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遊戯王WW(ワンダーワールド)/37話 傭兵と行商人 作:名無しのゴーレム













「きゃあぁぁぁ!!!」














「!! マッハ、今の声って……」
「ああ、プリンセスだ……!!」



男湯の状況を考えると、女湯にはプリンセスさんとクロノスさんしか居ないはず。つまり、プリンセスさんが悲鳴を上げるような何者かが侵入してきたってことか……!?



「プリンセスさん、そっちで何が……」



バギッ、ボゴッ!



「うぐっ、がぁっ!?」



プリンセスさんに呼び掛けようとしたその時、再び聞こえてきたのは強烈な衝撃音。そして男性の悲鳴が聞こえてくる……って、え?



ドガッ、バギッ‼️



「ちょっ、まっ、ああ゙っ!?」






「…………ねえ、マッハ」
「言うなユージ。少なくとも、俺たちが助けに行く必要はなさそうだ……だから、ここは知らなかったフリをして温泉に入ろう。いいな?」
「え、あ、うん」



……あの音から察するに、侵入者と思われる男性はプリンセスさんによって撃退されたのであろう。マッハの言う通り、僕たちが駆けつけてもより厄介なことになる未来しか見えない……だからここは、聞かなかったフリを通すことにした。



「……それじゃあ、温泉に入るとしますか」



ひとまず、温泉で疲れをとってから考えることにしよう……



「……ふぅ。あぁ、本当にいい湯……」









「……あっつーいー!! こんなの溶けちゃうよー!!」









……温泉に入った、その時だった。背中の方から小さな叫び声が響く。



「うわぁっ!? えっ、君って……ネージュ!?」
「もうっ、熱いところに行くならその前に言ってよー!」
「……いや、どういうこと……えっ……」



突然のことに思考が追い付かない。確か、ネージュは森に入る前に全員僕の中から出ていったはず、なのに……



「えぇ……ユージ、何がどうなってんだ?」
「…………」
「……おい、ユージ?」
「あっ……ごめん、マッハ。先にあがるね」
「えっ。あがるって、まだ入って3分も経ってねぇだろ!?」
「それは僕も残念だけど、ちょっとそれどころじゃないから……マッハはゆっくり入ってていいからね。それじゃ……ほら、行こうか」



熱い熱いと騒ぐネージュを連れて温泉を出る。とりあえず、ゆっくり話が出来るところへ行こう……






「……それじゃあ、なんでネージュがここに居るのか聞いてもいいかな?」



男湯を出てすぐのところにあった休憩所で、僕はネージュに質問を行う。



「なんでって、ずっとあなたのところに居たからだけどー?」
「いや、そういうことじゃなくて……どうして、僕のところに残っていたの? 他の子たちはみんなあの洞窟に戻っていったよね?」
「うん、そうだよー。でももうちょっとアルムと一緒に居たかったから、私は残ってたのー」
「えぇ……」



今さらパールさんたちのところへ引き返すなんて出来るはずがない。なら、このまま旅に連れていくしかないのか……?



『ユージ、彼女に構うことはないわ。ここまでついてきたのが彼女の意思というなら、その先に何があろうと自分の責任よ』
「で、でもアルム……」
『でもじゃない。それに、彼女の力は役に立つわ』
「え? ネージュの力って……雪を降らせたり出来るの?」
『彼女の力はそれだけじゃないわ。例えば……』
「ねー、あなた、アルムと喋ってるのー!?」



アルムが何かを言おうとしたところだったが、ネージュの言葉に遮られる。……こうして離れてしまうと、ネージュにもアルムの言葉は聞こえなくなるのか。



「いや、何でもないよ。……それじゃあ、君はこのまま旅についてくるってことでいいんだよね?」
「もちろん! っていうか、最初からそのつもりだもん!」
「そうだったんだ……なら、この話はこれでおしまいにしようか」
「うん! じゃ、私はアルムのところに戻ってるねー!」
「え? う、うわぁ!?」



いきなりこちらへ飛び込んできたネージュは、そのまま姿を消してしまった。再び僕の……いや、アルムの中へ戻ったということなのか。



「……これからどうしようかな」



今からもう一度お風呂に……という気分でもない。他のみんなが戻るまで、部屋でのんびりしておくか……









「……あれ、鋼さんと……フラムさん?」



自室へ戻る道の途中、こちらの方へ歩いてくる鋼さんの姿が見えた。しかし、何故かフラムさんも共にいる……



「……勇者、マッハはどうした?」
「ええっと……僕は先にあがったんです。だからマッハはまだ男湯のはず。それで、鋼さんは?」
「それは……」
「何、お主らの部屋を掃除しようと思うたらこ奴が居てな。聞けば温泉には入らぬと言うもんじゃから、妾の温泉の良さを知らしめるために特別な温泉へ連れてってやろうとしているんじゃ」
「特別な、温泉……?」



でも、自身の性別を知られたくない鋼さんは温泉には入りたがらないはず。無理矢理連れていかれているなら止めないと……



「あの、フラムさん。鋼さんは……」
「心配するな、勇者。……彼女は全て分かっている。特別な温泉というのも、一人用の場所というだけだ」
「え……」
「ふっ、事情があるからと言って妾自慢の温泉に入らないというのはもったいないからな。ある程度はお客の要望に応えるのも女将の仕事というものよ。さて、行くぞ」
「ああ……それでは勇者、またあとでな」
「は、はい……」



そう言い残し、鋼さんたちは行ってしまった。鋼さんのことが気にならないわけでもないが、僕が行ってもどうにもならない。ここはおとなしく部屋に戻るとしよう……












「あ、ここかな」



何とか迷わずに戻ってこれた。さて、マッハたちが帰ってくるまで一休みするか……そんなことを考えながら自分の部屋に入る。すると……









「……すぅ、すぅ……」









……何故か、クロノスさんが眠っていた。思わず外に出て確認するが、やはり間違いなくここが僕の部屋だ。



「クロノスさんが、部屋を間違えたってことかな……」



どうしよう。このままこの部屋に居るとクロノスさんが起きた時に何があるか分からない。でもここで僕が離れて、マッハ辺りが先に部屋に戻ってくるのもそれはそれで……



「うーん……、あれ?」
「あ……」



運悪く、考え込んでいたタイミングでクロノスさんが目を覚ましてしまう。



「……!?」
「わあっ、違うんです! 自分の部屋に戻ったら、クロノスさんが居て……」
「ぇ……あ。もしかして私、部屋を間違えてましたか?」
「え……はい。だから、どうしたらいいかと思っていたら……」
「そ、それはすみませんでした。温泉に入ったら眠くなってしまったので、先に戻っていたんです。でも、どちらが私の部屋だったか分からなくなって……」
「……それで、この部屋で休んでいたってことですか?」
「はい……ごめんなさい」
「いえいえ、気にしないでください……」



……また謝られてしまった。これはこれで気まずいなぁ……



「…………」
「…………」
「……あの……ユージさん」
「え……なんですか、クロノスさん?」
「ええと……どうして、ユージさんだけ私に敬語を使うのかな、って思いまして……」



……確かに、クロノスさんに敬語を使うのは僕だけだ。それが、彼女にとっては違和感があったのだろうか。



「それは……ダイスさんに、クロノスさんは長い間生きてるって聞いたから……かな?」
「……長い時間を過ごしてきたのは『あちらの私』です。今の私が生きてきた時間は、きっと何年もありません」
「え……?」
「だから、敬語を使われることに慣れなくて……なので、よろしければ他の皆さんみたいに普通に話してくれませんか?」
「…………それは、別に構いません……いや、構わないけど」
「ごめんなさい、私のわがままを言ってしまって」



……なんとなく、クロノスさん……クロノスが謝ってばかりな理由が分かった気がする。もう1人の自分は全ての時間を管理する時空の賢者なのに、自分にはそんな力はない。きっと、それが申し訳なくて仕方ないんだ……



「謝らなくてもいいんで……いいんだよ。だって、僕たちはもう旅の仲間なんだから」
「旅の、仲間……」



僕の言葉を噛み締めるように呟いてみせるクロノス。彼女が自分に自信を持てるようになれば、謝るクセもなくなるのかもしれない……









バターン‼️



「「!!?」」



「失礼しまーす! ……あれれ?」



……隣の部屋、つまりクロノスたちの部屋から勢いよく襖の開く音、そして挨拶の言葉が聞こえてくる。しかしそちらには誰もいない。つまりその声の主がとるであろう、次の行動は……



バターン‼️



「失礼しまーす!」
「うわぁっ!?」



……やはり、声の主はこの部屋に来た。訪れたのは若い女性、そして服越しにでも分かるほど筋骨隆々の男性の2人組だった。



「……あ、ここに居たみたいですね! 良かったぁ……あれ、あなたは? その子の……彼氏さんとか?」
「はぁ……!? いやいや、違いますよ! 彼女はただの旅仲間で……って」



突然の言動に面食らってしまったが、それよりも気になるところがいくつもある。



「あの、あなたたちは……? 話を聞いてる分には、クロノスに用事があるみたいですけど……」
「あっ、そういえば自己紹介もまだでしたね。私はパイスと申します。こちらが名刺です」
「あ、どうも……」



よく分からないまま、パイスさんが差し出した名刺を受け取ってしまう。というか、何故名刺……?



「私は世界を巡って香辛料なんかを売買してる行商人でして。こちらの温泉宿はご贔屓様なんですよ」
「はぁ……ええと、それで……行商人さんが、どうしてここに?」
「それが……仕事の一環として、この温泉の水質を検査してまして。サンプルの確保をこちらのウルフさんにお願いしてたんですが、その作業中に……その、あなた方のお仲間さんと鉢合わせしてしまったらしく。この宿に泊まっている方の行動は把握していると思っていたのですが、まさかこのタイミングで新しいお客様が来ているとは……」
「……ああ、あの女湯での……」
「ありゃ、ご存知でしたか。なら話は早いですね。この度は申し訳ございませんでした」
「俺からも、本当に悪いことをしたと思っている。……まさか、あんなにボコボコにされるとは思ってなかったが」



……なるほど、あの件について謝罪に来たということか。よく見たら、ウルフさんの体にはいくつかのアザがある。プリンセスさんに殴られた跡なのだろうか……?



「……さて。もう1人の方には既にお詫びしましたので、これで謝罪を済ませることが出来ました」
「もう1人って……プリンセスさんのことですか?」
「はい。あちらの方も男の子と一緒にいらしましたね。2人で卓球を楽しんでいました」
「卓球……」



……本当に、あの2人は温泉宿を満喫してるって感じだな。



「ウルフさん、今回は忙しいところ本当にありがとうございました。どうぞお仕事に戻ってください」
「いや、女将に頼まれたことだからこれも仕事のうちだ。……にしても、こんな幼い子供たちが旅してるなんてなぁ。俺が若い時じゃ考えられないほど平和になったもんだ」
「……昔は、そんなに戦いが多かったんですか?」
「そりゃあもう。俺の本業は傭兵だが、あの頃はひっきりなしに仕事が来たからなぁ」
「傭兵……?」
「ああ。依頼を受けて戦いに参加するんだ。基本的には小さなものに助っ人として呼ばれることが多かったが、たまに国どうしの戦争に加わったりもしてな。そんな俺も、今じゃあ商売上がったりでこうして温泉宿の従業員として働いている訳さ」
「…………」



……つまり、ウルフさんは戦いがなくなったことで仕事を失ったということなのか。メシアさんの結界によって……



「……そんなに暗い顔をしてくれるなって。ここで働くのもそう悪くはねぇ。女将には良くしてもらってるからな」
「そう、なんですか……」
「じゃ、俺はここで。温泉の掃除もしとくから、また夜にでも入りに来てくれよ」
「はい、ありがとうございます」



暗い雰囲気を晴らすよう明るく振る舞ったまま、ウルフさんは立ち去った。



「…………」
「どうかしましたか?」
「い、いや。何もないです」
「それなら良かった……それで、すこーしだけ話が変わるんですけれども」
「え……なんですか?」
「ちょっとお待ちくださいね。えっと、確かこの辺りに……」



パイスさんが自身のカバンを探り始める。一体、何をしようというのか……



「ああ、ありました。こちらをご覧ください」
「これって……?」



パイスさんが取り出したのは、1つの小瓶。中に何か、砂のようなものが入っているのは分かるが……



「実はこれ、他所だと結構な高値で取引される香水なんですよ。匂いを嗅いでみますか?」
「そ、それじゃあ……」



僕たちの方へ近づけられた小瓶。その蓋が、ゆっくりと開けられる……



「……ああ、確かにいい匂い……」
「ふぁぁ……!!」
「……クロノス?」



……香水の匂いを嗅いだクロノスは、うっとりとしたような声を出す。よほど香水の匂いが気に入ったのだろうか……



「……うふふ。お嬢さん、お気に召しましたか?」
「え……は、はい……」



パイスさんの言葉で我に帰ったのか、顔を真っ赤にしながらも頷く。……やっぱり、女の子はこういうのが好きなんだな。



「今ならお安くしておきますよ?」
「そ、それは嬉しいんですが……私、お金を持っていないんです。なので……」
「あらら……なら、こういうのはいかがでしょう」



一旦小瓶をカバンに直したパイスさん。その後、彼女が見せたものは……デュエルディスクだった。



「それって、つまり……」
「はい。デュエルでお嬢さんが勝てば、この香水を差し上げましょう。もちろんお代は結構です。先程のお詫びも込めて、特別サービスってことで……どうでしょう?」



デュエルで勝てば、タダで貰える……何故デュエル?



「えっと、その……」



提案を聞いたクロノスは、困ったようにこちらを見る。この提案を受けていいのか悩んでいるのだろうか……



「……あの香水が欲しいなら、デュエルしてもいいんじゃないかな? どうしてもデュエルするのが嫌なら、僕が代わってもいいけど……」
「いえ、そんなわけにはいきません。……分かりました。このデュエル、お受けします」



決意を宿した声で宣言するクロノス。いつの間にか、その腕にはデュエルディスクが装着されていた。



「じゃあ決まりですね。さっそく始めましょうか」



両者デュエルディスクを構える……いや、この部屋でデュエルするの!?














「「デュエル!!」」












キャラクター紹介


パイス
モチーフ:【香辛竜】 作者様:黒壱様
世界中で香辛料や香水などを売り歩いている女性。
商売では相手にサービスすることも多いが、最終的には自身の利益となるよう画策する計算高いところもある。


ウルフ
モチーフ:【狼兵士】 作者様:風鼠様
鍛え抜かれた身体を持つ、気さくな性格の男性。
職業は傭兵で、過去にはいくつもの戦場を渡り歩いてきたが、今はフラムの温泉宿で従業員として働いている。


【香辛竜】【狼兵士】の使用許可を下さった黒壱様、風鼠様、本当にありがとうございます!



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ギガプラント
唐突ながら面白い展開になりました。
クロノスちゃんのデュエルがここで来るのは予想外でした。しかもそこまで真面目なデュエルではなさそう。想像以上にこちらのクロノスは普通の女の子っぽいようですね。 (2019-08-15 10:40)
名無しのゴーレム
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
確かに唐突な展開ですね。けどクロノスの性格から彼女のデュエル回を書こうとするとこんな展開にしかできないという…マッハやプリンセスくらい好戦的なら簡単なんですけどねぇ(おい)
クロノスについてのお話も今後深めていけたらいいかなぁ。 (2019-08-15 17:20)

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