82話 決勝戦第１試合終了　作：紅瑠璃

鈴菜のいないA組は負けてしまいそうだった。今では6点も開いてる。みんながチラッと鈴菜を見るが本当に使い物にならなさそうな程疲れているのが一目瞭然なのだ。

「こんな時…出れたら」

鈴菜は悔しかった。アストライアーの中では一番の速度を持つが、10秒しか動けないこと。その時、後ろから冷気を感じた。後ろを見ても人はいない。人はいないのだが、よく見たことある姿がそこにあった。

「ブリザードシュティンガー…黄蜂か…。」

観客席を見ると黄蜂がキモい悪い程にやついていた。黄蜂のスタンド…ブリザードシュティンガーは今小さいサイズなので気づかれることはない。

「なに？これ。」

ブリザードシュティンガーの手には小さな機械を持っていた。それを受け取り、スイッチを押すと声が聞こえた。

「れ、鈴菜さん。えっと…球技大会、頑張って下さい！」

加奈人君の声だ。本物の…。実は知っていた気がついていた…私が加奈人君を傷つけていること、いつも屋根裏から覗いて、私生活を盗み見して傷つけていること、私は自分の愛を表現することしか出来ない。しかも、その愛を表現することも下手。嫌われる。いつもそんなことを考えては、片手にナイフを握らせ自分を傷つけることもした。しかし、加奈人君は私を嫌いにならなかった。いつも明るく接してくれて酷いことをされても私を毛嫌いせず、…。

「お前が望むなら…コートに戻させてやる。」

ブリザードシュティンガーがA組の一人を転ばせた。透明化で透明になり、やったので一人で転んでしまったようにしか見えない。転んだ子は重症だった。他人事だが、とてもいたそうだ。

「A組はメンバーチェンジをしてください。」

重症な子は一人で歩けないほどではなかったので、先生の付き添いのもと保健室に向かった。

「私が、出る！」
「藍野さん！大丈夫なの？無理しない方が…。」
「任せなさい。」

足がふらつく…意識がはっきりしない…けど、いかなきゃやらなきゃ。私が、試合に出て、優勝して、加奈人君に「ありがとう」そう言いたい。言わなきゃダメなんだよ。それが、恩返しと言うやつかもしれない。試合が再開すると、鈴菜が次々に点を取っていく。もちろんそれを見ているだけの夢月も悔しかった。

「チサ。夢月が試合に出たそうだ。」
「…。」

それを見た千聖の次の行動はわざと、怪我をすることだ。怪我をして、メンバーチェンジをさせ、夢月に出て、貰おうとしたのだ。もちろん成功した。千聖は頭から血が流れてた。

「すまない。鈴木殿。」
「良いのよ…」

千聖も先生の付き添いのもと保健室に向かった。

「鈴木殿の思いは無駄にはせぬ！」

また、激しい攻防が繰り広げられていた。

「なぜ、まだ、動ける。どこからその力が…」
「加奈人君の力よ！私は加奈人君に恩返しをするの！」

もう、動けるはずがないのに動く。それどころか、先程よりも速い。ついに同点までいった。あと、30秒…。

「これで終わりよ！」

ボールをとってはとられ、残り10秒…。鈴菜がボールを持って、シュートをしようとしたとき鈴菜の体が崩れるように落ちた。

「も、もう、時間切れ…まだ…あと、10秒…だけでも…。」
「藍野殿よ恩返しをすると言うのはとてもよいことだが…自分の力量を考えよ！」

ボールを手にして、夢月がシュートをする。そのボールはゴールし、試合終了のホイッスルが鳴る。D組が1点差で勝った。

「終わった…ごめんね…加奈人君…。」

とても悲しい。泣いてしまった。試合に負けたことそのものではない。優勝して加奈人君に恩返しがしたかった。ただ、聞いて、頑張っただけては意味がない。優勝してこそ意味があるのだ。けど、それはもう叶わない…。