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HOME > 遊戯王SS一覧 > 25話 時空の賢者

25話 時空の賢者 作:名無しのゴーレム







「時空の、賢者……?」
「ああ。普段ならこんな手段はとらないが、この非常事態だ……やむを得ない」



そう言いながら、ダイスさんは懐から小さな物体を取り出した。



「ユージ君、『水面写しの鏡』は持っているね?」
「え? は、はい……」



水鏡さんから譲り渡された、水面写しの鏡。でも、この状況と一体何の関係が……



「時空の賢者は少々特殊な場所に居てね。こちらから会いに行くには、こうして2つの宝が無ければいけないんだ」
「2つの、宝……」
「……神のダイスと、水面写しの鏡か」
「ご名答。ここに僕たちが揃ったことは不幸中の幸いだった」



ダイスさんは懐から取り出した物体……神のダイスを、水面写しの鏡に近付けてみせた。



「さて、時間も惜しい。さっさとゲートを……」
「ちょっ、ちょっと待って! どうして時空の賢者に会いに行くことが決まってるのよ!? その人と会ってどうするか、何の説明もないじゃない!」



何やら準備を進めていたダイスさんに、プリンセスさんが疑問を投げ掛ける。確かに、何をするために時空の賢者に会うのかという説明は全く無かった。



「それは……申し訳ありませんが、ここで話すことは出来ません。ただ、時空の賢者に会えばこの教会でメシアの身に何が起きたかは分かります」
「……言えないことばかりね。時空の賢者って人は余程の大物なのかしら」
「まあ、その解釈はあながち間違ってもいませんが……とにかく、会ってからのお楽しみということで。さて、準備が整いました」



僕たちと話ながらも作業を続けていたダイスさんがようやく手を止めた。すると間もなく、空中に黒い穴のようなものが発生した。



「な、何これ……」
「……これを通れば、時空の賢者に会えるってこと?」
「そうです。さあ、早く行きましょう」
「待てよダイス。……俺はここに残るぜ」
「……それはどうしてだ、マッハ?」
「決まってるだろ。俺たち全員がここを出たら、誰がナーサリーの面倒を見るんだ?」



そうだ……今の状態のナーサリーを、1人で残しておくことはできない。



「それなら僕も……」
「いいや、ユージは時空の賢者のところへ行け。心配すんな、こいつの面倒を見るくらいなら俺1人で十分だ」
「マッハ……ありがとう」
「じゃあ決まりだ。あまりゆっくりしてる時間もない、行くぞ!」



ダイスさんが先導し、僕たちは穴をくぐって行く。


















「……おかしな場所ね。どこを歩いているのか分かったもんじゃないわ」



穴をくぐった先は、薄暗い空間となっていた。わざわざ空間と表現したのは……この場所が、あまりにも異質だったからだ。プリンセスさんが言うように、歩いているのに地面の感触が無い。今は周囲に人が居るが、自分1人では移動しているという実感すら持てないだろう。



「ここは僕たちの世界と根本的な仕組みが違いますから。もうすぐ着くので安心してください」
「本当に何者なのよ、時空の賢者って……」



……こんな空間に居ることからして、時空の賢者からはダイスさんや水鏡さんと異なるものを感じる。プリンセスさんと同じように、どうしてもその正体が気になってしまう。



「……さて、この辺りか」



一番前を歩いていたダイスさんは、暗闇の中で足を止める。



「えっ?」
「ダイス? 時空の賢者どころか私たち以外誰も居ないけど。どういうつもり?」
「まあまあ落ち着いて。彼女が居る場所はこことは更に少し違う場所なので、向こうから扉を開けてもらわないといけないんですよ」



……『彼女』?



「さっきからずっと合図を送ってるし、もうすぐだとは思うんですが……っと。ほら、あそこを見てください」



ダイスさんが指差した先……そこからは、周囲の薄暗闇とは対照的に微かながら光が差していた。



「……あそこが、時空の賢者の住み処なのか」
「本当に、よく分からないことだらけね……とにかく、あそこに行けばいいの?」
「はい。待たせるのも悪いので、さっさと入ってしまいましょうか」



そう言ってダイスさんはどんどん進んでいってしまう。周りに何もないせいで距離感が掴めなかったが、どうやら『入り口』はここからそう遠くないらしく、そう時間もかからないうちに光の先に辿り着いた。



「……さて、それでは入りましょうか」



























その『入り口』をくぐった先……そこは、さっきまで歩いてきた場所とはまた違う、それでいて同じくらい異質な空間だった。淡い光に包まれた中で、宙に浮かぶ無数の時計。それらの針が動く音だけが響き渡る、ただただ静かな空間。そしてその先に佇むのは……






「……はじめまして。私は時空の賢者、クロノスと申します」






時空の賢者……そう名乗ってみせた彼女を見た瞬間、僕は驚きで固まってしまった。



「久しぶりだな、クロノス。前に会ったのは何年ぶりだったか……いや、お前にこんな話をするのは無意味か」
「……ああ、あなたは『私に会ったことのあるダイス』ですか。ならお久しぶりです。私に何か用事でも?」
「それが……ん? どうしたユージ君。それにプリンセスさんも鋼も……」



……どうやら、驚いたのは僕だけでは無かったらしい。それもそうだ、だって……!



「ちょっ、ちょっと待ってください……この子が、時空の賢者なんですか……!?」
「……なんだ、そういうことか」
「…………」



僕が投げ掛けた疑問に納得したような表情のダイスさんと、一方で訝しむような視線をこちらへ向ける時空の賢者ことクロノス……さん。何か、まずいことでも言ってしまったか……?



「ええと……この空間の中では時間は止まっているから、ここにずっと居るクロノスも年をとらないんだ。でもまあ生きてる年数だけで言えば……」
「フォローは必要ありませんよ、ダイス。事実、私の身体は幼いですから……それはいいとして、彼は一体?」
「あっ、紹介がまだだったか。彼はユージ。メシアが異世界から呼んだ勇者だ。そしてこっちは……」
「そちらの2人の紹介は必要ありません。プリンセスと鋼……ですね?」
「えっ? ええ、そうだけど……」
「……さすがは時空の賢者、ということか」



驚くプリンセスさんと感心したように呟く鋼さん。つまり、この世界の人のことは全て知っているというのか……



「……異世界の勇者、ですか。それで、あなたたちが私に何の用ですか?」
「率直に言わせてもらおう。メシアが何者かによって倒された。俺たちはその襲撃者の正体を探るためにここへ来た」
「……なるほど。しかしダイス、あなたも知っていますよね? 私は時空の賢者として、無闇に力を使うことはありません。その理由を説明する必要はありませんね?」
「もちろん。お前が誰かのために力を振るってしまえば、この世界の歴史はあっという間に書き換えられてしまう。未来はもちろん、過去だってな……」



ダイスさんの言葉に、思わず耳を疑ってしまう。歴史を書き換える、だって……?



「それなら……」
「だが今回は事情が異なる。この件に時空間渡航者が絡んでいるとしたら……?」
「!? そんな……確証があるとでも?」
「確証というほどじゃないが。襲撃者がここにいるプリンセスにそっくりだったという証言が出ている。当然ながら彼女は犯人でないにも関わらず、だ。さらにメシアの結界を掻い潜ってみせたところも不自然だ……ただの変装能力者とは考えられない」
「だから、時空間渡航……タイムトラベルが関わっていると?」
「そうだ。だから襲撃者についての情報が欲しい。万が一俺の予想が当たっているなら、正直俺たちの手に負える事態ではないからな」
「……分かりました。あなたの言うことを信じましょう……特例として、あなたたちにメシアが襲撃された瞬間をお見せします」
「そ、そんなことができるんですか……?」
「ここにはこの世界の過去、そして未来が刻まれています……そして私が許可することで、それらの閲覧が可能となります。正確には、この『時空の戒錠』が必要というだけではありますが」



そう言って、クロノスさんが手に持った鍵のようなものを僕たちに見せてくれた。確かに普通の鍵とは形が違うように見えるけれど、こんなもので過去や未来を見ることが出来るのか……



「……それでは始めましょうか。メシアが襲撃される直前から……」



クロノスさんは周囲に浮遊している時計の1つに時空の戒錠を差し込む。その瞬間、世界が揺らぐような感覚が全身を襲う。



「なっ……に、これは……!?」
「……開始時間、設定完了。これより『閲覧』を開始します」



さらに強くなっていく揺れ。次第に意識も薄れていく……





























「っ……あれ、ここは……ぁ!?」



どうやら意識を失ってしまっていたようだ。しかし目を覚ました瞬間、信じられない光景が広がっていた。



「な、なんで……宙に浮いてるのぉ!?」
「ユージ、静かにしなさい。そろそろよ」
「え……?」



落ち着いて周りを見渡すと、プリンセスさんや鋼さん、ダイスさんにクロノスさんも同様に宙を浮いている。そして下を向くと、そこにはメシアさんの教会、その礼拝堂があった。



「……えっと、どういうこと……?」
「現在はメシアが襲撃される直前の教会を再生しています。あくまで当時の状況を見ているだけなので、こちらから干渉を行うことはできません。説明はこれくらいでいいでしょうか」
「……はい。ありがとう、ございます」



まさかこんな形で見ることになるなんて思っていなかった……少しずつ冷静になってきた頃に、メシアさんが教会に入ってきた。



『ふぅ、掃除もこれで終わりですね……』



どうやら教会の清掃を行っていたらしく、ほうきやちり取りを持って奥の方へ歩いていく。その後再び礼拝堂に戻ってきたメシアさんは、窓の方を見つめる。



『勇者様たちは無事でしょうか……』
『メシアぁ~! お腹空いたからご飯作って!』



教会の扉が勢いよく開け放たれ、そこからナーサリーが走り寄ってきた。



『もう、ナーサリーったら……今から昼食を作りますから、それまでここで待っていてくださいね?』
『え~、もうお腹ぺこぺこだよぉ~!』
『あはは、そんなこと言ってもご飯はできませんから……』



微笑みながら再び教会の奥へ消えるメシアさん。とてもこの後何かが起きるようには見えない。



『ふんふふ~ん。ご飯まだかなぁ~』






















カツ、カツ、カツ……


















『…………ん?』



静かな教会に、少しずつ足音が聞こえてくる。どうやらナーサリーもその音に気付いたようで、椅子から飛び降りて入り口の方へ近付いていく。






「……ちょっと、何よあれは……!!」






プリンセスさんが血相を変えて訴えかける。ちょうどその時、入り口から現れた人影が僕たちにも見えた。



「そんな……!!」



その人影の正体は、全身黒一色の鎧に身を包んだ女性だった。普通であればそれだけでも危険なものを感じるが、そんなことを気にさせないたった1つの要素が存在していた。そんなことも気にせずナーサリーは女性の元へ歩み寄り、ついには目の前に立ってみせた。









『……あれ、どこかで見たような……プリンセスだっけ?』











……今ならナーサリーが間違えたのも無理はないと思える。その女性の容貌は、僕が見ても間違いなくプリンセスさんそのものだったのだ。



『…………』
『ねー、あなたプリンセスだよね? あれ、マッハたちはどうしたの? あとそんな格好だったっけ?』
『…………』



目の前の女性をプリンセスさんだと思ったまま、ナーサリーは次々と疑問を投げ掛ける。対する女性は一言も話すことなく、ゆっくりとナーサリーへと手を伸ばし、そしてその腕を掴んだ。



『へ? プリンセス、何を……』
『……失せなさい』



言い終わるや否や、ナーサリーの姿が消え、ほぼ同時に教会内に轟音が響き渡る。その音の正体は、俯瞰する形で礼拝堂全体を見ている僕たちにはすぐ理解することができた。



「まさか、あの一瞬でナーサリーを投げ飛ばしたの……?」
「そう考えるしかない、けど……」



音の発生源は礼拝堂の壁。そしてそこに居たのは先程まで女性と話していたはずのナーサリー……信じられないが、女性がナーサリーを投げ、壁へ叩きつけたとしか考えられない。当然のことながらナーサリーは意識を失っていた。



『何事ですか!? ナーサリー……!?』



ほんの少ししてからメシアさんが慌てて礼拝堂に戻り、そして女性と目が合った。



『あなたは……プリンセス?』
『…………』
『……いえ、違いますね。顔は全く同じでも、しっかりと感じられる程の邪気……ナーサリーに攻撃を行ったのは、あなたですか?』
『……そうだと言ったら?』
『っ……あなたは、一体何者ですか?』
『私が何者か……教える必要があるとでも?』



話を続けながら、女性はデュエルディスクを展開する。



『……私とのデュエルが、あなたの望みですか?』
『見て分からないの? 救世者と言われる割には愚鈍なのね』
『……分かりました。あなたは危険です……この世界の平和を守るためにも、ここで私が倒します』



力強い宣言と共に、メシアさんもデュエルディスクを構える。デュエルが、始まるのか……












『『デュエル!!』』














キャラクター紹介

クロノス
モチーフ:【クロノスギア】 作者様:クロノスギア2様
時空の賢者と呼ばれる(少なくとも見た目の上では)少女。
普段は時空の歪みを見張るため特殊な空間に居る。そのため人付き合いは苦手。


【クロノスギア】の使用許可を下さったクロノスギア2様、本当にありがとうございます!

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ギガプラント
すげぇ世界観がまた広がった…。
RPGならラスボスでもいそうな特殊な空間のようですな。少女というのもある意味それっぽい。
回想空間で二人のデュエルが見える感じかな?ナーサリーちゃんどうかご無事で…(親の心境)。
(2019-06-26 18:13)
名無しのゴーレム
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
不思議の世界だから何でもありです(適当)
仰々しい空間ですが、たぶんそんなに使われないです…タイムリープがメインな話でもありませんし。
ナーサリーちゃんは…まあ現在の時点で無事なので、最低でも命に別状はないんじゃないですかねぇ… (2019-06-27 00:12)
クロノスギア2
とうとうクロノスギアのモデル登場!本当にありがとうございます!クロノスもいつかデュエルするのでしょうか? (2019-06-28 22:20)
名無しのゴーレム
クロノスギア2さん、コメントありがとうございます。
本当に長い間お待たせして申し訳ございませんでした…
クロノスのデュエル回もきちんと用意してます(すぐにとは言っていない) (2019-06-29 14:02)

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