22話　忍び寄る漆黒　作：名無しのゴーレム

「……僕はどうしたらいいんだろう」


マスクドドラグーンさんがこの場を去ってから数分。辺りのお客さんたちもどこかへ逃げ去ってしまい、ここに居るのは僕一人となってしまった。


「何か危ないことが起きてるみたいだけど、ここから逃げたら二人と合流する手がかりが……」
「……それはそれとしても、近くの物陰で身を隠そうとは考えないのか、勇者」
「え？ …………うわぁ、鋼さん！？」
「叫ぶな。わざわざ危険に身を晒すつもりか？」


考え込んでいたところへ突然背後から声をかけられたら、誰だって驚くに決まってるじゃないか……


「い、いつからそこに……？」
「ずっとだ。言っただろう、私はお前を守ると」
「それは確かにそうだけど……」


それにしたって全く気配すら感じなかった。まさに漫画に出てくるような忍者の技術だ。


『そんな些細なことを気にしてないで、鋼の言う通り早くどこかに身を隠したらどうなの』
「そ、そうだね……えっと、じゃああそこへ……」


辺りを見渡して見つけた建物の影に向かおうとした……まさにその時だった。


「やあ、そこの君。ちょっといいかな」
「えっ…………あなたは？」


……確かに、先ほどまで誰も居なかったはず。そのはずなのに、全身真っ黒な服装のその人は、いつの間にか僕の背後に立っていた。


「私はアナザー……まあ、旅人みたいなものだ。祭りがあると聞いて来たのに、ここには君しか居ないじゃないか。一体何があったんだい？」
「あの、それが僕にも分からなくて……」
「そうか、なら仕方ない。せっかく久しぶりにデュエルを楽しめると思ったのだがな……」
『気を付けなさいユージ。そいつ、明らかにただの旅人じゃないわ』
「気を付けろったって……」
「どうかしたのか？」
「い、いえ、何でもないです！」
「ならいいんだが……そうだ。君、私とデュエルしてくれないか？ 今、ここではアクションデュエルというのが出来るのだろう？ 私も一度体験してみたいんだ」


……いくらなんでも怪しすぎる。この異常事態を『仕方ない』で済ませるのも、こんな状況で呑気にデュエルをしようだなんて言うのも……ただアクションデュエルを体験してみたいだなんて、到底信じられない。


「……どうした？ そんなに私とのデュエルは嫌だったかな？」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
「それなら問題ないな。さあ、私とデュエルを……」
「……駄目だ。どうしてもデュエルがしたいというなら、私が相手になろう」
「鋼さん……！」
「ふぅん、君が……まあいいか。出来れば勇者の力を見ておきたかったのだが、新しいデュエルも体験しておきたいからな」


『勇者』……やはりこの人は、僕が異世界から来たことを知ってデュエルを挑んで来たのか。


「勇者、後ろに下がっていろ。……あいつは、私が倒す」
「……分かりました。鋼さんも、気を付けてくださいね」
「さあ、時間もあまり無い。さっさと始めようじゃないか」












「「デュエル！！」」











鋼　LP8000　手札5
アナザー LP8000 手札5






その宣言と同時に、僕の時と同じようにアクションカードが散らばった。






「ほう、これがアクションカードか……あ、先攻は譲るよ。まずはアクションカードを探してみたいからな」
「ふざけた奴め……私のターン。永続魔法『隠密忍法帖』発動、そして効果発動。手札の忍者モンスターを捨て、デッキから忍法1枚を自分フィールドにセットする。モンスターをセットして、ターン終了だ」
「何、もう終わりなのか？ まだアクションカードも見つけていないのに……」
「知るか。さあ、次はお前のターンだぞ」



鋼　LP8000　手札2　モンスターゾーン　伏せモンスター　魔法・罠カードゾーン　隠密忍法帖、伏せカード1枚
アナザー LP8000 手札5



「仕方ないな……私のターン、ドロー。まずは……通常魔法『ＡＳ－イントロ』を発動。デッキの上からカードを2枚墓地に送る。墓地に送られたのは……『ＡＳ－異界の弓士』、『ブラック・ホール』か。ＡＳモンスターが墓地に送られたからカードを1枚ドローする。そしてフィールド魔法『ＡＳ－ゲート』発動。これでターンエンド」



鋼　LP8000　手札2　モンスターゾーン　伏せモンスター　魔法・罠カードゾーン　隠密忍法帖、伏せカード1枚
アナザー LP8000 手札5 フィールド魔法　ＡＳ－ゲート



「フィールド魔法のみでターンエンド……？」



例えモンスターが居なくても、罠カードを伏せているならまだ分かる。でもこの状況、まるで好きに攻撃してくれと言わんばかりじゃないか……


『何を考えているのか全く読めないわね。あのフィールド魔法に防御系の効果があるのか、攻撃を受けることが目的なのか。何にせよ、普通の戦術ではない』
「鋼さん……」






「私のターン、ドロー。隠密忍法帖の効果発動。手札の忍者モンスターを捨てて忍法をセット。そしてセットした通常魔法『機甲忍法ゴールド・コンバージョン』発動。隠密忍法帖を破壊して2枚ドローする。そして儀式魔法『鋼牙忍法・神獣招来』発動。手札の『鋼牙忍者サクラ』、そしてフィールドの『鋼牙忍者タチバナ』をリリースする。漆黒の守り神よ、闇夜に紛れ敵を討て！ 儀式召喚、『鋼牙神獣 ヌバタマ』！！」
「儀式召喚か……おっと、アクションカード発見だ」


鋼さんの行動など気にしていないかのように周辺を歩いていた相手は、見つけたアクションカードをゆっくりと拾い上げた。


「アクションカードなど無意味だ。ヌバタマは相手のあらゆる効果を受けない……さらにリリースしたサクラ、タチバナの効果発動。墓地の鋼牙忍者をセットする。サクラ、タチバナをセット。バトル、ヌバタマでダイレクトアタック！」


闇から姿を現した山犬のようなモンスターが、恐ろしい素早さで襲いかかる。


アナザー　LP8000→5500


「直撃か……何かあると思っていたが、拍子抜けだな」
「まあそう言うな。アクションマジック『ダメージ・ドロー』発動。2000以上のダメージを受けたとき、カードを2枚ドローできる」
「なっ……！？」


アクションマジックでドローするためにわざとフィールドをがら空きに……？


『それはおかしいわ。アクションカードを入手したのは鋼のターン、それをあてにして自分のターンで何もしないなんて常軌を逸している。単なる手札事故の方がまだあり得るでしょう』
「確かにその通りだけど……あの様子、とてもそうは見えないよ」
『それは同感ね。つまり、わざとダメージを受けた理由があった。そう考えるべきよ』


わざとダメージを受けた理由……


「……私はこれでターン終了だ」



鋼　LP8000　手札1　モンスターゾーン　鋼牙神獣 ヌバタマ、鋼牙忍者サクラ（裏側守備表示）、鋼牙忍者タチバナ（裏側守備表示）　魔法・罠カードゾーン　伏せカード1枚
アナザー LP5500 手札7 フィールド魔法　ＡＳ－ゲート



「私のターン、ドロー。手札の『ＡＳ－異界の騎士』の効果発動。手札の『ＡＳ－異界の槍士』を除外してこのカードを特殊召喚する。騎士の効果発動。このカードの攻撃力を1000アップする」
「それは通させない。リバースカードオープン、通常罠『鋼牙忍法・魂魄写しの術』発動。タチバナをリリースして、相手は自身のモンスター1体をリリースしなければいけない！」
「なら騎士をリリースしよう」
「その後1枚ドローする。リリースしたタチバナの効果発動。墓地の『鋼牙忍者カキツバタ』をセット」


相手モンスターを除去した上、こちらはモンスターを減らさず手札を補給する……攻防一体の完璧なコンボだ。


「やれやれ、私のデッキでは完全耐性を持つモンスターの対処法は限られるのだがな……ゲートの効果発動。自分のカードが除外された時、デッキからＡＳモンスター1体を墓地に送る。そして除外された槍士の効果発動。君の手札1枚を次のターン終了時まで除外する。そして相手のカードが除外されたことでゲートのもう一つの効果発動。デッキからＡＳモンスター1体を手札に加える。『ＡＳ－異界の召喚師』を召喚。そして装備魔法『ＡＳ－トランス』を発動。除外されている『ＡＳ－異界の槍士』を特殊召喚し、このカードを装備する。さらに手札の『ＡＳ－異界の呪術師』、墓地の『ＡＳ－異界の奇術師』を除外して『ＡＳ－異界の魔導師』を特殊召喚する。魔導師の効果発動。デッキから『ＡＳ－テラー』を手札に加える。さらに除外された呪術師、奇術師の効果発動。相手に1000ダメージを与えて、デッキからＡＳカード1枚を墓地に送る」


鋼　LP8000→7000


「そしてレベル4の召喚師、槍士、魔導師の3体でオーバーレイネットワークを構築。彼方の世を治める全知の王、その力を以て現世をも支配せよ。エクシーズ召喚、『ＡＳ－異界の王』」
「ヌバタマの攻撃力を、上回ってきたか……！」
「かなり面倒な手順だったがな。さて、バトルだ。異界の王でヌバタマを攻撃」


鋼　LP7000→6800


「くっ、ヌバタマの効果発動！ このカードがフィールドを離れたことで、墓地のタチバナをセットする」
「なるほど、モンスターが尽きないのは思ったよりも厄介だ。カードを2枚セット。そして速攻魔法『ＡＳ－テラー』発動。このターン手札・墓地から除外されたＡＳの数だけドローする。よって3枚ドロー。ターンエンド」



鋼　LP6800　手札1　モンスターゾーン　鋼牙忍者カキツバタ（裏側守備表示）、鋼牙忍者サクラ（裏側守備表示）、鋼牙忍者タチバナ（裏側守備表示）
アナザー LP5500 手札4 モンスターゾーン　ＡＳ－異界の王　フィールド魔法　ＡＳ－ゲート　魔法・罠ゾーン　伏せカード2枚



「私のターン、ドロー。『鋼牙忍者アヤメ』を召喚、効果発動。デッキから『鋼牙忍者ハナミズキ』を手札に加えて、このカードのレベルをハナミズキと同じ6に変更する」


鋼牙忍者アヤメ　レベル1→6


「タチバナを反転召喚。タチバナの効果発動、デッキから鋼牙儀式モンスター1体を手札に加える。サクラを反転召喚。このカードが表側表示で存在するとき、私は1ターンに2回通常召喚が可能となる。サクラをリリースしてハナミズキをアドバンス召喚。ハナミズキの効果発動、異界の王を手札に戻す……最も、エクシーズモンスターが戻るのはエクストラデッキだがな」


異界の王を除去すれば相手のフィールドからモンスターは居なくなる。そうすれば再び大ダメージが……


「さすがにそれは防がせてもらうよ。リバースカードオープン、カウンター罠『闇の幻影』。闇属性モンスターを対象とした効果を無効にして、そのカードを破壊する」
「それなら……墓地の神獣招来の効果発動。墓地の鋼牙カード3枚をデッキに戻し、このカードを手札に加える。再び儀式魔法、『鋼牙忍法・神獣招来』発動！ フィールドのアヤメ、カキツバタをリリースする。白銀の守り神よ、その威光で全てを照らせ！ 儀式召喚、『鋼牙神獣 シロタエ』！ シロタエが存在する限り、相手モンスターの攻撃力は半分になる！」


ＡＳ－異界の王　攻撃力2700→1350


「リリースされたカキツバタの効果で、墓地のハナミズキをセットする。バトル、タチバナで異界の王を攻撃」
「リバースカードオープン、速攻魔法『ＡＳ－シェード』発動。このターン、自分のＡＳモンスターは戦闘で破壊されない」
「だが、ダメージは受けてもらう」


アナザー　LP5500→5050


「これでターン終了。お前のモンスターの効果で除外されていた手札を元に戻す」



鋼　LP6800　手札2　モンスターゾーン　鋼牙忍者タチバナ、鋼牙神獣 シロタエ（表側守備表示）、鋼牙忍者ハナミズキ（裏側守備表示）
アナザー LP5050 手札4 モンスターゾーン　ＡＳ－異界の王　フィールド魔法　ＡＳ－ゲート


「私のターン、ドロー」


その声と同時に、鋼さんが走り出した。その先には、アクションカードが……


「取った……何っ！？」


……そう、鋼さんは確かにアクションカードを取った、取ったはずなのだ。それなのに……












「アクションカードが…………消えていく……！？」









今さっき手に入れたはずのアクションカードが、光となって消滅してしまった。しかも消滅したのはその1枚だけではない。フィールドに散らばっているアクションカード全てが、同じように無くなっていく……！


「い、一体何が起きているんだ……！！」
「……はぁ、もう時間切れか。あちらも仕事が早いことだ」
「時間切れ……？ おいお前、何をした！？」
「『私は』何もしていないさ。しかし、アクションデュエルが終わっても通常のデュエルとして続行するのか……ならもう少し続けるとしよう」


アクションデュエルが、終わった？ この街でのデュエルは全てアクションデュエルになるはず。それが終わるなんて、何があったんだ……？ 僕たちの困惑などお構い無しに、相手はターンを進める。


「墓地の『ＡＳ－プロローグ』の効果発動。このカードと墓地の騎士を除外し、除外されている奇術師を墓地に戻す。除外された騎士の効果で1枚ドロー、ゲートの効果でデッキからＡＳモンスターを墓地に送る。さらに異界の王の効果発動。カードが除外された時、フィールド・墓地のカード1枚を裏側表示で除外する。私が除外するのはハナミズキだ。そして相手のカードが除外されたことでゲートの効果発動。デッキからＡＳモンスターを手札に加える。墓地の奇術師を除外して、手札から『ＡＳ－異界の策士』を特殊召喚。奇術師の効果でデッキからＡＳカードを墓地に送る。続けて墓地の弓士、手札の『ＡＳ－異界の生還者』を除外して、手札から『ＡＳ－異界の暗殺者』を特殊召喚。暗殺者の効果でタチバナを除外する。そして除外された生還者の効果発動、自身を守備表示で特殊召喚する。レベル4の策士・生還者の2体でオーバーレイネットワークを構築。彼方の世の戦士、現世にてその刃を振るえ。エクシーズ召喚、『ＡＳ－異界の騎士団長』」


高速展開、鋼さんのモンスターのリバース効果を封じる効果除去、そしてエクシーズ召喚……


「こ、このままじゃ鋼さんが……！」
「ここで、墓地のシェードの効果発動。このカードと墓地の召喚師を除外して、シロタエの攻撃力・守備力を0にする」


鋼牙神獣シロタエ　守備力3200→0


「そして騎士団長が存在する限り、相手の攻撃力または守備力が0のモンスターは除外される。シロタエにもご退場願おうか」
「っ、除外されたシロタエの効果発動！ 墓地のアヤメをセットする！」
「……さて、こんなところでいいか。バトル、暗殺者でアヤメを攻撃する」
「リバースしたアヤメの効果でデッキから鋼牙モンスターを手札に加える……」
「この瞬間、騎士団長の効果発動。オーバーレイユニットを取り除き、アヤメの攻撃力・守備力を0にする」


鋼牙忍者アヤメ　守備力100→0


「そして騎士団長の効果で除外される」
「こ、こんなことが……！？」


鋼さんのフィールドのモンスターは全て除外されてしまった。伏せカードも無い、アクションカードも無い……どうしようもない。


「騎士団長でダイレクトアタック」


鋼　LP6800→4600


「グハッ……こ、この衝撃は……！？」
「本当ならアクションデュエルの力でもう少し緩和されたらしいんだが……まあ、終わってしまったものは仕方ない。頑張って耐えてくれ。異界の王でダイレクトアタック」


鋼　LP4600→1900


「う、うぅっ……」
「鋼さん！！」
「……カードを1枚セット、これでターンエンドだ」



鋼　LP1900　手札2
アナザー LP5500 手札4 モンスターゾーン　ＡＳ－異界の王、ＡＳ－異界の騎士団長、ＡＳ－異界の暗殺者　フィールド魔法　ＡＳ－ゲート　魔法・罠ゾーン　伏せカード



「私の、ターン……ドロー」


ダイレクトアタックのダメージが大きいのか、立っているのも辛そうだ……フィールドにカードは無い、対する相手フィールドは万全の状態。鋼さんに勝ち目はあるのか……？


「…………」
「どうした、このままターンエンドか？」
「……っ。済まない、主……私は、また誓いを果たすことが出来ないのか……！」
「……なんだ、本当に打つ手が無いのか。つまらないな……もう少し楽しめると思ったのだが」


心底呆れたような表情でそう言い放った彼は、ゆっくりと踵を返した……


「な、何をする気だ……」
「言っただろう、もう時間切れだと。遊びの時間は終わってしまった……なら、私はもう退散するさ」
「待て、逃げるつもりか！？」
「君にはそう見えるのか？ それは本当に残念だ。まさか、そこまで状況が分からないとはな」
「っ！！」


……アクションデュエルが終了している今、ライフが0になることは死を意味している。……そう、完全に見逃されているのだ。


「…………」
「さて、さっさとこの場を去ると……？ おっと、少し遅かったかな」
「何……？」


歩き去ろうとしていたアナザーが足を止める。その先から、1人の女性が歩いて来ているのが見える。彼女はアナザーの横まで来ると、その歩みを止めた。


「アナザー。あなたがどうしてここに？」
「大したことはない、こちらの仕事が早く片付いたから、君を手伝ってやろうと思っただけだ」
「そう、まあいいわ。それよりも……」


その女性の視線は、アナザーから僕へと移った。


「……あなたが、異世界からの勇者？」
「……は、はい」


鋭い視線、そして凄まじい敵意……それに気圧され、思わず頷いてしまう。


「こんな子供が、勇者……ふざけた話ね。こんなのを召喚するなんて、救世者サマの頭はお花畑なのかしら？」


あからさまに僕やメシアさんが貶されているのに、その威圧感に何も言い返すことが出来ない。















「……ああ、自己紹介がまだだったわね。私はマキナ……メシアの、そしてあなたたちの敵よ」





















キャラクター紹介


アナザー
モチーフ:【ＡＳ（アナザーストーリー）】 作者:夏将軍様
全身黒ずくめ、正体不明でとらえどころの無い男。物事を楽しいか否かで判断することが多い。


【ＡＳ】の使用許可を下さった夏将軍様、本当にありがとうございます！