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HOME > 遊戯王SS一覧 > Episode85:新たなる激闘へ

Episode85:新たなる激闘へ 作:カズ

 8月15日の午後19時、「戦力を確認したい」というレインの提案によって全員が一時的に日本に帰還した。


「これが、今残っているメンバーか」


・ロシア組→天導レイン(離脱2名)
・オーストラリア組→霧野精一、高橋彩(離脱1名、追加1名)
・ノルウェー組→茨木花奈、春野うらら、小野寺小町、ユーリ(追加1名)
・フランス組→黒羽凛、神谷希、ユート(追加1名)
・中国組→霧野命慈、ユーゴ(離脱1名、追加1名)
・ギリシャ組→赤城紅葉、伊集院カレン、三上胡桃



 7月31日に出発したメンバーの内、遊弥、トワ、エレン、尚志の4名が離脱し、新たに加わった仲間に彩、ユート、ユーゴ、ユーリの4名がいる。


「今日まで何が起こったのか戦況報告を始める。まずは俺からだ」


─奏多との決戦後─


 遊弥と奏多の呪縛竜決戦が終了してから1週間後、昏睡状態に陥った遊弥は関東の総合病院へと搬送された。医療技術はロシアよりもこの国の方が優れているとレインが判断してのことだが、その報告を受けた雪菜が保護者として駆けつけた。
 今までにレインと雪菜が直接言葉を交わした機会は指折りで数えるほど少なかったが、レインは遊弥の同伴者として、雪菜は保護者としての責任がある。


「外傷や内部出血、脳の破損も見当たりませんでした。ですが脈拍・呼吸共に弱まっており、危篤状態であることには間違いありません。特例ですが、療護センターに預けるべきかと」
「……分かりました」


 医師の診断により、遊弥の身柄は千葉市にある療護センターに引き取られることとなった。通常、療護センターは交通事故により植物状態となってしまった人間の回復を図るために設立されたものだが、遊弥の場合は完全な異例なのだ。自分の甥が医学の通じない世界観で戦った現実を突きつけられた雪菜は、真っ直ぐに普通の人生を送らせてやれなかったことへの苛立ちで涙を流した。


(どうして遊弥がこんな目に遭わなきゃならないのよ!兄さんだけじゃなくて、あの子までいなくなったら、私は……私は……)
「…雪菜さん」
「レインくん。遊弥にはまだ、早すぎたのよ……」


 まだ中学2年生でありながら世界の命運を無責任に背負わされ、日本最強クラスのデュエリストの手で生涯に止めを刺される寸前まで追いやられた。旅立つ前に「絶対に世界を守ってくる」と誓ったが、自らの命さえ自分で守れなかった遊弥と、そんな彼を無責任に送り出した雪菜にこれほど大きな報復が還ってきたのだ。
 診断結果を聞いた後、2人はずっとロビーで待っていたトワに同席した。レインからは「遊弥と同じ師匠を持つもう1人の弟子」だと紹介されたが、これが最初で最後の挨拶になってしまうことは雪菜も聞かされていなかった。


「光貞トワさんね。1週間、遊弥を診てくれてありがとう」
「いえ。私は、皆さんの許を去る前にできることを果たしただけですわ」


 トワは第二次アストラル大戦で敵対せざるを得ない立場に置かれている。彼女に送りつけられた2枚の「オーバーハンドレッドナンバーズ」と「七皇の剣」にいつ自我を蝕まれるか分からず怯える日々を過ごしながらも、昏睡状態となった遊弥を死なせないために尽くした。その役目も終わり、レインにも「これ以上迷惑をかけたくない」という理由をつけて、今日限りで仲間から離れる選択をしたのだ。
 しかし彼女も、こんな状態になった遊弥が自分を救ってくれることを信じて「あるもの」を残していった。間違いなくそれが今後の遊弥を大きく支える鍵になる。


「光貞、もう思い残すことはないか?」
「…はい。天導先輩、あとはお願い致します」


 遊弥とトワ、この2人はいずれ戦わなければならない運命にある。そしてその時がそう遠くないこともトワには分かっていた。このような形で交錯した運命を恨んでも仕方ないことだが、出来ることならば奏多の兄妹弟子として純粋にデュエルを楽しみたかったものだ。




─アレックスとの決戦後─


「「すみませんでした!」」


 エレンを連れ去られ、彼女の祖父母の自宅に戻ってすぐに精一と彩は彼女の祖父に頭を下げ、精一杯の謝罪をした。エレン自らが買って出たデュエルといえど、仲間を守り抜けなかった2人にも責任はあった。しかし祖父は、一切咎めることはしなかった。


「…顔をあげな。エレンがいねえのは寂しいが、過ぎちまったことを悔いても仕方ねえだろ?それより、相手があのアレックスだってのは本当なのか?」
「はい。信じがたいことですが、奴等は一度死んだ人間を転生させて、僕たちに戦いを仕掛けています」
「しかも、この世界に存在しないカードを持っているんです。ズァークみたいに……」


 エース一派が創り上げたアナザー・ディメンションゲートによって数多くのモンスターが世に放たれた。呪縛竜は勿論だが、ズァーク及びその眷属、オーバーハンドレッドナンバーズ等、まだまだ全てが明らかになったわけではないが、より一層の警戒を強めなければならないことに変わりはない。
 2人は二階にあるエレンの寝室にあがり、エレンとアレックスの双方を助け出すためのミーティングを開いた。


「精一くん。エレンちゃんとは、私がデュエルしたいの」
「それは構わないけど……どうして?」
「今の私でいられるのが、エレンちゃんのおかげだからよ」


 エレンとアレックスの決戦前夜に起こったことを彩は包み隠さず精一に打ち明けた。エレンが自分の中にあったわだかまりを解いてくれたように、今度は自分がエレンを闇から解放する番だと、そう決意した上でのことだった。


「……そうだったんだ。僕もこの戦いが終わったらお礼を言わなきゃ。だけど、氷川さんのデッキがあの時のままだとは思えないから気を付けて」
「機皇帝の対策はバッチリよ。それより精一くんは大丈夫なの?白紙のカード、まだ覚醒めていないんでしょ?」
「僕のやるべきことは変わらないよ。デュエルに勝って、アレックスを呪縛竜から解放するんだ」


 今はデュエルに勝つことを第一に考え戦わなければならないが、その強すぎる使命感だけに囚われてしまえば最も大切なことを見失ってしまう。精一は今まさにその渦に嵌りかけていた。


「…精一くん、また抱え込んでるでしょ?『僕が勝たなきゃいけない』って」
「どうして、分かったの?」
「やっぱり。いつもより声が重かったし」
「たったそれだけで?!」
「何年ライバルやってきたと思ってるの?」


 弟の命慈ほどではないが、彩は昔からずっと精一と競い合ってきたライバルだからこそ僅かな変化を見抜いていた。しかし要因はそれだけではなく、精一も彩も「同じ状況に置かれている」からだった。勝たなければいけないのは精一や彩だけでなく、戦っている全員に共通していえることだ。自分一人が、という考えを彩のおかげで拭い去れた精一にはもう、迷いは一切なくなった。


「…ありがとう、彩さん」
「もう隠し事は無しだからね。一生の約束だよ?」



─ルーナとの決戦後─



「凛さんから送られた情報を基にすれば、呪縛竜使いの暗殺に利用したのは『CNo.101 S・H・Dark Knight』『CNo.102 光堕天使ノーブル・デーモン』『CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ』『CNo.104 仮面舞踏士アンブラル』『CNo.107 超銀河眼の時空龍』の5体で間違いありませんわ」
「うひぃ……そんな物騒なモンスターとデュエルするのぉ?」
「うらら、今更怖がっても仕方ありませんよ。第二次アストラル大戦は希のための戦いでもあるのですから、私達が勝ってサポートしなきゃ」


 小町の言ったとおり、第二次アストラル大戦は希が蝶へ羽ばたくための大舞台でもある。その進化を止めさせないために小町とうららは時間があればいつでもデュエルに費やしていた。特に初めは負け続きだったうららも、小町を相手に勝てるようになるほどめざましい実力を付け始めていた。
 しかし相手は自分たちより数段も格上の、それもオーバーハンドレッドナンバーズを持っている実力者ばかりだ。簡単には勝たせてくれないだろうと武者震いをしていた小町の横で、花奈は浮かない顔をしていた。


「花奈ちん、顔固いよ?」
「……怖いのです。ルーナさんとのデュエルに負けるかもしれない。死ぬかもしれない。そのことを考えれば考えるほど萎縮してしまったのです……」
「…やっと本心を言ってくれたね、花奈ちゃん」
「ずっと待ってたんだよ?」


 ルーナとのデュエルの後、脚が震えてしまい歩くこともままならなかった花奈は2人の支えを借りて学生寮まで戻ることができた。まだ小学生の彼女に植え付けられた「死」への恐怖心は大きな楔となって突き刺さっており、食事も禄に喉を通らない日もあれば、悪夢に魘される日もあった。
 それでもうららと小町に迷惑をかけまいと今日まで気丈に振る舞ってきたが、本音を偽ることにもやがて限界が来る。腹の内を打ち明けるまでずっと待ち続けてくれた彼女たちは、花奈をそっと抱きしめた。


(……側にいてくれた2人のためにも、もう私は迷いません。「負けるかもしれない」などと考えず、いつも通り全力を出し切ってルーナさんを助ける。それだけですわ)
「うららさん、小町さん、ありがとうございます。もう、大丈夫ですわ」


 2人の支えのおかげで、花奈から不安と恐怖は取り除かれた。次に呪縛竜と戦う時には、彼女の思い描く「煉獄の花」を咲かせられるだろう。しっかりと花奈の決意が固まったところで、インターホンが鳴った。この場所に立ち入るのは部屋に遊びに来た学生くらいだが、ドアの前に立っていたのは意外な人物だった。


「ユ、ユーリさん?!どうしてここにいらっしゃるのです?」
「どうしても何も、君たちと戦うために来たんだけど」
「……どういう意味ですの?」


 またデュエルを挑みに来たのか、そう捉えた花奈は即座に臨戦態勢に入ったが、ユーリにはその意志はなかった。そんな彼の右手には、ある2枚のカードが握られていた。次にルーナと戦う時に使えという意味なのだろうが、そのカードを見た花奈は絶句した。何故ならそれらは、この世界には本来存在しないものだったからだ。


「これ、君に貸すよ」
「『超融合』と、『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』?!」
「幻想奇術師は闇属性デッキだから、相性もいいでしょ?」
「何故、これを私に?これは貴方が持つべきものですわ」
「…傀儡に成り下がった死人を見るに耐えなくなったから」


 ルーナは全ての女性デュエリストの憧れだった。しかしその彼女が今となっては呪縛竜を扱い、エースの命令を聞いて動くだけの道具になってしまっている。ユーリも止めようとしたのだが、封印竜も覚醒竜も持たず、エースに造られたアンドロイドの自分にはその資格がないと思いとどまり、花奈に託すことにしたのだ。


「その代わり、清水ルーナを倒したらちゃんと返すこと。いい?」
「……当然のマナーですわ」



─リリーとの決戦後─



「あの時、君に渡しそびれたカードがある。受け取ってくれないか?」
「『CNo.39 希望皇ホープレイV』……?これってまさか」
「ああ。エースの部屋から俺が持ち出した。君の力になると思ったのだが、不要だったか?」
「ううん。ありがとう」


 リリーとのデュエルを影で見ていたユートは、凛が過労で倒れるのと同時に現れ、彼女を部屋まで運んだ。彼はいつでも、凛と希が成し遂げようとしていることを円滑に進めるために縁の下の力持ちとなって動いてくれていたのだ。
 エースが隠し持っていたこのホープレイVも、本来ならばこの世界には存在してはいけないカードだった。しかし新たな力を身に付けるためにはそういった理由で拒絶せず、可能な限り自分の中に受け入れることが必須だという答えに、完璧ではないが希は近づいていた。かつてヌメロン・ドラゴンを使ったデュエリストがそうしたように。


「全ての平和を願う心。それが、今の私に最も必要なピースだと思うの」
「そうか。ならばそれを、デュエルで形にするんだ。君なら絶対に出来るさ」
「…でも私、エースやZ達がしてきたこと、どんなに頑張っても許せない……!」


 しかし、エースが成そうとしている「世界のリセット」を赦すことは如何に心が寛容な人間であっても不可能だった。第一次アストラル大戦でヌメロン・ドラゴンを使ったデュエリストは「全て」を自分の中に受け入れたことは聞かされたが、その中には人々の「負の感情」も入っている。憎しみや悲しみ、そして復讐心は簡単に消えるものではないが、誰もが持つ心の闇を乗り越えることで人間は強くなれる。希がその境地に踏み込むためには、赦すことではなく別の方法が必要になるが、そのことばかりに囚われた希は最も大事なことを見落としていた。


「確かに、奴等のしていることを赦す道理は俺達にはない。だが、君が全て一人で抱え込む必要もない」
「でもそれじゃあ……」
「神谷希、君には多くの仲間がいる。その存在を今まで蔑ろにしなかったからこそ、ホープ・ゼアルが応えたのではないか?」
「っ…!」
「仲間を、忘れるな」


 強くなり、力を身に付けた人は驕り、「個」に執着する可能性が高くなる。そしてそれと同時に「友」の存在を自分の中から排除する危険も高まる。しかし希がホープ・ゼアルを手にし、ゼアルモードに変身できるようになったのも決して彼女だけの力ではなかった。これまで凛、うらら、小町、カレン、胡桃、そして大勢の仲間と出会い、その繋がりを捨てなかったからこそ成し得た力なのだ。それを人ではないアンドロイドに気付かされ、希の口から笑みがこぼれた。ホープ・ゼアルが選んだ希ならば、対立する2つの正義による啀み合いを終息へと導けると、ユートは確信していた。
 その傍らで、翼は衝撃の新事実を凛に打ち明けていた。


「嘘、でしょ……?」
「悪いが、本当なんだ。凛、君とは第二次アストラル大戦で戦わなければならなくなった」


 あの時のタッグデュエルで翼はオーバーハンドレッドナンバーズの内の1体を使用していた。ラグナ・インフィニティの効果は攻撃力を変動するノーブル・フェザーとの相性が悪く、もう二度と相手をしたくないと実感した凛だったが、泣き言を漏らしたところで決定づけられた未来は変えられない。しかし、その未来をよい方向へ運ぶこともできる。


「最後のプレゼントだ。受け取ってくれ」
「これって……!」
「頼む、そのカードで僕を倒してくれ」
「…任せて。もうお兄ちゃんの背中を見ているだけの私は、いないから」


 凛が受け取ったカードの中には、まだ見ぬRUMにBFのエクシーズモンスター、そして新たなシンクロモンスターがあった。世界で異常事態が起こっていた時から凛に託そうと肌身離さず持っていたのだが、自分がルーナに攫われてから渡す機会を失い、この時まで先延ばしになってしまったのだ。
 しかし、対校試合や呪縛竜決戦を通じて身の丈よりも大きく成長できた妹の手で倒されるのならば、兄としてさぞ本望だろう。



─ソフィアとの決戦後─



「三上胡桃様、貴女宛に差出人不明の手紙が投函されておりました」
「私に…ですか?」


 確かに「拝啓 三上胡桃様」と達筆で記されていたが、中には文と一緒に数枚のカードが入っていた。文面は「第二次アストラル大戦で貴女の力になるかもしれません。何があっても私の」で止まっており、その先は黒く塗りつぶされていて読めなかった。


「これは……魔界劇団の新しいカード!」
「しかも、まだ発売されてない超レアものよ。よかったわね、胡桃!」
「う、うん。でもズルしちゃったみたいで、素直に喜べないな……」


 同封されていたカードは『魔界劇団-メロー・マドンナ』『魔界劇団-コミック・リリーフ』『魔界劇団のカーテンコール』『魔界台本「ロマンティック・テラー」』『魔界劇場「ファンタスティックシアター」』の5種類。入手経路は全く不明だが、洗脳されていた時の借りが返せるならばこれ以上うってつけなものはないだろう。


(あれ…?この筆跡ってあの人のじゃない!でも、どうして?それに『私の』、何……?)


 一方で紅葉は、送られた手紙の字体に目を奪われていた。カレンや胡桃では気付けなかったが、紅葉はほぼ毎日のようにそれを見てきたため誰が書いた文字なのかをすぐに特定できた。その人物が第二次アストラル大戦の情報をどこで手に入れたのかも気になるところだが、聞き出す手段がない今は何も出来ない。
 そんな時、レインから再びメールが届いた。遊弥が療護センターに運ばれたことと、彼が危篤状態であることが記されていたが、その文面をコピーしてソフィアに転送した。デュエル後に交わした「遊弥を助け出す」約束を果たすためには、紅葉の持つEオーラの丁度50%を遊弥に投与しなければならないが、紅葉だけでは不可能だ。そのため、EオーラとZオーラの両方を目視できるソフィアに付き添いを頼まなければならなかったのだ。


(遊弥、私が絶対に助けるから!もう少しの辛抱だからね…!)




「以上で、私からも報告を終わるわ」
「霧野命慈、君が行った中国は過疎状態だったそうだな」
「はい。おかげで新たな情報は得られず終いですけど……兄さん、僕が送ったメール見てくれた?」
「あれのことか?」


 命慈は日本に戻る3日前、尚志と裕人をこの戦いで助け出すために「ある作戦」を立てた。しかしこの作戦はアレックスと戦うはずの精一までも巻き込んだ戦いになるどころか、相手がそれに乗らない場合も考えられる。成功する確率が低いため精一の意見としては反対なのだが、「命慈がメイン、精一がサポートに回る」という条件でどうにか交渉は成立させた。
 丁度その時、エースから第二次アストラル大戦に関するメールが全員のディスクに届いたが、その内容が想像を絶するものであり、ユートとユーリはその危険性にいち早く察知した。



『愚かなる封印竜使いならびにその協力者に告ぐ
我々は今宵24時より、第二次アストラル大戦の開戦を宣言する。その上で留意してもらいたいことは「大戦中のデュエルで一度でも敗北したデュエリストの肉体は消滅し、永遠に蘇らない」こと、そして「地球の自転速度が4倍速くなる」ことだ。せいぜい32時間、この地獄に耐えきってみせろ。そうでなければ世界のリセットをただ果たしてもつまらんからな……。
コードネーム:エース』


「自転速度が……早まるだと?!」
「相当マズいんじゃないの、これ」
「ユート、ユーリ、どうしたんだ?」
「……皆、落ち着いて聞いてほしい。エースがしでかした事の重大さを」


 地球はほぼ24時間で1周分の自転を行なっている。しかし自転速度が4倍になったことで1日が6時間になってしまう……と、これだけならまだユートとユーリが危惧することはなかった。しかしここからが問題だった。1日が6時間になることで昼夜の概念がなくなり生態系に大きな変化をもたらすばかりか、自転速度が速まることで遠心力も増大し重力そのものにも変化が起こる。また、地球そのものが縦長の楕円形になり、台風に匹敵するやも分からぬほどの強風が吹き続くようになる。
 早い話が、人類を含む全ての生物が暮らせる環境ではなくなってしまうということだ。


「そして、これは最悪の事態が起こった場合の話だ。ユーリ、君も分かっているな」
「月が落ちてくるかもしれないんでしょ?」
「「「「「……は?!」」」」」


 地球と月の距離感が一定に保たれているのも、互いの生み出す重力と潮汐力があってこそだ。しかし地球側の重力が軽くなってしまうことで、今まで以上に月との距離が近くなる恐れがあるのだ。もしも月が一定以上に近づいてしまえば、それらの均衡が崩壊し、月が地球に落下する。エースの目論んでいた世界のリセットとは、奏多達6人が思い込まされたものとはまるで異なり、「今ある地球を破壊する」ことが狙いだったのだ。


「あれこれ考えても俺達ができることはデュエルしかない。だからこそ、これだけは言っておく。……勝つぞ!!」
「「「「「「はい!!」」」」」」


 エースの非人道的な行為に各々が怒りの言葉を漏らす中、最年長のレインが封印竜陣営のリーダーとなり、この場にいる14人をまとめ上げ、同時に士気を高めた。この星の未来は、第二次アストラル大戦を戦い抜く全てのデュエリストに委ねられたのだった……!



───とある場所にて───

「エース様、No.001の特殊プログラムを起動させました。裏切り者にこれ以上の報復はありませんよ」
「ご苦労、X」


 エースが作った4体のアンドロイドの内、遊矢にはユート、ユーゴ、ユーリにはない特殊なプログラムが施されていた。対戦相手と共に最高のデュエルへ導くエンターテインメントを重視する本来のスタイルとは真逆の、ただ勝利のみを追求した、効率性を重視したアンドロイドならではのプログラムだ。
 そのプログラムが起動した瞬間、遊矢の中からユート達と関わった全ての記憶が消されてしまうが、自分の考えに賛同しなかった3人を抹消するためにかつての仲間で同士討ちをさせることもエースの計画通りだったのだ。


「お前達はそこで見ているだけでいい。万が一にでも負けてもらっては困るからな」


 エースからの命令により、奏多、アレックス、ルーナ、リリー、ソフィアの5人はモニター越しで大戦の様を見物することになった。裕人の身体を掌握した呪縛竜Huang Longはエースでさえも手に負えず野放しにされているが、裕人には弟の尚志が付いているため不要な介入は起こさないだろう。
 彼らがいなくても、X・Y・Zの3人を含めオーバーハンドレッドナンバーズを所有する7人のデュエリストが総勢力をあげれば封印竜陣営を倒すことなど難しくはない。そして希のシャイニングナンバーズを全て奪い取れば、世界のリセットに大きく近づける。そのための32時間決戦、それが─────!


「デュエリスト達よ、魂を懸ける覚悟はいいか!!」


 2つの秒針が頂点で重なり、エースは第二次アストラル大戦の開戦を宣言した。それと同時に夜空は紅く染まり、巨大な北斗七星が天空を覆い尽くしたのだった……。
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132 Episode66:月夜のイリュージョン 1330 2 2017-04-21 -
143 Episode67:常闇に消える月華 1314 1 2017-05-05 -
83 Episode68:模索者たち 993 4 2017-07-22 -
98 Episode69:純黒の反逆者 1112 0 2017-07-27 -
104 Episode70:紅と黒の禁呪 1017 2 2017-08-07 -
83 Episode71:希望は往く 1143 3 2017-08-17 -
134 Episode72:リリーの過去 1138 2 2017-08-24 -
67 Episode73:異次元の亡霊 1076 2 2017-09-13 -
107 Episode74:覚醒の鼓動 1268 3 2017-09-22 -
117 Episode75:挑戦者の儀 1052 0 2017-10-05 -
122 Episode76:神速の決闘 1131 2 2017-11-14 -
51 Episode77:動き出す陰謀 823 2 2018-01-23 -
67 Episode78:最期の兄弟喧嘩 843 2 2018-03-03 -
136 Episode79:黄龍の手向け 916 2 2018-03-28 -
104 Episode80:堕天使の罠 889 0 2018-04-14 -
95 Episode81:断罪する魔神 872 0 2018-04-19 -
106 Episode82:姫君のバイブル 965 1 2018-05-07 -
115 Episode83:開かれたページ 1007 0 2018-05-11 -
152 Episode84:望まぬ決戦 1007 2 2018-05-29 -
67 未投稿オリカ紹介⑥(使用者:古城奏多) 869 0 2018-05-31 -
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109 呪縛竜のおさらい 816 0 2018-06-06 -
101 IF02:星 遊未 795 0 2018-06-09 -
66 Episode85:新たなる激闘へ 967 0 2018-07-10 -
100 Episode86:愛するもの 856 0 2018-07-27 -
67 Episode87:涅槃を超えた先 854 0 2018-08-10 -
111 Episode88:終焉の弧光 1233 0 2018-09-12 -
55 【重要】投稿再開のお知らせ 653 3 2022-06-04 -
39 Episode89:四竜が紡いだ奇跡 418 3 2022-06-25 -
43 Episode90:光臨者、天導レイン 413 2 2022-07-07 -
45 Episode91:舞い堕ちた天使 371 2 2022-09-03 -
45 Episode92:紅の決意 450 0 2022-09-19 -
35 Episode93:凛々しい黒羽 424 0 2022-10-04 -
50 Episode94:最強の双子 432 0 2022-10-24 -
31 Episode95:最凶の龍 434 0 2022-12-29 -
36 Episode96:神の恵 417 0 2023-01-18 -
50 Episode97:先導者vs時空竜 476 0 2023-01-22 -
29 Episode98:トワノチカイ 410 0 2023-02-14 -
36 Episode99:遊弥、復活 374 0 2023-03-12 -
32 Episode100:目覚めし星の光 379 0 2023-03-26 -
34 Episode101:決戦・冀望郷 341 0 2023-05-03 -
22 Episode102:最弱の意地 295 0 2023-06-28 -
11 Episode103:永遠の友達 167 0 2023-11-26 -

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