68話　影に潜む者たち　作：名無しのゴーレム

「ここが地下牢への入り口だ。一本道になってるから、迷うことはないだろうよ」
「ありがとうございます、スクアーロさん」



影が仕込みをしている間に、各自目的地の付近に姿を忍ばせる。鋼は御館様の屋敷、そして勇者は……



「…………鋼の奴ほどじゃないが、お前も命知らずだな。単身でゲドウと対峙するなんて、正気の沙汰じゃねえよ」
「あはは……そんなにすごい人なんですか？」
「すごいだなんて話じゃない。なんてったって、この里を開いた3人の英雄の1人なんだからな。少なくとも、今も生きている忍じゃ誰もあいつには勝てない……そういう相手だ」
「3人の英雄って……そういえば、神社にその1人が祀られているって聞きましたけど、残りの2人はまだ生きてるってことなんですか？」
「……ああ、そうだな。なにせ、御館様もその英雄の1人だからな」
「えっ……！？」
「俺たちがいまから挑もうとしてるのはこの里の歴史そのもの……それに真っ向から敵対するんだから、命懸けになるのは当たり前って訳だ」
「……そんなに危険なのに、どうして2人は鋼さんに協力してくれたんですか？」



散々脅してきた俺たちが、自分から手を貸している……疑問が出るも当然だろう。



「協力する理由か。そうだな……鋼の奴、俺について何か言ってたか？」
「え？ いや……先輩弟子にあたるとしか」
「……そうか」



……あいつが話していないなら、俺たちから話すのも無粋か。



「ま、そんなに大したことじゃないがな。俺と影の同期に、あいつと良く似た奴が居てな。そいつも他人を助けるために力を尽くして……死んじまった」
「…………」
「そいつに頼まれたんだよ、鋼のことを。俺たち忍は主からの命を受けて動く。だから自分の意思で出来ることなんてたかが知れてる……それでも、やれるだけのことはしてやりたいんだ」
「そんなことが、あったんですね……」
「ま、大したことはないさ。俺はもう行くが、大丈夫か？」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ……精々死ぬなよ」
「……スクアーロさんこそ、気をつけて」



勇者に別れを告げて、再び里の中央へ向けて走り出す……ここからが、俺の腕の見せ所だ。


















「スクアーロは見つけたか！？」
「いや、東側には居ない！」
「南方面も駄目だ！ もしかして、里から出たんじゃ……？」
「そっちは捜索隊に任せてるだろ！ とりあえず、一度影さんのところで情報を整理して……」



影の情報操作は上手く行っているようだな。化粧を落とすだけで旅行者から熟練のくノ一になるってのは本当にとんでもない話だが、役に立ってるんだからまあいいだろう。全力で気配を殺しつつ、里の中央へ戻る忍たちを追う……






「報告します！ 東、及び南方面にスクアーロは発見出来ませんでした！」
「報告ありがとう。あいつの目的は分からないけど、この里に戻ってきているのは間違いないわ。なんたって、私が彼を追って来たんだから」
「しかし、脱獄は成功したのに何故もう一度里に……？」
「考えられる可能性は……混乱に乗じて、里の機密文書や秘宝の奪取。彼は直前までテロリストに雇われていたから、里を通さない形で金を積まれて追加依頼を受けたのかも」
「でも、それが本当なら……！！」



おいおい。あいつ、俺をテロリストの一味にしようとしてないか？ いくら屋敷と地下牢から注意をそらす必要があるからって、やりすぎだろ……！？



「……あいつは気配を殺すのが誰より上手いから、あなたたちが見過ごした可能性もあるわね。今は身を潜めているみたいだけど、人の出入りを完全封鎖している以上どこかで姿を現すわ。そこを見逃さず捕らえる……その方針でいきましょう」
「はい。脱獄者の方はどうしましょうか？」
「報告によれば、あちらは車で逃走している可能性が高いわ。捜索用の部隊をいくつか編成して向かわせているけど、逃げ切られるかもしれない」
「では……！？」
「スクアーロを確保して拠点を吐かせればそれでいい。とにかく、あいつを見つけることが先決よ」



……これ、作戦が上手く行かなかったら完全に路頭に迷うことになるな。頼むぜ、鋼……！！



「……そろそろ、痺れを切らして姿を見せる頃でしょう。警戒を強くしなさい」
「了解」



今のは……影からの合図か。里全体の流れをコントロールするためにも、ここは……












「へっ。全く、お前が居たんじゃお手上げだぜ」
「なっ……」
「ようやく姿を表したわね、スクアーロ」



俺を探す影たちの目の前に、あえて堂々と姿を見せる。動揺する忍たちとは対照的に、影は不敵な笑みを浮かべる。



「一応聞いておいてあげる。この里で、ここまで派手に暴れた理由は？」
「誰が教えるかよ。忍に情報を吐かせたいなら……」



煽るような口調に続け、デュエルディスクを見せつける。



「まあそうなるわよね。いいでしょう、受けてあげる……数人ここで待機、残りは外部からの侵入者の警戒に当たりなさい！」
「侵入者……ですか？」
「こんな形で出てきたってことは、脱出の算段がついてるはず。自力ではまず無理だから、援軍の手引きがあったと見るべきよ。スクアーロは私が抑えるから、あなたたちは里の防衛に回って！」
「りょ……了解！」



影の命令を受け、大部分の忍が散開していった。これで里内部への注意はほぼなくなったと見ていいはず。あとは……



「……いいのか、デュエルするのがお前1人で」
「そうやって意識を逸らして、隙を作るつもりなの？ 残念だけどそうはいかないわ」



俺たちの周りを囲む数人の忍。さすがに2人きりになるのは怪しまれると思ったのか……でも、やることは変わらない。今のところは計画通りだ。



「全部読まれてる、か……仕方ない、始めるか」
「言っておくけど、同期だからって手加減はしないからね」









----そう、このデュエルに手抜きは許されない。わずかでも疑いを持たれないようにするため……俺たちは、本気で命を取り合う。


















「「デュエル！！」」










影　LP8000　手札5
スクアーロ　LP8000　手札5



「先攻は私が貰うわ。手札から『影忍・紫炎』を召喚。紫炎の効果発動。デッキの一番上のカードを裏側表示でこのカードの下に重ね、自身を裏守備表示にする」



さっそく来たか……影のデッキの特徴はモンスターの下に重ねられたカード。あれを活用した補給能力の高さはとんでもなく厄介だ。だが……俺はあいつの戦略を、ほぼ全て理解している。そう易々と押し負けるつもりもない。



「続けて通常魔法『影忍法・忍寄せの術』発動。紫炎の下に重ねたカードを手札に加え、デッキから『上影忍・驟雨』をフィールドに裏側守備表示で特殊召喚。さらにカードを1枚セットして、ターンエンドよ」



影　LP8000　手札3　モンスターゾーン　影忍・紫炎（裏側守備表示）、上影忍・驟雨（裏側守備表示）　魔法・罠ゾーン　伏せカード1枚
スクアーロ　LP8000　手札5



「俺のターン、ドロー」
「この瞬間、リバースカードオープン！ 永続罠『影忍法・黒煙幕』！ このカードが存在する限り、お互いに裏側守備表示のモンスターを攻撃・効果の対象にできないわ」
「チッ、めんどくせぇ……」



あいつのフィールドは裏側守備表示のモンスターが2体。つまり攻撃は封じられている……この鉄壁の守りは、そうそう崩すことはできないだろう。



「俺は『潜咬忍者「鼬」』を召喚。鼬の効果発動、自身をターン終了時まで除外して相手に500ダメージを与える」



影　LP8000→7500



「カードを1枚セットしてターンエンド。鼬の効果発動、自身をフィールドに戻す。この時デッキの上から3枚まで墓地に送ることで、1枚につき攻撃力を200アップする」


潜咬忍者「鼬」　攻撃力1100→1700



影　LP7500　手札3　モンスターゾーン　影忍・紫炎（裏側守備表示）、上影忍・驟雨（裏側守備表示）　魔法・罠ゾーン　影忍法・黒煙幕
スクアーロ　LP8000　手札4　モンスターゾーン　潜咬忍者「鼬」　魔法・罠ゾーン　伏せカード1枚



「私のターン、ドロー」



黒煙幕による攻撃制限は厄介だが、守りに徹すればこちらへ攻撃を仕掛けられないという弱点もある。鼬の効果ダメージがあるから、あちらも悠長に構えてはいられない。さあ、尻尾を出してみろ……！



「紫炎を反転召喚、続けて手札から『影忍・水鏡』を召喚」
「レベル3のモンスターが2体……まさか！？」
「ええ、そのまさかよ。レベル3の紫炎と水鏡でオーバーレイ！ エクシーズ召喚、『影忍ノ参・影分身忍者』！」



こいつ、仕掛けてくるつもりか……！？



「影分身忍者の効果発動！ 自身のオーバーレイユニットを1つ取り除いてデッキから影忍モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚、デッキの一番上のカードをそのモンスターの下に重ねる。私は『上影忍・鬼火』を特殊召喚！ さらに通常魔法『RUM-アストラル・フォース』発動！」
「ランクアップ、だと……！？」
「影分身忍者でオーバーレイユニットを再構築！ ランクアップ・エクシーズチェンジ！ 来なさい、『幻影忍・佐助』！」



一気にランク5のエクシーズモンスターを……こいつ、本当に手加減するつもりねぇな。



「佐助の効果発動！ 自身のオーバーレイユニットを2つ取り除いて、相手に3000ダメージを与える！」


スクアーロ　LP8000→5000


「ぐっ……！！」
「そして相手の手札1枚をランダムに選び、裏側表示で除外するわ。驟雨を反転召喚して、バトル！ 驟雨で鼬を攻撃！」
「っ、リバースカードオープン！ 永続罠『潜咬忍法 追狙の印』！ そして鼬の効果発動、自身を除外して相手に500ダメージだ！」


影　LP7500→7000


「追狙の印の効果発動、潜咬忍者が除外されたターンで自分フィールドにモンスターが存在しないことにより、デッキから『潜咬忍者「橦木」』を特殊召喚！」
「……なら、驟雨で橦木を攻撃！」
「橦木の効果発動、自身を除外して相手の魔法・罠カード1枚を破壊する。俺が選ぶのは、黒煙幕！」



これで、相手のモンスターを守る盾はなくなった……影忍はそのほとんどが低ステータス、俺のモンスターでも十分殴り勝てる。



「なるほど……でも、あなたのフィールドに壁となるモンスターは居ない。驟雨でダイレクトアタック！」


スクアーロ　LP5000→3000


「痛っ、てぇなチクショウ……！！」
「バトル終了。驟雨の効果発動、自身をリリースすることでデッキからレベル4以下の影忍モンスター2体を裏側守備表示で特殊召喚する。来なさい、『影忍・木葉丸』『影忍・無風』！ さらにデッキの上からそれぞれ1枚ずつ、特殊召喚したカードの下に重ねる」



上級モンスターを手放して、下級モンスターを増やした……攻め入られる隙を減らしつつ、次のターンの展開に繋げたってところか。



「私はこれでターンエンド。このタイミングに佐助の効果発動、自身を除外することで、デッキからレベル5以下の影忍モンスターを裏側守備表示で特殊召喚。さらにデッキの一番上のカードをそのカードの下に重ねる。私は『上影忍・轟』を特殊召喚！」
「好き放題しやがって……このタイミングで、除外されていた鼬と橦木はフィールドに戻る。鼬の効果でデッキの上から3枚を墓地に送って攻撃力をアップ、橦木の効果でデッキから同名モンスターを手札に加える」



影　LP7000　手札3　モンスターゾーン　影忍・無風（裏側守備表示）、影忍・木葉丸（裏側守備表示）、上影忍・鬼火（裏側守備表示）、上影忍・轟（裏側守備表示）
スクアーロ　LP3000　手札4　モンスターゾーン　潜咬忍者「鼬」、潜咬忍者「橦木」　魔法・罠ゾーン　潜咬忍法 追狙の印



「俺のターン、ドロー」



相手のフィールドにはモンスターが4体。全て裏側守備表示だが、そのうち2体は上級モンスター。放っておけば返しのターンでやられるのは明白……何としてでも相手フィールドを荒らしつつ布陣を整えなければならない。



「『潜咬忍者「箕作」』を召喚。箕作の効果発動、自身を除外して手札の橦木を特殊召喚。俺はフィールドの鼬・2体の橦木を除外する！」
「3体のモンスターを……融合召喚ね？」
「ああ、その通りだ！ 仄暗い影より現れろ、雄々しき牙持つ偉大なる忍！ 融合召喚、『潜咬忍者祖「冥奴」』！」
「来たわね……！！」
「手札から装備魔法『潜咬忍具 青薙』を冥奴に装備。このカードを装備したモンスターは2回攻撃が可能となる。バトル、冥奴で……左のモンスターを攻撃！」



クソッ、全部裏側守備表示だと攻撃対象の宣言もしずらいっての……！！



「伏せモンスターは木葉丸。でもこの瞬間、手札から速攻魔法『影忍法・影手裏剣』を発動！」
「なっ……いや、俺のターンに手札からだと！？」
「このカードは相手ターンでも手札から発動できるのよ。影手裏剣の効果で、自分の影忍モンスターが戦闘を行うときにそのモンスターを手札に戻し、戦闘を行った相手モンスターを破壊する！」
「ぐっ……！！」



冥奴はほぼどんなタイミングだろうと自身を除外してカード効果から逃げることが出来るが、戦闘中だけはそれが封じられる。あいつ、数少ない冥奴の弱点を突きやがった……！！



「そして、手札に戻した木葉丸の下に重ねてあったカードは私の手札に加わる」
「……なら、追狙の印の効果発動！ デッキから『潜咬忍者「鋸」』を特殊召喚！ バトルを終了して、鋸の効果発動！ 相手フィールドにセットされたカード1枚を破壊する。俺が選ぶのは……真ん中の裏側守備表示モンスター！」
「……破壊されたのは轟ね」
「カードを1枚セットして、ターンエンド。このタイミングで、除外されている箕作と鋸をフィールドに戻す。箕作の効果発動、自身の攻撃力を800アップする」


潜咬忍者「箕作」　攻撃力1100→1900


「ついでに鋸の効果で手札を1枚捨てて、デッキからカードを1枚ドローする」



影　LP7000　手札4　モンスターゾーン　影忍・無風（裏側守備表示）、上影忍・鬼火（裏側守表示）
スクアーロ　LP3000　手札1　モンスターゾーン　潜咬忍者「箕作」、潜咬忍者「鋸」　魔法・罠ゾーン　潜咬忍法 追狙の印、伏せカード1枚






何とか食らいついてはいるが、正直なところかなり辛い状況だ。ライフも手札も差をつけられている以上、こちらは凌ぐので精一杯。このままじゃ、十分な時間稼ぎもままならない……






「どうしたの？ 顔色が悪いようだけど……降参するなら受けてあげるわよ」
「ハッ、言ってろ。そっちこそ、精々油断しないことだな。テメェの薄っぺらい守りなんざ、俺があっという間にぶち破ってやるよ」
「この状況でどんなに吠えても説得力が無いわよ。うふふ……」






もちろん、この会話も時間稼ぎの一環だ。だが……









「ずっと前から思ってたけど、やっぱ……俺、お前のことが嫌いみたいだ」
「奇遇ね、私もよ」









作戦なんて関係ねぇ。ちょうどいい機会だ、ここでどちらが上かはっきりさせてやる……！！