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HOME > 遊戯王SS一覧 > 23話 戦乱を望む者

23話 戦乱を望む者 作:名無しのゴーレム








「……ああ、自己紹介がまだだったわね。私はマキナ……メシアの、そしてあなたたちの敵よ」









「僕たちの、敵……」


これは正面からの宣戦布告。向こうは2人、こちらも2人ではあるけれど、鋼さんは戦えるような状態じゃない。僕1人で、この状況をどうすれば……


「……それにしても、どうして勇者がここに居るのかしら。アナザー、あなたの差し金?」
「まあ、そうなるかな。君の命令通り彼らの足止めをしようとしたんだが、まさかアミューズに来るとは……いやはや、想定外だった」
「白々しい言い訳ね」


僕たちの、足止め……


「……まさか、プリンセスさんの馬車を壊したのは!?」
「もちろん私だ。いやはや、あんなことをやったのは初めてだったが……まあ、そこそこ楽しかった。そのせいで君たちが仲間割れするとは思っていなかったが」
「何それ、どういうこと? ……ともかく、私はあなたにどうしても聞いておかないといけないことがあるのよ、勇者」
「僕に、聞かないといけないこと……?」
「ええ。あなたはどうして彼女の……アルムのデッキを、使っているの?」
「え……アルムを、知っているんですか?」
「知っているか、ですって? 知っているに決まってるじゃない」


僕の質問に答えたマキナ……さんは、さらに鋭い目付きで言葉を続ける。


「アイツを倒す……そのために私はデュエルの腕を磨いてきた。それなのに、アイツは……答えなさい、アルムはどこに居るの!?」
「ど、どこって……」
『……ユージ、正直に答えなさい。それ以外にこの状況を乗り越える方法は無いわ』


普段と変わらないような無表情……しかし、ほんの少しだけ悲しそうな表情で、アルムが呟く。


「…………アルムは、ここに居ます」
「ここに? それはどういう……なるほど、水面写しの鏡ね」
「そういえば、水面写しの鏡は勇者が持っていたのだったか。それを通じて力を貸している……ということか」
「なら、アルムはそこに居て私たちの声も聞こえている……そう考えていいのかしら?」
「は、はい」
「そう……じゃあ話が早いわね。アルム、よく聞きなさい」






「私の目的はただ1つ。あなたの戯れ言を否定して、私の正しさを証明することよ。あなたが消えてから今まで、そのためだけに戦ってきた」






『…………』
「アルム……」
「……どうせ彼女のことだから、だんまりを決め込んでいるのでしょう? 何年経っても変わらない、アイツは私の言うことなんてロクに聞き入れる気も無いんだから」
「い、一体……あなたとアルムに、何があったんですか!?」
「そんなこと、近くにいる本人に直接聞けばいいじゃない。私が部外者のあなたに答える義理はないわ。……最も、答えるかどうかは知らないけれど」


冷徹な目でこちらを見据えるマキナさんと、何も話そうとしないアルム。……傍目で見ても、両者の関係が良くないものだったことは明白だ。


「しかし、この街の連中も面倒なことをしてくれたわね。何がアクションデュエルよ、あんなものデュエルの冒涜だわ」
「だからアクションデュエルを潰した、と……部下を駆り出してまで行うようなことだったのかはよく分からないが」
「これは私の理想のために必要な行為だった。デュエルは互いの命を懸けるからこそ気高く、崇高なものとなるの」
「命を、懸けるからこそ……?」


つまり、この人は命懸けのデュエルを肯定しているってことなのか……?


「ええ。デュエルはただの遊びなんかじゃない、魂のぶつかり合いよ。それを軽んじるようなことは、私が許さない」
「そ、そんな……それでも、この街の人たちがデュエルを楽しむのは、その人たちの自由じゃないですか!」
「甘いわね。この技術が進歩して、世界中に広められたとしたら? デュエルの意味が大きく変わり、決闘が娯楽に成り下がるのよ」
「で、でも……」
「もういいわ。私はあなたの主張なんて興味が無い……あなたはよほど甘ったるい、平和な世界で生きてきたんでしょうね。そんなあなたに、この世界で生きる私たちへ口出しする権利があるとでも?」
「!!」


『この世界で生きる私たち』……それは、僕ではどう足掻いても乗り越えられない壁だ。確かに僕は、家族や友達とデュエルを楽しんで暮らしてきた。でも、だからといって僕の常識をこの世界に押し付けるのは違うんじゃないか……?


「…………」
「……フン、思ったよりも情けない勇者サマだこと。こんな奴、さっさと潰しておくに限るわね……さあ、構えなさい」
「構えるって、まさか……」
「もちろんデュエルよ。どんなにくだらなくても、今後あなたが何かを行って私たちの邪魔をする可能性は高い。だから、先にその芽を摘んでおくの」


そう言い放ちデュエルディスクを構える。デュエル、するしかないのか……


「っ……お願いだ、アルム。力を貸して欲しい。ここで闘わないと、鋼さんを……皆を守れない!」
『…………』
「覚悟を決めたようね。それじゃあ……」













「待てぇぇぇ!!!」
「待ちなさいっっ!!!」














反対方向から突然現れた2つの人影は、全速力で僕たちの間に割り込んできた。



「マッハ、プリンセスさん!!」
「ぜぇ、ぜぇ……ユージ、無事か!?」
「はぁ、はぁ……間に合った、みたいね……」
「おや、お仲間さんたちが集まってきてしまったね。これで数は向こうが上……マキナ、どうするつもりだい?」
「……その様子だと、私がここに来るのを知ってたみたいね。となれば、もたついて援軍が来られると……」


少しの間思案する様子を見せていた彼女は、その後くるりと背中を見せた。


「第一目的は達成した、なら無駄にリスクを冒す必要もないわ。アナザー、撤退するわよ」
「了解。他の部下は回収しなくていいのかい?」
「フォウルとエリニスからは撤退完了の連絡を受けているわ。カーミラたちは知らないけれど……まあ、放っておいても問題ないでしょう」
「なるほど、じゃあ私たちも逃げるとしよう……さらばだ勇者、また会う日まで」
「精々生き延びなさい。次に会ったら……容赦しないから」


そう言い残し、2人は去っていった……









「……ひとまず、危険は無くなったみたいね」
「ユージ、あいつらは何者だったんだ?」
「それは、僕にもよく分からなかったんだけど……この街の、アクションデュエルを潰しに来たって」
「アクションデュエルを……なるほど、彼女の狙いはその時間稼ぎだったって訳ね。そして、目的は果たされてしまったと」
「奴らの仲間が暴れて、街中大混乱だ。警備隊の本部とやらに行った方が良さそうだな。情報を集めなきゃいけないし、それに……鋼の治療が必要だ」
「治療は、いらない……すぐにでも、奴らを……うっ」
「鋼さん!」


倒れかけた鋼さんを、何とか抱き抱える。その身体は思ったよりも軽く、非力な僕でも支えることが出来た。


「……!! は、離せっ!」
「わ、ごめんなさい!」


叫びを上げた鋼さんは、一瞬にして僕から距離を取った。そこまで嫌だったのだろうか……? しかも、あの感じは……


「ともかく、そんなボロボロの体で旅は続けられないだろ。ユージを突き飛ばせるくらいには元気みたいだし、つべこべ言わずに行くぞ」
「…………分かった」






移動すること数分、僕たちは巨大なテントに辿り着いた。本来なら警備の関係者しか立ち入らないはずのそこには、怪我をしているのであろう人たちが大量になだれ込んでいる。






「こりゃあ酷いな」
「同じことを思って来てる人が多いってことね。ともかく、最低でもベッドくらいは貸してもらわないと……」


こんな状態で治療が受けられるかどうかは分からないけれど、重症の鋼さんをこのまま放っておく訳にもいかない。何とかあの人混みの中に入らないと……そう考え込んでいると、人混みから1人の男性がこちらへ駆けてくるのが見えた。


「……おお、やっぱり君じゃないか!! 良かった、無事だったのか!」
「あ、マスクドドラグーンさん!」
「……何だ、ユージとデュエルしてた奴か。というかユージ、なんでこいつとデュエルしてたんだ? しかも街中に中継までして……」
「えっと、それにはちょっと事情があって……ともかく、マスクドドラグーンさんも無事で良かったです」
「ありがとう……でも、お祭りの運営としてはかなり酷い目に遭っているよ。どうやらあちこちで襲撃者が暴れまわっていたらしい。観光客や警備隊、とにかく大人数に被害が出た。幸いお客の方には重傷者は居ないから、軽い手当てをして対処しているが……」
「すみません、マスクドドラグーンさん。この人……鋼さんをテントまで連れていくことはできませんか? ……僕を守って、こんな大怪我をしてしまったんです」
「なっ……分かった。今すぐ担架を手配しよう。少しの間ここで待っていてくれ!」


慌てたように無線でどこかと連絡をとるマスクドドラグーンさん。しばらくすると、こちらへ担架が運ばれてきた。


「さあ、これでテントまで連れていこう」
「私たちも一緒に行っていいかしら? 運営のあなたたちに話しておきたいことがあるの」
「分かった、ならこちらへ付いて来てくれ」


担架で運ばれる鋼さん。僕たちはその後ろを付いていく形でテントへ入ることとなった。






「彼の治療はこちらに任せてくれ。アミューズの威信にかけて、必ず治してみせるさ」
「お、お願いします!」
「それで……襲撃者についての話だけれど。あなたたちはどれくらい把握できているの?」
「……本来なら部外者に話すようなことでは無いんだが、とっくに君たちも関係者か。運営が掴んでいる情報では、襲撃事件は全部で4件。全てが同時に、しかし異なる場所で行われている。明らかに計画的な犯行だ」
「4件……そうだ、スプリントはどうなったんだ!?」
「あ、アマツは!? 彼女もデュエルでダメージを受けていたはずよ!」
「ああ、スプリントもアマツもここで治療しているよ。街中で倒れていたところを発見したんだが……アマツは軽い負傷だったからもう治療は終えたが、スプリントが特段重傷だ。アクションデュエルであんなダメージを受けるなんて、今でも信じられないよ」
「無事、なんだよな……?」
「命に別状はない。しばらくは動くのも難しいだろうけど、意識もちゃんとある。お見舞いに行くかい?」
「……後で行く。それより、ユージが敵の親玉らしき奴と接触したんだ」
「何だって!? それは本当なのかい!?」
「は、はい……」
「教えてくれ、そいつはなんて言っていた!? こんなことをした目的は!?」


マスクドドラグーンさんは僕の肩を掴み必死な形相で問い詰める。


「あ、あの、僕もそんなに多くを聞いた訳じゃ無くて……」
「少しでもいい! 何でもいいから教えて欲しいんだ!」
「……アクションデュエルを憎んでいるようでした。アクションデュエルを潰した、とも」
「アクションデュエルを……やはりか。街の中央にあったアクションデュエルを展開する制御コンピュータが跡形もなく破壊されていた。ご丁寧にウイルスか何かを投入したらしく、内部からも完全に壊されている。しかし、どうしてアクションデュエルを憎むんだ……?」
「デュエルは命を賭けるものだって……だから、安全なアクションデュエルを敵視したんだと思います」
「……なるほど。確かにデュエルを決闘の手段として神聖視するという考えは理解できるよ……でも、だからってわざわざ俺たちの夢を奪う理由にはならないだろう……!!」
「…………」


口調こそ変わらないが、その語気から激しい怒りが感じられる。ずっと前から準備していたのだろう祭りを、こんな形で台無しにされたんだ。怒らない方がおかしいくらいだろう……


「……それにしてもだ。連中は徒党を組んでこの街を襲った。ただアクションデュエルを止めるためだけに、あれだけの組織が出来上がるのか?」
「私も、彼らには別の目的があると思うわ。その目的に不都合だから、今回の行動に及んだのでしょうね」
「目的……」
「ユージ、何か聞かなかった? もちろん真の狙いをそのまま話すなんて思ってはいないけれど、ヒントになるようなこととか……」
「……すみません、僕には分からないです」
「別に謝ることじゃないでしょう。でも、現状は手詰まりね……このままじゃフォーチュンシティやこの街みたいなことが世界中で起き続けるかもしれないわ」


…………僕は嘘をついた。正確には、マキナさんは目的について語っていた。






『私の目的はただ1つ。あなたの戯れ言を否定して、私の正しさを証明することよ。あなたが消えてから今まで、そのためだけに戦ってきた』






……しかし、この言葉だけではどういう意味なのかさっぱり分からない。つまり、彼女の目的を知るにはアルムの話を聞くことが必要なのだ。でも……


「…………」


あの後から、アルムは僕にすら姿を見せてくれないようになった。言いたくないことがあるのかもしれない……そう考えると、無理に聞き出すようなことはどうしても出来なかった。


「……とにかく、今は街の復興を優先するよ。幸いと言うべきか、破壊された施設はそこまで多くない……祭り以前の姿に戻すのは、そう時間はかからないだろう」
「それじゃあ、やっぱり……」
「……アクションデュエルは、再開まで大きく時間がかかるだろうね。しかし、元々膨大な努力の結晶だったんだ……もう少しの努力は惜しまないさ」
「じゃあ、それまでにあいつらを止めないとな。もう一回潰されたらたまったもんじゃないだろ」
「君たちは……闘うつもりなのかい!?」
「ユージたちがどうかは知らないが、俺はこのままやられっぱなしは嫌だからな。スプリントをあんなにしたんだ……許すわけにはいかねぇよ」
「私は……元々そのつもりだったから。メシアの頼みということもあるけど、いずれ私の住むところに攻めて来てもおかしくない連中だし……あの屋敷には思い入れが無くもないから。ユージは?」
「僕は……」


プリンセスさんが言う通り、メシアさんからの頼みを引き受けた以上最初から迷う必要は無いのだろう。でも、マキナさんの言葉がどうしても引っ掛かる……部外者の僕に、これ以上関わる権利があるのか?


「……ユージ?」
「あれだけ大規模な戦場に足を踏み入れたんだ、怖気づくのは悪いことじゃない……むしろ当然の感性だ。闘いに慣れるのは、決していいことなんかじゃないさ」
「……マスクドドラグーンの言うことにも一理あるわね。私たちは、知らない間に闘いに慣れていたのかもしれない。きっとユージの反応が正しいんでしょう」
「…………ごめんなさい。僕は、メシアさんが呼んだ勇者なのに……」
「ユージが気にすることはねぇよ。別にメシアが勝手に連れてきただけなんだ、お前が勇者らしくないことなんてとっくの昔に知ってるっての」
「マッハ……ありがとう」
「感謝されるとやりにくいんだが……そうだプリンセス、馬車の修理はどうなったんだ?」
「え? ……馬車はセバスチャンに任せてるから何とも。明日の朝には直ってるんじゃないの?」
「適当だなぁおい」
「まあ、さっきも言った通り建物自体の被害は少ないからね。修理を行っている店が無事なら問題ないんじゃないかな」
「そういうもんなのか……どっちにせよ明日までは出来ることも無いな。いつまでも邪魔してると悪いし、一度近くの宿にでも行くか」
「え、でも鋼さんが……」
「それなら気にしなくてもいい。今日はこちらで看病させてもらうよ。軽傷の人たちの治療が終わればこっちの手も空くはずだ。明日の朝にもう一度ここに来てくれたらいいさ」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ決まりだな。さて、忙しいところ邪魔したな」
「いや、俺も助かったよ。この街を守ってくれて、本当にありがとう」
「ははは、まあ俺は何にもしてないんだけどな。スプリントがデュエルしてたのを見届けて、それからユージのところへ行っただけだ」
「それを言ったら私もよ。結局何も出来なかった……」
「……僕も、鋼さんを守ることが出来なかった。マッハとプリンセスさんが来てくれていなかったら、今頃どうなっていたか……」
「君たちがどう思っていても、君たちのおかげで被害が抑えられたのは紛れもない事実さ。だから今はゆっくり休むといいよ」
「そう、ですね……それじゃあ、鋼さんをよろしくお願いします」
「ああ、任された!」












……マスクドドラグーンさんと別れてテントを出た僕たちは、近くの宿で休むこととなった。本当に建物や人への被害はそこまで多くなかったようで、特に問題なく夜を迎えることができたのは幸いだった。


「はぁ、長い一日だったぜ……今すぐベッドにダイブしてぇ」
「まずはシャワーを浴びて来なさいな。そんな汚い体のまま寝るのは私が許さないわよ」
「うるせぇなぁ……あ、プリンセスは水浴びしたからもうシャワーは要らないんじゃないか?」
「そんなわけないでしょ。全く、男ってみんな不潔なのかしら……」


……それは、さすがに偏見かなぁ。


「……あ、水浴びと言えば」
「ん、どうしたユージ?」
「えっと、マッハとプリンセスさんが助けに来てくれたときに居た黒ずくめの人が居たよね? あの人が、馬車を壊したのは自分だって言ってたんだ」
「……何だと?」
「それ、本当なの……?」
「確かめようは無いけど……馬車が壊れていることを知っている時点で、関わっていないというのは考えられないんじゃないかなって」
「それもそうだな……つまり、やっぱり俺は無実だったわけだ」
「ちょっと、マッハ……」
「…………そんなこと、ずっと前から分かってたわよ。…………でも、疑ってごめんなさい」
「えっ……」
「プリンセスが、謝っただと……?」
「何よ、私が謝るのがそんなにおかしいの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……こっちこそ、喧嘩腰になっちまって悪かった。ちょっとは反省してるよ」



「「…………」」



お互いに謝った後、一言も発しない。こ、これはこれで気まずい……


「ぼ、僕、シャワーを浴びてきますね!」


その場の雰囲気に耐えきれず、思わず部屋を抜け出してしまう。戻ってくる頃にはマシな状況になっていることを願って……!












「ふぅ、サッパリした。シャワーってこんなに気持ちいいものだったんだなぁ……」


マッハも言っていた通り、今日は長い一日だった。ベッドに寝転がったらすぐにでも眠りに落ちてしまいそうだ……


「……ねぇ、アルム。少しいい?」
『……何か、聞きたいことでもあるの』
「まあね……ちょっとだけ、2人で話がしたいんだ」


シャワーを浴び終わった後、1人で宿を出る。街はすでに夜となり、人もほとんど居なくなっていた。


『それで、何の話をするつもりなの』
「それは……アルムとマキナさんの間に、一体何があったのかなって」


聞かないでおくべきかもしれないとも思った。でも、聞かずにいるままじゃ何も始まらない……だからこそ、直接本人に聞こうと決心するに至ったんだ。


『……さっき私が話さなかった、それが答えよ』
「つまり、話したくないってこと?」
『それは少し違うわね。正確には、話すべきかどうか迷っていると言うべきかしら』
「話すべきか、どうか……分かったよ。アルムが話してもいいと思うまで、待つことにする」
「やけに諦めがいいわね。マキナの目的を知るために、私の過去を知るのは必須じゃないの?」
「まあね。確かに聞いておきたいっていうのはあったけど……きっと僕のことを考えて、その上で話さないでいてくれていると思うんだ。それなら、僕が無理に聞き出すのは違うんじゃないかなって」


……そう。アルムの過去を知れば、僕は後戻り出来なくなってしまうかもしれない。あくまで僕自身がどうしたいかを決めるべきだと、そう考えてくれているんだ。


『……どうしようもないくらい甘いわね、あなたは』
「あはは、そうかもしれないね」
『そんな奴に私の過去は教えられないわ。だから……精々、精進することね』
「……うん、分かったよ」


アルムと話し終えた僕は、再び宿へ戻った。何にせよ、明日から旅の再開だ。今日はゆっくり休むとしよう……













……翌日、僕たちは再び警備隊の本部へ向かった。テントの周辺は昨日とは比べ物にならないくらい静かで、昨日の騒動が一段落したことを一目見て理解できる。


「やあ、待っていたよ」
「マスクドドラグーンさん、おはようございます」
「ああ、おはよう。昨日はぐっすり眠れたかい?」
「はい、おかげさまで。鋼さんの具合はどうですか?」
「私なら、この通りだ」
「……え、鋼さん!? もう動いてもいいんですか!?」


いつも通り気配を消していたのだろうか、鋼さんは突如として僕たちの目の前に姿を現した。少なくとも見た目の上では昨日の傷は見られないが、そんなにすぐ治るものなのか……?


「鋼、また無理してるんじゃないだろうな? 突然倒れても面倒だ、怪我人はちゃんと休んでろよ?」
「心配は無用だ。忍びの秘術を舐めるなよ。あの程度の傷、一晩あれば自分で治せる」
「忍術ってスゲェな……」
「治ったならそれでいいわ。早く出発の準備に取りかかりましょう。私は馬車がどうなっているのか確かめに行くわ」
「じゃあ、俺はスプリントの奴の見舞いでもするかな。どんな調子か、顔くらい見ておかねぇと」
「えっと、それじゃあ僕は……鋼さんと出発の準備をしておきますね」
「分かったわ。じゃあ馬車が直っていたら迎えに来るから」






「……昨日は無様を晒してしまったな。済まない、勇者」
「無様だなんて、そんなことないですよ。鋼さんは僕を守るために一生懸命闘ってくれたんだから……とても格好良かったです」
「……世辞でもそう言ってもらえると助かる。だが、次はこんなことにはさせない。今度こそは、お前を完璧に守り抜いてみせる」
「ありがとうございます。……あ、そうだ。鋼さんって女の人なんですか? 昨日倒れかかってきた時にもしかしたらって思ったんですけど」
「…………」


……あれ、もしかして聞いちゃいけないことだった?


「あの、言いたくないなら答えなくても……」
「そうだ。私は女だ……そしてそれを隠している。だからあまり周囲には言いふらしてくれるなよ、勇者」
「……分かりました。でも、どうして性別を隠すんですか?」
「それは……忍びとは、そういうものだからだ」
「そう、ですか……」


忍者ってそんなものなんだ……知らなかった。


「さて、そろそろ支度をしよう。勇者、外へ出ていてくれないか?」
「え……どうして?」
「どうしてだと? ……自分の言葉を忘れたのか?」
「…………ぁ、すみません!! すぐ出ていきます!!」


危ない、もう少しにマッハと同じようなことになるところだった……!


















……何とか鋼さんの着替えも無事に終わった頃に、外から馬車の音が聞こえてきた。


「さて、私たちも外へ出るか」
「そ、そうですね」
「……そこまで気にするのはやめて欲しい。こちらも困る」
「ごめんなさい……」
「おーい、ユージ、鋼! 早く行くぜー!」
「あ、マッハだ……うん、今行くー!」






「皆、準備は出来てるのよね?」
「おう! いつでも出発できるぜ!」
「……私も問題ない」
「僕も大丈夫です。行きましょう!」
「ええ。それじゃあ……あら? あれは……」


馬車に乗り込もうとしたその瞬間、テントの方から誰かが走ってくるのが見えた。


「はぁ、はぁ……良かった、間に合ったみたいだね」
「マスクドドラグーンさん、どうしたんですか?」
「君に渡したいものがあるんだ……これをどうぞ」


彼は僕に、小さなペンダントを手渡した。


「これは?」
「この街の創始者……ラフィという男が身に付けていたものだ。君たちが闘いに向かうと聞いて、どうしてもこれを渡しておきたいと思ったんだ……」
「そ、そんな……いいんですか? 大切なものなんじゃあ……」
「確かにこの街の宝ではあるけれど、ただ保管しておくだけでは意味がないからね。とにかく、それは君が持つべきだと思うんだ」
「……ありがとう、ございます」
「気をつけるんだよ。無責任かもしれないが、どうか無事に戻ってきてくれることを祈っているよ。その時には……最高のエンターテイメントでお出迎えするさ!」
「はい……楽しみにしてますね!」









……マスクドドラグーンさんが手を振って送る中、馬車は出発してどんどんテントから離れていく。






「……何だか、大変なものを貰っちゃったな」
『気にすることないわ。あいつの持ち物なんて大した価値じゃないもの。どうせアミューズ中あちこちにあるわよ』
「えっ……ラフィって人、アルムの知り合いなの?」
『知り合いといえば知り合いね。腐れ縁とでも言うべきかしら』


腐れ縁って……どんな関係なんだ。


『……あいつは、世界から争いを無くすなんて夢物語を真顔で語れるような馬鹿だった。そしてそれを成し遂げられず散った……まあ、そこに関しては私も同じだけれど』
「アルム……それは、どういう……」






『結局、私たちは無駄死にだったってことね』






アルムは、とても悲しげな表情でそう呟いた。それ以上語ることも無く、馬車は静かに進んでいく……





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ギガプラント
敵の狙いはアクションデュエル…中々新しいパターンですね。命を懸けるからこそデュエルというのはなんとなくガン○ムの敵キャラにいそうな思想のように感じます。
色々と因縁めいたものが見えてきたアミューズでしたね。皆なんかしら成長したようです。 (2019-05-04 11:51)
名無しのゴーレム
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
確かにガンダムの世界だと闘いを神聖視する人も居そうですね(ガンダム未視聴民)
アミューズ編は闘うべき敵を見つけたという意味では重要なお話でした。娯楽の街でシリアスな展開になってしまったのは少し心残りでしたが……
色々伏線もばらまいたので、今後回収していかないと……
次回からはアミューズ編で使用したオリカをまとめさせてもらおうと思っています。 (2019-05-04 19:26)

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