56話　造られた理由　作：名無しのゴーレム

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『……ピピピ。メインプログラム起動。稼働開始まで残り200秒……』






『……ふぅん。これがあなたの言ってた、完全なロボット？ 人型……というより、見た目は完全に人間ね』


『完全というのは少し違うかも。コンセプトは進化する機械……これまでの実験データから作られた最高峰の人工知能を搭載してあるけど、現状は精々力の強い人間くらいの性能しかないの。けれど、この子は進化する……他の機械と接続することで、その機能を獲得する融合機能などね。そして一番のウリは……人間と同じように、経験を経て成長すること』


『成長……？ 人工知能が経験から学習するのとは違うの？』


『ええと、簡単に説明すれば……従来の人工知能が1つの経験から1つを学習するとすれば、この子はそれぞれの経験から得た学習を体系化することが可能なの。その結果、データを蓄積すればするほど指数関数的に知識を増やしていくの』


『つまり、成長のスピードが違うということね』


『それもあるし、私たちが教えないことも学習する……つまり、人間のように考えることができるようになるわ。もしかすれば、心のようなものも芽生えるかもしれない』


『人間のように、ねぇ……そのうち人間に反旗を翻す、なんてことはないわよね？』


『当然。この子のメインプログラムには人間を傷つける行為ができないよう書き込まれているの。単純な暴力はもちろん、人相手にはデュエルもできない』


『それじゃあ兵器としては落第点ね。……まあいいでしょう、運用レポートを待っているわ』


『うん。期待しててね、マキナ』


















『初期設定開始……終了まで、あと30秒』



『……シーク、あなたは私の最高傑作。あなたなら、人と機械の垣根を越えて、全ての壁を壊してくれる……だから、一緒に頑張りましょう』


















『……シーク、まだここに居たの』


『……何故だ。どうして、こんな真似をした』


『どうして？ ……そんなこと、機械のあなたに理解できるとでも？』


『お前の行動は矛盾している。言っていただろう、人間と機械を隔てる壁を壊すと。そんなお前が、何故人間を拒む……お前も、同じ人間だろう』


『そう、私は人間……でも、他の人間を信じられなくなった。機械にはそんなことないのにね。本当、人間なんて下劣な生き物よ……』


『……俺は、どうすればいい。製造主のお前と、お前が設定した行動原理。俺は、どちらを優先すればいい……！！』


『そんなこと、自分で考えなさい。あなたがすべきことでも、あなたがしたいことでも何でもいい……あなたが出す結論を、いつまでもここで待っているわ』


『俺の、結論……』















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『…………予備電源、起動。稼働開始まであと10秒』



…………そうだ。ニューロのモンスターによる攻撃で、メイン電源が破壊されて……



『損傷確認……右半身の損傷率63％。左半身、損傷率41％……補助アーム、起動』



右脚は引き続き体勢固定で代替、右腕は補助アームで代替……これで、デュエル続行は可能だ。



『敵の再起動を確認。デュエル再開……バトルフェイズ終了。ターンエンド』



シーク　LP4000　手札2　モンスターゾーン　機密兵器αデストロイ（フューズ、創造者装備） 魔法・罠ゾーン　機密技術―バリア、機密兵器ζフューズ、ニューロサイドの創造者
ニューロ　LP5400　手札2　モンスターゾーン　ニューロサイドの巨大戦車　魔法・罠ゾーン　ニューロサイドの思考、闇次元の解放



『俺のターン……ドロー』



再び巨大戦車による攻撃を受ければ、間違いなく俺は消滅する。攻撃力で上回るデストロイが居ても、破壊を無効化されては意味がない。ならば……



『……通常魔法『RUM－シークレット・フォース』発動。自分フィールドの機械族エクシーズモンスター1体を、素材として、ランクの1つ高い機密兵器エクシーズモンスター1体をエクシーズ召喚扱いで特殊召喚する。俺はランク4のデストロイでオーバーレイ。1体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築。現れろ、暴虐に抗う不滅の牙！ エクシーズ召喚、『機密兵器Ωカタストロフ』！！』
『高度の召喚反応を確認。対象の脅威レベルを更新』
『まだ、上があるのか……カタストロフの効果発動。自身のオーバーレイユニットを1つ取り除き、墓地のシーラー・ドミントを除外することで相手フィールドのカード2枚を除外する。俺が除外するのは、巨大戦車と『ニューロサイドの思考』……バトル、カタストロフでダイレクトアタック！』


ニューロ　LP5400→3000


『装甲損傷。被害、中度……』
『バトル終了。墓地の『機密技術―フュージョン』の効果発動。このカードと墓地のフューズを除外して1枚ドロー。これでターンエンド、そしてこの瞬間にフューズの効果発動。このカードが除外されたターンの終了時にデッキから機密技術カード1枚を手札に加える』



シーク　LP4000　手札4　モンスターゾーン　機密兵器Ωカタストロフ 魔法・罠ゾーン　機密技術―バリア
ニューロ　LP3000　手札2



『私のターン、ドロー。速攻魔法『マグネット・リバース』発動。墓地の創造者を特殊召喚。創造者の攻撃力は除外されているカードの枚数×100アップする』


ニューロサイドの創造者　攻撃力0→4300



『デッキの上からから4枚を裏側表示で除外して墓地の指揮官を特殊召喚。手札から『ニューロサイドの調律者』を召喚。調律者の効果発動。デッキの上から1枚を裏側表示で除外して指揮官のレベルを1つ下げる』


ニューロサイドの指揮官　レベル4→3


『レベル3の指揮官にレベル2の調律者をチューニング。シンクロ召喚、『ニューロサイドの幻術師』。さらにデッキの上から4枚を裏側表示で除外して、墓地の改造者を特殊召喚。改造者の効果発動。デッキの上から1枚を裏側表示で除外して、幻術師をチューナーモンスターに変更。レベル5の創造者にレベル6の幻術師をチューニング。シンクロ召喚、『ニューロサイドの創造神』。創造神の攻撃力・守備力は除外されているカードの枚数×100になる』


ニューロサイドの創造神　攻撃力0→5300


『攻撃力、5300……』
『このカードがフィールドに存在する限り、自分のニューロサイドモンスターは相手のカード効果の対象にならず、効果で破壊されない。バトルフェイズに移行、創造神でカタストロフを攻撃』



ここでバリアを使えば、ダメージは0にできる。しかし……



『ガッ……』


シーク　LP4000→1100



『……損傷、甚大……予備電源にダメージを確認。活動停止まで、あと5分……』



……俺の命は、あと5分。しかし……目の前の『壁』を越えるのには、十分な時間だ。



『バトルフェイズ終了。ターンエンド』



シーク　LP1100　手札4　モンスターゾーン　魔法・罠ゾーン　機密技術―バリア
ニューロ　LP3000　手札1　モンスターゾーン　ニューロサイドの創造神、ニューロサイドの改造者（表側守備表示）



『オ、れのターン……ドロー』



相手のデッキ枚数は残り僅か……だが、デッキ切れを待っていては俺の活動限界に間に合わない。何としてでも、このターンで……



『スたンバいフェイず。シーラー、ドみントを特殊召喚……レベる4のシーらー・ドミんトでオーばーレイ。2たいのモンスターで、オーバーレイゆニットを構築。エクしーズ召喚、『機密兵器γドレッドキャノン』……速攻魔法『機密技術―ブレイク』、はつ動。自分フィーるドの機密兵器モンすターの攻撃力ヲ、自分の墓地に存在スる機械族モンスターの枚数×400、アップする。墓地の機かイ族は4枚……よって、1600アップ』


機密兵器Ωカタストロフ　攻撃力2400→4000

機密兵器γドレッドキャノン　攻撃力1000→2600


『速こウ魔法、『機密技術―テイクオーバー』発動。カタストろフを除外して、その攻撃力をドレッドキャノンの攻撃力に加えル……』


機密兵器γドレッドキャノン　攻撃力2600→6600


『ドれッドキゃノンの、効か発動。自身のオーバーレイユニットを1つ取リノぞき、相手のラいフに、自身の攻撃力の半ブんの数値のダめージを、与エる……』






この、一撃で……






『ドレッドキャノン……エネルギー充填完了。ターゲットロックオン……撃て！！』












ニューロ　LP3000→0


















『動力部損傷、被害甚大……間もなく、動作ヲ停止しマス……』






『……俺が、カった……のか』






これで、あとはプリンセスがクイーンを止めれば……全てが終わる。






『クいーン……おレ、は……』






クイーン……俺を造り上げた人間。人と機械の壁を壊すよう俺を設計しておきながら、人間を排除した……その理由が、遂に理解できないままに終わろうとしている。俺にとって、それだけが……悲しい。









『……かな、シい……？』









これは……これが、感情なのか……？ 機械の俺に、感情が……心が、あるというのか。クイーンが願ったように、人と機械を分かつ壁を、俺が壊せたのか…………









『…………』









……だが、それに気付くにはあまりに遅すぎた。間もなく俺は動作を停止する。ここまで跡形もなく破壊されては、修理することも難しいだろう。……そもそも、それだけの技術を持つ人間がいるのかどうか。









『…………くイーン。これが、俺の結論、だ…………』









クイーンの意向を無視してでも、行動原理を優先……そして、クイーンを救う。それが、俺が出した結論。自分自身で実行することは叶わなかったが、代わりに彼女が成し遂げてくれる……それを、期待するとしよう。















『間もなく、活動限界……動作を停止する』





















……さようなら、クイーン。