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HOME > 遊戯王SS一覧 > IF03:愛の形

IF03:愛の形 作:カズ

※この「IFシリーズ」は「もしも『遊☆戯☆王V☆S』が平和な物語だったら」をコンセプトに書いているため、本編の大元となるビヨンド召喚・呪縛竜決戦及び第一次・二次アストラル大戦も「なかったこと」になっています。
※サ○エさん方式(3本立て)
※本編時空よりも1年進んでいます。
※登場CP:遊弥×紅葉、翼×凛、精一×彩
※これら全てが許せる方のみ推奨



○Part1:遊弥&紅葉
「ねえ遊弥、来週ホワイトデーなの忘れてないでしょうね?」
「毎日のように『3倍返しでお願いね』って言われて、忘れる方がおかしいっての」
「さっすが~。私の手作りチョコに負けないくらい凄いのくれなきゃ正拳突き100発入れるからね?」
「去年はマジで痛い目見たからやめてくれ」
「あれは遊弥が悪いのよ。お返しにあんなもの贈るなんて」


 中学2年の冬に交際を始めてから一年。藤堂遊弥と赤城紅葉は誰の目から見てもラブラブカップルであり、2人の周囲だけ気温が3℃以上高くなっていると感じさせるほどアツアツな関係だ。そんな2人がどこまで済ませたかと聞いたところでまだ中学卒業間際、プラトニックな関係を維持している。
 そんな2人が付き合うきっかけとなったのもバレンタインデーであり、紅葉からは今年は手作りのトリュフチョコレートを贈った。ラッピングも真紅のハートであり、2人の周りだけ雪をも溶かすほどの熱気が充満していたという。
 しかし遊弥は昨年のホワイトデーで「お返し」の選択に大失態を犯してしまい、痛い目を見た。今年は同じ過ちを繰り返さないため慎重になっているのだが、1週間前になっても何を贈るのか決まっていなかった。


「んじゃ、今年は期待してるからね」
「はいよ」


~~~

「……って事があったんだけど、何で3倍返しなんだろ?雪菜さん知ってる?」
「あー、それ。私も気になって社長に聞いたことあるんだけど、そもそも3倍返しって言葉はバブル期に生まれたんだって。その頃は湯水のようにお金を使うのが当たり前で、ホワイトデーのお返しにかけるお金を惜しまないのも当然のことだったらしいわ」


 遊弥の叔母にあたる藤堂雪菜は、30歳という若さで美容サロン会社の副社長を務めている。彼女の兄であり遊弥の父親である藤堂遊仁は多忙故に滅多なことでは家に帰らず、母の紫もそんな父親に同行しているため、雪菜が両親の代わりに遊弥の面倒を見ている。
 そんな雪菜も3倍返しという言葉に疑問を覚えたことがあったようで、バブル期の社会を生きてきた社長からその答えを聞き出していた。社長にも愛する妻がおり、その頃のホワイトデーには高級ホテルのコース料理に誘う等していたという。
 流石に中学生の遊弥には数千円の高級チョコを贈るのが関の山だが、それで紅葉が喜ぶのか分からず、ホワイトデーの3日前だというのにこうして雪菜に聞いていたというわけだ。


「何にせよ、遊弥が紅葉ちゃんのことを好きなんだって気持ちが伝わればいいのよ。あ、でもグミとかマシュマロはあげちゃダメよ?『嫌い』って意味になっちゃうから」
「だから紅葉のヤツ、あんなに怒ってたのか。マシュマロ好きだから喜ぶかと思ったのに…」
「……去年の今頃、遊弥が顔面腫らして帰ってきたものだから何事かと思ったけど、そういうことだったのね。全く、変に無頓着なところまで兄さんに似なくていいのに」


 遊仁と紫の馴れ初めは息子の遊弥も聞かされていないが、雪菜曰く「遊仁の第一印象は最悪だった」とのこと。聖夜を切っ掛けに交際を始めてから最初のホワイトデーのお返しで、あろうことか遊仁は紫に白いハンカチを渡したのだ。「純真無垢な紫に似合うだろう」という善意で選んだプレゼントだったのだが、白ハンカチは死人の顔にかけるものであり、プレゼントとしては縁起が悪い。
 そんな父親の天然っぷりは遊弥にも遺伝していたようで、昨年のホワイトデーにはマシュマロを贈ってしまい、それを「嫌い」だと捉えた紅葉から百裂拳を喰らってしまった。


「ま、とにかく頑張れ、遊弥。おねえさんが応援してるからね」
「…うん。ありがと、雪菜さん」


~3日後~

「はい、これ。今年のお返し」
「ありがと。今年は大丈夫でしょうね?白ハンカチなんて出てきたら極刑だから」
「安心しろ。ちゃんと食べられるものだ」


 手切れを連想させるから贈り物にハンカチは御法度。父と同じ轍を踏まないために雪菜と吟味した結果、手作りのガトーショコラを贈ることにした。決して高価なものとはいえないかもしれないが、紅葉は物凄く嬉しそうに遊弥からのプレゼントを鞄にしまった。


「私ね、本当は遊弥からのプレゼントなら何でも嬉しいんだ」
「……白ハンカチでも?」
「うん」
「でもさっき極刑って」
「はぁ……。アンタね、女の子ってのは理屈じゃないのよ」


 昨年に渡したマシュマロは確かに失敗だったが、紅葉はそれでも「嬉しい」という気持ちで満たされていた。遊弥にはその意味が微塵も理解できていなかったが、理屈で考えても分からないのが女心というものだ。


「だって私には、遊弥がいるもん。遊弥が私のことを想ってくれてるってだけで、充分幸せなの」
「紅葉……」


 「目に見えるものは儚く脆いものだから、心の奥で繋がっていたい」。ある曲の歌詞の引用だが、バレンタインデーやホワイトデーの贈り物は目に見えるものが殆どであり、それを愛の証明とすることが一般的である。
 愛が形而上的なものであるからこその行為ではあるが、心が繋がってさえいれば贈り物などなくても紅葉にとっては充分幸せだった。


「改めてよろしく、遊弥。もし変な事しないようにずっと見守っててあげるからね」
「……ん?」
「ほら、遊弥ってデュエル以外の事だと天然っていうか、ちょっとズレてる所あるでしょ?将来結婚して子供を授かった時のために、ズレた父親だと教育上よろしくないっていうか……」
「あの、紅葉さん?おーい」


 その後の紅葉は、遊弥の静止を聞き入れぬまま、自身の将来の妄想をまくし立てていた。
 この年のホワイトデーの気温は14℃だったが、2人の周りだけ愛があふれた影響なのか体感気温が20℃近くまで上昇していたと、2つ年下の後輩(花奈)が呆れながら語っていた。



Part2:翼&凛
「お兄ちゃん、ホワイトデーのお返し貰ってないんだけど?」
「…は?」
「だから、お返し。先月あげたよね?特大ハート型のチョコ」


 黒羽凛と黒羽翼は、2つ歳の離れた兄妹。しかし凛には「ブラコン」の気質があるようで、思春期だというのにそれがエスカレートしつつある。眠っている翼の布団の中に潜り込むのは日常茶飯事であり、最近は一緒に風呂に入ろうと画策している。
 こうなってしまったのも兄が昨年、受験期間ということもあって凛に構ってやれなかった反動だろうが、仲の良い兄妹といっても限度がある。翼も何度もそう教えているのだが聞く耳を持ってくれない。このままでは「お兄ちゃんと結婚する」と言いかねないと思った翼は、凛にとって特大級の爆弾を落とすことにした。


「凛、僕にだって付き合っている彼女がいるんだ。いつまでも凛だけに構っていられないよ」
「嘘!?お兄ちゃん、彼女いたの!?」
「言ってなかったか?」
「聞いてないよ!ていうかこんなに可愛い妹を差し置いて、何で他の女に手を出すの!?」
「あのなぁ、僕達は兄妹だぞ?凛のことは妹として好きだけど、家族間でそういうのはまずいだろう?」
「愛さえあれば関係ないもん。私、お兄ちゃん以外の男の人を好きになるなんて考えられないから」


 この兄妹喧嘩は凛が自室に籠ることで一旦は中止となったが、翼も凛を怒らせてしまったことに罪悪感を抱きながら、自室に戻ることにした。



「希ちゃん、最近お兄ちゃんが冷たいんだよぅ」
「あはは……。お兄さんも大変だね」


 今日あった喧嘩を含めた愚痴を電話越しにこぼしている相手は、凛の幼馴染の神谷希。凛の家に遊びに行く縁もあってか、希にとって翼は「頼れるお兄さん」としての側面が強い。しかしまさか凛が実の兄に対してそこまで強い執着を抱いていたとは思っていなかったため、希は困惑しつつも当たり障りのない返答をしていた。


「凛ちゃん、お兄さんのことが大好きなんだね」
「当たり前だよ。私のお兄ちゃんは唯一無二!なのに彼女ができたなんてすぐにバレる嘘吐いて……」
「…それ、嘘じゃないと思うよ。確か比奈ちゃんって呼んでたかな。この前、お兄さんと一緒に鎌倉旅行してるの見たよ」
「……ヱ?ウソジャナイノ??」


 希の地元は観光名所として有名な神奈川の鎌倉であり、休日は多くの観光客が市外や国外から訪れる。希も先週、親友たちと5人で記念旅行へ出かけていたのだが、その時に偶然、ロングストレートなアルビノの女の子と楽しそうに鎌倉巡りをしているのを目撃していた。
 あの雰囲気は間違いなくデートであると確信した希だったが、凛に話したらショックで気絶するのではないかと思い、今まで打ち明けることができなかった。
 現に今も「お兄ちゃんにカノジョ……」とロボットのように繰り返し、聞く耳を持たなくなるほど現実を受け入れられない状態となってしまった。


「凛ちゃん。私もね、国語の先生に恋してた時期があったんだ」
「…もしかして小田先生?希ちゃんも意外と面食いだね」
「だけどフラれちゃった。先生、婚約者がいたんだって。それ以前に、教師と生徒での恋愛は私にとっても良くないことだって諭されたんだけど」


 基本的に18歳未満との異性の交際は、男女問わず法律的に問題視されている。教師に限らずそういった恋愛に手を出した場合、職を失う可能性も大いにあるのだ。当然、その原因の一端となった生徒側にも責任を負わされるリスクだって存在する。
 教師と生徒の恋愛が「禁断の恋」と呼ばれているのも、そういった事情があるからだ。
 その旨を盲目的になった希でさえ説得し、新たな恋の道へと踏み出してくれた小田先生は恋愛感情を抜きにした今でも彼女にとって尊敬の的であり、目標とすべき存在としている。
 そして今度は、自分と同様に間違った道に踏み外さないよう凛を導く番だ。


「今の凛ちゃん、その時の私と同じ。お兄さんのことで頭がいっぱいになってるせいで、お兄さんの気持ちを考えられなくなってる」
「お兄ちゃんの、気持ち……」
「本当にお兄さんの事を大切に想ってるなら、それを尊重してあげるのも大事なんじゃないかな」
「…そうだね」


 最近の翼が以前のように自分に笑顔を向けてくれる機会が減っていた。きっとそれは家族以外の大切な存在ができたのもあるだろうが、凛自身が翼に構い過ぎていた部分もあったかもしれない。
 その行為が迷惑だったのかもしれないと今の今まで凛は気付かなかったが、希のおかげで兄妹仲もより良くなれそうだ。


「明日、お兄ちゃんに謝ってくるよ。遅くまでありがと、希ちゃん」
「こちらこそ。おやすみ、凛ちゃん」
「うん。おやすみ」



~翌日~
「…ごめん。お兄ちゃん。私、ウザかったよね?これからは一緒にお風呂に入ろうともしないし、一緒の布団にも入らない。その方がきっと、お兄ちゃんも幸せになれるよね」
「僕の方こそ、少しきつい言い方になっちゃって、ごめん。ああでも言わなきゃいつまでも兄離れできないんじゃないかと思ってな」


 これまでにも兄妹喧嘩は何度かあったが、今までは時間の流れと共にいつの間にか仲直りしていたというケースが殆どだった。しかし今回ばかりは互いに「なあなあ」で済ませるわけにはいかず、しっかりと面と向かって謝った。
 思えば凛が中学に上がってからこうして向き合うことなどなかったうえに、翼も高校に進学したことで取り巻く人間関係も大きく変化したため、彼の中の妹像をアップデートする暇もなかったのだろう。
 しかし、たとえどれだけ歳を重ねても、翼にとって凛が「可愛い妹」であることに変わりはない。


「凛。確かに兄離れしてほしかったのは事実だけど、僕はウザいだなんて思ったことは一度もないし、凛にも幸せになってほしいと思っている」
「私にも彼氏を作れってこと?でも今はそんな気持ちには…」
「なら、今の凛にとっての幸せって、何だ?」
「……友達とデュエルしてる時はすっごく楽しいし、お兄ちゃんと一緒にいられる時間もすっごく幸せ。だから今はお兄ちゃんみたいに恋愛するより、今あるこの時間を大切にしたいって思う」
「なら、久しぶりにデュエルしないか?凛がどれだけ強くなったのかも見てみたいし」
「…うん!絶対に負けないよ、お兄ちゃん!」


 ホワイトデーのお返しにチョコは贈れなかったが、久しく兄とデュエルする機会もなかっただけに、こうしてまた楽しく遊べたのは凛にとって最高のプレゼントだった。受験勉強というブランクがあったとはいえ翼のデッキも強化されており、ランク13という人智を超えたエクシーズモンスターを前に凛は敗れてしまった。
 しかしデュエルを終えた後の凛の表情は清々しいさまであり、「次は負けないからね!」とデッキ調整のために再度自室に籠るのだった。



 ……後日、兄の彼女を見極めるために2人のデートを尾行した凛だったが、「私より可愛いし性格も完璧すぎて妹イビリができない」とその日の夜は枕を濡らしたそうな。





Part3:精一&彩
「ごめん精一くん。バレンタインデーのプレゼント、1日遅れちゃって」
「大丈夫だよ。大事なイベントがあったんでしょ?楽しかった?」
「う、うん…」


 霧野精一と高橋彩。小学6年生の頃から互いにライバルとして競い合ってきたこの2人も、今となっては恋人関係にまで発展した高校1年生。交際歴は約1年だが互いの事をよく理解しており、交際期間以上に深い絆で結ばれている理想のカップルといえるだろう。しかし彩には、親友はおろか彼氏である精一にさえ打ち明けていない秘密があった。
 それは、彼女が男色を好んでいるということ。バレないように細心の注意を払っているとはいえ、こうして勉強会をしている彼女の自室の本棚にも何冊かが少女漫画のコーナーに混ざって置いてあり、自作の小説や漫画もパソコンのデータに保管されている。


「彩さん、調べ物したいからパソコン借りていいかな?僕のスマホ、今修理に出してて…」
「うん、いいよー」


 勉強に集中するあまり空返事となった彩だが、彼女のパソコンにはある「重大な秘密」が隠されていることを失念していた。それを思い出した彩が「ちょっと待って!」と言おうとした時には既に遅く、成人向け漫画の作業画面が映し出されていた。
 それを見てしまった精一は一瞬固まったものの、その後は何もなかったかのように調べ物を進めていた。


(ああああああ……よりによって精一くんにバレちゃった!!今まで純粋系で通してきたのにあんなの自作してるだなんて知られたら、絶対軽蔑するよね……)
「…ごめん、精一くん。私と別れて」
「えっ?」
「だって私、こんな如何わしいジャンルの本たくさん持ってるんだよ?そんな人が彼女だって知られたら、絶対精一くんにも悪影響出ちゃうし……」


 パソコンの作業画面を見られたショックなのか、自分の本棚に隠していた成人向けの男色漫画を山のように積み上げた。ページ数が少ないため1冊単位だと薄いものが多いがざっと50冊以上はあり、精一もその数に目を奪われていた。
 半分ヤケになっているのか、精一さえ知らない彼女のプライベートも公開した。


「…ほら、このSNSアカウント。私なの」
「『カラフルHB』……って凄いフォロワー多いね。もしかしてこの前行ってたイベントっていうのも」
「うん。即売会のこと。成人したらビッグサイトのイベントにも参加したいから、同じ界隈の人と交流を深めてるの。この手の界隈って、コミュニティに入っておくと何かと有利なんだよね」


 彩が同人活動を始めたのは中学2年生。その頃は自作の漫画や小説をサイトに投稿する程度の活動だったが、高校進学を皮切りに本格的な活動を開始した。精一と交際を始める前からの趣味だった活動が、そこから約1年でSNSのフォロワー数は1500人を超えており、新刊が出れば必ず購入してくれるファンも増えてきた。
 彩もそれが創作活動のモチベーション維持に繋がっており、今後の目標も定まってきたところだった。しかしそれが原因で精一との交際に悪影響が出てしまったら……。そう考えた彩は一時、彼からの告白を保留にしていたのだが、結果付き合うに至った。その時は「秘密がバレないよう徹底しなければ」という、精一に対する不信感が払拭しきれていない状態だったが、そのツケがこのタイミングで来てしまった。


「……私ね、ずっと考えてたんだ。もし私の夢が精一くんにとって邪魔になるんだとしたら、別れるのも早い方が良いって。それに、私の秘密を知って精一くんも軽蔑したでしょ?これじゃあ精一くんの彼女に相応しくないよ」
「……彩さん、君の気持はよくわかった。だけどそれで僕と別れるっていうのは、違うんじゃない?」
「えっ?」
「確かに僕は彩さんとデュエルで何年も切磋琢磨してきたし、そんな彩さんに惹かれて告白した。だけど自作の本を販売している彩さんも、僕にとっては同じくらい凄いって思ってる」


 精一はデュエルを通じて彼女に惹かれたが、その時はまだ彼女の素顔を知らなかった。しかし幾度も戦う内、彼女のデュエルから彼女自身の本質を見出した精一は生まれて初めて恋をした。


「それに僕にだって、誰にも言ってない秘密くらいあるよ。例えば……家族に内緒でヘルピュアグッズを買い集めてる、とか」
「……精一くん、あのシリーズ好きだったの!?何時から!?」
「一番最初から。幼稚園の頃に見てからすっかり虜なんだよね」
「へぇ~~~意外!」
「軽蔑した?」
「ううん。全然!精一くんの意外な一面を知ってビックリしたけど、軽蔑なんてしないよ」
「それと同じだよ」
「……あ」
「僕はどんな夢でも、彩さんの事なら応援したいし、彩さんの活躍をこれからも隣で見ていたいんだ。だから、別れるだなんて言わないでほしい。寧ろ僕も、彩さんの夢を叶えるために力になりたい」
「精一くん……」


 人には誰しも他人には見せない秘密を抱えている。それがたまたま「男色好き」だったり「女児向けアニメファン」だったりするだけで軽蔑する人もいるが、それだけで崩れてしまうほど2人の絆は脆くなかった。寧ろ精一は、そんな彩のことをもっと好きになり、彩とずっと一緒にいたいと願うようになった。
 それは彩も同じだった。


「私、精一くんと付き合えて良かった」
「そう言ってもらえると光栄だよ」
「それで1つお願いがあるんだけど……次の創作漫画ね、双子ものを題材にしたくて」
「……まさか」
「うん。そのまさか。創作活動は時にリアリティーも必要なんだよ!」


 「双子もの」と聞いた時点で精一は全てを察した。リアリティーを求めるためとはいえ、先ほど読んだ本の内容に近しいことを実の弟相手にすることになるとは。
 しかし愛する彼女のキラキラとした瞳で「いいよね!?ね!?」と詰め寄られては、断ろうにも断れない。
 「許せ命慈。これも愛する彼女の夢のためだ」と精一は心の中で謝罪した。
後日、何の説明もなしに彩の家に呼び出された命慈は彩の要求に全て応える羽目になった。本のように過激なシチュエーションこそなかったが、「当分兄さんとは口きかないから」と数年ぶりの兄弟喧嘩に発展する事態になってしまった。



~半年後~

「ね、精一くん。次のイベントで売り子やってほしいんだけど、このキャラでお願い!衣装はもう作ってあるから!」
「それはいいけど、『I:Pマスカレーナ』って女の子キャラだよ?彩さんがやった方が可愛いし集客見込めると思うんだけど……」
「私『S:Pリトルナイト』のコスするから、精一くんに着てほしいんだよね。それに精一くん、身体細いし顔も良いから良い素材は使わなきゃ損だよ。性別バレないようにガチメイクするから!」


 半年もすると彩のファンも一層増えていった。その中でも一番の変化といえば、サークル仲間の影響を受けてコスプレ趣味に目覚めたことだろうか。彼女のコスプレ目当てでサークルに来る客も中にはいるが、ファンが増えたのは事実。
 そして精一も半ば強制的ではあるがコスプレを始めていた。一度始めたらとことん突き詰めたくなる彼の性分とは相性が良かったのか、今となっては彼女と一緒にコスプレショップにも回るようになっていた。因みに精一の初コスは思いのほか好評であり、後にファンもできたという。




※あとがき
作者権限「本編設定の捻じ曲げ」を活用したこの「IFシリーズ」も遂に終了となります。
とはいえ前回みたいに540°捻じ曲げるような真似(主人公の性別変更)はせず、戦い一辺倒だったせいで活かしきれなかったキャラ設定(彩の腐女子設定、翼の交際相手、希の初恋→玉砕)を織り交ぜつつ男女愛・兄妹愛の強い3組で書いてみたのですが、如何でしたでしょうか。
いよいよ次回からは大本命の最終章「最終決戦!ファイブスターvs呪縛神龍」となりますので、お楽しみに。
(第二部・Nextage編の詳細は追って発表しますので少々お待ちください)
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137 Episode76:神速の決闘 1207 2 2017-11-14 -
59 Episode77:動き出す陰謀 914 2 2018-01-23 -
80 Episode78:最期の兄弟喧嘩 910 2 2018-03-03 -
147 Episode79:黄龍の手向け 967 2 2018-03-28 -
113 Episode80:堕天使の罠 949 0 2018-04-14 -
108 Episode81:断罪する魔神 944 0 2018-04-19 -
122 Episode82:姫君のバイブル 1043 1 2018-05-07 -
125 Episode83:開かれたページ 1078 0 2018-05-11 -
164 Episode84:望まぬ決戦 1103 2 2018-05-29 -
78 未投稿オリカ紹介⑥(使用者:古城奏多) 958 0 2018-05-31 -
141 未投稿オリカ紹介⑦(使用者:清水ルーナ) 1181 0 2018-06-02 -
144 未投稿オリカ紹介⑧(使用者:アレックス) 1050 0 2018-06-04 -
63 未投稿オリカ紹介⑨(使用者:リリー) 879 0 2018-06-06 -
196 未投稿オリカ紹介⑩(使用者:ソフィア) 1275 0 2018-06-06 -
123 呪縛竜のおさらい 882 0 2018-06-06 -
113 IF02:星 遊未 875 0 2018-06-09 -
81 Episode85:新たなる激闘へ 1053 0 2018-07-10 -
113 Episode86:愛するもの 959 0 2018-07-27 -
79 Episode87:涅槃を超えた先 927 0 2018-08-10 -
126 Episode88:終焉の弧光 1329 0 2018-09-12 -
70 【重要】投稿再開のお知らせ 819 3 2022-06-04 -
49 Episode89:四竜が紡いだ奇跡 503 3 2022-06-25 -
55 Episode90:光臨者、天導レイン 501 2 2022-07-07 -
55 Episode91:舞い堕ちた天使 483 2 2022-09-03 -
56 Episode92:紅の決意 530 0 2022-09-19 -
50 Episode93:凛々しい黒羽 574 0 2022-10-04 -
63 Episode94:最強の双子 509 0 2022-10-24 -
41 Episode95:最凶の龍 530 0 2022-12-29 -
49 Episode96:神の恵 511 0 2023-01-18 -
69 Episode97:先導者vs時空竜 602 0 2023-01-22 -
40 Episode98:トワノチカイ 493 0 2023-02-14 -
46 Episode99:遊弥、復活 491 0 2023-03-12 -
44 Episode100:目覚めし星の光 516 0 2023-03-26 -
58 Episode101:決戦・冀望郷 447 0 2023-05-03 -
32 Episode102:最弱の意地 403 0 2023-06-28 -
31 Episode103:永遠の友達 292 0 2023-11-26 -
41 Episode104:うららの運命 191 0 2024-04-29 -
28 Episode105:胡桃の最終演目 207 0 2024-05-06 -
23 Episode106:希望の少女たち 200 1 2024-05-16 -
34 Episode107:輝く希望 240 0 2024-08-11 -
22 第4章完結記念外伝&重大発表 225 0 2024-08-13 -
31 第4章初登場オリカまとめ 196 0 2024-08-17 -
4 IF03:愛の形 41 0 2024-10-24 -

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