EP16　王者の心　作：ター坊

「このイベント開催の１週間くらい前にギャラクシー・ガールズと遊路様との対戦カードを知らされました」

~１週間前の夜~
「ととさまぁ！ユッキーをやっつけないで！」
「あー、そっか。そう言えばギャラクシー・ガールズって大和と雛里の大好きなデュエキュアを歌ってるアイドルグループだもんな」
「パパ…ユッキーとデュエルしちゃだめ」
「うーん。じゃあお父さん負けた方が良いかなー？」
「え！？…あぅ…ととさまが まけるのもやだぁ…」
「うぅ…」
「うーん弱ったなぁ…」
「こら、大和。とと様を困らせてはいけません」
「雛里もワガママ言わないの！」
「うーん。…そうだ！大和、雛里。じゃあこうしよう。お父さんが勝ったらギャラクシー・ガールズのみんなにご飯食べようって誘ってみるって言うのはどうだ？一緒にご飯食べる時にサインとか握手とかして貰えるぞ？」
「ほんと！？ととさま！？」
「おうた、きける？かいた え 、みてもらえる？」
「出来るさ、きっと」
「じゃあととさま やくそく！」
「パパ…だいすき」
~~

「って言う事があったの」
「それじゃあ最初から普通に娘と一緒に食事に、と仰ればよろしかったでしょうに…」
梓の言う事が最善であろう。そうすれば相手を怒らせずに済むのだから。しかしそれは違うと遊月と美羽は否定する。
「遊路様は真相を話したら、相手が優しさからわざと負けたり手心を加えるかも知れないと危惧したのですよ」
「それに相手が遊路ってことでプレッシャーもあるだろうしね。だからああいう風に煽って相手を本気にさせて手心もプレッシャーも吹っ切れさせた、ってわけ」
「なるほど…」
常人であれば楽に勝つことを考えるであろう。しかし遊路はその逆、相手が全力で戦えるように焚き付けたのだ。その考えに梓は思わず頷く。
「相手を本気にさせてそれを打ち崩す、王者の哲学…ですわね」
「いえ、そういう訳では…」
「え？」
「たぶん遊路にしたら全力でやってくれなきゃ面白くない、って理由だと思うよ？」
「はぁ…」
梓はあまりに稚拙な理由で思わず肩透かしを食らうのだった。


一方、デュエルフィールドではまさにデュエルの直前という所だった。
「それではデュエルを行いますが、両選手には特別ルールで行ってもらいます」
「え？」
「…」
「おや、風峰プロはご存知で？」
「途中で打ち合わせから外れるよう言われたからな。もしかしてこれの為だったのか」
「そういうことでしたか。それでは、改めまして特別ルールの説明をしていただきます。その名も！」
会場が暗転し巨大モニターパネルに燃えるような凝った演出と共に文字が現れ、司会が大声で叫ぶ。
「ビルドデッキデュエルです！！」
特別ルールのデュエル名が発表され、会場がどよめく。
「まずこちらをご覧下さい」
選手の入場口からガラガラとカートに乗ったボックスが運ばれ、それにはカードがギッシリ詰め込まれている。
「ボックスには現在までに発売されている既製カードが五十音順に納められています。お二人にはそこからカードを選んでデッキを作り、それでデュエルしていただきます」
「なるほど。カードの知識とデッキ構築のセンスを問われる、という訳ですね」
「ほう…。面白い趣向だな」
「それともう１つ！自由な構築が出来ないようにランダムで縛りを入れて貰います」
「縛り？」
するとスタッフの一人が何やら正方形の箱を持ってくる。
「この箱の中には［魔法禁止］や［光属性禁止］などが記された紙が入っていて、お二人にはその制約に従い、制限時間３０分でデッキを構築して頂きます。ご理解してくださいましたか？」
「はい」
「ああ」
「それでは、制約は今回５枚引かせて頂きます」
司会が箱に手を突っ込んでガサゴソ紙を引っ張った。その結果、デッキ構築の制約は以下の物となった。

［カウンター罠禁止］
［ペンデュラムモンスター禁止］
［禁止カード以外同名カード１枚まで］
［ＥＸデッキ５枚まで］
［効果モンスター禁止］

発表された制約に観戦する遊季都達も考える。
「効果モンスター使えないって不便だなぁ」
「ええ。枚数制限もありますし、主流の戦術はほぼ使えませんから通常モンスターを魔法･罠でサポートするというのが基本になりそうですわ」
「僕だったら、どういうデッキを組むだろう…」
そうこうしているとスタートの笛が鳴り、制限時間３０分のカウントダウンのタイマーも時を刻み始めた。

遊路もユッキーも制約が発表された時点で頭の中でデッキを組まれているのだろう、特に迷うこともなく約８０００種類以上の既製カードからカードをバシバシ選んでいく。
「出来ました！」
「俺も」
制限時間を半分以上も残し、デッキの完成を宣言する。
「それではお二人とも、デュエルフィールドに」
司会に促されるまま二人はフィールドに上がる。
「よろしく頼むぞ」
「チャンピオンだと尊敬していましたが、少し見損ないました！ナンパしてくるような人に絶対負けません！」

「「デュエル！！」」
機械判定によって先攻は遊路になった。

「俺のターン。カードを１枚セットして魔法カード『手札抹殺』を発動」
「えっ！？」
『手札抹殺』は手札を全て捨ててドローし直すカードで、その真価は捨てるという行為がトリガーになる効果などだが、効果モンスターが封じられたこのデュエル上では単なる手札入れ替え程度の意味しかない。

遊路が捨てたカード
『団結するレジスタンス』
『逃げまどう民』
『ガード・オブ・フレイムベル』

ユッキーが捨てたカード
『ハーピィの羽根帚』
『砦を守る翼竜』
『洞窟に潜む竜』
『成金ゴブリン』
『聖なるバリア-ミラーフォース-』

「俺はモンスターをセットしてターンエンド」
「私のターン、ドロー」
ここでユッキーは先程の『手札抹殺』で捨てた遊路のカードについて考えを巡らせる。
（なるほど…。風峰プロの狙いはたぶん…。なら！）
「私は速攻魔法『サイクロン』発動！そのセットカードを破壊させてもらいます」
ユッキーが撃ち抜いたのは…

ﾊﾟﾘｰﾝ…『大革命』

「よし！」
さすが遊路、といったところだろう。初手にキーカードを３枚握り、墓地送りで下準備の７割を終わらせていたのだ。
「さらに『竜の霊廟』を発動してデッキから『サファイア・ドラゴン』を墓地に。通常モンスターのため、さらに『フェアリー・ドラゴン』を墓地へ。『アレキサンドライ・ドラゴン』を召喚してバトル！」

アレキサンドライ・ドラゴン ATK 2000 VS 弾圧される民 DEF 2000

攻守が拮抗し『アレキサンドライ・ドラゴン』が弾かれる。
「くっ。カードを１枚セットしてターンエンドです」
「俺のターン、ドロー。魔法カード『強欲で貪欲な壺』を発動。デッキトップ１０枚を除外して２枚ドロー。さらに『強欲で謙虚な壺』発動」

ﾍﾟﾗｯ
『思い出のブランコ』
『予想ＧＵＹ』
『ウォーター・スピリット』

「…『予想ＧＵＹ』を手札に加えてターンエンド」
「私のターン、ドロー！魔法カード『トレード・イン』を発動！これで『青眼の白龍』を墓地に送って２枚ドロー。さらに魔法カード『龍の鏡』を発動！墓地の『砦を守る翼竜』と『フェアリー・ドラゴン』を除外して『カイザー・ドラゴン』を融合召喚！さらにチューナーモンスター『ギャラクシー・サーペント』を召喚！レベル４の『アレキサンドライ・ドラゴン』にレベル２の『ギャラクシー・サーペント』をチューニング！シンクロ召喚、レベル６『大地の騎士ガイアナイト』！！」
あくまでも制約は［効果モンスター禁止］であるため、エクストラデッキのモンスターでも効果を持たなければ使用できるのだ。
「さらに速攻魔法『銀龍の轟咆』で墓地の『青眼の白龍』を特殊召喚！バトル！そして永続罠『竜の逆鱗』を発動！これで私のドラゴン族モンスターは全て貫通効果を得ます！」

青眼の白龍 ATK 3000 VS 弾圧される民 DEF 2000

遊路:LP 8000→7000

「さらに『カイザー・ドラゴン』とガイアナイトでダイレクトアタック」

カイザー・ドラゴン ATK 2300 + 大地の騎士ガイアナイト ATK 2600　直接攻撃

遊路:LP 7000→2100

「おっと…」
「もう勝ち筋の『大革命』はないし、ガードも『竜の逆鱗』で突破できる。私、勝てる…！」
ユッキーは遊路をあと１度のダイレクトアタックで勝負が着くところまで追い詰めた。その怒濤の攻めと大番狂わせを匂わせる展開に会場が盛り上がる。
「ユッキー！強靭・無敵・最強！！フゥゥゥｯ！！」
「俺たちのエンジェル！風峰なんかぶっ飛ばせ！！」

その空気はＶＩＰ席にまで伝わってくる。
「風峰プロは大して動かず…ということは手札事故を起こしているんでしょうか…」
「どうでしょう…？少なくとも私には勝ち筋が見えませんわ」
「オイラもだ…。もうダメだぁ…」
遊季都達にもそれが伝染したのか、もはや風峰プロの無敗伝説はここで潰えるものと諦めていた。しかし、未だに遊路の勝利を信じ見守る者もいた。
「やまとちゃん。かぜみねプロ…だいじょうぶかな…」
「だいじょうぶ！ととさまは ぜったいにまけないもん！」
「うん…。パパ、やくそく ぜったいまもってくれる…」
「その証拠に遊路様自身も諦めていませんよ」
「むしろ絶対勝てるって目ぇしてるよねぇ」
大和達を始め風峰一家は心配するどころか、逆転する事を読み切っているかのように余裕で眺めている。

フィールド上ではユッキーの怒号が飛ぶ。
「風峰プロ…！これが報いというものですよ！」
「報い？」
「私はチャンピオンの貴方に勝ちたいと真剣に思ってました！なのに貴方は、一緒に食事なんてふざけて！私の事、弱いと馬鹿にしているんですか！？」
「…いや。お前は強いさ。だからここまで追い込んだんだろ？」
「ええ！悔しくて…！！」
「そうか。それはすまなかったな。ここまで言わないと全力を出してくれないと思ったんでな」
「え？それって…」
「さて、俺のターンだな。ドロー」
カードをドローした遊路の口元が僅かに上がる。
「俺のフィールドにモンスターがいない事で魔法カード『予想ＧＵＹ』を発動！これでデッキから『バニーラ』を特殊召喚！」
厳ついモンスターの前にピョコンと小さいウサギのモンスターが現れる。
「さらに『大木炭１８』を召喚！」
今にも崩れ落ちそうな真っ黒な巨人がドカッと座り込む。
「今さらそんなモンスターを出したところで！」
「それはどうかな？魔法カード『トライワイトゾーン』を発動！墓地からレベル２以下の通常モンスターを３体特殊召喚する。これで俺は『弾圧される民』、『逃げまどう民』、『ガード・オブ・フレイムベル』を特殊召喚！」
墓地からぼこぼことモンスターが浮かび、復活する。
「魔法カード『トライアングルパワー』発動！これでレベル１の通常モンスターの攻撃力・守備力を２０００アップ」
「だけど、『青眼の白龍』には…！」
「これが最後の魔法カード！『弱肉一色』！！」
「それは！？」
「これによりレベル２以下の通常モンスター以外のフィールドのカードを全て破壊する！」
遊路のモンスター達がメチャクチャに暴れてフィールドを更地にしていく。
「そんな…」
「これでThe End だ。全モンスターでダイレクトアタック！！」

大木炭１８ ATK 2100 + ガード・オブ・フレイムベル ATK 2100 + バニーラ ATK 2150 + 弾圧される民 ATK 2400　直接攻撃

ユッキー:LP 8000→0

たった１ターンで形成を逆転してしまった遊路のプレイングに会場は静まり返る。
「し、勝者…チャンピオン･風峰遊路プロ！！」
間を置いて勝者の名前が宣言されると疎らに拍手が起きた。
「…」
ユッキーはがくっと膝を落としてしまう。そんなユッキーに遊路が歩み寄る。
「貴方は…わざと私を煽って…」
「そのおかげで全力のプレイが出来ただろ？手加減せず、ビビらず」
「…はい。でも悔しいです…。本気を出させて貰ったのに勝てなかったなんて…」
「お前は譲れない想いってあるか？」
「え？」
「たとえ他人から邪道だと、間違いだと罵られても、絶対に譲りたくない想いはあるか？」
「譲りたくない想い…」
「俺はアレだ」
遊路の視線を追うとＶＩＰ席のガラス越しに両手を挙げて喜ぶ大和と雛里、それぞれを抱っこする遊月と美羽の姿があった。
「アレは…」
「俺の家族だ。アイツらの為なら、どんな事でもするし、絶対に負けられないのさ」
遊路は嬉しそうに微笑み、大和達がいるＶＩＰ席に小さく手を振る。
「…だから貴方はチャンピオンなんですね」
「ああ」
ユッキーは立ち上がり、柔らかい表情で遊路を見る。
「もしかして最初のナンパは…」
「俺の娘の為だ。…ギャラクシー・ガールズの大ファンでさ、勝ったら一緒に食事するって約束したんだ。…奢るしここはなんとか！」
「あはは…。そういうことでしたら喜んで」
「おお！ありがとうな」
遊路とユッキーはガシッと握手をした。
「今度はお互いの本気のデッキで戦おう」
「はい！私、頑張ります！ありがとうございました！！」