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遊戯王WW(ワンダーワールド)/44話 幻獣の巫女 作:名無しのゴーレム











フィアンマを出発した僕たちは、クリムの後に続き幻獣の聖域へと向かう。気づけば森の中を進んでいるが、幻獣が出てきそうな気配は感じない……



「……なあクリム、もう幻獣の聖域ってのに入ってるのか?」
「もちろん、とっくの昔に。無事にインダストに着きたかったらおとなしく私の指示に従うことなのですよ」
「クリムは幻獣に会ったことがあるの? これまでの話だと、かなり危険なように聞こえるんだけど」
「危険というか……彼らには、私たちの常識が通用しないのですよ。それでいて人智を超えた力を有しているのですから、インダストが注意を払うのも頷けるのです」



人智を超えた……圧倒的な力で相手を捩じ伏せたフラムさんの姿を見た今では、下手に想像できてしまうことがさらに恐怖を煽る。



「……しかし、幻獣側としては無闇に争いを起こしたくないのも事実。だからフラムと協力関係を結び、近隣国といさかいを起こすことを避けているのですよ」
「え……幻獣が、他の国に配慮しているってことですか?」
「はいなのです。いくら強大な力を持つと言っても、全ての幻獣が生きていくためにはこの聖域はなくてはならないもの。森に火をつけられでもしたら大多数が行き場を失ってしまうのです」
「難儀な話ね……待って、幻獣って一体どれだけいるの? 今の話を聞くとそれなりの数はいるみたいだけど」
「さあ、正確な数なんて私は……たぶんフラムも知らないのですよ。なにせ幻獣なんて分かっていることの方が少ないのですから」



……そんな状態で幻獣の住み処に土足で踏みいって大丈夫なのだろうか?



「……フラムが言うには、ここに住む幻獣は6種類。水の幻獣『神羅』、地の幻獣『突刻』、炎の幻獣『神威』、風の幻獣『魔伽』、光の幻獣『暁月』、そして闇の幻獣『八汰』。大体この順番に我々に対して友好的だとか」
「友好的って……つまり、友好的じゃない幻獣もいるってことですよね」
「もちろんなのです。とはいえこちらが何かしでかさない限りは中立……ということになっているのです」
「おい、こうやって奴らの領域に思いっきり立ち入ってることは大丈夫なのかよ?」



マッハがクリムに疑問を投げ掛ける。軽口を叩くような口調だけれど、実際これまでの話からするとかなり危険な行為のように思えて仕方ない。



「ああ、それなら心配いらないのですよ。この道はフラムと幻獣の間に取り決められた順路で、逸れずに進めば幻獣と出会うことはないのです」
「それなら、幻獣に会うことなくインダストへ行けるってことですか!?」
「いいえ。この順路はあくまでフラムが幻獣……正確にはその長である神羅と会うためのもの。なのでインダストへ向かうには神羅の許可を得る必要があるのですよ」
「許可だと? はぁ、またフィアンマみたいなことになるんじゃないだろうなぁ」



確かに、フィアンマの時と同じような展開だ。しかし今度は幻獣が相手、前回のように上手く行く気がしない……



「その辺りはフラムと幻獣の信頼関係を信じるしかないのです。一応手土産はありますが」
「そういえば、その手土産って……」
「しっ……静かに」



突然話を打ちきり、歩みを止めるクリム。よく分からないまま、彼女に合わせて足を止める。



「…………そこなのですっ!!」



そう叫ぶと同時に、勢いよくこちらの方へ走ってくる。



「え、なっ……!?」



その行為の意味が分からず立ち尽くしていると、僕の背後……クリムが向かう方向から、何かが飛び出すような音が聞こえた。僕が振り返るよりも早く、それはこちらへ向かってくる……!



「くっ……!!」






「……そこまでだ」
「っ……!!」






疾風のように襲いかかってきた何者か……その腕を鋼さんが掴み、瞬く間に組み伏せた。突然の展開に驚くことしか出来なかったけれど、数秒も経つと少しは落ち着き、そして1つの疑問が口をついて出た。






「え……女の子?」






……そう、襲撃者の正体はどこからどう見てもただの少女だった。そしてここは幻獣の聖域……そんなところに『ただの少女』がいるはずもない。鋼さんによって取り抑えられた彼女は抜け出そうともがくものの、一向に成功する気配もない。見れば見るほど普通……だからこそ、この状況では異質なのだ。



「お前、何者だ? 俺たちに襲いかかってきたところからすると……マキナの手先か?」
「…………?」



マッハの詰問に対し、何を言っているのか分からないというような表情を返す少女。



「とぼけるってんなら……」
「待つのです! 鋼、彼女を離すのですよ」
「はぁ!? おいクリム、何を言ってんだ!」
「……知り合いか?」
「はい。彼女はミトラ……幻獣の聖域に住む、『幻獣の巫女』なのです」















「……ということで、私たちはここを通ってインダストへ向かっているのです。なので、幻獣の代表者と話をさせてもらえないのですか?」
「…………」



解放されたミトラは、すぐに僕たちから距離をとった。近づこうとしても向こうが離れてしまうため、仕方なくこの状況のままクリムが事情を説明していたのだが……



「全然警戒を解こうとしないわね。というか、話通じてるの?」
「恐らくは……ミトラは神羅によって育てられているらしいのです。彼らは幻獣の中でも特に知能に優れているそうなので、私たちの言語も扱えるはずなのですが……」
「それなら、単に信用されてないってことになるじゃねえか。お前の話し方が悪いんだよ」
「なっ、そんなこと……こうなれば最後の手段を使うしかないのです」
「最後の手段……?」



懐から小さな包みを取り出し、ゆっくりと歩み寄るクリム。再び後ずさりを始めようとするミトラだったが、いつの間にかクリムが手にする小包にくぎ付けになっていた。



「ん? それって……」
「さすが、自然の中に生きているだけあって嗅覚も敏感なようなのです。これはあなたへの土産、フラム手作りの弁当なのです。中身は知りませんが、味は私が保証するのですよ」
「っ……」
「罠だとでも思っているのですか? それなら……」



小包が解かれ、その中身があらわになる。そこには大きなおにぎりが複数詰められていた。クリムはその中から1つを無造作に手に取り、そのまま口にした。何度か咀嚼したあと、飲み込み……再度ミトラの方を向く。



「……この通り、毒は入っていないのです。ここに置いておくので、好きに食べるといいのですよ。ただし、話は聞いてもらうのです」



小包を地面に置き、こちらへ戻ってきたクリム。一方ミトラは……



「…………!!」



警戒こそ続けているが、その視線は小包に向いたまま。そしてクリムが立ち去ったことを確認すると、即座に小包目掛けて飛びかかった。



「…………ゴクリ」



しゃがみこみ、じっとおにぎりを見つめる。危険はないと判断したのか、ものすごい勢いで頬張り始めた。



「……食べたな」
「だからどうしたって話だけどね……」



半ば呆れた様子のマッハとプリンセスさん。確かに、ミトラがフラムさんからのお土産を食べたからといって幻獣のところまで案内してくれるかというのは分からないけれど……そんなことを考えている間にも、ミトラは最後の1つを手に取り、そして飲み込んだ。



「…………」



食事を終えたミトラは、すぐさま立ち上がると森の中へと歩き始める。



「……ついてこい、ということでしょうか」
「そうじゃなかったらただの食い逃げだな。何にせよ、あいつのあとを追うしかない」



そう結論付けたクリムとマッハ、そして2人につられ他の全員もミトラの方へと進む。















「なんていうか……人が通る道じゃないな、これ」



マッハが呟いたことは、きっとこの場にいる全員の総意だろう……ミトラは難なくずんずんと進み続けているが、全く人の手が入っていないであろう獣道は慣れていない僕たちにとってはかなりの難敵であった。



「勇者、大丈夫か」
「はい、何とか……クロノスは大丈夫?」
「大丈夫です、ありがとうございます……」



とは言っても、さすがにこれ以上こんな荒れ果てた道を歩くのも限界だ。せめて、もう少しまともな道を……



「……お。ユージ、こっち見てみろよ」
「え……?」



マッハが指さす先にあったもの、それは……



「……湖?」
「うわぁ、きれい……」



クロノスがこぼすように呟く。鬱蒼とした森の中を抜けた先には、これまで見たことの無いような澄んだ湖が広がっていた。



「ミトラ、あなたは私たちをここに連れてきたかったのですか?」
「……コクリ」



クリムの問いかけに対し小さく頷いたミトラは、さらに湖の方へ歩いていく。そして立ち止まり、辺りをキョロキョロと見渡す。



「……何やってるんだ?」
「誰か探してるのかな……?」
「……!? この音、何かが飛んでくるのです!!」



クリムの声とほぼ同時に、上方から音が聞こえ始めた。時間とともに音は大きくなり、やがて上空に巨大な影が現れた……!!



「ま、まさか……!!」
「あれが、幻獣……!?」



飛来した影はどんどん大きくなっていく……その風圧に立っているのも辛くなってきた頃、ようやく巨大な影の全貌が明らかになった。









『ミトラよ、侵入者を捕らえたのか?』









降り立った巨影……青白い尾長鳥はミトラの方へ話しかけた。というか喋れるんだ……



「違う。神羅たちに話があるって言うから、ここに連れてきた」
『話……?』



尾長鳥……神羅は、ミトラの言葉を聞くとこちらの方に向き直った。



『……ヒトたちよ。何故我々の住み処に足を踏み入れたのだ?』
「それは……私たちはここを通り抜け、インダストへ向かいたいのです。フラムからの許しも出ているのですよ」
『フラム……なるほど、貴様たちはフィアンマの者だったか』
「いや、フィアンマ出身は私だけなのです。……ここ最近、インダストの指導者であるマキナが不穏な動きを見せています。その狙いは恐らくこの世界の支配……彼らはマキナを止めるべく旅をしているのです」



クリムの説明は正確とは言い難い。しかし、幻獣に危機感を与えてスムーズに話を進めるための作戦なのだろう。



「そして、彼はメシアによって異界から呼び出された勇者なのです。見た目は頼りないのですが、既にいくつかの街で活躍を見せているのですよ」
「……えぇっ!?」



突然話が僕1人のことになり、思わず声を上げてしまう。



『異界、だと……?』



神羅は少し驚いたような仕草をすると、その首を僕に近付けた。何か、気になることでもあるのだろうか……?



『…………ミトラ、この者から何か感じるか』
「? ……ううん、何も」
『そうか……旅の者たちよ、事情は承知した。隣国の脅威を取り払ってもらえるならこちらとしてもありがたい』
「つまり、通してもらえるということですか?」
『1つだけ、条件がある』
「条件?」
『……現在、少々厄介なことがあってな。つい先日から、この聖域でヒトの目撃が相次いでいる。情報からすると恐らく1人だが、無闇に歩き回られて他の幻獣たちを刺激されては困るのだ』



侵入者……僕たち以外にも、この幻獣の聖域に入った人が居るということ? でも、それと僕たちに何の関係が……



「……つまり、ここを通す代わりにその侵入者を捕まえろということ?」
『そうだ。本来であれば部外者に頼むようなことではないのだが……』
「いえ、構わないのですよ。……このタイミングで幻獣の聖域にいるということは、マキナの手先である可能性があるのです。私たちでその侵入者を確保できれば、彼女について何か情報を聞き出せるかもしれないのですよ」
『ならば、引き受けるということでいいか?』
「はいなのです」
「おい、クリム。何勝手に決めて……」
「マッハは黙ってるのです。ようやくまとまった話を、今さら蒸し返すつもりなのですか?」
「ぐっ……」



クリムに釘を刺され、マッハは心底悔しそうな表情で押し黙る。



「……それじゃあ、早速捜索を始めるのです」
「俺たちは全員で6人…なら3人ずつ辺りで手分けするか?」
「そうしたいのは山々ですが、幻獣について何も知らないあなたたちが適当にうろついたら侵入者とそう変わりないのです。非効率的であることは否めないのですが、ここはまとまって行動するしか……」
『それならミトラを案内役にすればいい。……ミトラ、ここからは彼らと協力して捜索を行え』
「…………え、なんで?」



僕たちの会話に割って入った神羅と、その提案に首をかしげるミトラ。



『以前から言っていただろう、お前には我々とヒトの架け橋になって欲しいと。これもヒトを学ぶいい機会だ』
「…………分かった」



渋々といったように頷き、こちらの方へ歩いてくるミトラ。露骨に嫌そうな表情をしているが、そんなに僕たちのことが嫌いなのだろうか……?



「なら、マッハの提案通り2組に分かれて捜索を行うのです。私と……マッハ、プリンセス。そしてミトラとユージ、クロノス、鋼。こんなところでしょうか」
「別にいいけど……どういう人選なの?」
「面倒事を起こしそうなのは私と、それ以外はミトラと組んでもらう。ただそれだけなのです」
「さらっと失礼なことを言うわね。まあいいわ、それでいきましょう。ユージたちはそれでいい?」
「は、はい。僕たちは……」



ちらりとミトラの方を見ると、やはり不機嫌なままだ。さっきまでのことを考えると、正直うまく行く気がしない……



「チーム分けも済んだので、早く捜索を始めるのです。日が沈むまでには見つけるのですよ」
「それじゃあ、またあとでな!」
「その……気を付けてね?」



クリムたちが出発し、湖には僕たち……そしてミトラ、神羅だけが残される。






「えっと、ミトラ……」
「…………」



言葉をかけようとすると同時に、ミトラは森の中へと足を進める。



「ちょっ……!?」
『……済まないな、旅人よ。ミトラはこの聖域で暮らす故、ヒトに慣れていない。不便をかけると思うが、どうかよろしく頼む』
「……わ、分かりました」












会話もそこそこに、急いでミトラを追いかける。さっきと同じように、彼女は道なき道を突き進んでいるようだ。これは、今回も苦労することになるなぁ……


















キャラクター紹介

ミトラ
モチーフ:【聖域の幻獣】 作者様:MTGからの刺客様
『幻獣の聖域』で幻獣たちとともに暮らす少女。
ヒトでありながら幻獣と心を通わせていることから、『幻獣の巫女』『ヒトガタの幻獣』などと呼ばれている。
聖域を出ることは滅多にないため、人間とのコミュニケーションが苦手。


【聖域の幻獣】の使用許可を下さったMTGからの刺客様、本当にありがとうございます!


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MTGからの刺客
おお、久々にサイトを覗いたらちょうど新作が…!
お久しぶりにコメントさせて頂きます。

温泉回だったり、ひと悶着あったり(ひとつ所じゃない気がする…)、色々ありましたが今回一行は聖域に足を踏み入れるのでした(以前からその存在を匂わす文があったり、名称が出てきて触れられたりしましたが)。グレイスさんが出た辺りから、結構話が込み入って来た感じがあります。

やはりミトラは小動物と化しましたね。
七夕の時に輪をかけて口数が少なくなりましたね。そして幻獣と直接交渉してるフラムさんが大物過ぎる

折角なので、ネームドの幻獣をオリカに投稿しときますね。

(2020-01-10 03:06)
名無しのゴーレム
MTGからの刺客さん、コメントありがとうございます。

前々から話には出ていましたが、訳あってようやく始まった幻獣の聖域編。そんなに長く続く予定ではないので、なるべく更新ペースを上げられるよう努力します…
ミトラのキャラクターはほぼ七夕企画の時と変わらないですが、今回は本編ということでこんな感じに。まあ各キャラの描写の機会が少ない七夕企画で終始無言貫かれるとたまったもんじゃありませんし…(ぶっちゃけ) (2020-01-10 17:36)
ギガプラント
無口系が加わった。
なんかこういった六人衆的なやつって格好良いですよね。
六属性しっかり揃ってるのが素敵。幻獣の聖域というだけあって行動は慎重になりますね。 (2020-01-13 03:33)
名無しのゴーレム
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。

ミトラを自然に動かそうとするとどうしても無口になってしまう…そしてssで無口キャラは扱いにくいという当然の事実を痛感しています。
幻獣については設定こそ(MTGからの刺客様が)しっかり作ってありますが、今後それらが十全に活かされるかというと…
慎重に行動するのもなるべく幻獣に会わないようにするためですからねぇ。 (2020-01-13 14:00)

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