、そろそろ時間か」
「時間……?」






バァァァン!!






疑問の声をあげるのとほぼ同時に、激しい爆発音が部屋中に鳴り響く。



「!!」
「言っただろう、魂を喰らう中で能力を身に付けていったと。時間はかかったが、扉を吹き飛ばすくらいの火力は道具を使わなくても用意できるんだよ」
「……逃げる、つもりですか?」
「そりゃそうだ。もうここに居る理由もないからな」



……拘束されてもいなければ、扉も自力で破壊できる。そんな彼がここに留まる理由なんて、どこにあると……?






「……ほぅ、面白いことになってるじゃないか」






扉の奥……暗闇の中から男の声がする。いや、どこかで聞いたことがあるような……身構えていると、声の主がその姿を表す。



「久しぶりだな、勇者。アミューズぶりだったかな?」
「あ、あなたは……アナザー!!」



アミューズで僕に接触を図り、マキナさんとともに姿を消した男性……彼が、どうしてここに?



「おや、覚えていてくれたのか。だがしかし、今のところ君に用事はない……大人しくしてくれないだろうか」
「用事って……一体、何をしに来たんですか!?」
「残念だけど、丁寧に説明するつもりはないんだ。ゲドウ、もういいだろう?」
「ああ。上の戦いも大勢が決したようだからな」



上の戦い……まさか、地上の様子も把握しているのか!?



「中々面白いものを見せて貰ったし、ここに留まっていた価値はあったな。お前が見せてくれるものにも期待してるぜ、アナザー」
「期待してくれて構わないさ。なにせ次の演目は……歴史上最も大きな戦いとなるだろうから」
「へぇ……そりゃあ興味がある」



恐ろしい話をしながら、地上へ出ようとする2人。このまま行かせたら、鋼さんたちが……



「ま、待って……!!」



脱出を阻止しようと足を動かした瞬間、全身の感覚が消失する。思わぬ事態に直面し、そのまま膝から崩れ落ちてしまう……



「な、なにが……」
『……時間切れよ』



2人が階段を上っていってしまった、少し後……五感を共有するために完全に一体化していたはずのアルムが、目の前に姿を見せていた。



「じかん、ぎれ……?」
『そう。いきなり力を使いすぎたのよ、あなたは。全力でのデュエルに加えて痛覚遮断まで……その負担に、身体が耐えきれなかった結果が今のあなた』
「……でも、このままじゃ鋼さんたちが!!」
『ゲドウが言っていたでしょう、大勢は決したと。それに、地上がどうであろうとこれ以上あなたに出来ることはないわ』
「くっ…………!!」



悔しいけど、アルムの言う通りだ。こうなってしまった以上、もう僕に出来ることは…………ない。









「鋼さん……どうか、無事で……!!」









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