72話　折り重ねる力　作：名無しのゴーレム

「また、ここへ……」






数時間前と同じように、私はその屋敷の前に立つ。スクアーロと影が里全体の、そして勇者がゲドウの足止めを務めている。全ては、私にかかっている……絶対に失敗は許されない。






「…………」






躊躇っている暇はない。意を決し、戸を開き屋敷へと足を踏み入れる……









「まさか、またここへ戻ってくるなんてね」
「御館様……」
「また地下へ繋がれたいというならそうしてあげる。今度こそ逃げられないように、足の一本でもへし折ってあげようかしら」
「此度は、あなたを救いに参りました」
「…………は？ 私を、救いに……？」
「あなたはゲドウに操られている。その術を解くために、ここへ戻ってきたのです」
「……ああ、なるほどね。私がゲドウに会ったことで、あいつの術にかけられたと言いたいってわけ。私も甘く見られたものね」
「…………」



御館様の言う通り……いくらゲドウが人外の域に達してると言えど、彼女も同じ時代を生きてきた存在だ。普通であればそう易々と嵌められることはないだろう。そう、『普通』ならば。



「付け入られる隙があることは、あなたが一番分かっているはずです」
「……その言葉、よりにもよってあなたが言うなんてね」
「御館様が私へ多大な感情を持っていることは承知しています。でも……いや。だからこそ、私はあなたのもとを離れた」
「思い上がりもいい加減にしなさい。あなたのことなんてどうでもいい……その身体を、もうどこへも行かせはしない」
「……ええ、分かっていますとも。あなたが『私』を見ていないことなど。それが私には……耐えられなかった」



私自身の、嘘偽りのない言葉……それでも、彼女は顔色一つ変えはしない。むしろ……



「そう。あなたは逃げ出した……そんなあなたが私を救う？ ふざけるのも大概にしなさい」
「……言葉での説得が叶わないことも分かっていました。ならば、残る方法は1つのみ」
「デュエルで私に勝つとでも？
私も随分舐められたものね……そもそも、私とあなたじゃ勝負にすらならないということを……忘れたのかしら！！」






彼女の言葉とともに、地面から無数の紙束が舞い上がる。先ほどと同様に、私を拘束するつもりか……






「さあ、無様に倒れ伏しなさい！！」






全方位から襲い掛かる、白き暴威。回避は不可能……だが。






「あなたも、私をあまり舐めない方がいい」






私の全身へ纏わりつこうとする紙は、しかしその瞬間に発火した。真っ黒な灰になったそれは、制御を失い畳の上に散らばっていく。



「なっ……！？」
「あなたが育てた忍は、同じ策を二度も喰らう間抜けではありませんよ……さあ、始めましょうか」
「……いいでしょう。デュエルなら私に勝てるというなら、それが大きな間違いだってことを教えてあげる！！」



……ここから先に、策はない。ただ純粋に、デュエルで勝利するだけだ……！！












「「デュエル！！」」












鋼　LP8000　手札5
折神　LP8000　手札5



「先攻はあなたに譲ってあげるわ。精々足掻いてみせることね」



……彼女の意図が読めない。只の余裕か、戦略の内か……どちらにせよ、私のすることは変わらない。



「……なら、私のターン。手札から『鋼牙忍者アヤメ』を召喚。アヤメの効果発動、デッキから『鋼牙忍者サクラ』を手札に加え、レベルを同じにする」



鋼牙忍者アヤメ　レベル1→3



「儀式魔法、『鋼牙忍法・神獣招来』発動！ 手札からレベル4の『鋼牙忍者タチバナ』、フィールドから『鋼牙忍者アヤメ』をリリースする。漆黒の守り神よ、闇夜に紛れ敵を討て！ 儀式召喚、『鋼牙神獣 ヌバタマ』！！」
「ヌバタマ……カード効果を受けない、攻撃力2500の儀式モンスター。まさに様子見ってことね」



当然のことながら、相手にはこちらの手の内がほとんどバレてしまっている。罠を仕掛けようとすぐに見抜かれてしまうだろう……何にせよ、厳しい戦いは避けられない。



「リリースされたアヤメとタチバナの効果発動。墓地のタチバナ、アヤメを自分フィールドにセットする。私はこれでターン終了だ」



鋼　LP8000　手札2　モンスターゾーン　鋼牙神獣ヌバタマ、鋼牙忍者タチバナ（裏側守備表示）、鋼牙忍者アヤメ（裏側守備表示）
折神　LP8000　手札5



「私のターン、ドロー。手札から『折神使い 黒髪姫 更紗』を召喚。更紗の効果発動、手札からレベル4以下の折神と名のつくモンスターを特殊召喚する。来なさい、『折神使い 白翼童子 真絹』」



瞬く間にフィールドに並べられた、2体のレベル4のモンスター。となれば、彼女の狙いは……



「真絹の効果発動、デッキから折神と名のつくカード1枚を自分の魔法・罠ゾーンにセットする。レベル4の更紗、真絹でオーバーレイ。エクシーズ召喚、『積層折神 万骨鬼将』！」



やはりエクシーズ召喚……しかし、その攻撃力はヌバタマに劣る。この状況で繰り出したということは、ヌバタマを攻略出来る効果を持っているということか……？



「万骨鬼将の効果発動。自身のオーバーレイユニットを1つ取り除き、折神モンスターの攻撃力をターン終了時まで1000アップする。私は万骨鬼将を選択する」



積層折神 万骨鬼将　攻撃力2200→3200



「ヌバタマの攻撃力を、上回るか……！！」
「墓地に送られた更紗の効果発動、デッキから折神と名のつく魔法・罠カード1枚を手札に加える。そして手札から永続魔法『折神構築』を発動。折神構築の効果発動、私のフィールドにセットした折神と名のつくカードを発動する。私は通常罠『折神之壱 舞鶴』を発動。効果で自身を効果モンスターとしてフィールドに特殊召喚する」



伏せカードから現れた1枚の白い紙が折り重ねられていき、鶴の形を取りフィールドに降り立つ。罠モンスターの弱点である発動タイミングの遅さを克服した……これが彼女のデッキか。



「バトルよ。万骨鬼将でヌバタマを攻撃」



鋼　LP8000→7300



ヌバタマはフィールドを離れた際に墓地の鋼牙忍者をセットする効果を持つ……しかし、現在私の墓地にモンスターは存在しない。



「続けて舞鶴でセットモンスターを攻撃」
「攻撃を受けたアヤメの効果発動、デッキから鋼牙忍者1体を手札に加える」
「……バトル終了。カードを1枚伏せて、ターン終了よ」



鋼　LP7300　手札3　モンスターゾーン　鋼牙忍者タチバナ（裏側守備表示）
折神　LP8000　手札3　モンスターゾーン　積層折神 万骨鬼将、折神之壱 舞鶴　魔法・罠カード　折神構築、伏せカード1枚



「私のターン、ドロー」



ヌバタマこそ破壊されたが、このフィールドと手札なら立て直しは容易い。懸念があるとすれば、あの伏せカード……そして彼女のフィールドに並べられたモンスターの効果。迂闊に攻めれば勝負が決まってしまう恐れもある。ここで私の打つべき手は……



「『鋼牙忍者サクラ』を召喚。サクラがフィールドに存在する限り、私は通常の召喚に加えてもう一度召喚出来る。サクラをリリースし、『鋼牙忍者ハナミズキ』をアドバンス召喚。リリースされたサクラの効果で墓地のアヤメをセット。さらにハナミズキの効果発動。相手モンスター1体の攻撃力を0にし、効果を無効にする。私は万骨鬼将を選択する」



積層折神 万骨鬼将　攻撃力2200→0



「そして裏側守備表示のタチバナを反転召喚。バトル、タチバナで万骨鬼将を攻撃！」



折神　LP8000→6200



「オーバーレイユニットとして墓地に送られた真絹の効果発動。自身を魔法・罠ゾーンにセットする」
「モンスターを、セットだと！？」



……つまり折神構築は伏せた罠を即座に発動する手段ではなく、魔法・罠ゾーンにセットされた折神モンスターをどうにかする手段ということか……！？



「……っ、ハナミズキで舞鶴を攻撃！」



折神　LP6200→5600



「破壊された舞鶴の効果発動。魔法・罠ゾーンに伏せられた真絹を発動。真絹の効果で自身を特殊召喚する。特殊召喚に成功したことにより、真絹の効果でデッキから折神と名のつくカード1枚を魔法・罠ゾーンにセットする」



なるほど……モンスターが魔法・罠カードを用意し、魔法・罠で伏せられた折神モンスターを発動、再びフィールドに特殊召喚するというのが彼女の戦略か。いくら戦闘を仕掛けてもモンスターを減らすことが叶わない。長期戦はこちらも得意ではあるが、そうなれば情報のアドバンテージ差があまりにも大きく影響し過ぎる。外で里の忍やゲドウを引き付けている3人の為にも、無闇にデュエルを長引かせる訳にはいかない。何とか、突破口を……



「……バトル終了、そのままターン終了」



鋼　LP7300　手札2　モンスターゾーン　鋼牙忍者ハナミズキ、鋼牙忍者タチバナ、鋼牙忍者アヤメ（裏側守備表示）
折神　LP5600　手札3　モンスターゾーン　折神使い 白翼童子 真絹　魔法・罠カード　折神構築、伏せカード2枚



「私のターン、ドロー。リバースカード、ダブルオープン。通常罠、『折神之弐 花菖蒲』『折神之参 蝦蟇蛙』。2枚をモンスターとしてフィールドに特殊召喚する。レベル4の真絹、花菖蒲、蝦蟇蛙の3体でオーバーレイ。エクシーズ召喚、『積層折神 鶴翼千羽』」



3体のモンスターを素材にして現れたのが、攻撃力1000のエクシーズモンスター……何かあるのは間違いないが、どう仕掛けてくるつもりだ……？



「バトル。鶴翼千羽でアヤメを攻撃」
「攻撃を受けたアヤメの効果発動、デッキから鋼牙忍者1体を手札に加える」
「……手札から速攻魔法『折神変形』を発動。フィールドの折神エクシーズモンスターを素材として、折神エクシーズモンスターをエクシーズ召喚する」
「バトルフェイズ中に、エクシーズ召喚だと！？」



最初から連続攻撃を狙って……いや、だとしてもわざわざ事前に3体の素材を必要とし、攻撃力の低い鶴翼千羽をエクシーズ召喚する必要がない。まだ、何かがある……！！



「そして、この効果で鶴翼千羽を素材とする時にのみ『真積層折神』エクシーズモンスターをエクシーズ召喚出来る」
「！？」






鶴翼千羽を構成していた無数の紙が周囲に散らばり、再度集まり形を成していく……この威圧感、間違いない。これから繰り出されるモンスターは、彼女の『本気』だ……！！






「折り重なりし願いが、大いなる力を呼び起こす。群がる邪悪を浄化せよ！ エクシーズ召喚、『真積層折神 無限鳳凰』！！」






屋敷を覆い尽くさんというほどの巨体……まともに攻撃を喰らえば、ライフが尽きる前にこちらの身が保たない。



「バトル続行。無限鳳凰でハナミズキを攻撃」



鋼　LP7300→6700



「……！！」



無限鳳凰から放たれた光のブレス。その軌跡を目視することすら出来ないまま、ハナミズキごとこちらの身体を……『抉り取った』。



「っ、グッ……！？」
「どうかしら、無限鳳凰の攻撃を受けた感想は。まずは掠り傷にしてあげたけど、まともな方法では回復出来ないわよ」



彼女の言う通り、攻撃を受けたのは腹部をほんの掠めた程度。しかし身体を消し飛ばされた以上、出血は止められない。回避も防御も不可能、こんな攻撃を受け続ければ……



「罠カードとエクシーズモンスターをオーバーレイユニットとする無限鳳凰は相手の効果を受けず、1ターンに2回の攻撃が可能。続けて無限鳳凰でタチバナを攻撃！」



鋼　LP6700→5500



「ッ！！？」



2度目の攻撃は、肩を……あまりの激痛に、思わず膝をついてしまう。左腕が、上がらない……



「……降参するなら今のうちよ。私だって、殺さないようにいたぶるのは限度があるの。あまり往生際が悪いようなら……本当に死ぬわよ？」
「その、ようですね……このまま行けば、私の命はないでしょう」



そう、このままでは勝てない。『このまま』では……持てる全てを費やさなければ、同じ土俵に上がることすら許されない。もちろん、分かっていたことだ。



「ですが、降参はしません。最後まで、戦い抜いてみせましょう。そして、あなたを……」
「っ、痩せ我慢を……！！ バトル終了、カードを2枚セットしてターン終了よ。どこまで耐えられるか、私に見せてみなさい」



鋼　LP5500　手札3
折神　LP5600　手札1　モンスターゾーン　真積層折神 無限鳳凰　魔法・罠カード　折神構築、伏せカード2枚



「…………」



2箇所の負傷……特に肩をやられたのが大きい。左腕を持ち上げようとすると激痛が走る、これではデュエルの続行すら難しい……やるしか、ないか。






「……行くぞ、折神」
「……？ まさか、あなた……！！」


















「……『俺』のターン。ドロー！！」